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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編
2-4.消えた荷物の行方
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2ー4 消えた荷物の行方
「ば、馬鹿な、荷台にあった荷物が一つもないぞ。荷馬車の回りには常に俺達がいたのに、この短時間の間に山のようにあった荷物を一体どうやって運び出したと言うんだ。謎だ、本当に謎だらけだ?」
夕焼けが山々を茜色に照らし、太陽が隠れると共に満天の星々が夜空に星屑のように輝く頃、ラエルロット・黒神子レスフィナ・犬人族のシャクティ・そして縄で両手を後ろ手に縛られている今現在捕らわれ中の狼魔族のゴンタは一つの謎に直面する。そう荷馬車の荷台の中にあるはずの沢山の荷物が綺麗に消えていたからだ。
その目の前に広がる何一つとしてない荷台の中を見ながら不可思議な謎に直面した四人は、各々が今考えている事を順に述べる。
最初に思いを言葉にしたのは復讐の鎧の装備を解き、散らばった荷物の整理整頓を終えてそろそろ荷馬車を走らせようとしていたラエルロットだった。
「先程まで沢山あったはずの荷物がなぜ突然消えたのかは知らないが、これは非常に不味い事になったぞ。もしもこのまま荷物が見つからなかったら下手をしたら最悪俺達も狼魔族達共々荷物を盗んだ犯人と疑われるかも知れない。でもまあ幸いな事に今現在俺とレスフィナがこの荷馬車に関わっている事を知っているのは、ここにいるシャクティとゴンタとルナだけだからこのまま荷馬車を置いて速やかにこの場所から離れれば全てを狼魔族のせいにする事も可能なのだがな。一体どうした物やら」
そのなにげに言ったラエルロットの言葉に、話を黙って聞いていた狼魔族のゴンタが怒りに満ちた表情で声を張り上げる。
「ふ、ふざけるな、お前達が阻止した強奪未遂の罪を狼魔族に全て押しつけるなよ。それにあんなに大量にあった物資を誰にも気付かれる事なくこの短時間で盗み出す技術があるなら初めから強奪なんかはしないさ!」
「だがお前の話を推測するに、お前達の裏にはあの妖精喰いの黒神子ヨーミコワがいるみたいじゃないか。ならあの大量の荷物をどうにかして運べる術や魔道具や手段でも授かっているんじゃないのか?」
「そんな便利な手段があるんだったら荷馬車なんかは襲わずに町や都市に出向いてもっと秘密裏に大々的に大掛かりな盗みを考えるわ。そんな事よりも早く俺を殺すなら殺せ。言っておくが俺を人質にしたって無駄だぞ。俺の仲間達は、敵に捕まるようなヘマをした奴は無慈悲にも見捨てる冷酷非道の集団だからな!」
「お前それ、自分で言ってて悲しくは無いか。つまりお前を助けに来てくれる仲間は一人もいないって事だろ」
「うぅぅ……そ、それは」
自分が発した助けは来ないという言葉に今更ながらに深く絶望する狼魔族のゴンタだったが、そんなゴンタにラエルロットは何かを思いついたのか、ある疑問を聞く。
「狼魔族や犬人族は人間族の数千倍から~一億倍という鋭い嗅覚で生き物や物の臭いを探り当てる事ができると聞くが、ここにはいない第三者の怪しい人物の臭いは嗅ぎ分けられないのか」
「し、仕方がない、答えてやるか。いいや、特に怪しい臭いは感じられなかったよ。俺が臭いを嗅いで分かった事は、あの荷台の中に残っていた人物達の臭いは、あの荷台の中を荒らしていた数人の狼魔族の仲間の臭いと、ここにいる人間・黒神子・犬人族・蛾の妖精の四人の臭いだけだ。それ以外で地面に摩擦臭を残している人物は一人もいなかったよ。俺はそういう結論に至ったのだが、お前もそう思うだろ。犬人族の神官見習いさんよ!」
