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37 優しさ
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37 優しさ
物心がついたばかりの頃は父も母も、1つ下の弟も近くにいた気がする。けれど、いつの間にか周りにいるのは使用人ばかりだった。
子供だった俺は好奇心もあった。 だから、外に行きたいと何度も使用人に言ったが、誰も彼も「旦那様からお許しが出ない」と断った。
その父にもほとんど会うことがなかった。 部屋で1人、時々可愛い弟が使用人の居ない時を見計らって部屋にやってきた。
本当に可愛い弟だった。父や母に愛された弟、何故か会話すらしようとされない俺、その差がなんなのかは、しばらくしてよく分かった。
「お前はΩだから、 ユリウスに変な影響を与えかねない」
久々に会った父は冷たい目をしながらそう言った。そして王家の人間としてΩなんて許されない、お前は産まれてくるべきではなかった、と言われた。
母は静かに口を閉ざしたまま何も話さなかった。
バース、α、β、Ω……そんな3つで分けられた。 弟はαだった。父も母も……何故か俺だけ、Ωとなって産まれた。
父に言い返すことはなかったが、そう告げられた日の夜、俺は父への怒りが込み上げてきたことを覚えている。
俺が好き好んで選んだわけではない。 それならば、お前らの遺伝を受け継いでΩになった俺を産んだお前らの方が悪いんじゃないか!!
声にすることなく、自室のベッドのシーツを握り締めて、泣き声もあげずにそう考えるばかりだった。
自分の存在を正当化したいのか、自分は何も悪くないと思いたい父にそんなことを言っても意味の無いことは分かっていた。
何度も思った、この家なんて早く潰れてしまえと。
そんなある日、10歳を迎えた頃だろうか。 使用人から、錠剤を渡された。 水色の小さな薬だった。使用人はΩ用の薬だと、苦い顔をして言っていた。今になって思えば、違法のものと知っていたからあんな顔をしたのか、と思う。
もちろん、使用人は父に言われたことに従うし、従わなければ解雇……。 そう考えると正しい選択だったのかもしれない。 俺1人の身体がどうなろうとあの家ではどうでもよかったんだ。
自分の生活のためなら子供に、息子に違法ドラッグを渡せるのだから。
知らずして飲み続けた俺は、発情期の本当の辛さを知らなかった。 いつもよりも身体が熱いくらいの感覚で、「ああ、発情期か」と思っていた過去の俺が羨ましい。
今は無様に1人で後ろの穴によく分からない棒状の玩具を挿れようとしている、しかもヌルヌルと滑り中に入る癖にかなり痛い。
最初はこんなに痛いものなのだろうか、痛覚が働いたのか涙が出てくる。
「…っぃ……」
自分の目で確かめられない分、今何処まで挿っているのかは分からない。ヴァラドルの指はもっと奥まで行っていた気がするからまだ挿る……、けど太さが桁違いなのか、つっかえている。挿れれば挿れる程痛いしか出てこない。
だが、痛いのに比例して前のは勃ちあがってくるのだから人間の身体は不思議なものだ。
「うう~……」
発情期1日目にして心が折れそうだ。 せめて抑制剤があればもう少し楽なのだろうか……。グリグリと玩具を中へと押し込む。
発情期が終わるまでにはこの痛さが無くなることを願うしか無かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
プルルルと病院の電話が鳴り、俺は受話器を取った。
「はーい、もしもーし。 ……あ、ヴァラドルか! どうしたの?」
向こうの声はヴァラドル=マルシャールだった。お得意様だ。
「クロウス君? あー…今日から本格的に発情期だね、多分彼にとっては地獄のような時期が始まったよ。 今までよりも歯止めが効かないし、一人での対処……、色々渡したけどどれも初めてみたいだし……、え? 怒らないでよ。 優しさだよ」
ヴァラドルは「色々渡した」に敏感に反応した。昨夜のことを考えると、発情期に入ってしまえば自分の指だけで足りるとは思えない。 悪ふざけではなく本当に優しさだよ。
「……で? どうしたの、薬のことならやっぱり元を辿らないと」
『……ユリウス=ジェイラードが今日、わざわざ来てくれてな、まぁ兄を返せという用件だったが、その時に父親の裏での取引を探ることを頼んだ』
……頼んだ……、ね。 ほぼ脅しか、何か上手い理由を付けたのだろうと思った。他人の心を読むことか上手いヴァラドルは、向こうにとって多少利益があることを持ちかけ、自分の利益を大幅に得る男だ。
「ま、予想よりは来るの遅かったね。 で? 一体何をもとにゆすったの?」
『……人聞きが悪いな、ただ将来の安泰を約束しただけだ』
……将来ね。 金の支援でもする気なのか?
