もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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うつけ村編

44 もしも

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44 もしも

「……あの大火事の犯人? 今更どうしたんだ」



虹を寝かせ、真夜中になる。 また一日に1回のペースで声が聞こえてきたため、虹が起きている間はなるべく離れるべきではないと判断し、眠りにつくまで、部屋を出ることはしなかった。


眠ったのを確認し、すぐさま自分の部屋を出ると施設内の照明はほとんどついていなかった。 だが、研究室には数箇所明かりが灯っており、その中には咲の研究室もあった。
研究室のドアをノックすると、来ることが分かっていたように「入れ」と言う。
一応女なんだから、気をつけた方が良い……なんて言えばまた、顔を顰めて「気持ち悪い」なんて言うだろう。

室内に入るといつも通り、パソコンと山積みの資料を広げている。仕事か私用か……、咲もはっきり言ってしまえば、優秀ではあるが優等生気質というわけではない。
面倒なことは適当にやるし、国に関係なくても興味があれば、勝手に調べたりする。 それが結果的にこの機関を助けるものに繋がったりすることもあるが。



本題に入ることにした。 時間もなければ咲との間に世間話なんて必要も無い。
私の荒れていたあの頃のこと、今となってはあの当時所属していた人間は、もうほとんどいない。


……それに、あれに1番関係しているのは、実際に現場へ行った咲 夢花だろうと踏んでいた。



「……犯人、火事の原因……そんなもの分からなかったさ。 村はほぼ消滅した後だった。どこから火が出たのかも知っている人間もいない」



「一つ可能性が出てきた。 虹の中に聞こえてくる声、その声の人間が犯人かもしれないという可能性だ」



すると咲はピクリと反応する。 紙を捲りながら話していたのに、紙から手を離し、くるりと私の方を向いた。


「…………何故、そうなる。 確かにあの子の聞いた声で次は「うつけ村」で何かが起こると言っていたらしいが、それとあの火事の犯人がどう繋がる」


咲の目は鋭かった。 そんな目をされる程の話の内容を振った覚えは無い。私は少し疑問を持ちながらも話を続ける。


「……さっき、また虹に聞こえたらしい。 その中にあの火事のことを知っていたような口ぶりの話をしていた。 しかも、どうやら被害者側ではないようだ」



そう言うと、咲は一度黙り込む。 そして私から目線を外し、床を見つめている。
咲の様子がおかしい……。



「咲、どうかしたのか。 様子がおかしい」


いっそのこと咲に直接聞く方が早いだろう。そうすると、咲は紙の1枚を強く握り締めていた。
そして重たくなったような口をゆっくりと開いていく。



「……私は君にあの村ではオークションがあると言ったな。 しかも売られるのは戸籍もない奴隷のような人間、買うのは裏にも通じていた金持ちやお偉い様ばかりだ……。 君に話した後に私も色々調べたが……、戸籍のない人間の死体の報告ない、だが生存すら確認出来ていない」



それは私も分かっている。 戸籍情報が無くても、いや逆に無い方が取り扱いとして記録に残されるはずだが、あの事件後一切のそんな報告もなければ、記録としても残ってはいなかった。



「君も分かっているだろう、あの日焼死体となったのは村人のみ。それ以外は何処かで生きていたはずだ。 それでも、そいつらは未だに見つからない。 ……これにはいくつかの可能性がある」


咲はそう言うと人差し指を立てながら、「まず1つ目」と言った。


「実際は既に餓死か何かで死んでいる、それを機関の人間が発見できていない。 2つ目は、共に逃げた買う側の人間にそのまま捕まえられ、外に存在を隠している。……そして、お前の言うように、あの子の中に聞こえる声の人間が犯人で、その奴隷たちを何処かへ連れて行った……、出来ればその3つ目の可能性は0であって欲しい」


「…………何故」


どれにしろ奴隷だった人間からしたら酷な人生だ。 死ぬか誰かの下で働かせる運命しかないのだから。


「……これは、そいつらが可哀想だから、なんて意味では無いぞ。 ……知り合いの元記者の男は言っていたさ、10人以上はいた、と」


「……ああ、だが何がそこまで……」



そう聞くと咲は仕方がないと諦めたような声で笑い出す。


「ふふふ……、前のH大学での化け物、今までとは例外で中に人が入っていた……お前も苦戦しただろう? あの子がいなければお前も今はここに居ないかもしれないなぁ……。 人を入れることで更に強さを増した、しかも元を辿れば生きていた頃には、妻と娘が居たらしい……、それをまんまと化け物に喰われたらしいぞ」




