白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第4品「俺であって俺でない? ま、なんでもいっす」

ふたりのソヨギ……真面目と不真面目

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  話は現在に戻る。

  デッドプリズン二階の書庫――フィアの驚きに対して、なんかすんませんとか言いながら、女ソヨギは読書に戻った。背後では男ソヨギが飲み物やおやつのようなものをポリポリしながら、こちらも読書を始めていた。

「ねえソヨギさま、みんなを助けに行きたいんだ。手伝ってくれるかな」
『……いっすよ。ただ、いまいち決まらないんすよね……フィアさん手伝ってもらっていっすか』

  ……すげー、完璧にハモってる。確かにふたりとも同一人物のようである。しかしこちらの力不足がいなめないから手伝いをお願いしている立場なので、自分に手伝えることってなんだろうってなってしまう。

「フィアさん、ちなみに助けるって具体的には?」
「あ……そうか記憶が曖昧なんだよね。ソヨギさまと合流するまえ――」

  フィアは女ソヨギにいままでの経緯を説明した。すると男ソヨギとは違い、熱めな反応が返ってくる。

「それをひとりでやったんすか……お疲れっす。じゃあとりあえずビデガンさんとやらを……近いっすからね」
「あ、うん……ありがとうソヨギさま」
「いえいえ、感謝されるほどのことは――」
「してないよねあんまり!  男のソヨギさまは!」
「えー」

  男ソヨギである。感謝の返答は背後からでした。いやまあアニミスを回復してもらったりはしたけど、ほとんど惑わされてただけだったからね。素直に感謝は難しいよね。

  女ソヨギはクッションを手に立ちあがり、手にしていた書物を本棚に戻した。男ソヨギは書物と一緒に飲み食いしてたものを置き去りである。ふたりには明確なアニミスと魔力の違いが表れているようだった。

「店内にゴミを放置はダメっすよ……大人として」
「……誰もいないのにっすか?」
「そう言われちゃうとアレっすけど……モラルっていうのは誰も見てないところでも示すことができるのが大人っす」
「まあ、自分に言われてイヤだとも言えないっすねー」
「……あざっす」

  男ソヨギはゴミを手にして魔力を使い、空間の穴に捨てた。ほんとうぉぉぉにかすかなカサッ……という音が、エスカレーターとは反対のほうから聞こえてくる。あっちにゴミ箱でもあるんだろう。

  フィアが女ソヨギと連れだって歩き始めると、男ソヨギが後ろについてくる。とりあえずソヨギがいることが心強い。まあ女ソヨギから感じるアニミスは微弱だが、男ソヨギも同様に魔力を抑えている。いまの空間移動にしても発する魔力があまりにも自然で、別の階に誰かいても気づかれないだろう。最低限のことならば最低限の力でそれができる――つまりは男ソヨギは魔力を完璧に制御しているわけである。男ソヨギがそうならば女ソヨギも同じようにアニミスを制御できるはずだ……そう考えるとほぼ無敵のような気がしてくる。

  エスカレーターをあがる。フィアはダークフサルクの発動を気にかけるが、女ソヨギのアニミスに反応しない。人間が発するアニミスと変わらないのだろう……いや、そうなるとなんだか不自然な気がする。

(シンディラは四階から五階にあがって空間移動したんだよ。ビデガンと豆腐の女神は二階から三階にあがって移動したよ……多分だけどよ。ビデガンは三階でイギギに捕まったんだからよ?  でもそれならわたしとシンディラも二階から三階時点で空間移動しなかったのはなんでだよ?)

  それぞれの移動のタイミングが違う。なんでかな?