「確かに狼魔族のゴンタさんの言うように、荷台の中にいた幾人かの狼魔族達の臭いと私達五人の足跡から伝わる摩擦臭とは別に、確実に盗みを働いたと思われる第三者の存在を確認する事は出来ませんでした」
「そうか、なんだか不思議なこともあるものだな。沢山の荷物と共に荷台の中で気を失って寝ていた蛾の妖精のルナもついでにいなくなるし、ハッキリ言ってもう意味が分からないよ。つまりは八方塞がりだと言う事だ!」
厚手の布でできた青い衣服の袖を夜風になびかせながら消えた荷物の行方に悩むラエルロットを見ていた黒神子レスフィナは、その視線を大きなまん丸眼鏡を外しながら布切れで拭いているシャクティに向ける。
「時にシャクティさん、荷物と共に消えた蛾の妖精のルナさんとは今日の朝に、フタッツイの町で荷馬車の荷物を運ぶ依頼をあなた達パーティーが受諾し引き受けた時に初めて会ったのですよね」
「ええ、荷物をノシロノ王国に運ぶついでに悪さや盗みを働いていた一匹の蛾の妖精も一緒に連行してくれと言われました。なんでもフタッツイの町には妖精族の人達は少ないからノシロノ王国にある妖精族達が集まる組合で妖精裁判に掛けるとか言っていました」
「妖精裁判ですか。ノシロノ王国には人間の社会に住み着いている妖精が多いと聞きますからね。それでその蛾の妖精のルナさんは盗みを働いていたと言っていましたが具体的には一体どんな物を盗んでいたのですか。あの小人や人形のような小さな体格です。その盗みはかなり僅かで物も限定されると思うのですが?」
「そうなんですよね。私もその話を初めて聞いた時は何かの間違いだと思ったくらいです。だってそうでしょ、一体何を盗んで人間に捕まったのかは知らないけど、あの小さな体で両手一杯に盗める物なんてたかが知れてます。と言う事は宝石や指輪のような何か小さくて価値のある物でも盗んだのでしょうか」
「でも例え妖精が、人間が身につける指輪や宝石の類いの物を質屋や換金所に持ち込んだとしても、その怪しさから誰も受け取ってはくれませんよね。だって本来そんな金銭的な類いの物は妖精が持っていることは可笑しな事ですからね。妖精族には妖精族だけのコミュニティーがあって、彼らの物の支払いは確か金粉だったと記憶しています」
「でも蛾の妖精のルナさんの窃盗の罪と今回大量に無くなった荷物の行方となにか関係があるのですか?」
「蛾の妖精のルナさんは荷物と共に誰かに誘拐されたのではなく、何らかの方法で荷物を消して何処かに運ぶ何らかの力を持っていたのだとしたらどうでしょうか。気絶をして倒れたルナさんを快方する為にシャクティさん、あなたは鍵を掛けていた鳥籠の鍵を開けていましたよね」
「ええ、気絶をしているルナさんをいろいろと介抱するには鍵を開け閉めするにはむしろ邪魔でしたし、逃げないと思っていましたから。それに例えこの場から逃げだしたとしても私は別にいいと考えています。だって蛾の妖精族はどこの町に行っても人間や妖精達に至っても迫害の的ですから何も売って貰えないというのはザラなはずです。ですから人間達が過剰に反応して彼女を虫取り機のような物で捕まえて、そのまま護送を私達に頼んだ物と思われます。私が想像するに彼女が盗んだ物は、山では決して手に入らない加工された食料や抗生物質の薬の類いの物だと思いますから、そんな物の為に妖精裁判で重い刑罰をくらうのは流石に可哀想だと感じたのも事実です。でも例え僅かでも盗みは盗みですからその罪は許されない事なのですが、彼女はまだ若いですし、立ち直るチャンスを与えてあげようと思いましてね」
