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第一章 黒神子レスフィナとの出会い編
15.思わぬ逆襲
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15.思わぬ逆襲
「レスフィナは……一体レスフィナはどうしたんだ?」
不安げに叫ぶラエルロットの姿を見ながら聖女リリヤは淡々とした口調で話す。
「黒神子レスフィナは何とか私達の手で殺す事が出来ました」
「馬鹿な、黒神子と言う存在は永遠に死ぬことすらも許されない、限りなく不死に近い存在ではなかったのか?」
「いいえ、どうやら彼女は完全な不死では無かったようです。恐らくは彼女が持つ膨大なHPと不死の超再生能力が合わさって限りなく不死に見えただけです。ですが私達の息もつかせぬ怒濤の攻撃によってついに黒神子レスフィナはHPとMPの底が尽きてその命を失う結果になってしまいました。恐らく彼女は私達の攻撃力を過小評価し明らかに油断していたようでしたから、このような結果になってしまったのでしょう。つまり私達の怒濤の攻撃が彼女の超再生能力のスキルを上回ったと言う事です」
「そんな馬鹿な、とてもじゃないが信じられない。あの黒神子と呼ばれているレスフィナがこんなにも呆気ない死に方をするだなんて……」
「ですがこれが現実です。その証拠に私が持ち帰った黒神子レスフィナの右腕は全く再生がされず、いつまで経ってもそのままの状態じゃないですか」
「た、確かにそうだが……」
「それも当然です、私の爆撃のスキルで彼女の体は粉々に破壊されてしまいました。そして最後にはこの右腕の部分だけを残して全てがチリと化してしまったと言う事です。私達としても黒神子が死んだという証拠を我がマスターでもある勇者田中様にお見せしないといけませんからね。だからこうして黒神子レスフィナの右腕だけをわざと残したと言う訳です。彼女が復活していないと言う証拠を敢えてお見せする為にね」
「バカな……バカな……それじゃレスフィナは本当に……」
爆撃の聖女リリヤは顔面蒼白のラエルロットに視線を向けると戦いの経過を淡々と話すが、その話を聞いていた勇者田中は高笑いをしながら地面に落ちている黒神子レスフィナの右腕を踏みつける。
「なら、ちょっと試して見るか」
そう言うと勇者田中は瞬速とも言うべき目にもとまらぬ居合い切りでラエルロットの右腕を切り飛ばす。
一瞬の出来事で何が起きたのか最初はよく分からなかったラエルロットだったが、有るはずの右腕が無い事に気付きそのあまりの痛みに切り落とされた右腕の傷口を思わず抑え込む。
「い、痛い。な、なんだこの圧倒的な痛みは。まさかレスフィナが死んだからその痛みがダイレクトに俺に返ってきたのか。うわあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーーぁぁ!」
あまりの痛みにもだえ苦しむラエルロットの反応を見ていた勇者田中正は、そこでようやく黒神子レスフィナの死を確信する。
「俺が切り落としてやったお前の右腕はどうやら本当に再生しないようだな。今なお右腕が治らないのが何よりの証拠だ。つまり黒神子レスフィナの死は確実に決定づけられたと言う事だ。これでようやくお前との戦いに終止符を打つことが出来る。まあ一時はどうなることかと思ったがな」
「レスフィナが死んだ、まさか本当にレスフィナは死んでしまったのか……あの優しく俺を励ましてくれたレスフィナが……レスフィナ……うぅぅぅぅ……」
ラエルロットは悲しみに満ちた顔を下に向けると静かにむせび泣いていたが、絶望を振り払うかのように直ぐに勇者田中の方を見る。
「それでも……例え一人になったとしても俺はお前達に立ち向かわなけねばならない。なぜならハルお婆さんが殺され、そしてその俺達家族に加勢に入ってくれたレスフィナまでもが殺されてしまった。だから俺はこの戦いを仕掛けたお前達に責任を取らす為にもここで戦いを引く訳にはいかないんだ。例えこの戦いに負けて無駄死にになったとしてもだ!」
そう力強く言い放つとラエルロットは切り落とされた右腕の痛みをこらえながら、左手に持っている漆黒と化した不格好な形をした黒刀を勇者田中に向ける。
