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H大学事件編
16人ならざる言葉
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16人ならざる言葉
朝霧は顔見知りの先生とすれ違う度に頭を下げた。この化け物の被害が増大してからというもの、多くの人が集まる施設への視察は欠かせないものとなり、それを行うのが朝霧だった。
朝霧をあてにしてばかりの上層部は、彼への配慮をすることは無かった。
何かが起これば、朝霧へと報告が行き、それが被害を被ることであるならば、駆けつけなければならない。
H大学は、一般生徒の人数が他大学よりも数段多かった。街中心にあり、施設の設備環境は良く、学ぶ学科も多くある。
施設の利用は一般市民も可能である。
変わったことは無いか、もし何かあった時のための避難確保はどうか……それを確認するために朝霧は1ヶ月に一度、H大学へと訪問していた。
女の先生は、少し媚びたように「お疲れ様です」と言い、朝霧がそれに返せば嬉しそうにする。
朝霧は非常に憂鬱であったが、上層部と話をしているよりはマシだと思うことで、気を紛らわす。
ことは簡単に進んだ。
「朝霧です。国からの視察で参りました。学校内を巡回しても宜しいですか」
決められたような言葉を投げれば、ひとつ返事で許可がおりた。
いつもと違うのは、3人の隊員がいるということ。それを告げても、学校側は勿論許可を取り下げることはなかった。
授業の終わりの鐘がキンコーンと鳴り響く。鳴り終わったと思えば、ガラリと数多のドアが開き、数人の生徒がチラホラと廊下へと出てくる。
朝霧はしまったと思った。いつも授業内のうちに全てをやり遂げるようにしていた。なぜなら、女というのは学生も先生も変わらないからだ。
朝霧の姿を見つけて、悲鳴に近い声をあげてワイワイと朝霧を囲んでくる。
それに、どちらかという女子生徒の方が面倒であった。
「わぁ、朝霧さんだぁ! 珍しいね!! 会えてラッキー!」
「今から下でお昼ご飯、買いに行くんだけど一緒に行こうよー」
数回、被害拡大阻止のために、と避難経路の確保について等を説明するため、大勢の生徒の前に出ることがあった。
その時に、名前と姿を覚えられ、話しかけてくる女子生徒は多くいた。
朝霧は心の中ではぁ、とため息をついた。哀歌もどちらかと言えば、彼女たちのように朝霧に好意を持っているのが丸わかりだが、哀歌は非常に物わかりもよく、仕事に一切支障をきたさない。
哀歌は朝霧が面倒だと思うことをすることが無かった。しっかりとした線引きが出来ているのだ。
「今から、他の人達と仕事なんだ、ごめんね」
優しくそう言って離れてくれれば良いのだが、女子生徒は朝霧を諦めない。
「え~~じゃぁ……朝霧さん、今日こそ千夏と連絡先交換しよっ!」
「あ~、ずるい! 朝霧さん、白葉とも~」
朝霧はいつものように笑顔のまま、「仕事中だから、そーいうこと出来ないんだ」と言う。
撒くのを諦め、3人のいるもとへ女子生徒を連れていく形となった。
虹、哀歌、海未はなんだか話しているようだった。いや、哀歌が一方的に海未に何か言って、それを海未は無視し、虹は慌てているだけだ。
「3人とも待たせたね、許可がおりたよ。回ろう」
哀歌は女子生徒の影に気づき、キッと睨みを効かせる。海未は面倒臭そうに「は~」と息を漏らす、虹は……誰だこの人たちと、少し怯えていた。
「ごめんね、これから仕事だから……連絡先は今度ね」
勿論交換なんてする訳ない。
「千夏、朝霧さんともう少し一緒にいたいなぁ」
「白葉も~」
そう言って2人は朝霧の腕に絡みつく。その姿に困ったように笑うと、哀歌が絡んだ2人の腕をパシッと軽く叩く。
「……仕事、なんで」
強めに哀歌はそう言って、2人を睨みつける。女子生徒も負けじと哀歌を睨んでいたが、哀歌の圧に負けたのか、「行こ行こ」と、足早に消えていった。
「ありがとう、哀歌。彼女たち……川神 千夏と真城 白葉には、困ってたんだ」
