白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第4品「俺であって俺でない? ま、なんでもいっす」

女神シンディラ……ティンダルスの正体2

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「要するにティンダルスという素材はヒキュウのことなんすよ。魔導師の輝石を使い、ヒキュウを素体にする。そしてソヨギや種族の王さまとかの魂を造り変えて、その魂をヒキュウの魂と結合させる。そうすることでヒキュウの特性を殺さずに新たな存在を造るわけっす。そのために必要だったのが――」
「クックック……なるほどなぁ!  つまりてめぇはソヨギじゃねぇ。ガデニデグの使いっぱしりってぇこった。おおかたソヨギを装って、俺たちをこの世界に置き去りにしようって魂胆なんだろうなぁ……そうはさせねぇ!」
「待てビデガ――」
剛穿強射閃ベオルフ・ハイヴォルト!」

  ビデガンの神装銃に強烈なアニミスが一瞬にして集まり、放たれる。

  フィアとシンディラと豆腐は、その発射の余波に巻き込まれて飛ばされる。ビデガンの光撃は真っ直ぐにソヨギふたりとイギギへと向かっていた。

(みんな死んじゃうよぉ!)

  しかし吹き飛ばされているためなにもできない。吹き飛ばされながらも視界に入ったのは、光撃が着弾する瞬間の光景だった。

「ビ……ビデガンのバカァ!」

  カッ――ゴアガァッ!

  異空間がベオルフ・ハイヴォルトの閃光で満たされた。着弾と同時に噴煙のようなものが広がり、ソヨギふたりとイギギの姿が見えなくなった。フィアたちは三メートルくらい飛ばされてから着地した。

「くそっ!  早まったぞビデガン!  まだ敵とは決まっていないんだぞ!  そもそもマヨギとイギギを消してしまったら、この空間から出ることが不可能だろう!」
「置き去りにされちまったら同じだろぉ?  だが……死んでねぇよ。しっかり防がれた」
「防がれた?」

  フィアの疑問に答えるように噴煙が消える。するとそこにはまったく無傷のソヨギふたりとイギギがいた。ソヨミスが右手をまえに出し、魔法障壁を展開していたからだった。

「それはわたしの……?」

  豆腐が不思議そうに近づいていく。そのあいだにシンディラがつかつかとビデガンに近づき、頭を殴る。ビデガンがいてぇぞと怒ると、シンディラは指を突きつけながら説教を始めた。ビデガンは反論して、なんとなくぎゃいぎゃいな感じになる。

「……メガ美さんの技を思わず使っちゃいました」
「ビデガンが短気だったのです。それにしても構成からなにからなにまでわたしと同じだなんて……さすがはソヨミスさま!」

  豆腐が魔法障壁を絶賛すると、ソヨミスがアニミスを消した。まあ、他人の技を使うことは不可能じゃない。ビデガンだって豆腐のソイソファデナムとかいう気絶魔法を使ってたのだから。しかしそれは、同属性を持っているという条件をクリアしているからで、ソヨミスが豆腐と同じ属性持ちとは思えない。

  なぜならは人間で、護神王から定めの儀式を受けていないのだ。ただアニミスを持っているだけで『模倣』が可能なら、フィアにもなんだってできてしまう。  

「――とりあえずさっきの続きなんですが、ソヨギの魂をそのままティンダルスにするのは困難だったみたいっすね。理由は不明。ですがその結果として、ソヨギの魂はアニミスと魔力に分かれた。そしてティンダルスに植えつけられて誕生したのが、わたしとマヨギさんというわけです」
「つまりだ、おまえたちはソヨギではあるが、正確にはソヨギではないということなんだな?」
「あう……こんがらがっちゃうんだけど……」

