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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編
2-15.ラエルロットの選択、そして覚悟
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2ー15.ラエルロットの選択、そして覚悟
「くそぉぉ、なんて事だ。思いが……気持ちが……焦りだけが空回りしてルナを引き止めるいい言葉が浮かばなかった。いや違うな、もしかしたら俺は心の何処かで第二の試練のご神託を違えた時に確実に訪れるであろう死への恐怖に恐れおののいていたのかも知れない。それでも、例えそうだったとしても、ルナにあんな言葉を言わせるべきではなかった。あの全てを悟りながらも悲しみと覚悟に満ちた目は、この先確実に訪れるであろう死という運命を受け入れた……覚悟をした者の目だ。恐らくは、この先自分が逃げることで確実に起きてしまうであろう妖精達に対する無差別な貪食行為に抗う事も出来ず、その罪悪感と罪の重さから生きている事事態が耐えられなかったのだろう。全く……これなら嘘つきとか、臆病者とか、お前も心の中では私達のことを蔑んでいるんだろと恨みがましく罵ってくれた方がまだマシだった。まさか逆に気を遣われて励まされて……優しい言葉を掛けられるとは夢にも思わなかったよ。俺はあの時……ルナが最後の望みとも言える視線を投げかけてきた時、ハッキリと自分の口で言うべきだった。君たちを助けると……救って見せると。でないと俺はこの先、胸を張って勇者を目指すだなんてきれい事や戯れ言は言えないような気がする」
「ラエルロットさん……」
「レスフィナ、もう一度、第二の呪いの試練の内容を正しく読み上げてくれ」
「第二のご神託の試練、それは【愚かで薄汚い種族である汚らわしい羽虫達は絶対に助けるな。でなけねばラエルロットの身に確実な死が降りかかるであろう!】です。この約束の言葉を違えたらラエルロットさん……あなたは地獄の亡者達の手によって確実に地獄に叩き落とされます!」
「つまり本当に、死ぬと言う事か」
「はい、そういう事です」
「蛾の妖精達に一切関わることなく、あの邪悪な黒神子ヨーミコワの魔の手から一体どうやって助けだしたらいいんだ。くそぉぉ、くそぉぉ、助けを求める力なき妖精達の命が掛かっているというのに……何か俺にいい知恵は無いのか!」
蛾の妖精の仲間達の危機を救う為に隠れ里の方へと飛び去ったルナを止めることができなかったラエルロットは戸惑いと迷いの為か勇気という決断を直ぐさま出せなかった事に激しい後悔の念を抱く。
あのまま黒神子ヨーミコワの元に行ったら仲間達が喰われた後に必ずルナも何も出来ないまま喰われてしまうことを知っているからだ。
切羽詰まった彼女がなんの対策もないまま飛び立ったと言う事は、自分自身の命と引き換えにどうにか黒神子ヨーミコワの注意をそらし、一秒でも長く時間を稼いでみんなを逃がそうと考えているはずだ。
そんな無謀な考えしか思い付かないくらいにルナ自身を追い込んでしまった自分の心の迷いの弱さにラエルロットは勇者とは……冒険者とは……正義とは……守るとは……勇気とは一体なんなのかを心の中で問いかける。
「俺は……俺は……一体どうすれば……」
自分の命と蛾の妖精達の命を天秤に掛け一体どうしたらいいのかと真剣に考えていると、行き成り馬鹿にしたような大きな声が回りに響く。目の前にいたのはほったらかしにされていた狼魔族のボス、ザドだった。
ザドは豪快に笑いながらまだ結論を出せないでいるラエルロットに向けて言い放つ。
「ハハハハハハハ、やはりな。いくら正義や希望と言った耳障りのいいきれい事を言おうとも黒神子ヨーミコワ様の圧倒的な恐怖と力と神々しさを前にしたら怖じ気づくのも至極当然の話だ。お前らの反応は極めて普通だよ。あの圧倒的な不死身の力を持つ最強の強者に無謀にも挑もうとするのなら命が幾つあっても足りはしないからな。しかもその助けを求めてきた相手があの嫌われ者の害虫とも言うべき蛾の妖精では、いくら人のいい聖者であろうとも助けに行く気にもなれないだろうぜ。蛾の妖精なんかの……いいや、薄汚い愚かな羽虫なんかの為に早々命は捨てられないだろうからな」
そのさげすみの言葉を聞いてラエルロットは思わずはっとする。
「薄汚い羽虫……か……そうか、そういう事だったのか。狼魔族のボス、確かザドとか言ったな、答えを出してくれてありがとう!」
何やら意味ありげにそういうとラエルロットは何かを決断し迷いが吹っ切れたのか豪快に立ち上がる。
もうそこにはなんの迷いもない清々しい顔をした己の理想と覚悟と誇りを貫こうとする、勇気ある男の姿があった。
ラエルロットは手に持つ黒い不格好な木刀を豪快に構えると狼魔族のボス、ザドに向けて言い放つ。
「勇者とは、打算なき正義の心で勇気を示す者。冒険者とは、この世の未知なる謎に立ち向かい追求する者。正義とは、人として行うべき正しい道義や正しい道理のこと。守るとは、攻撃して来る危険な敵から身構えて適切な対抗手段を取る行為のこと……」
