白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第4品「俺であって俺でない? ま、なんでもいっす」

パーティー復活!……フィアの決断?

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  口から煙を吐き出しながら、ドサッとギオーが倒れた。白目を剥いて完全に気を失っていたので、かなり痛そうに頭を打ちつけたりする。

  ビデガンはくわえていたボールペンの替え芯をプハァと吹かす。一応のアニミス回復だろう。

  フィアはそれを見ながら剣を背中の鞘に納剣した。ギオーの――ハイメを診るために近づき、間抜けな顔を覗きこむ。感電死には至らなかったようで、かなり浅く呼吸もしていた。フィアはハイメの瞼を閉じてやる。記憶は失っているようだが、とりあえずいまは、なにもかも忘れて眠ってほしい。

「死ぬような技じゃねぇぜ、嬢ちゃん。ちょいと豆腐の女神の技を拝借はいしゃくした」
「あの……ありがとうビデガン。わたしの力量じゃ殺すしかなかった」
「ゼファーに言われてんだが、護神は勇者の想いをむのも仕事らしい。このギオーって奴を仲間んとこに連れてってやりてぇんだろ?  へっ、俺の近くで良かったなぁ嬢ちゃん。シンディラじゃ殺してたぜ……気持ちは汲めどもな」
「過保護だから?」
「そういうこった……ところですげぇ魔力だが、そりゃどういう理屈だぃ。あとあのソヨギとソヨギに似た女はなんだ?」

  フィアはソヨギふたりを呼んで詳細な説明をした。カクカクシカジカ。

『しかし、カクカクシカジカってなん――』
「なるほどねぇ。クックック!  こいつぁ愉快ゆかいだ……ガデニデグの野郎は完全にアテが外れたってぇわけだ」
「それどういうこと?」
「ゆっくりしてる時間が惜しい。うえに行きながら話そうかぃ」

  背後ではマヨギが『……報酬』とか呟いてるが無視する。そしてマヨギがでっかい鉄の鍋みたいなフライパンを手にしてるが無視する。説明されてもどうせ理解不能だろう。

  さらにギオーを放置してエスカレーターをあがり始めると、ビデガンは自分の考えを話し始めた。

「奴の狙いが戦力の増強なのは確かだ。ソヨギの曖昧な記憶にのなかにもレアーズをほっする言葉がある。嬢ちゃんの聞いたティンダルスって奴らの言葉にも、破滅王やノヴァカースに匹敵する存在を造るってぇ言葉があった。そしてその強力な存在にできる可能性があるのがレアーズ。ここまではいいかぃ?」
「うん。種族の王を利用したのもそういう強力な存在が生み出せるかもって考えたからだよね。その結果がティンダルスだ」
「ここでひとつの疑問がある。なぜそれを造る必要があるか……嬢ちゃんに分かるかぃ」
「ん~……そういうのがいっぱいいたら、簡単に優勢になれるからかな。ノヴァカースは破滅王以上の脅威って話だし」

  ここで四階に着く。隠し部屋の方向に木の根っこがダラリと垂れさがっているのが見えた。翅王の大樹はしたよりもうえに伸びているらしい。

  折り返してさらに五階へ。フィアへの返答か、ビデガンはひと差し指を立てて揺らしながら、チッチッチとか言う。

「そいつはおかしい。ノヴァカースは宇宙を消し飛ばすくれぇの存在だって聞いてるが、起動にやたら時間がかかる。実際にノヴァカースのスイッチが入ったのはこの異世界侵攻が始まる遥か以前だぜ?」
「え、そうなの?  豆腐の女神の話だと、デスケテスは異世界侵攻してから起動させたみたいな口ぶりだったみたいだけど……」
「あいつは破滅軍のやることには干渉しねぇ。ただ戦ってりゃ満足するタチだからな。おおかた狼狽ろうばいする豆腐の女神の姿を楽しんだんだろうぜ。奴にとってはノヴァカースが動きゃなんでもいい。ま、とにかくガデニデグがノヴァカースに匹敵する存在を造るってのは、かなりのリスクとコストがかかる。と言うよりだ、同程度の存在がふたつもあったらどうなる。すべてを無にしようとしてる破滅王の目論見もくろみが、その匹敵する存在によっておジャンになっちまうかもしれねぇ。つまりノヴァカースがやられちまうことにもなりかねねぇ」
「ん?  でも結局は破滅に成功するんだから構わないんじゃ?」
「問題はだ。ガデニデグがその力を保有しなくても構わねぇってのに、その力を得ようとするのはなぜかってこった。ノヴァカースなんて化物は一体いりゃあ充分じゃねぇか?」
「おー、確かにそうだ。じゃあガデニデグは……」
「破滅王すらさせる気なのかもしれねぇ。だからこその研究とダークフサルク、そしてティンダルスってぇ素材と魔導師の輝石なんだろうなぁ。これだけそろえば造れるかもしれねぇ……あとは強力な『存在』ってぇこった」
「それが――」

