対立していたはずの王子様に愛されたようで

永遠

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40 約束事

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40 約束事

発情期になってからというもの最初は挿れるのに苦労した玩具も、すっかり飲み込めるようになってしまった。
誰も見ていない、発情期なのだから仕方ないと思う自分の甘さで身体が欲しいままに惨めな姿になりながらも、それを許した。


発情期はそろそろ終わる頃だろうか、ポーっとした頭でそんなことを考える。暑苦しくて、籠りきった部屋に漂う自分から出された白い液体の生々しい臭いを換気するようになれたのは、今日が初めてだ。
今まではベッドから起き上がるのも、どうにもしんどかった。それでも最低量の水分、食事を摂取しなければならない。重たい身体を動かしながら何とかしてきた。


ベッドに散乱したティッシュに玩具らしきもの、それにヴァラドルのシャツ。既にヴァラドルの匂いより俺の匂いが付いてしまっている気がする。


「……洗いたい」


換気するために開けた窓から涼しい風が入ってくる。少し生き返ったような心地になる。玩具は水とティッシュで強く拭うようにして、自分の体液を取るように洗った。
ヴァラドルの服は勝手に水につけてよいものか分からず、そのままである。皺になりそうなので、なんとか洗って干したいのだが……。



「……クロウス、どうだ? そろそろ落ち着いたか」


ドアの向こうからメイリーの声がした。 ハーヴァよりもメイリーに頼むこと方が良いだろうと思い、ドアをガチャと開ける。
目の前に少し驚いたメイリーが立っていた。


「……少しはマシになったようだな。 だがまだ少し顔が赤いな、部屋に入ろう」



そう言って俺の額と頬に手を当て確認すると、部屋の中に入ってくる。そして、俺のフェロモンが漏れないようにか、ドアを閉める。


「……メイリー、その、コレ。 洗ってもらっても、良いか」


シワシワになったヴァラドルのワイシャツを差し出す。どう見ても使った後で少し恥ずかしいが、同じΩであるメイリーなら、理解してくれると思った。


メイリーは、すぐに「分かった」と言って、そのシャツを手に取った。


「……シーツも1度替えよう、さすがに今のままでは心地悪いだろう」



そう言われ、俺は無言で頷く。 そう言って、シーツをバサッと取るメイリーは俺の頭に手を置いた。


「……薬無しでの発情期は辛かっただろう」



まるで兄が出来たようだった。 少し撫でられるように手が動く。 何故か嬉しい気持ちになる。 人に褒められるという事がなかったかもしれない。



……だが、その手がヴァラドルのものでは無いと思うと少し切なく思っている自分がいる。 よく俺の頭を撫でるアイツは、毎日、何度も頭を撫でてくる。 その感触と近いものがあったからなのか、余計に思い出し悲しくなる。

メイリーに申し訳なさもありながら、そんなことを考える。



アイツに撫でられているのが遠い昔に感じるほど発情期が長く感じられた。もしかしたら実際に長くなっていたのかもしれない。 薬が無い分なのか、副作用として発情期が長くなっているのか、そんな風に感じる。