  はい、というわけでまとめました。

  まずソヨギの魂をふたつにします。それをヒキュウ族を素体にしてソヨギっぽくしたら魂を入れます。そしてアニミスソヨギと魔力ソヨギの完成。

「結論から言えばですが、ソヨギは存在してます。しかし魂はわたしとマヨギさんが持っているのでってわけなんすよ」
「人間として死んだっていうのはそういうこと?」
「そうっす。なのでわたしとマヨギさんは、ソヨギでありヒキュウであり、ティンダルスでもある……ガデニデグさんがなぜわざわざティンダルスにしたのかってのは、ヒキュウの特性である『空間移動術』を持たせるためです。いまのところ空間移動術はダークフサルクによってデッドプリズン内に限定されています。このイギギさんみたいに『自分』を思い出した場合に、逃走するイレギュラーを封じるためっす」
「そういうことか……しかし聞きたいことはまだあるぞ。空間移動術を必要とする理由、そしてイギギが自分を思い出した理由――まだまだ疑問は絶えない。ガデニデグの考え、目的はいったいなんなんだ?」
「分からないっす。ただ意味はなんとなく分かります。デッドプリズンなんて複雑なものを使うのは目眩ましみたいなことじゃないっすか?  ビデガンさんの考えた通り、ガデニデグさんがノヴァカースさんてのと同じくらいのなにかを造ることなら、破滅王さん嫌がりますよね?  実際にこの異空間で起きたことはヒキュウにしか探知できませんからね。そういう感覚を持ってるのはヒキュウだけっす。ティンダルスになったら消えちゃうくらいの繊細な感覚っすよ」
「ノヴァカースと同存在だと……そうなのかビデガン」
「可能性がたけぇって話よ。やってることの筋が通らねぇんだ……なんにせよ、ガデニデグから魔導師の輝石を奪わねぇ限りはそのは治まらねぇってこった」
「ならば早くガデニデグを止めなくては!  マヨギさま、急ぎわたしたちをガデニデグのところに!」

  豆腐がこうしちゃいられないと、なんでかグルグル回ったりする。それをソヨミスはガシッと掴んだ。

「わたしたちがこの異空間を会談の場所に選んだのは、時間の違いがあるからなんすよ。こっちからあっちに戻ってもたいして時間が経過しないんす。どのくらいの差なのか聞かれても困りますが、異空間でなら倍以上の時間が稼げます。でも時間にうとい異世界のひとはきっと気づかないでしょうね。おかしいと感じても『時間差』には直結させられないんじゃないかと……て言うか、そうじゃないと空間を越える意味がないんす。恐らくそれは無限とも言える時間を研究に費やすため」
「それも狙いか。異世界でなにをしてもけして悟られないし、そのうえ充分な研究をする時間も作れる……そういうわけだ」
「そうっす」
「はいはーい。ふたりは記憶が曖昧なのになんでそんなにいろいろ詳しいの?」
「……そういやぁそうだ。もしかしててめぇたちゃあ……!」

  と、神装銃をふたたび構えたビデガンを、シンディラがぽかりと叩いた。そしてぎゃいぎゃいする。それは置いといて、

「そこらへんも話しますか。いまわたしたちにある知識とかそういうものは、ひとつはガデニデグさんから得たものです」
「ガデニデグから……どういうことです?」
「そうっすねえ……例えるなら仕事の作業中に、なんか独り言をぶつぶつ言ってる奴って感じっすね」
「……えーと?  つまりどういう意味です?」
「ソヨギを分けて俺たちを精製する過程で、ガデニデグさんは独り言をぶつぶつ言ってたんすよ。たまにいますよね?」

  ごめん、いなかった。異世界常識は分からないよ?  それでもなんとなく理解した豆腐が聞く。

「とりあえずガデニデグが漏らしていたと……それがひとつなら、まだあるのですよね?」
「あとはイギギさんから聞きました。わたしたちが動き出した直後に、研究所から連れ出してくれたのはイギギさんなんすよ」
「イギギが?  言葉が話せるの?」

  イギギはまったく喋らない。いまこうしているあいだも、ちょっと猫背な感じで棒立ちしている。

「ヒキュウ族は発言しないで会話するんすよ。一種のテレパシーみたいな、一番近いのはシエル送信てやつですかね。それの魔力バージョン。わたしはアニミスなんで、マヨギさんしか理解できませんけど」
「待て、ということはイギギは――ヒキュウ族は魔法生物ではなく古代生物なのか?」
「コダイ?」

  フィアは首を傾げる。シンディラはビデガンとのぎゃいぎゃいをやめた。

「古代とは『世界』が創られ、『言葉』が誕生するそのあいだのことを指すのよ。つまり現在の『知』が産まれる以前のこと。『創生代そうせいだい』とも呼ばれるわね」
「あ~……う~……分かったぁ~……」
「てこたぁなにかぃ?  そこにいんのは人間のご先祖さまってわけかぃ」
「そうとは限らん。古創生代の時期を知っているのは善神や悪神などの世界を構築する神々たちだけだ。その時代における始祖たちは一度滅んでいるはずなんだ……ノヴァカースによってな。だが、イギギたちヒキュウ一族が空間移動できるのならば話は変わる。その破滅から逃れられた可能性はあるな」
「では俺ことマヨギがイギギさんの言葉を代弁します。とりあえず今回の破滅王さんによる異世界侵攻を可能にした次元門エルシアは、恐らくはヒキュウ一族がその古創生代の破滅から逃れるために使ったものではないのか……ということっす」
「ふむ。そうなれば古創生代の破滅を善神が逃れたという一説ともつじつまが合うな」
「そ……そうなの?」

  フィアは歴史とか特に苦手である。そのへんはシーフがやたら得意だが、相づちを打つので精一杯なのだ!  いまもそうなのだ!