哀歌の髪の毛をくしゃりと撫で、そう言うと哀歌は頬を赤らめながら、嬉しそうにする。
海未は「そんなことをするから……」という視線で朝霧をじっと見る。
虹はあの2人の後ろ姿を目で追っていた。
「虹、行くよ」
呼ばかければ、「……はい」といつも通り弱々しい声で返事をした。
「……女の子って、何処も変わらないんですね…」
ボソリと虹がそう言った。虹はもといた世界での学校での生活の中で、自分とは全く無関係だったが、容姿の良い男子生徒や男の先生がいれば、同じようにくっついて、甘く媚びる様子を見ることがあったのを思い出して、声に出してしまった。
哀歌と海未には聞こえていないほど、本当に小さな独り言だった。
しかし、朝霧はそれを聞き取り、先程まで自分が思っていたことと重なる部分があることに笑った。
「……本当にここで何かあるんですか、見回ってもおかしな所とか、化け物の影もありませんよ」
海未が歩きながらそう言った。確かにH大学に入ってから、時間をかけてほとんどの教室の様子、空き教室もくまなく回っていた。
虹はドンドンと俯いて暗くなっていった。やっぱり、自分の聞いたものが間違えだったのではないか、と考え込んでしまう。
「……何かが起こるなら明日、何か手掛かりでもあれば、と思ってきたけど何も無いみたいだね」
「今日はもう帰りますか?」
帰る方向で話が進んでいく。虹は申し訳ないという顔をしている。朝霧はそれに気づき、小声で「気にしなくていいんだよ」と虹に言う。
最初の講堂には、放課後の時間になり先程よりも人が集まっていた。
生徒、一般人もごちゃごちゃだ。大学なため、生徒も私服だから、誰が生徒なのかも分からない。
「……そうだね、もう帰ろうか」
朝霧の言葉を合図に、4人で大学の外へと出るため、人並みをかき分けて玄関の方へと向かおうとした。
「……なんか、異様に人が多くないですか、今日」
海未は、はぁとため息をつく。人混みがあまり好きではない海未にとって、最悪な環境らしい。
人とすれ違っていき、ドンと人にぶつかり、虹が少し3人と離れてしまう。虹は背の高い朝霧の背中を追うように着いていく。
ーーーー『เหจวเขขจาลมชา่จบอเจ』
「えっ」
虹の耳がキィンと鳴る。変な言葉が聞こえた、外国語とも言えない変な言葉だった。
虹はすぐに分かった。人の会話の声ではない、これは誰かの心の声だと。
耳を貫くような声ではなく、頭にボゥと残るような声は、実際の音ではない。
虹はすぐに振り返る。しかし、誰がその言葉を言ったのか分からなかった。
人が多すぎて、隣をすれ違った人が言ったのか、前にいた人が言ったのか、後ろにいる人が……
ぐるぐると頭で渦巻き、訳が分からなくなり、その場に頭を抱えてしゃがみ込む。
周りが虹を避けるように、歩き始め何人かの「大丈夫?」 「どうしたの」の小さな声が聞こえ始めた。
虹は耳を塞いだ。頭がぐわんと揺れる。
異変に気づいた朝霧、哀歌、海未が虹のもとへと戻ってきた。
3人が「虹」と呼びかける声がする。けれど、それに答える気力が出てこない。
朝霧は虹を抱え、外へと急いだ。2人も後ろに着いて行く。
外の方が人がおらず、庭にあるベンチに虹を座らせる。
「虹、大丈夫かい、人混みが苦手なのかい」
朝霧が屈んで、虹にそう聞いた。顔色の悪くなった虹は少し震えていた。
そして、朝霧の肩に弱い力を込めて手を置いた。
「……朝霧さん、聞こえた。 変な声……、今までとは違う、知らない人、変な言葉だった……」
青白くなった顔で、紫がかった唇を震わせながら、虹は朝霧を見つめながら訴えかける。
哀歌と海未は?を浮かべながら、虹と朝霧を見た。
「……そうか、虹。よくやったよ」
「……でもっ、なんて言ってるのか、分からなかった……日本語じゃなかった、でも外国語とも違って……なんか、人の言葉じゃ無かったみたいだった……」
泣きそうになりながら、虹がそう朝霧に伝えると、朝霧は白くなった虹の頬を冷たい手でなぞるように撫でた。
