遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-18.真の新薬の在り処

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             3ー18.真の新薬の在り処


「ラエルロット、ミランシェ、こんな所で一体何をしているんだ。ていうかどうやってサンプル体の少女達がいるこのフロアに潜り込めた。お前達は仲間の七色魔石を奪い取った異世界召喚者の女の行方と、聖女になれる新薬を破壊する目的で動き出した黒神子・天足のアトリエの計画を阻止する為に地下に降りたのではなかったのか!」

「そのつもりだったのですが色々と状況が変わりまして、この研究所のやばい闇を知ってしまった今、ここにいるサンプル体の少女達を一番に救う事が最優先事項だと言う事が分かりました。ですからまずは彼女たちをこの研究所から地上に上げ、どこか安全な所に避難させてから改めてあの異世界召喚者の魔法剣士の女から奪われた七色魔石を取り返しに行きます。ていうかその聖女になれる新薬にはここにいるサンプル体の少女達が必要らしいですから彼女たちのそばにいたら遅かれ早かれ必ずあの魔法剣士の女はここに来るはずです」

 ツインテールの髪型をした少女99754番を始めとした他の実験体の少女達は皆心配そうにテファのそばに駆け寄っていたが、ラエルロット・蛾の妖精のルナ・ミランシェの三人は周りに警戒をしながら、目の前に現れたダグラス試験官の顔をまじまじと見る。

 三人の強い視線を特に気にする様子も無く軽く無視したダグラス試験官は何やら緊張した面持ちでサンプル体の少女達の人数を必死に目測で確認していたが、数え終わるなりその厳しい視線をラエルロットに戻すと背中に背負っている大きなリュックサックから綺麗に重ねられた数枚の長方形の用紙を取り出しその紙に書かれてある内容を確認する。

「どうやって……いいやどういう経緯でこのフロアに入ったのかはこの際どうだっていい、今問題なのはお前らがこの研究所の最大の最高機密でもあるサンプル体の少女達に出会ってしまった事だ。そしてそんな彼女たちの願いを聞き入れ何やら行動をしようとしている、それが問題だ。いいか、いかなる理由があるにせよだ、この少女達の脱走の手助けをするのは絶対に駄目だ。なぜならこの実験体の少女達は秘密裏に作られた重要機密でありノシロノ王国が隠しておきたい極秘事項の塊だからだ。お前達はサンプル体の少女達に同情をしてその正義感から彼女たちを地上に逃がすという計画に協力をする気でいるようだが、もしも彼女たちを外に逃がした事が上層部の貴族達に知れてしまったらお前らはこの先一生ノシロノ王国の闇の死角達に追われる立場になるぞ。つまりはお尋ね者になると言う事だ。勿論そうなったら念願の冒険者にも当然なれない、それでもいいのか!」

 警告とその重要性を伝えるダグラス試験官の必死な言葉に一瞬息を呑むラエルロットだったが、サンプル体の少女達の人権と尊厳を守る為にラエルロットはあることを聞く。

「テファニアの話では、ダクト所長が研究をしている聖女になれる新薬は、女性なら誰もが聖女になる事ができる性質を持つ今までに無いほどに画期的でハイリターンが約束された大発明との事です。ですがその新薬の存在に危機感を感じた敵対勢力や他の隣国の貴族達は皆疑心暗鬼となり、その新薬の情報の開示と製造の廃止を条件に脅しと圧力を掛けて来たとの事です。そんな他国間との情勢悪化を重く危惧したノシロノ王国の貴族達は今になって陰ながらにその研究データの回収と新薬の製造を廃止にする為に秘密裏に冒険者達を派遣し、敵対勢力から研究所を守るとの名目で各フロアへと白百合剣魔団のメンバー達を送り込んだとの事ですが、ダグラス試験官はこの事はご存じだったのですか」