「まぁそうじゃなかったらいまの俺たちの世界も成り立ってねぇからな。よくは知らねぇが」
「わたしだって同じだ。神々の伝承で残されているだけで、それを聞いているだけ。ソフラも同じよ」
「思うのですが、ガデニデグの目的はそれほど単純なものではないようです。ノヴァカースに匹敵する存在の創造という目的だけでは、なにかが不足している気がします。ヒキュウとティンダルス、そして次元層術はその研究をするためと、限られた時間を延長するため。ですがなぜ造るのかの意味が分からない。ビデガンが言ったように破滅王を消したいのなら、勇者を支援するという形でも良いわけです。なのになぜガデニデグは時間もかかれば成功率も低いだろう『研究』を選んだのか」
「目的が復讐だとしても同じことが言える。やつは自分が経験した徒労にこだわっているような口ぶりだったわ。異世界にまで侵攻した破滅王に徒労を覚えさせる――そういう復讐が目的だったとしても、勇者に任せていれば破滅王は消える。その時点で徒労は完成する。なのになぜ研究が必要なのか……」

  と、そこでみんな黙りこんでしまう。伏せ目がちにして考えこんでいるのだ。しかしフィアは難しいのは嫌なので、関係ない気になることを聞く。

「ねえソヨミスさま?  イギギたちってモンスター食べるの?」
「えーと……マヨギさん」
「うっす。イギギさんいわく、ヒキュウたちの餌はモンスターというより魔力みたいっすね。イギギさんたちにかかればモンスターさんもなんたら回帰しないんですって」
「なんたら?  もしかして魔精回帰ましょうかいきのことかな」
「それっす」
「おいおい、魔精回帰しねぇだと?  するってぇと……」
「悪神に魔力が還らないということだな。普通のモンスターが死ねば、構成していた魔力が主である悪神に還り、それが新たなモンスターを産む」
「それはアニミスも同様です。ガデニデグはつまり、破滅王に注がれる魔力を奪おうとしている。それが恐らくはノヴァカースの同存在を造るための鍵なのでしょう」

  あう……簡単な話にしたかったのに難しいのになった……フィアは頭を抱えます。

「と……とりあえずガデニデグを止めよう!  だいたいデッドプリズンのこととか分かったんだから、あとは計画を止めるだけだよね!」

  なのでフィアは簡単な話に切り替えました。得意のカウンターです。しかしマヨギに移動を頼むとまた難しくなるのです。

「ある程度の疑問に答えは出たと思います。みなさんがやるべきなのは魔導師の輝石の奪取、ガデニデグさんを止めること……だけど俺たちの望みを叶えて欲しいんすよ。シンディラさん?」
「なんだ?」
「シンディラさんは灰の妖女だったけど、女神になれました。そして女神は『慈愛』というスキルをもともと持ってますよね?」
「わたしたち女神に属する神にはそういう力が確かにあります。その効果などはランダムで、どんな結果になるかは不明ですね。だいたいは善神の意思につながるもののようですが……」
「いや、いま思えばわたしが女神になれたのは、ソフラの慈愛があったからなのかもしれないわ。魔力を持っていた妖女であるわたしを倒したとき、悲しんでいたとウィッグが言っていたし……あのとき間違ったわたしを許したでしょうソフラ。わたしはきっと、それがなければ悪神に還っていたと思うわ」
「お姉さま……」
「イギギさんが自分を取り戻せたのは、女神であるシンディラさんの慈愛によるものだと思います。イギギさんはガデニデグさんの命令に対して、『こうじゃない、違う』と思うことができた。少しずつですがヒキュウ一族の本能に刻まれた記憶も戻ってます。それで俺とソヨミスさんが救われた。その慈愛を俺たちにも使って欲しいんす。つまり、俺たちは――」

  そのときのふたりの表情かおは、ソヨギでは絶対に見せない顔だとのちに誰かが言ったということです。彼らは泣き出しそうな懇願こんがんするような顔だったと。

『ソヨギに還りたい……』

                             続く
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