「やっぱりここで、何かあるみたいだね」
哀歌と海未は意味が分からないという顔をしているなか、虹は明日のことが不安になり、顔を歪めた。
朝霧は顔見知りの先生とすれ違う度に頭を下げた。この化け物の被害が増大してからというもの、多くの人が集まる施設への視察は欠かせないものとなり、それを行うのが朝霧だった。
朝霧をあてにしてばかりの上層部は、彼への配慮をすることは無かった。
何かが起これば、朝霧へと報告が行き、それが被害を被ることであるならば、駆けつけなければならない。
H大学は、一般生徒の人数が他大学よりも数段多かった。街中心にあり、施設の設備環境は良く、学ぶ学科も多くある。
施設の利用は一般市民も可能である。
変わったことは無いか、もし何かあった時のための避難確保はどうか……それを確認するために朝霧は1ヶ月に一度、H大学へと訪問していた。
女の先生は、少し媚びたように「お疲れ様です」と言い、朝霧がそれに返せば嬉しそうにする。
朝霧は非常に憂鬱であったが、上層部と話をしているよりはマシだと思うことで、気を紛らわす。
ことは簡単に進んだ。
「朝霧です。国からの視察で参りました。学校内を巡回しても宜しいですか」
決められたような言葉を投げれば、ひとつ返事で許可がおりた。
いつもと違うのは、3人の隊員がいるということ。それを告げても、学校側は勿論許可を取り下げることはなかった。
授業の終わりの鐘がキンコーンと鳴り響く。鳴り終わったと思えば、ガラリと数多のドアが開き、数人の生徒がチラホラと廊下へと出てくる。
朝霧はしまったと思った。いつも授業内のうちに全てをやり遂げるようにしていた。なぜなら、女というのは学生も先生も変わらないからだ。
朝霧の姿を見つけて、悲鳴に近い声をあげてワイワイと朝霧を囲んでくる。
それに、どちらかという女子生徒の方が面倒であった。
「わぁ、朝霧さんだぁ! 珍しいね!! 会えてラッキー!」
「今から下でお昼ご飯、買いに行くんだけど一緒に行こうよー」
数回、被害拡大阻止のために、と避難経路の確保について等を説明するため、大勢の生徒の前に出ることがあった。
その時に、名前と姿を覚えられ、話しかけてくる女子生徒は多くいた。
朝霧は心の中ではぁ、とため息をついた。哀歌もどちらかと言えば、彼女たちのように朝霧に好意を持っているのが丸わかりだが、哀歌は非常に物わかりもよく、仕事に一切支障をきたさない。
哀歌は朝霧が面倒だと思うことをすることが無かった。しっかりとした線引きが出来ているのだ。
「今から、他の人達と仕事なんだ、ごめんね」
優しくそう言って離れてくれれば良いのだが、女子生徒は朝霧を諦めない。
「え~~じゃぁ……朝霧さん、今日こそ千夏と連絡先交換しよっ!」
「あ~、ずるい! 朝霧さん、白葉とも~」
朝霧はいつものように笑顔のまま、「仕事中だから、そーいうこと出来ないんだ」と言う。
撒くのを諦め、3人のいるもとへ女子生徒を連れていく形となった。
虹、哀歌、海未はなんだか話しているようだった。いや、哀歌が一方的に海未に何か言って、それを海未は無視し、虹は慌てているだけだ。
「3人とも待たせたね、許可がおりたよ。回ろう」
哀歌は女子生徒の影に気づき、キッと睨みを効かせる。海未は面倒臭そうに「は~」と息を漏らす、虹は……誰だこの人たちと、少し怯えていた。
「ごめんね、これから仕事だから……連絡先は今度ね」
勿論交換なんてする訳ない。
「千夏、朝霧さんともう少し一緒にいたいなぁ」
「白葉も~」
そう言って2人は朝霧の腕に絡みつく。その姿に困ったように笑うと、哀歌が絡んだ2人の腕をパシッと軽く叩く。
「……仕事、なんで」
強めに哀歌はそう言って、2人を睨みつける。女子生徒も負けじと哀歌を睨んでいたが、哀歌の圧に負けたのか、「行こ行こ」と、足早に消えていった。
「ありがとう、哀歌。彼女たち……川神 千夏と真城 白葉には、困ってたんだ」
哀歌の髪の毛をくしゃりと撫で、そう言うと哀歌は頬を赤らめながら、嬉しそうにする。
