対立していたはずの王子様に愛されたようで

永遠

文字の大きさ
12 / 43

12皮肉

しおりを挟む
12皮肉

ヴァラドルは俺とともに晩飯を食べ、ユリウスからの手紙を届けた後は、寝る頃になるまで1度も部屋に戻ってくることはなかった。
手紙を渡されてから、ヴァラドルの様子がおかしくも感じたが、気のせいだろうと思い特別、気にはしなかった。


ヴァラドルの言うように、暫く本を読んでから風呂に入り、誰が持って置いていったのか、脱衣所には着替えがあった。
匂いは新品であった。朝のこともあり、ヴァラドルの私服ではなくなったようだ。


大きな城でありながら、俺はまだヴァラドル以外の使用人、家族にさえ会ったことがない。この部屋のドアを開ければ、誰かしらには出会えると思うが連れ戻されてしまうのだろう。
……それでも、部屋にいる俺の元に使用人が来る様子はなく、用事は全てヴァラドルが俺の元に来てやっていく。
……他のαに俺を喰われたくなくてそうしているのか、はたまたただの独占欲……。自惚れだろうか、ヴァラドルの「俺自身が欲しい」という言葉に未だに絆されているのかもしれない。


風呂から上がると微かに自分もヴァラドルに近い匂いがした。彼個人の匂いではなく、恐らくシャンプーか何かが同じだからだろう。
濡れた髪の毛を乾かしていると、その匂いが舞う気がする。




ユリウスからの手紙には、「ヴァラドル=マルシャールに変なことはされていないか、身体は平気か……」と心配するユリウスの顔が浮かぶ言葉が、並べられていた。
弟に心配される兄はどうなんだ、と自己嫌悪に陥りそうになる。

変なこと……、されたと言えばされたのだろうか、何度か顔や頭を触られ、キスをする。しかし、乱暴な扱いではなかった。慰めることに少々無理やり俺のを触ったが、静止を泣きながら促せばしっかりと止めてくれた。
声も優しく、何処かその声で落ち着いている自分もいた。


発情した俺を前にヴァラドル自身も平然では居られないはずなのに、それがαとΩの関係性であるはずなのに……、彼が俺を無理やり犯す行為をする素振りがなかった。


……弟に手紙を書きたいと言えば、ダメと言われるだろうか。普通ならそんな話を聞いてくれるはずもない。敵対する家の主に金まで払って、俺を手に入れる理由が自分に好意を抱くからと言われてもにわかに信じ難い。

祭典などで1度でも顔を合わせているならともかく、俺は1度だってそんな社交場に赴いたことはない。許されなかった。


寝る前に1錠、ヴァラドルから貰った抑制剤を飲んだ。
ベッドに潜り込む。


……きっとヴァラドルは手紙を返したいと言えば、紙とペンを俺に差し出すだろう、なんてアイツの優しさを分かったような風に思う自分に腹が立った。





その後、すっかりベッドに丸くなり籠っていたせいか知らない間に眠っていたようだ。次目を覚ましたのは、朝方だった。隣にヴァラドルの姿はなく、それでも隣の掛け布団が少しめくれていたことから、1度はベッドの中に入ったらしい。


何故、わざわざこの部屋で、俺の隣で寝るのかは分からない。仕事で疲れているのなら、自室で1人眠る方が良いのでは無いか、と思いながら眠たい身体を起こす。


タイミングを見計らったかのようにヴァラドルが部屋に入ってきた。


「朝食だ、これを食べて少ししたら出るぞ」


昨日言っていたように知り合いの医者のもとへ行くということだろう。俺は「分かった」と短く返事をした。

スリっとヴァラドルが最初にくれた質の良い布地で作られた、首輪と言われたΩ用のチョーカー。
外に出れば嫌というほどαやβがいるだろう。今まで、外に出ることもなかったため、恐れることもなかったが、やはり皆Ωの身体を狙うのだろうか、と考えると身体が震える。


「……そのチョーカーでは少し、危険だな。 取り外しが出来ないやつを持ってこよう」


俺の顔か手の動作か、それから俺の心を読み取ったようにヴァラドルはそう言った。


「……外に出るとなれば、本物の首輪でもつけるかと思ったが」


「はっ、そんなことはしない」


昨夜のように手を止めることなく、俺の髪の毛をまた前のように撫でる。撫でられることに嫌な感じはしない。人に触れられるのは慣れていないが、もとより他人と接してみたかったのかもしれないな。その相手が敵対する家のコイツであるとは思わなかったが……。


「……それに心配せずとも、移動は馬車だ。大衆の賑わう街を歩く訳では無い。それに、医者は番持ちのαだ。お前に欲情することもない」



「……っそうか」


他のαに狙われないように配慮された移動方法。狙われるとヴァラドルにも面倒がかかるから……だけではないだろうな。
俺の安全を考慮しているのだろう、とこの3日一緒にいるだけで、この男の優しい考えが分かってしまう。馬車を使うのに、番持ちのαの医者であるのに、わざわざチョーカーを変えるくらいなんだから。





「……嫌な程、快適な馬車なことだな」


「……フッ、褒め言葉か嫌味か?」



朝食後、また1錠と抑制剤を飲んだ。ヴァラドルと2人、馬車に揺られる。
ヴァラドルは、城内ではだらしなく垂れていた長い髪の毛の前を上にあげ、ワックスか何か固めているのか、真ん中で分けつつ横髪は垂らし、他は結ぶ。


馬車の窓越しに見える外が綺麗だ。いつもは城の窓から同じ風景しか見ていなかったから、動き変わる街並みが珍しく感じる。


「……これが外か。初めて見る街が隣国の街とはな」


揺られつつ少し悲しくなる。家族は外に出してはくれない、対立していた隣国の王子が初めて俺を外に連れ出してくれた。


……皮肉なものだ。俺は対立する、嫌いなα相手に感謝しているのだ。



「……クロウス、着いたぞ。ここだ」


そこには、小さな一軒家のような場所だった。そこに、ヴァラドルの知り合いの医者がいるようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...