遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

文字の大きさ
91 / 104
第三章 二人の聖女編

3-39.弱者の説得

しおりを挟む
              3ー39.弱者の説得


「神聖力だけを阻害する結界か。この実験管理室の中では聖女はその力を存分に発揮はできないか」

「でも魔術師が使う魔法の類いの物はどうやら使えるようです。異世界召喚者の魔法剣士は魔法防御の呪文を唱える事ができましたし、私も姿を隠す魔法や、マジックミサイルを繰り出す爆裂の魔法も普通に使う事が出来ました」

 警戒しながら間合いを取るラエルロットと白魔法使いのタタラは、敵意をむき出しにする数多くの少女達が高くもた首を上げるその姿に、最前かつ有効的な攻撃手段を探る。

 後ろに暁の聖女テファを隠しながら必死に守る態勢を取るラエルロットは、再び攻撃に移ろうとする白いヒュドラの姿勢に最新の注意を払う。
 そんなラエルロットの必死に仲間を守ろうとするその健気な勇気に、ダクト所長は嘲笑いながらもその無謀さを皮肉一杯に称える。

「フフフ、時折部下たちから報告を聞いてはいたが。まさか神聖教会で出会ったあの黒神子の眷属の青年だったとはな、正直意外だったよ。まさかこの研究所の件に絡んで来るとは思わなかったからな。と言う事は今現在この研究所を目指してノシロノ王国からこちらに歩いて来ている黒神子とは、やはり、遥か闇なる世界の・英雄殺しのレスフィナと言う事か。これは流石に油断できないではないか。遥か闇なる世界の天足のアトリエだけでも手を焼いているというのにそのうえ英雄殺しのレスフィナまで来てしまってはこの研究所を流石に守り切れないだろ。ノシロノ王国の正規軍だけなら今の白いヒュドラの力だけで何とかなるが、二人の黒神子を相手にするには完全体の白いヒュドラに進化をする必要がある。だからこそ暁の聖女の体が……いいや、その命でもある七色魔石がどうしても必要なのだ。今まで色んな実験と調整を重ねてここまで育てて来たが、この研究所に危機的状況が迫ってきている今、そろそろ暁の聖女の命を刈り取る時期に来たのだ。だからラエルロットくん、君に邪魔は一切させないよ。それにあの悪徳で有名な黒神子レスフィナの眷属とは言え、まだ冒険者ですらない戦闘経験がほとんど無い高々レベル1の若輩者が私の最高傑作でもある白いヒュドラに勝てる訳がないだろ。なかなかに運だけはいいようだが、その強運もここで終わりだ。どうやらテファニアとは知り合いのようだが、そのサンプル体でもある95657番に関わり、尚且つこの研究所の極秘最高機密とも言うべき秘密を知ってしまった今、ラエルロットくん、君には今ここで確実に死んでもらうぞ。サンプル体95657番に取って君は勇気をくれる希望の光であり、特別な存在のようだからな。だから君は私にとっても邪魔な存在なのだ!」

「暁の聖女から手を引いてください。いいや他に生き残っているサンプル体の少女たちも全て解放するんだ。もうこんな非人道的な実験は終わりにするんだ!」

「フフフフ、やけに強気ではないか。それともこの私に鎌をかけて揺さぶりをかけているのかな。知っているぞ、黒神子の眷属でもあるお前は確かに不死の能力を貰ってはいるが、それは黒神子の宿主が傍にいればの話だ。つまりまだレスフィナの射程距離内から外れている今現在のお前は当然不死ではないと言う事だ。だから今この場で傷を負えば怪我もするし、命を失えば普通に死ぬだろ」

(くそぉぉ、見抜いていたか。これは絶対に大怪我は出来ないぞ。少しの油断が命取りになる。これは気を引き締めて事に当たらないとな)