「お、おい、人間、お前はさっきから何を言っているんだ?」
「そして最後に……勇気とは、己の心の弱さから来る……危険・不安・死への恐怖を覚悟という信念で乗り切り克服する、そうまさに成長を指す言葉だ。俺はこの新たに心の内から生まれた無限の勇気を燃えたぎらせながら、遙か闇なる世界の黒神子・妖精喰いのヨーミコワの悪行に必ず終止符を打ってみせる。そして、俺の大切な友人でもある蛾の妖精達を絶対に助けて見せる!」
そのラエルロットの言葉に狼魔族のボス・ザドは「クククク、こいつは正真正銘のただの馬鹿だ!」と言いながら大きな声で笑うが、黒神子レスフィナと狼魔族のゴンタの二人はびっくりしたような顔をしながらその有り得ない決断に思わず心配の声を上げる。
「ラエルロットさん、それで本当にいいのですか。何度も言うようですが黒神子ヨーミコワに襲われている蛾の妖精達を直接助けてしまったら、あなたはご神託違反の呪いにより確実に死んでしまうのですよ、それでもいいのですか!」
「そうだぞ、黒い鎧の人間。もっと命は大事にしろよ。お前は勇者になるのが夢なんだろ。これじゃ勇者だか、冒険者だかになる前に死んでしまうだろうが!」
「それでも行くよ。もう決めた事だから。俺は人間代表としてここで勇者としての心構えや信念を行動で示さないとこの先もやっていけないような気がする。ルナには人間の中にも蛾の妖精達を無償で助けてくれるいい奴は必ずいると言う事を教えてやりたいんだ。俺は人間代表として、人の誇りや尊厳を守る為に、目の前に現れた悪に立ち向かい、そして必ず勝って見せる。必ずだ!」
「ラエルロットさん、気持ちは分かるのですが、でも現実問題としてあなたの命を確実に奪う呪いがあるのですよ。この呪いをどうにかしない限り……あなたは……」
「俺の考えが確かなら……まあ、何とかなるはずだ。俺の命も……蛾の妖精達の命も……何とかなるさ」
「な、何とかなるって……」
ラエルロットとレスフィナが蛾の妖精達を助けに行く行かないの話をしていると、もう我慢ができないとばかりに狼魔族のボスのザドが手に持つ大剣を振り上げながら豪快に迫る。
「お前ら、いい加減にしろ。俺を無視するな!」
その殺意溢れるザドの前に立ちはだかったのはラエルロットでもレスフィナでもなく、狼魔族達の中でも若き山賊の新人でもあるゴンタだった。
ゴンタは不信溢れる自分の思いをグッと押さえ続けていたが、ついに我慢ができなくなったのか目の前にいるボスのザドにその疑問を言う。
「ボス、もうやめて下さい。なぜ、なぜ、黒神子ヨーミコワに何人もの狼魔族達の命を差し出すような事をしたんですか。あいつは狼魔族の事なんかなんとも思わない、都合のいいただのパシリと考えているのに」
「なにを言い出すかと思えばそんな事か。いいかゴンタ、黒神子ヨーミコワ様はこの世界の頂点に立つくらいの力を持つ偉大なお方なのだ。そのお方の部下でもある俺達があのお方の為にこの命を差し出す事は別に可笑しな事ではないだろ!」
「三年前に黒神子ヨーミコワが現れて武闘派の力を持つ狼魔族達が果敢にも挑んだが、圧倒的な力で軽く全滅させられた事であんたは変わってしまった。黒神子ヨーミコワその者を崇拝し畏敬の念を持ち、彼女の望みのためならどんな事でも実行する下部に成り下がってしまった。大半の狼魔族達は黒神子ヨーミコワのその圧倒的な強さから逆らう事が出来ずただいやいや従っているだけなのにだ。それでもあんたを信じて山賊をやっている狼魔族達は前々からのあんたの部下でそれなりに信頼もあるはずなのに、あんたはその部下達を見殺しにした。あんたにとって部下の命は黒神子ヨーミコワの下らない欲望と食欲を満たす為だけに捧げられる、そんな軽い物だったのかよ!」
「軽いだと……そんな事はないぞい、なぜならあいつらは黒神子ヨーミコワ様が一秒でも長く外に出られるようにとその命を糧に生け贄になって貰ったのだからな。勿論部下達には尊い犠牲になってくれて物凄く感謝をしているよ。そして死んだあいつらも黒神子ヨーミコワ様にその身を捧げる事ができた事に幸せと誇りを感じているんじゃないかな。ああ、黒神子ヨーミコワ様の為に死ねてよかったってな」
「もういい、あんたは異常だよ。もうすっかり黒神子ヨーミコワに心までも毒されていたんだな。これじゃ仲間達が無駄死にだぜ!」
「この新人の小童が言うではないか。黒神子ヨーミコワ様に命を捧げて誇り高き名誉ある英霊になるのがそんなに怖いか。この臆病者が。不覚にも敵側の捕虜になっただけではなく敵と仲良くつるんでいようとは、もはやお前を仲間とは呼べないな。この裏切り者が。お前のような臆病者は今ここで俺が制裁という引導を渡してくれるわ。その命を持って黒神子ヨーミコワ様に詫びるがいい!」
ゴンタの仲間を思う強い言葉に絶叫した狼魔族のボス・ザドは手に持つ大剣を大きく振り上げると、そのままゴンタの頭部へと振り降ろそうとするが、その動きが行き成りピタリと止まる。そのザドの動きを止めたのは二人のやり取りを黙って聞いていた黒神子レスフィナだった。