  フィアはその疑問をソヨギにぶつけてみた。三階にあがったところで意外にも男ソヨギが答えてくる。

「多分ですけどガデニデグさんの気分じゃないすかね。監視用かは分かりませんがモニターいっぱい持ってるし。一台欲しいっす」

  とりあえず『もにたー』の意味は分からないが、ガデニデグがダークフサルクを操作している節もあるわけだ。対アニミスの罠を任意で起動させるのである。その行為はフィア的には暇人て感じではあるが。

  とにかくビデガンを隠している場所に向かうと、ソヨギたちが『スーツ山積みっすね』とハモった。なるほどアレはスーツという衣装なんだねと、フィアはどうでもいい知識が増える。ソヨギたちがスーツをどかすと、寝てるんだか死んでるんだか判別しにくい状態のビデガンがいた。

「……確かに昼飯食べてちょうど眠い時間ですもんね」
「違う違う!  イギギのひとりにやられたんだよ――って、さっき説明したよね!」
「とりあえず揺さぶってみますか。ビデガンさーん」

  女ソヨギが肩を揺する。しかしビデガンは寝言すら口にしない。

「……死んでる?」
「生きてる生きてる!  ソヨギさまちゃんと見てほらコキューしてるコキュー!」
「わたしはちゃんと見てますが?」
「あ、違うよ!  こっちのソヨギさまじゃなくてあっちのソヨギさまね!?」

  うぅわぁ……地味にややこしい。自分で言っててあっちだこっちだとややこしい!  それぞれ名前でもあればいいのに……あ!

「ソヨギさまたちが手伝って欲しいのって名前だったりする?」
『……そっす。よく分かりましたね……さすがは勇者』
「いや勇者とかあんまり関係ないけどね?  てゆーかソヨギさまがネーミングにこだわってたし、もしかしたらって……ねえ!  じゃあじゃあ、わたし名前担当するから、ソヨギさまたちはビデガンの回復しててよ。それでいい?」
『……ナイスジャッジっすね。効率的かつお互いができなかったことを分担するわけっすね』

  すげー……なんかすげー。そのセリフをハモるのはほとんど奇跡だよ。

  ソヨギたちは意気揚々って感じではなさそうだが、やる気はありそうな感じで回復方法の議論を始めた。フィアはちょっとだけ距離を置いて考える。

(ダークソヨギとゴーストソヨギは却下みたいだよ。なんか知ってる言葉が気に入らないのかもしれないよ?  わたしが知ってる言葉で応用する……のは難しいよ)

  ブラックソヨギとホワイトソヨギ。とりあえず一回だけ聞いてみる。すると、

『リテイク……すかね』
「そもそもわたし白くないんすよ。着てるの黒だし。どっちかって言えばライトダウン着ちゃってるからライトソヨギかなって。でもこっちがへヴィーかって言ったらそうでもないわけですよ」
「ちなみに苦手な分野(英語)なんでマンガを参考にしてたわけですが……なにも出ませんでしたね」

  はい、ごめんなさい。どーぞ続けてください。フィアは手のひらを腰のあたりで上下させた。

  つっても名前のセンスないしなぁ……フィアはいつだったか冒険中に助けたコロシオオカミの子供のことを思い出したりする。名前をコロッシオにしたのはフィアである。センスないって言われたなー。みんなに言われた。あーもう、スタートラインでつまずいてるや。ん~……ソヨギさまの名前~……ソヨギさまの名前~……。

  フィアは腕を組みつつ必死に悩む。ソヨギたちの明確な接点はソヨギ本人であることで、違いはと言えば性別くらいだ。しかし男ソヨギと女ソヨギなんて呼び方は、本人たちが望まないだろう。ソヨギでありながらも別個の存在と周囲が認識できて、かつソヨギが気に入るような名前が必要だ。

(特徴を捉えてればいいよ。男のソヨギさまは魔力で女のソヨギさまはアニミスなんだから、魔力ソヨギとアニミスソヨギとかだよ?)