  フィアは振り向いてソヨギたちを見た。しっかり着いてきているのに、置いていきますねーとか話し合っている。

「――ソヨギさまってこと?」
「……かもな。実際にこいつはとんでもぇ奴だ。ガデニデグだって魔界の権力者のひとりみてぇだが――権力がなきゃこんなことできねぇ――そんな奴でも手綱たづなが利かねぇ。首輪でもいいがなぁ……レアーズ中のレアだぜソヨギはよ」
「うん……貴重なくらいめんどいよね……」
「そういうこっちゃねぇんだが……お?  誰か水でも撒きやがったのか?」

  ビデガンが五階の床を踏むと不思議そうに言った。フィアは散々なフロアを眺めているビデガンを追い越して、豆腐を隠した植木鉢に向かった。植木鉢では豆腐がスヤスヤしている。

「良かった。見つかってなかった。ソヨミスさま、豆腐の女神を回復して」
「いっすよ。じゃあマヨギさん」
「……うっす」
「ビデガンはシンディラをお願い。わたしじゃ重くてさ」
「あいよ。しかしなんで樹なんか生えてんだ?」
「えーと、あれはわたしがやりまして――」

  フィアは説明をしながらシンディラの元へと走った。シンディラと離ればなれになってからだいぶ経つのでとにかく心配だった。ビデガンは説明を聞きながら一緒に走ってくれたりする。とってもいい奴だ。

「あのガラクタが儡王かぃ?」
「うん、そう。ムカついたから倒しちゃったけど……ティンダルスたちはみんな被害者だ。わたし冷静になれないときがあって……」
「そりゃしかたねぇことだ嬢ちゃん。聖戦やってんだぜ?  選択肢なんざ少ねぇし、気にしてたらキリがねぇ――と、あれだな」

  フィアが離れたままの状態でシンディラは倒れていた。もしかしたら『もにたー』をソヨギが壊したおかげかもしれない。さすがにそこまで読んでの行動ではないだろうから、フォーチュナーが発揮されたんだろう。

「シンディラ!  ねえシンディラ!」
「こりゃあ……さっきの俺みたいな状態になってるな。それよりも水のばくの影響が強いか?」
「どうすればいいのかな?  シンディラ大丈夫だよね?」
「……えーと、どういう状態っすか?」

  フィアはちょっとビックリする。いきなり真横にマヨギがいて、シンディラを見おろしていたからだ。空間移動を完璧に使いこなしているからか、音もなく現れるのは心臓に悪いよ。

「ソヨ――マヨギ。シンディラは水に弱い。いまシンディラは全身に水が行き渡ってるせいで、アニミスが巡ってねぇんだ。だからまあ、冬眠みてぇな状態だな。火を焚くわけにはいかねぇし、シンディラが吸収してる水分を抜かねぇとなんねぇ。なんか思いつくかぃ?」
「水っすか……なるほど。じゃあこれでなんとかなりません?」

  と、マヨギはあのアイテム倉庫をチラ見して、右手を空間移動させた。右手を引き抜くと、その手には赤ん坊のリアルな絵が描かれた袋が握られていた。

「……ん?  なにそれ?」
「赤ちゃんにも優しい肌触りの至高品、ムーニー◯ンすよ。まあパン◯ースでもメ◯ーズでもいいんですけどね。他社の製品と比較してもこんなに吸収しちゃいますよで有名。てゆーかそこらへんは全社的にうたってますが……なんにせよ、従来品より吸収率が格段にアップしている」
「ごめん、分かんない。とりあえずどう使うの?」