レスフィナは自身の足の下から広がる黒ずんだ液体の塊をまるで意志を持つ蔦のように素早く動かすと、そのままザドの体に巻き付き体の自由を完全に奪ってしまう。
「か、体が動かない。俺の体に一体何をしやがったぁぁぁ!」
その理解ができない束縛から何とか必死に逃れようとジタバタと体を動かず狼魔族のボス・ザドに、黒神子レスフィナは静かに近づくと涼しい顔をしながらあることを聞く。
「荷馬車の付近で犬人族のシャクティさんとお会いしたと思いますが、彼女は一体どうなったのですか。ここに残りの部下も連れずに一人で現れたと言う事は、残りの狼魔族達と犬人族のシャクティさんは今も荷馬車の前で戦っていると言う事なのでしょうか」
「そ、それは……」
黒神子レスフィナの当然とも言える質問に狼魔族のボス・ザドは、青い顔をしながら何かを思い出したかのように体を小刻みに震わせる。
「あの眼鏡を掛けた牝の犬人族はお前達の仲間か。一体あのトロそうな女は何者なんだ。荒くれ者の部下達を涼しい顔をしながら拳と蹴りだけでバッタバッタとなぎ倒して行くだなんて、あんな光景を俺は初めて見たぞ。犬人族と言ったら異世界にいると言う犬という動物に似ているらしいが、俺達狼魔族達は狼という動物に似ているという話だから能力や力的には最も野生の力を持つとされる狼魔族の方が身体能力に置いては優れているはずだ。そのはずなんだが……あの犬人族は身体能力に置いてもまともじゃなかった。まさかとは思うがあの犬人族の女……犬人族の中でも非常に珍しいとされる古代種の犬人族じゃないだろうな。だとしたならばあの異常なまでの身体能力にも合点がいくのだが。まあ、いずれにしてもだ、あの犬人族の相手は残りの部下達に任せて、蛾の妖精達が住むとされる山に向かうために俺だけ一人で来たんだよ。蛾の妖精達が住む隠れ里に向かった黒神子ヨーミコワ様の事が心配だからな!」
「ようするに、犬人族のシャクティさんとまともに戦っても勝てそうもなかったので、足止めする時間稼ぎを残りの部下達に任せて、あなたはご自身の安全の為に黒神子ヨーミコワさんの目の届く範囲内に逃げ込もうと動いた訳ですね。ほんと、情けないです」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇーーっ、俺さえ生きていたら少なくなった狼魔族達の人員だって狼魔族の住む里に戻ればどうとでもなるんだよ。そう俺は狼魔族達を束ねるカリスマ的ボスなのだからな。そう黒神子ヨーミコワ様の体制の支えには俺の力が絶対に必要なんだ!」
「黒神子ヨーミコワさんはあなたの事なんてなんとも思ってはいませんよ。ただ煩わしい事に使い捨ての駒として利用できるからそばに置いているだけのことです」
「黙れぇぇぇぇぇーーっ、この黒神子レスフィナの偽者があぁぁぁ! 大方暗黒術式の呪いの血液を操る魔術師か何かだろうが、あの悪名高い邪悪な存在でもある黒神子レスフィナの名を堂々と名乗るとは、頭がいかれているとしか思えない行動だ。その名を語りながらどの町に行っても気味悪がられて相手にすらしては貰えないだろうに」
「ええ、毎度の事ながら、本物の黒神子レスフィナだと誰にも信じては貰えませんがね」
「当然だ、あの黒神子レスフィナが堂々と普通の少女の姿をしながら町なんかに現れるか。いいか黒神子レスフィナは黒神子ヨーミコワ様のように人の姿とはかけ離れた人外の姿を持っている神の使いの一人なのだぞ。その正体が可愛らしい少女の姿に牛の角と尻尾を付けたような癒やし系のはずがないだろ。馬鹿にするのもいい加減にしろ、この獣人の小娘があぁぁ!」
「ならどうしたら信じてくれるのですか」
「そうだな……お前が、遙か闇なる世界の黒神子だと言うのなら、驚異的な自己再生能力がその体には備わっているはずだ。何せ黒神子と呼ばれている者達は皆不老不死なのだからな。なら話は簡単だ、お前の体の一部を俺に喰わせて見せろや。それで体の失われた部分が再生できたならお前の話を少しは信じてやるよ」
な、何を勝手な事を……と言いかけた狼魔族のゴンタの抗議の言葉を涼しい顔をしながら黒神子レスフィナが止める。
「いいでしょう、ではこの左腕をあなたに差し上げますわ。でもこの体を傷つけると言うのなら覚悟して下さい。もしもこの差し出された私の左腕に無謀にも噛みついて来た時はその命の保証はしかねますから」
呪いを凝縮させた血液の呪縛で全く身動きが取れないでいる狼魔族のザドは怪しむ目でレスフィナの事をみていたが、レスフィナは直ぐさま狼魔族のザドの傍まで来ると、そのか細い左腕を堂々と狼魔族のザドの口の所に突き出してみせる。
その自らの体を張ったレスフィナの強い警告にも全く従う気が無い狼魔族のザドは、不気味にニヤリと笑うと徐に大きな口を空ける。
「フン、バカな奴め、直ぐにボロを出させてやるよ!」
そう意気込みを吐いたザドはその突き出されたか細い左腕を一瞬で噛み砕くが、その噛み砕かれた左腕が狼魔族のザドの喉を通り過ぎ胃の中に落ちた瞬間、黒神子レスフィナの本体でもある体が行き成り消し炭のようにその場から綺麗に掻き消え、その姿が完全に消える。
ザ、ザザザザザーーァァァァ!