だがいざ立ち向かおうと動き出したその時、体が思うように動かない事に気づく。右腕を失い大量の血を流した事と関係があるのかは知らないがラエルロットの体は何故か重い鉛を背負っているかのように動く事が出来ないのだ。
突如自分の体に訪れた致命的且つ重大な異変に、ラエルロットは本気で狼狽する。
「行き成り体の自由が利かなくなって来たぞ。まさか俺に力を送っていたレスフィナが死んだからなのか。くそぉぉー、まるで電池が切れた玩具のように急に体の力が無くなったぞ。レスフィナが近くにいるのといないのとでは、こんなにも俺に与える影響は違うのか。これが黒神子レスフィナと契約を交わした眷属の、俺へのリスクか。つまり俺と黒神子レスフィナは共栄共存……一心同体の立場だったんだな。なら……尚更最後は……死んでいったハル婆ちゃんとレスフィナの無念を……俺の言葉では言い表せない程の思いを……勇者田中に全てぶつけてやるぜ!」
まるで自分の思いを語るかのようにそう呟いたラエルロットは最後の一撃を放つ為に少しずつ勇者田中との間合いを詰めるが、今にも倒れそうなその姿を確認した勇者田中は余裕の笑みを浮かべると手に持つ長剣をゆっくりと構える。
「もう勝負はついたと言うのに懲りない奴め。自暴自棄になって、最後は玉砕覚悟の特攻で相打ちでも狙うつもりか。だがもうお前にこの状況を覆す事は決してできない。何故なら黒神子レスフィナが死んだ時点でお前の負けは決定したからだ。でもまあ、お前はただの村人としてはよく戦ったよ。この勇者である俺を少しだけ手こずらす事が出来たんだからな。だから最後は俺が直々に、お前を一撃のもとに葬ってやるぜ! だがこのまま逃げ出すと言うのなら別に止めやしないぜ。好きな所に逃げるがいい。さあ好きな方を選べ!」
絶対的な勝利を確信した勇者田中正は手に持つ長剣をゆっくりと構えるが、そんな勇者田中の意表を付くかのように行き成り背後から思いもよらない攻撃を食らうことになる。 その攻撃とは茨のような蔦が勇者田中正の体に巻き付き、その動きを止める物だ。
そうこの相手の動きを封じる攻撃を仕掛けて来たのは、人の生命を吸い取り拘束するとされる、茨の蔦を操る聖女カーラからの物だ。
聖女カーラの茨の触手により、勇者田中正の体はその場の地面に根強く固定される。
「これは一体何の真似だ。カーラ、この茨の触手の蔦を外せ!」
勇者田中正は手に持つ長剣でその蔦を切り離そうとするが、その行為を阻止するかのように今度はその体が行き成り見えない力で地面へと押さえ込まれる。思わず片膝を付いた勇者田中正はその能力を発した人物を思わず睨みつける。
「これは、衝撃波。まさか上から重力を操って俺を地面へと抑え付けるつもりか。お前も俺を裏切るのか。聖女ミランダ!」
勇者田中正の想像したように、この重力を操る衝撃波による封じ込めは聖女ミランダの物だ。
「くそぉぉぉ、一体全体どうなっているんだ。不知火先輩が持つ古代の遺物。支配の灯火の効力がまさか解けたのか?」
この思いもよらぬ状況に勇者田中正が困惑しているとその後ろから爆撃の聖女リリヤが力強く抱きつく。どうやら三人の聖女達は皆完全に支配の灯火の呪縛から解放されたようだ。
「捕まえましたよ。勇者田中さん。もう決して離しませんわ。よくも私達に人殺しの……悪事の片棒を担がせてくれましたね。しかも私の主の殺害を私自身にさせるだなんて……あなたは絶対に許せません。例えここで死ぬことになろうとも貴方だけは必ず道連れにします」
「くそぉぉぉ、聖女リリヤ、放せ、放さんか。俺の言う事を聞けぇぇぇ!」
「私達は黒神子レスフィナを倒すためにその魔法攻撃で何度も彼女の体を粉砕し、バラバラにしていますから、当然その度にレスフィナさんの返り血を大量に浴びる結果となっています。そしてその汚れた血を浴びてしまった事により、私達に掛けられた呪いの呪縛は完全に解けました。どうやら黒神子の血液には呪いを解除する効果があるようです。なのでもうあなたの命令に従う者は誰一人としていないと言う事です!」
そう力強く言うと聖女リリヤは勇者田中正を羽交い締めにしたまま爆撃魔術を発動させる呪文の言葉を何度も繰り返す。
「爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃ぃぃぃーーっ!」
ドコーーォォォォォン! バッコンーーォォォォォ! ドッカアアァァァーーン!
