遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第一章 黒神子レスフィナとの出会い編

7.町を崩壊させる異世界召喚者の恐怖

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           7.町を崩壊させる異世界召喚者の恐怖


「はあ、はあ、はあ、ハルばあちゃん、ハルばあちゃん、どうか無事でいてくれ。まだ俺、ハルばあちゃんにちゃんと謝ってもいない。だから、頼むから、神様……神様……どうかハルばあちゃんを守ってくれ!」


 所々で大きな爆発音と逃げ惑う人々の悲鳴が響き渡る。
 そんな町の凄惨な様子を視界に入れながらラエルロットは必死で木々が生い茂る山を降りていく。

(あの爆発は一体なんだ。なにがこの辺りで起きようとしているんだ?)

 そんな疑問を必死に考えていたラエルロットだったが、今はハル婆さんの身の安全の方が何よりも優先だと考えを改めると、急ぎフタッツイの町の隣にあるヒノの村へと全速力で走る。

 まだ村の方には被害が広がってはいないようだが、それでも何やら嫌な予感を拭いきれないでいるラエルロットは家にいるはずのハルおばあさんの安否だけを本気で心配する。それもそのはず何故ならもう肉親と呼べる家族はラエルロットの帰宅を今も待っているハルおばあさん、ただ一人だけだからだ。

 心から本気で心配してくれるただ一人の祖母を突然失うかも知れないという恐怖に、ラエルロットは泣きそうになりながらも家路へと急ぐ。

 そうラエルロットは昔からおばあちゃんこだったのだ。

 数年前、冒険者をやっていた父と母が突然行方不明になってから、ラエルロットとハルおばあさんはかたみの狭い思いをしながらも、二人で身を寄せ合いながら今日まで必死に生きてきたのだ。そんなハルばあちゃんに何かの危険が迫って来ているかも知れない。そんな嫌な胸騒ぎを必死に押さえながら、ラエルロットはヒノの村の入り口を示す高い立て看板を通り過ぎる。

(村は……ヒノの村の様子はどうやらいつもと変わりは無いようだ。良かった……本当に良かった。ど、どうやらみんな無事のようだし、俺の取り越し苦労だったようだな)

 そうラエルロットが心の底から一安心していると、その安堵と同時に行き成りヒノの村の家々の壁が・屋根が・木材の柱が次々と勢いよく爆発し、全てが崩壊し始める。

 ドカアァァァァァーーン! バッコオオォォォォーーン! ズッゴッオオォォォォォォーーン!

 その突然起きた凄まじい爆発音は村中に響き、燃え盛る炎と爆風はまさにこの世の地獄を演出しているかのようだ。

「きゃああぁぁーーっ! 誰か、誰か、助けて!」

「なんだ、この爆発と炎は、一体なにが起きているんだ? 逃げろ、今すぐに逃げるんだ!」

「うわぁぁぁぁーーみんなヒノの村から出ろ。ここにいたら謎の爆発と炎に巻き込まれるぞ。早くしろ!」

 突然起きた爆発と爆風に村の家々で暮らしていた村人達は命からがら脱出し、不幸にも逃げ遅れた人達は外で畑仕事をしていた村人達にどうにか助けられる。
 そんな地獄のような光景を目にしたラエルロットは今まさに目の前で起きているこの現実がまだ信じられないでいる様だったが、直ぐに我へと帰ると直ぐに自分の家へと走る。

(なんだ、何なんだよ、この光景は、意味が……意味が分からないよ。だってついさっきまでいつもと変わらない町の風景が見えていたじゃないか。それなのに何だよこれは。これじゃまるで戦争状態じゃないか。まさかこの機会に領土を広げようと戦を仕掛けてきた何処かの国の勢力か。或いは邪悪な野心を持つ魔物でも攻めて来たのか?)

 いろんな可能性を考えながらもラエルロットはどうにか自分の家へとたどり着く。だがそこでラエルロットが見た光景は、明らかに彼を動揺させるには十分な物だった。

 家の屋根を支える柱が折れた事で、その重みに耐えられなくなった木造の古い家は、黒い煙を上げながら見事に全て倒壊し、家の中にあった様々な壊された食器や家具の破片が、その爆発の凄まじさを強く強調する。