  マヨギは袋をバリバリと破いた。

「……袋をバリバリ、取り出します。しかし業界がパンツタイプへ移行して早何年でして。取りつけ簡単のため忙しい主婦には大助かり。ですがそれだとシンディラさんにペタンできないので……バリバリ。じつはパンツタイプは破れるようになってます」
「なるほど、分かんない」

  マヨギがムーニー◯ンとやらを広げてペタンとする。

  ……………………。

「マヨギさま?   これ本当に効果あるの?」
「触れば分かりますよ。まあしかし、これだけだと時間がかかりますよね。ご安心ください。今日の商品はコレ――」

  と、マヨギはちょっと裏声な感じで右手を空間移動させた。フィアはそのあいだにいっぱいムーニー◯ンとやらをシンディラに乗っける。確かに吸収するみたいだが手応えは薄い。そうしているとマヨギが右手を引き抜いた。布が握られている。

「こちらが万能クロス。なんと絨毯の裏にまで染みこんだジュースまで簡単に吸収しちゃうんです。だからわざわざ絨毯を持ちあげて拭かなくていい。お掃除が楽になっちゃいます。洗うのも水洗いでサッとできちゃうんです。よく吸収してくれるのにお手入れはラクチン。さあ、いかがですか?  なんとこちらの万能クロス、送料こみで千円、千円ですよ。さらに今回お風呂用にもう一枚つけちゃいます。みなさん、まだですよ。さらにさらに、なんともう一枚つけちゃいま――」
「分かったよー!  分かったから早くちょうだいマヨギさま!」
「……これからなのに?」

  もう見慣れた不服そうな不満そうなマヨギ。どこかヤケになったように万能クロスとやらをドンドン出してくる。

  ビデガンが水溜まりに寝てたら意味がねぇと、シンディラをひょいと抱えて近くのベンチに寝かせた。そしてさらにマヨギ。

「こちらマイナスイオンまで出しちゃうドライヤー。ビデガンさん、家庭用のアンペアで電気ください。プラグ持って」
「……アンペア?  プラグ?」
「えーと、この先端を鼻に入れるんすよ。そしてちょびっと電気を流してみてください。ぷぷぷ」
「はいよ」
「あ、右手に持つんじゃなくて鼻に入れて欲しいっす。ぷぷぷ」
「……さすがにその笑いは怪しすぎるぜ?  それと電気ってなぁなんだ――雷?  じゃあよけいに神装銃のある右手に持たねぇとな」

  ビデガンが微弱な雷を発生させると、超つまんなそーな顔のマヨギがドライヤーとやらを起動させた。ドライヤーはぶおーんと音を出しながら、温かい風を生み出している。どうやら乾燥させる装置のようである。フィアは異世界の魔法はスゴいなーと、ムーニー◯ンをどかして万能クロスを押し当てた。

  スゴい吸収力である。万能クロスは一瞬でビッチャビチャだ。ぎゅーっとしぼってまた押し当てる。それを何度も繰り返していると、マヨギの手にしたドライヤーの風で、シンディラの表面がサラリと舞った。

「マヨギさま、もう風は止めたほうがいいみたい」
「……うっす。そこはコンセントじゃないっすよ……うわ、でも動いちゃいましたよー……ブツブツ」
「なにブツブツ言ってんだ?」
「……なんでもないっす。プイッ」
「なにヘソ曲げてんだ?」
「放っておいてあげなよビデガン。なんかうまくいかなかったんだよ。はい、ビデガンも手伝って」
「うんにゃ、女の体に黙って触るのはごめんだ。俺は周囲の警戒でもしてるぜ」
「……さっきは持ったじゃん。触ったじゃん」
「それとこれは別モンだ嬢ちゃん。んじゃ、任せたぜ」

  むう……フィアにはまだまだ難しい男ゴコロである。

  フィアは助けがないので一生懸命シンディラの水分を取る。だいたい表面はいい感じかな?  だが、どうしても内部の水を抜く方法が分からない。

「それとフラストレィションギルティを抜かないと……」
「フラ……ギルティ?」
「うん。翅王って奴の技でシンディラは眠ってるんだ。水の縛から抜け出してもそれをどうにかしないとダメなんだ……翅王が言うには魔性転換すればいいって話だけど、マヨギさまできる?」
「さあ。やったことないっすからね。そのフラ……ギルティってどんなんすか?」
「うん。鱗粉だと思うんだけど」
「……ほう。ならやっぱ燃やしたほうがいいっすよ。デッドプリズンまで燃えるのを気にしてるなら――」