『爆撃』と言う言葉を発する度に聖女リリヤの体は激しく光り輝き、その光を合図に勇者田中正の体は何度も何度も大きく爆発する。
恐ろしい程の破壊力と激しい爆音が連続して周囲に響くが、そんな激しい爆破の攻撃にも関わらず勇者田中正の体はその皮膚の上に纏うオートガードシステムの効力によって全くの無傷のようだ。
「ハハハハ、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄だあぁぁ。その程度の攻撃では俺を殺すことは永遠にできないぜ。まあレベル30程度の攻撃ならこんな物か」
「確かに私の攻撃力ではあなたのオートガードシステムを破る事は先ず出来ません。あなたのHPをゼロにする為には、この攻撃を後数百回は当て続けなけねばいけませんからね。でもそれも現実的ではありません。何故ならあなたの膨大なHPが無くなる前に私のMPが尽きてしまいますから。でも……それでも私達の攻撃によりあなたのHPは少しずつではありますが……確実に削られ続けているはずです。その結果少しでもあなたを追い詰める事が出来るのなら、それだけで十分です。私達の命が尽きるその時まで、あなたには付き合って貰いますよ。勇者田中さん!」
「だからその行為事態が無謀で意味の無い事だと言ってんだろ。どんなにあがいてもお前らの負けは変わらないからだ。いい加減に無意味な事はやめろよ!」
「それはどうでしょうか。何事もやって見なければ分からないじゃないですか。今は一つでも多くの攻撃をあなたに与えて、できるだけHPを減らさないと……」
「お前ら……一体何を企んでいる。放せ、とにかく放さんか!」
慌てふためきながら騒ぐ勇者田中正を黙らすかのように爆発を加えると、聖女リリヤが叫ぶ。
「ラエルロットさん、今です。あなたが持つ思いを具現化する苗木の黒刀を、勇者田中正にぶつけて下さい。『思いを具現化する苗木』の半分を手にしている貴方にならそれが可能です。その黒い木刀はオートガードシステムのレベルに関係なく直接その者の体にダメージを与える事が出来るみたいですから、試してみる価値は充分にあると思いますよ!」
「古代の遺物……思いを具現化する苗木か。でも俺がその残りの半分を持っている事がよくわかったな」
「黒神子レスフィナさんが教えてくれました。あなたが持つ黒い木刀がレベル90の力を持つ……勇者田中のオートガードシステムを見事に打ち破ったのも頷けます」
「確かに何度かそんな事が出来たが、あれは奇跡的に偶然起きた現象じゃないのか」
「偶然起きた現象だと言う事に否定はしませんが、その奇跡を起こす力がその黒刀にはあるのです。ラエルロットさん、もっと思いを具現化し、集中して下さい。あなたが抱く強い思いと限りない勇気でその悪意に立ち向かった時、その黒刀はその本来の力を具現化するのです。それが思いを具現化する苗木の能力です。思いを具現化する苗木の遺物の半分は勇者不知火の手により持ちさらわれてしまいましたが、例えその半分でもその効力は絶大です」
「思いを具現化する苗木か。この古代の遺物を封印する為にヒノのご神木は約千年間この地でこの遺物を守り続けて来たのか。でも今はこの奇跡の力を使わせて頂きます。俺の体に纏いし復讐の鎧よ、今一度俺に力を貸してくれ。あの勇者田中正の悪業を完全に止める為に!」
その呼び掛けに応えるかのようにラエルロットが纏いし黒衣の鎧はその体全体から禍々しいオーラを発しながらおびただしい嘆きの声を上げる。
ウオッオオォォォオォォォォォォーン! ウッオオォォォォォォォォォーン!