「いいや、俺もテファニアと会うまではこの事は知らなかった。白百合剣魔団のメンバーの中には数人ほど知り合いはいるにはいるがそんな重大な極秘事項は当然俺にも教えてはくれなかった。だがこの計画の概要を知ってしまった以上ここに長いはできないと言う事だ。異世界召喚者達だけならまだしも、危険極まりない天足のアトリエや、果てやダクト所長が率いる謎の研究員達やその敵対勢力となったノシロノ王国が派遣した神聖白百合剣魔団や他のギルドなんかを相手にここにとどまっていたらこの四つどもえの戦いに巻き込まれて命がいくつ合っても足りなくなってしまうぞ。だから生き残りのお前達だけでも回収をしたらこの研究所から速やかに離れるつもりでこの地下まで降りて来たんだよ。あの魔法剣士の女から他の受験者達の七色魔石を取り返せないのは非常に残念だが、このままではせっかく生き残ったお前らまで二次被害を受ける恐れがあるからな。だからこそ地下へと降りてお前達をいち早く迎えに来たんだが、まさかこんな所にいるとは正直思わなかったよ。そんな訳でテファニアが言っていた事が本当ならもう直ぐここは大規模な戦場になる。だから早く避難をするんだ!」

「ならサンプル体の少女達も一緒に……」

「いいや、悪いがサンプル体の少女達はここに置いていく。もう必要以上にこのサンプル体の少女達に関わるのはやめるんだ。もしもこの少女達を断りも無く地上に出してしまったらおそらくは大変な事になるぞ!」

「もしもこのままサンプル体の少女達をこのフロアに置いていったら、サンプル体の少女達はこの後一体どうなるんですか?」

 素直に心配するラエルロットの問いに数秒間沈黙をするダグラス試験官だったが、厳しい表情を崩すこと無く、この後に確実に訪れるであろう厳しい現実と言う名の残酷な未来をラエルロットに告げる。

「彼女たちは人では無く、この研究所で秘密裏に作られた、聖女になる為の新薬として短い生存を許され管理された非合法なサンプル体だ。その存在は決して外部には公開してはならない為、その機密を守る為におそらく上の人間は彼女達の抹殺と排除を選択するはずだ。その彼女たちを助けると言う事はどういう事か、ラエルロット、ミランシェ、俺が言わなくてもわかるな。だから絶対に彼女たちには関わってはいけないんだ。そう本来彼女達はこの世には絶対に存在してはいけない者達だ。そしてその存在を知ってしまっただけでも俺達は今まさに危険な状況にあるのかも知れない。サンプル体に対し意図的に手助けをした協力者だと知れたらそれだけでも立派な重罪になる事だってある。だからこそ秘密を知ってしまった我々は一刻も早くこの研究所から立ち去らないといけないんだ。幸いこの研究所内に入り込んで調査をしているギルドは俺の知り合いの多い神聖・白百合剣魔団のメンバー達だからどうにか情報提供と逃げるお目こぼしをして貰えるが、他の討伐部隊のギルドと遭遇してしまったらお前達を無事に町へと送り届ける事すら困難になるかも知れない。だから今すぐにこの場から離れると行っているんだ!」

「つまり俺達が見捨てて逃げ出してしまったら遅かれ早かれ、サンプル体の少女達は皆その討伐隊のギルドに排除……つまりは秘密裏に殺されてしまうと言う訳ですね。よ~く分かりました。なら俺の答えは一つです。俺は勇者を目指す者として救いを求める彼女たちを見捨てて逃げる訳にはいきません。たとえノシロノ王国の貴族達の恨みを一身に買おうとも、国の刑法に違反しようとも、ここで必死に救いを求める彼女たちをこのまま見捨ててしまったら、俺は正義を語る事も自分の偽善を正当化することもおこがましくって絶対に胸を張って言えないような気がする。そうだ、俺は理不尽な都合で虐げられている……救いを求める弱い人達を助ける為に勇者になりたいと願い……そして渇望し、その第一歩として冒険者の採用試験を受ける事にしたんだ。そんな俺が今目の前でそのか細い命を踏みにじられそうにしている哀れなサンプル体の少女達を見捨てて逃げる訳にはいかないだろ。そうだろう、そうだよな、ルナ!」

 ラエルロットの勇気ある無謀な問いを振られた蛾の妖精のルナはハア~と溜息を吐くとその正義馬鹿たる無鉄砲差に呆れていたが、、直ぐに笑顔となりその問いに答える。

「全くラエルロットは臆病なくせに正義馬鹿と言うか、後先を考えないし命知らずよね。でもまあ、優しい勇者を目指すラエルロットらしい答えでもあるよね。真に救いを求めるか弱きサンプル体の少女達のために、見捨てずに尽力を尽くすと言う事ね。お付きのナビ役の妖精としてはラエルロットに逃げるように助言をするのが本来の妖精の姿だとは思うんだけど、私もラエルロットに村ごと救われた者の一人だから勿論ラエルロットの選択を信じてついて行くわ。それにお友達になったテファの頼みを違える訳にもいかないしね」

