もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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H大学事件編

19化け物

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19化け物

「……ひ、人じゃ、ない……?」


僕からすれば、一瞬で学校につけるような光を出す朝霧も人間だとは思えないけれど、これはもう見た目からして人間という定義には当てはまらない。


周りにいた数人の覆面の男たちは破裂したと思われる男の破裂音と共に吹っ飛んだ。吹っ飛ぶ……そう、ホントに飛んだんだ……、風のように軽々と浮き、そのまま四方へと強い力で押されるように、見えないほどの速さで……。飛ばされた男たちの方向にいた人に、ガッッとぶつかると止まることなく、ぶつかった人も共に飛んだ。

止まったのは、建物の壁にめり込んだ後だった。壁からダラりと血が流れる。
周りが叫び声をあげる。高く、耳鳴りのような声が……色んなところから聞こえる。
壁からボロりとゆっくりと落ちた人間は、骨なんて無かったかのように無惨な形で倒れた。


「……っあ、あ……」


僕は悲鳴もあげれず、その場に力なく座り込んだ。これが、この世界、人間じゃない物が暴れる世界……。気持ち悪い、喉まで胃液が上がってくる。「ぉぇ」と小さく嗚咽を吐く。


「……大丈夫かい、虹。 ……っ、虹と哀歌は避難経路確保、怪我人の救護! 私と海未で、アレを殺すよ……」


ああ、この人達は本当にこんな世界で、こんなモノと戦っているんだ。慣れた掛け声に、素早い対処……、大学内で行っていた避難経路の確認なんて何の役にも立たない。……皆、呆然と、この世の終わりの顔をして、立っているしかできない。


………………それは、僕も同じか。


哀歌が大声で人混みの中で、避難を呼びかける。そして、壁へと打ち付けられた人のもとへと近寄る。少し顔を歪め、両手を吹っ飛んだ人の身体に当てるとそこが光り出す。

……回復魔法が使えると言っていたが、本当だったんだ。しかし、そう安心したが、哀歌は悲しそうな顔をした。もう、ダメだというようだった。


……そうか、回復は……生きた人にしか使えないのか、その顔を見て僕は理解した。
飛ばされ、身体の形が原型を留めない人は、もう既に息がなかった。


虹と哀歌なんて言われたが、動けているのは哀歌だけで僕は座り込んで、その様子を見ていることしか出来ない。


……僕にできる、事……そう思い、チラっと避難する学生や一般人たちを見つめる。
走る、走る……悲鳴をあげる……そんな人達を見つめ、ズキンと頭が傷んだ。



「……奏斗さん、俺こんなの初めて見ました」


「奇遇だね、私もだ」


朝霧と海未は、避難する人達を背に、破裂し、形を変えた『化け物』と顔を合わせる。
2人とも見たことがないタイプの化け物に、冷や汗がツゥと流れた。

過去にない例の化け物。人から化け物に変わるなんて。

デカい蜘蛛のように長い手足が6本、天井に着きそうな化け物の頭、人が粒のように見えるほどの体の大きさ……、僕が初めて見る化け物だった。


「……っ、哀歌! 皆を外へっ……!」


朝霧の声と同時に、化け物は黒く長い手足を建物のドア、窓、壁にベタベタと貼り付ける。床に立つのではなく、壁に張り付いて立っている。


『เหจวเ………………』


化け物が何かを言う。これは、全員に聞こえているようだ。
そして、僕が聞いた人の言葉ではない言葉……それの正体がコイツだ……。


「……これは、確かに人間の言葉では、ないね」


「…アイツ、本当に聞こえてるんですね……」


2人が話していると化け物は大きな悲鳴をあげる。そして、人がいる方へ足をビュッと勢いよく伸ばした。


2人は、ハッとすると人が数人黒い手に掴まれ、声を上げる。ググッと力を入れていき、掴まれた人は激痛なのか「あ"あ"あ"!!!」と雄叫びのような声をあげる。


すると、海未は両手を合わせ、少しずつ離すと大剣が出てくる。本当に剣が出てきた……。僕の中では有り得ないことだが、これがここの普通なんだ。
朝霧も右手を下に向けると鋭く長い剣が姿を現す。

海未は人を掴む手の方に、軽々と飛び、大剣の刃を静かに突き刺す。
手の真ん中ら辺から切込みが入ったかのように、手は2つに割れる。

化け物は痛いのかなんなのか、また、意味のわからない言葉で叫ぶ。

しかし、切れた手の本体と繋がる方からニュルりと再生される。触手かなんかなのか……?


「っ、再生……、これじゃ切っても……!」


「速さ勝負ってことかな……、海未は右の2本、私はそれ以外の4本を一気に斬るよっ」


朝霧がそう言うと、朝霧が左側、海未が右側へとヒュっと見えないほどの速さで走り、飛んだ。
2人の剣が手足を切り落とす。
痛い、痛いと言うように叫ぶ化け物。しかし、次の手足を斬ろうとすると、既に斬ったところが再生を始める。

そして、暴れバタバタと斬られていない手足をばたつかせ、また、人混みの方へと伸ばし、人を数人グッと掴む。


「拉致があかないねっ!!」


人の方へと伸びた手を朝霧が切り落とす。ビタビタと剣と床に落ちる化け物の黒い手足の血、朝霧と海未の服にもべっとりと黒い汚れがついている。

「……今まで、再生する化け物はいなかった。 それに人に化けれるなんて聞いたこともない」


顔に着いた黒い化け物の血をグッと拭いながら朝霧は言った。


1度掴まれた人は腕や身体の骨にひびが入ったのか、騒ぎ転げ回る。

「っいだい…っ!!!いだい"よぉ……!!」


その中に千夏の姿があった。両腕を抑えて蹲っている。そこに哀歌が駆け寄り、腕に触れる。グッと少し力を入れると千夏は泣くように声を上げる。

「…っ、少し我慢してっ!!」


回復するには少し力をかけなければいけないらしく、暴れる千夏を抑えながら哀歌はそう言った。圧をかけると千夏の腕が光る。
はぁ、はぁと深呼吸をする千夏は、痛みが治まったのか叫ぶのを止めた。