「チャンスですか?」
「ええ、あの蛾の妖精のルナさんの言動を見て分かったと思いますが、彼女の心は人間に対する怒りと憎しみで満ちています。なんでも一年前に彼女の両親が何かの化け物に捉えられ虫の息となっている現場に不幸にも遭遇してしまったとの話ですが、時同じくその現場に現れたのは異世界召喚者の勇者や第一級冒険者の勇者達だったとの事です。ですがその場に集結した高レベルの冒険者や異世界召喚者の人間達は誰一人として彼女の両親を助けてはくれなかったとの事です。だからあなた達にあれだけの怒りと恐怖を抱いているのですよ」
「そして、その彼女の両親を食べたというその化け物の正体は遙か闇なる世界の黒神子・妖精喰いのヨーミコワ……なのですね。だから蛾の妖精のルナさんは同じ黒神子でもある私を見るなり異常に怯えていたのですね。私は妖精は食べませんし、黒神子ヨーミコワさんとは違いますのに」
「確かにそうだな、レスフィナは他の黒神子達とは違うよな」
そのラエルロットが言った信頼すべき何気ない言葉に、犬人族のシャクティと狼魔族のゴンタは何か腑に落ちない顔をしながら無言で黙る。
シャクティ「……。」
ゴンタ「……。」
その二人の沈黙にラエルロットは彼らとの認識のズレのような違和感を感じていたが、特に気にする事なくレスフィナになぜ蛾の妖精のルナを疑っているのかを聞く。
「でもなんで蛾の妖精のルナが荷馬車の荷物を盗んだ犯人だと思うんだよ。あの小さな体格じゃ、例えどんな魔法を使ったって俺達に見つかる事無く全てを持ち出すことは先ずできないだろ。それとも彼女が犯人かも知れないと言う何か根拠はあるのか?」
「私達は先程、散らばった荷物を片付けて、その後は外で捕虜となっている狼魔族のゴンタさんから狼魔族に関する情報を聞き出すために尋問と見張りをしていましたが、その時に荷馬車の中から一瞬だけ何かの強い魔力を感じたのですよ。そして私はその魔力の流れに覚えがあります。あの闇の魔力の流れは恐らくは古代の遺物だと思われます。恐らくルナさんは古代の遺物を持っていてその力で荷馬車の中にある荷物を全て消して見せたのだと思われます。もしもルナさんが古代の遺物を持っていたのだとしたら全ての辻褄が合うのですがね」
「でも鳥籠の中に閉じ込められていたルナの姿を見ていたが、特にそれらしき物は何も持ってはいなかったぞ。腰に備え付けてある包み状の小さなポシェットを持っていただけだ」
「そのポシェットの中身は確認しましたか」
「いいや、小さな妖精が腰に下げているポシェットだぞ。そんな小さなポシェットに2000年前の地球人が作った古代の遺物の品が入る訳がないだろ」
「普通に考えたら確かにそうなのですが、何事にも例外はありますし、なんだか非常に気になります」
「でもその逃げ出した彼女の行方を追うには心当たりも手がかりもないだろ。相手は空も飛べるし非常に小さいし、探し出すのに何日もかかるだろ」
「一年前に黒神子ヨーミコワさんが蛾の妖精のルナさんを……いいえ蛾の妖精族を襲ったと言うのなら当然その時は狼魔族達も一緒にその現場にいたんですよね。なら勿論ゴンタさんもその場にいたと言う事でしょうか」
「いいや、残念ながらその時は俺達は別の任務があったからその場にはいなかったよ。その時俺はまだひよっこの山賊見習いだったからな」
「でも一年前に黒神子ヨーミコワさんが蛾の妖精族を捕まえて大半を食い尽くしたとされる惨劇があった山の場所は知っているんですよね」