 サンプル体の少女達を助ける事を選択したラエルロットと蛾の妖精のルナの話を聞いていたサンプル体95657番のテファは「ラエルロットさん、ルナさん……ありがとう」と言いながら思わず涙目になる。

「全く馬鹿な奴らだ。ならミランシェ、お前だけでもここから逃げるぞ。お前は本来冒険者になるにはまだ幼いんだからこんな所で命を落としてはいけない。今ならまだ秘密裏に逃げられるからお前だけでもここから脱出するんだ。いくぞ、ミランシェ!」

 まだ幼い童顔の可愛らしい容姿が印象的なミランシェに声を掛けたダグラス試験官だったが、そんなダグラス試験官に何やら落ち着いた態度を見せるミランシェが淡々とした口調で自分の意思を述べる。

「私も当然、ラエルロットのお兄さんと……蛾の妖精のルナさんについて行きます。異世界召喚者の魔法剣士の女性に奪われた仲間達の七色魔石だってまだ取り返してはいませんし、聖女になれる新薬の秘密がここにいるサンプル体の少女達だと敵対勢力達に知られたらここに来る確率も否定はできません。そんな彼女たちを敵に拿捕される前に何とか証拠隠滅を図りたい上の人間の気持ちは何となく分かりますが、生存率が無いに等しい彼女達が夢見た外の世界が見たいという微かな最後の望みを叶えるだけの事ですから、たったそれだけの願いをわざわざ無下にする事はできませんよ。それに私も隔夕、サンプル体の少女達には興味がありますからね、乗り掛かった船でもありますし、もう少しだけ彼女達にお付き合いをしたいと思っています。それにサンプル体のテファさんには心ならずもいきなりお友達だと言われちゃいましたから、そんな彼女を今ここで見捨てることは私のプライドが許さないと言う事です。今まで私はお友達と言う物を作った事が無いので一体どう対応したらいいのか正直分かりませんでしたが、約束は約束ですし、まあ彼女たちをこの研究所の外に連れ出すくらいの事だったら協力はしますよ。それが友との約束をした私なりのけじめであり仁義です。まったく……友達なんか作るんじゃなかったです」

「ミランシェさん……本当に、本当にありがとう。あなたとお友達になった私の目に狂いはなかった。やはりあなたは私の親友と呼ぶべき人だわ!」

「いや私達、まだ出会って一時間くらいしか経ってはいないのですが、ほんと厚かましい人ですね、テファさんは」

「友好的だと言ってください。私達はこれで、真の親友ですよね!」

 テファは困惑するミランシェの手を取ると、満遍の笑みを見せながらミランシェの体に勢いよく抱きつく。

 ムッニュゥゥゥ~ぅぅ!

「ちょ、ちょっと、苦しいから抱きつくのはやめてください。正直うっとうしいです」

「いいじゃないですか別に、女の子同士だし減る物でもないでしょ。それにこの抱擁は私なりの感謝と愛情を込めた抱擁なんですから素直に受け取ってください。それにしてもミランシェさんは小柄で肌が艶々してて正直抱き心地がいいですね!」

 ムキュゥゥゥゥーーギュギュゥゥゥゥ!

「やめて下さい、テファさん、その大きな胸を顔に押しつけないで下さい。息が、息ができないです!」

 かなり気恥ずかしいのか、ミランシェはいきなり見せたテファの行動にどう対応していいのかが分からず思わず動揺する。そんなミランシェが受けるアクシデントを内心かなり羨ましいと思っていたラエルロットは目の遣り場に困りながらも平静を装う。

(ちくしょう、正直羨ましい。ここに来てのお約束のラッキースケベのイベントは俺には無いのか……当然ないよな。なんだかやるせない気持ちになるぜ!)と、ラエルロットは心の声を脳内に響かせる。

「と、というわけで俺達はサンプル体の少女達を連れてこのまま地上に通ずる最上階を目指します。せっかく実地試験に引率して心配までしてくれたダグラス試験官には悪いとは思いますが、何かの因果でせっかく知り合った彼女たちをこのまま見捨てて自分達だけ逃げる訳にはいきません。それが俺達が選んだ冒険者としての道です」

「そのサンプル体の少女達を助ける事によって冒険者になれる道が永遠に失われるとわかっていてもか」

「はい、この想いは絶対に変わりません。むしろ彼女たちをここで見捨てて俺たちだけで逃げてしまったら、俺達はこの先も罪悪感に苛まれて後に絶対に後悔をする。たとえこの先念願の冒険者になれたとしてもだ。救いを求める彼女たちをここで見捨てた俺達が後に冒険者になれたとして、この先も胸を張って冒険者を名乗ることが果してできるのだろうか……いいや、絶対にできないような気がする。まだなにも最善を尽くしてはいないというのに最初から彼女たちを見捨てて逃げ出すようでは、そもそも冒険者になりたいだなんて思わないほうがいいと言う事だ。最初から諦めるくらいなら……誰かの命令で自分の信念を違える行動をするくらいならな。これが俺達が最終的に出した決断と意思です!」

「信念は固いようだな。そうか、残念だ。ラエルロット、そしてミランシェ、お前達は試験管でもある上官の俺の命令に逆らい勝手な行動をした。これは決して許される事では無い。この場の上官としての俺の命令に従わない以上依頼をこなす組織としては絶対にあってはならない事だ。お前がどこかのギルドに所属をした場合、お前のその勝手な行動と正義感のせいで仲間が思わぬ危険に遭遇し全滅することだってあり得るからだ。だから上官の命令に背いたお前達の行為は命令違反に該当する。それは即ちお前らには第八級冒険者になる資格が無いと言う事だ。それでいいんだな。失格と言う事で!」

「彼女達の命には代えられません。俺は冒険者以前に勇者を目指す者として助けを求める彼女たちを見捨てる訳にはいきません。それが俺の勇者道ですから!」

「弱気者を救う、理想の勇者……か」

 ダグラス試験官が何気にそう呟いていると、ラエルロットはダグラス試験官が先ほどから持っている数枚の長方形の用紙が気になり着目する。

「ダグラス試験官、いきなり話は変わりますが先ほどから眺めているその用紙は一体なんですか? ひどく気になるんですが」

「ああこれか、これはな、お前らが第八級冒険者試験を受ける際に各学び舎の先生達が密かに提出をしてくれた、お前らの家族構成や経歴、そして性格なんかが書かれてある履歴書のような物だ。お前ら二人がやたらとアグレッシブに動くから経歴やその性格をもう一度改めて見直しておこうと思って見ているんだが、この履歴書に書かれてある事と実際の性格はかなり違うようだな。各学び舎の先生達の話では、ラエルロット、お前は真面目で努力家で正義感が強い割には、その努力は全て空回りをして全てを無に帰す傾向にあるらしいな。つまりは持ち前の運の悪さと理想に憧れるあまりに行動も過剰なオーバーワークになりやすいと言う事だ。全くお前は良い行いをしても結局は損をするタイプの人間のようだな。本当に勿体ない事だ」

「く、悔しいですが大体は当たっていますね、その履歴書」

 神妙な顔をしながらラエルロットがそう答えると、ダグラス試験官は今度はミランシェの方を見る。

「ミランシェ、この履歴書には、お前の事は臆病で引っ込み思案な子だと書かれてあるが実際は違うようだな。愛犬のゼロが近くにいないと遠出もできないくらいにお前は臆病者だと書かれてあるが、目の前にいるサンプル体の少女達のためにまた思い切った行動にでたではないか。まさかそこにいるラエルロットに感化されて正しい決断ができなくなっているんじゃないだろうな?」

「ラエルロットのお兄さんは関係ないです。確かに合理的では無い無謀な決断ではありますが彼女達に関わってしまった以上私もサンプル体の少女達の最後の結末をこの目で確かめたいと思っています。その最後が一体どのような転回になるのか……正直非常に興味があるとは思いませんか」

「悪趣味だなお前は……まあいいだろう。因みにこの履歴書に書かれてある愛犬は……ゼロと言うのか……今もその愛犬のゼロは元気なのか」

「はい、恐らくは元気です……でもそれが何か」

「いいや、実は隔夕俺も犬好きでな。一体どんな犬種の犬を飼っているのか、非常に気になったんだよ」

「そうですか……私はあまり犬には詳しくはないので犬種は分からないのですが、でも極めてどこにでもいる普通の犬です」

「普通の犬か……なら雑種かな。なるほどね。悪かったな、余計な事を聞いて」

 不器用ながらもぎこちなく笑顔を見せたダグラス試験官はミランシェを見ながらそう答えると、手に持つ履歴書の用紙を早々と腰に下げてあるリュックに仕舞いに掛かる。

 そんななんだか違和感があるやり取りに不信感を感じたラエルロットだったが、いきなり語り出したテファのある重要発言に一同は思わず絶句し、ダグラス試験官に抱いていた不信はその場で全て吹き飛ぶ。

