遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編

2-29.笑顔の別れ

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              2ー29.笑顔の別れ


 所々が木々がないはげ山となった山地に茜色に照らす夕焼けが伸び、その物悲しくも暖かい日の光を浴びる蛾の妖精達は皆和やかにラエルロット・レスフィナ・シャクティ・ゴンタの四人の前に立つ。

 今まで住んでいた隠れ里が黒神子ヨーミコワの襲撃で住めなくなるくらいに被害を受けたが、聞いた限りでは他にももしもの為の隠れ里はいくつもあるとの事なのでラエルロットは心の底から安堵をしていたが、同時に申し訳ない気持ちにもなる。なぜなら自分達の戦い方が未熟だったせいで蛾の妖精達の村が木っ端微塵に吹き飛び破壊尽くされてしまったと密かに思っているからだ。

 もしも森の被害を考え、戦う場所を変える為に上手く黒神子ヨーミコワをその場から誘導していたら(家はともかくとして)回りを覆う木々や自然に盛り上げられた地形は吹き飛ばされなかったかも知れない。更にはもっと早く現場に駆け付けていたならば、救えた命もあったかも知れない。そう考えると心が物凄く痛む。

 あの時そうしておけば良かったとか、こうしておけば最善だったとか、いろいろと考えてしまうが、やはり後悔だけが残る。
 だが過ぎ去った命も過去も、もう元には戻らない。

 黒神子・妖精喰いのヨーミコワに無残にも食べられてしまったせいで死体すらも残らないという壮絶な死を迎えてしまった蛾の妖精達の為に、生き残った蛾の妖精達は皆悲しみながらも彼らの為に墓標を作り祈りを捧げ続ける。だが、これから隠れ里を後にしようとしているラエルロット達の前では皆が明るく笑顔を作り、まるでお名残惜しむかのように各々が独自に手を振りながら見送りと言う名の感謝の意思を示す。

 その感謝の気持ちを示す友愛とけなげさにラエルロットの心は暖まるが、嬉しい気持ちと共に申し訳ない気持ちにもなる。
 そんな複雑な心境のラエルロットに蛾の妖精の長老が感謝の気持ちを込めながら笑顔で話しかける。

「ラエルロット君、レスフィナ様、シャクティさん、ゴンタ君、本当にありがとう。君たちのお陰で孫達は……いいや蛾の妖精達は皆最小限の被害と少ない死傷者を出すだけでどうにか乗り切る事ができた。これも全ては、我々の昔からの天敵でもあるあの黒神子ヨーミコワをあなた達が退治し、そして封印してくれたお陰だ。この隠れ里の代表として心から礼を言おう。これでようやく今まで黒神子ヨーミコワの手により無残にも食い殺された同胞達の墓標にも堂々と報告する事ができる。同胞達の尊くも無念の想いが絶えない犠牲の果てに、ようやく現れた心ある勇者の手により、その勇気は示された。そして我々蛾の妖精達を大事な友と言ってくれたその優しき思い……正しき勇気を……我々は生涯決して忘れる事は無いだろう!」

「長老……。」

「そう自分を責めるでない、わしらは君たちに感謝をしているのだぞ。本来なら命を賭ける必要の無い通りすがりのただの人達が、盗みという悪さをしでかしたルナを追ってここまで来ただけなのに、そんなあなた方と私達はたまたまこの隠れ里で出会う事ができた。そして一日だけと言う小さな縁だというのに、その一晩だけの縁にも関わらずおぬし達はルナの奴をその寛大な心で許し……」

(いや、別に許してはいないんだけど……)

