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12皮肉
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12皮肉
ヴァラドルは俺とともに晩飯を食べ、ユリウスからの手紙を届けた後は、寝る頃になるまで1度も部屋に戻ってくることはなかった。
手紙を渡されてから、ヴァラドルの様子がおかしくも感じたが、気のせいだろうと思い特別、気にはしなかった。
ヴァラドルの言うように、暫く本を読んでから風呂に入り、誰が持って置いていったのか、脱衣所には着替えがあった。
匂いは新品であった。朝のこともあり、ヴァラドルの私服ではなくなったようだ。
大きな城でありながら、俺はまだヴァラドル以外の使用人、家族にさえ会ったことがない。この部屋のドアを開ければ、誰かしらには出会えると思うが連れ戻されてしまうのだろう。
……それでも、部屋にいる俺の元に使用人が来る様子はなく、用事は全てヴァラドルが俺の元に来てやっていく。
……他のαに俺を喰われたくなくてそうしているのか、はたまたただの独占欲……。自惚れだろうか、ヴァラドルの「俺自身が欲しい」という言葉に未だに絆されているのかもしれない。
風呂から上がると微かに自分もヴァラドルに近い匂いがした。彼個人の匂いではなく、恐らくシャンプーか何かが同じだからだろう。
濡れた髪の毛を乾かしていると、その匂いが舞う気がする。
ユリウスからの手紙には、「ヴァラドル=マルシャールに変なことはされていないか、身体は平気か……」と心配するユリウスの顔が浮かぶ言葉が、並べられていた。
弟に心配される兄はどうなんだ、と自己嫌悪に陥りそうになる。
変なこと……、されたと言えばされたのだろうか、何度か顔や頭を触られ、キスをする。しかし、乱暴な扱いではなかった。慰めることに少々無理やり俺のを触ったが、静止を泣きながら促せばしっかりと止めてくれた。
声も優しく、何処かその声で落ち着いている自分もいた。
発情した俺を前にヴァラドル自身も平然では居られないはずなのに、それがαとΩの関係性であるはずなのに……、彼が俺を無理やり犯す行為をする素振りがなかった。
……弟に手紙を書きたいと言えば、ダメと言われるだろうか。普通ならそんな話を聞いてくれるはずもない。敵対する家の主に金まで払って、俺を手に入れる理由が自分に好意を抱くからと言われてもにわかに信じ難い。
祭典などで1度でも顔を合わせているならともかく、俺は1度だってそんな社交場に赴いたことはない。許されなかった。
寝る前に1錠、ヴァラドルから貰った抑制剤を飲んだ。
ベッドに潜り込む。
……きっとヴァラドルは手紙を返したいと言えば、紙とペンを俺に差し出すだろう、なんてアイツの優しさを分かったような風に思う自分に腹が立った。
その後、すっかりベッドに丸くなり籠っていたせいか知らない間に眠っていたようだ。次目を覚ましたのは、朝方だった。隣にヴァラドルの姿はなく、それでも隣の掛け布団が少しめくれていたことから、1度はベッドの中に入ったらしい。
何故、わざわざこの部屋で、俺の隣で寝るのかは分からない。仕事で疲れているのなら、自室で1人眠る方が良いのでは無いか、と思いながら眠たい身体を起こす。
タイミングを見計らったかのようにヴァラドルが部屋に入ってきた。
「朝食だ、これを食べて少ししたら出るぞ」
昨日言っていたように知り合いの医者のもとへ行くということだろう。俺は「分かった」と短く返事をした。
スリっとヴァラドルが最初にくれた質の良い布地で作られた、首輪と言われたΩ用のチョーカー。
外に出れば嫌というほどαやβがいるだろう。今まで、外に出ることもなかったため、恐れることもなかったが、やはり皆Ωの身体を狙うのだろうか、と考えると身体が震える。