「な、なんだってぇぇ……今なんて言った、テファ……」

「ですから、このままテファニアさんが私から七色魔石と血液を抜き取り、その体に取り込んでも彼女は聖女にはなれないと言っているのです。聖女になるには厳密には、私の血液を生成して作られた拒否反応を中和する特殊な薬品を混ぜ合わせた新薬をその体に取り込まなくてはいけません。その生成された薬品たる新薬をテファニアさん自身がその体に取り込む事によって初めて聖女になれる体質へと変化し進化をするのです」

「そうか、だがあのマダムナターリアというおばさんは自分のサンプル体から七色魔石と血液を譲渡の魔法で抜き取り、自分の体に取り入れていたぞ」

「マダムナターリアはここに来る前に恐らくはサンプル体の血液から生成された新薬をその体に既に取り入れていたので、その後にここで七色魔石を取り込む事によって晴れて念願の聖女になる事ができたのです。そしておそらくあの血液のような物は97821番の体から無理矢理に取り出された神力のような物です」

「なるほど、あのマダムナターリアは97821番の血液を前もって抜き取り生成された新薬を最初から飲んでいたから、七色魔石を抜き取りその体に取り込むだけで聖女になる事ができたと言う事か。ん……と言うことはだ、そのお前の血液から生成された新薬とやらはお前は持ってはいないのか」

「はい、持ってはいません。その新薬はダクト所長のいる実験室がある管理部屋に厳重に保管されていますから当然私達は近づけません」

 その話を間近で聞いていた蛾の妖精のルナは何かに気づいたのかラエルロットとテファに自分の思いを告げる。

「へえ~なら好都合じゃない。このままその重大な事実をうっかり忘れたことにすれば、あの本体であるテファニアから七色魔石を抜き取られる理由が無くなるわ。その実験室にあるという聖女になれる新薬を誰かが破壊、もしくは紛失させてくれたら当然本体でもあるテファニアは聖女になる機会を永遠に失う事になるのだからね。もしもそうなったらテファ、あなたの七色魔石はもういらないと……必要はないと言う事になるわ。だからこのまま地上にでたらテファは他のサンプル体の少女達と共にどこかに隠れていたらいいわ。もしもテファニアがあなたの行方を探しに来たらその時は研究所内への総攻撃が本格的に始まるまで、どうにかして私達が時間を稼いであげるわ。その新薬さえ無くなったらテファが自分の七色魔石をテファニアに譲渡をする理由もなくなるからね」

 テファの命がこれで救えると思った蛾の妖精のルナは誇らしげに自分の考えを語って見せるが、その提案に申し訳なさそうに頭を下げたテファは、命欲しさに嘘をついてまでテファニアとの約束を違える事はできないと自分の考えを述べる。

「それはできません。約束は約束ですから。それにテファニアさんは私が新薬を持ってはいない事は最初から気づいていたようです。その証拠に恐らく彼女がくれたこのカードキーは外に出る為のカードキーではないようです」

「ないようですって、それは本当なの。あのテファニアがわざとそれらしい事を言って、外に出られるカードキーだと嘘を言ってまであなたを騙したとでも言うの」

「はい、どうやらそのようです。前に別の研究員に外へ出る事のできるカードキーを見せて貰った事があるのですが、全く違うデザインと形をしていました。なのでこのカードキーは別の用途に使うカードキーのようです」

「じゃテファニアがくれたそのカードキーは一体何のカードキーなのよ?」

「このカードキーの形とガラは……恐らくはこの研究所の更に最下層にある最終フロアにあるとされる実験室兼管理部屋の扉を開ける事のできるカードキーの用です。つまりは私の血液が生成された新薬が大切に保管されている所です。つまりテファニアの無言のメッセージは、サンプル体の少女達と共に無事に地上に出たいのなら自力で更に地下にあるとされる実験室にいき、その実験室の中で厳重に管理がされている管理室からその新薬をどうにかして奪って私の元まで持ってきなさいと言っているのです。このカードキーはその厳重な管理部屋に入る為の必要な鍵であり、そしてその新薬を持ち帰らないとおそらく外には出られないようにパスワード事態が書き換えられている物と思われます。ええそうです、彼女から流れてきたあの感じは恐らくはそういうことだったのでしょうね。もしも私がテファニアを出し抜くような形で地上に出ようと画策した時は、わざとそのわかりづらいメッセージを知ることになるという事です。『おい、なに約束を破って私の元から逃げだそうと画策しているんだ。残念ながらそのカードキーでは外には出られないぞ!』という意地悪なメッセージを込めてね。そうです彼女はそんなに単純で優しくは無いですからね」