「その関係者の私達にも嫌な顔を一切せずにその大いなる優しい笑顔でその友好を示してくれた。しかも夜は共に食事を一緒に食べようとまで言ってくれた。本当に有難い事だと思っているよ。本来我々蛾の妖精達は人間族と共に肩を並べて一緒に食事をすること事態が許されてはいなかったからだ。大抵は妖精族達は妖精同士で集まって食事をするのが普通だ。そして迫害を受けている蛾の妖精達は更に酷い扱いを受けているのは君も知っている事だろう。だから共に夕食を食べようと誘われた時は正直びっくりしたのだ。その言葉をそのまま鵜呑みにしていい物かとな。しかも盗みを働いたルナの後を追ってきたあなた方に対し家の孫は見境なしに無慈悲な攻撃をした。そんな罪深い我々に対して夕食を共に食べようと言ってくれただけではなく、全ての蛾の妖精達に対しても皆平等に優しく接してくれた。本当に申し訳なくて感謝の言葉もないと思っている。あなた方は命の恩人なのにあのような振る舞いを許してしまい本当に済まなかった。そしてありがとう!」

「何を言っているんですか。ルナとの戦いの後、あなた達が現れて土下座で謝罪をしたあげくに戦いを仕掛けた孫を激しく叱りつけて、よく素性も分からない俺達を無条件でこの隠れ里に入れてくれた。なら俺達もそれなりに敵意は無い事を示さないといけないなと思ったまでの事ですよ」

「家のルナは黒神子レスフィナ様に何度も殺傷力の高い攻撃までしてしまっている。本来ならこの隠れ里にいる蛾の妖精達の命を全て捧げても償い切れない程の罪だというのに黒神子レスフィナ様も私達のことを許してくれた。そしてその後は夕食にも誘ってくれた」

 その長老の言葉に黒神子レスフィナは和やかな笑顔を向けると軽くお辞儀をする。

「そして……共に食べた夕食は美味かったぞ。楽しかったぞ。食べた事のないホケホケ鳥の肉入りスープを提供してもらい、私達の分までわざわざ食事を作ってくれた。しかも私達が出した(たいした量ではない)蜂蜜酒を水割りで飲んで貰い、お世辞にも旨いと言ってくれた!」

(まあ、あの蜂蜜酒は蜂蜜自体を発行させて作ってあるみたいだからアルコール度数はかなり高かったからな、俺は水割りが丁度良かったがな)

「そして共に歌って、踊って、騒いで、語らい合って、我々と絆を深めてくれた。それだけでも十分なのだが、あなた達はわざわざこの地に舞い戻って来てくれて、私達蛾の妖精達を……いいや全ての妖精達の未来をも救ってくれた。しかもおのれの命を賭けてだ。ならここまでしてくれたのなら、もう感謝をし尽くしても知きれんわ!」

「長老、その気持ちだけで十分ですから、俺達はたまたま黒神子ヨーミコワと戦うことになっただけで、あなた方を救ったのはただのついでですから、あまり気にしないで下さい」

 ラエルロットはルナを……強いては蛾の妖精達を助けに行った事実を言うのが気恥ずかしいのか恩着せがましいと思われるのが嫌なので当然のように謙遜する。だが蛾の妖精達の為に必死に戦ってくれたラエルロット達の行いは当然皆が知る所なので、蛾の妖精達は皆感極まりながらも感謝の言葉を尽くす。
 そんなお名残惜しさに別れを惜しむ蛾の妖精達とラエルロット達の上を、蛾の妖精のルナが何食わぬ顔で通り過ぎる。

「あ、おいルナや、今現在感謝をしながらラエルロットくん達と最後の別れを惜しんでいるというのに、今の今まで一体どこに行っていたんだ。やっかいごとを持ち込んだお前が本来なら一番謝罪をし、そして感謝の言葉も述べないといけないというのに!」

 その素っ気ない態度を取る仕草を長老に指摘され仕方なそうにルナはラエルロット達の方を見る。

「私が奪った荷物の品々をあの町に続く野道にある荷馬車の中に全て置いてきたわ。だから早く戻った方がいいわよ。早く戻らないと誰かに荷物を全て持って行かれちゃうかも知れないからね。それとお礼を言わせて頂戴。あなた達にはいろいろと迷惑を掛けたのに蛾の妖精達を黒神子ヨーミコワの魔の手から救ってくれて本当にありがとう。あなた達のこれからの旅が順調に行く事を祈っているわ。それじゃ!」

 早々と話を切り上げラエルロット達の元を去ろうとするルナにラエルロットが声を掛ける。

「ルナ、俺達と一緒に旅に行かないか。俺の旅のガイドに……パートナーになってくれよ。勇者には常に妖精が傍らに付いているのがセオリーだからな。俺が勇者を目指す為には……いいやこの無謀な危険極まる旅には同行してくれる妖精が……ルナ、君の力が俺にはどうしても必要なんだ!」

「せっかくの申し出だけど蛾の妖精なんかを連れて歩いていたらこの先のあなたの勇者としてのイメージがかなり悪くなるわよ。それでもいいの?」

「いいもなにも黒神子レスフィナの眷属と言うだけで……この黒一色の服装をしているだけでもう既に人間達からは白い目で見られているよ。他の妖精も俺達にはまず近づかないだろうしな」

「冒険者達の間では、私達蛾の妖精は一緒にいるだけで死と不幸を呼ぶ存在だから絶対にパートナーにはデキナイという都市伝説にもなっているというのにそんな私をあなたはパートナーに選ぼうというの、どうかしているわ。私達は不幸を呼ぶ存在なのに……その見た目からも分かるように嫌われている存在なのに、有り得ないでしょ。それにもしも私のせいであなたに危険が起きたらどうするつもりなのよ。あなたはみんなを助けてくれる優しい勇者になるんでしょ、だったら……」

「だからこそお前の力が必要なんだよ。蛾の妖精のルナ、そんなに自分を卑下するなよ。ある意味、君のお陰であの黒神子ヨーミコワは倒せたんだし、封印をする事が出来たんだからな。その力でお前が俺の命を救ってくれたんじゃないか。黒神子ヨーミコワの飛行で空の上から地上に真っ逆さまに落とされた時、お前が素早く駆け付けてくれなかったら……俺のマントと同化して飛んでくれなかったら、不死のご加護が切れている俺は確実に間違いなく死んでいたよ。だからルナ、お前は俺にとっては本当の命の恩人なんだ。そんな君が俺のパートナーになってくれたならこれ程心強い事は無い。その時点でお前が言うその死や不幸を呼ぶジンクスはもう無くなったんじゃないのか。お前は文字通り、俺達に勝利をもたらした幸運の存在に……いいや特別な存在になったんだからな!」

「特別な存在……私が……」

「だってそうだろう、世界広しと言えども邪妖精の衣を扱えるのはルナだけだし、勇者のマントと同化して空を飛べるのも、ルナだけなんだぜ。こんな事ができる妖精はこの世界には誰もいないよ。あの邪妖精の衣は破壊も持ち去ることもできない。なぜならあの古代の遺物は物質では無く亜空間や異次元空間と繋がるただのゲートだからな。その亜空間に枠を今は失われている邪妖精の魔法科学で作り設定して、邪妖精の女王だけが持てる用にしたのがこの邪妖精の衣だ。だから邪妖精の女王の遺伝子を持つ者以外は触れもしないしさわれもしないそんな代物なんだ。だからこの邪妖精の衣はルナ専用なんだよ。そんな特別な存在の君を勧誘する為に俺達が君に旅の仲間になってくれとお願いするのは極自然な流れだろ。それにもう君の強さと便利さはレスフィナやヨーミコワとの壮絶な戦いで証明されているんだから、もう語る必要もないよな!」

「つまり邪妖精の衣を扱える私の力を利用したいというのね。それがあなたが私を旅のパートナーにしたいと思う本当の理由ね」

「ああ、物凄く分かりやすいだろ。同情や情けでお前を誘っているんじゃない。蛾の妖精のルナ、俺達はお前の強さを……実力を……そして仲間を思う心の強さを知っているからお前を誘っているんだよ。俺達とまだ見ぬ冒険の旅をしようぜ。それにお前はこの世界には本当の勇者は一人もいないとか言っていたじゃないか。だから一緒に見に行こうぜ。この広い世界には誰もが認める本当の勇者が必ずいることを俺が証明してやるよ!」

