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32落ち着く匂い
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32落ち着く匂い
目の前に置かれた箱、蓋は閉じてある。ハーヴァがニコニコとしながら部屋に戻ってきては、額の冷却シートを替えていた俺のもとに箱を差し出した。
「……これは……?」
ハーヴァの持ってくるものだ。嫌な予感はしている。恐る恐る中身について聞くと、ハーヴァは相変わらずのベラベラ顔で「見ていいよ」なんて言ってくる。
被さっている蓋を少しだけ開き、覗き込むとそこには、やはりと思わせるものが入っていた。
「……おい、何の真似だ」
「んー? だって、昨日言ってたでしょー、『もっとぉ奥』って」
ニヤニヤしながら差し出してきたのは、例の玩具と言われるものの類……しかも、かなりの量だった。
「……っそ、そんなこと言ってない!」
バレバレな嘘であるし、実際に聞こえていたらしいので隠す必要もないのだが、あまりの恥ずかしさに咄嗟に隠そうとしてしまった。
ハーヴァは「言ってたよぉ~」なんて少し馬鹿にする言い方をしてくるから余計に腹が立つ。
「……まぁ、おふざけはこの辺にして。 ここからは真面目な話だよ」
ヘラヘラ顔は変わっていないが、そう言う声が真剣だったので、1度黙る。
「違法ドラッグを急に止めたんだ。 ドラッグについてはまだ詳しいことが分かりそうにない。 けど、副作用もそうだけど普通の抑制剤すら今は使えていない。 そんな中での発情期だ、これまでよりも辛くなることは必然だよ。 番がいないクロウス君にとってそれを耐えれるかどうかも怪しい。 昨日のことを考えて発情期前であの状態なら、こーゆうのに頼るのも必要だと思うよ。 まぁ、嫌なら使わなければ良いだけだよ」
違法ドラッグの効果による副作用については、まだ詳しくは分からないと言う。医者モードになったハーヴァに逆らうことは出来ず、渋々と箱を受け取る。
「あと、体調に異常があれば、俺かメイにすぐ言うこと。 過去に見ない薬だから、何かあったときの対処はすぐしなければならない」
「……分かった」
俺は頷き、ベッドに受け取った箱をそのまま置く。
黙って言うことを聞く俺にハーヴァは安心したようで、ホッと息を吐く。すると、ドアのノック音が聞こえ、続けて「入るぞ」と、メイリーの声が聞こえた。
「……ハーヴァ、持ってきたがこれは……」
「! ああ! クロウス君これもプレゼントだよ! いやぁ、仕事が早いなぁ」
俺はなんだと思いながら、メイリーの持ってきたどデカいダンボール箱に1歩近寄った。その瞬間に、心臓がドクンドクンと早くなる。 気持ち悪くなりそうなくらい動悸が早いし、大きい。
「……っはぁ、そ、それぇ……」
「やっぱり限界に近いみたいだね。 前はヴァラドル本人の近くにいても、そんな状態にはならなかった。 きっともう発情期が始まりつつある。 昨日ヴァラドルに『お前の衣類、何着か送って』って伝えたんだよ。 何に使うかは言わなかったけど、察しはついただろうね」
ふわりと香るαの匂い、濃くてよく知っている匂い。 身体が熱い、脳みそが溶ける。 クラクラと視界が歪む。
「……暫くこの部屋には俺たちも立ち入らない。 どうしてもって時は、ベッド横の緊急用のボタンを押して。 飲み物の摂取も忘れないようにね、さ、メイ。 行こうか、一人にさせてあげよう」
そう言ってハーヴァは気を利かせたのか、身体が言うことを効かなくなってきた立っているのも辛い俺を残して、メイリーと共に部屋を出て行った。
床に置かれた閉じられたダンボールにゆっくりと手を伸ばし、開くと先程よりも強く匂いが湧き出るようだった。
「…っん……」
一枚の白いワイシャツを手に取り、胸元に寄せる。ギュッと抱きしめるようにすると、まるでヴァラドルが近くにいるような感覚になる。
ダンボールの中身を一気に出し、全て抱えるようにしてそのままベッドに飛び込む。
何にも考えられない、ただひたすらヴァラドルの匂いに縋り付くしかできなかった。
一人になり、理性がほとんどなくなった俺はヴァラドルの衣類に顔を埋めスンスンと匂いを嗅ぐ。
「…ヴァラ、ドルゥ……」
そう呟きながら、本体がないことを忘れて数枚のヴァラドルの衣類でベッドを埋めつくす。
信じたくは無いが、やはり俺はαの匂いではない……、ヴァラドルの匂いが好きなのだと、あの男の匂いでしか自分を落ち着かせることはできないのだと、理性もない頭で考えてしまった。
発情期は嫌いだ、大嫌いだ。 ただただ、悲しい、虚しい時間を我を忘れて欲を果たさなければならない時間が続き、それをしなければ自分が辛いだけだ。
誰も助けてはくれなかった、終わるまで他人と会うこともなかった。 一人でどうにかしろと皆言うのだ。
……番がいれば、何か変わるのか? でも、その番に………アイツに捨てられたら俺はどう生きる? 発情期が来ないという未来は無い。 番に捨てられたΩの未来なんて、想像したくもない。
……でも捨てられる以上に、相手が要らないと思っているのに同情で捨てられないというのはもっと嫌だ。
きっと、アイツならそうする。俺がされたくないことをする……。 だが、それがアイツなりの優しさであり、俺もそれは分かるはずだ。