  思いついたのでソヨギたちに聞いてみる。しかし、渋~い顔をされた。

『なんか長いっすね……語呂悪いし』

  はい、リテイクね、リテイク。

(長かったかよ?  じゃあもうマヨギとソヨミスでいいかよ?  あ、いいよいいよ。マヨギはともかくソヨミスはなんかアニミスのいんを踏んでる感じだよ)

  こうなったらフィアもテキトーである。でも語呂は悪くないよ?  ソヨギに聞く。すると、

『………………』
「……ソヨギさま?」

  なんでかふたりはビデガンの治療の手を休め、フィアをガン見しだした。

「あの……ソヨギさま?」
『………………』
「ちょ、なんか怖いんだけどさ……」
『………………………………』
「返事!  頼むからなにか言ってよ!  せめてうなずきを返すくらいしてよ!」
『…………………………………………………………』
「長いよ!?  なになにリテイク?  リテイクならリテイクでなにか考えるからさ!  無言と無表情で見つめないで!」
『……………………………………………………………………………………』
「怒った?  怒ってる?  なんかテキトーに済ませようとしてるなこいつ、みたいな怒気かな!?  分かった分かったもう一回考えるからその顔やめてよね――!」
『…………いっすねソレ』

  フィアはとりあえず拳をぶんぶかしてから叫んだ。

「長あぁぁぁぁい!  長いよソヨギさま!  気に入ったならすぐにその言葉聞かせてよねぇ!」
『……え?』
「え?  じゃねーし!  不安にさせるだけさせて、え?  じゃねーし!  じゃあもう決まりでいいかな!」
『まあ……いっすけど』
「歯切れ悪いなー!  それは気持ち悪いなー!  マヨギとソヨミスでいいですかねソヨギさまがた!」
『……いっすよ。キニイリマシタ』
「棒読みー!  よけいに気持ち悪いんですけど!?  てゆーか長いよまた、いらないよこのクダリにこんな尺いらないよ!?」
『……いらないっすか?  ソヨギファンにはたまらない展開をね。まあ、ここで?  みたいなこともね……じゃあいらないっすねこんな時間』

  やだぁ!  もうめんどくせー!  ソヨギさま性別関係なくめんどくせー!  魔力もアニミスも関係なくめんどくせー!

「ビデガンはどうかなソヨギさま!」
『……まだなんとも言えないっすね。なんせなにもしてなかったんで』
「はいぃ!?  じゃあこの時間なにしてたの!」
『フィアさんが考える名前当てクイズを……見事に当たりましたね』
「意味ないなー!  じゃあわたし意味ないなそれ!  思いついてるならそれでいいじゃんか!  そして無駄な時間がスゴいなソヨギさまといると!」
『……えー』
「なんで!?  不服そうなのなんでかな?  わたしのほうが納得いってないのにな!?」

  なんだろうこのひと。レアーズってこんなんばっかなのかな?  フィアは頭を抱えながら、絶望的にブツブツ言ってみる。まあだが、ソヨギは護神王に意見するような人間であるから、ぎょするこなど不可能なのかもしれない。いまやティンダルスのひとりであるにも関わらず、ガデニデグに従っている様子もないわけだ。なのでフィアがどうこうしようとしても、ソヨギはきっとソヨギのままなんだろう。以上の事柄を踏まえると、それはそれである意味の無敵である。

「じゃあやりますかソヨミスさん」
「うっす……マヨギさん」

  しかしこのふたりはやろうと思ったら仕事が早かった。まずマヨギが手の空間移動でアイテムを取り出す。ビデガンが所持しているようなインクの筒である。それをソヨミスが受け取り、噛み傷のある箇所へとアニミスを注入していく。アニミスでインクを変化させてさらに注入している……まるで注射の要領だ。各噛み傷から毒の魔力を中和させている感じだろう。まったくの想像でしかないが、言い替えれば局部神性転換みたいなことだろう。

(そういう誰もやったことがないようなことを、考え通りに実行できるのがスゴいんだよ……)

  ソヨミスが治療しているあいだ、マヨギは読書である。読書しながらインクの筒の追加オーダーに応じたりする。 会話はないが、以心伝心のように通じ合っているみたいだった。まるで熟年夫婦のようである。

  ――と、しばらくその光景を眺めていたフィアであったが、あまりゆっくりとはしていられなくなった。まったくの突然に、フロアが魔力で包まれたのである。フィアは発信源を感覚で探す。マヨギも同時にその魔力に気づいたようで、読書をしながら話す。

