最愛のオメガ

マツユキ

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頼久の家から飛び出した華は、タクシーに乗って自宅まで帰っていた

玄関を開け、鍵を掛けるとそのまま崩れるように座り込み、自分を抱き締める

(怖い…嫌だ…)

Ωだと分かった時、本当は嬉しかった。昔は迫害に近い扱いだったΩだが、先人達の頑張りのお陰で人並みから、αと肩を並べる程にまで人権が回復したのだ

そして、αやΩの性を持つ者は等しく見目がよく、今では羨望されるまでに

両親は番同士で、双子の姉と兄はα。華は愛し合う両親を見て育ち、いつしか番に憧れるようになっていった。仲睦まじく、お互いを尊重し番ゆえに裏切られる事は皆無。そんな「番」は、華だけでなく、人々にとっても憧れとなっている

だから、自分がΩだと知ったとき、心から嬉しかったのだ

しかし、子供の頃の華は、発情期を迎えていないにも関わらず、放つ香りは強かった。Ωの香りは、大人であっても心の弱いものにとって、逆らえるものではなく、誘拐されそうになった事も数え切れない程あった

華は忘れられないのだ。誘拐犯の欲に濡れた顔が。自らの欲を、華で満たそうとする、その感情が

憧れは恐怖になり、やがて拒絶するようになっていった

『番なんていらない』

恐ろしくてたまらないのだ。自分もそうなってしまう事が

(Ωなんて、いらないのに…どうしてっ)

『私はΩなの』


逆らえない感情

抗えない欲求

見えない何かに引かれるように出会う二人

そしてお互いを求め合う

運命の番


言葉だけを聞けば、ロマンチックで素敵だと誰もが思うだろう。だが華には、まるで切れない鎖で繋がれている関係にしか思えなかった

たった1人、自分の運命の人にだけ香りが分かるのならば、素直に素敵だと思えたのかも知れない。だけど、現実はそうではない事を、華は身をもって知っている

(第二の性なんて、無くなればいいのに…)

人はいつも何かに左右されている。αやΩ、地位や権力。容姿の優劣をつけたがる人達。そんな人を、生まれ育った環境から、間近で見てきた華

特に一昔前までは、第二の性が重要視され、たとえ優秀であっても、第二の性がβならば、見向きもされない。それが当たり前だった世界

今はそんな考えや風習は消え去ったとはいえ、容姿による優劣は今も残っている

その傾向は、容姿に関わる仕事ほど検挙に現れている。迫害に近い扱いを受けていたΩでさえ、現代においては優劣をつける側にいる人も多いのだ

そんな事をして、何になるのか。人の価値は容姿で決まるのか?それとも優秀さで決まるのか。そこに、心根は関係ないのか

華は、人の価値はその心で決まると思っていた。他人を思いやれる人。気遣う事が出来る人。だが、そんな人は少ない。それが、現実だ

(…もう、嫌になる…)

何度となく思ってきた感情と、涙の冷たさを頬に感じながら、華は意識を手放した

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