だから、俺は番えない。 ヴァラドルとは番になりたいとは思えないのだ。
目の前に置かれた箱、蓋は閉じてある。ハーヴァがニコニコとしながら部屋に戻ってきては、額の冷却シートを替えていた俺のもとに箱を差し出した。
「……これは……?」
ハーヴァの持ってくるものだ。嫌な予感はしている。恐る恐る中身について聞くと、ハーヴァは相変わらずのベラベラ顔で「見ていいよ」なんて言ってくる。
被さっている蓋を少しだけ開き、覗き込むとそこには、やはりと思わせるものが入っていた。
「……おい、何の真似だ」
「んー? だって、昨日言ってたでしょー、『もっとぉ奥』って」
ニヤニヤしながら差し出してきたのは、例の玩具と言われるものの類……しかも、かなりの量だった。
「……っそ、そんなこと言ってない!」
バレバレな嘘であるし、実際に聞こえていたらしいので隠す必要もないのだが、あまりの恥ずかしさに咄嗟に隠そうとしてしまった。
ハーヴァは「言ってたよぉ~」なんて少し馬鹿にする言い方をしてくるから余計に腹が立つ。
「……まぁ、おふざけはこの辺にして。 ここからは真面目な話だよ」
ヘラヘラ顔は変わっていないが、そう言う声が真剣だったので、1度黙る。
「違法ドラッグを急に止めたんだ。 ドラッグについてはまだ詳しいことが分かりそうにない。 けど、副作用もそうだけど普通の抑制剤すら今は使えていない。 そんな中での発情期だ、これまでよりも辛くなることは必然だよ。 番がいないクロウス君にとってそれを耐えれるかどうかも怪しい。 昨日のことを考えて発情期前であの状態なら、こーゆうのに頼るのも必要だと思うよ。 まぁ、嫌なら使わなければ良いだけだよ」
違法ドラッグの効果による副作用については、まだ詳しくは分からないと言う。医者モードになったハーヴァに逆らうことは出来ず、渋々と箱を受け取る。
「あと、体調に異常があれば、俺かメイにすぐ言うこと。 過去に見ない薬だから、何かあったときの対処はすぐしなければならない」
「……分かった」
俺は頷き、ベッドに受け取った箱をそのまま置く。
黙って言うことを聞く俺にハーヴァは安心したようで、ホッと息を吐く。すると、ドアのノック音が聞こえ、続けて「入るぞ」と、メイリーの声が聞こえた。
「……ハーヴァ、持ってきたがこれは……」
「! ああ! クロウス君これもプレゼントだよ! いやぁ、仕事が早いなぁ」
俺はなんだと思いながら、メイリーの持ってきたどデカいダンボール箱に1歩近寄った。その瞬間に、心臓がドクンドクンと早くなる。 気持ち悪くなりそうなくらい動悸が早いし、大きい。
「……っはぁ、そ、それぇ……」
「やっぱり限界に近いみたいだね。 前はヴァラドル本人の近くにいても、そんな状態にはならなかった。 きっともう発情期が始まりつつある。 昨日ヴァラドルに『お前の衣類、何着か送って』って伝えたんだよ。 何に使うかは言わなかったけど、察しはついただろうね」
ふわりと香るαの匂い、濃くてよく知っている匂い。 身体が熱い、脳みそが溶ける。 クラクラと視界が歪む。
「……暫くこの部屋には俺たちも立ち入らない。 どうしてもって時は、ベッド横の緊急用のボタンを押して。 飲み物の摂取も忘れないようにね、さ、メイ。 行こうか、一人にさせてあげよう」
そう言ってハーヴァは気を利かせたのか、身体が言うことを効かなくなってきた立っているのも辛い俺を残して、メイリーと共に部屋を出て行った。
床に置かれた閉じられたダンボールにゆっくりと手を伸ばし、開くと先程よりも強く匂いが湧き出るようだった。
「…っん……」
一枚の白いワイシャツを手に取り、胸元に寄せる。ギュッと抱きしめるようにすると、まるでヴァラドルが近くにいるような感覚になる。
ダンボールの中身を一気に出し、全て抱えるようにしてそのままベッドに飛び込む。
何にも考えられない、ただひたすらヴァラドルの匂いに縋り付くしかできなかった。
一人になり、理性がほとんどなくなった俺はヴァラドルの衣類に顔を埋めスンスンと匂いを嗅ぐ。
「…ヴァラ、ドルゥ……」
そう呟きながら、本体がないことを忘れて数枚のヴァラドルの衣類でベッドを埋めつくす。
信じたくは無いが、やはり俺はαの匂いではない……、ヴァラドルの匂いが好きなのだと、あの男の匂いでしか自分を落ち着かせることはできないのだと、理性もない頭で考えてしまった。
発情期は嫌いだ、大嫌いだ。 ただただ、悲しい、虚しい時間を我を忘れて欲を果たさなければならない時間が続き、それをしなければ自分が辛いだけだ。
誰も助けてはくれなかった、終わるまで他人と会うこともなかった。 一人でどうにかしろと皆言うのだ。
……番がいれば、何か変わるのか? でも、その番に………アイツに捨てられたら俺はどう生きる? 発情期が来ないという未来は無い。 番に捨てられたΩの未来なんて、想像したくもない。
……でも捨てられる以上に、相手が要らないと思っているのに同情で捨てられないというのはもっと嫌だ。
きっと、アイツならそうする。俺がされたくないことをする……。 だが、それがアイツなりの優しさであり、俺もそれは分かるはずだ。
だから、俺は番えない。 ヴァラドルとは番になりたいとは思えないのだ。
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