対立していたはずの王子様に愛されたようで

永遠

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ハーヴァのもとにクロウスを預けて城に戻ると、クロウスの良い匂いが薄れていて、なんだか寂しく感じる。
Ω特有のフェロモンに加え、クロウス独特の匂いが混じった俺の心臓を騒ぎ立てる匂い。


「ヴァラドル様、お戻りになられましたか」


使用人の1人が玄関先まで俺を迎えに来た。 戻っだからと言って全員に出迎えられるのは御免だと使用人に言い、特に用がなければ俺が帰ってきたからと言って出向く必要はないと言ってある。
それなのに使用人が出迎えた…仕事か、と思う。


クロウスが来る前までは普通のことだったが、クロウスが来てからというものクロウスと少しでも離れがたかった俺は、外へ出ることもそう無かった。
部屋に持ち込まれる仕事をこなす事が当たり前になり、終えるとクロウスのもとに行く、それが何よりも幸せだった。


「ああ、なんだ」


「……そ、それが来客が……」



客? 誰か来る予定も無ければ現在、対談をするような人間もいないはずだ。使用人は何故か少し、戸惑うようにして、口を開く。



「……ジ、ジェイラード家の者が……」


コソッと耳元でそう言った。俺はすぐにジェイラード家の者と言われ、父の方ではなくユリウス=ジェイラードだということが分かった。

いずれ来るとは思っていたが、ここまで早いとは思わなかった……。 いや、ユリウス=ジェイラードからしたら、遅い方なのかもしれない。 もっと、早くに来たかっただろう。 しかし、そんなすぐに行動を起こせば、父や母に勘づかれてもおかしくはない。それなりに見計らってやっと、隣国まで馬車でも走らせたか。



「……入れるか迷ったのですが……、先日交渉したこともあるので……」


「……ああ、客室に通しているか」



使用人がたどたどしいのも頷ける。対立関係にあるはずの隣国の王家の人間を招いて何かされれば一大事だが、交渉を成立させたが故に入れないというのも交渉を破断する可能性もあると思ったのだろう。

……いや、入れても入れなくてもあの弟なら破断を申し出るだろうな。
俺は少し似たところがあるクロウスの弟に対して笑みが溢れた。




閉められた客室のドア、その前には2人の男の使用人。何かあった際に対処できるようにと置いておいたのだろう。 当然の考えだな。
俺は2人にもういいぞ、元の仕事に戻れと合図すると2人は、少し狼狽えつつもその場を去っていった。



「……さて」


客室のドアをノックし、ドアノブを回して開くとソファが2つ、ローテーブルを挟んで置いてある。その片方に綺麗な少し可愛らしい顔をした男、そのソファの後ろに背の高い男が静かに立っていた。
ドアを開いたと同時に、ユリウス=ジェイラードと思われる男と目が合う。ジェイラード家を訪れた時はかなり女らしさの強い行動が目立っていたが、そこにいるのは高貴なαらしい男だった。


「……連絡もなく来るとは……、ユリウス=ジェイラードだな」


「………………兄さんは、兄さんはどこだ」


返事もなく、本題に入るユリウスに「くくっ」と笑い声が出る。それに気づき、ユリウスは俺を睨みつけた。


「ああ……この時期に来たのは、アイツが発情期に近いと気づいてのことか」


「……兄さんの匂いがかなり薄い。 どこかに閉じ込めたのか」



やはり、俺の予想は当たっていたみたいだ。 あの可愛らしい弟が本性ではない、これだ。 このクロウスのみを求めてきた俺と同じαの男だ。



「……何処に、言ってどうする? 交渉は成立だったはずだ。 君のことだから連れて帰ろうとするとは思っていた」



「……金は返す、だから兄さんを返せ」



ユリウス=ジェイラードは頭の良い男だと思っていたが、兄さんを返せの一点張り。 いや、頭が良くても兄のことが気になりすぎて、正常な判断もできないのか。


「……俺はα、クロウスはΩだぞ。 連れてきて何日が経った? 既に番だとしてもおかしくはない。 それを引き離すのは、クロウスにとっても苦だぞ」


そう言うと座っていたユリウスは立ち上がり、ドアの近くで立っていた俺にズンズンと近づいてくる。そして、俺よりも小さいくせに胸ぐらをグッと掴み、下に寄せて俺に下を向かせる。