哀歌は他の人にも同じことをしている。しかし、それは1人ずつにしかできないらしく時間がかかる。その中で、また手足が伸び、人の身体を掴む、それを朝霧と海未が斬る、この繰り返しであった。

本当に拉致があかない……、あの化け物を止めないと殺さないと……ここにいる人が皆、死ぬ。



外へと出れるドアも化け物の手足からいつの間にか出た黒い液体がベタっとくっついて、開かないようにされている。

もしかしたら、朝霧の魔法で外に出ることは出来るかもしれないが、それでは海未1人でアレの相手をしなければいけない。2人掛りでやっと死人を出さないでいる状態だ。
朝霧が避難するための魔法をだすために攻撃を止めれば、最悪全員が化け物に殺られる。


僕は周りを見渡し、何か、どうにか出来ないかと考える。

哀歌は避難するために1箇所に集まった人の方へ、朝霧と海未は化け物を前に刃を突き立てる。


僕は、1人で孤独に座り込んでいることしか出来ない。座り、ガタガタと肩を震わせることしか出来ない…………僕に何か…………。



『…………ミギ』


……?僕は思わず1人で「えっ」と声を出す。
すると、向かい合った化け物の左側の前足が、朝霧の方へと向かう。朝霧を避け、その足を突き刺す。

皆には聞こえてない、僕だけに聞こえている……。

まさか、この化け物の心の声が流れてきているのか…?でも、コイツは人間の言葉を話さなかったはず……なんで……


『………ヒダリ』

そう言うと、海未のいる右へと手足が伸びる。
向かい合っているから、逆の方に伸びるのか……。


こいつの声が頭に流れる度、頭が酷く痛む。この心の声を聞く時はいつも、痛みを感じたりや意識を失う。恐らく、副作用か代償か……けれど、そんなことを言ってられない。

この3人を連れてきたのは僕だ。僕だけ、自分を守って何もしないことは許されてはいけない気がする。


『…………ヒダリ』


「!!右!!!」

頭にキィンと痛みが走る中、僕は今までで1番声を荒らげ、海未のいる方へと叫ぶ。
その場にいる全員が僕の方を見る。嫌だ、注目を浴びるのは苦手だ……、でも今はそんなことを言える立場では無い。

海未は、ハッと目の前に来た前足を斬りつける。

朝霧は少し考え、僕が化け物の声を聞いたのだとすぐに理解したらしい。
この状況で、とても不謹慎ではあるが、朝霧は僕に笑いかける。


『…………ミギ……』


「左!!!」


声が掠れそうだ、喉が痛い。頭痛がドンドンと酷くなる、意識が飛びそうだ。聞こえる声と逆の方を言うだけなのに酷く体力が奪われる。

朝霧は先に読んだ化け物の動きに合わせ、素早く斬りつける。
海未も、ごくりと唾を飲み込み、状況を理解したのか、僕から視線を外し、化け物を見て大剣を構える。

僕のこれが何時まで持つか分からない、この数回で意識が飛びそうなんだ。けど、やらなければ……今、僕ができる唯一のことなんだから。


『ヒダリ』

「右!」


『ミギ』

「左!!」

このやり取りを続けたとして、意味があるのかは分からない。意地になっているのか、化け物の速さも速度が上がる。
しかし、僕の声で朝霧と海未は華麗に避けて剣で斬りつける。


「…っはぁ……、でも、これじゃあ……持たないぞ」


海未の言う通りである。これでは2人の体力、僕の意識が先に失われる。無限に再生する化け物では、どうにも出来ない。
こいつの命を絶たなければ……。


ズキン、ズキンと痛みが強くなる、そんな中で『ミギ』と聞こえれば、「左」と言い、『ヒダリ』と聞こえれば、「右」と言う。これを何度も繰り返し、攻防は続いた。


すると、急に化け物の声も手足も動かなくなった。
……? しん、だのか……?


全員が一瞬静まる。何だ、と朝霧と海未が顔を合わせる。







ーーーーーーー『……ソノ、コ』


……ソノコ……? そのこって何だ……と何を言えば良いのか分からなかった。右でも左でもない……、そのこって…………。


「……! 虹!!」

朝霧の声にビクッとして、顔を上げると目の前に黒い物が近づいていた。


ソノコ、そのこ……"その子"…………


僕の身体が黒い手にガッと強く掴まれる。ギュウッと強く締め付けられ、叫びたくなる。痛い、痛い……死にそうだ……! 息苦しい……!!!


朝霧と海未が僕を見て、近づこうとするが、化け物の手足が一斉に2人に襲いかかる。2人はそちらの対応するのが精一杯だった。

……しぬ、痛い、骨が……もうバラバラに折れたみたいだ……。手足がダランと力を無くす。





ーーー『イタイ、イタイ……ダレカ、ダレカ』


痛くて気を失いそうな中、また化け物が僕の頭の中で喋る。




『コロシタクナイ、ウゴキタクナイ、ダレカ、ダレカ』









『タスケテクレ』


そんな人間の言葉が僕の中に流れてきた。
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