41 / 43
41 優先順位
しおりを挟む
41 優先順位
ヴァラドル=マルシャールのもとから帰ってからというもの、エドワードが俺の近くに現れることは無かった。まだ、1日も経っていないというのにいつも隣にいるはずの存在が、同じ建物内にいるのに自分の近くにいないことに違和感がある。
幼い頃から、兄さんが、兄さんだけが俺の世界の中心だった。兄さんと遊べる日はほとんどなかったが、それでもわずかに遊べた時間が楽しみで仕方なかった。
いつも、その横にアイツはいた。 何をする訳でもなく、ただ兄さんと俺を見ているだけだった。
時折、父に怒られないようにと上手く誤魔化して、兄さんに会わせてくれたこともあった。 きっと、そうだから俺の中でのエドワードという男は、使用人の中でも群を抜いて信頼していたのかもしれない。
家に着く頃にはすっかり外も暗くなっていた。 どうにもヴァラドル=マルシャールと話したからなのか、兄さんに投与されていた薬について驚き、父への怒りがあるからなのか、全く腹が減らない。
いつもエドワードに「食事は要らない」と伝えているが、そのエドワードが姿を見せないため、たまたま部屋の近くを通ったメイドにそれを伝えた。
エドワードは世話焼きだった。 もう18だという俺の食事や着替え、その他様々なことを手伝おうとする。さすがに子供ではないのだから、それを拒否した時もあったが、仕事だと言われると、何とも拒めなかった。
気づかなかった、いくら兄さんしか頭にないからと言って、あんなに近くにいた、唯一と言っていい。毎日会話を交わしていた男の気持ちに何も気づいていなかった。アイツの言い方だと、最近、ではなく、仕えてすぐの頃から何らかの感情があったのかもしれない。
それだから、変に世話を焼いた? 下心があったのか? なんて怒りがあってもおかしくないのにアイツに対してそう思うことはできなかった。
ただただ、申し訳ないと思うばかりだった。人と接するのが嫌いで、疲れるから猫を被って良い王家の息子を演じていた。それを誰にも悟られずにいたのは、エドワードが上手く俺と他の王家の人間の会う回数を少なくしていたからだ。
式典がある時は、いつも億劫だった。 人が集まり良い顔を振る舞うのは疲れる。精神的に苦痛で仕方がない。それの限界を気づいてか、よく父に何かと理由をつけて、式場から離れる口実を作っていたのもエドワードだ。
アイツはいつだって、俺の事を見ていて、1番に気づいてくれていた。
兄さんしか俺の世界にはいないのだから、俺がエドワードの気持ちに気づくわけないだろう、なんて言い訳は子供じゃないんだから……する訳にはいかない。
外に出かけた服のままベッドに仰向けに寝転ぶ。数時間経ってもアイツの声が聞こえない。着替えましょう、って言葉が聞こえない。
だが、正直今エドワードと顔を合わせて何を言えば良いのか。 何も言わなければアイツも何も切り出すことは無いのかもしれない。 有耶無耶にして、アイツの気持ち、言葉をなかったことには出来るのかもしれない。
勝手に、アイツが自分の中で俺への気持ちを捨ててくれるのかもしれない。
……それで良いのか? 俺は何の責任も持たずにこれからも兄さんについて考えて、アイツに父を探れと言うのか?
使用人だから、それが正しいのか……?
「…………なんですかって、言われも……分かんねぇよ」
エドワード=スコレッチ、それは確かに付き人、使用人、だけど他の奴らと同じ類ではない。友人でも、家族でもない。
俺の中でのエドワードは…………?
当たり前のようにそこにいた。 いないことの方が有り得ないくらいだった。
すると、ドアをノックする音が聞こえた。それに少し遅れて反応する。エドワードか? と思い、ベッドから起き上がる。
「ユリウス様、お召し物をお持ちしました」
女の声だった。メイドだろうか、着替えを持ってきたようだった。 エドワードは、来なかった。
すぐにドアを開けて、「ありがとう」とまた笑う演技をして服を手に取る。メイドは嬉しそうな顔をして、礼をした。
また……部屋に1人になる。
いつもならそのまま、エドワードが入ってきて着替えを手伝い始める。もちろん他の使用人はそんなことしないし、エドワードが父に言われ遠くへ行く時以外に他の使用人が服を持って来ることはない。
ゆっくりと自分の服を脱いでいく。
……もし、アイツが俺を恋愛対象として見ていたなら、当たり前のように俺の裸を見ていた時に、何も思わなかったのだろうか、それとも身体には一切興味がなかったのだろうか……。
そんなことを自分で考えることも気持ち悪い。1人で出来るのに、いつも勝手にアイツが進めるから、俺は何もしなくて良いから……、着替えることさえ何だか疲れてしまう。
これから、エドワードと一切話さないわけにもいかない。それこそ、父の仕事について詳しいのは、俺よりもアイツだ。何らかの情報を得やすいのもアイツ。
兄さんに投与された違法ドラッグについてを調べることと、エドワードとの会話を避けること、どちらを優先させるのか、いつもならすぐに決まっていたのに……。
今、アイツと話すことが躊躇われるのはどうしてなのか。
ヴァラドル=マルシャールのもとから帰ってからというもの、エドワードが俺の近くに現れることは無かった。まだ、1日も経っていないというのにいつも隣にいるはずの存在が、同じ建物内にいるのに自分の近くにいないことに違和感がある。
幼い頃から、兄さんが、兄さんだけが俺の世界の中心だった。兄さんと遊べる日はほとんどなかったが、それでもわずかに遊べた時間が楽しみで仕方なかった。
いつも、その横にアイツはいた。 何をする訳でもなく、ただ兄さんと俺を見ているだけだった。