  マヨギが取り出したのは大きな鉄のコップというか、フタのついた水桶みずおけみたいなやつで、意味は分からないが表面には『120L』と書いてある。シンディラの体格なら入ってしまうだろうっていうサイズだ。

「このなかで燃やしちゃう。燃え広がったりしない」
「水がなくなってもフラストレィションギルティが……」
「鱗粉ていうのは蝶とか蛾とかの羽のウロコっす。んで、鱗粉はもとを正せば毛の変化したものなんで一緒に燃えちゃう。大丈夫っす」
「そうなんだ。でも心配だな……」

  しかし、いままでの棒読みとは違う『大丈夫』だったので、フィアは信じることにした。

  マヨギはシンディラをお姫さまだっこして、水桶へと運んだ。なんでかマヨギがロマンチックなムードを出したりするので、フィアはちょっと顔が熱くなったりする。マヨギが鉄の水桶にシンディラを入れる光景などは、まるでベッドに姫を寝かせる王子のようであり、なんだかそれ以上を期待しちゃいそーな場面みたいである。まあとにかく……少女でも女なのだ!

  ただそれからが良くなかった。マヨギは丁寧にシンディラを入れると、

「はい、出ました。冬でもちゃんと置いてあるカブトムシとクワガタコーナーの『昆虫のレストラン』、つまりくりぬいたりした木。入れます」
「必要?」
「濡れちゃってるし灰ですから。すでに燃えつきたものを燃やすのはちょっと。さらには『昆虫のベッド』、つまり木屑みたいなふわっふわ。入れます。大量に入れます」

  マヨギは袋を破りザササササ。 十袋くらい。そして灰色の紙を出し、ポケットから着火アイテムで灰色の紙に火を点けた。フィアは不安になる。

「ほ……本当に燃やすの?」
「聞いた話しシンディラさんはほぼ不死身。しかも分アニミスってやつに火属性があるとかなんとか。まあ、平気っす」
「うん……」

  まあ確かにそうだ。でも想像のなかでは完全に焼却される少女である。モンスターの首とか簡単に斬り飛ばすフィアだが、あんまりグロいのとか好きくない。

  マヨギは火の点いた灰色の紙をなかに入れ、しばらくすると煙が発生する。そうしてからフタをのせた。

「……シンディラさん、お世話になりました。これでよし」
「ちょっとおぉぉぉぉ!  最後に不吉なこと言ったよねいまぁ!」
「……え?」
「だから、え?  じゃねーし!  もう怖いからやめてよ。本当に大丈夫なんだよね?」
「……あ、マヨギさんちょっといっすか」

  会話の途中でソヨミスである。ソヨミスはマヨギのまえに立ち、

「メガ美さんとやらを煮てるんすけど、材料足りないんすよ」
「ちょっとおぉぉぉぉ!  ソヨミスさまは豆腐の女神を煮てんの!?  マヨギさまは燃やしてソヨミスさまは煮てるってなに?  悪魔!?」
「いや、回復のためっす」
「女神の扱いひどくないかな!」
「荒療治ってのも時には必要ですからね。んで、なにがいります?」
「えーと……できれば梅とシソとか……和風な感じで」
「……ほう。じゃあベースはポン酢っすか。シンディラさんは時間がかかりますんでそっち行きますよ」
「怖いよぉ……なんかソヨギさま怖いよぉ……」

  フィアは不安で泣きそうだが、ふたりはスタスタと豆腐を煮てるところに向かった。エスカレーターの正面だ。

  フィアはそれを見送りながらビデガンの姿を探した。ビデガンはフロアをくまなく歩いてまわっていて、テーブルが並んだ区画を移動している。まともに話ができるのはビデガンくらいなので、フィアは小走りで向かう。トテテ。

「ビデガン~……」
「お?  どうしたぃ嬢ちゃん」
「ソヨギさまが怖いんだよ~。シンディラ燃やしたり豆腐の女神を煮たり……」
「あぁ?  なんだそりゃ」

  フィアはかいつまんで説明。するとビデガンはクックックとか笑う。面白くないよ~……。

「ソヨギたちの判断は間違ってねぇ。それは分かるな?」
「うん……でも怖いよ」
「まあ確かに嬢ちゃんにはキツイかもな。だが、ソヨギがいなけりゃ回復の算段すらつかなかった。そいつも分かるな?」
「うん……わたしが別の空間から出てこれたのもマヨギさまのおかげだし……」
「だろ?  俺たちができねぇことをやらしてんだ。そのやり方にまで口を出しちゃなんねぇ。しかも判断が間違ってねぇんなら、結果は好転しかしねぇ……お、豆腐の女神のアニミスが――」
「ああぁぁぁぁぁぁぁん!!」

  なんだかものすっごいセクシーな絶叫とともに、エスカレーターのほうが光り輝き始めた。そのフィアの体がのけぞるほどのアニミスの圧力は、ビデガンの言葉通りにソヨギが間違っていなかったことの証明だった。フィアも体感したエルアニミスト以外不可能とも言える超回復である。

  フィアとビデガンは小走りで向かう。そのあいだに豆腐は光の奔流ほんりゅうのなかで目覚め、アニミスを徐々に集束させていった。

「ソヨギさまぁ!  ご無事だったのです――なんで魔力!?」
「なんだか色々なことがあったみたいです。初めまして」
「なんてことなの!  ソヨギさまが魔族になってしまったら、わたしは誰にこの身を捧げればいいのでしょう……て、ソヨギさまに寄り添うあなたはどちらさまなのです!?」
「……わたしもソヨギっす」
「なんと!?  ソヨギさまは女性だったのですか!  なんてことなの!  いや、ソヨギさまはこちらにいます!  あなたは誰なのです!」
「……ソヨギですが?」
「く……こうなったらやるしかありませんね!  第1問!  ソヨギさまはわたしをいますぐに食べたい!?」
「……いまは別に」
「……自分もいいっす」
「ダブルで拒絶なんていやあぁぁぁぁ!」
「落ち着いて豆腐の女神!  説明するから!」

  フィアが空中の皿を掴んで話しかけると、豆腐は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

  ちなみに足元にはソヨミスが料理に使った品がいくつかあり、小皿に液体が溜まっていた。フィアはなんか怖いがソヨミスに聞く。

「えーと……なにしてたの?」
「ソヨギ流湯豆腐。真冬の夜はみんなで囲もう編……」

  ………………………………………………なあにそれ?

  ま、分からないことは保留。とにかく豆腐が復活したならそれでよし!  フィアが説明を終えると、豆腐は瞳(?)を潤ませながらソヨミスにすり寄った。

「死んでしまったのですかソヨギさまぁ!」
「いや、ビミョーなとこっすよね」
「なんなら記憶もビミョーっすよね」
「わたしを忘れてしまったのですね……わたしと過ごしたあの幸せな日々を!  わたしを食べると誓ったあの日の夕焼けを!」
「おいおい……女神が嘘つくのはまずいだろ」
「あ、こらビデガン!  黙っていれば分からないのです!  さあ食べるのですソヨギさま!  さあさあ!」
「メガ美さんて暴力的っすね」
「……可哀想っすね」
「可哀想とかひどいです……ぐすん」

  ……とりあえず豆腐が凹んだことで場が静かになる。シンディラはまだ時間がかかりそうだが、ゆっくりしていい状況ではなかった。

(たくさんのアニミスがこっちに来てるよ!)

「こりゃウィッグとデビロイドだな。まだ夕刻じゃあんめぇ」
「多分ブラゴだ。隊長のひとりがシンディラに命令されてみんなのところに行ったんだ。デッドプリズンは罠だって知らされたはずだから……」
「わたしたちを心配して来てしまったと?」
「そうは言わねぇ。俺たちが罠にはまったことを知ってるんなら、余計に本隊は出張らなきゃなんねぇだろ?  本隊はどうやら上空から攻めるつもりみてぇだ。つーことは遠慮も加減もしねぇ……一斉掃射でぶっ壊すだろうなぁ」
「し……しかし、そんなことをすれば人間たちが!」
「へーきっすよ。ソヨギが逃がしたみたいなんで……とりあえずなんちゃら通信だか送信だかでこっちのこと知らせたほうがよくないっすか?」
「うん。ソヨミスさまの言うとおりだよ。豆腐の女神お願いできる?  わたしいま魔剣士だからアニミスほぼゼロで」
「お任せください……て、なんで魔力!?」
「そういうスキルなんだとよ。いっちょ頼んまぁ」
「は、はあ……では説明はあとでしてもらうとして――てやっ」

  豆腐の左手(?)がピカッとし、それで送信は完了したようだ。

  これで一斉掃射はなくなってひと安心――かと思いきや、今度は大量の魔力でフロアが満たされる!