復讐と恨みに満ちた禍々しい雄叫びが周囲に共鳴し、その激しい負のエネルギーとも言うべき数々の魂の力がそのままラエルロットの体に注がれる。それによりラエルロットの身体能力は一時的ではあるが飛躍的に上昇する。
「笑わせるな、お前にはもう何もできない。忘れたか、黒神子レスフィナはもうこの世にはなく既に死んでいるんだぞ。なのにそんな生身の状態で俺に突っ込んだら、今現在三人の聖女達が俺に仕掛けている攻撃にお前は巻き込まれる事になる。そうなればダメージを受けても体を再生できないお前は確実に死ぬと言う事だ。それは即ちお前の免れない死だ。そんな死に方は馬鹿のすることだぜ。偶然とはいえせっかく拾った命なんだから、これからはもっと自分を大事にした方がいいんじゃないのか」
(うう……確かに俺はこの一撃で確実に死ぬ事になるだろうな。そしてやはりレスフィナに守られていないこの状態では正直死ぬのが物凄く怖いし、とても恐ろしいぜ!)
ラエルロットが突進を迷っていると、聖女リリヤが落ち着いた声で語り掛ける。
「大丈夫です、私達の攻撃を受けてもあなたは絶対に死にません。あなたのパートナーでもある黒神子・レスフィナさんを信じて下さい。彼女は私達に掛けられていた契約変更の呪いを解いてくれました。なら後やることは一つなはずです。彼女を信じなさい!」
「分かった、聖女リリヤさん、それにミランダさん、カーラさん、あなた達の言葉を俺は信じます!」
切り飛ばされた右腕の切り傷から流れ落ちる大量の血液にラエルロットは思わず意識を失いそうになるが、皮肉にもそのあまりの痛みのせいで気絶をする事もできない。だが余りにも多くの血を失っているのでいつショックと貧血で倒れても可笑しくはないだろう。
(まだ奴に抗う力が残っているうちに……最後の一撃だけは……必ず振るわねばならない)
不安と焦りを感じながらもラエルロットは、目の前にいる勇者田中正を激しく睨みつける。
「今度こそ正真正銘の最後の勝負をするぞ。勇者田中正!」
そう力強く叫ぶとラエルロットは、黒色と化した黒刀を震える左手で強く握るとゆっくりと構える。
「レスフィナは……一体レスフィナはどうしたんだ?」
不安げに叫ぶラエルロットの姿を見ながら聖女リリヤは淡々とした口調で話す。
「黒神子レスフィナは何とか私達の手で殺す事が出来ました」
「馬鹿な、黒神子と言う存在は永遠に死ぬことすらも許されない、限りなく不死に近い存在ではなかったのか?」
「いいえ、どうやら彼女は完全な不死では無かったようです。恐らくは彼女が持つ膨大なHPと不死の超再生能力が合わさって限りなく不死に見えただけです。ですが私達の息もつかせぬ怒濤の攻撃によってついに黒神子レスフィナはHPとMPの底が尽きてその命を失う結果になってしまいました。恐らく彼女は私達の攻撃力を過小評価し明らかに油断していたようでしたから、このような結果になってしまったのでしょう。つまり私達の怒濤の攻撃が彼女の超再生能力のスキルを上回ったと言う事です」
「そんな馬鹿な、とてもじゃないが信じられない。あの黒神子と呼ばれているレスフィナがこんなにも呆気ない死に方をするだなんて……」
「ですがこれが現実です。その証拠に私が持ち帰った黒神子レスフィナの右腕は全く再生がされず、いつまで経ってもそのままの状態じゃないですか」
「た、確かにそうだが……」
「それも当然です、私の爆撃のスキルで彼女の体は粉々に破壊されてしまいました。そして最後にはこの右腕の部分だけを残して全てがチリと化してしまったと言う事です。私達としても黒神子が死んだという証拠を我がマスターでもある勇者田中様にお見せしないといけませんからね。だからこうして黒神子レスフィナの右腕だけをわざと残したと言う訳です。彼女が復活していないと言う証拠を敢えてお見せする為にね」
「バカな……バカな……それじゃレスフィナは本当に……」
爆撃の聖女リリヤは顔面蒼白のラエルロットに視線を向けると戦いの経過を淡々と話すが、その話を聞いていた勇者田中は高笑いをしながら地面に落ちている黒神子レスフィナの右腕を踏みつける。
「なら、ちょっと試して見るか」
そう言うと勇者田中は瞬速とも言うべき目にもとまらぬ居合い切りでラエルロットの右腕を切り飛ばす。
一瞬の出来事で何が起きたのか最初はよく分からなかったラエルロットだったが、有るはずの右腕が無い事に気付きそのあまりの痛みに切り落とされた右腕の傷口を思わず抑え込む。
「い、痛い。な、なんだこの圧倒的な痛みは。まさかレスフィナが死んだからその痛みがダイレクトに俺に返ってきたのか。うわあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーーぁぁ!」
