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34 交渉
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34 交渉
俺の中で兄さんよりも大事になった存在は、この世で誰1人いない。生まれてからずっとだ。
父に切り離された時に誓った。 大人になったら、父がいなくなったら、兄とずっと一緒にいると。
「…………ヴァラドル=マルシャール……、その違法ドラッグについて……話してくれ」
兄を連れ去った俺の中で最も憎い相手ヴァラドル=マルシャールに告げられた内容を信じがたかった。……しかし、父がそれをしていないと言い切れるほど父に対する良いイメージはなかった。
金のためであればなんだってしていた。 あの人が違法に手を染めようと何らおかしな話ではない。エドワードも何となくそれに気づいていたらしい。
「……知人が言うには、今身体に異変が起きていないことが奇跡のようだと言っていた。 このまま知らず服用を続ければ命に関わる、抑制剤として強い効果を持つ代わりに身体への副作用としての影響が強いらしい。 ……それもあって、今は普通の抑制剤も服用していない。 急に違った薬を身体に入れて何かあってからでは遅い」
敵とみなした男に情報を求めている自分が情けなかった。しかし、そんなことよりも兄のことについて知る方が優先された。
「……副作用……、今のところは何もないのか……」
「発情期ではない期間であっても、身体の熱が常にある、今はそれだけだ。 ……発情期に入ってから何か異変があるかもしれないが、今のところそんな話は聞いていない」
……確かに父は兄さんのことを毛嫌いしていた……。でも、息子だぞ……、そんな何があるか分からないものを裏からわざわざ取り寄せてまで…
「……旦那様は、世間にクロウス様の存在…バースがバレることを恐れていました。 手段として違法ドラッグに手を出してもおかしくはないかと……」
俺の心を読んだかのように後ろに立つエドワードがそう言った。
……もっと普通の家であればこんな目には遭わなかったのかもしれないな、王家だから立場が重要だから……、そんな理由で兄さんは実親から存在を否定される。
一般家庭であれば、Ωだったとして発情期はともかく日常の中で閉じ込められることは無かっただろう。
「……ユリウス=ジェイラード、ここまで来てもらって悪いが、クロウスを返すわけにはいかないし、今会わせるわけにもいかない」
向かいのソファに腰を下ろしているヴァラドル=マルシャールがそう言った。
……家に共に戻って来たことが父にバレれば俺も、エドワードもただでは済まないだろう。
だが覚悟の上だった。 それで家を追い出されようと、兄さんとエドワードがいるなら俺は生きていける気がしていた。
あんな息苦しく、演技ばかりを繰り返す兄さんもいない生活に戻るくらいなら……そう思ってここまで来た。
……しかし、兄さんに投与されていた薬がどれ程のものかも分からない状況で家から追い出され、行く宛てもなければ、兄さんに何か起こったらどうすれば良い?
兄さんの発情期がきたら、その度に抑制剤を飲ませつつ、そこらで隔離しながらもエドワードと共に何とかできる……なんて考えていた。 そうするんだと勝手に決めつけていた。
未来について計画を立てる程ゆっくりしている場合ではなかった。 ヴァラドル=マルシャールにいつ、兄が何をされるか分かったものではなかったから。 人身売買にでも売られたら、Ωを買う人間は山ほどいる。 兄さんの行方が分からなくなるのだけは御免だった。
「……ユリウス=ジェイラード、お前の兄に対する愛情と救済したいという気持ちがあると思い、頭の良いであろうお前に交渉を申し込もう」
未来が見えなくなった俺にヴァラドル=マルシャールは交渉を申し込むと言った。正直こんな奴の話を聞くだけ無駄なんて思っていたが、現状どうにも出来ない。
……認めたくはないが、この男はきっと父……いや、そこらの王家の誰よりも優秀な男だ。 若くして身体の弱い父親の代わりを勤めていると父や周りから聞いていた。
後継者になった際に、マルシャール家には気をつけろと口うるさく言われていたからだ。
「……ああ、話を聞こう……」
そう言うと、エドワードは少し反応した。 対立した王家の人間と勝手に交渉を進めるなど許されることでは無い。
「お互い、最優先事項は同じであると思っている」
……最優先事項……兄さんの身体、命の安全か。 それはそうだ。 それが出来なければ交渉も何も成立させるわけにはいかない。
「ああ、そうだな。 だが、それに何か交渉が必要か?」
「まぁ聞け。 これは医者の専門知識が必要だ。 知人の医者はそこらの有名病院の名医なんて言われる者よりもずっと知識はある、認めたくは無いが。 それに番持ちのαだ。 そこにはソイツとその番しか務めていない。 クロウスが狙われることはまずない。 そこに発情期の間は隔離する」
確かに薬、ましてや違法ドラッグについては俺たちより医者……医者も知っているのかは知らないが……、どうやらその知人はその辺の知識もあるらしい。 その男が番持ちのα、というのは本当は分からないが、わざわざこの男が預けているのだ。発情期なら尚更手放さず室内に隔離するはず……、どうやらこの男は本当に兄さんに手を出していないらしい。