「テファニアの奴め、ちくしょう何がテファのことを信じているだ。もしも裏切って地上に出ようとカードキーのカギを差し込んだ際に、カードキーが合わなくてあたふたしているテファに思い知らせる為に、あえて警告めいた嫌がらせをしていると言う事か。全く本当に嫌な性格の奴だぜ。だったら最初から管理部屋のカードキーじゃなく、その聖女になれる新薬の方を盗み取って来てくれたらよかったのによ」

「それを行うにはあまりにも危険でハイリスクだとテファニアは考えたのでしょうね。だからこそ遠回しに私にその新薬を取りに行かせようとしているのです。幸いこのフロア以外では封印されてある聖女の力が問題なく使えるみたいですし、この研究所から出られるカードキーはどうやらダクト所長自らが持っているみたいですからね」

「つまり、この更に地下にある実験室の中に隣接している管理部屋に行って、聖女になれる新薬を手に入れて。そのついでにそのフロアにいるであろう研究員達の中をかいくぐって、第三級冒険者でもあるダクト所長から外に出られるカードキーを奪って来いと言う事か。なんだか絶望的に高い難易度だが、それでも行くのか」

「はい、行きます。藁をも掴むようなか細い希望の光でもやっとできた希望の道しるべなのですから、今この期を逃したらもう二度と地上に出る事は叶わないでしょう!」

 力強く自分の決意を語るサンプル体の少女、95657番のテファだったが、フと不安そうな顔をラエルロット・蛾の妖精のルナ・そして小撃砲使いのミランシェの方に向ける。

「そこにいるダグラスさんの言うように本来私達サンプル体はこの世に生まれてきてはいけない危険な存在なのかも知れません。ですがせっかくこの世に生まれたからにはどうしてもお外にある本物の太陽を、みんなの念願だった外のそよ風を……暖かな日の光を目いっぱい浴びて、私達も人として生きているという証を実感したいのです。その思いをかなえるためにはどうしても地上にでなくてはなりません。どうしてもです。ラエルロットさん、蛾の妖精のルナさん、ミランシェさん、このフロアに来てくれただけでも満足ですし、ここから地上に出るまでのボディガードと道案内をして貰う予定でしたが、テファニアさんのカードキーのお陰で目的が変わりました。なのでこんな事を頼むのは大変心苦しく申し訳ないのですが、もう少しだけ私のわがままに付き合ってはくれませんでしょうか。どうか、どうかお願いします。老い先短いサンプル体の少女達を助けると思って、どうか私と一緒に、聖女になれる新薬を取りに行って下さい。無理な話だとは思いますがどうかお願いします!」

 大変申し訳なさそうに必死に頭を下げる95657番のテファにラエルロットがさも当然のように言う。

「一緒に行くに決まっているだろ。テファお前だけを一人でそんな危険な所に行かせる訳にはいかないからな。ていうか俺達の助けを借りる為に最初から俺達に接触しようと思ったんだろ。ならなにも気兼ねする必要はないぜ。俺達はそんなお前の願いを聞き届ける為に自分の意思でダグラス試験官にも逆らったんだからな。テファ、仲間を本気で思うお前の優しさと真心に応えたかったからだ。同じく仲間を思う友としてな!」

「ラエルロットさん……」

「私も同じよ。私達蛾の妖精族は人間族には忌み嫌われて迫害を受けてきたけど、サンプル体のホムンクルスとして人権無視な迫害を受けているあなた達を私はどうしても助けたいの、そう私を忌み嫌わず優しく友と呼んでくれたテファ、あなたの為にね」

「ルナさん……」

「そうですね……この私のことを友だと言うのなら……私もその思いに応えないといけませんよね。そうでしょ……テファ……。友とは窮地の時は互いに助け合う物だと誰かに聞いたのですが……それでいいのですよね。ラエルロットのお兄さんも、蛾の妖精のルナも、どうやらやる気のようですし、私も一度は友と言う物を……助け合いとやらを体験してみたかったですから、これも経験です……お付き合いしますよ」

