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38 1番、2番
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38 1番、2番
用意されていた馬車に乗り込み、夕日が出始めてきた頃に帰路についた。
ヴァラドル=マルシャールは嫌な男だ。 こちらの事情を知っていて話を持ちかけてきた。
しかもそれが俺にとってもしっかりと利があるから反論することも出来なかった。
確かに兄さんのことを連れ戻せば、恐らく、いや絶対に俺もエドワードも兄さん共々追い出されるに違いない。
俺には将来が2つしかなかった。 兄さんを諦め、あの家で当主になること、そして兄さんを取り戻し家を追い出されること……どちらかしか見えていなかった。
なのに突如として現れた3つ目の選択肢、兄の傍に居ながら、対立した家である俺の敵となるヴァラドル=マルシャールの家で暮らすという選択肢だ。
気持ちとしては最悪だが、兄さんの近くに居られるし、恐らく生活も安定している。 路頭に迷うよりもずっとマシだ。
それにエドワードが居ることも許してくれるらしい。 あの男は読めない人間で今までで1番恐ろしい人間だ。
「……ユリウス様、 本当に……旦那様のことを、探るおつもりですか」
「……エド、兄さんのためなんだ。 これはアイツとの交換条件でなくてもやらなくてはならない。 まず違法ドラッグとなれば、それなり副作用というものが付き物だ……。 今は命に別状がなくとも早く薬については分かっていた方が良い」
父はともかくとして、母は、他の使用人たちはそれを知っていたのだろうか。
全員が全員、兄さんの身体がどうなっても良いと思っていたのだろうか……。
兄のいない家は何もない同然だった。 会えなくても、話せなくても、近くにいるのだと思えればそれで耐えることは出来た。
いなくなり、そこはただの空の家だ。
……そして、兄の身体をどうとも考えいない奴ららしかいないと思う今となっては、あそこは俺にとってただの牢獄だ。
兄さんを傷つけるなら誰も許さない。
……きっと、エドワードのことも俺は許さないだろう。自分のクビすらかけて付いてきてくれる、よく慕っているコイツですら敵だと思えてしまう。
……異常だとは昔から分かっていた。普通の兄弟間に持つ感情ではない。 これは兄弟愛なんてものとは違っている。
ただの依存だ。
「……対立した家……アイツに従うのは嫌か」
「……そうではありません。 ただ、あのヴァラドル=マルシャールを信じろと言われてもそれは出来かねます……、上手く情報だけ手に入れ、ユリウス様を招き入れない可能性も……」
冷静で、いつも何を考えているのかも分からない。 そのくせ俺の事をよく分かっていて、どの使用人よりもよく働く。
「……俺にとって、兄さんがいない生活は全て同じだ。 金持ちだろうと貧乏だろうと……。 だから、嘘かもしれない、騙されているかもしれない、それを分かっていてこの交渉を受けた。 断れば100%兄さんと一緒にいるのは無理だろうと、あの場で理解したんだ。 ヴァラドル=マルシャールは、本気だ。 兄さんを手放す気はない」
よく分かった。 俺とどこか似ていたから……。嫉妬深く、独占欲が強い……、他にクロウス=ジェイラードという人物に触れさせたくない。
「……分かりました。 では、私も微力ながらお手伝い致します」
仕方なしに返事をしたエドワード。顔は見ずとも呆れたような、子供の我儘を仕方なく聞くような顔をしているのだろうと思った。
そう思って、ふと窓から遠くを見つめて話していた顔をエドワードに向けると、エドワードは、ほんの少し元気の無い顔をしていた。
少し意外だった。滅多に顔色を変えることも表情が変わることもないエドワードが、俺に分かるくらい表情がうかない。
「……エド…………」
「……そうです、ね。 やはり貴方にとってはクロウス様が中心だ。 そこに誰が居ようと変わることは無い。 相手が旦那様であろうと、ヴァラドル=マルシャールだろうと……………俺、だろうと」
エドワードの言っている意味が分からなかった。そんなこと、お前なら最初から何年も前から知っていたことだろう。
お前にだけは何でも話していた、兄さん以上に特別な人間はいない。
何かを答えるべきなのか、それすらも分からない。なんて返すのが正解か、そもそも正解を出さなければいけないのか。 コイツ相手に。
何だって許してくれる、俺がやれと、すると言えばNOは言わない男だった。
コイツに変に気を遣うのも今更おかしい。 エドワードもその後話そうとする素振りはなく、俺から目を背けた。 胸ポケットから自分のメモ帳なのかノートなのか……そんな物を取り出して眺めながら、何かを書き始める。
俺ももう一度目を外に向けては見たが、エドワードの言葉が頭に残ったまま自国に戻り、あと少しで家に着く、というところだった。
かなりの長旅だ、もう夕日も落ちている。父が心配しているだろうか、変な勘ぐりをしていないだろうか……そんな心配が過ぎる。
家を目の前にして馬車は、少しずつ速さが遅くなっていく。
すると、エドワードがカチッとペンの先をしまい、胸ポケットに物を戻した。