『薬のことが分かれば、ユリウス=ジェイラードもこちらに住まわせる。 あの弟が兄から離れて生活出来るとは到底思えん。だが家に持ち帰ったとして父親からの怒りを買い、最悪兄弟共々路頭に迷いかねない。そう話したら了承してくれた』
また大きな交渉をしたものだ。 対立する家の者を招き入れるなんて……だけど、それが1番良い選択なのかもしれない。
弟君のクロウス君への愛情は異常だ。俺でも思う。家族とか兄弟愛では測れない。
ヴァラドルがクロウス君を返さないと言えば、将来的に当主になったユリウス=ジェイラードがどう動くか……こちらの国に仕掛けてくることは間違いない。
「……お前らしいな。 ……あとお前の優しさも入っているのかな。 兄弟で一緒に居させたいっていう」
『別に、俺はクロウスが手に入るなら他はどうでも良い。 だが、アイツの願いは出来るだけ叶える、兄弟間を割くのが目的では無いし……、それに何度かジェイラード家に父に連れられて行ったが、クロウスと弟は本当に仲が良かったからな。 可能なら一緒に居させてやりたい」
……それを優しさだって言うんだよ。 と心の中で思ったが、口には出さなかった。
……だから、金持ちな人間のくせに俺もお前を嫌いにはなれないのかもしれないな。
物心がついたばかりの頃は父も母も、1つ下の弟も近くにいた気がする。けれど、いつの間にか周りにいるのは使用人ばかりだった。
子供だった俺は好奇心もあった。 だから、外に行きたいと何度も使用人に言ったが、誰も彼も「旦那様からお許しが出ない」と断った。
その父にもほとんど会うことがなかった。 部屋で1人、時々可愛い弟が使用人の居ない時を見計らって部屋にやってきた。
本当に可愛い弟だった。父や母に愛された弟、何故か会話すらしようとされない俺、その差がなんなのかは、しばらくしてよく分かった。
「お前はΩだから、 ユリウスに変な影響を与えかねない」
久々に会った父は冷たい目をしながらそう言った。そして王家の人間としてΩなんて許されない、お前は産まれてくるべきではなかった、と言われた。
母は静かに口を閉ざしたまま何も話さなかった。
バース、α、β、Ω……そんな3つで分けられた。 弟はαだった。父も母も……何故か俺だけ、Ωとなって産まれた。
父に言い返すことはなかったが、そう告げられた日の夜、俺は父への怒りが込み上げてきたことを覚えている。
俺が好き好んで選んだわけではない。 それならば、お前らの遺伝を受け継いでΩになった俺を産んだお前らの方が悪いんじゃないか!!