「ハル婆ちゃん……まさか……まさか……いいや、そんな事があるはずがない。絶対に生きている!」

 ラエルロットは足下に転がる様々な家の残骸を見ながら、その中から見慣れた物を無造作に取り出す。

「こ、これは、確か……ハルばあちゃんが俺のためにわざわざ作ってくれた。この村の外れの聖堂の横に生えている、御神木の木の枝を頂いてそこから作ったという一振りの木刀だ。この木刀がここに転がっていると言う事は……まさかハルばあちゃんもこの崩壊した家の下敷きになっているんじゃないだろうな。もしそうなら早く助け出さないと」

 ラエルロットは家の残骸から見つけ出した一振りの木刀を腰のベルトに引っ掛けると、崩壊した家の残骸をどかしながら必死に付近を探し始める。

「ハルばあちゃん、どこだ。もしこの声が聞こえたら返事をしてくれ! どこだ、一体何処にいるんだ。ハルばあちゃん! ハルばあちゃん!」

 崩壊した家によたよたと駆け寄るラエルロットはその信じられない光景に取り乱しながらも、辺り構わず懸命に瓦礫を退かす。

(ハルばあちゃんは恐らくはこの家の中にはいない。そうに決まっている。きっとフタッツイの町の爆発騒ぎの噂を誰かから聞いてきっと何処かに避難しているんだ。そうだろうハルばあちゃん。お願いだから、今はどうかこの家の中にはいないでくれ! 頼む、頼むから……)

 そう心の中で必死に願いながら捜索するラエルロットの家の前に、どこから現れたのかよく分からない数人の男女がニヤニヤとした笑みを浮かべながら必死に家の瓦礫を退かすラエルロットを見つめる。

(一体誰だろう、こんな非常時に? だけど今は緊急事態だし、猫の手も借りたい程だ。一体どこの誰かは知らないが、ここは彼らにも協力を仰ぐことにしよう。)

 そう思ったラエルロットは恥を忍んで数人はいると思われる彼らにもハルおばあさんの捜索を手伝って貰おうと必死に声を掛ける。

「あの~すいません。見ず知らずの方にこんな事を頼むのも大変申し訳ないのですが、うちの祖母がこの倒壊した家の中にもしかしたらいるかも知れないんです。もしよかったら一緒にうちの祖母の捜索を手伝っては貰えないでしょうか。どうか、どうかお願いします。一緒にハルばあちゃんの捜索を手伝って下さい!」

 深々と頭を下げるラエルロットの必死な頼みに、その数人の中の一人の男が「いいぜ。手伝ってやるよ」と言いながら隣にいる白い衣服を着た高貴そうな女性に話し掛ける。

「ミランダ、やれ!」

「はい、分かりました。マスター……」

 淡々とした口調で声を発したその女性の言葉と共に体全体から繰り出される衝撃波が瓦礫の中にいるラエルロットを避けたかと思うと、そのまま家の瓦礫を全て後ろへと吹き飛ばす。

 バッシュウウウゥゥゥーーン! ガラガラガラガラガラ、バラ、ガラーーン!

「ああぁぁーっ、俺の家がぁぁぁ……な、なんてことをするんだ。もしあの瓦礫の中にうちの祖母が紛れていたら一体どうするつもりなんだよ!」

 後ろへと吹き飛ばされた瓦礫に必死に駆け寄るラエルロットは家の瓦礫を突然なんの警告も無く吹き飛ばしたその者達に抗議の声をあげる。

 だがそんなラエルロットにその男女達は皆ニヤニヤと笑ったままだ。

 ラエルロットはその如何にも怪しげな男女のよそ者達を警戒しながら不審な目を向ける。

 その怪しげな風貌と高貴そうなオーラを身に纏ったまるでよそ者の冒険者と神官のような格好をした男女の人数は全部で五人いた。

 一番後ろにいるリーダー格と思われるきらびやかな白い鎧に赤いマントを付けた男は何やら興味なさそうにラエルロットを見つめ。
 その隣にいる、黄色い鎧を身に着けた卑屈そうな男はその白い鎧の男にペコペコと頭を下げながらラエルロットをまるでゴミでも見るかの様な目で冷ややかに見つめる。

 更にその中心にいる二人の男性の回りには白い衣服を着た三人の女性がその黄色い鎧を着た男を守るかの様にまとわりつき、まるで恋愛感情を抱く下僕の様にその可愛らしい顔を赤く染める。
 見た感じでは、その三人の高貴そうな女性達は皆かなりの美人のようだ。そんな三人の女性達の正体に気付いたラエルロットは信じられないというような顔をしながら思わず絶句する。