あまりの痛みにもだえ苦しむラエルロットの反応を見ていた勇者田中正は、そこでようやく黒神子レスフィナの死を確信する。
「俺が切り落としてやったお前の右腕はどうやら本当に再生しないようだな。今なお右腕が治らないのが何よりの証拠だ。つまり黒神子レスフィナの死は確実に決定づけられたと言う事だ。これでようやくお前との戦いに終止符を打つことが出来る。まあ一時はどうなることかと思ったがな」
「レスフィナが死んだ、まさか本当にレスフィナは死んでしまったのか……あの優しく俺を励ましてくれたレスフィナが……レスフィナ……うぅぅぅぅ……」
ラエルロットは悲しみに満ちた顔を下に向けると静かにむせび泣いていたが、絶望を振り払うかのように直ぐに勇者田中の方を見る。
「それでも……例え一人になったとしても俺はお前達に立ち向かわなけねばならない。なぜならハルお婆さんが殺され、そしてその俺達家族に加勢に入ってくれたレスフィナまでもが殺されてしまった。だから俺はこの戦いを仕掛けたお前達に責任を取らす為にもここで戦いを引く訳にはいかないんだ。例えこの戦いに負けて無駄死にになったとしてもだ!」
そう力強く言い放つとラエルロットは切り落とされた右腕の痛みをこらえながら、左手に持っている漆黒と化した不格好な形をした黒刀を勇者田中に向ける。
だがいざ立ち向かおうと動き出したその時、体が思うように動かない事に気づく。右腕を失い大量の血を流した事と関係があるのかは知らないがラエルロットの体は何故か重い鉛を背負っているかのように動く事が出来ないのだ。
突如自分の体に訪れた致命的且つ重大な異変に、ラエルロットは本気で狼狽する。
「行き成り体の自由が利かなくなって来たぞ。まさか俺に力を送っていたレスフィナが死んだからなのか。くそぉぉー、まるで電池が切れた玩具のように急に体の力が無くなったぞ。レスフィナが近くにいるのといないのとでは、こんなにも俺に与える影響は違うのか。これが黒神子レスフィナと契約を交わした眷属の、俺へのリスクか。つまり俺と黒神子レスフィナは共栄共存……一心同体の立場だったんだな。なら……尚更最後は……死んでいったハル婆ちゃんとレスフィナの無念を……俺の言葉では言い表せない程の思いを……勇者田中に全てぶつけてやるぜ!」
まるで自分の思いを語るかのようにそう呟いたラエルロットは最後の一撃を放つ為に少しずつ勇者田中との間合いを詰めるが、今にも倒れそうなその姿を確認した勇者田中は余裕の笑みを浮かべると手に持つ長剣をゆっくりと構える。
「もう勝負はついたと言うのに懲りない奴め。自暴自棄になって、最後は玉砕覚悟の特攻で相打ちでも狙うつもりか。だがもうお前にこの状況を覆す事は決してできない。何故なら黒神子レスフィナが死んだ時点でお前の負けは決定したからだ。でもまあ、お前はただの村人としてはよく戦ったよ。この勇者である俺を少しだけ手こずらす事が出来たんだからな。だから最後は俺が直々に、お前を一撃のもとに葬ってやるぜ! だがこのまま逃げ出すと言うのなら別に止めやしないぜ。好きな所に逃げるがいい。さあ好きな方を選べ!」
絶対的な勝利を確信した勇者田中正は手に持つ長剣をゆっくりと構えるが、そんな勇者田中の意表を付くかのように行き成り背後から思いもよらない攻撃を食らうことになる。 その攻撃とは茨のような蔦が勇者田中正の体に巻き付き、その動きを止める物だ。
そうこの相手の動きを封じる攻撃を仕掛けて来たのは、人の生命を吸い取り拘束するとされる、茨の蔦を操る聖女カーラからの物だ。
聖女カーラの茨の触手により、勇者田中正の体はその場の地面に根強く固定される。
「これは一体何の真似だ。カーラ、この茨の触手の蔦を外せ!」
勇者田中正は手に持つ長剣でその蔦を切り離そうとするが、その行為を阻止するかのように今度はその体が行き成り見えない力で地面へと押さえ込まれる。思わず片膝を付いた勇者田中正はその能力を発した人物を思わず睨みつける。
「これは、衝撃波。まさか上から重力を操って俺を地面へと抑え付けるつもりか。お前も俺を裏切るのか。聖女ミランダ!」
勇者田中正の想像したように、この重力を操る衝撃波による封じ込めは聖女ミランダの物だ。
「くそぉぉぉ、一体全体どうなっているんだ。不知火先輩が持つ古代の遺物。支配の灯火の効力がまさか解けたのか?」
この思いもよらぬ状況に勇者田中正が困惑しているとその後ろから爆撃の聖女リリヤが力強く抱きつく。どうやら三人の聖女達は皆完全に支配の灯火の呪縛から解放されたようだ。