「ああ、知っているが、その山にはもう蛾の妖精族は一匹も住み着いてはいないぞ。ある噂ではそこからかなり離れた隣の山には別のコロニーを作っている蛾の妖精族達が細々と隠れ住んでいるという話はあるが、黒神子でも見抜くことのできない特殊な結界を施しているせいかその入り口すら未だに見つけることができないとの話だ。こんなに探しても蛾の妖精族が姿を見せないと言う事はもう既にこの辺りには蛾の妖精族は住み着いてはいないとも考えられるが、蛾の妖精のルナがこの周辺をテリトリーに活動をしていると言う事は何処かで生活をしていると言う事だ。つまりは必ず何処かにアジトがあるはずだ」
「なら別の蛾の妖精族が住み着いているかも知れないと言う噂があるその山に案内してはいただけないでしょうか。その強い結界が張られているとされる山の近くに近づきさえすれば結界を発見し見破る事も出来るのですが」
「一年前、黒神子ヨーミコワ様も、噂があるとされる山には一通りは足を運んでは見たようだが、結局蛾の妖精の姿どころかその張られている結界すらも見破る事が出来なかったとの事だ。見つけたのは、蛾の妖精のルナの両親を喰ったとされるあの惨劇の山にある集落だけだ」
「でも私は違いますがね。黒神子ヨーミコワさんは例え暗闇でもよく見える千里眼のような視力やその飛行能力を生かしたスピードに特化した黒神子ですが、私は力も人並みですし走るのも速くはありませんが、魔力を感じる探知能力にはそれなりに自信があるのですよ。言うなれば黒神子ヨーミコワさんは腕力や脚力を生かしたアウトドア派で、私は探知能力を生かしたインドア派と言った所でしょうか」
「つまりはあんたの探知能力範囲内に近づきさえすれば結界を見つけだして、更にはその結界の無効化ができると言う事か」
「はい、そういう事です」
「遙か闇なる世界の黒神子・英雄殺しのレスフィナ、全く恐ろしい奴だぜ。まあ、お前が本物の黒神子レスフィナならの話だがな!」
「では、ゴンタさん、道案内はお願いしますね」
そういうと黒神子レスフィナは狼魔族のゴンタを先頭にしながら、人間族のラエルロットと犬人族のシャクティを引き連れて何処かに飛び去った蛾の妖精のルナの行方を追うのだった。
「ば、馬鹿な、荷台にあった荷物が一つもないぞ。荷馬車の回りには常に俺達がいたのに、この短時間の間に山のようにあった荷物を一体どうやって運び出したと言うんだ。謎だ、本当に謎だらけだ?」
夕焼けが山々を茜色に照らし、太陽が隠れると共に満天の星々が夜空に星屑のように輝く頃、ラエルロット・黒神子レスフィナ・犬人族のシャクティ・そして縄で両手を後ろ手に縛られている今現在捕らわれ中の狼魔族のゴンタは一つの謎に直面する。そう荷馬車の荷台の中にあるはずの沢山の荷物が綺麗に消えていたからだ。
その目の前に広がる何一つとしてない荷台の中を見ながら不可思議な謎に直面した四人は、各々が今考えている事を順に述べる。
最初に思いを言葉にしたのは復讐の鎧の装備を解き、散らばった荷物の整理整頓を終えてそろそろ荷馬車を走らせようとしていたラエルロットだった。
「先程まで沢山あったはずの荷物がなぜ突然消えたのかは知らないが、これは非常に不味い事になったぞ。もしもこのまま荷物が見つからなかったら下手をしたら最悪俺達も狼魔族達共々荷物を盗んだ犯人と疑われるかも知れない。でもまあ幸いな事に今現在俺とレスフィナがこの荷馬車に関わっている事を知っているのは、ここにいるシャクティとゴンタとルナだけだからこのまま荷馬車を置いて速やかにこの場所から離れれば全てを狼魔族のせいにする事も可能なのだがな。一体どうした物やら」
そのなにげに言ったラエルロットの言葉に、話を黙って聞いていた狼魔族のゴンタが怒りに満ちた表情で声を張り上げる。
「ふ、ふざけるな、お前達が阻止した強奪未遂の罪を狼魔族に全て押しつけるなよ。それにあんなに大量にあった物資を誰にも気付かれる事なくこの短時間で盗み出す技術があるなら初めから強奪なんかはしないさ!」