「ま、まさか……その三人の女性達は、この地上におわす女神様からご加護の力を授かり、人々を救う使命を託されたとされるエルメキアの聖女様達か。しかも三人もの聖女様達が一人の男にまるで媚びるかの様に付き従っているだなんて、何だか可笑しいぞ。本来、一級冒険者とパートナーが組める相棒の聖女様は元来一人と決められているはずだ。なのにどうして……まさか俺の目の前にいるこの男達は一級冒険者じゃないのか?」

 そんな素朴な疑問を黄色い鎧の男に投げかけると、その黄色い鎧を着た男はまるでラエルロットを馬鹿にするかのように突如喋り出す。

「あれ、村の住人Aのモブキャラが何かしゃべり出しましたよ。不知火先輩、こいつはどうしますか?」

「どうするも何も、そんなモブの雑魚キャラはほっとけよ。ただの村の住人だろ。この村に封印されてあると言う、色々と疑惑付きのあるあれを回収したら直ぐに撤収するぞ。こんな田舎臭い何も無いところにいるのは流石に時間の無駄だからな。お前のように無駄に遊んでいる時間は俺には無いんだよ」

「え、いいじゃないですか、モブキャラ達が住む町を壊すくらい。だって昨日、一級冒険者を名乗る、緑の星に住む人間の男から無理矢理に奪い手に入れたこの聖女の能力とその性能をどうしても試して見たかったんですよ。何せ昨日俺に挑んできた一級冒険者の男がこれ妙がしにその聖女の爆裂の能力を俺に見せつけて攻撃して来ましたから、俺もその聖女の能力がどうしても欲しくなって、思わずその男からその聖女を取り上げちゃいましたよ」

「ああ、そうだったな。俺達の行いにぶち切れたその正義を振りかざす一級冒険者とやらが俺達に果敢にも挑んで来たが、お前が町の人間を卑怯にも人質にして有利に戦った挙げ句、倒した一級冒険者の男からその聖女とやらを強制的に取り上げて自分の女にしてしまうとはな。その行いはまるで鬼畜の所業だぜ。ハッキリ言って陰険で嫌な性格をしているよ、お前は」

「はははは、不知火先輩、それは言いっこなしですよ。俺はただあの男とその聖女とやらが恋人同士のいい関係みたいだったから、ついぶち壊してやりたくなっただけの事です。愛と絆の力が俺を極限まで強くするとか恥ずかしげも無くほざいていましたから、その言葉が本当かどうかどうしても試してみたくなったんですよ。まあ、その化けの皮は直ぐに剥がれるんですがね。はははは、敗者はその残酷などうにもならない現実を素直に受け入れろという話ですよ。全く弱い癖にこの緑の星の人間達は皆いきり立ちますからね。それに何だか随分と一級冒険者のその男は、聖女の力を持つその女を大事にしているみたいでしたからね。もしその女を俺の所有物に出来たらその男が一体どんな顔をするか、どうしても見たくなったんですよ。その聖女が俺のパートナーになった時のあの男のどうにもならない悲痛な顔が今でも忘れられないですよ。はははははははは、昨日の光景が今も目に浮かぶようだ。あの絶望しきった間抜けな顔が今も忘れられないぜ。ああ、おもしれえ、この世界に住む緑の星の人達を虐めるのは、滑稽だしおもしろ過ぎるぜ!」

「そうだったな。お前が、その聖女を強制的にパートナーにした時は、あの一級冒険者の男もとても信じられないと言った顔をしていたからな」

「その聖女とか言う爆裂女も最初は、俺のことを『あなたの悪行はどうしても許せない』だとか『あなたのような人間のクズに私が従う訳がない』とか散々罵声を浴びせていたが、無理やりパートナーとしての契約の儀式を半ば強制的にしてやったらすっかりおとなしくなって今では従順な俺の下僕へと成り下がっていますよ。この女が使う爆裂の神力は意外と使えますからね。何処まで使えるか、試してみたかったんですよ」

「昨日に続き今日はフタッツイの町とこの寂れた田舎の村をぶち壊してやっているからな。もうこれくらいで充分だろ、これ以上はもう時間の無駄だ。早くこの村にあるとされる物を速やかに回収して、この辛気臭い村を早く出るぞ」

「そう急かさないで下さいよ。もうちょっと遊んで行きましょうよ、不知火先輩!」

 まるで上司に媚びるかのように黄色い鎧を着込んでいるその男はこの村での暇つぶしとも取れる危険な遊びを提案するが、不知火と呼ばれている男は何かを思い出したのか憮然とした態度で話し出す。

