対立していたはずの王子様に愛されたようで

永遠

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36 重たい愛情

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36 重たい愛情

俺から見たジェイラード家の兄弟は、見た目は二人とも整った顔立ちではあるし似ている部分が無いわけではない。
だが、中身はまるで違ったな、これがユリウス=ジェイラードと話していて感じたことだった。
まるで……いや、互いに兄弟愛が強いのは認めるが、弟から兄に対するコレは兄弟愛で済まされるものではないと思う。
俺に対して敬語を使わないところも同じではあるが、クロウスよりずっとずる賢い感じがする、そして俺と同じ部類の人間だ。


欲しいものは何があっても手にするという人間。



「……なるほどな、兄を取り返しが上手くいったとしても父が許すはずもなく、俺らは家を追い出され路頭に迷うことは確実だ。 それならば兄も俺もこちらに来れば良い、ということか……」


「もとより、返すつもりは微塵もない。 お前のクロウスと近くにいたい、それだけであればこの条件で万事解決だと思うが」



ユリウスは険しい顔で迷っているようだった。 おおかた、対立する王家の息子……いや、愛する兄を金で買い、連れ去った男を信じられるか、そんな男と一緒にいられるかという思いと、将来的に危ない道を進む危険性を天秤にかけている。


「……飲めないとするなら、話は無駄だな。 こちらはこちらで薬のことを調べる。 お前は大人しく王家の次期当主として……」


「飲む。 その変わり……いや、ついでだがコイツもこちらで俺のもとに居させろ」


そう言って後ろの付き人を指す。ずっと黙っていた堅物そうな男だ。交渉の際に躊躇うような顔もあったが、話の最中に口出しをすることはないよくできた犬……という感じだ。


「こいつはβだ、兄のフェロモンに惑わされることはない」


ユリウスがそう言うと一瞬だけ付き人は顔を歪めたのを俺は見逃さなかった。
それに付き人と言っても今やっていることは、当主に逆らう行為。 バレたとしても息子だけなら許したとしてもこの付き人は解雇確定だな……。


……βでありながらも、ジェイラード家の愛される次期当主である息子の面倒を見ることを任された現当主にもそれなりに信頼を置いている。


普通、そんな出来た男がわざわざ解雇される危険をおかしてまで付いてくるか……?
それに自分をβだと言われたときに顔を歪めた……俺はそれで何となく理解した。



……この付き人、αだな。


αであるユリウスのもとにいるため、Ωの兄の近くにいたいユリウスの近くにいるには自分がαであると気付かれてはいけない。
αだと知れば、兄から遠ざける、つまりユリウスもこの男から遠ざかる……それを恐れてバースを偽っている。


そう考えて付き人の……確かエドワードと言われていた男をジィと見てしまう。その視線に気づいたのかエドワードは、俺の目から視線に合わせた。少し睨んでいるようにも見える。


変わった家……いや、関係性が厄介な家だな。 血縁関係のあるαとΩの兄弟。 αの弟は多分、兄を普通に恋愛対象……いや、それ以上で見ている。 ……まぁ兄は何も気づいてはいなさそうだがな。それにこのエドワードという付き人は、バースを隠してαの弟に好意がある、こちらもかなり重症なようだ。 バースを隠してまで近くにいたいと思うのだからな。 いつボロが出ようとおかしくない。 Ωの兄がいるのなら尚更だ、これまでよく気づかれていないものだな。



「……ああ、もちろん歓迎しよう。 しかし、これにはそちらの父親の裏での取引の情報入手が必須だ」



「分かっている。 ……それまで兄さんに何かあったら許さないからな」



この家のヤツらは人を睨むのが好きだな、と思いながら内心笑いながら「善処しよう」と返事をした。




「……兄に会えないのは残念だが、発情期の際に襲うような男じゃなくて少し安心はした。 まだ父にバレる訳にはいかない、そろそろ帰るぞ」


「……………ああ、帰りの馬車は用意してあるのか」


エドワードはハッとしたように「用意してあります」と答えた。
この男もさすがにまずいと思っている所があるのだろう。
この事が上手く進んだとして、今までは家の他の使用人に任せていたクロウスへの対応もユリウスは任せかねない。こちらの家にそこまで信頼を持っていないユリウスが兄のことをこの男に任せることは予想できる。


「……その前に御手洗を借りても良いか」



「!ああ、部屋を出たら左に行けば突き当りにある」




そう言って、俺とエドワードという付き人を残し、ユリウスは部屋を出る。家の中に見られて困るものを放置してはいないし、その辺に使用人もウロウロいる。なにかする事もないだろう。

それに、2人になれたのは運が良かった。



「……おい、お前αだろう」


「!」


言うとすぐに反応し、これで今までよく隠せてきたものだなと思ってしまう。この反応を一目見ればすぐに分かる。



「……ユリウスの近くにいるためならば、βにでも成りすます訳か。 とても主人想いだな」



「……どうして私がαだと……、ユリウス様にβと紹介されたでしょう」


グッと顔を顰めながらも返答してくる。


「交渉なんて人柄を見るのが大事なんだ、常に人の表情や動きを見ているからな、それがいつの間にか日常的にしてしまうようでな。 βと言われた時のお前の顔が曇ったのに気づいてな」



「……ユリウス様に、言うのですか」



……俺にユリウスにお前がαだと告げて何の得にもならないな、と思い首を振る。


「言っても得にもならないしな。 何、そう構えるな。 ……ただ安心しろと言いたいだけだ。 俺もクロウスに他のαを近づける気はない。 お前も出来るだけ近寄りたくは無いだろう? こちらもそこに配慮する、それを言いたいだけだ」



「……そうですか」



ホッと安心したのかしていないのか、表情があまり変わらない男だな、そう思いながらふっと笑う。暫くして部屋のドアが開き、ユリウスがエドワードに「帰るぞ」と告げた。



二人が馬車に乗り込むのを見つつ、ユリウスが先に乗り込むと、一瞬だけエドワードが俺の方に向き直り、礼をする。



この礼が今日突然来たことに対しての謝罪の礼なのか、それとも先程の話の感謝の礼なのかは分からなかった。
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