「バカな、自称黒神子レスフィナを名乗るもどきの少女は、一体どこに消えたんだ。まさかあまりの体へのダメージの損傷に緊急の帰還魔法でいずこかに逃げ帰ったのかも知れないな。あの少女は黒神子レスフィナの名を使えば狼魔族は絶対に攻撃してこないと高をくくっていたようだが、その安易な希望的観測は見事に打ち砕かれたようだな。少女の左腕は完全に噛み砕いてその胴体から引きちぎってやったから、今頃は出血多量と外的なショック死で亡くなっているかもしれないな!」
バリバリ……ボキボキ……バキバキ……グシャグシャ……ゴックン!
お行儀は悪いがしゃべっている最中も口の中にまだ残っている残りの肉と骨も噛み砕きながら残さず胃の中へと落としていく狼魔族のザドだったが、その残酷な光景を見ていたラエルロットは大きな溜息を吐くとまるで哀れむような目で狼魔族のボス・ザドの顔を見る。
「おい、狼魔族のボスのザドだったか……レスフィナの左腕は旨かったか」
「フフフフ、なにを言うかと思ったらそんな事か。食い応えがなくてよく分からんわ。黒神子ヨーミコワ様のようにその体事食べてみないとなんとも言えんよ!」
「狼魔族には人間を捕食するという習慣はあるのか」
「いいや、基本的にはないが、俺も黒神子ヨーミコワ様のように、知性ある他の種族を喰って見たかったんだよ。俺も黒神子ヨーミコワ様のマネをしたらもしかしたら不老不死になれるかも知れないからな」
「全く……不老不死どころか、もうお前の命は終わってしまったぞ。まさかあの黒神子レスフィナの体の一部を直接その体の中に取り入れてしまうとはな。俺だったらそんな恐ろしいことは絶対にやらないよ」
「何をいうか、肉が永遠に食べれていいじゃないか。もしもあの少女の体に本当に自己再生能力が備わっていると言うのなら家畜のように鎖につないで、永遠に死なない程度に手足を切り取って食べる事ができるかも知れない。もしそうなれば食糧問題は一気に解決されるんじゃないかな。ならあの少女をお摘まみ程度には飼ってやらなくもないがな。ハハハハハハーーァァ!」
その狼魔族のボス・ザドの言葉にラエルロットは悲しそうに頭を横に振ると、手に持つ黒い木刀を腰のベルトに収める。
「差し出されたレスフィナの左腕に噛みついた時、なんで本体でもある胴体が消し炭のように行き成り消えたのか……お前はその訳を知っているか」
「いいや、知らんな」
「まあ、そうだろうな。でなけねば黒神子レスフィナを食べようだなんて発想は湧かないからな」
「一体なにが言いたいのだ、お前は?」
「つまりだ、黒神子レスフィナの不死の自己再生能力は、結構ランダムに……自由に……その再生箇所を指定できると言う事だ。もしもその体を消し炭にされたその時は……その空気中からランダムで復活ができるみたいだしな。つまりだ黒神子レスフィナはその失った体の質量関係無しに場所もある程度は指定してその希望した場所で自己再生が可能だと言っているんだよ」
「自己再生が可能だとう、だがあの少女はもうここにはいないではないか?」
「ああ、お前がなんの考えも無しに食べてくれたお陰で新たな移動先が見つかったからな。後少ししたらその姿を現してくれると思うぜ。まあその時お前はレスフィナの姿はまず絶対に見る事はできないんだがな」
「だから一体どこにあの少女はいるんだよ!」
「いい加減に気づけよ、黒神子レスフィナはお前の体の中に移動したに決まっているだろ。その体の内を逆に食い破ってお前の体の中から出て来るはずだ。そうだろ、レスフィナ!」
そのラエルロットの言葉に応えるかのように行き成り狼魔族のボス・ザドのお腹は急激に膨れ上がり、風船のように大きくなったかと思うと、そのゴム鞠と化した大きなお腹の内側が急激に動き出す。
「ぐっわあぁっぁぁぁあっぁあぁーー、俺の腹の中に何かがいやがる。こいつはさっき食べた左腕から急激に超再生を遂げて復活しようとしている黒神子レスフィナなのか。このままでは内側から体ごと破られる。お腹が痛いし物凄く苦しいよぉぉぉ。誰か……誰かぁぁぁ……この化け物から俺を助けてくれぇぇ。た、助けて下さい。黒神子ヨーミコワ様あぁぁぁ!」
ボォォォォォォォォォーーン!
絶望的な叫びと同時に体その物が破裂をした狼魔族のボス・ザドはその場で絶命したが、そのお腹の中から黒神子レスフィナが何事も無かったかのようにその場に現れる。
その瞳はなんとも悲しげで散らばった肉片を静かに見ていたが、その後始末をレスフィナの血液が栄養分として瞬時に溶かし吸収していく。
「狼魔族のザドさん、これで私が本物の黒神子レスフィナだと言う事が分かって頂けたでしょうか」
狼魔族のザドの前に立ちふさがる黒神子レスフィナの図です。
「くそぉぉ、なんて事だ。思いが……気持ちが……焦りだけが空回りしてルナを引き止めるいい言葉が浮かばなかった。いや違うな、もしかしたら俺は心の何処かで第二の試練のご神託を違えた時に確実に訪れるであろう死への恐怖に恐れおののいていたのかも知れない。それでも、例えそうだったとしても、ルナにあんな言葉を言わせるべきではなかった。あの全てを悟りながらも悲しみと覚悟に満ちた目は、この先確実に訪れるであろう死という運命を受け入れた……覚悟をした者の目だ。恐らくは、この先自分が逃げることで確実に起きてしまうであろう妖精達に対する無差別な貪食行為に抗う事も出来ず、その罪悪感と罪の重さから生きている事事態が耐えられなかったのだろう。全く……これなら嘘つきとか、臆病者とか、お前も心の中では私達のことを蔑んでいるんだろと恨みがましく罵ってくれた方がまだマシだった。まさか逆に気を遣われて励まされて……優しい言葉を掛けられるとは夢にも思わなかったよ。俺はあの時……ルナが最後の望みとも言える視線を投げかけてきた時、ハッキリと自分の口で言うべきだった。君たちを助けると……救って見せると。でないと俺はこの先、胸を張って勇者を目指すだなんてきれい事や戯れ言は言えないような気がする」
「ラエルロットさん……」
「レスフィナ、もう一度、第二の呪いの試練の内容を正しく読み上げてくれ」
「第二のご神託の試練、それは【愚かで薄汚い種族である汚らわしい羽虫達は絶対に助けるな。でなけねばラエルロットの身に確実な死が降りかかるであろう!】です。この約束の言葉を違えたらラエルロットさん……あなたは地獄の亡者達の手によって確実に地獄に叩き落とされます!」
「つまり本当に、死ぬと言う事か」
「はい、そういう事です」
「蛾の妖精達に一切関わることなく、あの邪悪な黒神子ヨーミコワの魔の手から一体どうやって助けだしたらいいんだ。くそぉぉ、くそぉぉ、助けを求める力なき妖精達の命が掛かっているというのに……何か俺にいい知恵は無いのか!」
蛾の妖精の仲間達の危機を救う為に隠れ里の方へと飛び去ったルナを止めることができなかったラエルロットは戸惑いと迷いの為か勇気という決断を直ぐさま出せなかった事に激しい後悔の念を抱く。
あのまま黒神子ヨーミコワの元に行ったら仲間達が喰われた後に必ずルナも何も出来ないまま喰われてしまうことを知っているからだ。
切羽詰まった彼女がなんの対策もないまま飛び立ったと言う事は、自分自身の命と引き換えにどうにか黒神子ヨーミコワの注意をそらし、一秒でも長く時間を稼いでみんなを逃がそうと考えているはずだ。
そんな無謀な考えしか思い付かないくらいにルナ自身を追い込んでしまった自分の心の迷いの弱さにラエルロットは勇者とは……冒険者とは……正義とは……守るとは……勇気とは一体なんなのかを心の中で問いかける。
「俺は……俺は……一体どうすれば……」
自分の命と蛾の妖精達の命を天秤に掛け一体どうしたらいいのかと真剣に考えていると、行き成り馬鹿にしたような大きな声が回りに響く。目の前にいたのはほったらかしにされていた狼魔族のボス、ザドだった。
ザドは豪快に笑いながらまだ結論を出せないでいるラエルロットに向けて言い放つ。
「ハハハハハハハ、やはりな。いくら正義や希望と言った耳障りのいいきれい事を言おうとも黒神子ヨーミコワ様の圧倒的な恐怖と力と神々しさを前にしたら怖じ気づくのも至極当然の話だ。お前らの反応は極めて普通だよ。あの圧倒的な不死身の力を持つ最強の強者に無謀にも挑もうとするのなら命が幾つあっても足りはしないからな。しかもその助けを求めてきた相手があの嫌われ者の害虫とも言うべき蛾の妖精では、いくら人のいい聖者であろうとも助けに行く気にもなれないだろうぜ。蛾の妖精なんかの……いいや、薄汚い愚かな羽虫なんかの為に早々命は捨てられないだろうからな」
そのさげすみの言葉を聞いてラエルロットは思わずはっとする。
「薄汚い羽虫……か……そうか、そういう事だったのか。狼魔族のボス、確かザドとか言ったな、答えを出してくれてありがとう!」
何やら意味ありげにそういうとラエルロットは何かを決断し迷いが吹っ切れたのか豪快に立ち上がる。
もうそこにはなんの迷いもない清々しい顔をした己の理想と覚悟と誇りを貫こうとする、勇気ある男の姿があった。
ラエルロットは手に持つ黒い不格好な木刀を豪快に構えると狼魔族のボス、ザドに向けて言い放つ。
「勇者とは、打算なき正義の心で勇気を示す者。冒険者とは、この世の未知なる謎に立ち向かい追求する者。正義とは、人として行うべき正しい道義や正しい道理のこと。守るとは、攻撃して来る危険な敵から身構えて適切な対抗手段を取る行為のこと……」
「お、おい、人間、お前はさっきから何を言っているんだ?」
「そして最後に……勇気とは、己の心の弱さから来る……危険・不安・死への恐怖を覚悟という信念で乗り切り克服する、そうまさに成長を指す言葉だ。俺はこの新たに心の内から生まれた無限の勇気を燃えたぎらせながら、遙か闇なる世界の黒神子・妖精喰いのヨーミコワの悪行に必ず終止符を打ってみせる。そして、俺の大切な友人でもある蛾の妖精達を絶対に助けて見せる!」
そのラエルロットの言葉に狼魔族のボス・ザドは「クククク、こいつは正真正銘のただの馬鹿だ!」と言いながら大きな声で笑うが、黒神子レスフィナと狼魔族のゴンタの二人はびっくりしたような顔をしながらその有り得ない決断に思わず心配の声を上げる。
「ラエルロットさん、それで本当にいいのですか。何度も言うようですが黒神子ヨーミコワに襲われている蛾の妖精達を直接助けてしまったら、あなたはご神託違反の呪いにより確実に死んでしまうのですよ、それでもいいのですか!」
「そうだぞ、黒い鎧の人間。もっと命は大事にしろよ。お前は勇者になるのが夢なんだろ。これじゃ勇者だか、冒険者だかになる前に死んでしまうだろうが!」
「それでも行くよ。もう決めた事だから。俺は人間代表としてここで勇者としての心構えや信念を行動で示さないとこの先もやっていけないような気がする。ルナには人間の中にも蛾の妖精達を無償で助けてくれるいい奴は必ずいると言う事を教えてやりたいんだ。俺は人間代表として、人の誇りや尊厳を守る為に、目の前に現れた悪に立ち向かい、そして必ず勝って見せる。必ずだ!」
「ラエルロットさん、気持ちは分かるのですが、でも現実問題としてあなたの命を確実に奪う呪いがあるのですよ。この呪いをどうにかしない限り……あなたは……」
「俺の考えが確かなら……まあ、何とかなるはずだ。俺の命も……蛾の妖精達の命も……何とかなるさ」
「な、何とかなるって……」
ラエルロットとレスフィナが蛾の妖精達を助けに行く行かないの話をしていると、もう我慢ができないとばかりに狼魔族のボスのザドが手に持つ大剣を振り上げながら豪快に迫る。
「お前ら、いい加減にしろ。俺を無視するな!」
その殺意溢れるザドの前に立ちはだかったのはラエルロットでもレスフィナでもなく、狼魔族達の中でも若き山賊の新人でもあるゴンタだった。
ゴンタは不信溢れる自分の思いをグッと押さえ続けていたが、ついに我慢ができなくなったのか目の前にいるボスのザドにその疑問を言う。
「ボス、もうやめて下さい。なぜ、なぜ、黒神子ヨーミコワに何人もの狼魔族達の命を差し出すような事をしたんですか。あいつは狼魔族の事なんかなんとも思わない、都合のいいただのパシリと考えているのに」
「なにを言い出すかと思えばそんな事か。いいかゴンタ、黒神子ヨーミコワ様はこの世界の頂点に立つくらいの力を持つ偉大なお方なのだ。そのお方の部下でもある俺達があのお方の為にこの命を差し出す事は別に可笑しな事ではないだろ!」
「三年前に黒神子ヨーミコワが現れて武闘派の力を持つ狼魔族達が果敢にも挑んだが、圧倒的な力で軽く全滅させられた事であんたは変わってしまった。黒神子ヨーミコワその者を崇拝し畏敬の念を持ち、彼女の望みのためならどんな事でも実行する下部に成り下がってしまった。大半の狼魔族達は黒神子ヨーミコワのその圧倒的な強さから逆らう事が出来ずただいやいや従っているだけなのにだ。それでもあんたを信じて山賊をやっている狼魔族達は前々からのあんたの部下でそれなりに信頼もあるはずなのに、あんたはその部下達を見殺しにした。あんたにとって部下の命は黒神子ヨーミコワの下らない欲望と食欲を満たす為だけに捧げられる、そんな軽い物だったのかよ!」
「軽いだと……そんな事はないぞい、なぜならあいつらは黒神子ヨーミコワ様が一秒でも長く外に出られるようにとその命を糧に生け贄になって貰ったのだからな。勿論部下達には尊い犠牲になってくれて物凄く感謝をしているよ。そして死んだあいつらも黒神子ヨーミコワ様にその身を捧げる事ができた事に幸せと誇りを感じているんじゃないかな。ああ、黒神子ヨーミコワ様の為に死ねてよかったってな」
「もういい、あんたは異常だよ。もうすっかり黒神子ヨーミコワに心までも毒されていたんだな。これじゃ仲間達が無駄死にだぜ!」
「この新人の小童が言うではないか。黒神子ヨーミコワ様に命を捧げて誇り高き名誉ある英霊になるのがそんなに怖いか。この臆病者が。不覚にも敵側の捕虜になっただけではなく敵と仲良くつるんでいようとは、もはやお前を仲間とは呼べないな。この裏切り者が。お前のような臆病者は今ここで俺が制裁という引導を渡してくれるわ。その命を持って黒神子ヨーミコワ様に詫びるがいい!」
ゴンタの仲間を思う強い言葉に絶叫した狼魔族のボス・ザドは手に持つ大剣を大きく振り上げると、そのままゴンタの頭部へと振り降ろそうとするが、その動きが行き成りピタリと止まる。そのザドの動きを止めたのは二人のやり取りを黙って聞いていた黒神子レスフィナだった。
レスフィナは自身の足の下から広がる黒ずんだ液体の塊をまるで意志を持つ蔦のように素早く動かすと、そのままザドの体に巻き付き体の自由を完全に奪ってしまう。
「か、体が動かない。俺の体に一体何をしやがったぁぁぁ!」
その理解ができない束縛から何とか必死に逃れようとジタバタと体を動かず狼魔族のボス・ザドに、黒神子レスフィナは静かに近づくと涼しい顔をしながらあることを聞く。
「荷馬車の付近で犬人族のシャクティさんとお会いしたと思いますが、彼女は一体どうなったのですか。ここに残りの部下も連れずに一人で現れたと言う事は、残りの狼魔族達と犬人族のシャクティさんは今も荷馬車の前で戦っていると言う事なのでしょうか」
「そ、それは……」
黒神子レスフィナの当然とも言える質問に狼魔族のボス・ザドは、青い顔をしながら何かを思い出したかのように体を小刻みに震わせる。
「あの眼鏡を掛けた牝の犬人族はお前達の仲間か。一体あのトロそうな女は何者なんだ。荒くれ者の部下達を涼しい顔をしながら拳と蹴りだけでバッタバッタとなぎ倒して行くだなんて、あんな光景を俺は初めて見たぞ。犬人族と言ったら異世界にいると言う犬という動物に似ているらしいが、俺達狼魔族達は狼という動物に似ているという話だから能力や力的には最も野生の力を持つとされる狼魔族の方が身体能力に置いては優れているはずだ。そのはずなんだが……あの犬人族は身体能力に置いてもまともじゃなかった。まさかとは思うがあの犬人族の女……犬人族の中でも非常に珍しいとされる古代種の犬人族じゃないだろうな。だとしたならばあの異常なまでの身体能力にも合点がいくのだが。まあ、いずれにしてもだ、あの犬人族の相手は残りの部下達に任せて、蛾の妖精達が住むとされる山に向かうために俺だけ一人で来たんだよ。蛾の妖精達が住む隠れ里に向かった黒神子ヨーミコワ様の事が心配だからな!」
「ようするに、犬人族のシャクティさんとまともに戦っても勝てそうもなかったので、足止めする時間稼ぎを残りの部下達に任せて、あなたはご自身の安全の為に黒神子ヨーミコワさんの目の届く範囲内に逃げ込もうと動いた訳ですね。ほんと、情けないです」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇーーっ、俺さえ生きていたら少なくなった狼魔族達の人員だって狼魔族の住む里に戻ればどうとでもなるんだよ。そう俺は狼魔族達を束ねるカリスマ的ボスなのだからな。そう黒神子ヨーミコワ様の体制の支えには俺の力が絶対に必要なんだ!」
「黒神子ヨーミコワさんはあなたの事なんてなんとも思ってはいませんよ。ただ煩わしい事に使い捨ての駒として利用できるからそばに置いているだけのことです」
「黙れぇぇぇぇぇーーっ、この黒神子レスフィナの偽者があぁぁぁ! 大方暗黒術式の呪いの血液を操る魔術師か何かだろうが、あの悪名高い邪悪な存在でもある黒神子レスフィナの名を堂々と名乗るとは、頭がいかれているとしか思えない行動だ。その名を語りながらどの町に行っても気味悪がられて相手にすらしては貰えないだろうに」
「ええ、毎度の事ながら、本物の黒神子レスフィナだと誰にも信じては貰えませんがね」
「当然だ、あの黒神子レスフィナが堂々と普通の少女の姿をしながら町なんかに現れるか。いいか黒神子レスフィナは黒神子ヨーミコワ様のように人の姿とはかけ離れた人外の姿を持っている神の使いの一人なのだぞ。その正体が可愛らしい少女の姿に牛の角と尻尾を付けたような癒やし系のはずがないだろ。馬鹿にするのもいい加減にしろ、この獣人の小娘があぁぁ!」
「ならどうしたら信じてくれるのですか」
「そうだな……お前が、遙か闇なる世界の黒神子だと言うのなら、驚異的な自己再生能力がその体には備わっているはずだ。何せ黒神子と呼ばれている者達は皆不老不死なのだからな。なら話は簡単だ、お前の体の一部を俺に喰わせて見せろや。それで体の失われた部分が再生できたならお前の話を少しは信じてやるよ」
な、何を勝手な事を……と言いかけた狼魔族のゴンタの抗議の言葉を涼しい顔をしながら黒神子レスフィナが止める。
「いいでしょう、ではこの左腕をあなたに差し上げますわ。でもこの体を傷つけると言うのなら覚悟して下さい。もしもこの差し出された私の左腕に無謀にも噛みついて来た時はその命の保証はしかねますから」
呪いを凝縮させた血液の呪縛で全く身動きが取れないでいる狼魔族のザドは怪しむ目でレスフィナの事をみていたが、レスフィナは直ぐさま狼魔族のザドの傍まで来ると、そのか細い左腕を堂々と狼魔族のザドの口の所に突き出してみせる。
その自らの体を張ったレスフィナの強い警告にも全く従う気が無い狼魔族のザドは、不気味にニヤリと笑うと徐に大きな口を空ける。
「フン、バカな奴め、直ぐにボロを出させてやるよ!」
そう意気込みを吐いたザドはその突き出されたか細い左腕を一瞬で噛み砕くが、その噛み砕かれた左腕が狼魔族のザドの喉を通り過ぎ胃の中に落ちた瞬間、黒神子レスフィナの本体でもある体が行き成り消し炭のようにその場から綺麗に掻き消え、その姿が完全に消える。
ザ、ザザザザザーーァァァァ!
