裏切りの先にあるもの

松倖 葉

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ーーーーダンスホール




「モリス」

貴族男性との会話を楽しんでいた時名前を呼ばれ振り返る

「まぁ!お父様、お久しぶりですわ」

でっぷりとした体を重たそうにしながらガルバ・イーニアスがこちらに来ている所だった

「元気にしていたか?」

「もちろん。お父様はいかがお過ごしで?」

「まぁ、変わらず、だな。それよりもロイド君とは上手くやっているのか?」

モリスはクスクスと小馬鹿にしたような笑みを浮かべ

「上手くいっていますわ。変わりなく」

「それは何よりだ。」

その後、二人が他愛もない会話をしようとした時




「ごきげんよう。イーニアス殿」

上品でなを威厳のある声が穏やかに呼びかける

「…っ!こ、これは王妃様。ご機嫌麗しゅう」

振り向いた先に居たのはフローレンス・リンフォード王妃だった

フローレンスは穏やかな表情を浮かべている

「お久しぶりね。お元気でしたか?」

「え、えぇ、お陰様で」

「それは何よりです。……まぁ、お隣はモリス嬢ではないかしら?」

モリスに視線を移したフローレンスの表情は尚も変わらない

「お、王妃様・・お久ぶりに御座います」

「本当に、最後にお会いしたのはいつだったかしら……あらあら、わたくしったら今は侯爵夫人と言わねばならなかったわね。」

「い、いえ…」

「あの時わたくし本当に驚いたのよ?接点のなかったロイドとあなたが婚約したいと言って来た時は」

変わらないフローレンスの表情が恐ろしくてならない

王であるアーネストも決して簡単な人物ではない。穏やかな表情の裏には何を考えているのか分からない。しかしこの王妃であるフローレンスにも同じ事が言えるのだ。王族は皆食えない連中ばかりだ。ガルバはそう思っていた。

「い、以前お見かけしたさ、際に一目惚れしましたの」

モリスは緊張からつっかえながら話す

「そう……晩餐会楽しんでくださいね」

少し低くなったフローレンスの声にびくつきながらも返事を返し、去って行く後ろ姿をみてホッとため息をこぼす

「いったいなんだったのかしら……」






そのあとダンスホールに集まるように声がかかった





「皆、楽しめたであろうか。今夜は王子が皆、参加している。そこで王子たちがダンスを披露するのはどうかな?」

アーネストの言葉に令嬢たちは色めき立つ

「ハハハッよかろう!では王子たちから申し込まれた令嬢は心行くまで楽しむがよい」

アーネストの言葉が合図となり王子たちがダンスホールへ降りてくる皆それぞれご令嬢に声をかけダンスを始めた

しかし令嬢が注目していたのはサフュラス・リンフォードがどの令嬢に申し込むかである

第一王子のサフュラスは美しい金糸のような髪にサファイアの様に美しい瞳、高い身長だが物腰が柔らかくまさに理想の王子様だった

サフュラスは迷うことなく一人の令嬢の前で止まった

「踊っていただけますか?」

申し込まれた先に居たのは珍しく顔を赤くしたキャロルが立っていた

「よ、よろこんで!」

興奮のあまり声が少し裏返ってしまう

サフュラスは手を取り中央へ進み腰に手を添えダンスを始める

「悔しいけれど…お似合いですわ」

令嬢たちの話声にキャロルは天にも昇るような気持だった

(あのサフュラス様からダンスの申込受けたのはこの私!やっぱり私を好きにならない男なんていないのよ!)

得意げな表情を浮かべるキャロル。それを見ていたサフュラスが声をかけた

「キャロル嬢、楽しんでおられますか?」

突然話しかけられ驚いたキャロルはいつも男性に対してする表情を慌てて作る

「えぇ、殿下。殿下とダンスしているんですもの。とても嬉しいですわ」

「そう、それは良かった。後が楽しくないからね」

「え?」

少し低くなった声に驚きつつ最後の言葉が理解できないキャロル

「いや、こちらの話だ。」

それっきりサフュラスが話すことは無かった。だがキャロルは有頂天であった事もありさして気にすることもなかった

音楽が止みそれぞれが元の場所へ帰って行く

「キャロル様!素敵でしたわよ」

すれ違う令嬢たちが口々に賞賛を浴びせる

有頂天を通り超えキャロルは自分が妃になったような気分だった




「楽しめたようで何よりだ。さて、私から皆に報告することがある」

前回の晩餐会と同様にざわめきだす貴族たち

「私の言葉をよく聞き、そして理解してほしい。まずはいい知らせだ。前回の晩餐会でも言ったがアランとセシル嬢の婚姻の日取りが正式に決まった。アランは私の甥である。ゆえに盛大に祝ってやりたい。そこでこの王宮にて式を行う事とした。これは私だけではなく王妃や王子たちからの願いでもある」

前例のない事に貴族たちのざわめきは大きくなるが『王妃』と聞くと段々と静かになっていった

「そして……」

「意義ありですわ!!」

アーネストの声を遮りキャロルが叫んだ。静かになっていた事もありその声はより大きく聞こえた

貴族たちは水を打ったようにピクリとも動こうとはせず皆青白い顔をしていた

『王の言葉を遮る』臣下であっても決してしない事だ。いや、してはいけない事なのだ

皆の視線がアーネストに向く。みた先のその表情は穏やかでありそれがとても恐ろしい

「……キャロル嬢。意義があると、申してみよ」

鼻息荒く話し出す

「セシルはアラン様とは結婚などいたしませんわ!」

「それはセシル嬢が申した事か?」

穏やかに聞き返す

「えぇ!言いましたとも!」

セシルが一度も言っていない事を平気で言ったと嘘をつく

少し離れた所にいたセシルは両の手を強く握りしめていた。

握りしめた手の上から大きな手が重なり優しく包み込む

はっとして上を見るとアランが優しく微笑んでいた

「セシル、私はあんな言葉など信じない。」

「…ありがとう、アラン」

悔しい、どうしてと思っていた先ほどまでの気持ちが無くなるのを感じる

「セシル、行こうか…」

「えっ…?」

セシルの困惑を気にせず歩き出すアラン

進む足取りに迷いは無かった
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