「多分ギオーさんじゃないすかね。このイベントしつこいんすよねー」
「なるほど……わたしが相手するからソヨギさまたちはビデガン治療してて」
『……うっす』

  フィアは見当をつけたほうへと歩きだした。あの宝石店のほうである――が、唐突に体がギシリ……という感じで動かなくなった。ソヨギたちからは二メートルくらいしか離れていない。絶叫のような、どこかやけくそな声が聞こえた。

「ネガティブギルティィィィ!」
「なにこれ……体が動かない……」

  ギュアオンッ!  風切り音――そして棚を蹴散らしながらそれは飛んできた。エスカレーターの裏手のほうからこちらへと、鋭い刃のような攻撃である。

(なにこれいきなりやばいよ!?)

  ドゴアッ!  と目のまえの棚が破壊されたが、フィアは金縛りのように動けない!

  フィアは死を覚悟したが、

「……てゆー仕掛けなんすよ。まあ説明聞いただけでまったくアレなん――」

  ギョギャギャギャギャギャ!  フィアを突き飛ばすように現れたマヨギが、ネガティブギルティを正面から受け止めた。さすがのマヨギもあっさりというわけにはいかず、両手を突き出して防御しながら、二メートルほど床を滑って後退する。紫に似た発光が噴煙のように周囲に溢れている。

  ……ずざぁ!  とマヨギが止まったのはビデガンの位置すれすれだった。

「マヨギさま!」
「――ていう感じみたいなんすよ。だから個人的にこの仕掛けはチョッキンナだと思うんですけど、どーです?」
「あ、なに、ずっと喋ってたの!?」

  マヨギの手元でネガティブギルティの刃が、効果を終えて消えた。マヨギはなにごともなかったように前かがみだった姿勢を直す。

  マヨギの手にあるのは、可愛らしい女の子が表紙になっている本だった。フィア的にはそんなんで防御したのかって感じだったが、中央に切れ目の入った表紙の片側がハラリと落ちる。表紙一枚で受け止めたらしい。

「……まだ読める」
「この野郎ぉ!  どこまでも憎たらしいぞソヨギィ!」

  宝石店のほうからドゴバゴと棚をなぎ倒しつつ、ギオーが姿を現した。変身していないノーマル状態に戻ってはいるが、重そうな棚を片腕で殴り飛ばしたりしている。

「ソヨミスさま!  ビデガンはあとどのくらい?」
「えーと……なんか背中かゆいのに左手は飲み物でふさがってて、でも右手は肩甲骨の可動域が狭いせいでビミョーに届かないみたいな?」
「分かったもうちょっとねもうちょっとかかるんだねてやー!」
「な、なんだ小娘!」

  フィアの大上段からの剣撃を、ギオーは体をひねってかわした。次いで横薙ぎ、袈裟斬りとたたみかけるものの、ギオーはすべてかわす。フィアも隙を作らないよう攻撃しているため、反撃はない。

「なかなかやるな!  だがニンゲンごときに遅れを取る俺ではないわ!  釵蟻神ネガティブクロウ……」

  ギオーが両手を交差させ、魔力を解放した。手の甲あたりから指だけを残し、蟻の鉤爪が出現して禍々しいオーラを放っている。近接戦闘する気らしい。

「わたしは魔剣士フィア!  正々堂々受けてたつよ!」

  フィアは切っ先をギオーに向けた。その場の空気は一瞬にして張りつめた。

  ――が、その背後でマヨギは立ち読みである。

「俺は子供だとて容赦はせん!」

  ギオーが両手もろてを拡げるように鉤爪を構えた。フィアも剣を正眼に構える。

(ビデガンが回復するまで頑張るよ!)

「クックック……ヤル気か。いいだろう、遊んでやる!」
「遊ばれんのはそっちだよ!」

  瞬間――

  ガギィン!  と魔剣が鉤爪と交差していた。どちらとともなく動き、その衝突で瓦礫と化した商品や棚が弾けて散乱する。戦闘はすぐに打ち合いに転じた。

(相手は三叉槍トライデントの先みたいな得物……絡め取られたら終わりだよ!)