時折、父に怒られないようにと上手く誤魔化して、兄さんに会わせてくれたこともあった。 きっと、そうだから俺の中でのエドワードという男は、使用人の中でも群を抜いて信頼していたのかもしれない。
家に着く頃にはすっかり外も暗くなっていた。 どうにもヴァラドル=マルシャールと話したからなのか、兄さんに投与されていた薬について驚き、父への怒りがあるからなのか、全く腹が減らない。
いつもエドワードに「食事は要らない」と伝えているが、そのエドワードが姿を見せないため、たまたま部屋の近くを通ったメイドにそれを伝えた。
エドワードは世話焼きだった。 もう18だという俺の食事や着替え、その他様々なことを手伝おうとする。さすがに子供ではないのだから、それを拒否した時もあったが、仕事だと言われると、何とも拒めなかった。
気づかなかった、いくら兄さんしか頭にないからと言って、あんなに近くにいた、唯一と言っていい。毎日会話を交わしていた男の気持ちに何も気づいていなかった。アイツの言い方だと、最近、ではなく、仕えてすぐの頃から何らかの感情があったのかもしれない。
それだから、変に世話を焼いた? 下心があったのか? なんて怒りがあってもおかしくないのにアイツに対してそう思うことはできなかった。
ただただ、申し訳ないと思うばかりだった。人と接するのが嫌いで、疲れるから猫を被って良い王家の息子を演じていた。それを誰にも悟られずにいたのは、エドワードが上手く俺と他の王家の人間の会う回数を少なくしていたからだ。
式典がある時は、いつも億劫だった。 人が集まり良い顔を振る舞うのは疲れる。精神的に苦痛で仕方がない。それの限界を気づいてか、よく父に何かと理由をつけて、式場から離れる口実を作っていたのもエドワードだ。
アイツはいつだって、俺の事を見ていて、1番に気づいてくれていた。
兄さんしか俺の世界にはいないのだから、俺がエドワードの気持ちに気づくわけないだろう、なんて言い訳は子供じゃないんだから……する訳にはいかない。
外に出かけた服のままベッドに仰向けに寝転ぶ。数時間経ってもアイツの声が聞こえない。着替えましょう、って言葉が聞こえない。
だが、正直今エドワードと顔を合わせて何を言えば良いのか。 何も言わなければアイツも何も切り出すことは無いのかもしれない。 有耶無耶にして、アイツの気持ち、言葉をなかったことには出来るのかもしれない。
勝手に、アイツが自分の中で俺への気持ちを捨ててくれるのかもしれない。
……それで良いのか? 俺は何の責任も持たずにこれからも兄さんについて考えて、アイツに父を探れと言うのか?
使用人だから、それが正しいのか……?
「…………なんですかって、言われも……分かんねぇよ」
エドワード=スコレッチ、それは確かに付き人、使用人、だけど他の奴らと同じ類ではない。友人でも、家族でもない。
俺の中でのエドワードは…………?
当たり前のようにそこにいた。 いないことの方が有り得ないくらいだった。
すると、ドアをノックする音が聞こえた。それに少し遅れて反応する。エドワードか? と思い、ベッドから起き上がる。
「ユリウス様、お召し物をお持ちしました」
女の声だった。メイドだろうか、着替えを持ってきたようだった。 エドワードは、来なかった。
すぐにドアを開けて、「ありがとう」とまた笑う演技をして服を手に取る。メイドは嬉しそうな顔をして、礼をした。
また……部屋に1人になる。
いつもならそのまま、エドワードが入ってきて着替えを手伝い始める。もちろん他の使用人はそんなことしないし、エドワードが父に言われ遠くへ行く時以外に他の使用人が服を持って来ることはない。
ゆっくりと自分の服を脱いでいく。
……もし、アイツが俺を恋愛対象として見ていたなら、当たり前のように俺の裸を見ていた時に、何も思わなかったのだろうか、それとも身体には一切興味がなかったのだろうか……。
そんなことを自分で考えることも気持ち悪い。1人で出来るのに、いつも勝手にアイツが進めるから、俺は何もしなくて良いから……、着替えることさえ何だか疲れてしまう。
これから、エドワードと一切話さないわけにもいかない。それこそ、父の仕事について詳しいのは、俺よりもアイツだ。何らかの情報を得やすいのもアイツ。
兄さんに投与された違法ドラッグについてを調べることと、エドワードとの会話を避けること、どちらを優先させるのか、いつもならすぐに決まっていたのに……。
今、アイツと話すことが躊躇われるのはどうしてなのか。
1
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。
宵のうさぎ
BL
異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。
しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。
漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。
「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」
え、後天的Ω?ビッチング!?
「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」
この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!
騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる