もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

文字の大きさ
37 / 49
うつけ村編

37怖い男

しおりを挟む
37怖い男

海未の部屋に暫くの間籠っていると、遠くからノックの音が聞こえ、海未が誰かと話していると分かる。その声は徐々に僕の方に近づいてきている。相手は誰なのかはすぐに分かった。


「……虹、体調はどうだい」


朝霧は仕事を終え、連絡した海未のもとへ僕を迎えにやって来たのだ。どうにも嘘をついたこと、勝手に朝霧の過去を咲に聞きに行ったこと、それらに罪悪感を感じ、上手く朝霧の顔が見れない。


「……うん、もう大丈夫……」


そう伝えると、朝霧は少しホッとしたような声で「よかった」と言う。
朝霧が海未にありがとう、と伝えたので僕も海未に頭を下げる。


「礼を言われるほどのことはしてないです」


相変わらずクールな海未は、僕ら2人にそう言った。海未の部屋を出ると、朝霧も喋らず、僕も無言のまま朝霧の部屋までの廊下を歩く。とても長い距離な気がした。


部屋に入り、バタンと扉を閉めて鍵をかけると、朝霧はこっちにおいでとソファをトントンと叩く。


「……………あ、朝霧さん、ぼ、僕、あの」



「咲のところに私のことを聞きに行ったんだよね、何となく分かってたよ」



ソファに座った僕に視線を合わせるように僕の前にしゃがみ、床に膝をつけながら優しく笑いながらそう言った。
この笑顔は嘘か本当か分からない。 朝霧は人に怒らない、でもそれは表面上だけで本当は怒っているのではないかとおどおどする。


「……怒ってないよ、人間の心理として当然だ。 素性を明かさない人の近くにずっといるなんて怖いことだ」


朝霧のその言葉に顔をあげて、朝霧とやっと目が合う。嘘は嫌いだ、騙された人間の気持ちが分かるから。 だから出来るだけ嘘はつきたくない。


「……ごめん、嘘ついて……。 嘘をつかれたと思うのは、騙されていたと思うのは、辛いって僕分かってたのに」



斎賀夫婦は僕をずっと、長い間騙して育ててきたようなものだ。それを経験した僕が人に嘘をついた。朝霧だっていい気はしないだろう。



「……私に直接聞いても答えないと分かっていたからだろう、きっと私は答えなかったよ。 ……でも、そうだね。 咲に言われたよ、私は虹のことをよく知っているのに虹は私のことを知らない、それではいつか虹が私に不信感を抱くってね」




咲に会っていたのか、と話の内容で理解した。確かにそう思っていたのかもしれない。 僕のことは、この人は何でも知っている……、僕の知らなかった力にだってこの人は気づいてた。 でも、僕はこの人のことを何も知らない。 彼が何をしていのか、どうして僕を連れてくることで例の、"大罪人"と呼んだ声の主のことを助けられるのか、結局は分かっていない。…………それから……



「……虹、君が1番聞きたいことは、私の過去についてかい」



この人を変えたと咲が言っていたある研究員の男の話。最初から不気味な男だと思った。いつも笑っている、それが親の育て方とか環境とかじゃなかったと咲は言っていた。 前はもっと乱暴な物言いだったらしい朝霧 奏斗という男を変えた人間について……、恐らくこれは僕の勝手な予想だが、今の朝霧を作っているのは、その人間だ。良くも悪くも……。



「咲に私の昔の性格……どんな人間だったかは話されてしまったようだね」


乾いた笑い声をあげる朝霧は、少し困ったような顔をする。
話さなかった、つまり話したくはない内容なんだろう……、けど、どうも胡散臭い朝霧を信じたい。 そのためにはどうしても、胡散臭い朝霧が作られた過程を知りたい。 そうすれば、納得出来るかもしれない、こんな嘘っぽい人間を信じれる理由になるかもしれない。


「……アンタを、変えた人って……」




「…………私がこの世界で初めて、唯一、信用も信頼もできると思った男のことだよ」









両親は俺を国家機関に入れることに何の迷いもなかったし、俺にその選択肢をくれる人間でもなかった。
最初から勝手な大人の都合で決められた将来。 全て諦めて、入ってから適当にしていけば国の方から俺を要らないと手放してくれるのではないか、と思っていた。


魔法、能力……自分より長けた人間を見たことがなかった。俺からしたらどうして出来ないんだ、と思うことが多かった。
そんな力を国のために、知らない弱い人間のためにどうして使わなければいけない、汗水垂らして、命を危険に晒して、どうして他人を守る必要がある、そればかりが幼い頃から頭にあった。



偶然、両親に国家機関の建物に連れていかれた日に、変な女、咲に出会った。ペコペコとする咲の先輩らしき人を冷たい目で見ていると、俺のような子供にまで、腰を低くするものだから、この人にはプライドなんてものはないんだ、と感じていた。
後ろで咲は俺を興味無さげに見ていた。特に話しかけもせずに、ただただ早く戻りたいという顔をしていた。
親が上の人と話に行くと言うので、俺はそんな奴らに会いたくなかったので、咲について行くことにした。



研究室に入るとそれなりの人数の白衣を着た人達が、資料を漁り走り回り、研究用の試験管を見つめ……床には紙の束が落ちていた。
結局、国家機関で働くということはこんなものなんだろうと思った。



「……そこに座って見ているくらいしかないぞ、私の邪魔はするなよ」


咲が冷たくそう言った。でも俺は逆にそれくらい言われる方が清々した。変に媚びてこないやつの方が印象が良いものだ。


「この本、読んでる」


適当に用意されたパイプ椅子を咲の後ろに置き、その辺にある本を1冊取った。咲は「勝手にしろ」とまた冷たく言い放つ。





……まるで難しいことを書き殴ったような本だったが、何となく理解はできた。 研究員というのならばもっと理解し難いことを書かれているのかと期待したが、予想が外れた。つまらない。


咲はパソコンを打ちながら、紙を捲るを繰り返す。楽しくない、なんでこんな所で働かなくてはいけない、そんなことを思いながら咲の背中を見つめる。





「咲、この間の実験の資料だ。 よく出来ていた」



1人の男が咲の横から話しかける。黒髪に眼鏡を掛けた如何にも研究員らしい男だった。ボサボサの髪から仕事の忙しさが伺える。そして、後ろにいた俺に気づくと「あれ」と俺に近づく。



「……ここの研究員ではないね、見学者か何かかな」



「……朝霧 奏斗」



名前を言えばすぐに分かってもらえると思った。こいつも媚びへつらうのか、咲のような反応を取るか、と少し楽しみにしていた。



「……? 朝霧君か、初めまして。 志賀内 萬です」



俺の名前を聞いても、ピクリとも反応をせず、勝手に自己紹介をし始めた。しかも萬、よろず……かなりおかしな名前だ。



そして、何より眼鏡でよく分からなかったし、口元は笑っているから気づかなかった。


志賀内 萬は目の奥が全く笑っていない、怖い男だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...