「だがお前の話を推測するに、お前達の裏にはあの妖精喰いの黒神子ヨーミコワがいるみたいじゃないか。ならあの大量の荷物をどうにかして運べる術や魔道具や手段でも授かっているんじゃないのか?」
「そんな便利な手段があるんだったら荷馬車なんかは襲わずに町や都市に出向いてもっと秘密裏に大々的に大掛かりな盗みを考えるわ。そんな事よりも早く俺を殺すなら殺せ。言っておくが俺を人質にしたって無駄だぞ。俺の仲間達は、敵に捕まるようなヘマをした奴は無慈悲にも見捨てる冷酷非道の集団だからな!」
「お前それ、自分で言ってて悲しくは無いか。つまりお前を助けに来てくれる仲間は一人もいないって事だろ」
「うぅぅ……そ、それは」
自分が発した助けは来ないという言葉に今更ながらに深く絶望する狼魔族のゴンタだったが、そんなゴンタにラエルロットは何かを思いついたのか、ある疑問を聞く。
「狼魔族や犬人族は人間族の数千倍から~一億倍という鋭い嗅覚で生き物や物の臭いを探り当てる事ができると聞くが、ここにはいない第三者の怪しい人物の臭いは嗅ぎ分けられないのか」
「し、仕方がない、答えてやるか。いいや、特に怪しい臭いは感じられなかったよ。俺が臭いを嗅いで分かった事は、あの荷台の中に残っていた人物達の臭いは、あの荷台の中を荒らしていた数人の狼魔族の仲間の臭いと、ここにいる人間・黒神子・犬人族・蛾の妖精の四人の臭いだけだ。それ以外で地面に摩擦臭を残している人物は一人もいなかったよ。俺はそういう結論に至ったのだが、お前もそう思うだろ。犬人族の神官見習いさんよ!」
「確かに狼魔族のゴンタさんの言うように、荷台の中にいた幾人かの狼魔族達の臭いと私達五人の足跡から伝わる摩擦臭とは別に、確実に盗みを働いたと思われる第三者の存在を確認する事は出来ませんでした」
「そうか、なんだか不思議なこともあるものだな。沢山の荷物と共に荷台の中で気を失って寝ていた蛾の妖精のルナもついでにいなくなるし、ハッキリ言ってもう意味が分からないよ。つまりは八方塞がりだと言う事だ!」
厚手の布でできた青い衣服の袖を夜風になびかせながら消えた荷物の行方に悩むラエルロットを見ていた黒神子レスフィナは、その視線を大きなまん丸眼鏡を外しながら布切れで拭いているシャクティに向ける。
「時にシャクティさん、荷物と共に消えた蛾の妖精のルナさんとは今日の朝に、フタッツイの町で荷馬車の荷物を運ぶ依頼をあなた達パーティーが受諾し引き受けた時に初めて会ったのですよね」
「ええ、荷物をノシロノ王国に運ぶついでに悪さや盗みを働いていた一匹の蛾の妖精も一緒に連行してくれと言われました。なんでもフタッツイの町には妖精族の人達は少ないからノシロノ王国にある妖精族達が集まる組合で妖精裁判に掛けるとか言っていました」
「妖精裁判ですか。ノシロノ王国には人間の社会に住み着いている妖精が多いと聞きますからね。それでその蛾の妖精のルナさんは盗みを働いていたと言っていましたが具体的には一体どんな物を盗んでいたのですか。あの小人や人形のような小さな体格です。その盗みはかなり僅かで物も限定されると思うのですが?」
「そうなんですよね。私もその話を初めて聞いた時は何かの間違いだと思ったくらいです。だってそうでしょ、一体何を盗んで人間に捕まったのかは知らないけど、あの小さな体で両手一杯に盗める物なんてたかが知れてます。と言う事は宝石や指輪のような何か小さくて価値のある物でも盗んだのでしょうか」