「まずドラッグについて探るのが先だ。 取引した相手が分からないことにはそのことを知るのは難しい、お前の父が誰と取引をしたか調べて欲しい」
「……そちらの要求はそれでいいのか、だが俺にお前にそれを教えて何の見返りがある。 調べ上げ、俺が兄さんを連れて他の病院で治療する、これでも俺は良いんだぞ」
ヴァラドル=マルシャールは俺のその言葉にふはっと乾いたような笑い方をした。
俺とエドワードはピクリと反応した。
「……悪いがアイツを連れていくことは許さない。これは俺の事情でもお前の事情でもある。……考えろ、ユリウス=ジェイラード、クロウスはお前を大事な弟だと思っている、そんなアイツが自分のせいでお前が家から追い出されたと知ればどうなる? 間違えれば副作用以前に自殺を選びかねない」
その言葉に俺はゾッとした。……考えないようにしていた。 兄さんは演技の俺でも可愛い弟だと思ってくれていただろう。 確かに俺が父から後継者を下ろされ、家まで追い出されれば兄さんは責任を感じるだろう。 だが、死を選ぶ可能性は0だと勝手に決めつけた、本当になってしまうことが怖かったからだ。
「……っ……だとして、お前に情報を渡し、兄さんが助かったとして、俺はお役御免で家に戻れと言うのか? そんなの、納得すると思うか?」
「……ユリウス、お前の1番の望みはなんだ、家にクロウスを持ち帰ることか? それが1番したいことか」
……家に持ち帰りたい……? いや、違う。 根本的な理由はそれではない。
「……兄さんと……ただ、一緒に居られれば……俺の望みはそれでしかない」
「……そうだろうな、ここでお前の望みを叶える、それが交渉の条件にする。 クロウスに投与されたドラッグについての情報を持ってくれば、お前もこちらの家に招き入れよう」
「は?」と俺とエドワードは同時に間抜けな声を出し、顔を見合わせる。この男の言っていることが分からない。 俺も……こちらに、来る?
「あちらにクロウス共々戻ったとして追い出されるのが結末だ。 それならば一緒に住む家を提供しよう、ただ俺もクロウスと離れるつもりはない。 これが俺たちの間で最も良い交渉だと思うが」
そう話すヴァラドル=マルシャールは、少し悪人のような悪い笑顔を浮かべていた。
……しかし、どこか俺と同じような考えの持ち主のような気がした。
俺の中で兄さんよりも大事になった存在は、この世で誰1人いない。生まれてからずっとだ。
父に切り離された時に誓った。 大人になったら、父がいなくなったら、兄とずっと一緒にいると。
「…………ヴァラドル=マルシャール……、その違法ドラッグについて……話してくれ」
兄を連れ去った俺の中で最も憎い相手ヴァラドル=マルシャールに告げられた内容を信じがたかった。……しかし、父がそれをしていないと言い切れるほど父に対する良いイメージはなかった。
金のためであればなんだってしていた。 あの人が違法に手を染めようと何らおかしな話ではない。エドワードも何となくそれに気づいていたらしい。
「……知人が言うには、今身体に異変が起きていないことが奇跡のようだと言っていた。 このまま知らず服用を続ければ命に関わる、抑制剤として強い効果を持つ代わりに身体への副作用としての影響が強いらしい。 ……それもあって、今は普通の抑制剤も服用していない。 急に違った薬を身体に入れて何かあってからでは遅い」
敵とみなした男に情報を求めている自分が情けなかった。しかし、そんなことよりも兄のことについて知る方が優先された。
「……副作用……、今のところは何もないのか……」
「発情期ではない期間であっても、身体の熱が常にある、今はそれだけだ。 ……発情期に入ってから何か異変があるかもしれないが、今のところそんな話は聞いていない」
……確かに父は兄さんのことを毛嫌いしていた……。でも、息子だぞ……、そんな何があるか分からないものを裏からわざわざ取り寄せてまで…
「……旦那様は、世間にクロウス様の存在…バースがバレることを恐れていました。 手段として違法ドラッグに手を出してもおかしくはないかと……」
俺の心を読んだかのように後ろに立つエドワードがそう言った。
……もっと普通の家であればこんな目には遭わなかったのかもしれないな、王家だから立場が重要だから……、そんな理由で兄さんは実親から存在を否定される。
一般家庭であれば、Ωだったとして発情期はともかく日常の中で閉じ込められることは無かっただろう。
「……ユリウス=ジェイラード、ここまで来てもらって悪いが、クロウスを返すわけにはいかないし、今会わせるわけにもいかない」
向かいのソファに腰を下ろしているヴァラドル=マルシャールがそう言った。
……家に共に戻って来たことが父にバレれば俺も、エドワードもただでは済まないだろう。
だが覚悟の上だった。 それで家を追い出されようと、兄さんとエドワードがいるなら俺は生きていける気がしていた。
あんな息苦しく、演技ばかりを繰り返す兄さんもいない生活に戻るくらいなら……そう思ってここまで来た。
……しかし、兄さんに投与されていた薬がどれ程のものかも分からない状況で家から追い出され、行く宛てもなければ、兄さんに何か起こったらどうすれば良い?
