対立していたはずの王子様に愛されたようで

永遠

文字の大きさ
33 / 43

33 対面

しおりを挟む
33 対面

ハーヴァのもとにクロウスを預けて城に戻ると、クロウスの良い匂いが薄れていて、なんだか寂しく感じる。
Ω特有のフェロモンに加え、クロウス独特の匂いが混じった俺の心臓を騒ぎ立てる匂い。


「ヴァラドル様、お戻りになられましたか」


使用人の1人が玄関先まで俺を迎えに来た。 戻っだからと言って全員に出迎えられるのは御免だと使用人に言い、特に用がなければ俺が帰ってきたからと言って出向く必要はないと言ってある。
それなのに使用人が出迎えた…仕事か、と思う。


クロウスが来る前までは普通のことだったが、クロウスが来てからというものクロウスと少しでも離れがたかった俺は、外へ出ることもそう無かった。
部屋に持ち込まれる仕事をこなす事が当たり前になり、終えるとクロウスのもとに行く、それが何よりも幸せだった。


「ああ、なんだ」


「……そ、それが来客が……」



客? 誰か来る予定も無ければ現在、対談をするような人間もいないはずだ。使用人は何故か少し、戸惑うようにして、口を開く。



「……ジ、ジェイラード家の者が……」


コソッと耳元でそう言った。俺はすぐにジェイラード家の者と言われ、父の方ではなくユリウス=ジェイラードだということが分かった。

いずれ来るとは思っていたが、ここまで早いとは思わなかった……。 いや、ユリウス=ジェイラードからしたら、遅い方なのかもしれない。 もっと、早くに来たかっただろう。 しかし、そんなすぐに行動を起こせば、父や母に勘づかれてもおかしくはない。それなりに見計らってやっと、隣国まで馬車でも走らせたか。



「……入れるか迷ったのですが……、先日交渉したこともあるので……」


「……ああ、客室に通しているか」



使用人がたどたどしいのも頷ける。対立関係にあるはずの隣国の王家の人間を招いて何かされれば一大事だが、交渉を成立させたが故に入れないというのも交渉を破断する可能性もあると思ったのだろう。

……いや、入れても入れなくてもあの弟なら破断を申し出るだろうな。
俺は少し似たところがあるクロウスの弟に対して笑みが溢れた。




閉められた客室のドア、その前には2人の男の使用人。何かあった際に対処できるようにと置いておいたのだろう。 当然の考えだな。
俺は2人にもういいぞ、元の仕事に戻れと合図すると2人は、少し狼狽えつつもその場を去っていった。



「……さて」


客室のドアをノックし、ドアノブを回して開くとソファが2つ、ローテーブルを挟んで置いてある。その片方に綺麗な少し可愛らしい顔をした男、そのソファの後ろに背の高い男が静かに立っていた。
ドアを開いたと同時に、ユリウス=ジェイラードと思われる男と目が合う。ジェイラード家を訪れた時はかなり女らしさの強い行動が目立っていたが、そこにいるのは高貴なαらしい男だった。


「……連絡もなく来るとは……、ユリウス=ジェイラードだな」


「………………兄さんは、兄さんはどこだ」


返事もなく、本題に入るユリウスに「くくっ」と笑い声が出る。それに気づき、ユリウスは俺を睨みつけた。


「ああ……この時期に来たのは、アイツが発情期に近いと気づいてのことか」


「……兄さんの匂いがかなり薄い。 どこかに閉じ込めたのか」



やはり、俺の予想は当たっていたみたいだ。 あの可愛らしい弟が本性ではない、これだ。 このクロウスのみを求めてきた俺と同じαの男だ。



「……何処に、言ってどうする? 交渉は成立だったはずだ。 君のことだから連れて帰ろうとするとは思っていた」



「……金は返す、だから兄さんを返せ」



ユリウス=ジェイラードは頭の良い男だと思っていたが、兄さんを返せの一点張り。 いや、頭が良くても兄のことが気になりすぎて、正常な判断もできないのか。


「……俺はα、クロウスはΩだぞ。 連れてきて何日が経った? 既に番だとしてもおかしくはない。 それを引き離すのは、クロウスにとっても苦だぞ」


そう言うと座っていたユリウスは立ち上がり、ドアの近くで立っていた俺にズンズンと近づいてくる。そして、俺よりも小さいくせに胸ぐらをグッと掴み、下に寄せて俺に下を向かせる。