馬車が止まり、一瞬グラッと車内が揺れる。
「……クロウス様が1番、それは分かっていました。 だから、2番にでもなれれば良いと勝手に思っておりました。……しかし、貴方には1番も2番もない」
突拍子もなくエドワードは再度話し始める。驚き、エドワードを見ると、エドワードの目はこちらを向いていた。
その目を見た時には、父からなんと言われるか、どう返すか、なんてことを考えることは頭の中から消えていた。
「……貴方、ユリウス=ジェイラードの中での俺は、エドワード=スコレッチは何ですか。 ただの付き人ですか」
そう問われたとしてなんて答えれば良い。そうだとすぐに言えば良かったのか。 変に戸惑い、間が空いてしまうと答えれなくなってしまう。
俺にとってのエドワードは、どんな俺を知っても離れていかない、他の使用人とは違う……、だが、エドワードがどんな存在なのか、と聞かれると分からない。
「……なんだよ、急に…………」
「昔から理解していて、それでも我慢するつもりでした。 貴方の中でのクロウス様に勝る存在は今までもこれからも現れない。 それになり得る人間などいない、と…………なのに、今になって、クロウス様がマルシャール家に連れていかれて尚更それを感じさせられると我慢ならなかった」
何故か、それ以上聞いてはいけない気がした。
そうしたら、きっと……、俺たちの主と使用人の関係性は形を変えるから。
そう思い、何かを言い出そう、やめろと言えばコイツはやめる。 そう思って、言葉を出すのに息を吸うと先読みしたようにエドワードは、言葉にしてしまった。
「……私はユリウス=ジェイラードを仕える王家の息子、という目で見た事は一度もありません。 貴方の中でクロウス様が1番のように、俺の中でも貴方が1番です」
そう言うと、答えも返事を聞かずに椅子から立ち上がり馬車の扉を開ける。
呆然とした俺に馬車から降りるように促す。何も言えず、ただ促されるまま、行動することしか出来ない。
無言のまま、自室に扉をエドワードが開けてくれた。そして中に入ると、ドアの横に立ったままのエドワードは、「旦那様に報告して来ます」と言って扉を閉めて、カツカツと靴の良い音を鳴らし遠ざかっていくのが分かる。
残された俺はフラフラとベッド近くまで一人で覚束無い足取りで歩き、つまづいたようにそのままベッドに倒れ込む。
……ああ………、そういえば
「………アイツが自分のこと俺って言うの初めて聞いたな…………」
考えることはそこではないと分かっていながらも、今更そんなことが気になってくる。 俺は本性をさらけ出していた。 ……なのにアイツは、エドワードはずっと俺の前で隠していたのか、と思うと少し胸が傷んだ。
用意されていた馬車に乗り込み、夕日が出始めてきた頃に帰路についた。
ヴァラドル=マルシャールは嫌な男だ。 こちらの事情を知っていて話を持ちかけてきた。
しかもそれが俺にとってもしっかりと利があるから反論することも出来なかった。
確かに兄さんのことを連れ戻せば、恐らく、いや絶対に俺もエドワードも兄さん共々追い出されるに違いない。
俺には将来が2つしかなかった。 兄さんを諦め、あの家で当主になること、そして兄さんを取り戻し家を追い出されること……どちらかしか見えていなかった。
なのに突如として現れた3つ目の選択肢、兄の傍に居ながら、対立した家である俺の敵となるヴァラドル=マルシャールの家で暮らすという選択肢だ。
気持ちとしては最悪だが、兄さんの近くに居られるし、恐らく生活も安定している。 路頭に迷うよりもずっとマシだ。
それにエドワードが居ることも許してくれるらしい。 あの男は読めない人間で今までで1番恐ろしい人間だ。
「……ユリウス様、 本当に……旦那様のことを、探るおつもりですか」
「……エド、兄さんのためなんだ。 これはアイツとの交換条件でなくてもやらなくてはならない。 まず違法ドラッグとなれば、それなり副作用というものが付き物だ……。 今は命に別状がなくとも早く薬については分かっていた方が良い」
父はともかくとして、母は、他の使用人たちはそれを知っていたのだろうか。
全員が全員、兄さんの身体がどうなっても良いと思っていたのだろうか……。
兄のいない家は何もない同然だった。 会えなくても、話せなくても、近くにいるのだと思えればそれで耐えることは出来た。
いなくなり、そこはただの空の家だ。
……そして、兄の身体をどうとも考えいない奴ららしかいないと思う今となっては、あそこは俺にとってただの牢獄だ。
兄さんを傷つけるなら誰も許さない。
……きっと、エドワードのことも俺は許さないだろう。自分のクビすらかけて付いてきてくれる、よく慕っているコイツですら敵だと思えてしまう。
……異常だとは昔から分かっていた。普通の兄弟間に持つ感情ではない。 これは兄弟愛なんてものとは違っている。
ただの依存だ。
「……対立した家……アイツに従うのは嫌か」
「……そうではありません。 ただ、あのヴァラドル=マルシャールを信じろと言われてもそれは出来かねます……、上手く情報だけ手に入れ、ユリウス様を招き入れない可能性も……」
冷静で、いつも何を考えているのかも分からない。 そのくせ俺の事をよく分かっていて、どの使用人よりもよく働く。