額に片手を当てて、天井を見るように上を見上げる。椅子からギィッと音が鳴る。



「……誰でも、化け物になれる訳じゃないと私は踏んでいる。……もしも、それに辛い過去や負の感情を持ち合わせた人間、なんてものだったら最悪だ。……………奴隷になっていたヤツらなんてそんな人間ばかりだろう。
……なぁ、朝霧。 どうする、もしも今、化け物を作り出す犯人が、大火事の犯人で、奴隷たちを引き連れてどこかへと隠れているとしたら……、何が起こるか、頭の良いお前なら容易に想像がつくだろ」



……化け物に人間が入っているケースはあの後にも一度もない。 きっとかなり稀なケースなんだ。 ……虹はあの化け物に取り込まれた声を聞いた、どうやら人を殺す目的ではなかったらしい。 でも、咲の言うようにあの中身の人間が、辛い過去の持ち主であるのは分かる。


……全て私たちが話しているのは可能性の話である。どれもこれも確証すらもない、勝手な妄想劇でしかない。


だが私たちは1番最悪な結末を考えて動かなければならない。
そう、1番今回の最悪な結末を。


「……奴隷だった人間、約10……いやもっと多くの人間が、化け物としてやってくる、可能性ってことか?」


咲は私の答えを聞いて、ゆっくり頷いた。


「……咲、虹は言ってたよ『あの日の悪人たちを懲らしめなきゃ』って声はそう言ったって……。この悪人たちがオークション会場にいた買う立場の人間なら……、狙いはそいつらだ」


「……………そうか、しかしその声の主とやらは面白いな。 わざわざ奴隷とされていた人間たちに、買う立場……つまり金持ちのクソみたいな人間に復讐させたがっているように思うな」



……もしも、あの大火事を起こしたのがこの声の子だったとして、あの日村人は知っていながら何も伝えなかった、それに対する罰として全員を殺したのかもしれない。

……だがそれ以上に悪とされる表では善人ぶった裏の顔はクソみたいなヤツらはその時は生かして、直接奴隷たちに手を下させる……。 これをしようとしている風にしか思えない。



「全て可能性の話で、たまたまあの村でいつかの日にいた悪人たちに復讐をしたがる全く関係のない話かもしれないがな」



「……ああ、そうだね。 でも、私たちは常に最悪な事態を想定して動かないと……。 上の奴らはポンコツだからね、結局H大学の時に4人しか隊員がいなかった。 ……まぁ、虹のこと信じてなかったんだろうけど……」



化け物1匹でも私と海未の2人がかりでも倒すことはほぼ不可能だった。 今回は守る人間はいない分好き勝手動けそうだが、化け物1匹殺すのに何人の隊員が必要だ? 
もっとも、前回と同レベルとも限らない。 向こうのことは私もよく分かってはいない。 化け物を作り出す研究所が見つからないのは………


恐らく、あの時現れた男……虹を何処かへ一度連れて行った。 その中にあるからずっと見つからない可能性が高い。



「……何十匹もこの間のような……それ以上の力を持った化け物が出たらどうする? お前と瀬良ですら倒せなかったんだろう? 攻撃部隊ツートップでそれなら他の奴らは、殺されるぞ」



「…………だけど、どうすることも出来ないよ。 だって、どう頑張ったとしても機関の攻撃部隊が全員ダメになれば、その後は街へと進出してくる、君も上層部も死ぬだろうな」


そう言うと咲はふふ…とまた不気味に笑い声をあげる。



「……全員ダメ……なぁ? どうせ、心にも思っていないだろ。 全員じゃない、お前が朝霧 奏斗がダメになれば、この世界はきっと壊れるに違いない。そうおもっているくせに」






…………ああ……そうだな。 どうせ、もう今は『俺』がいなければ誰も化け物を止めることは出来ない。誰も信用できない。 この世界を任せられる人間はいない。






だって、この世界の人間で1番強いのは『俺』なんだから。

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