「捕まえましたよ。勇者田中さん。もう決して離しませんわ。よくも私達に人殺しの……悪事の片棒を担がせてくれましたね。しかも私の主の殺害を私自身にさせるだなんて……あなたは絶対に許せません。例えここで死ぬことになろうとも貴方だけは必ず道連れにします」
「くそぉぉぉ、聖女リリヤ、放せ、放さんか。俺の言う事を聞けぇぇぇ!」
「私達は黒神子レスフィナを倒すためにその魔法攻撃で何度も彼女の体を粉砕し、バラバラにしていますから、当然その度にレスフィナさんの返り血を大量に浴びる結果となっています。そしてその汚れた血を浴びてしまった事により、私達に掛けられた呪いの呪縛は完全に解けました。どうやら黒神子の血液には呪いを解除する効果があるようです。なのでもうあなたの命令に従う者は誰一人としていないと言う事です!」
そう力強く言うと聖女リリヤは勇者田中正を羽交い締めにしたまま爆撃魔術を発動させる呪文の言葉を何度も繰り返す。
「爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃ぃぃぃーーっ!」
ドコーーォォォォォン! バッコンーーォォォォォ! ドッカアアァァァーーン!
『爆撃』と言う言葉を発する度に聖女リリヤの体は激しく光り輝き、その光を合図に勇者田中正の体は何度も何度も大きく爆発する。
恐ろしい程の破壊力と激しい爆音が連続して周囲に響くが、そんな激しい爆破の攻撃にも関わらず勇者田中正の体はその皮膚の上に纏うオートガードシステムの効力によって全くの無傷のようだ。
「ハハハハ、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄だあぁぁ。その程度の攻撃では俺を殺すことは永遠にできないぜ。まあレベル30程度の攻撃ならこんな物か」
「確かに私の攻撃力ではあなたのオートガードシステムを破る事は先ず出来ません。あなたのHPをゼロにする為には、この攻撃を後数百回は当て続けなけねばいけませんからね。でもそれも現実的ではありません。何故ならあなたの膨大なHPが無くなる前に私のMPが尽きてしまいますから。でも……それでも私達の攻撃によりあなたのHPは少しずつではありますが……確実に削られ続けているはずです。その結果少しでもあなたを追い詰める事が出来るのなら、それだけで十分です。私達の命が尽きるその時まで、あなたには付き合って貰いますよ。勇者田中さん!」
「だからその行為事態が無謀で意味の無い事だと言ってんだろ。どんなにあがいてもお前らの負けは変わらないからだ。いい加減に無意味な事はやめろよ!」
「それはどうでしょうか。何事もやって見なければ分からないじゃないですか。今は一つでも多くの攻撃をあなたに与えて、できるだけHPを減らさないと……」
「お前ら……一体何を企んでいる。放せ、とにかく放さんか!」
慌てふためきながら騒ぐ勇者田中正を黙らすかのように爆発を加えると、聖女リリヤが叫ぶ。
「ラエルロットさん、今です。あなたが持つ思いを具現化する苗木の黒刀を、勇者田中正にぶつけて下さい。『思いを具現化する苗木』の半分を手にしている貴方にならそれが可能です。その黒い木刀はオートガードシステムのレベルに関係なく直接その者の体にダメージを与える事が出来るみたいですから、試してみる価値は充分にあると思いますよ!」
「古代の遺物……思いを具現化する苗木か。でも俺がその残りの半分を持っている事がよくわかったな」
「黒神子レスフィナさんが教えてくれました。あなたが持つ黒い木刀がレベル90の力を持つ……勇者田中のオートガードシステムを見事に打ち破ったのも頷けます」
「確かに何度かそんな事が出来たが、あれは奇跡的に偶然起きた現象じゃないのか」
「偶然起きた現象だと言う事に否定はしませんが、その奇跡を起こす力がその黒刀にはあるのです。ラエルロットさん、もっと思いを具現化し、集中して下さい。あなたが抱く強い思いと限りない勇気でその悪意に立ち向かった時、その黒刀はその本来の力を具現化するのです。それが思いを具現化する苗木の能力です。思いを具現化する苗木の遺物の半分は勇者不知火の手により持ちさらわれてしまいましたが、例えその半分でもその効力は絶大です」
「思いを具現化する苗木か。この古代の遺物を封印する為にヒノのご神木は約千年間この地でこの遺物を守り続けて来たのか。でも今はこの奇跡の力を使わせて頂きます。俺の体に纏いし復讐の鎧よ、今一度俺に力を貸してくれ。あの勇者田中正の悪業を完全に止める為に!」
その呼び掛けに応えるかのようにラエルロットが纏いし黒衣の鎧はその体全体から禍々しいオーラを発しながらおびただしい嘆きの声を上げる。
ウオッオオォォォオォォォォォォーン! ウッオオォォォォォォォォォーン!
