もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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うつけ村編

35うつけ村

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35うつけ村

資料整理、被害地の後始末に追われ、休日などはない機関隊員がほとんどだ。特に外へと赴く攻撃部隊は、ほとんどが残業でそれを理由に辞めていく者も少なくない。
上層部はそんなこと関係なしに仕事を山積みにしてくる。朝霧は他の隊員の休日確保のため、1人忙しく動く日々だった。

朝霧は、表世界から規則を破り、連れてきた少年、虹をH大学での事件で危険な目に合わせてしまったことを悔いていた。予想外の化け物の強さ、隊員が3人しかいないという壊滅的な状況の中、あの場で死人を出さなかっただけ、褒められるべきだったのだろう。
恐らく化け物を生み出した張本人のいる組織の1人に虹の存在が知られた。それは、この計画を、化け物を生み出している……人間の耳にも届くだろう。


数日、虹を部屋から出していない。そして、虹に少し暗い話をしてしまったことに後悔がある。あんな少年にぶつけて良いことではなかった。「こちらの世界では、誰も他人を信じていない」なんて言うべきでは無い。
前まで違う世界で生きていた子にそんなことを言っても意味が無いと分かっていた。



虹は朝、喉の痛みを訴えた。咲のもとに送り届けたが、あんな話をした後だ……。 恐らく、自分のことをよく知るとシノとクノに聞いたのだろうか……。痛みは嘘で咲に何かを聞きにいったのだろうと、送り届けてから思い始め、咲のもとに戻るか、と迷ったが……これから共に仕事をしなければいけない……それに、今回の件から1番重要な人間は、自分ではなく虹だ。彼がいなければ何もできない。


このまま、自分の元の性格を偽り、隠すことで虹が逃げてしまえば意味は無いと思い、後は咲の判断に託すことにした。




と、思ったのが、数時間前。今は携帯に珍しく海未からメールが届いていた。内容に驚いたが、冷静になって考える。


うつけ村は誰も寄り付かない、人1人いない村だ。多くの犠牲者を出そうと考えていたH大学での1件とはまるで狙いが違う。
あの場には、今回のように手紙で来いと言われ来る人間はまずいない。なんで、そこで……それに虹に会いたがっている……、そして殺そうとしている。いや、聞いた感じでは虹だけではない。やはり、この世界から自分たち以外を消すつもりなんだ……。
しかし、まずい。虹に興味を持たれた……、これから向こうが優先することは虹の存在かもしれない。あの死んだような気味の悪い男は、恐らく虹の能力に薄々気づいている。それがバレたとなれば、化け物の声を聞くことができる虹を最初に殺そうとするだろう。


だが、こちらも虹がいなければその場所へ行ってからの対処が出来ない……それは、虹を最も危険な目に合わせることに等しい。
この世界だからこそ、機関にいる人間だからこそ死とは隣り合わせに生きてきたが、あの子はそうではない。 自分が死ぬなんてこれまで思ってもこなかった子だ。そんな子にこんな酷な目に合わせるのは、気が引ける。


しかし、上の奴ら関係なく虹を連れていけというだろう。それで向こうの長が現れるのなら、あの子の命なんてどうでも良いと言うのだろう……。




海未からのメールを貰い、向かったのは咲 夢花がいる研究室。ノックすると、来るのが分かっていたように「もう来たか」と咲は言った。


「……その感じだと、虹は君にも『うつけ村』の話をしたのかな」



「ここで頭痛と共に倒れ、その時に聞こえたんだろう」


なるほど、海未のもとではなく、咲といる時に例の声を聞いたのか。 話が早くて助かると思った。



「……『うつけ村』は今は誰もいないはずだ。 それなのに、向こうが狙う意味が分からない。 ……今は誰かいるとかそんな情報は無いか」



「ああ、無いな。 あそこは今も立ち入り禁止。 情報部隊が監視を続けているだろうし、あればすぐに機関内に知らされるだろう。 狙いは私も分からんな、そもそもなんでこの世界の奴を全員殺す気でいるのかも分からん」



確かに一理ある。誰かへの復讐ならまだ話は分かるが、自分たち……『カゾク』というもの以外を殺そうとする意味が分からない。最後に目指すのは自分たちしかいない世界。 だが、それを作って何になる?



「……朝霧、『うつけ村』は確かに大火事による被害で生存者の確認もされていない。 それに、焼死体と元の村の戸籍の名前も全員一致している」



「……ああ、そうだね。 私も聞いていたよ。 さすが咲と思ったよ、あんな形もないような死体からしっかりと村人全員を判別するんだから」



咲は朝霧にそう言われると、ふっと笑いながら、パソコンをカチカチと触り出す。


「お前に褒められるとはな、悪くない気分だ…………、ついでに私の考えたもう1つの可能性も褒めてくれないか? 朝霧」



朝霧は眉をひそめ、咲の顔を見る。咲は意地悪そうに笑いながら、パソコンのフォルダを1つ開く。


「……可能性?」



「うつけ村は、元は小さな平凡な村。 大火事にもならなければ知られることのないような村だ。 だから、国も特に注視していなかったんだがなぁ……、彼、虹に言われて色々と元の『うつけ村』について探ってみたんだ」


フォルダをクリックすると現れた画面には、長い文書に画像であった。
その画像には、何やら長い鎖のついた手錠で手首を締められ、歩かされている人間……老若男女関係なく、薄汚れた人々の列。 前には眼鏡…いや、顔が見えないようにとサングラスにマスクをした怪しい男が立っている様子がある。