兄さんの発情期がきたら、その度に抑制剤を飲ませつつ、そこらで隔離しながらもエドワードと共に何とかできる……なんて考えていた。 そうするんだと勝手に決めつけていた。
未来について計画を立てる程ゆっくりしている場合ではなかった。 ヴァラドル=マルシャールにいつ、兄が何をされるか分かったものではなかったから。 人身売買にでも売られたら、Ωを買う人間は山ほどいる。 兄さんの行方が分からなくなるのだけは御免だった。
「……ユリウス=ジェイラード、お前の兄に対する愛情と救済したいという気持ちがあると思い、頭の良いであろうお前に交渉を申し込もう」
未来が見えなくなった俺にヴァラドル=マルシャールは交渉を申し込むと言った。正直こんな奴の話を聞くだけ無駄なんて思っていたが、現状どうにも出来ない。
……認めたくはないが、この男はきっと父……いや、そこらの王家の誰よりも優秀な男だ。 若くして身体の弱い父親の代わりを勤めていると父や周りから聞いていた。
後継者になった際に、マルシャール家には気をつけろと口うるさく言われていたからだ。
「……ああ、話を聞こう……」
そう言うと、エドワードは少し反応した。 対立した王家の人間と勝手に交渉を進めるなど許されることでは無い。
「お互い、最優先事項は同じであると思っている」
……最優先事項……兄さんの身体、命の安全か。 それはそうだ。 それが出来なければ交渉も何も成立させるわけにはいかない。
「ああ、そうだな。 だが、それに何か交渉が必要か?」
「まぁ聞け。 これは医者の専門知識が必要だ。 知人の医者はそこらの有名病院の名医なんて言われる者よりもずっと知識はある、認めたくは無いが。 それに番持ちのαだ。 そこにはソイツとその番しか務めていない。 クロウスが狙われることはまずない。 そこに発情期の間は隔離する」
確かに薬、ましてや違法ドラッグについては俺たちより医者……医者も知っているのかは知らないが……、どうやらその知人はその辺の知識もあるらしい。 その男が番持ちのα、というのは本当は分からないが、わざわざこの男が預けているのだ。発情期なら尚更手放さず室内に隔離するはず……、どうやらこの男は本当に兄さんに手を出していないらしい。
「まずドラッグについて探るのが先だ。 取引した相手が分からないことにはそのことを知るのは難しい、お前の父が誰と取引をしたか調べて欲しい」
「……そちらの要求はそれでいいのか、だが俺にお前にそれを教えて何の見返りがある。 調べ上げ、俺が兄さんを連れて他の病院で治療する、これでも俺は良いんだぞ」
ヴァラドル=マルシャールは俺のその言葉にふはっと乾いたような笑い方をした。
俺とエドワードはピクリと反応した。
「……悪いがアイツを連れていくことは許さない。これは俺の事情でもお前の事情でもある。……考えろ、ユリウス=ジェイラード、クロウスはお前を大事な弟だと思っている、そんなアイツが自分のせいでお前が家から追い出されたと知ればどうなる? 間違えれば副作用以前に自殺を選びかねない」
その言葉に俺はゾッとした。……考えないようにしていた。 兄さんは演技の俺でも可愛い弟だと思ってくれていただろう。 確かに俺が父から後継者を下ろされ、家まで追い出されれば兄さんは責任を感じるだろう。 だが、死を選ぶ可能性は0だと勝手に決めつけた、本当になってしまうことが怖かったからだ。
「……っ……だとして、お前に情報を渡し、兄さんが助かったとして、俺はお役御免で家に戻れと言うのか? そんなの、納得すると思うか?」
「……ユリウス、お前の1番の望みはなんだ、家にクロウスを持ち帰ることか? それが1番したいことか」
……家に持ち帰りたい……? いや、違う。 根本的な理由はそれではない。
「……兄さんと……ただ、一緒に居られれば……俺の望みはそれでしかない」
「……そうだろうな、ここでお前の望みを叶える、それが交渉の条件にする。 クロウスに投与されたドラッグについての情報を持ってくれば、お前もこちらの家に招き入れよう」
「は?」と俺とエドワードは同時に間抜けな声を出し、顔を見合わせる。この男の言っていることが分からない。 俺も……こちらに、来る?
「あちらにクロウス共々戻ったとして追い出されるのが結末だ。 それならば一緒に住む家を提供しよう、ただ俺もクロウスと離れるつもりはない。 これが俺たちの間で最も良い交渉だと思うが」
そう話すヴァラドル=マルシャールは、少し悪人のような悪い笑顔を浮かべていた。
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