声にすることなく、自室のベッドのシーツを握り締めて、泣き声もあげずにそう考えるばかりだった。
自分の存在を正当化したいのか、自分は何も悪くないと思いたい父にそんなことを言っても意味の無いことは分かっていた。
何度も思った、この家なんて早く潰れてしまえと。
そんなある日、10歳を迎えた頃だろうか。 使用人から、錠剤を渡された。 水色の小さな薬だった。使用人はΩ用の薬だと、苦い顔をして言っていた。今になって思えば、違法のものと知っていたからあんな顔をしたのか、と思う。
もちろん、使用人は父に言われたことに従うし、従わなければ解雇……。 そう考えると正しい選択だったのかもしれない。 俺1人の身体がどうなろうとあの家ではどうでもよかったんだ。
自分の生活のためなら子供に、息子に違法ドラッグを渡せるのだから。
知らずして飲み続けた俺は、発情期の本当の辛さを知らなかった。 いつもよりも身体が熱いくらいの感覚で、「ああ、発情期か」と思っていた過去の俺が羨ましい。
今は無様に1人で後ろの穴によく分からない棒状の玩具を挿れようとしている、しかもヌルヌルと滑り中に入る癖にかなり痛い。
最初はこんなに痛いものなのだろうか、痛覚が働いたのか涙が出てくる。
「…っぃ……」
自分の目で確かめられない分、今何処まで挿っているのかは分からない。ヴァラドルの指はもっと奥まで行っていた気がするからまだ挿る……、けど太さが桁違いなのか、つっかえている。挿れれば挿れる程痛いしか出てこない。
だが、痛いのに比例して前のは勃ちあがってくるのだから人間の身体は不思議なものだ。
「うう~……」
発情期1日目にして心が折れそうだ。 せめて抑制剤があればもう少し楽なのだろうか……。グリグリと玩具を中へと押し込む。
発情期が終わるまでにはこの痛さが無くなることを願うしか無かった。
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プルルルと病院の電話が鳴り、俺は受話器を取った。
「はーい、もしもーし。 ……あ、ヴァラドルか! どうしたの?」
向こうの声はヴァラドル=マルシャールだった。お得意様だ。
「クロウス君? あー…今日から本格的に発情期だね、多分彼にとっては地獄のような時期が始まったよ。 今までよりも歯止めが効かないし、一人での対処……、色々渡したけどどれも初めてみたいだし……、え? 怒らないでよ。 優しさだよ」
ヴァラドルは「色々渡した」に敏感に反応した。昨夜のことを考えると、発情期に入ってしまえば自分の指だけで足りるとは思えない。 悪ふざけではなく本当に優しさだよ。
「……で? どうしたの、薬のことならやっぱり元を辿らないと」
『……ユリウス=ジェイラードが今日、わざわざ来てくれてな、まぁ兄を返せという用件だったが、その時に父親の裏での取引を探ることを頼んだ』
……頼んだ……、ね。 ほぼ脅しか、何か上手い理由を付けたのだろうと思った。他人の心を読むことか上手いヴァラドルは、向こうにとって多少利益があることを持ちかけ、自分の利益を大幅に得る男だ。
「ま、予想よりは来るの遅かったね。 で? 一体何をもとにゆすったの?」
『……人聞きが悪いな、ただ将来の安泰を約束しただけだ』
……将来ね。 金の支援でもする気なのか?
『薬のことが分かれば、ユリウス=ジェイラードもこちらに住まわせる。 あの弟が兄から離れて生活出来るとは到底思えん。だが家に持ち帰ったとして父親からの怒りを買い、最悪兄弟共々路頭に迷いかねない。そう話したら了承してくれた』
また大きな交渉をしたものだ。 対立する家の者を招き入れるなんて……だけど、それが1番良い選択なのかもしれない。
弟君のクロウス君への愛情は異常だ。俺でも思う。家族とか兄弟愛では測れない。
ヴァラドルがクロウス君を返さないと言えば、将来的に当主になったユリウス=ジェイラードがどう動くか……こちらの国に仕掛けてくることは間違いない。
「……お前らしいな。 ……あとお前の優しさも入っているのかな。 兄弟で一緒に居させたいっていう」
『別に、俺はクロウスが手に入るなら他はどうでも良い。 だが、アイツの願いは出来るだけ叶える、兄弟間を割くのが目的では無いし……、それに何度かジェイラード家に父に連れられて行ったが、クロウスと弟は本当に仲が良かったからな。 可能なら一緒に居させてやりたい」
……それを優しさだって言うんだよ。 と心の中で思ったが、口には出さなかった。
……だから、金持ちな人間のくせに俺もお前を嫌いにはなれないのかもしれないな。
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