  切っ先での牽制を仕掛けつつ、フィアは冷静にギオーの武器を観察していた。特徴は両手にある三本の爪である。そのふたつの(刃の分かれた箇所)で刀身を食われれば、そこで剣を失うか命を失うことになる。

  ギオーの爪の根元である手は、硬い甲殻を思わせる。ただの斬撃くらいなら弾き返すだろう。儡王を倒した高威力かつ必殺の疾剣ゼロディムスが有効かもしれないが、見切られたらそれで終わりである。ガデニデグが監視していたかもしれないため、ゼロディムスのことがギオーに伝わっていないとも限らない。それに、

(こいつ速いよ!)

  勇者パーティーのなかで『戦闘時の速さ』に定評があるフィアでも、ギオーのネガティブクロウを勘でしかかわせない瞬間があった。その場合は肩や二の腕の動きで瞬時に判断しているわけだが、読み間違えたら即死である。

「クックック……どうした小娘。わざわざおまえに合わせて魔力なしでっているというのに」

  フィアが右上からの袈裟斬りを放つと、ギオーは左手で弾く動作をした。それを読んでいたフィアはわざと剣を外し、

「――そりゃこっちのセリフだよ!」

  フィアは剣を縦に構えつつ、突進気味にギオーの正面に迫った。その忍者とかいう衣装に刃を押し当てると、腰をかがめて一気に振りおろす!

  ズシャアッ!  と忍者の衣装が裂けた――しかしフィアはすかさず剣を引き戻して防御に入る。縦に構えた刀身にデニムの袖を添えて、完全な防御姿勢に入った瞬間、鈍い痛みが腕に走った。

  そしてフィアはギオーの攻撃で弾き飛ばされていた。デッドプリズンの固い壁に激突必至――死んでもおかしくない。

「くっ……そ!」

  フィアは魔術を使っていた。あの妖樹系魔術デモンフォティである。幸い弾かれたのが剣だったため、フィアはバンザイするように剣を頭上に振りあげていたのだ。剣を黒い炎が覆うと、そこからどこか不吉な見た目のつたが生え、膨張、拡大し、フィアはガササ!  と蔦に受け止められていた。

「あっぶなかったけど……!?」

  フィアはぴょんと床に飛び降りた。天井付近からだったので少し寒気を覚える。

  それはそれとして、ギオーの衣装は上半身がハダけたもののまったくの無傷である。筋肉の鎧ってわけじゃないし、シーフから聞いたパーフェクト鋼体術って技でもない。

「クックック……やはり小娘の刃など俺には通じんなぁ」
「……みたいだね。ギオーなら当然の甲殻かたさだよ」
「だがしかし、お互いに全力ではない。小娘の魔術を見たところ、おまえはエクリプシオンだ。違うか?」
「……いいや、正解だよ。てゆーか、魔術使ったらわたしが勝っちゃう。それじゃあつまんないよね?」
「ほう、あくまでも剣に己が魂を託すか。しかし小娘、貴様はいましがた魔術を使ったばかりだが?」
「……揚げ足取りはいいって。あんただってなにかあれば魔術を使う。遊びを口にしながら殺し合いなんてしないよねフツー。お互いにいつ切り札を出すか『時』を見定めてるだけだ。必殺必勝のね」
「……クックック!  なかなか面白いな小娘。しかし見当は外れているぞ。俺のネガティブギルティは――」
「精神系の技。それも心奪ハートレィトの。翅王も似たような技を使う奴だった。ギルティって言葉を使ってるみたいだから『心のほころび』を利用して効果を発揮するんでしょ?  必殺必中だ。ネガティブな思考なんて人間種族なら誰でも持ってる……なぜかソヨギさまには通用しないんだけど……とにかく、いつ使っても効果的な攻撃を、あんたはしまいこんでる。なんでだ?」
「きさまがどういう考えを提示しても……だ。俺にとってこれは遊びなんだよ。ガデニデグさまのために『ソヨギ』を捕らえなくてはならない。それが俺に与えられた務めだ。つまりこれは――そう、余興だ。似たような言葉を口にしようか?  遊びだよ……」
「そうなんだ。でもなにを言ってもあんたは使いっぱしりの犬なんじゃないの?」
「……なんだと?」