海未は「そんなことをするから……」という視線で朝霧をじっと見る。
虹はあの2人の後ろ姿を目で追っていた。
「虹、行くよ」
呼ばかければ、「……はい」といつも通り弱々しい声で返事をした。
「……女の子って、何処も変わらないんですね…」
ボソリと虹がそう言った。虹はもといた世界での学校での生活の中で、自分とは全く無関係だったが、容姿の良い男子生徒や男の先生がいれば、同じようにくっついて、甘く媚びる様子を見ることがあったのを思い出して、声に出してしまった。
哀歌と海未には聞こえていないほど、本当に小さな独り言だった。
しかし、朝霧はそれを聞き取り、先程まで自分が思っていたことと重なる部分があることに笑った。
「……本当にここで何かあるんですか、見回ってもおかしな所とか、化け物の影もありませんよ」
海未が歩きながらそう言った。確かにH大学に入ってから、時間をかけてほとんどの教室の様子、空き教室もくまなく回っていた。
虹はドンドンと俯いて暗くなっていった。やっぱり、自分の聞いたものが間違えだったのではないか、と考え込んでしまう。
「……何かが起こるなら明日、何か手掛かりでもあれば、と思ってきたけど何も無いみたいだね」
「今日はもう帰りますか?」
帰る方向で話が進んでいく。虹は申し訳ないという顔をしている。朝霧はそれに気づき、小声で「気にしなくていいんだよ」と虹に言う。
最初の講堂には、放課後の時間になり先程よりも人が集まっていた。
生徒、一般人もごちゃごちゃだ。大学なため、生徒も私服だから、誰が生徒なのかも分からない。
「……そうだね、もう帰ろうか」
朝霧の言葉を合図に、4人で大学の外へと出るため、人並みをかき分けて玄関の方へと向かおうとした。
「……なんか、異様に人が多くないですか、今日」
海未は、はぁとため息をつく。人混みがあまり好きではない海未にとって、最悪な環境らしい。
人とすれ違っていき、ドンと人にぶつかり、虹が少し3人と離れてしまう。虹は背の高い朝霧の背中を追うように着いていく。
ーーーー『เหจวเขขจาลมชา่จบอเจ』
「えっ」
虹の耳がキィンと鳴る。変な言葉が聞こえた、外国語とも言えない変な言葉だった。
虹はすぐに分かった。人の会話の声ではない、これは誰かの心の声だと。
耳を貫くような声ではなく、頭にボゥと残るような声は、実際の音ではない。
虹はすぐに振り返る。しかし、誰がその言葉を言ったのか分からなかった。
人が多すぎて、隣をすれ違った人が言ったのか、前にいた人が言ったのか、後ろにいる人が……
ぐるぐると頭で渦巻き、訳が分からなくなり、その場に頭を抱えてしゃがみ込む。
周りが虹を避けるように、歩き始め何人かの「大丈夫?」 「どうしたの」の小さな声が聞こえ始めた。
虹は耳を塞いだ。頭がぐわんと揺れる。
異変に気づいた朝霧、哀歌、海未が虹のもとへと戻ってきた。
3人が「虹」と呼びかける声がする。けれど、それに答える気力が出てこない。
朝霧は虹を抱え、外へと急いだ。2人も後ろに着いて行く。
外の方が人がおらず、庭にあるベンチに虹を座らせる。
「虹、大丈夫かい、人混みが苦手なのかい」
朝霧が屈んで、虹にそう聞いた。顔色の悪くなった虹は少し震えていた。
そして、朝霧の肩に弱い力を込めて手を置いた。
「……朝霧さん、聞こえた。 変な声……、今までとは違う、知らない人、変な言葉だった……」
青白くなった顔で、紫がかった唇を震わせながら、虹は朝霧を見つめながら訴えかける。
哀歌と海未は?を浮かべながら、虹と朝霧を見た。
「……そうか、虹。よくやったよ」
「……でもっ、なんて言ってるのか、分からなかった……日本語じゃなかった、でも外国語とも違って……なんか、人の言葉じゃ無かったみたいだった……」
泣きそうになりながら、虹がそう朝霧に伝えると、朝霧は白くなった虹の頬を冷たい手でなぞるように撫でた。
「やっぱりここで、何かあるみたいだね」
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