もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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H大学事件編

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『……ナンデ、ダレカダレカダれカ……!!』








僕に人語ではない何かが聞こえてから、他に声が聞こえることも無く、計画日当日となってしまった。
いつ聞こえるようになるか分からない不安なら、僕は眠りにつくことは出来なかった。

前日、体調が悪くなったと思った哀歌、海未は心配するような顔で僕を見ていた。朝霧はというと、僕が聞こえた声のことについて、途切れ途切れで話すのを急かすことなく聞いて、理解してくれた。


学校から出ると、朝霧は明日の朝、もう一度ここに来ることを伝える。2人も分かったと返事をした。

僕が朝霧の部屋に泊まっていると知ると哀歌は絶叫しそうな顔になったが、顔面蒼白な僕を見て何か言いたげだが、言えないような顔で、自室へと戻った。


嫌なことに目を開ければ、夜が明けてしまっていた。朝霧の姿はなかった。夜、部屋から出ていく音がしてからというもの、一向に帰ってくる気配がなかった。

眠れなかったが、目は冴えていてもう寝るのは諦め、ベッドから起き上がった。
起き上がると同時に、ガチャンとドアの開く音がした。

玄関の方に小走りで向かう。なんとなく1人でいたくない気分だった。


「……おかえりなさ……」


「おかえりなさい」と初めて言おうとすると、朝霧の顔が曇っていることに気づく。目の前に来た僕を見て、「……虹、ただいま」といつもの嘘くさい笑顔もなく小さく言う。


「……朝霧さん…?」


「……上にH大学への人員派遣を要請しようと思ってね、行ってきたんだ」


そんな朝霧の服はどこか汚れていて、外に出たのかと言うような容姿で帰ってきた。上層部のいるのは同じ建物内であるのに、どうして…と僕は思った。

汚れ、何かが飛び散ったような……黒……赤、僕はどんどんと顔が青ざめていくのが自分でも分かった。


「…これ、血……?」


「……夜中から今にかけて、少し街外れの場所を中心に、今までとは比べ物にはならないくらいの化け物が現れていてね。ウチの隊員は全員そっちに向かっている。 やっと一段落はついたが、まだ隊員のほとんどが戻ってきていないし、負傷者も少なからず出た」



今日起きる何か、それの合図のように、化け物による被害が後を絶たないという。人がそちらへ行ってしまい、現在の攻撃部隊で手のあく者はいない。


「……今日のH大学へ行くのは、また4人になってしまった」


上からはそんな僕の根拠もない話に人を割くことなどできない、現状を考えてそちらの被害の方に人員を削減するのが最善だと言って、人をこちらへと寄越さなかったと言う。


「……幸い、哀歌と海未はよく出来た子達だからね、ほとんど無傷状態で、こちらへ来てくれると言ってくれたよ」


僕はH大学の方には誰も来ない方がいいのではないか、朝霧、哀歌、海未も街へと派遣した方が良いのではないだろうか。
H大学では何も起きず、優秀と言われる3人がいなかったことで、街外れの方の被害が大きくなることの方が大変ではないだろうか。


「……やっぱり、3人もそっちに行った方が……」


「……確かに、それで"そこ"の被害は減るだろうね。けど、何も解決はしない。元を絶たなければ繰り返される。私たちも無敵じゃない、何度もこんなことが起こればいずれ死ぬ」


朝霧から出る「死ぬ」という言葉にゾクリと悪寒が走る。


「……元を絶つために虹の聞こえた声を辿る方が良いんだ、君は何も思い詰めることはないよ、これは私の判断だ」


そう言われ、僕は黙り込むことしかできない。確かに、朝霧の言うことは最もである。現在出てきている化け物が全ていなくなったとしても、また新たに生まれる。増え続けているということは、今後もっと増えるだろう。それに、彼らがずっと耐え続けることは不可能だ。元凶をどうにかしなければならない。


そう言われ、朝霧とともに部屋を出ると、既に朝霧同様汚れた服を着た哀歌と海未がいた。
僕がぐるぐると今日の心配をしている中、3人ともそんなことを考える暇もなく、動き回っていたんだ。


あちらの世界が最悪だと、こちらの方が良い世界なのだと勘違いしていた。彼ら、この世界の人にとってはこの汚れることが当たり前で、常に化け物に恐れて暮らさなければならないんだ。