「そう言えばお前の傍にいる爆発の権能を使うその女は、聖女になる前は、あのフタッツイの町に住んでいた女性のようだぞ。子供の頃からフタッツイの町に住んでいて、一級冒険者のその男とは仲のいい幼馴染みの関係だったとの事だが、だからこそその絆も他の一級冒険者達と比べてかなり強かったんだろうぜ。その爆裂魔法を使う聖女は『自分が命に代えてもこの町を守る!』とか言っていたが、その聖女自身の力で、生まれ故郷とも言うべきあのフタッツイの町を崩壊に導いてしまうとは、なんだか皮肉な話だ」

「まあ、そこに生きる住民達を一人残らず爆裂の能力で殺せと命じたのは、この俺なんですがね。ハハハハ!」

 そう言うとその黄色い鎧の男は目の前にいる女性の頭をまるで愛玩動物でも触るかの様にいやらしく撫で回す。その男の行為に爆裂の聖女は頬を赤く染めながら潤んだ目でその行為に応える。

 恐らくこの女性が、昨日その一級冒険者の男と共にこの黄色い鎧を着た男に果敢にも挑んで……そして負けて返り討ちにされた、爆裂の神力を使う聖女様なのだろうが、自分の故郷を守る為に立ち向かったその時の勇猛果敢な思いはもう何処にも無いようだ。

(一級冒険者と聖女様とで交わしていた神の契約を無理矢理に変更させて、自分のパートナーにしただとう。そんな事が実際に可能なのか? 一体こいつらは何者なんだ。聖女様達を三人も引き連れて歩いているから、一級の資格を持った冒険者じゃないのか? でも今の話の流れじゃ~この二人の男は昨日、その一級冒険者の有段者と戦い、そして対峙をしている。と言う事は少なくともこの二人の男は一級冒険者では無いと言うことだ。と言う事はまさか……)

 この二人の男達の会話を聞いて何かの結論に至ったのか、ラエルロットは黄色い鎧を着た男にあることを確認する。

「それで……その爆裂の能力を使うとか言う聖女様があんたの隣にいると言う事は、その後その一級の冒険者の男は一体どうなったんだ?」

「ん、ああ、勿論殺したよ。俺に負けたんだから当然だろ。ちゃんと死ぬ間際にこの聖女は使えなくなるまで俺が責任を持って可愛がってやるから安心して死ねや……と言ってやってからキッチリとこの聖女自身の爆裂の能力の力で後腐れの無いようにトドメを刺してやったよ。だから奴も本望だっただろうぜ。なにせ最後は自分が最も愛すべき女性の手に掛かって死ねたんだからな。ハハハハ、俺って優しい奴だろ!」

(このサイコのクズ野郎が!)そんな思いを抱きながらラエルロットはその黄色い鎧の男にその正体を聞く。

「お前ら……もしかして、地球という星から来たという、あの異世界召喚者か!」

「ああ、そうだがよくわかったな。まさかただの村の住人のモブキャラにそんな事を聞かれるとは思わなかったぜ」

 特に悪びれる様子もなくそう言うと黄色い鎧の男はラエルロットに屈託のない邪悪な笑みを向ける。その男の態度にあの町を崩壊させた謎の爆発事件はこの男達が三人の聖女様達を使って引き起こした物だと初めて実感する。

 ラエルロットはこの二人の男の危険性と事の重大さに絶望的な予感を覚える。

(い、異世界召喚者だとう。つまりは地球人か。やばい、こいつらはなんだかやばすぎる。抵抗する聖女様達の認識を変えてしまう程の契約変更のチート級の能力スキルも持っている。恐らくは他の二人の聖女様達も同じ方法で自分の戦力に加えているんだろう。だからあの三人の聖女様達はあの黄色い鎧の男に付き従っているんだ。自分の手は汚さずに敢えてその聖女様達に人殺しをさせているだなんて、まさに鬼畜の所業だぜ。あの黄色い鎧の男はどんだけサディスティックなんだよ。だけどこれはやばい、かなり不味い状況だぞ!)