  ギオーが頬をピクリと一瞬だけひきつらせた。

  ちなみに背後では――メッシちゃんの二巻見ました?  ――時若津ときわかつくんの回で燃えたっす――まさか新刊読めるなんて思わなかったっすよね――さすがは紀伊◯屋書店――
 
「犬?  クックック……違う。まったく違う。俺はティンダルス斜角の使者のひとりだ」
「違う。あんたは違うんだよ……わたしはわたしたちの世界で破滅王を倒すために冒険した。たくさん……たくさん冒険した。地底国だって行った。そこにはいろんな不幸があった――どこにでもある魔力を引き金にした内乱とか――それよりもひどかったのは、トモダチを失ったワーカーたちの悲しみだよ」
「……なにが言いたい。俺は確かに地底国の領土のひとつを治めていたが?  だが記憶にあるのはその事実のみ。ガデニデグさまの本願成就のため、それ以外の記憶などいらん」
「……地底国には内乱で傷ついたひとたちがいた。連合軍の兵士たち――種族を越えて集結した戦士たちがいた。そのなかにトモダチの話をする戦士たちがいた――グランドドラゴン族のケンス。バジャー族のコラノ。クリケット族のモール。サイノミス族のプレリー……そのひとたちは魔物にさらわれたトモダチのことを心配してたんだよ」

  ギオーはフィアの意図が分からないようにかぶりを振り溜め息を吐いた。フィアは剣を提げたままギオーへと歩く。

  ――フィアは選択しなければならない。

「彼らにはトモダチがいた。ピスミール族のハイメ……ハイメは一介の戦士だったけど、住民を圧政から解放するために戦った英雄だ。あんた、忘れちゃったの?」
「知らないな。というよりどうでもいい――」
「あんたの胸に刻まれたその刻印は!?  それは奴隷みたいな扱いをされてた住民の証だ!  それとトモダチを心配してる彼らとのキズナだろ!  聞いてた見た目と全然違うから気づかなかったよ……あんたがピスミール族のハイメだ!」

  フィアは切っ先をギオーの胸に向けていた。ギオーの胸には逆三角形のなかに複雑な文字の描かれた刻印が彫られていた。それはかつて隷属れいぞくしていた者の証にほかならなかった。

  しかしギオーは興味を示さない。代わりに魔力を解放し、背中から六本の脚を生やす。ソヨギの言っていた『バグる』という感じではない。ギオーの瞳は平静そのものだった。冷静で、冷淡だった。

  ――フィアは選択しなければならない。

「小娘。言葉が尽きたのなら、あとは闘うのみだろう?  行くぞ……」
「くっ!  覚えてないなら……!」

《あいつがもし魔力の影響で記憶をなくしたり、覚えてなかったら……》

  フィアは魔力を高揚させた。ソヨギのアニミス超回復により、魔力の総量は相当なものになっている。それらをすべて解放する。ギオーが目を剥くほどの魔力は、デッドプリズンを鳴動させた。

「きさま!  ただのエクリプシオンではないな!」
「わたしは魔剣士フィア。ただのエクリプシオンじゃないよ、勇者だからね……魔術を使えばわたしが勝つの意味、分かった?」
「勇者!  ちっ、話には聞いていたが本当にガキだとは!  だがしかし、勇者だろうとなんだろうとネガティブギルティをかわせる道理はないぞ!」
「……やってみな」

  ギオーが六本の脚をバッ!  と開き、黒と紫の魔力をたぎらせる。

《……いや、覚えてないくらいならいいんだ。でも、もしも変わり果てていたら――》

  ――フィアは選択しなければならない。

「ギオー、本当に覚えてないんだね」
「グランドドラゴンたちとやらをか?  しつこいぞ勇者!  そもそも俺は蟻王でありハイメではない。そいつらは蟻王を探していなかったんだろう?  ならば見当違いもはなはだしいだろうが!」
「わたしはハイメを探してた。あんたがハイメだってのは刻印が証明してるんだよ!」