「……番になったのか? 俺の兄さんと。 だったら解消すれば良い、それだけだ」



目が見開いてそう言うユリウスに可愛らしいも何も無い。後ろからゆっくりと付き人が歩いて来て、ユリウスの肩を掴んで俺から離す。


「俺にお前の言う通りにして何になる、俺は金は要らない。 クロウスが欲しいだけだ」



「お前なんかにやれる人間じゃない。 兄さんは俺があの家の当主になって、共に生きていく人間だ」


……弟の言葉とは思えない。 愛が重すぎる、いや人のことを言えないか俺も。 金を積んで手に入れた。
血走らせる目には怒りしか感じられない。


「……座れ、いくつかお前に話をしたい」


「話なんかない、兄さんを出せと言っているだろう」


少し呆れてくる。 それを何度も言えば俺が大人しくクロウスを返すと思っているのだろうか。


「……今は知り合いの病院だ。 発情期は近い、俺はアイツとの間に誓いを立てた。 正常な状態でクロウスが許さない限りは番にならないし、性行為も行わない」


「……っ、信じられるか……」


舌打ちをしながら、ユリウスは睨む。信じ難いと言われて本当のことだからどうしようもない。



「……信じまいと勝手だが、今から話すのはクロウスの身体についてだ。 非常に危険な状態にある。 対立だなんだと言っても、俺たちの間でアイツを大事に思うところは一致していると思っているが」


「…お前と一緒にするな」


そう言いながらも、付き人にソファに戻される。ジェイラード家で唯一、ユリウスにだけは話しておくべきだろう。 それにどう考えても兄への違法ドラッグ服用については知らないはずだ。 こんな男だ、父だろうと母だろうと噛みつき兼ねない。



「……はぁ……、兄さんの身体がなんだ……」



「クロウスが常に服用していた薬のことを何か知っているか」


ユリウスは「は?」と言い、なんだそんなことかと頭を毟るように掻きながら、ソファに凭れながら足を組む。行儀もなっていないな……


「……兄に会うことはほとんど許されていなかったし、兄は自室で使用人から飯と薬を渡されていたから見たこともない」


「……では、お前らの父が裏で取引しているというのは」



ユリウスは1度固まった。 嫌な予感がしたのか、頭の回転が早いのか……、クロウスの身体についての話、薬について、裏での取引、この3つのことからユリウスは何かに気づいた顔をした。



「……父が取引をしている、なんてのは聞いていないが……恐らく、して、いた……と思う。 あの人のことだ…」


父に見放された息子もいれば、息子に見放された父もいるものだな。




「クロウスはかなり昔から、Ωとして発情期が来る前から裏で出回っていた違法ドラッグの過剰服用をしていた可能性が高い」



俺は躊躇いもなく真実を告げると、ユリウスは目を見開き時間が止まったかのように行動も息も全て止まったようだった。



「………に、いさんが? 違法……? しかも、過剰服用……? そんなわけ……」


「その副作用かは分からないが、α、Ωどちらにも使える薬がほとんど効いていない。 しかもかなり強い薬だが、一日ともっていない」


その言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、ユリウスは何も返事をしなくなった。
ただ1人で何かをブツブツと呟いている。



「……エド、お前は……知っていた、か?」



「……クロウス様の飲んでいる薬まではさすがに……ですが……旦那様が裏で取引をしていた可能性は高いと思います」


付き人にそう言われ、ユリウスは黙り下を向いて固まった。
耐え難い現実から逃げようとしているのか、暫く動かない。無理やり話を聞き出すのも可哀想だったため、落ち着くまで俺も黙ることにした。



「…………兄さん……どこ……」


「知り合いの病院に行ったと言っただろう。 そこで、様子を見てもらいながら治療をしていく」



ユリウスは泣き叫びたいのか、怒り狂いたいのか自分の感情も分からずに、震えた声で「兄さん」と暫く呟くことしかできなくなった。

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