「……たく、いつまで寝てるのよ、H大学行くわよ」


寝ていた訳では無いが、返す言葉もない。部屋に籠りっぱなしだったのは事実だ。


「……奏斗さん、行きましょう」

海未の言葉に朝霧も「そうだね」と返し、朝霧は両手でひし形を人差し指と中指で作る。
こちらに来た時と同じように、光始めた。朝霧がボソリと「ムーヴ」と言い、腕を大きく開き、光が大きくなる。


「……ここを通れば、H大学内に出るよ。昨日のいた講堂に出るよ」


そう言うと、哀歌と海未は無言でその光の中に入っていく。僕も1度は、朝霧に連れられて入ったことはあったが、入ることに躊躇いがある。
普通ではないことに慣れつつあったが、こんな魔法のような異世界感があるものを前にすると足がすくんだ。

朝霧はそれに気づき、僕に手を差し出した。
僕はそれに甘え、朝霧の手を握りゆっくりと光の中に入っていった。




入ったかと思えば、そこは既にH大学の玄関前だった。まるで、光の中に学校があったみたいだ。
街外れで被害が出ているというのに、学校に生徒はわらわらと集まっている。
こんな時でも、学校が休みにならない。当たり前のように学校に登校している。

まるで、街外れの被害なんて自分たちには何の関係もないというような感じで学生も、一般市民もこの学校に集まる。
変な感じがした。何故か、昨日よりも人が多い気がする。


「……何か、昨日よりも人、多くないですか」

海未も同じことを思ったようだ。海未だけでなく、朝霧も哀歌も同じことを思っているようだ。

この時、4人は全員「何かおかしい」と思っていた。



4人が真剣な顔をし、静まりかえる。
それを無視するかのように昨日も聞いた明るい声色の女の子の声がした。


「あ!! 今日も朝霧さんいるじゃん!!」


「え!! いっつも1ヶ月に1回来るか来ないかなのに!」


川神 千夏と真城 白葉だった。ニコニコ、キャーキャーと2人も現在、外れの方で起きている被害なんてものと無関係だと言うように、昨日と何も変わらず、日常を過ごしているようだ。


「……今日は、講堂にやけに人がいるみたいだね。学生も先生もほとんどいる。 何かあるのかい」


朝霧は嘘くさい笑顔で2人に問いかける。哀歌は面白くないという顔をしているが、それを聞くのが良いと僕も思う。


「えー! 朝霧さんたちには届いてないの? 昨日こんなのがウチたちの家に届いたんだよ」


手紙のような紙切れを千夏は朝霧に差し出した。白葉も同じものを持っているようだった。
「ありがとう」と言って、朝霧はそれを千夏から受け取り、折り畳んである紙を開いていく。


【この手紙は抽選で、選ばれた方だけにお送りしております。
こちらの手紙を持ち、H大学の講堂に明日、9:00にお集まりください。】


「別に来なくても良いかなーって感じだったんだけど、皆受け取ってて、学校の方も授業なしにしてくれたから、全学年ここにいるんじゃないかな」


嘘くさい内容、抽選なんて言って学校の生徒全員に送られた手紙。
しかも、生徒だけでなく、先生たち、それに集まる一般市民も同じような紙切れを持っている。


9:00まで、あと15分。

ここに人を集めて何をする気だ……?


カチカチと講堂内にある1番大きな時計の針が時間を進めていく。
時間が進む度に、嫌な予感が降り積もるようで身体が重くなっていく。


「虹、やはり君は特別な人間のようだ。私たちは君がいなければ、大学がこんなことになっているとも知らずに街の外れへと狩り出されていただろうね」


朝霧が僕の肩を叩く。朝霧も何が起きるか分からないのか、少し怖いような、面白がっているような顔をしている。
哀歌と海未は、周りを見渡し、変な人、モノがないかを確認しているらしい。


僕は何も出来ず、ただこの不可解な手紙が誰かのイタズラであって、計画が恐ろしくないものであって、最悪の事態を招かないようにと願うことしかできなかった。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『カエセ、オレノ、オレノ……タイセツナ……』


暗闇で"何か"がそう言った。それを前に1人が口の端を吊り上げて笑う。


「キミが、上手くできたら返してあげるよ」


"何か"はそれを前に頭を抱えることしかできない。
少し開かれた口から小さく呟いた。







『タイセツナ、タイセツナ………カゾク……』
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