 そう結論づけたラエルロットは、その黄色い鎧を着た男を恐怖の目で見る。黄色い鎧の男が一体何を考えているのかは正直分からないが、これから良くないことが起こる事だけは確かな様だ。

「今、町で起きている謎の爆発事件は、みんなお前らの仕業か。なぜこんな酷いことをするんだ。死人だって出ているかも知れないんだぞ!」

「ただの村の住人Aのくせにうるさいな。こいつ殺していいですか。不知火先輩」

「フ、田中、お前の好きにしろ。そんな事よりも早くある物を回収して帰還するぞ」

「と言うわけだ。おい、リリヤ、やれ!」

「はい……分かりました、マスター。爆裂!」

 田中と名乗る男の命令で突如動き出したリリヤと名乗るその聖女はラエルロットに向けて行き成り容赦の無い爆裂の魔法の能力を発動させる。その瞬間ラエルロットの足下が爆発し、ラエルロットは大きな爆発音と膨大な土煙と共に勢いよく後ろへと吹き飛ばされる。

 勿論、ラエルロットが腰に下げている不格好な木刀も爆風と共に勢い良く宙へと舞う。

 ドッカアァァァァーーン!

「ぐわあぁぁぁぁーっ!」

 後ろへ三十メートルほど吹き飛ばされたラエルロットは無様に地面へと倒れるがその衝撃で左足が折れる。どうやら足下で爆発が起きたことでその衝撃に左足が耐えられなかったようだ。

 ラエルロットは折れた左足の痛みに悶絶しながらも涙目になりながら田中と名乗る異世界召喚者を見る。

(殺される。あいつは本当に俺を殺す気だ。恐らくその理由は大した理由ではない。ただ俺を邪魔だと思ったから、まるで蠅でも叩き殺すかのような感覚で俺も……町の人達もみんな殺すつもりなんだ。確かこいつらが、町を破壊しまくっている理由は、昨日手に入れたこの聖女様の能力が一体どんな物なのかを見るためとか言っていたな。そんな事のために何の躊躇もなくこんな大それた破壊を繰り返すとは、こいつらかなりいかれてやがる。早く、早くここから逃げないと……)

 折れた左足を引きずりながらラエルロットは惨めな醜態をさらすと急ぎ地面を這って進もうともがくが、その田中と名乗る異世界召喚者はゆっくりとした足取りで動き出すと倒れているラエルロットの前へと迫る。

(明らかに俺をいたぶって楽しんでやがる。直ぐには殺さず俺が逃げられないように先ずは足を破壊したのが何よりの証拠だ)

 ラエルロットは最後の最後まで諦めずに何とか必死になってその場から逃げようとしたが、直ぐに田中と名乗る異世界召喚者に追いつかれてしまう。

 軽く蹴りを入れられた事で無様にも倒れてしまったラエルロットは尚も地面を這う芋虫のように必死にその場から立ち上がろうとする。そんな惨めな姿を見つめながら田中と名乗る異世界召喚者のその男は、今も惨めに地面を這うラエルロットに向けて自分が何者かを名乗りだす。

「最後に名乗らせて貰おうか。俺は田中だ。職業は勇者だ。そんな訳でとっとと死ねや、モブキャラ!」

(勇者だとう……こんな奴が……)

「なんで、なんで俺が死なないといけないんだよ。俺が一体あんたらに何をしたと言うんだ!」

 必死に叫ぶラエルロットに勇者田中が笑いながら答える。

「いや、何となくお前がむかついたからかな。別に殺していいかな~と思ってな。どうせお前はただの村の住人Aだろ、なら俺に消されても別に不都合はないよな」

「そんな事のために人の命を……お前は一体何を考えているんだ!」

「ああ、うるさい、うるさい、そういう所だよ。たかだか村の住人Aの分際で異世界召喚者の勇者でもある俺に意見すること自体が無礼なんだよ。身の程をわきまえろ、この雑魚キャラが。おい、リリヤ、もう一発こいつの全身の骨が折れるくらいの派手な爆発を頼むわ!」

「わあぁぁぁーやめろ! やめてくれ。助けて、助けて下さい!」

 容赦のない攻撃を爆裂の聖女リリヤに命令する勇者田中の前に、よたよたとおぼつかない足取りで、ある一人の老婆が駆け寄る。
 まるでラエルロットを守るかのように勇者田中の前に追い縋るその必死な姿には見覚えがある。そうラエルロットの祖母、ハルおばあさんである。

 ハルおばあさんは勇者田中の前まで来ると、その年老いた小さな体を震わせながらよたよたと土下座をする。

「おいおい、何の真似だ。婆さん?」

「何かラエルロットがあなた様に対して無礼をしたのなら私が代わりに謝ります。だから、だから、ラエルロットの命だけはどうか見逃して下さい。どうかお願いします! 何とぞどうか、どうか……」

(ハルばあちゃん……無事だったんだな。だったら何故ここに出てきたんだ。こいつらは極めて危ない奴らなのに。逃げろ……俺のことはいいから、今すぐに逃げてくれ!)