コンコンとドアをノックする音がする。メイリーはいるのだから、向こうにいるのはハーヴァ以外に有り得ない。


「お! 何とか持ちこたえたみたいだねー」


そう言ってハーヴァが部屋に入ってくる。 疲れもあってかコイツの相手をしたくない、という気持ちがある。



「熱はまだ少しある、発情期の残りだろう」


メイリーがハーヴァにそう伝えると、ハーヴァは医者のように「ふんふん」と言う。こいつがやると嘘くさい。


「……はい、これ。 抑制剤じゃないけど、熱冷ましの効果がある薬。 これくらいなら飲んでも身体に影響はないよ」


小さな小瓶に入った液体を俺に手渡す。少量の液体が入っており、それを一気に飲み干す。


「即効性はないから、まだ効いてはこないと思うけど、いくらかは楽になるはずだよ」



確かにすぐに熱っぽさが抜けることはなく、何も変わった気はしない。



「……クロウス君、これは教えていいのか分からないんだけど、……まぁ、アイツが嘘をつけるわけないと思うし、言っちゃうね」



瓶の空をメイリーが俺から取り上げる。そして、何かを察したように何も言わずに部屋を出て行った。
ハーヴァはいつもとは変わって少し躊躇っているようだった。


「……? なんだよ」



俺は待ちきれずに催促すると、ハーヴァは口を開けた。


「……弟君、ヴァラドルの城に来たらしいよ」



「……………え」


何の心も入っていないような声が出た。空気に浮くような重さのない声だった。
一瞬どういう意味か分からなかった。
弟……ユリウス……ヴァラドルの城………来た?



俺は薬が効いてきた訳では無いのに、体温が下がっていく感覚に陥った。
ユリウスがヴァラドルのもとに来た。 別にあの二人が対話しようと何だとまだ許せた。


……でも、父がユリウスをこちらに来ることを許すはずがない!


黙ってきたのか、それともまさか、父に逆らうようなことを言って、追い出されたのか…?

こんな俺なんかのために……? それはダメだ。 ユリウスの将来のためにこちらへ来たと言っても過言では無いのに……、それなのにユリウスが父に見限られるようなことがあれば……。



「………なんで……」



「理由なんて1つしかないでしょ、こーんな対立する家にわざわざ足を運ぶんだよ? 王家の息子が。 君を連れ戻しに来たに決まってる」



それはダメなんだ、ユリウス。 どうして、手紙ではあんなに普通だったじゃないか、別に音信不通になった訳では無い。ヴァラドルは手紙を出すことを許してくれていた。

……どうして……



「……ヴァラドルが言うには、付き人もいたそうだから、お父さんには出掛ける程度にしか伝えてないんじゃないかな」


付き人……エドワードのことか。その言葉に少しホッとする。1人で来たわけではないなら、まだ父に見限られた可能性は低い。


「……そんなに焦らなくてもヴァラドルは弟君のこと、お父さんに言う気はないそうだ」



……ああ、そうだ。 その心配をするのが普通か……。どうしてかヴァラドルは、そんなことをしないと決めつけていた。


「………あ、ああ。」


ハーヴァはニコニコ笑いながら、俺が全くヴァラドルが父にユリウスが来たことを伝えるなんて思っていなかったことを見抜いていたように馬鹿にする顔をする。


「……ヴァラドルと弟君の間に、1つ約束事が出来たらしいよ」



「……約束事?」



何だ?ヴァラドルが人を脅すようなことや金をせびるようなことを言うとは到底思えない。


「……お父さんの裏での取引について弟君に調べてもらう」


「……っ! そ、そんな危ないことをユリウスに……」


それこそバレてしまえば、ユリウスの立場があの家で無くなってしまう。そんなことをさせられない。



「……クロウス君、弟君のことを大事に思うことは大切だよ、でもね、弟君は危険を犯してまで君を取り返しにきた、そんな彼が薬について分からないまま君に何かあったらどうなる? 自分の身体の状態を優先させるべきだ」



ハーヴァは打って変わって真剣な顔をして、俺の身体を指さす。返す言葉が見つからない。それは正論だったから。


「……弟君だってもう子供じゃないんだ、自分がしたいことに責任を持っているはずだよ」



……だが、薬について分かったとして、俺の身体への対処法が見えたとしてどうなる? ユリウスはあの家でそれをずっと隠せるとは思えない。



「…ふふ、ヴァラドルって本当に面白いことを考えるよなぁ、約束事。 それの交換条件は、弟君がその情報を持ってくれば弟君もこちらの城に招き入れようなんて言うんだよ」




「……あ?」



俺はまた気の抜けたアホらしい声を出してしまった。
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