「その本当の勇者とやらにはあなたがなるんじゃないの……」

「その予定ではあるが、なれたらいいんだけどな……」

「情けないことを言わないでよ……全くもう……」

 ルナは後ろを向きながら少し考えるそぶりをする。

「残念だけど私にはあなたと一緒に旅をする理由がないわ。それに私には守らないといけない弟・妹達やお爺ちゃんだっている。だからあなた達とは一緒にはいけない。でも誘ってくれてありがとう。私を高く評価してくれて本当にありがとう。物凄く嬉しかったわ。そしてラエルロット、あなたが本当の勇者になれる日を心の底から祈っているわ。必ずあなたならいい勇者になれる!」

 そう力強く言うと蛾の妖精のルナは、ラエルロット・レスフィナ・シャクティ・ゴンタに頭を下げるとまだ破壊されてはいない森の方へと飛んでいく。

「すまないのう、家の孫はどうも頑固でいかんよ。ワシらのことは大丈夫だから旅に出て世界を見てきてもいいと言ってやったんだが、ワシらの事が心配だという理由で行こうとしないんじゃよ。本当は物凄く行きたいはずなのにのう。あの好奇心おおせいなルナの事だから、おぬし達の誘いはかなり嬉しかったはずだ。そして感謝もしている。だからこそあんな素っ気ない態度をわざとしているのだろう。自分はこの土地に残るという意思を示す為にな」

「そうですか、それは非常に残念です。なら彼女に伝えて下さい。蛾の妖精達の復興と安全がちゃんと確保されて生活に余裕が出来たら、そして俺達と旅がしたくなったらいつでも来てくれと言っといて下さい。俺はいつでも待っていると、来てくれたら大歓迎するとね」

「ラエルロット君……」

 そんな話をしみじみと語るラエルロットと蛾の長老の様子を見ていた狼魔族のゴンタは、ラエルロットの傍まで来るとこちらも淡々とした態度で言う。

「そんじゃあな、似非勇者。俺もそろそろ行くぜ。まあ勇者を目指すんなら最低でも冒険者の第八級試験くらいは受かれよな。でないと勇者以前に冒険者にすらなれないんだからよ」

「ああ、ノシロノ王国に着いたら早速申し込むよ。そこで資格を取るまではしばらくは滞在する予定だからな」

「ならバイトをするのか」

「ああ、小遣い程度にはな。そんな事よりも黒神子ヨーミコワの封印に付き合ってくれて本当にありがとう。ゴンタの力がなかったらこうも上手くは行かなかったかも知れない」

 そう言いながら握手をしようと差し伸べたラエルロットの手を狼魔族のゴンタは直ぐに振り払う。

「ふざけるな、お前とは馴れ合いはしないぜ。お前と共闘するのは今回限りだ。お前にはあの黒い不格好な木刀で胸を物凄い勢いで突かれて、吹き飛ばされた恨みがあるんだからよ!」

「それを言うならお前だって最初の一撃で俺の片腕を見事に切断しているじゃないか。もしもレスフィナの力を借りて自己再生を遂げていなかったら出血多量で死んでいる所だ!」

「フ、なら痛み分けと言う事か。似非勇者、俺は自分の気持ちを正直に言うぜ。黒神子ヨーミコワと戦った時、俺は全く役には立たなかった。それは自分自身がよく知っている事だ。はっきり言って戦力外だったろう」

「そんな事は無いだろ、ちゃんと俺達が戦い安くなる用にと腐蝕玉で援護をして補助してくれていただろ」

「いいや実質的な俺の短剣による攻撃は黒神子ヨーミコワの皮膚を傷つける事さえできなかった。それを考えると本当に情けなくて……悔しいぜ。レスフィナの姐さんはともかくとして、シャクティも……ルナも……そして似非勇者でさえもちゃんと役に立っているのにだ。ちくしょう、ちくしょう、俺は一体何をしているんだろうな。狼魔族の仲間だってあの黒神子ヨーミコワに沢山殺されたのによ、人の力を借りなきゃ復讐もできねえのかよ。そう考えてしまったんだよ。そうさ今回のことで自分の非力さを思い知らされたよ」

「ゴンタそれは……違うぞ。俺は……」

「俺は黒神子レスフィナから不死のご加護を貰っているから強いのは当たり前だ……と、お前はそう言いたいんだろ。だけどそうじゃねえのはお前の戦いを間近で見ていた俺が一番ようく分かっている事だ。似非勇者、お前には強大な悪に立ち向かえるだけの強い正義の心と優しさと、そして勇気がある。それらがもう既に揃っていた。だからレベル1でもあの黒神子ヨーミコワに勝てたんだ。まあ、チート級の付属のバットアイテムを装備して戦ったり、更には強力な力を持つ仲間達の助けがあったからこそ何とか勝てたことは認めなけねばならないがな」

「その強力な仲間には当然お前も入っているだろ。お前が投げて命中させた腐蝕玉が効いたからこそ、シャクティの拳が黒神子ヨーミコワの鋼鉄の羽の防御を突破し破壊する事ができたんじゃないか。その貢献度はかなり高いと俺は思うけどな。それに最終的には俺達は勝って生きてここに立つことが出来たんだからそれだけでいいじゃないか。これ以上欲をかくのは贅沢と言う物だぜ。みんな無事に生きて帰れた事に感謝をしないと」

「ハハハハ、お前らしいな。今の俺のひがみは忘れてくれ。俺はただ今回の戦いで自分の弱さが再認識出来たことを良かったと思っているんだからよ。そして新たな目標が出来た!」

「新たな目標だとう?」

「似非勇者、あんたを超えることだ。俺は必ず狼魔族達を束ねるリーダーになってゆくゆくはこの辺りを納める豪族になってやるぜ!」

「豪族って、具体的にはどうやってなるんだよ」

「そんなの知らねえよ。ただ俺がこの辺りに影響力のある存在になれば蛾の妖精達のような弱い者達を人知れず守ってやれるかも知れねえじゃねえか。過度な迫害や差別がなくなるかも知れないじゃないか!」

「まさかお前からそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ。つまりは、山賊稼業ををやめると言う事か」

「山賊よりも田畑を作ったり、果樹園を作ったり、畜産業で生産したり、林業や園芸で物を栽培して、それらを人間達に売ってお金を稼ぐつもりだ」

「て言うか、それらを実行するにはそれなりに経験と知識がいるだろ。一体どうやってそれらを実行するんだよ?」

「よくは分からんがお前にその黒い木刀でゴツかれたらそれらの知識が全て俺の頭の中に入ってきたぞ。もしかしてこれはお前の記憶か。お前はこれらの知識があるんだな」

「ああ、鋼の剣が買いたくて、いろんなバイトをしたからな。そうか、お前に真人間になれと言って思いを具現化する苗木の木刀を叩き込んだからお前が独立し自立できる程の俺の知識がお前にも伝わったのか」

「まあ、そう言う事なのかな。まあ、ハル婆ちゃんとかいう奴の豆知識は余計だがな」

「くそ、そんな俺の記憶やハル婆ちゃんの知識までお前に流れたのか。ハル婆ちゃんの豆知識はあれはあれでかなり役には立つが……はっきり言って、は、恥ずかしいぃぃぃ!」

「お前のその性格はどうやらその祖母に大きな影響を受けているようだな。イイ婆さんだったみたいじゃねえか」

「ああ、家のハル婆ちゃんは優しい人だったよ」

 そのラエルロットの言葉にほんの数秒だけしんみりしたが、直ぐにゴンタが勢いよく叫ぶ。

「確かに今の俺はちっぽけで弱い存在だが、だけど次に会った時は俺はお前には絶対に負けはしねえ。俺は必ずお前よりも強くなってみせる。いやそうならなきゃいけないような気がする。【勇者ラエルロット】俺がお前に実力においても、勇気においても、追いつくまでは絶対に死ぬんじゃねえぞ。わかったな!」

「お前……初めてまともに俺の名前を言ってくれたな。しかも黒い鎧の男でもなければ、似非勇者でもない、ちゃんと勇者って言ってくれた。と言う事は……少しは俺の事を認めてくれたと言う事なのかな?」