 そんなラエルロットの願いとは裏腹にハルおばあさんは頭を地べたにこすりつけながら必死でラエルロットの命乞いをするが、そんなハルおばあさんに勇者田中は「こいつも何だか、うぜえーな」と言いながら腰に下げていた長剣を抜くと、その剣の刃をゆっくりとだが確実に、ハルおばあさんの背中へと深々と突き刺す。
 その上からの一撃は背中から胸へと貫通し、ハル婆ちゃんの胸からは大量の血が地面へと流れ落ちる。

「ラ……ラエルロット……ごめんよ……」

 涙を流しながら地面へと倒れるハルおばあさんを見たラエルロットは今起きている状況が信じられないと言うような顔をしていたが、直ぐに我へと返ると必死にハルおばあさんの名前を呼ぶ。

「ハ、ハ、ハル……ハルばあちゃあぁぁぁ~ん! なんで、なんで、ハルばあちゃんがこんな死に方をしないといけないんだよ。俺達が一体何をしたと言うんだ。うわあぁぁぁぁぁーーぁぁ!」

「だから理由なんか特にねえよ。ただ目の前でうだうだと言うから、ウザいから殺してやったまでのことだ。何か文句でもあるのか。あるんなら俺に立ち向かって抗議の一つでもして見ろよ。まあ、その1秒後にはお前もこの婆さんと同じように串刺しになっているだろうがな。さあ、どっちがいいんだ。選ばせてやるよ。俺の剣での串刺しがいいのか。それとも俺の聖女から繰り出される魔法攻撃での爆発死がいいのかをよ!

「ちくしょう、ちくしょう。ハルばあちゃん、ハルばあちゃん!」

 ハルおばあさんを本気で心配しながら必死に追いすがろうとするラエルロットの腹部を目がけて勇者田中の蹴りが飛ぶ。
 勇者の蹴りだけあってその蹴りをまともに受けたラエルロットは五十メートルほど吹き飛ばされてしまうが、そのダメージは致命的で地面に落ちた衝撃でラエルロットの内臓は大きく傷つき肋の数本の骨は折れ、口からは大量の血を吐いてしまう。

「ゲホッ、ゲホッゲホッ! 内臓の何処かに折れた肋の骨が突き刺さっている様だな。胃の辺りから込み上げて来る血が止まらないや……。俺、もうこのまま死ぬのかな」

 そんな独り言を呟いていると、ラエルロットの目の前に今度はハルおばあさんが上から地面へと落ちてくる。その傷口と致命傷に、もうハルおばあさんは助からない事をラエルロットは薄々感じてしまう。

(ハルばあちゃん……最後に、死ぬ最後くらいは、ハルばあちゃんの傍まで行かないと……ハルばあちゃんを安心させてあげないと……死んでも死にきれないよ)

 最後の力を振り絞りながらも息絶え絶えのラエルロットは何とかハルばあちゃんの傍まで来るが、そんなラエルロットにハルばあちゃんは意識をもうろうとさせながらも気遣いと優しい言葉を掛ける。

「ラエルロットや、お腹はすいてはいないかい……どこか怪我はしていないかい。ごめんよ……いつもひもじい思いばかりさせて……ごめんよ……ごめんよ……」

「なに、なに謝ってんだよ、ハルばあちゃん。謝らなきゃいけないのはむしろ俺の方なのに……。ごめんよハルばあちゃん、いつも心配ばかりかけて。毎年冒険者八級の試験を目指す俺に文句も言わずに温かく見守ってくれていたのに……俺、いつもわがままばかり言ってあまりハルばあちゃんのことを見てはいなかった。こんなにも俺のことを心配してくれるたった一人の家族なのに……今その事に改めて気付くだなんて、俺って本当に駄目な奴だな。もっとちゃんとおばあちゃん孝行して素直に……謝っとけばよかったよ。ごめんな、ごめんな、ハルばあちゃん……ハルばあちゃん……」

「ラ、ラエルロット……ラエ……」

 そう一言言うとハルばあちゃんは涙を流しながら和やかに微笑むと、そのままその心臓の鼓動と息を止めるのだった。
 

 今にも死にそうなハルおばあさんに追いすがる重傷を負ったラエルロットの図です。

 異世界召喚者の一人、狂雷の勇者、田中です。なにか闇を抱えているのか残忍な性格をしています。
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