 ダクト所長の見解に眷属の特性を見抜かれていたラエルロットは、今の自分はただの人間である事を実感する。
 ラエルロットはそれでもわざと余裕がある態度を見せると、テファが逃げられるチャンスができるまでの時間稼ぎをする。

「ダクト所長、こうやって直に会って話をするのはこれが始めてですね。神聖教会ではエマニュエ大神官と話をしている隣にあんたがいた事を思い出したが、まさかこんな非道な実験をしている張本人だったとはな、正直驚いているよ。ノシロノ王国側の正規軍や異世界召喚者の勇者達が結集しつつある今、もうこの研究所の悪事は明るみとなり研究どころではないはずだ。資金も打ち切られ研究所その物が解体されそうなこの状況でまだ無意味な悲劇を繰り返す気ですか。もうこんな非人道的な悲しい実験は辞めて今現在生きているサンプル体の少女達を全て解放して下さい。自由にして下さい。もうこんな事は終わりにしましょう!」

 必死に思いを言葉にするラエルロットに、ダクト所長は馬鹿らしいと言った感じで冷徹に言葉で返す。

「ふん、知った風な事をいいよって、この偽善者が。そもそもあのサンプル体の少女達は人権のある生き物ではない。私が培養室で作り上げたただのクローン体の実験生物だ。ゆえに人ではないのだ。そんな数ある今にも壊れそうな不安定な人形達を私がどうしようと構わないではないか。あいつらは発展の向上と様々な実験に使う感情のないただの小さなモルモットに過ぎないのだからな」

「ダクト所長、彼女達はあんたの身勝手な夢を叶える為の都合のいい玩具じゃない。夢と希望を抱いている命あるただの少女達だ。そんな希望溢れる彼女達の夢を、将来ある可能性を無慈悲に奪おうと言うのなら、俺は勇者を志す者としてもうこれ以上の横暴は絶対に許しては置けない。ダクト所長、あんたの野望は俺が全力を持って止めさせてもらうぜ。そしてテファやツインだけではなく、今現在生き残っている他のサンプル体の少女達も無事に解放させてもらうぞ!」

「フフフ、高々レベル1の若輩者とはいえ、中々に言うではないか。まあいいだろう物のついでだ。あの最悪最強と言われた、英雄殺しの黒神子レスフィナの眷属の力、是非とも見せて貰おうではないか。暁の聖女を取り込む前座だ。まあ精々あがいてその戦闘データを取らせてくれ。とはいえいくら黒神子の眷属とは言えどもレベル1の無謀な弱者では大した研究データは取れないとは思うがな」

「そんな事はやってみないと分からないだろ。こいダクト所長、その白いヒュドラもろとも相手をしてやるぜ!」

「面白い、威勢だけはいいようだな。だが勇気と無謀は違うという事をお前の命をもって知ってもらうぞ。いけ、白いヒュドラよ。あの身分扶桑にも勇者を夢見る愚かな若者を八つ裂きにしてやるがいい!」

「「ギッイイィィィィーーィィン」」

 白いヒュドラをけしかけるダクト所長を睨み付けていたラエルロットだったが、啖呵を切ったはいいが行き成り絶体絶命となったラエルロットは内心冷や汗を搔きながらかなり焦っていたが、無数の蛇女の上半身がラエルロットの体に届く寸前、行き成り白いヒュドラの体は何かの重石に潰されたかのように地面へとその巨体を打ち付ける。

 身動きができないその白い巨体をくねらせる白いヒュドラは激しく暴れるが、その動きに連動するかのように周りの床は大きな音と土煙を上げると、まるでクレーターのようにその場は大きく陥没する。

 ゴオォォォォォーードドドドドドドドド、ドッカアァァァァーーン!