「……そのチョーカーでは少し、危険だな。 取り外しが出来ないやつを持ってこよう」
俺の顔か手の動作か、それから俺の心を読み取ったようにヴァラドルはそう言った。
「……外に出るとなれば、本物の首輪でもつけるかと思ったが」
「はっ、そんなことはしない」
昨夜のように手を止めることなく、俺の髪の毛をまた前のように撫でる。撫でられることに嫌な感じはしない。人に触れられるのは慣れていないが、もとより他人と接してみたかったのかもしれないな。その相手が敵対する家のコイツであるとは思わなかったが……。
「……それに心配せずとも、移動は馬車だ。大衆の賑わう街を歩く訳では無い。それに、医者は番持ちのαだ。お前に欲情することもない」
「……っそうか」
他のαに狙われないように配慮された移動方法。狙われるとヴァラドルにも面倒がかかるから……だけではないだろうな。
俺の安全を考慮しているのだろう、とこの3日一緒にいるだけで、この男の優しい考えが分かってしまう。馬車を使うのに、番持ちのαの医者であるのに、わざわざチョーカーを変えるくらいなんだから。
「……嫌な程、快適な馬車なことだな」
「……フッ、褒め言葉か嫌味か?」
朝食後、また1錠と抑制剤を飲んだ。ヴァラドルと2人、馬車に揺られる。
ヴァラドルは、城内ではだらしなく垂れていた長い髪の毛の前を上にあげ、ワックスか何か固めているのか、真ん中で分けつつ横髪は垂らし、他は結ぶ。
馬車の窓越しに見える外が綺麗だ。いつもは城の窓から同じ風景しか見ていなかったから、動き変わる街並みが珍しく感じる。
「……これが外か。初めて見る街が隣国の街とはな」
揺られつつ少し悲しくなる。家族は外に出してはくれない、対立していた隣国の王子が初めて俺を外に連れ出してくれた。
……皮肉なものだ。俺は対立する、嫌いなα相手に感謝しているのだ。
「……クロウス、着いたぞ。ここだ」
そこには、小さな一軒家のような場所だった。そこに、ヴァラドルの知り合いの医者がいるようだ。
ヴァラドルは俺とともに晩飯を食べ、ユリウスからの手紙を届けた後は、寝る頃になるまで1度も部屋に戻ってくることはなかった。
手紙を渡されてから、ヴァラドルの様子がおかしくも感じたが、気のせいだろうと思い特別、気にはしなかった。
ヴァラドルの言うように、暫く本を読んでから風呂に入り、誰が持って置いていったのか、脱衣所には着替えがあった。
匂いは新品であった。朝のこともあり、ヴァラドルの私服ではなくなったようだ。
大きな城でありながら、俺はまだヴァラドル以外の使用人、家族にさえ会ったことがない。この部屋のドアを開ければ、誰かしらには出会えると思うが連れ戻されてしまうのだろう。
……それでも、部屋にいる俺の元に使用人が来る様子はなく、用事は全てヴァラドルが俺の元に来てやっていく。
……他のαに俺を喰われたくなくてそうしているのか、はたまたただの独占欲……。自惚れだろうか、ヴァラドルの「俺自身が欲しい」という言葉に未だに絆されているのかもしれない。
風呂から上がると微かに自分もヴァラドルに近い匂いがした。彼個人の匂いではなく、恐らくシャンプーか何かが同じだからだろう。
濡れた髪の毛を乾かしていると、その匂いが舞う気がする。
ユリウスからの手紙には、「ヴァラドル=マルシャールに変なことはされていないか、身体は平気か……」と心配するユリウスの顔が浮かぶ言葉が、並べられていた。
弟に心配される兄はどうなんだ、と自己嫌悪に陥りそうになる。
変なこと……、されたと言えばされたのだろうか、何度か顔や頭を触られ、キスをする。しかし、乱暴な扱いではなかった。慰めることに少々無理やり俺のを触ったが、静止を泣きながら促せばしっかりと止めてくれた。
声も優しく、何処かその声で落ち着いている自分もいた。