「うるせえぇ、勇者ラエルロット、お前は俺がライバルだと認めた男なんだから向こうでこの旅を成功させていつか必ずここに戻ってこい。その時こそはまた勝負しようぜ。そして勝負が終わったら、またみんなでホケホケ鳥の肉入りスープでも食べようや。あれは中々に美味かったからよ。やっぱり食事はみんなで食べた方がうめえからよ。そうだろう!」

「ゴンタ、お前……」

「そんな訳でレスフィナの姐さん、世話になったな。俺は幼い頃に爺さんからよく昔話で黒神子レスフィナ……あんたの話をよ~く聞かされた物さ。黒神子レスフィナは情け容赦の無い最も邪悪な存在だから彼女を見かけたら脇目も振らずに一目散に逃げろとよく聞かされたよ。だけど実際に出会った黒神子レスフィナは話とは違う全く正反対な人だった。まあ、人の噂とは当てにはならないと言う事なのだろうが、その驚異の力だけはどうやら本物だったようだな。正直言ってお見それしたぜ。願わくばその力は弱き人々を助ける為に振るってくれると正直助かる。今の志を持つあんたがいれば、ラエルロットは近いうちに必ず本当の勇者に慣れるはずだ。俺はそう信じている。そしてどうか、これからも優しい人達の側に立つ黒神子レスフィナであってくれ!」

「ゴンタさんも今回の戦いの経験を得て大きく成長をしたと言う事でしょうか。ゴンタさんの中で何かが変わったのを感じます。どうかその悔しい思いを忘れずに精進を重ねて下さい。いつかそれが実となり、開花する時が来ますから」

「そう願いたい物だな。そしてシャクティ」

 ゴンタは今度はシャクティの方を見る。

「なんですか、ゴンタさん」

「その見た目から、トロいトロいとばかり思っていたが、本当は物凄い近接戦闘を得意とした接近戦技を持った闘士だったんじゃねえか。まるで新人の神官見習いの服装をしているからすっかり騙されたぜ」

「いえいえ、神官見習いの新人なのは本当の事です。ただ過去に、闘士の職業についていた時がありましたから、ちょっとだけ腕に覚えがあるのですよ」

「腕に覚えがあるなんていうレベルじゃなかったんだけどな。あれは達人級だと俺は思うけどな。お前、本当は一体何者なんだ。そして実際の実年齢は何歳だよ?」

「いや、それを女性に聞きますか。それはセクハラですよ」

「セクハラって、お前……」

「それにゴンタさんはちょっと大袈裟過ぎます。あれくらいは、同じ闘士の職の人なら誰でも出来ますよ。たいした技でもないですし。それに私が特別に強かった訳ではなく、黒神子ヨーミコワ事態がかなりのレベルダウンをしていましたから、私の攻撃が簡単に当たったのです。それにゴンタさんに渡した腐蝕玉には痺れ粉も人知れず混ぜて起きましたからそれらが効いたのでしょうね。そしてその腐蝕玉を投げつけて黒神子ヨーミコワを弱らせたのは他ならぬゴンタさんじゃないですか。ゴンタさんの援護があったからこそ私は安心して戦えたのですから、私への過大評価は考え過ぎだと思いますよ。私がスムーズに戦えたのはみんなのお陰なのですから」

「ふ、まあそういう事にして置くかな。本当のあんたが何者だろうと俺にはどうでもいい事だし、強かろうと弱かろうと正直関係のない事だからな」

「フフフ、ゴンタさんも充分に強いですよ」

「抜かせよ。そんな訳で俺はもう行くぜ。もしもまたこの地に来る時があったらまた会おうぜ。その時を楽しみにしているよ!」

「ええ、ゴンタさんもお元気で」

 そのやたらと元気なシャクティの別れの挨拶に釣られるかのようにラエルロットとレスフィナは勿論の事、蛾の妖精達も皆が手を振る。その光景に少しはにかみながらも一瞥すると狼魔族のゴンタは、蛾の妖精のルナが飛び去った山の方へと消えて行くのだった。
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