「バカな、自称黒神子レスフィナを名乗るもどきの少女は、一体どこに消えたんだ。まさかあまりの体へのダメージの損傷に緊急の帰還魔法でいずこかに逃げ帰ったのかも知れないな。あの少女は黒神子レスフィナの名を使えば狼魔族は絶対に攻撃してこないと高をくくっていたようだが、その安易な希望的観測は見事に打ち砕かれたようだな。少女の左腕は完全に噛み砕いてその胴体から引きちぎってやったから、今頃は出血多量と外的なショック死で亡くなっているかもしれないな!」
バリバリ……ボキボキ……バキバキ……グシャグシャ……ゴックン!
お行儀は悪いがしゃべっている最中も口の中にまだ残っている残りの肉と骨も噛み砕きながら残さず胃の中へと落としていく狼魔族のザドだったが、その残酷な光景を見ていたラエルロットは大きな溜息を吐くとまるで哀れむような目で狼魔族のボス・ザドの顔を見る。
「おい、狼魔族のボスのザドだったか……レスフィナの左腕は旨かったか」
「フフフフ、なにを言うかと思ったらそんな事か。食い応えがなくてよく分からんわ。黒神子ヨーミコワ様のようにその体事食べてみないとなんとも言えんよ!」
「狼魔族には人間を捕食するという習慣はあるのか」
「いいや、基本的にはないが、俺も黒神子ヨーミコワ様のように、知性ある他の種族を喰って見たかったんだよ。俺も黒神子ヨーミコワ様のマネをしたらもしかしたら不老不死になれるかも知れないからな」
「全く……不老不死どころか、もうお前の命は終わってしまったぞ。まさかあの黒神子レスフィナの体の一部を直接その体の中に取り入れてしまうとはな。俺だったらそんな恐ろしいことは絶対にやらないよ」
「何をいうか、肉が永遠に食べれていいじゃないか。もしもあの少女の体に本当に自己再生能力が備わっていると言うのなら家畜のように鎖につないで、永遠に死なない程度に手足を切り取って食べる事ができるかも知れない。もしそうなれば食糧問題は一気に解決されるんじゃないかな。ならあの少女をお摘まみ程度には飼ってやらなくもないがな。ハハハハハハーーァァ!」
その狼魔族のボス・ザドの言葉にラエルロットは悲しそうに頭を横に振ると、手に持つ黒い木刀を腰のベルトに収める。
「差し出されたレスフィナの左腕に噛みついた時、なんで本体でもある胴体が消し炭のように行き成り消えたのか……お前はその訳を知っているか」
「いいや、知らんな」
「まあ、そうだろうな。でなけねば黒神子レスフィナを食べようだなんて発想は湧かないからな」
「一体なにが言いたいのだ、お前は?」
「つまりだ、黒神子レスフィナの不死の自己再生能力は、結構ランダムに……自由に……その再生箇所を指定できると言う事だ。もしもその体を消し炭にされたその時は……その空気中からランダムで復活ができるみたいだしな。つまりだ黒神子レスフィナはその失った体の質量関係無しに場所もある程度は指定してその希望した場所で自己再生が可能だと言っているんだよ」
「自己再生が可能だとう、だがあの少女はもうここにはいないではないか?」
「ああ、お前がなんの考えも無しに食べてくれたお陰で新たな移動先が見つかったからな。後少ししたらその姿を現してくれると思うぜ。まあその時お前はレスフィナの姿はまず絶対に見る事はできないんだがな」
「だから一体どこにあの少女はいるんだよ!」
「いい加減に気づけよ、黒神子レスフィナはお前の体の中に移動したに決まっているだろ。その体の内を逆に食い破ってお前の体の中から出て来るはずだ。そうだろ、レスフィナ!」
そのラエルロットの言葉に応えるかのように行き成り狼魔族のボス・ザドのお腹は急激に膨れ上がり、風船のように大きくなったかと思うと、そのゴム鞠と化した大きなお腹の内側が急激に動き出す。
「ぐっわあぁっぁぁぁあっぁあぁーー、俺の腹の中に何かがいやがる。こいつはさっき食べた左腕から急激に超再生を遂げて復活しようとしている黒神子レスフィナなのか。このままでは内側から体ごと破られる。お腹が痛いし物凄く苦しいよぉぉぉ。誰か……誰かぁぁぁ……この化け物から俺を助けてくれぇぇ。た、助けて下さい。黒神子ヨーミコワ様あぁぁぁ!」
ボォォォォォォォォォーーン!
絶望的な叫びと同時に体その物が破裂をした狼魔族のボス・ザドはその場で絶命したが、そのお腹の中から黒神子レスフィナが何事も無かったかのようにその場に現れる。
その瞳はなんとも悲しげで散らばった肉片を静かに見ていたが、その後始末をレスフィナの血液が栄養分として瞬時に溶かし吸収していく。
「狼魔族のザドさん、これで私が本物の黒神子レスフィナだと言う事が分かって頂けたでしょうか」
狼魔族のザドの前に立ちふさがる黒神子レスフィナの図です。
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