  フィアは大樹の長剣を構えた。使う魔術はふたつ。ネガティブギルティをかわすために精神操作をおこなうものと、ゼロディムスを放つためのものだ。挫折やら後悔やらの心の綻びの原因となるのは善神サイドの感情であり、神性が起因している。ならば自身の思考のみを魔に堕とし、魔性思考となれば――破滅化させればネガティブギルティはかわせる。問題はその後だ。

《あいつをさ、できる限り綺麗なままで終わらせて欲しいんだ。小さき勇者よ……》

  ――フィアは……、

「クククククク!  何度言わせる?  そいつらが蟻王を探していたならともかく、目当てはハイメなんだろうが!  貴様に徒労を与えてやる!  死ねえぇぇぇぇ!」
「バカか――トモダチを肩書きで呼ぶやつなんかいねーだろうがあぁぁぁ!」

  ギオーの六本の脚からネガティブギルティが放たれた。六刃は重なり、円形を描いて迫る。範囲攻撃は大きく速い。フィアの跳躍ではかわせない規模だ。

  フィアの瞳から光が消える。心を堕とし、こうすれば動ける。ネガティブギルティはハートレィトから脱してしまえばただの破壊力のある攻撃だ。しかしフィアは防御のためにゼロディムスではなくデモンフォティを展開する必要があった。

  だがこれを使えば確実にギオーは死ぬ。デモンフォティは魔力を吸収妖樹系魔術だ。フィアには還らないものの、被技者は確実に魔力枯れの状態におちいって絶命する――選択しなければならない!

(トモダチをみんなに返してあげたいよ……でも、殺しちゃうしかないじゃんよぉ!)

  フィアは大樹の長剣へと、デモンフォティの発動を促す魔力を集めようとして――別の言葉が脳裡をかすめた。

《世界を救うなら全部を救う気でやんなきゃダメっすよ》

「ソヨギさま……!」
「あ、呼びました?  まあいまはマヨギなんですけ――重っ」

  フィアとネガティブギルティのあいだにマヨギである。

  マヨギは空間移動で出現し、さっきみたいにネガティブギルティをまともに受け止めた。受け止めた瞬間に力の余波が拡散してデッドプリズンにヒビが入り、周囲のものを吹き飛ばす。ギョギャギャギャギャギャ!!

「ソ――マヨギさま!  さすがに本じゃ防げないよ!」
「いやほら見てください。コレのおかげで後ろ向きスケーターごっこもしない感じっすよ」
「見えないし理解不能!」
「まあもう少しで消えますから。それととりあえず――」
『任務完了っす』

  いつのまにかソヨミスが隣に立ってハモる。フィアは半ば混乱しながらソヨミスを見つめた。

「ソヨギイィィィ!  またしても邪魔するかあぁぁぁぁ!」
「邪魔じゃないっすよ……妨害です」
「なに――なにが違うんだコラアァァァ!」
『うーん……字とか?』
「貴様ら俺を舐めるのもたいがいにしやがれぇ!  ネガティブギルティィィィ!」

  ギオーがふたたび黒紫の魔力をたぎらせた。

「ネガティブギルティの波状攻撃!  やっぱりやるしかない!」
「フィアさん、落ち着いてください。さっきも言いましたが任務完了です。ギオーさん?」
「なんだ?  命乞いならば聞く耳はない……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死――」
『ギオーさんの背後に死神が立ってますが?』

  ソヨギふたりの言葉でギオーは目を丸くした。しかし瞬時になにかを悟り、ギオーは顔だけを背後に向けた。

「……なっ!?」
「ちぃとばかしいてぇぜ?」
「ビデガン!?」

  ギオーの背後に立つビデガンは神装銃を構えていた。神装銃からはバチバチと雷がほとばしっている。

風雷銃ソイソファデナムお寝んねの時間だぜ?
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

  ビデガンがギオーの顔面を掴むと、紫の雷が全身をバババババババッ!  と感電させ――

  ギオーは完全に沈黙した。

  ビデガンがようやく復活みたいです。

  
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