「……俺にとって、兄さんがいない生活は全て同じだ。 金持ちだろうと貧乏だろうと……。 だから、嘘かもしれない、騙されているかもしれない、それを分かっていてこの交渉を受けた。 断れば100%兄さんと一緒にいるのは無理だろうと、あの場で理解したんだ。 ヴァラドル=マルシャールは、本気だ。 兄さんを手放す気はない」
よく分かった。 俺とどこか似ていたから……。嫉妬深く、独占欲が強い……、他にクロウス=ジェイラードという人物に触れさせたくない。
「……分かりました。 では、私も微力ながらお手伝い致します」
仕方なしに返事をしたエドワード。顔は見ずとも呆れたような、子供の我儘を仕方なく聞くような顔をしているのだろうと思った。
そう思って、ふと窓から遠くを見つめて話していた顔をエドワードに向けると、エドワードは、ほんの少し元気の無い顔をしていた。
少し意外だった。滅多に顔色を変えることも表情が変わることもないエドワードが、俺に分かるくらい表情がうかない。
「……エド…………」
「……そうです、ね。 やはり貴方にとってはクロウス様が中心だ。 そこに誰が居ようと変わることは無い。 相手が旦那様であろうと、ヴァラドル=マルシャールだろうと……………俺、だろうと」
エドワードの言っている意味が分からなかった。そんなこと、お前なら最初から何年も前から知っていたことだろう。
お前にだけは何でも話していた、兄さん以上に特別な人間はいない。
何かを答えるべきなのか、それすらも分からない。なんて返すのが正解か、そもそも正解を出さなければいけないのか。 コイツ相手に。
何だって許してくれる、俺がやれと、すると言えばNOは言わない男だった。
コイツに変に気を遣うのも今更おかしい。 エドワードもその後話そうとする素振りはなく、俺から目を背けた。 胸ポケットから自分のメモ帳なのかノートなのか……そんな物を取り出して眺めながら、何かを書き始める。
俺ももう一度目を外に向けては見たが、エドワードの言葉が頭に残ったまま自国に戻り、あと少しで家に着く、というところだった。
かなりの長旅だ、もう夕日も落ちている。父が心配しているだろうか、変な勘ぐりをしていないだろうか……そんな心配が過ぎる。
家を目の前にして馬車は、少しずつ速さが遅くなっていく。
すると、エドワードがカチッとペンの先をしまい、胸ポケットに物を戻した。
馬車が止まり、一瞬グラッと車内が揺れる。
「……クロウス様が1番、それは分かっていました。 だから、2番にでもなれれば良いと勝手に思っておりました。……しかし、貴方には1番も2番もない」
突拍子もなくエドワードは再度話し始める。驚き、エドワードを見ると、エドワードの目はこちらを向いていた。
その目を見た時には、父からなんと言われるか、どう返すか、なんてことを考えることは頭の中から消えていた。
「……貴方、ユリウス=ジェイラードの中での俺は、エドワード=スコレッチは何ですか。 ただの付き人ですか」
そう問われたとしてなんて答えれば良い。そうだとすぐに言えば良かったのか。 変に戸惑い、間が空いてしまうと答えれなくなってしまう。
俺にとってのエドワードは、どんな俺を知っても離れていかない、他の使用人とは違う……、だが、エドワードがどんな存在なのか、と聞かれると分からない。
「……なんだよ、急に…………」
「昔から理解していて、それでも我慢するつもりでした。 貴方の中でのクロウス様に勝る存在は今までもこれからも現れない。 それになり得る人間などいない、と…………なのに、今になって、クロウス様がマルシャール家に連れていかれて尚更それを感じさせられると我慢ならなかった」
何故か、それ以上聞いてはいけない気がした。
そうしたら、きっと……、俺たちの主と使用人の関係性は形を変えるから。
そう思い、何かを言い出そう、やめろと言えばコイツはやめる。 そう思って、言葉を出すのに息を吸うと先読みしたようにエドワードは、言葉にしてしまった。
「……私はユリウス=ジェイラードを仕える王家の息子、という目で見た事は一度もありません。 貴方の中でクロウス様が1番のように、俺の中でも貴方が1番です」
そう言うと、答えも返事を聞かずに椅子から立ち上がり馬車の扉を開ける。
呆然とした俺に馬車から降りるように促す。何も言えず、ただ促されるまま、行動することしか出来ない。
無言のまま、自室に扉をエドワードが開けてくれた。そして中に入ると、ドアの横に立ったままのエドワードは、「旦那様に報告して来ます」と言って扉を閉めて、カツカツと靴の良い音を鳴らし遠ざかっていくのが分かる。
残された俺はフラフラとベッド近くまで一人で覚束無い足取りで歩き、つまづいたようにそのままベッドに倒れ込む。
……ああ………、そういえば
「………アイツが自分のこと俺って言うの初めて聞いたな…………」
考えることはそこではないと分かっていながらも、今更そんなことが気になってくる。 俺は本性をさらけ出していた。 ……なのにアイツは、エドワードはずっと俺の前で隠していたのか、と思うと少し胸が傷んだ。
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