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第一章 始まり
第四話
しおりを挟む~東の森~
ガタ ゴト
馬車に揺られる。
「殿下、いったいどちらに向かわれているのですか?」
「そうだな…場所も聞いていない」
同行することが決まった翌日、目的地も知らされないままだった二人だが帝国を出発しで今日で7日目。まだ到着しないのかと言う気持ちも込めてラシードを見る。
「……この森は美しいと思わないか?」
「えっ?…確かに、この森はとても澄んでいて美しいですね。」
検討違いな事を聞かれてユアンは困惑するものの、東の森に入った時この森に心奪われていたのも確かである。
「…言われてみれば確かに」
ジェラルドも同じ事を感じていた。
「帝国からかなり遠くまで来ましたが、この森を拝見するためだと言われても不思議ではありませんね」
「まぁ、それは言えてるな。こんな森はめったに見ることはないだろう」
「今から行く場所にお前達もよく知っているものを潜入させている」
「私たちの知るもの…ですか」
「あぁ、知らせがが来たときこの森が映っていた」
ラシードは酷く穏やかな表情でその時の事を思い出していた
「それでここまで出向いたと?」
「ふっ…まぁ理由の一つだな。ただ…この森を見たとき何故か行かなければと思ったんだ」
「……って事は、目的地は近いと言う事だな」
「…あぁ」
ラシードは自分の目的を思い出したのか表情から穏やかさは消え厳しいものになる
馬車が止まった
話しをしているうちに目的の場所についた様だ
ガチャッ
「到着いたしました」
「ご苦労……さぁ、始めようか」
問題の解決の為に訪れた皇子はかの地に降り立った。
~シェリ~
「お帰りなさいませ旦那様」
使用人達が綺麗に整列し屋敷の主を迎える
「セオドール…子供を連れてこい」
「承知いたしました」
男は屋敷へはいっていく
「参りましょう愛し子」
セオドールは優しく微笑みシェリの手をとる
「あっあの!僕は…それに愛し子って…」
「ご安心を…私にお任せください」
シェリは困惑するがそれ以上何も言えなかった
~書斎~
「セオドール、お前は下がって良い」
シェリの体がはねる。恐怖がシェリを支配していた
怖い!助けて!
その時セオドールの落ち着いた声がシェリに届く
「それはなりません、旦那様」
「…なに?貴様…自分が何を言っているか分かっているのか?」
「もちろんでございます」
「!!貴様!私に逆らうとは…!」
セオドールの変わらぬ態度に男は顔を真っ赤にし激怒する
「一つ申し上げておきます。まず、私は使用人ではございませんし今までも貴方に使えていた訳ではございません」
「…なに!?何を言っておるのだ!?」
「お分かりになりませんか?」
セオドールが意味深に男に言った時
バンッ
勢いよく扉が開かれた
「旦那様!至急お出でください!」
使用人が慌てた様子で入ってくる
「何事だ!許可なく入ってきよって!貴様も私を愚弄するつもりか!?」
「そっそんなことは!兎に角急いでお出でください!」
「だまらんか!」
男は怒りで益々顔が赤く染まっていく
「私を愚弄しおって!!この役立たずが!」
使用人を強く蹴り上げる
「…っし、しかし旦那様っ!」
コン コン
「失礼するよ」
使用人の後方から声がした
「やぁ、サルマン殿」
「…で、殿下!」
ラシードの突然の登場に顔を真っ青にするサルマン
「こんな所に居られたとは、探すのに随分かかってしまった」
声は穏やかだが目が全く笑っていない
「…っどうして!」
焦りと恐怖が入り混じり一歩後ずさる
「ここが分かったか…か?さぁ、どうしてだろうな」
サルマンの言葉を遮りラシードは続けた
サルマンは少し考えた後ハッとしたようにセオドールを見る
「だから申し上げたでしょう?お分かりになりませんか…と」
まるでラシードが来ることを知っていたかのように落ち着いている
「きっ貴様!」
「もう諦めるんだな……早く差し出せ。」
ラシードの声が少し低くなる
「……な、なんのことだか。私には検討もつきませんなぁ」
恐怖を感じてるが虚勢を崩そうとしないサルマン
「……お久しぶりですねぇ、サルマン殿」
ラシードの後方から声がした。サルマンは声の方を見ると青かった顔色が更に青くなって行く
「…!ユアン・オズウェル!貴様がなぜここに…!」
ワナワナと震える声でユアンの名を呼んだ。拒絶反応からか体が一歩づつ後ずさって行く
「おや?私は殿下の側近ですから、居ても不思議ではありませんよ?」
サルマンにゆっくりと近づきながら話し出すユアンの顔には満面の笑みが浮かんでいる
「…っ!近づくんじゃない!」
「…おやおや、私はご挨拶をと。まぁ、いいでしょう。早くお持ちになって頂けますか?殿下はお忙しい方なので」
なおもサルマンに近づいて行くユアン
「しっ知らぬ!私は何も持ってなどおらぬ!」
「そんなはずはありませんよね?」
ユアンは右手でサルマンの足元を指す。
サルマンの足はゆっくりと凍り始めていた
「ひぃぃっ…!やめないか!」
「何をですか?変ですねぇ…」
なおも凍り続けるサルマン
「この外道が!こんな事が許されるはずはない!」
「…わめかずに早く場所をおっしゃって頂けませんか?」
「黙れ!!私は知らんと言っておるだろう!」
「はぁ…」
ユアンは少し右手を上げた。サルマンの下半身は既に凍っている
「ひいっやめろ!」
「早く言えと言っているでしょう?私は気が長くないのですよ?困らせないでください」
「やめろ!やめてくれぇぇ!」
「でしたら早く言って頂けますか?」
「っくそ!くそッくそッ!!」
「はぁ……『ブリザド』…殿下、さっさと終わらせましょう」
このやり取りに飽きてきたユアンはめんどくさげに口以外を凍らせラシードを見た
「…お前は……まぁいい、サルマン…お前が『竜の子』を持っているのはわかっている。『竜の子』は我ら人間が持っていて良い代物ではない。個人の物にするなどなおの事。」
「…あがっ!…っ!」
「お前も知っていると思うが、『竜の子』は神の使者であり精霊の守り人でもある。この意が分かるな?」
「!!あっつがふ!」
「よって、お前を帝国に連行し法の裁きを下す……先程から煩いぞ?」
「殿下、サルマンは喋れないようです。このまま連行しましょう」
(お前ら鬼畜かよ…)
ジェラルドは心の中で思うのだった
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