「やばっ!  なんか来たよ!」
「へっ、あんだけのアニミス解放したんだからなぁ。気がつかれて当然だ」

  フィアは背後を振り返り、大樹の長剣を抜き放ち構えた。

  ビデガンが背後へと神装銃をかざし、空間を裂いて出現する魔族を迎え撃つ。

  豆腐は、わたしのせいだわと悲しげにつぶやき、アニミスを高揚させた。

  マヨギはアクビをしながらズギョアン!  と魔力を握り、右手を空間移動させてなにかを取り出す。

  ソヨミスはマヨギに渡されたその本をゴゴゴゴ……と、おもむろに開く!

「待ったあぁぁぁぁ!  さすがに必要ないよね読書!」

  フィアがそんなツッコミをしているあいだに、『ティンダルスシリーズ』が完全に姿を現した。恐らく二十体以上はいるだろう。

  が、口当てはカラフルであまり強そうじゃない。なかには頭巾をかぶっているのもいるが、なんにせよセンスはなくてダサい。強力な魔力を発していなければ声もかけないでほしいダサさである。

「勇者、護神……そしてレアーズよ。おとなしく我らにくだれば良し……さもなくば脅威とも言うべきティンダルスたちが、おまえたちに想像を絶する苦痛と恐怖を与えるだろう」

  そのなかの誰かが投降を呼びかけてくると、ほかのティンダルスたちが下品な笑い声を発した。

「……あんたたちは種族の王なんだろう!?  だったら王のプライドくらい示せよ!  あんたらはガデニデグに使われてるだけなんだよ!」
「無駄だぁ嬢ちゃん。しょせん心が蝕まれた落ちぶれた王さま連中さぁ……心蝕しんしょくがどういうもんか分かるだろ?  エクリプシオンならよぉ」
「え……ちょ、なんで知ってんの!?」
「俺は元ベアフロンティア配下だぜ?  知ってる奴はごく一部だが、勇者の情報はほとんど頭に入ってらぁ。まあそこらへんのこたぁ右腕であるガデニデグの担当テリトリーかも知れねぇが……」
「フィアさま、ビデガン!  それよりもこの状況をどうするのですか!  ティンダルスたちは操られているのですよね?  倒すか救うかを決めてください!」
「救うだぁ?  そんな方法あんのかぃ?」
「分かりません!  ですが救うの選択をするのなら、ここで倒してしまうわけにはいきません!  フィアさまご決断を――この作戦の主役リーダーはあなたなのです!」

  ……フィアは勇者である。そして勇者は護神たちの援護を受け、世界にみずからの正しさを広める存在である。その正義は自然界を司る護神たちに伝播でんぱし、生きる者たちの心を浄化し、破滅王の魔性から世界を守っている。

  フィアたちの世界で『心』は、魂と密接であり、それが正しき善を築き、アニミスはある。アニミスは確かに善神の『力』ではあるが、それを世界規模で維持し、保つことができる存在は勇者のみ……それが勇者だ。

  すなわちそれこそが、勇者が『希望』である所以ゆえんである。

「間違ったこともしちゃったけど……わたしはみんなを助けたい……助けたいよ!」
「分かりました!  みなさん離れないでください――魔法障壁全力展開!」
「おいおい、これじゃあ俺たちも動けねぇぞ?」

  潜入パーティー改め、即席勇者パーティーを豆腐の魔法障壁が包んだ。確かにこれならやられることはないが、こちらも動けない。

「豆腐の女神?  これでどうするの?」
「あとは待てばよいのです。目覚めますよおぉぉぉぉぉ!」

  フィアは豆腐の言葉に首を傾げた。そのとき――

『わたしの仲間を困らせないで欲しいわね……』

  バゴオォォォォン!

  ――鉄製の水桶が、爆発四散した。

                        続く
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