「ミランシェさん……」

 三人の思いを聞き、感極まる95657番のテファだったが、そこにサンプル体の少女、ツインテールの髪型をした99754番の少女が申し訳なさそうに名乗りを上げる。

「わ、私も……私も……95657番のお姉様のお役に……ラエルロットのお兄さんのお役に立ちたいです。それにこのまま最下層にある実験室に向かうなら必ず私の聖女の力が役に立つはずです。更にはその実験室に辿り着くまでの道案内も必要ですから、私が案内しますよ。私とお姉様は何度もその実験室には通わされていましたから場所を正確に知っているのです」

「99754番のツインテールの聖女の力か。じゃお前の事は取りあえずはやはりツインちゃんと呼ぶ事にするよ。もうそれでいいだろ。なんだかその名前が君にはピッタリのような気もするしな」

「ツインんって、だから安易な名前はやめてくださいと言っているじゃないですか。倉庫内にいた時の話を聞いてはいなかったのですか?」

「当然お前の要望は俺なりにいろいろと考えては見たんだが、やはりしっくりくる名前が思いつかなくてな、となるとやはりこの名前に落ち着いたという訳だ。当然俺達と一緒に行動をするのなら、99754番って言う番号はかなり呼びにくいだろうし、長たらしくって紛らわしいからな。だからツインちゃんだ。やはりお前のチャームポイントはその髪型だろうからな。そのインパクトを採用させて貰ったよ」

「そんな安易な思い付きのような物であたしの名前を決めたと言うんですか、本当に信じられないんですけど。ありえないです!」

 当然ながら不満の意思を述べる99754番ことツインちゃんの言葉をどこ吹く風とばかりに聞き流すラエルロットに、その様子を見ていたダグラス試験官が厳しい言葉を叫ぶ。

「ラエルロット、お前、そんな事では永遠に冒険者にはなれないぞ。お前のその甘い理想と行き過ぎた行為はいつかお前を慕う仲間達さえも否応なしに危険の縁へと誘い絶望へと叩き落としてしまうかも知れない。そうお前の身勝手な正義論のせいでいつかは皆が全滅をしてしまうかも知れないと言う事だ。そんなお前は冒険者以前に、国を守る戦士を名乗る資格すら無い。ラエルロット、やはりお前は冒険者にはなれない不適格者だ!」

 厳しい言葉を送るダグラス試験官の忠告を心に刻んだラエルロットは、不安げな顔をするテファ、蛾の妖精のルナ、ミランシェ、ツインちゃんの四人を引き連れながら澄み切った笑顔で叫ぶ。

「他のサンプル体の少女達の事は、ダグラス試験官にお任せします!」

「な、なんで俺がこのサンプル体の少女達を守ると思うんだよ。義理も情けもないし、そんな事は絶対にしないぞ。それにだ、俺はお前と違ってそんなに甘くはないし、お人好しでも無い。このまま彼女達を見捨ててこの場を去ることだってできるんだぞ。それはわかっているのか!」

「いいえ、あなたは絶対にそんな事はしませんよ。口ではきつい事を言ってても内心ではサンプル体の少女達の過酷な境遇と理不尽な運命を知って絶対に葛藤しているに決まっているんだ。だけど俺達を纏める責任者でもあるし大人だから、あえて厳しい事を言っているんだ。そうでしょ、ダグラス試験官。あの時……天足のアトリエが参戦して来た時に命を賭けて体を張って俺達を守ってくれた誇り高いあなたを……冒険者としての人道的な勇気ある姿勢を見せてくれたその優しさを……俺は信じます」

「ラエルロット……」

「というわけでそろそろこの鉄の扉を開けてください。当然ここに来たのなら持っているのでしょ。テファニアから貰った偽造された違法のカードキーを」

 落ち着いた眼差しと言葉をダグラス試験官に送るラエルロットは、無言で扉に偽造のカードキーを差し込むダグラス試験官に頭を下げる。

 その瞬間奇妙な電子音と機械音を響かせながら自動でぶ厚い鉄の扉が開き、その中をラエルロット達一行が静かに通り過ぎて行く。

 そんなラエルロットを含めた五人の男女の姿を見送るダグラス試験官はやるせない表情を見せながら、振り返らずに通路を歩く五人の姿を心配そうに見送るのだった。
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◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

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