もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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H大学事件編

20痛み

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20痛み

僕は掴まれ、痛みも度を超えたのか痺れるように何も感じなくなった。真っ黒い手が僕を掴んで離さない、けれど触れると聞こえた小さな、人間の声。
違う違う、だって目の前にいるのは、人間じゃない、コイツの声じゃない……? じゃあ誰の……? グゥっと力がドンドンと強まり、失神寸前までいく。




『オレハ、オレハ、タダ………………………………』



流れる、頭の中で、あの知らない男の声じゃない、計画を企てる男の声とはまるで違う。

若くない、おじさんの声……? 男だ。



『…………マモリタカッタノニ、アノフタリヲ』



『イタイイタイイタイ、ムネガサカレルッッ!!!シタクナイコロシタクナイコロシタクナイ!!!!!』


うるさい程流れてくるこの声……。やはり、化け物……いや、化け物じゃない。さっきの破裂した男の声か……?


スパンと目の前の黒い手が朝霧の剣が通る。僕はその場に倒れ込む。きっと、骨は折れている、もう痛さも感じない。声も出せないほどに苦しい。


「虹! 意識を持て!! 哀歌!!!」


朝霧の今までに聞いた事のない声、口調……。その声に哀歌は急いで僕のもとへ駆け寄る。


「っあ、ぁ……あ、さっ………っ……」


哀歌が僕の身体を起こし、「少し痛いよ」と言って力を込める。ミシミシと砕けた骨を押されたようで、激痛が走る。


「~~~っっっっ!!!!!」


朝霧は化け物の前へと戻り、海未と二人で応戦し始めた。
回復魔法を使ったとしても、完全に治ったわけではなさそうだ。痛みはある。


「……アンタ、動かない方が……!」


「っ! むねっ!!! 胸だ!!! 手足じゃない!! ソイツ、胸が痛いって言ってる!!!」


2人に届く声で叫ぶと、骨がビキビキと悲鳴をあげる。僕は「っぁ~~っっ!!」と声にならない声を上げる。
喉も焼けるように熱い……、でも、コイツ、この"人"も凄く痛がっている。倒すんじゃない、殺すんじゃない……この"人"を助けなきゃ……。
その思いが優先される。


「っ、ころしたくないって、したくないって……2人ともこの人を助けてあげてっ………!!」


朝霧と海未は1度、剣を床に向け、顔を合わせ同時に頷いた。


「海未! 制限時間は持って5分だ!! 私の体力が底を突く前に、頼んだよ」


「っはい!」


朝霧は、剣を持たないもう片方の手からも剣を出す。2つの剣を出すことで体力の消耗が激しいようで、制限時間をつける。


左右に分かれていた2人が共に真ん中に立つ。胸、と伝えたがコイツの胸がどこかが分からない。
海未がそれを探し、胸を撃つしかない。周りの一層激しく動く手足は朝霧が何とかするみたいだ。


「……私も、戦えれば……」

僕を抱える哀歌が、ポツリと寂しそうに言う。
哀歌の魔法は確かに攻撃の力にはならない。けど、僕が2人にこの事を伝えられたのは、回復魔法があって声を出せたからだ。


「っ、はぁ……、聞かなきゃ、もっと……!」


やっとの力で立ち上がる僕を哀歌は止めた。

「ダメ! 私の力で全回復はできない! 骨もまだ数箇所折れて……」


「……じゃあ、またさっきくらいの本数の骨が折れたら、僕に魔法をかけて……」


生きるギリギリだ。 けれど、あと5分。それでコイツの弱点、胸の部分を見つけなければ、皆死ぬ。5分、たった5分僕が我慢をして、生きれば、いい話だろう。


朝霧は左右に激しく動くため、体力が持たない。海未も手足は全て朝霧に任せ、気にせずに中心部分を切りつける。それでも、コイツは止まらない。先程よりも大きな叫び声のようなものをあげているが、手足の動きは強まるばかりだった。


立て、歩け……僕には、聞くことしかできないんだから。


海未のいる中心部分へと歩き寄る。
海未はそこにいる僕に驚き、声を荒らげる。

「馬鹿!! そんな所にいたら、また掴まれるぞ!!」


考えたところで今の解決策はこれしかない。死ぬかもしれない。無理かもしれない。けど、あの地獄のような日常で何もしなかった僕に、手を差し伸べた朝霧の力に……誰かを助けることのできる人になりたい……。



『ソイツ』


海未を避け、化け物がガパァと口のようなものを開けて、僕の方へと近づいてくる。

「っ逃げ!!!!」


海未の「逃げろ」が聞こえる前に僕は口に身体を噛まれるように持ち上げられる。
先程よりも強い力で締め付けられる。バギィと骨が折れていくのが聞こえる。

「っっあ"、ぐっ……」




『ムネ、ヤカレルミタイ、ミギ、シンゾウカラトオイノニ!!!!!』



「っ!!!ぁあ"っ!!!! ちゅ、中心!! 左側だっ!!!!!」



海未は一度なんの事か分からずにいる。思考を巡らせ、胸の位置であることに気が付き、向かいあって右側ではなく、左側に狙いを定める。


僕のせいで、この3人を巻き込んだ。 本当はここにいなかったはずの3人を死なせたくはない。僕が聞いたから、この3人を危ない目に合わせているのかもしれない。



でも、聞こえたからここにいる全員を守れるかもしれない。


「っはぁ、、虹っ……」


朝霧の体力も底を突くギリギリだ。手足が叫びそうなくらい痙攣を起こしている。僕のことを助けたいのだろうか、こっちを心配で焦るような目で見ている。





『イタイ、イタイ……、ダレカ、ダレカ……』


痛いよ、僕も馬鹿みたいに身体が痛い。けど、貴方も、同じくらい、いやそれ以上に痛いんだよね……。






『……タダ、カゾクヲタスケタカッタ』


そう言うと、化け物が「เหจวเขขจมชา่จบอ!!」と奇声をあげる。
僕はその言葉とは言えない言葉の奇声をあげた理由が分かった。
僕を噛むように掴んでいた口が力をなくし、下を向きながらゆっくりと開いていく。


海未の大剣がソイツの右胸辺り全体を一瞬のうちに切りつけたのか、再生も間に合わず弱点となった右胸の急所を斬られたのだ。
宙に放られた僕は、身体を動かす力もなく頭から真っ逆さまに落ちていく。


この高さから落ち、頭蓋骨を床に打ちつければ、さすがに死んでしまう……。骨がほぼ折れていて、気絶状態の僕の身体は体制を変えようにもピクリとも動かない。


ドサッと床のような固いものではなく、温かい何かの上に落ちた。


「……お前、案外無茶苦茶だな」


海未の腕の上に落ちたらしい。腕も手も……全身真っ黒に汚れている。黒く付着するのは、斬られたときに出る血液らしき黒い液体らしく、掴まれた僕の全身は黒くならず、海未に抱えられたときにベッタリとくっついた。


哀歌が急いで、僕と海未の前に走ってくる……気がした。痛み、痺れ……締め付けられる血液が全身に回らずに脳が働かない。意識が遠のく。


哀歌が掴む場所も痛いとも感じない。最大限の痛さを超えてしまったのか、もはや無痛だ。
全身が光に包まれる。少しずつビキビキと骨がくっついていくような感覚だ。逆にくっついていく過程のほうが痛みがある。


「……コイツ、馬鹿じゃないのっ」


「……ああ、間違いないな」


2人のそう話す声が意識が戻って最初に聞こえてきた音だった。
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