遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編

2-9.第二の試練が発動する

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            2ー9.第二の試練が発動する


 不信を抱きながら語るゴンタに今度はラエルロットが聞く。

「狼魔族のゴンタ、今度は俺の質問に答えて貰おうか」

「お、おう、なんだよ?」

「お前達が言っているボスの事と、その更に上の主でもある遙か闇なる世界の黒神子・妖精喰いのヨーミコワの事についてだ。いくらこの山に結界が張られているとはいえ、狼魔族達の中でも新人の末端でもあるお前が蛾の妖精達がいるかも知れないこの場所を軽く想像ができるくらいだから当然その情報は黒神子ヨーミコワにも流れているはずだ。だが長老や他の蛾の妖精達の話だと黒神子ヨーミコワはまだ一度もこの山にその姿を現してはいないとの話だ。なぜ黒神子ヨーミコワはこの山を無視しているのか、その謎が知りたくてな。最近の黒神子ヨーミコワの行動と現状をお前の口からどうしても聞きたいんだ。この二~三日の間、黒神子ヨーミコワは一体何を考え、そして何処で何をしているんだ。蛾の妖精のルナが捉えられていたあの荷馬車をお前達に襲えと命じたのはその黒神子ヨーミコワなのか」

 そのラエルロットの疑問に渋い顔をしながらゴンタは即答で答える。

「さあな、正直俺はなにも知らん。末端の山賊の俺が、年に一~二度しかその姿を見たことがない黒神子ヨーミコワ様のお姿をそう簡単に拝顔できる訳がないだろ」

「じゃ一体誰が黒神子ヨーミコワとコンタクトをとってお前達に命令を下していると言うんだ」

「それは勿論狼魔族達を率いる家のボスだよ。三年前に突如として現れた黒神子ヨーミコワ様と家のボスが率いる狼魔族達が戦いになったんだがあえなく簡単にボロ負けしてしまってな。殲滅させられたくなかったら部下となって手足のように働けと、その自慢の鼻と足で私の為に情報をかき集めろと黒神子ヨーミコワ様に言われて家のボスが屈服したんだよ。それ以来、ボスは黒神子ヨーミコワ様の強力なお力に完全に心酔して、その全ての面倒を見ているとの話だ。そして一年前に蛾の妖精族の村を襲い、その後は異世界召喚者や第一級冒険者達と事を構えた黒神子ヨーミコワ様はそれ以来その神々しい姿は見せてはくれず、代わりにボスがその絶対的な命令を下しているとの話だ」

「なるほど、つまり黒神子ヨーミコワは何らかの理由でその姿を狼魔族のボスにしか見せてはいないと言う事か。そしてその命令はその狼魔族のボスから部下達に命令が下されていると言う事だな」

「まあ~確かにそうなんだが、蛾の妖精達が隠れ住んでいると言われている隠れ里の門には侵入者を阻む結界が施されていて、俺達はその隠れ里の正確な場所を見つけられずにいたんだ。蛾の妖精達が時々この山の辺り周辺を飛び回っているという情報を風の噂で聞いてはいたが、結局この一年間、黒神子ヨーミコワ様は一度も蛾の妖精達を積極的に探しに出る事はなかった。それにその探していた何かも結局は見つからなかったらしいしな」

「それは恐らくは、蛾の妖精のルナが両親と共に住んでいたという村に封印されていた古代の遺物の一つ、邪妖精の衣の事だな」

「そうなんじゃねえか、まあ俺はその古代の遺物の事は何も知らないがな。だがこの山に住み着いている蛾の妖精族達が未だに無事な理由はそれだけではないだろ。一年前に蛾の妖精を食べたという黒神子ヨーミコワ様はその食の経験から、蛾の妖精のあまりの不味さに、もう興味その物を失っているのかも知れない。だからこそ他の生き残りの存在を知っていても無理には襲わなかったのだと俺は思っている」

「本当に理由はそれだけなのか。黒神子・ヨーミコワには自由に遠出や行動ができない真の理由がもしかしたら本当はあるんじゃないのか。黒神子達が回収したがっている古代の遺物の反応が未だにこの地の何処かにある事は当然感じていただろうし、だったらこの山の周辺を飛び回っている蛾の妖精達を捕まえて尋問や拷問をして情報を聞き出すくらいの事は普通ならするんじゃないのか。でも黒神子ヨーミコワがそれらを未だにやってはいないと言う事は、今はそうすることができない状況にいると言うのが極自然の流れだろ。そうとしか考えられないんだが」

「まあいずれにしてもだ、理由はどうあれ黒神子ヨーミコワ様はこの山には一切来てはいないと言う事だけは確かだ」

「黒神子・ヨーミコワ……か。レスフィナの話だと黒神子ヨーミコワは人間にとっても厄介で危険で脅威となり得る存在らしいから、できたら出来るだけ黒神子と呼ばれている者達には関わりたくはないのだがな。だがどういう訳かは知らないがこの土地周辺に住み着き、狼魔族達を使って他の知性ある多種族達に悪さを働き、ルナが持つ古代の遺物、邪妖精の衣を狙っているというのならこのまま事を見逃す訳には行かないな。この事はレスフィナと話し合ってこれからどうするかを決めるつもりでいるよ。できたら黒神子ヨーミコワとは穏便に話し合いで事を解決したい物だが、話し合いが決裂して戦闘になったら当然その部下でもある狼魔族達が出て来るだろうから、その時は悪いけどお前の仲間達には再起不能になって貰うからな」

「まあ、狼魔族側から先に戦いを挑んだのならそれは仕方が無いんじゃねえの。お前らに無抵抗でやられろとは俺も流石に言えないし、戦いとは常に残酷で酷い物だと皆は分かっているからな。例えその戦いで殺されても、お前らを恨む理由はねえよ」

「俺は愛と正義を胸に弱き人々を限りない悪から守る勇者として。そしてまだ見ぬ世界の探求に新たな発見と謎の解明を志す冒険者として……黒神子ヨーミコワが昔から好んで行っているという妖精喰いなどという野蛮な行為は絶対に見過ごす訳には行かないんだ。今のご時世で逃げ惑う妖精を片っ端から捉えて生きたまま食べる行為なんて流石に非人道的だし、考えられないだろ!」

「勇者ですって、笑わせないで。あんな最悪最低な下らない物になろうとする奴らの気が知れないわ!」

 どの辺りから話を聞いていたのかは知らないがラエルロットが立つ遙か頭上から女性の声が聞こえると、夜空が見える暗闇の中から蛾の妖精のルナがその姿を現す。
 ルナは怒りと軽蔑の視線を向けるとラエルロットの目の前でホバーリング(空中浮遊)をする。

(げ、目の前まで来た)と焦るラエルロットに対し、蛾の妖精のルナは大きな声で叫ぶ。

「現実に勇者を名乗る人間達なんてハッキリいって利己的に動く悪どい存在よ。地球という星から来たと言う異世界召喚者の勇者達は基本的にこの世界に生きる多種族の事なんてなんとも思ってやしない人達だし、この緑の星に住む緑の星の人間族達でさえその種族によっては当然差別や迫害はあるわ。そう命の価値の優先順位が極端に低い種族がね……私達、蛾の妖精族のことよ」

「ルナ……」

「それでも私は一年前までは人間を……いいえ勇者と呼ばれている特別な存在を心の何処かでは信じていたわ。いつもは迫害を受けていても妖精族と人間族が同盟を交わしている以上いざという時は必ず私達、蛾の妖精族のピンチにも絶対に駆けつけてくれるって。そして最後の最後に黒神子ヨーミコワに追い付かれた私達を救ってくれたのは、どういう訳かタイミングよくその場に現れた異世界召喚者の勇者達と第一級冒険者の勇者を始めとした高レベルの緑の星の冒険者達だったわ」

「異世界召喚者の勇者達とこの世界に住む緑の星の高レベルの冒険者達と黒神子ヨーミコワの三勢力がルナの目の前で鉢合わせをしたのか。だから一年前にお前達兄弟は助かったんだな」

「本当は黒神子ヨーミコワに捉えられていた家の母も助かるはずだった。あの時家の母はまだ生きていて、あれだけの人数の高レベル勇者達や冒険者達がいるんだから当然助けてくれる物とばかり思っていた。いいえ例え助けるつもりがなかったとしても頭を下げて必死に頼めば黒神子ヨーミコワを牽制するリアクションくらいはしてくれる物とばかり思っていたし、僅かに期待もしていた。いざ戦いになったらその隙をついて私がどさくさ紛れに黒神子ヨーミコワの足下に飛び込むつもりでいたから……でもそうはならなかった」

「お前の母を助けてくれと言う必死の懇願に、人間達は一体どうしたんだ?」

「そんな私の必死な頼み事に対し勇者達は……いいえ人間達は嘲り笑いながら私の母親を簡単に見捨てたわ。ある異世界召喚者の勇者は、戦いの邪魔になるから早くその捕まえている蛾の妖精を食べてしまえと……それまでは待ってやるとまで言っていたわ。そして私は母を助ける手段も無く、黒神子ヨーミコワが無造作に空ける大きな口の中へと飲み込まれて行くその瞬間を見ながら絶望するしかなかった。そして時同じくしてその光景を笑いながら見ていた人間達への認識を急激に変えるきっかけにもなったわ。人間族達が最強最高職と称える冒険者達の中でも特別な勇者と呼ばれている人達は本当は皆自分勝手で利己的で、更には自己中心的なクソ野郎の集まりでしかないと言うことを……そして勇者と呼ばれている存在は守る側の数少ない人間族達しか結局は守ってはくれないと言う事を私は学んだのよ。だからあんな下らない物になろうと憧れるあなたに、現実の勇者達は決して弱き者達を守ってはくれないと言う事をどうしても教えたかったのよ。あんな最低最悪の勇者なんかに夢なんか見てんじゃないわよ!」

 一年前に経験したという蛾の妖精のルナの悲惨な過去の体験談を聞いたラエルロットは正直かなりショックを受けたが、恨みと悪態をぶつける蛾の妖精のルナにラエルロットは優しさ溢れる真剣な顔でその思いを返す。

「ルナ、お前は物凄く大変な思いをしたんだな。そんな壮絶な悲しい思いをしたのならお前が人間族達を……いいや勇者と呼ばれている存在を恨むのは寧ろ当然と言う事か。先ずは同じ人間代表として謝らせてくれ。ルナ、君の母を助けられなくて本当にすまなかった。これは明らかに人間達の傲慢さから来る怠慢だ。そんな君には当然その場にいた勇者もどき達を非難し罵る権利はある。なぜなら実際にその勇者達は君の母を助ける為に最善を尽くさなかったのだからな。それは本当の勇者がする行いでは無いと言うことだ。その不埒な一部の心無い勇者や冒険者達の行いのせいでルナという蛾の妖精族の少女に絶望的な思いをさせてしまった。これは勇者を志す俺としても絶対に肝に銘じなければならない事だ。ルナ、もう一度心の底から謝らせてくれ。君の母親を助けられなくて本当にすまなかったと」

「な、なんでその場にいなかったあんたが謝るのよ。私はただ勇者職に憧れているあなたに愚かな勇者の現実を教えてやろうとここに来ただけなのに……あなたの勇者に対する特別な憧れをあざ笑って否定をしてやろうと一年前の話をしただけなのに……本当に理解不能だわ。この偽善者が、どうせあなたも黒神子ヨーミコワが目の前に現れたら真っ先に逃げるんでしょ。人間とはそういう者よ。私には分かっているんだから。実際、昨日荷馬車を護衛していた人間族の冒険者達だって、犬人族のシャクティを見捨ててみんなで逃げて行ったじゃない。それが現実よ!」

「ルナ……すまなかった」

 蛾の妖精のルナのキツい指摘にラエルロットは目を伏せ深々と頭を下げる。

「ちょ、ちょっと、なに頭なんか下げてるのよ。あんたなんかに頭なんか下げられたってなんの意味もないじゃない!」

「に、人間が蛾の妖精族無勢に頭を下げるのか。この世界では妖精族の命の価値なんて限りなくゼロに近いのに。人間達と同盟を組んでいない妖精達はその食物連鎖の過程で、野生で生きる魔獣達に食い殺される事は決して珍しくはない事だ。なぜならそれはこの世界に住む全ての生き物達に取っての命を賭けた弱肉強食の場であり、つまりは食物連鎖の場だからだ。弱い種族は損をし割を食う、そして滅びる。それがこの世界に住む者達に取っての絶対的な決して避けられない常識だ。だからこそ力の無い妖精族達は人間族達にへりくだりながらその理不尽なまでの形だけの同盟を組んでいる。なら必然的に蛾の妖精のルナの訴えなど普通の人間達は聞き入れる耳は当然持ってはいないはずなんだが、このお人好しの黒い鎧の力を持つ人間はどうやら違うようだ。なぜなら本気で蛾の妖精に対し心の底から謝っているからだ。この世界に住む普通の人間達の感覚じゃまず有り得ない事だ。しかもその妖精族の中でも更に忌み嫌われている蛾の妖精に頭を下げているんだから、その光景を見た蛾の妖精の少女もどうしていいのかが分からずかなり面食らっているみたいだからな。本当に可笑しな事だぜ」

 そう呟きながら驚愕の目を向けるゴンタを尻目に、ラエルロットはルナに向けて諭すように話し出す。

「ルナ、君の家族が受けた酷い仕打ちに対し、勇者を志す者として俺はただ謝る事しかできないけど、俺の話を聞いてくれ!」

「だからなんであなたが私に謝っているのよ。あなたは関係ないじゃない。もう意味が分からないわ!」

「君は勇者と言う者を誤解している。君が一年前に出会い遭遇した勇者は本当の勇者じゃない。正義を志す信念も優しさも正しさも誇りも何も無い、勇者を名乗るだけの偽物の勇者だ。俺達が考えている勇者道を目指す正義と優しさを志す本当の勇者の形では決してない。だから君が出会ったそいつらは恐らくは偽物の勇者だ。欲や驕りにまみれた勇者は本当の勇者じゃないからな。昔からハルばあちゃんもそう言っていたし、間違いないぜ」

(一体この人は何を言っているの?)と思いながら蛾の妖精のルナは、一年前に遭遇した勇者達が偽物だと主張するラエルロットに怒りを爆発させる。

「なにが偽物よ、あれは間違いなく冒険者協会に所属をしている高レベルの冒険者達だったわ。その中には衝撃波動の勇者と呼ばれている、第一級冒険者の中でも特別な最強の十人の中の一人の、鉄槌のイレイダルもいたんだからまず間違いは無いわ。まさか冒険者達を庇おうと言うの!」

「そんな事を言っているんじゃないんだよ。弱き者達の悲痛な願いに、想いに応えなかった時点でそいつらはもう勇者失格なんだよ。恐らくその勇者はノシロノ王国を守る為に冒険者協会から派遣された利己的な職業勇者で、その実態は王国から雇われた傭兵と何ら変わらない奴らなんだろう。そんな人達を俺は真の勇者とは決して呼ばない。ルナが遭遇した勇者達は何かの大義の為に戦う戦士であって、弱き人々を守る勇気ある志を持つ者達では決してないからだ。助けを求める者達の声を選ぶ偏見的な勇者なんて、真の意味での勇者では決してないだろ。少なくとも俺が目指す勇者像では決してないからだ。だからルナ、ごく一部の心無い勇者の行いを見ただけで全ての勇者達がそうだと結論づけないでほしいんだ」

「何言ってんのよ、勇者なんかみんな同じじゃない。みんな自分の事しか考えない、浅ましい奴らよ。嫌い、嫌いよ、独善的な正義を振りかざす、あんな奴らは!」

「ルナ、君が不幸にも一年前に出会ってしまった勇者達が全てじゃない。この世界は物凄く広大で広いんだ。俺や君が恋い焦がれ追い求める、そんな志を持つ勇者がこの世界には必ずいるはずだ。勇者と呼ばれている存在はこの世界にはまだまだ沢山いるのに、そんな軽率且つ絶望的な諦めの結論を出すには早計なんじゃないのか。君はこの世界を本気で守ろうとする勇者達にまだ出会ってもいないじゃないか」

「この世界を守ろうとしている本当の勇者達ですって……そんなおめでたい人達が本当にこの世界にいると言うの。弱い種族達を無償で助け……損得や迫害無しに守ってくれる、そんな勇者が本当にいるのかな。信じたい、そんな暖かな優しさを持つ本当の勇者がこの世界にはいると信じたいけど……」

 頑なに勇者という存在を否定していた蛾の妖精のルナだったが、ラエルロットの世界は広いという言葉を聞き、ルナが抱いていた様々な葛藤と思いが頭をよぎる。

「きっといるよ。俺のように優しくも強い勇者に憧れを抱いている人間だってここにいるんだから、真の正義を志し、その域に達した心ある勇者も絶対にいるはずだ。絶対にだ。俺はそう信じている!」

 そんな希望溢れる熱い思いを語るラエルロットの言葉にルナの頑なな心は大粒の涙と共に揺らぎ始めるが、直ぐに否定的な言葉を向ける。

「うるさい、うるさい、ありもしないそんな都合のいい嘘を言うな。お前がいうそんなでまかせめいた狂言を一体誰が信じると言うの。何も知らないと思っていい加減な嘘を言ってんじゃないわよ。有りもしない期待なんかさせるんじゃないわよ。本当はそんな勇者なんかはいない癖に!」

「なら、俺達と共に一緒に見に行くか。その本当の勇者達とやらをよ。俺は黒神子レスフィナと共に遙か闇なる世界と呼ばれているこの緑溢れる世界の中心に行こうとしているんだ。ならその旅の過程で必ずお前が納得する真の正義の心を持つ勇者達とも必ず出会えるはずだ。おまえにとってもこの広い世界を見ていろんな事が知れて学べるチャンスだし、この旅に同行するのなら、君にも決して損はないと思うけどな」

「それはつまり……私にあなたの付き人になれと言う事。人間達に忌み嫌われている蛾の妖精族の私が……勇者に憧れる……まだ第八級冒険者の資格もないあなたのガイド役になれと言うの?」

「付き人でもガイド役でもないよ、俺達は仲間になるんだ。て言うか運命的に俺達は何の因果か今日お互いの思いを掛けて戦い、そしてここでは思いの丈を語らい、そしてお互いの主張を曲げないのなら、ルナお前は俺達の旅の仲間になって共に行動をするしかないだろ。本当の勇者がこの世界には必ずいる事を俺が君に証明してやるよ!」

「あんたの話じゃこの世界には本当の勇者は必ずいるという話だけど、あんたが勇者になって私の考えや言葉を見返すという話にはならないの?」

 その蛾の妖精のルナの言葉にラエルロットは少し暗い顔をしながら自分の考えを述べる。

「それは……自分が追い求める正義を志す勇者にはなりたいけど、恐らく俺じゃ無理だな。その強い思いはあっても国が認めた正式な第一級冒険者しかなれない勇者職は特別な物なんだよ。まさに選ばれた者にしかなれないエリートの集まりさ。そして俺に至ってはその最下層の冒険者の第八級試験を四回も落ちているただの落ちこぼれだ。だから今回ノシロノ王国で急遽行われるという追加の採用試験に合格出来たらそれだけで俺としては万々歳じゃないかな。俺の実力なんて大概その程度の物だよ」

「その程度って……あんたはあの黒神子レスフィナの初めての眷属なんでしょ。しかも暗黒の勇者の称号と力をもう既に持っているじゃない」

「冒険者協会が認定している正式な勇者ではないし、俺が勝手にそう言っているだけだよ。つまりは自称だよ、自称。誰も俺の事を本当の勇者と認めてはいないだろ。まあそう公言すらもした事はないがな」

「でも黒神子レスフィナの眷属になる事って……第一級冒険者試験に合格するよりも難しい事じゃないの。て言うか落ちても大丈夫な普通の試験と違って、黒神子レスフィナの眷属になった後の追加の試練って、もしもその答えに間違えたらそのまま地獄行きになるという恐ろしい試練じゃなかったかしら。しかもその黒神子レスフィナの眷属に人間が選ばれるだなんてまず有り得ない事だし、物凄く奇跡的な事じゃないかしら。その特別な異例な存在にラエルロット、あなたは今なっているんだけど、それは理解してる?」

「それはあまり重要な事じゃないよ。レスフィナに失いかけた命を救って貰った上での過程に過ぎないし、ただ運がよかっただけの事だよ。第一の試練を通過しても生き返れる確率は四分の一と言われていたからな、生きていて良かったと言った所か」

「運が良かっただけって……あんたね、もうなによ行き成り卑屈になって。自分は勇者にはなれないから他人の頑張りに全てを任せますと言っているような物じゃない!」

「でも俺には勇者になれる才能はないし……」

「ああ、もうじれったいわね。自分が勇者になって私の言葉を撤回させてやる、くらいのでっかい事は言って見なさいよ。もうあなたのおめでたい妄想にこれ以上付き合ってはいられないわ。私、もう帰って寝るわ!」

「ルナ……すまない」

「だからなんで謝るのよ。それとラエルロット、あなたと狼魔族のお兄さんのいるこの場所は、今までに亡くなった蛾の妖精族達の墓場のような所よ。ここには昔から強い霊気が充満していて、精霊や亡くなった人達の魂が集まりやすくなっている……そんな土地の一角よ」

「そんな場所なのかここは、光虫がやたらと多いから光虫の散乱の場所かと思ったぜ。今も緩やかにこんなに沢山飛んでいるしな」

「「え?」」

 そのラエルロットの何気ない言葉にルナとゴンタは思わずその視線を合わせる。

「見えるの……ラエルロット……その無数の魂の光が……」

「無数の魂の光りって……飛んでいるのはただの光虫だろ」

「いいわ、ラエルロット、面白いじゃない。あなたがただ単に強いだけの人間ではないと言う事が少しは分かったような気がするわ。なら見せてよ、あなたが思い描く勇者としてのその心の在り方を……そしてその証拠を!」

「俺にそれを求めるのかよ。だがまあいいぜ、自信は無いけど……お前が認めざる負えないような本当の勇者に必ずなってやる。だから期待しないで首を長くして待っていろよ!」

「なによ、歯切れが悪いわね。じゃあね、嘘だらけの似非勇者さん!」

 そう言うと蛾の妖精のルナはラエルロットとゴンタをその場に残して夜の空へと消えて行く。

            *

 そんなルナと交差するかのように現れた黒神子レスフィナと犬人族のシャクティは何だか不安めいた顔をしながらラエルロットの前にその姿を現す。

「トイレに行くと言ったきり中々帰って来ないから迷子になっているかも知れないと思いわざわざ探しに来たのですが、こんな所で一体何をしているのですか。この異常なまでの霊気と精霊達が集まっている所って……ここは亡くなった蛾の妖精達を埋葬する墓標の地ですよね」

「分かるのか、レスフィナ」

「恐らく一年前に亡くなったルナさんのご両親はルナさんに古代の遺物をこの地に埋めて再び封印を施してくれと言っていたのではないでしょうか。でも未だに邪妖精の衣をルナさんが肌身離さず持ち歩いているということは、妖精喰いの黒神子ヨーミコワを引き寄せるという呪いは今も継続中と言う事になるはずです」

「まあ当然そうなるよな」

「そのはずなのですが……可笑しいですよね。ならなぜ黒神子ヨーミコワはその呪いに引き寄せられているはずなのに、この山に住み着いている蛾の妖精達を襲わないのでしょうか。その隠れ里を覆う結界術でその里を特定できないのは分かりますが、この山事態を探し回っても別にいいような気がします。ですがタダの一度もこの地に現れないだなんて……そんな事が本当にある物なのでしょうか?」

「だとしたならば、レスフィナの推測通り、黒神子ヨーミコワ自身に何か良からぬアクシデントが起きていると……この山の場所までこれない何らかの理由が必ずあると言う事か」

「私はそう考えています」

「そうか。で、シャクティも共に探しに来てくれたのか」

「ええ、私もラエルロットさんとゴンタさんの身に何かあったのではと思って心配していましたからね」

 眠そうに目をこするとシャクティは優しさ溢れる満遍な笑顔を向ける。

「そうか、それは心配を掛けてすまなかったな。じゃそろそろ村の方に戻ろうか」

 そのラエルロットの言葉に黒神子レスフィナは確認の言葉を述べる。

「つい先程までここに蛾の妖精のルナさんもいたようですね。ここにくる時に彼女の声を聞きましたから」

「はい、私もここに彼女がいた匂いを感じます」

 鼻をピクピクとさせると犬人族のシャクティもまた、蛾の妖精のルナがいた痕跡を臭いで確認する。

「ああ、確かについさっきまでここにルナがいたがそれがどうしたんだ。なにか話でもあったのか?」

「いいえ、そういう訳ではないのですが、ここでラエルロットさんはルナさんとどんな話をしていたのですか」

 なんだか意味ありげな事を聞くレスフィナにラエルロットが話す。

「そうだな、勇者を名乗る者はみんな信用できないとか言っていたから、そんな事は無いと言う自分の主張を語って、恨み辛みで意固地になるルナに諭して教えていたかな。ルナには人を信じるという思いを失って貰いたくはなかったから。この世界には弱き者達を救ってくれる本当の勇者は必ずいるという事を教えていたんだよ」

「本当の勇者ですか……そしてその言葉に困惑するルナさんにラエルロットさんは得意げに有らぬ希望を持たせるような事を言ってしまったのですね」

「行ってしまったのですねって、どう言う事だよ。本当の真の勇者は必ずいるとルナには言っちゃいけないのかよ。少なくとも俺はそう信じているんだけどな。でなけねばこの世界はなんの望みもない地獄その物だろ」

「今の段階ではあなたの口から希望めいた言葉を聞かせる事は裂けた方が良かったのかも知れません。その方が再び裏切られた時、心の傷が浅くて済みますからね。ラエルロットさんの裏切りで再び絶望の淵に叩き落とされるのを見るのは流石に心が痛みますから」

