もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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H大学事件編

15H大学潜入

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15H大学潜入

「アンタ、H大学のことも知らないの??」


哀歌が僕に問いかけた。
朝霧、僕、哀歌、海未の4人でH大学の下見に行く途中の街のど真ん中で哀歌がそれなりに大きな声で聞くものだから、ビクリとした。


「……うん、行ったことない」


「外れの村にいたなら仕方ないだろ」


2人に嘘をついているという事実にうっと心が苦しくなる。
しかし、違う、あっちの世界から来たと言えばどうなるだろうか。2人はどんな反応をするだろうか。
朝霧に対しても、僕に対しても見る目が変わるだろうか……。いや、僕に対しての見方しか変わらないのかもしれない。
朝霧は、あちらから僕を連れてきたとバレれば、上に怒られるとか、処罰対象になると言った。

でも、それは朝霧の言う上層部からのお達しな訳であって、彼ら2人には何も関係ない。
僕は人の心を読めるとされている何処から来たかも分からない子供、という認識だろう。
あちらの世界に能力や魔法なんてものは無い。人の心を読めるというのは嘘だと思われ、彼らの中で僕という存在は、力がないただの餓鬼にしかならないのだ。


「哀歌、海未、数少ない同年代なんだ。仲良くしてあげてね」


朝霧がニコリと笑いながら、2人に言うと哀歌は「! はい!」と元気良く返事をする。対して海未は「……はぁ」と面倒臭そうに返事をした。
哀歌はバシッと海未の背中を強めに叩く。


「てか、アンタ虹って、苗字はないの? 珍しくもないけど……」


あ、やはりこっちの世界で苗字がないのは珍しくもない話なのか……。


「そうは言っても、お前とあの双子くらいだろ」


「3人とも親を知らないし、小さな名前もないような村で生きていたからね。 戸籍なんかもない」


「アンタ、親無しでどうやって生きてきたの?」


哀歌がズカズカと質問してくる。どうやっても何も……、親戚だと思っていた人が衣食住はしっかりも与えてくれていたが、実はそれは何処の誰かも知らない人からお金を貰っていたからで……



「……あっ」


そういえば、僕を育てるのに『支援金』がどうのって話があったけど、誰がそれを渡していたんだろう。
色々ありすぎて忘れていたけど、義父母の話には妙な話が多かった。
『支援金』、『気味の悪い女』……女って誰なんだろう、何者なんだろう……。しかも、僕を育てさせるためにお金を渡したということだろ……?


「虹、考え事をしていると転ぶよ」


朝霧の声にハッとした。3人とも僕を見ている。結局、朝霧の言うあの子……この化け物を作り出した大罪人についても詳しくは知らない。
声は聞こえても、何をしたいのか、なんで家族以外がいらないのか、それが分からない。


……知っておかなければならない事はたくさんあるのに、知ろうとしていない僕がいる。
知れば後悔する気がする。きっとどれも良い内容のものではない。


「……虹、お前大丈夫か?」


海未に名前を呼ばれた。大丈夫か?と聞かれる程に険しい顔をしていたらしい。

「っあ、だ、大丈夫」


咄嗟にそう答えた。海未は?と少し微妙な顔をしたが、朝霧の声にその顔は一瞬にして消えた。


「虹、ここがH大学だよ」


その言葉に目の前を見ると、大きな建物がある。2階、3階……いやもっとある。僕の通っていた高校とは比べ物にならないくらいに、縦にも横にも大きさがある。
2階、3階の渡り廊下のあたりはガラス張りで外からも中の様子が遠目に見える。
建物前にある敷地内の庭も広い。学生らしき人はいないが、大人から子供まで一般の人がベンチに座ったり、敷地内を歩き回っている。
外にいる数のだけでもかなり多い。


「今は授業時間のようだね、学生の姿がない」


学校のど真ん中に堂々とカチカチと音を立てている、大きな壁時計がある。
……10:40あたりを針が指している。朝早くに出て、シノとクロ、そしてこの2人との自己紹介を終えて、10時を過ぎていたようだ。


「授業中には、2階から上は一般生徒しか出入りできない。1階の講堂に行こう。そこなら、一般人の立ち入りがあってもおかしく思われない」


朝霧がそう言うと、僕、哀歌、海未の3人が一斉に声なく頷きを1度だけする。


そして、僕達はH大学へと入っていった。
中に入っても外靴のままでいいのは、大学特有である。僕は今まで、上履きに履き替えることしかなかったから変な感じがする。
しかし、あちらの世界でも大学は大抵そんなものだ。


「普通の学校だと思っていいよ、少し広いけどね。ここに居るのは皆、虹と変わらない子達だから」

そうか、哀歌と海未は違う……。回復できたり、元はなかったものを出せたりする力がある。
僕の人の声が聞こえるは少し特殊だが、言ってみれば僕も一般人のようなものだ。


少し奥に行くと、講堂があった。建物内のここだけは一般人との共有スペースらしい。何人もの人がいる。
授業中なのだから、恐らく全員一般人だ。

「私はここの偉い人と話をつけてくるから、3人ともここで待ってて」


そう言ってそそくさと朝霧はエレベーターに乗って、上へと上がっていった。


「偉い人って、上にいるのかぁ……」


「奏斗さんは何度も、ここの先生や偉い人と交渉なんかをしてるから敷地内のことは、ほとんど知ってるのよ」


「奏斗さんは、上層部も認める唯一の人だからな。そんな仕事ばかりしている」


交渉って……何の……と思っていると、哀歌が僕の肩をガッと掴んできた。僕は「!!?」と声にならない声を上げる。


「……アンタ、奏斗さんのこと好きなんじゃないでしょうね……?」


「…っえ、と僕……男だけど……」


哀歌の目は真剣そのもので嘘をつこうモノなら殺してやると言わんばかりの目である。
でも、実際僕は男だ。いや、恋愛経験とかはあっちでもした事ないけど……。

「関係ないわよ! 男でもかっこいいと思うでしょ!?」


確かに顔は整っていると思うが、それと好きとは違うのでは……? 僕にはよく分からないけど……。
でも、僕は絶対に朝霧に対してそんな感情は抱いていない。


「気にするな、奏斗さんと関わったやつ全員に言っているから」

海未は、いつの間に持ってきたのか、講堂の一角にある本棚から一冊の本を開き、それに目を通しながら「また始まった」と言うような顔をしていた。


哀歌は海未に対して、ワーワーと何か文句を言っている。海未はそれに対して素っ気なく「はいはい」と返すだけ。それがさらに哀歌を煽っていく。



……朝霧、早く戻ってこないかな……と力なくため息が漏れた。
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