「でも例え妖精が、人間が身につける指輪や宝石の類いの物を質屋や換金所に持ち込んだとしても、その怪しさから誰も受け取ってはくれませんよね。だって本来そんな金銭的な類いの物は妖精が持っていることは可笑しな事ですからね。妖精族には妖精族だけのコミュニティーがあって、彼らの物の支払いは確か金粉だったと記憶しています」
「でも蛾の妖精のルナさんの窃盗の罪と今回大量に無くなった荷物の行方となにか関係があるのですか?」
「蛾の妖精のルナさんは荷物と共に誰かに誘拐されたのではなく、何らかの方法で荷物を消して何処かに運ぶ何らかの力を持っていたのだとしたらどうでしょうか。気絶をして倒れたルナさんを快方する為にシャクティさん、あなたは鍵を掛けていた鳥籠の鍵を開けていましたよね」
「ええ、気絶をしているルナさんをいろいろと介抱するには鍵を開け閉めするにはむしろ邪魔でしたし、逃げないと思っていましたから。それに例えこの場から逃げだしたとしても私は別にいいと考えています。だって蛾の妖精族はどこの町に行っても人間や妖精達に至っても迫害の的ですから何も売って貰えないというのはザラなはずです。ですから人間達が過剰に反応して彼女を虫取り機のような物で捕まえて、そのまま護送を私達に頼んだ物と思われます。私が想像するに彼女が盗んだ物は、山では決して手に入らない加工された食料や抗生物質の薬の類いの物だと思いますから、そんな物の為に妖精裁判で重い刑罰をくらうのは流石に可哀想だと感じたのも事実です。でも例え僅かでも盗みは盗みですからその罪は許されない事なのですが、彼女はまだ若いですし、立ち直るチャンスを与えてあげようと思いましてね」
「チャンスですか?」
「ええ、あの蛾の妖精のルナさんの言動を見て分かったと思いますが、彼女の心は人間に対する怒りと憎しみで満ちています。なんでも一年前に彼女の両親が何かの化け物に捉えられ虫の息となっている現場に不幸にも遭遇してしまったとの話ですが、時同じくその現場に現れたのは異世界召喚者の勇者や第一級冒険者の勇者達だったとの事です。ですがその場に集結した高レベルの冒険者や異世界召喚者の人間達は誰一人として彼女の両親を助けてはくれなかったとの事です。だからあなた達にあれだけの怒りと恐怖を抱いているのですよ」
「そして、その彼女の両親を食べたというその化け物の正体は遙か闇なる世界の黒神子・妖精喰いのヨーミコワ……なのですね。だから蛾の妖精のルナさんは同じ黒神子でもある私を見るなり異常に怯えていたのですね。私は妖精は食べませんし、黒神子ヨーミコワさんとは違いますのに」
「確かにそうだな、レスフィナは他の黒神子達とは違うよな」
そのラエルロットが言った信頼すべき何気ない言葉に、犬人族のシャクティと狼魔族のゴンタは何か腑に落ちない顔をしながら無言で黙る。
シャクティ「……。」
ゴンタ「……。」
その二人の沈黙にラエルロットは彼らとの認識のズレのような違和感を感じていたが、特に気にする事なくレスフィナになぜ蛾の妖精のルナを疑っているのかを聞く。
「でもなんで蛾の妖精のルナが荷馬車の荷物を盗んだ犯人だと思うんだよ。あの小さな体格じゃ、例えどんな魔法を使ったって俺達に見つかる事無く全てを持ち出すことは先ずできないだろ。それとも彼女が犯人かも知れないと言う何か根拠はあるのか?」
「私達は先程、散らばった荷物を片付けて、その後は外で捕虜となっている狼魔族のゴンタさんから狼魔族に関する情報を聞き出すために尋問と見張りをしていましたが、その時に荷馬車の中から一瞬だけ何かの強い魔力を感じたのですよ。そして私はその魔力の流れに覚えがあります。あの闇の魔力の流れは恐らくは古代の遺物だと思われます。恐らくルナさんは古代の遺物を持っていてその力で荷馬車の中にある荷物を全て消して見せたのだと思われます。もしもルナさんが古代の遺物を持っていたのだとしたら全ての辻褄が合うのですがね」
