対立していたはずの王子様に愛されたようで

永遠

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24ユリウス=ジェイラード

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24ユリウス=ジェイラード

ユリウス=ジェイラードは、ジェイラード家次男、そしてαと判断された男だった。
1つ上の兄が本当に好きだった。父や母に何と言われようと、自分と兄が離れることはないと思っていた。


兄、クロウス=ジェイラードは、ジェイラード家長男であった。父の跡継ぎはほとんどが長男であり、ユリウスもそうなると数年前まで思っていたが、成長するにつれ、それは次男である自分が継ぐものだと理解した。
兄はΩだった。世間からよく虐げられる存在にあり、父や母はそんな兄を毛嫌いし、家の中に閉じ込めた。






そして僕、ユリウス=ジェイラードは、実の兄が大好きで……




父と母が大嫌いだった。



Ωは才能がないだの、低脳だのと父はよく言っていた。それを子供の自分たちに言い聞かせていた。兄も同じようにそれを聞いては泣きそうな顔をするのを横で見ていた。


だが、僕はそんなことを語るαの父の方が低脳だと思うようになっていた。
兄はΩだった。そう診断された。僕はαだった。そう診断された。



ーーーーーーだから、何だ。


確かに僕の方が頭の働き方は良かったかもしれない。身体能力も長けていたかもしれない。
だが、Ωだからと言って兄に何も授けなかったのに、どうして兄を出来損ないだと言うんだ。馬鹿らしくて吐きそうになることが何度もあった。



Ωだから、周囲にフェロモンを巻き散らすから犯されて当然だとか……、そんなことを言うαの知り合いもいた。
でも、僕の実兄であり、誰よりも優しい人だった。Ωだったとしても、何か人より劣っている部分があるようには思えなかった。


実の息子をちゃんと見ずに、バースで差別する父、それに頷くことしか出来ない母……、兄より劣っているように見えた。




それを意識し始めたのは12か13の頃だった。しかし、父や母に盾をつく気もなかった。どうせ、次に継ぐのが僕だとしても、王の座が貰えるなら兄を一人の家族として、王家の人間として歓迎するつもりだった。父や母は、先にいなくなる。反論されても跡継ぎである僕に盾をつくことを許さなければ良いだけだ。


……そんな未来を思い描き、隣に兄がいなくても、壁の一つ向こうにいても耐えて、耐えて………ずっと、耐えてきた。



なのに、変な男が突然玄関の扉を叩いた。
嫌な予感はしたんだ。知らない、身なりの良い大きな男。容姿もよくて、噂に聞いた隣国の王家の息子のある名前が思い出された。
気のせいだ、ただ父と話があって来ただけだ、と自分を落ち着かせようとしていた。


そしたら、後ろから父と……いつも一緒にいることの無い兄が、一緒に来たのだ。


やめろ、違う、そんなわけない。だって、僕は……この家に兄の居場所を、作るって……約束したんだ!!



「……クロウス」


兄と父が近寄るなか、僕の傍に立つ男が確かにそう言った。そう言って、微笑んだ……まるで、恋人でも見るかのような顔で。
僕は叫び出しそうだった。奪うな、僕の、僕の………



俺の兄さんを奪うな!!


兄の両腕を掴み、問いかけた。だって、約束したんだ、約束を破るわけない、こんなに優しい兄さんが……。


「ごめんな、約束、守れそうにない。」



泣きそうな笑顔でそう言う兄、そして男に引っ張られ、僕は押し返され離れ離れになった。その瞬間、男と目が合い、睨みつけた。
兄は顔が赤くなり、男の胸元に身体を預けているような形だった。



……αとかΩとか関係ない。僕が好きなのは、俺が好きなのは……………兄さんだ。クロウス=ジェイラードだ。


それを邪魔する父も母も……



ヴァラドル=マルシャールも、大嫌いだ。


兄が男に抱きかかえられて、あの男の馬車に乗り込んだ。顔が赤くなり、息を荒らげ、既に意識は無いようだった。
そんな兄を前に、獣のように襲わないだけマシなαではあると思ったが、本当は殺してやりたかった。そして、兄を奪い返したかった。


玄関前に取り残され、シンと静まり返る。追いかけようとする僕を使用人数人が抑えるようにして、玄関の扉を閉めた。


「……ユリウス様、落ち着いて下さい」


使用人の1人がそう言った。父も母もさっさと家の中に入っていく。


……ああ、そうか、この家に兄の味方は、俺しか……いないのか。


「ようやく、アレを娶るようなおかしな奴が出てきたのか。これで、お荷物がいなくなったものだ」


陽気に笑う父、それに合わせるように頷き笑う母……。
2人は並んで家の奥へと入っていく。最後まではははっと笑う2人の声が耳から抜けない。


「……ユリウス様、大丈夫ですか……」


俺はその場にへたりと玄関で座り込み、床を見つめる。使用人が手を貸そうと差し出してきた。それを強い力で払った。


兄がいないんじゃ、猫を被っていても意味が無い。可愛い可愛い弟を演じても、笑ってくれる兄はもう、この家にはいない。


「……落ち着け、大丈夫か?……実の兄が、連れていかれたんだぞ?」


人前ではなかなか出すことのなかった低い声で、ボソリと喋る。手を払い除けた使用人は驚きながら、払い赤く跡になったところと俺を交互に見ている。



「…………他人のアンタらに何が分かんだよ」



そう言って俺は使用人には目もくれず、奥に行き、自分の部屋に入り強くドアを閉める。

後ろで見ていた使用人が数人コソコソと話をしていたようだ。
そりゃ、いつも良い子振っていた奴からあんなに強く手を払われ、あんな言葉が出るとは思わないだろう。


全部、全部……兄のためだ。兄には知られないように、家の中の全員に同じように接していた。
もうこんな疲れることをしていても意味が無い。使用人や両親に褒められようが、可愛がられようが気持ち悪いだけだ。兄だ、クロウス=ジェイラードに褒められて、可愛がらなきゃ意味が無い!


自室に飾った使用人に無理を言って撮ってもらった兄との写真。それは宝物だ。写真立てに入れて机に飾ってある。父や母にバレないように部屋に来た時は棚に仕舞う。
その写真立てを両手でそっと持ち上げ、顔の近くに寄せる。





「……必ず、兄さんを取り返すから」

写真の向こうにいる兄さんにそう言うように呟く。



ヴァラドル=マルシャール、俺と兄を引き剥がした男。絶対に許さない、何があっても兄を奪い返してやる。
そう思い、俺は写真立てをカタンと机の上に戻した。
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