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うつけ村編

41 道

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41 道

アイツといるとどれくらいの時間が経ったのか、時間は動いているのか、それすら分からない時があった。俺の身長も体重が成長しようと、顔の形やしわの数が増えようと目の前のアイツは何も変わらなかった。


何故かそれに疑問を持つことはなかった。 どうしてかそんな者なのだと、アイツはそんな存在なんだと思えた。
自分の身体に吸収された薬で俺だって能力や魔法を手に入れることができたわけだ。アイツの研究……実験、それは凄いものに違いない。


こんな能力や魔法もある世界だ、人の容姿が変わらないことがなんだ。 アイツも実は魔法で若返っているだけなのかもしれない。 そう考えればわざわざアイツにその事を問いかける意味もなかった。



アイツからこんな3つも凄いものを貰っておきながら俺は失敗した、役に立てなかった。 そう思い自己嫌悪に苛まれながら、H大学を去った。


俺の作り出す暗闇の空間を住処にすることで、誰にもこの場所も研究所もバレることはない。



幻滅されるかもしれない、そんな思いで戻り起こったことを話すとアイツは見たことがないほど楽しそうな顔をした、興奮したように『虹』に食い付いた。
特に何か言われることもなかった。アイツの中にはそれから『虹』という餓鬼が住み着いた。



「うつけ村に虹は来てくれるかもしれない……、会いたいなァ、会いたいなァ……」



うつけ村は数年前に滅びた、俺たちが大火事を装い滅ぼした村だ。
変な噂が広まり誰1人大火事後にそこに寄り付かなかった。学もない俺はアイツが何をしたいのかは分からなかったが、言う通りにすれば何でも上手くいく気がした。




そして数年の時が経ち、俺はその名前はとても懐かしかったが、忘れることはなかった。
腐った林檎のような顔をしたスーツを羽織った男、ジャラジャラとネックレスを着け、指輪にはゴツイ指輪をはめた金持ちを象徴したような女。そんなヤツらが、昔の俺のように細く今にも倒れそうな人間を買うオークション会場があそこにはあった。


過去の自分のこともあり、吐き気がするほどの光景だった。だが、アイツの指示に笑みが溢れた。昔の両親のような人間を物としか見ない奴らへの天罰だと思った。


しかし、思った通りにはならなかった。
大火事は起きた。 村の住民は焼けた、オークションどころではなくなり、奴隷のような売られていた人間も金持ちもかけ回った。
しかし、アイツは村人以外を殺す気はなかったのか、そいつらを全員見逃せと言った。嫌だと言いたかったが、アイツに物を言うことは躊躇われた。






そして、今になりあそこの村で復讐を遂げると言う。俺たちの復讐を遂げるとアイツは言った。意味が理解できずにいたが、少しずつ理解するにつれ、俺の口が緩んだ。




やっと、俺のやりたかったことが出来るのだ、と。両親への天罰がくだるのだと。



「……あと、あの時のオークションの人間の名前がここにある、兄さん。 この人達も見つけ出してくれるかい」


アイツはとても可愛らしく楽しそうに笑う。まるで子供が遊んでいるような笑顔だ。
今していることは人間を殺そうとすることだと言うのに。一緒にいると段々とそれが普通になり、人間を殺すことすら遊びなのかもしれない、と思えてしまった。
俺は弟の頼みを笑顔で、アイツとは対照的な極悪人のような笑顔をしながら、答えた。





「ああ、もちろんだ。 お前のためなら何だってしてやるさ、『澄』」


愛しい弟の名前、偽物で俺に歩く道をくれる弟の名前。『澄』、お前のためなら……なんて言って、結局自分の復讐も兼ねているからこんなに笑えているのかもしれない。


俺たち家族の正しく生きる道をくれるのが弟の『澄』である。
だから、家族の誰もこいつにものを言うことなんてできなかった。


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