「でも鳥籠の中に閉じ込められていたルナの姿を見ていたが、特にそれらしき物は何も持ってはいなかったぞ。腰に備え付けてある包み状の小さなポシェットを持っていただけだ」
「そのポシェットの中身は確認しましたか」
「いいや、小さな妖精が腰に下げているポシェットだぞ。そんな小さなポシェットに2000年前の地球人が作った古代の遺物の品が入る訳がないだろ」
「普通に考えたら確かにそうなのですが、何事にも例外はありますし、なんだか非常に気になります」
「でもその逃げ出した彼女の行方を追うには心当たりも手がかりもないだろ。相手は空も飛べるし非常に小さいし、探し出すのに何日もかかるだろ」
「一年前に黒神子ヨーミコワさんが蛾の妖精のルナさんを……いいえ蛾の妖精族を襲ったと言うのなら当然その時は狼魔族達も一緒にその現場にいたんですよね。なら勿論ゴンタさんもその場にいたと言う事でしょうか」
「いいや、残念ながらその時は俺達は別の任務があったからその場にはいなかったよ。その時俺はまだひよっこの山賊見習いだったからな」
「でも一年前に黒神子ヨーミコワさんが蛾の妖精族を捕まえて大半を食い尽くしたとされる惨劇があった山の場所は知っているんですよね」
「ああ、知っているが、その山にはもう蛾の妖精族は一匹も住み着いてはいないぞ。ある噂ではそこからかなり離れた隣の山には別のコロニーを作っている蛾の妖精族達が細々と隠れ住んでいるという話はあるが、黒神子でも見抜くことのできない特殊な結界を施しているせいかその入り口すら未だに見つけることができないとの話だ。こんなに探しても蛾の妖精族が姿を見せないと言う事はもう既にこの辺りには蛾の妖精族は住み着いてはいないとも考えられるが、蛾の妖精のルナがこの周辺をテリトリーに活動をしていると言う事は何処かで生活をしていると言う事だ。つまりは必ず何処かにアジトがあるはずだ」
「なら別の蛾の妖精族が住み着いているかも知れないと言う噂があるその山に案内してはいただけないでしょうか。その強い結界が張られているとされる山の近くに近づきさえすれば結界を発見し見破る事も出来るのですが」
「一年前、黒神子ヨーミコワ様も、噂があるとされる山には一通りは足を運んでは見たようだが、結局蛾の妖精の姿どころかその張られている結界すらも見破る事が出来なかったとの事だ。見つけたのは、蛾の妖精のルナの両親を喰ったとされるあの惨劇の山にある集落だけだ」
「でも私は違いますがね。黒神子ヨーミコワさんは例え暗闇でもよく見える千里眼のような視力やその飛行能力を生かしたスピードに特化した黒神子ですが、私は力も人並みですし走るのも速くはありませんが、魔力を感じる探知能力にはそれなりに自信があるのですよ。言うなれば黒神子ヨーミコワさんは腕力や脚力を生かしたアウトドア派で、私は探知能力を生かしたインドア派と言った所でしょうか」
「つまりはあんたの探知能力範囲内に近づきさえすれば結界を見つけだして、更にはその結界の無効化ができると言う事か」
「はい、そういう事です」
「遙か闇なる世界の黒神子・英雄殺しのレスフィナ、全く恐ろしい奴だぜ。まあ、お前が本物の黒神子レスフィナならの話だがな!」
「では、ゴンタさん、道案内はお願いしますね」
そういうと黒神子レスフィナは狼魔族のゴンタを先頭にしながら、人間族のラエルロットと犬人族のシャクティを引き連れて何処かに飛び去った蛾の妖精のルナの行方を追うのだった。
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