「行き成り白いヒュドラの体が地面に沈んだぞ。この超重力の能力は、まさか?」

 白いヒュドラが地面に叩きつけられる姿を見たダクト所長はその超重力の能力に流石に面食らっていたが、その超重力の能力を出した張本人が白いヒュドラのいる天井付近から声を掛ける。

「聖女でもあるテファはその神聖力の力をこの部屋の中では発動出来なかったみたいだけど、もう既に発動した力の元素はそのまま使用ができるみたいね。聖女ミレーヌの超重力の能力を私が持つ邪妖精の衣で吸収して取り込んだから、まだまだ使えるわよ。私の精霊力が続く限り、聖女ミレーヌの超重力攻撃を当て続けてあげるわ。だからその内にラエルロットはこの場所から逃げて頂戴。馬鹿正直に真っ正面から戦っても勝てる訳がないでしょ。いろいろ策を考えて、仲間たちと協力をしてこの敵に立ち向かうのよ。一人で戦っては絶対に駄目!」

 白いヒュドラの頭上で邪妖精の衣をまるで風呂敷のように広げて超重力の力を発動させていたのは蛾の妖精のルナである。
 ルナは、勢い良く突進しようとする白いヒュドラを地面に抑え付ける為に、聖女ミレーヌから吸収した超重力の力をそのまま白いヒュドラに向けて出し惜しみなく使い続ける。

「食らいなさい。聖女ミレーヌが操る神聖力、超重力攻撃を!」

「な、なにぃぃぃ、聖女ミレーヌの力だとうぅぅぅ!」

 蛾の妖精のルナが解き放つ超重力攻撃の圧迫に押しつぶされ床へと叩きつけられる白いヒュドラは流石に身動きが取れない状態でいたが、少し後方で白いヒュドラの様子を見ていたダクト所長は、暁の聖女テファを連れながら他の仲間たちと合流するラエルロットの後を追う。

 外に出るのに必要なカードキーや、聖女になれる新薬を懐に隠しているダクト所長は、万が一にも気が変わった暁の聖女がそのまま逃げてしまう事を恐れ、実験管理室の廊下に出たラエルロットの尾行を開始する。

 身動きが取れない白いヒュドラをそのままに、実験管理室から出て来たダクト所長に視線が動いたラエルロット・テファ・タタラ・ミランシェ・ツイン・そして異世界召喚者の魔法剣士の六人は、決戦の時とばかりに皆各々が攻撃態勢を取る。

 互いに睨み合い対峙をする中、最初に話し出したのは言霊の聖女ツインである。ツインは決意を込めた視線をラエルロットに向ける。

「ラエルロットのお兄さん、それに白魔法使いのタタラさん、95657番のテファお姉さんの事を頼みます。ダクト所長の方は私とミランシェさんの二人に任せて下さい。私に考えがあります。ダクト所長が持っている聖女になれる新薬と外に出られるカードキーは必ず手に入れて見せます。だからラエルロットのお兄さんの方は、今現在蛾の妖精のルナさんが足止めをしている白いヒュドラの方をお願いします」

「白いヒュドラか……そこまで言うのなら何か考えがあるんだよな。あのダクト所長を出し抜き、その品々を奪い取る方法が。わかった、ダクト所長の方はツインとミランシェに任せる。そして白いヒュドラの方は俺と・ルナと・テファと・タタラと・異世界召喚者の魔法剣士との五人でどうにかするよ」

「分かりました。ではラエルロットのお兄さん、テファお姉ちゃんの事をお願いします。テファお姉ちゃんとはできるだけ長くいてあげて下さい。ラエルロットのお兄さんが励ましてくれたら、きっとお姉ちゃんは死に急ぐ事はありませんから」

「ツインちゃん、君はそこまでテファの事を……」

「では行きますか、ミランシェお姉ちゃん!」

「仕方がないですね、あなたの考えに付き合ってあげます。あの得意げに語る上から目線のダクト所長とかいうおじさんには一泡吹かせてあげたいですしね」

 不適に微笑みながら言う、言霊の聖女ツインと小撃砲使いのミランシェの二人は、威風堂々と目の前にいるダクト所長の方にその足を向けるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人
ファンタジー
◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

処理中です...