「レスフィナ、一体何を言っているんだ。俺がルナに言った言葉を違える訳がないだろ!」

「いいえ、違えて貰わなくては困るのですよ。ラエルロットさん、あなたがね」

「それは一体どういう事だよ?」

 レスフィナの言葉の意味に困惑するラエルロットに、黒神子レスフィナは真剣な顔を向けながらその言葉を継げる。

「ラエルロットさん、あなたが私の眷属になった時の事を覚えていますか」

「ああ、当然覚えているよ」

「その試練のことに付いてはどうですか?」

「確か第一の試練は……五本の聖剣から一本の剣を選んで持ち帰るという簡単な試練だったな。ハッキリ言ってあの時点で不安はあったが特に恐怖と言う物は全くと言っていいほど感じなかった。だが、その後の帰り道で待ち構えていた死霊や亡者達からの死への誘いの方がかなりの恐怖だったよ。なにせあのままあの場所にとどまっていたら俺は確実に死霊達に取り憑かれて死んでいたかも知れないからな」

「ラエルロットさんが初めて受けた第一の試練の名は……『欲深い五本の剣の迷宮』です。その試練の内容は五本の聖剣の中から一つを選び、死霊達が漂う暗黒の空間から無事に生還する事。それが第一の試練の内容でした」

「復讐の鎧を俺に託してくれたあの死霊達はともかくとして、あの五本の聖剣のどれかを持ち帰っていたら、俺は一体どうなっていたんだ?」

「恐らくはその聖剣の特性と呪いに従った自分勝手な欲深な人間になっていたと思います。もしもそのような欲深な人間としてこの世に復活を遂げていたらその時点でラエルロットさんと私との契約は即座に打ち切って、ここで私と出会った全ての記憶を消してからそのまま別れるつもりでした。そのつもりだったのですが……まさかどの聖剣も……何も持ち帰らずに、代わりにヒノのご神木から託された古代の遺物の一つでもある思いを具現化する苗木の半分を持ち帰るだなんて……流石に予想外でした。しかもその力であの異世界召喚者の強者とも言うべき勇者田中さんに食い下がり、その悪行を当然のように犯している田中さんの心までもを最後は改心させるとは思いもしませんでした。そしてそんなあなたが自分の意思で、遙か闇なる世界の中心に行きその世界の崩壊の流れを止めようとする私に協力をすると言ってくれたからこそ、私とラエルロットさんは今ここに一緒にいるのです」

「ああ、そうだったな。第一の試練を乗り越えて、レスフィナがこれからやろうとしている壮大且つ大胆な、誰も実行しようとはしなかった、一つの可能性とも言うべき計画を知った俺は、お前がやろうとしている遙か闇なる世界の中心に行くと言う旅路に俺も協力すると言ったから、レスフィナは俺と共に旅をする事に決めたんだよな。だがそれと蛾の妖精のルナとの一件と、一体どんな関係があると言うんだ?」

「遙か闇なる世界から、新たなご神託があなたの元に下ったのです。ラエルロットさん、では第二の試練のご神託を発表します。第二の試練の名は『愚かなる者達の選択』です。その内容は【愚かで薄汚い種族である汚らわしい羽虫達は絶対に助けるな。でなけねばラエルロットの身に確実な死が降りかかるであろう!】これが第二の試練の内容です」

「愚かで薄汚い種族の羽虫達って……まさか蛾の妖精達のことか。第二のご神託を下した遙か闇なる世界の神の意志は、残酷な世界を必死に生きる蛾の妖精達を……今僅かだが心が揺れ動いているルナを……俺に見捨てさせるつもりなのか。一体なんの恨みがあってこの世界の神々は蛾の妖精達をそんなに目の敵にするんだよ。こんなのは不当だし、理解が、理解ができないよ。これじゃあまりにも蛾の妖精達が可哀想じゃないか。こんなご神託を俺に下すだなんて、遙か闇なる世界の神は一体何を考えているんだ!」

 そのラエルロットの悲痛な叫びに黒神子レスフィナ・犬人族のシャクティ・狼魔族のゴンタの三人は、どう反応していいのかが分からず、ただ黙ってこの状況を静かに見守る。

「「……。」」

 理不尽にも下されたこの世界を支配する神様の決定事項にラエルロットは当然反発をしながら、この世界の矛盾に嘆き苦しむのだった。
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「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人
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◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
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「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
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 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

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