復讐と恨みに満ちた禍々しい雄叫びが周囲に共鳴し、その激しい負のエネルギーとも言うべき数々の魂の力がそのままラエルロットの体に注がれる。それによりラエルロットの身体能力は一時的ではあるが飛躍的に上昇する。
「笑わせるな、お前にはもう何もできない。忘れたか、黒神子レスフィナはもうこの世にはなく既に死んでいるんだぞ。なのにそんな生身の状態で俺に突っ込んだら、今現在三人の聖女達が俺に仕掛けている攻撃にお前は巻き込まれる事になる。そうなればダメージを受けても体を再生できないお前は確実に死ぬと言う事だ。それは即ちお前の免れない死だ。そんな死に方は馬鹿のすることだぜ。偶然とはいえせっかく拾った命なんだから、これからはもっと自分を大事にした方がいいんじゃないのか」
(うう……確かに俺はこの一撃で確実に死ぬ事になるだろうな。そしてやはりレスフィナに守られていないこの状態では正直死ぬのが物凄く怖いし、とても恐ろしいぜ!)
ラエルロットが突進を迷っていると、聖女リリヤが落ち着いた声で語り掛ける。
「大丈夫です、私達の攻撃を受けてもあなたは絶対に死にません。あなたのパートナーでもある黒神子・レスフィナさんを信じて下さい。彼女は私達に掛けられていた契約変更の呪いを解いてくれました。なら後やることは一つなはずです。彼女を信じなさい!」
「分かった、聖女リリヤさん、それにミランダさん、カーラさん、あなた達の言葉を俺は信じます!」
切り飛ばされた右腕の切り傷から流れ落ちる大量の血液にラエルロットは思わず意識を失いそうになるが、皮肉にもそのあまりの痛みのせいで気絶をする事もできない。だが余りにも多くの血を失っているのでいつショックと貧血で倒れても可笑しくはないだろう。
(まだ奴に抗う力が残っているうちに……最後の一撃だけは……必ず振るわねばならない)
不安と焦りを感じながらもラエルロットは、目の前にいる勇者田中正を激しく睨みつける。
「今度こそ正真正銘の最後の勝負をするぞ。勇者田中正!」
そう力強く叫ぶとラエルロットは、黒色と化した黒刀を震える左手で強く握るとゆっくりと構える。
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「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!?
無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。
これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
追放された最弱村人、実は世界最強でした 〜神々に愛された無自覚チート、気づいたら聖女も魔王も嫁希望だった件〜
uzura
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「お前なんて役立たずだ」
そう言われて勇者パーティーを追放された平凡な村人リオ。
だが彼は知らなかった――幼少期に助けた白猫こそ、全知の神の化身だったことを。
神々に祝福されし彼の能力は、世界の理さえ書き換える本物のチート。
呪いを解いた聖女、復讐を誓う女勇者、忠誠を誓う魔族の姫。
彼女たちは皆、同じ男に惹かれていた。
運命を知らぬ“最弱”が、笑われ、裏切られ、やがて世界を救う――。
異世界無自覚最強譚、ここに開幕!
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