「……これは」


「……うつけ村の裏で行われていた闇オークション、奴隷売買。もちろん、ちゃんとしたオークション場なんてないから、小さな建物内で行われていたらしい。 なんで、こんな場所で……なんて思うかもしれんが、国はこの村に滅多に派遣員も送らない。 逆に穴場となって裏でのこういうことが行われていた」


確かによく知るオークションのような広い会場ではない。 中の様子も、手錠をされた人が前に並べられているだけだ。



「……で、今さらこれがなんだって」



「分からないか? 言っただろ、あの村での生存者はいない、死人も確認済みだ。 何より、それを行った中には私もいた、間違いない。 けどな、焼死体と戸籍名簿にあった名前は全員一致した、それ以外の焼死体もない」



咲はまだ分からないかという顔をしながら、朝霧に問いかける。
頭の回転の早い朝霧は、咲の話から様々なことを組み立てて、ようやく1つ分かった。



「……この、オークションの人達は、戸籍名簿にはない……しかし、それでも焼死体と名簿の人数は合った。 この人達はここで死んでいない……そう言いたいのか」



オークションで売られる奴隷のような扱いを受ける人に戸籍なんてない。……金無しの親に捨てられたか、何らかの原因で生きることが出来なくなった人間の末路がのようなものだ。
死ぬか売られるかのどちらかを選択した結果、売られる側を選んだ人達だ。


「……ああ、あの時はそんなこと思わなかったし、皆、身元確認と火事が起きた原因を探るのに全員が必死だった。 村でこんな裏があるなんて思いもしなかった」



「……だけど何で今それが、咲のもとにあるの」


その言葉に咲はパソコンを弄る手を止めた。そして、朝霧の目を見つめ、少し目を細めて笑った。


「……知り合いに元記者がいてな、そいつから聞き出した。 もとは私が助けた患者の1人だったんだが、こんな裏のことも調べていたようで、もしやと思い、村名を出したら話してくれたよ。 人に恩は売っておくべきだぞ、朝霧。 何が起こるかこの世界じゃ分かったもんじゃないからな」


世の中で言う美人に分類されるだろう咲が悪い顔で清々しく笑いながら、高らかに笑い声を上げる。
この世界では人との取り引きが大事だと朝霧もよく理解していた。



「……その人については詳しくは聞かない方が良いのかな……、うん。 でも咲の調べだ、信じよう」



「……嘘つけ、お前は他人を最初から信じていない。 そうだろう?」



次は朝霧が身体をピタッと固めて、俯く。


「……虹に聞いたのかな、やっぱり仮病だったか」


「お前のこと気にしていたぞ、朝霧。 もし、彼とこれから行動するなら少なからず、お前の情報も差し出すべきだ。 彼ばかり情報を出すのはフェアじゃない、彼もきっとそう思い始める。 今回はアイツの名前は出さなかった、お前のクソみたいな過去の性格は話したがな」



そう言う咲を朝霧は睨んだ。馬鹿にするように「こわいな」とまるで怖がらずに咲は言った。でも、朝霧も分かっている、虹のことは何でも知っておきながら、彼から欲しい情報だけもらい、自分のことは何も話さない、そんなの誰だって不信感を抱く。


「……分かっているよ、虹はほっとけないよ。 こんな世界に来てすぐに、命を落とす危険があったのに他人の心配ばかりする。 アイツに少し似ていて、また何処かへ消えていきそうで……手を離したくない」



「まるで、あの子の父親か兄のような言い方だな」



朝霧はフッと笑い、「馬鹿にしないでよ」と一言笑いながら咲に言う。



「……虹は、本当の家族を知らない。 それはこれからも知ることができない。 でも、あの子には家族を知って欲しいとも思っている、あんな環境で育ったんだ……、私よりも酷かった。 誰も助けてはくれないし、期待だってしてくれない。 自分が子供の時は、力を持ったことをいいことに親が利用しているんだと思って、自分自身の存在がこの世で1番恵まれていないと思っていたよ」



「……そんな力を持っておいて恵まれないなんてよく言うな、他人が聞いたら罵倒されるぞ」



「力があれば、期待されるし羨ましいと思われる。 それに大抵のことはできる。 けどね、それだけ人に自身を愛して貰えない。 周りは私の存在じゃなくて、私の『力』の存在を愛していたんだ。 ……それに気づいてしまえば誰も自分に愛情を注いでくれないと思ってしまう。…………でも、虹はもっと酷かった、理由もないのに嫌われた。優しい子なのに人の勘違い、欲から関係もないのに、勝手に周りは離れていく」



咲はシンと黙り、朝霧の長い話を静かに目を瞑りながら聞いている。


「……本当に人を信じることはできない、それは今も変わらない。 ……でもいつか、あの子の全てを信じてあげたいんだ、俺はそれができなかったからアイツの手が離れてしまった」


咲は朝霧の一人称が「私」から「俺」に変わったことに気づき、驚いて目を開きまじまじと朝霧の顔を見る。そして、ふっと口元を緩めて笑う。


「……慰めの言葉ではないが、1つ教えてやろうか。 アイツはお前を嫌ったりしてはいない。 ただ、"何か"に気づいてしまった。 上の連中がそのためにアイツの名前をこの機関から消した、それだけだ。 お前が信じようと信じまいとアイツは、きっとここからいなくなったさ」


腕を組みながら、話を始める咲に朝霧は「……ああ」と返事をする。



「……『うつけ村』の裏のこと、これから詳しく調べる。 お前はあの子についていてやれ、また何かしらその声とやらが聞こえるかもしれない」


「………そうするよ」


そう一言残し、朝霧は咲の研究室を出ていった。





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