「……番になったのか? 俺の兄さんと。 だったら解消すれば良い、それだけだ」



目が見開いてそう言うユリウスに可愛らしいも何も無い。後ろからゆっくりと付き人が歩いて来て、ユリウスの肩を掴んで俺から離す。


「俺にお前の言う通りにして何になる、俺は金は要らない。 クロウスが欲しいだけだ」



「お前なんかにやれる人間じゃない。 兄さんは俺があの家の当主になって、共に生きていく人間だ」


……弟の言葉とは思えない。 愛が重すぎる、いや人のことを言えないか俺も。 金を積んで手に入れた。
血走らせる目には怒りしか感じられない。


「……座れ、いくつかお前に話をしたい」


「話なんかない、兄さんを出せと言っているだろう」


少し呆れてくる。 それを何度も言えば俺が大人しくクロウスを返すと思っているのだろうか。


「……今は知り合いの病院だ。 発情期は近い、俺はアイツとの間に誓いを立てた。 正常な状態でクロウスが許さない限りは番にならないし、性行為も行わない」


「……っ、信じられるか……」


舌打ちをしながら、ユリウスは睨む。信じ難いと言われて本当のことだからどうしようもない。



「……信じまいと勝手だが、今から話すのはクロウスの身体についてだ。 非常に危険な状態にある。 対立だなんだと言っても、俺たちの間でアイツを大事に思うところは一致していると思っているが」


「…お前と一緒にするな」


そう言いながらも、付き人にソファに戻される。ジェイラード家で唯一、ユリウスにだけは話しておくべきだろう。 それにどう考えても兄への違法ドラッグ服用については知らないはずだ。 こんな男だ、父だろうと母だろうと噛みつき兼ねない。



「……はぁ……、兄さんの身体がなんだ……」



「クロウスが常に服用していた薬のことを何か知っているか」


ユリウスは「は?」と言い、なんだそんなことかと頭を毟るように掻きながら、ソファに凭れながら足を組む。行儀もなっていないな……


「……兄に会うことはほとんど許されていなかったし、兄は自室で使用人から飯と薬を渡されていたから見たこともない」


「……では、お前らの父が裏で取引しているというのは」



ユリウスは1度固まった。 嫌な予感がしたのか、頭の回転が早いのか……、クロウスの身体についての話、薬について、裏での取引、この3つのことからユリウスは何かに気づいた顔をした。



「……父が取引をしている、なんてのは聞いていないが……恐らく、して、いた……と思う。 あの人のことだ…」


父に見放された息子もいれば、息子に見放された父もいるものだな。




「クロウスはかなり昔から、Ωとして発情期が来る前から裏で出回っていた違法ドラッグの過剰服用をしていた可能性が高い」



俺は躊躇いもなく真実を告げると、ユリウスは目を見開き時間が止まったかのように行動も息も全て止まったようだった。



「………に、いさんが? 違法……? しかも、過剰服用……? そんなわけ……」


「その副作用かは分からないが、α、Ωどちらにも使える薬がほとんど効いていない。 しかもかなり強い薬だが、一日ともっていない」


その言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、ユリウスは何も返事をしなくなった。
ただ1人で何かをブツブツと呟いている。



「……エド、お前は……知っていた、か?」



「……クロウス様の飲んでいる薬まではさすがに……ですが……旦那様が裏で取引をしていた可能性は高いと思います」


付き人にそう言われ、ユリウスは黙り下を向いて固まった。
耐え難い現実から逃げようとしているのか、暫く動かない。無理やり話を聞き出すのも可哀想だったため、落ち着くまで俺も黙ることにした。



「…………兄さん……どこ……」


「知り合いの病院に行ったと言っただろう。 そこで、様子を見てもらいながら治療をしていく」



ユリウスは泣き叫びたいのか、怒り狂いたいのか自分の感情も分からずに、震えた声で「兄さん」と暫く呟くことしかできなくなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

処理中です...