発情した俺を前にヴァラドル自身も平然では居られないはずなのに、それがαとΩの関係性であるはずなのに……、彼が俺を無理やり犯す行為をする素振りがなかった。
……弟に手紙を書きたいと言えば、ダメと言われるだろうか。普通ならそんな話を聞いてくれるはずもない。敵対する家の主に金まで払って、俺を手に入れる理由が自分に好意を抱くからと言われてもにわかに信じ難い。
祭典などで1度でも顔を合わせているならともかく、俺は1度だってそんな社交場に赴いたことはない。許されなかった。
寝る前に1錠、ヴァラドルから貰った抑制剤を飲んだ。
ベッドに潜り込む。
……きっとヴァラドルは手紙を返したいと言えば、紙とペンを俺に差し出すだろう、なんてアイツの優しさを分かったような風に思う自分に腹が立った。
その後、すっかりベッドに丸くなり籠っていたせいか知らない間に眠っていたようだ。次目を覚ましたのは、朝方だった。隣にヴァラドルの姿はなく、それでも隣の掛け布団が少しめくれていたことから、1度はベッドの中に入ったらしい。
何故、わざわざこの部屋で、俺の隣で寝るのかは分からない。仕事で疲れているのなら、自室で1人眠る方が良いのでは無いか、と思いながら眠たい身体を起こす。
タイミングを見計らったかのようにヴァラドルが部屋に入ってきた。
「朝食だ、これを食べて少ししたら出るぞ」
昨日言っていたように知り合いの医者のもとへ行くということだろう。俺は「分かった」と短く返事をした。
スリっとヴァラドルが最初にくれた質の良い布地で作られた、首輪と言われたΩ用のチョーカー。
外に出れば嫌というほどαやβがいるだろう。今まで、外に出ることもなかったため、恐れることもなかったが、やはり皆Ωの身体を狙うのだろうか、と考えると身体が震える。
「……そのチョーカーでは少し、危険だな。 取り外しが出来ないやつを持ってこよう」
俺の顔か手の動作か、それから俺の心を読み取ったようにヴァラドルはそう言った。
「……外に出るとなれば、本物の首輪でもつけるかと思ったが」
「はっ、そんなことはしない」
昨夜のように手を止めることなく、俺の髪の毛をまた前のように撫でる。撫でられることに嫌な感じはしない。人に触れられるのは慣れていないが、もとより他人と接してみたかったのかもしれないな。その相手が敵対する家のコイツであるとは思わなかったが……。
「……それに心配せずとも、移動は馬車だ。大衆の賑わう街を歩く訳では無い。それに、医者は番持ちのαだ。お前に欲情することもない」
「……っそうか」
他のαに狙われないように配慮された移動方法。狙われるとヴァラドルにも面倒がかかるから……だけではないだろうな。
俺の安全を考慮しているのだろう、とこの3日一緒にいるだけで、この男の優しい考えが分かってしまう。馬車を使うのに、番持ちのαの医者であるのに、わざわざチョーカーを変えるくらいなんだから。
「……嫌な程、快適な馬車なことだな」
「……フッ、褒め言葉か嫌味か?」
朝食後、また1錠と抑制剤を飲んだ。ヴァラドルと2人、馬車に揺られる。
ヴァラドルは、城内ではだらしなく垂れていた長い髪の毛の前を上にあげ、ワックスか何か固めているのか、真ん中で分けつつ横髪は垂らし、他は結ぶ。
馬車の窓越しに見える外が綺麗だ。いつもは城の窓から同じ風景しか見ていなかったから、動き変わる街並みが珍しく感じる。
「……これが外か。初めて見る街が隣国の街とはな」
揺られつつ少し悲しくなる。家族は外に出してはくれない、対立していた隣国の王子が初めて俺を外に連れ出してくれた。
……皮肉なものだ。俺は対立する、嫌いなα相手に感謝しているのだ。
「……クロウス、着いたぞ。ここだ」
そこには、小さな一軒家のような場所だった。そこに、ヴァラドルの知り合いの医者がいるようだ。
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