遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-48.暁の聖女とアトリエの約束

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           3ー48.暁の聖女とアトリエの約束


 ラエルロットとエマニュエ大神官がダクト所長の行方について話をする中、小撃砲使いのミランシェは蛾の妖精のルナと共に暁の聖女テファの元へと歩み寄る。

 仰向けに倒れていたはずの暁の聖女テファはどうにか上半身を地面から上げると、通路の壁に背中をもたれさせながら力ない笑顔を向ける。
 その姿は誰が見ても分かるように酷く痛々しい物だったが、健気に振る舞うテファの目には、まだ何かを成し遂げなくてはならないという決意のような強い意思が見え隠れする。

 そんな強い思いを何となく感じ取ったミランシェは腰回りのお腹の付近に下げているぶ厚い布製のカバンを後ろの腰の方へと押し上げると、よく通る落ち着いた声で話しかける。

「どうやらまだ話ができるくらいの元気はあるようですね。それで、話とは一体なんですか?」

「ミランシェさん、あなたに初めて会った時、テーブルを囲んで紅茶を飲みながら三人でお話をした事を覚えていますか」

「あなたとルナと私の三人がいた、あの隔離エリアでの時の事ですか……さあ、一体何を話しましたっけ?」

「言いましたよね、この研究所からサンプル体の少女達と共に皆で出ることができた暁には、私はこの命を最終的には私の本体でもあるテファニアさんにあげてもいいと考えていますと。その為の条件をあなた達には話したはずです」

「はずですって、あれは本気の話だったの。その命を捧げると言う事は、文字道理あなたは死んで、代わりにあのテファニアとかいう女性が暁の聖女の力を手に入れると言うこと。それであなたは本当にいいの」

「構いません、初めからその目的の為に私は人工的に作られ……そして産まれた訳ですし、彼女ともそういう約束でこの脱出計画を手伝って貰っていましたから」

「でも半分は裏切られていた訳よね。だってそのテファニアはダクト所長とも裏で繋がっていた訳だから。そんな裏切り者の為にあなたは自らの命を進んで投げ出そうと言うの。理解に苦しむんだけど」

「私の考えにあなたの賛同を貰うつもりはありません。ただ私はあなたに手伝って貰いたいのです。私が死んだ後の話ですからこの計画を成し遂げるには是が非でも友であるあなたの助けがどうしても必要なのです」

「友……ですか。この私が、あなたの……」

「当然でしょ。たった一日ではありますが、私達は生死をかけて共に戦い、食卓を囲み、更には一緒に苦難を乗り越えて来たのですから、これはもう友と言うほかはありません。それに普通の人が数十年かけて築き上げるであろう友情を私達はこの濃密かつ濃い一日の体験で確実にお互いの人となりを共に知りえたのですから、これほどに相性のいい信頼に値する好敵手は他にはいないと自負しています。だからこそあなたにはこの大役を任せたいのです」

「大役ね、しかしまあ、恥ずかしげもなくよくそんな歯の浮いた恥ずかしいセリフをペラペラと言えるわね。まるでどこかの似非勇者そっくりだわ。それで、テファニアとかいう小悪な小娘にあなたの命を捧げるとして……そんなあなたが一体何を私に頼みたいのです、話して見なさい」

 暁の聖女がごく当たり前のように発する友と言う言葉にミランシェは正直面食らったが、構わずに暁の聖女は話を続ける。

「ミランシェさん、あなたに渡した、古代の遺物・空蝉の盃を持っていますよね」

「ええ、持っているわ。それがどうしたの?」

「ダクト所長から奪った、私のDNAの遺伝子情報が入った聖女になれる新薬も当然持っているんですよね」

「勿論それも持っているけど、それがなんだと言うの。まさか両方とも今すぐあなたに渡せってこと」

「いいえ、この計画にはそれらのアイテムとあなたの協力が絶対に必要なのです。だから私の死後にあなたには行って貰いたい事があります。願わくばこの私の願いを込めた意地の悪い悪戯が、いつかテファニアさんの心に何らかの変化をもたらすと信じて。そうだからこそ私は未来あるそんな彼女の為に一つの魔法を掛けるのです」

「意地悪な魔法ですって?」

 その言葉にピンと来たミランシェは、暁の聖女テファが一体何をするつもりなのかを何となく理解する。

「テファ……あんた、まさか」

「そのまさかです、ここにテファニアさんの血が染み付いたハンカチがあります」

「血のついたハンカチだとう……ああ、確かあなたがテファニアの顔を平手打ちした時にその血をハンカチで拭いていたわね。その拭った時に使っていたハンカチがそれか」

「ええ、その時のハンカチです。そして……ピコちゃん、私の所に今すぐ来なさい!」

 上に顔を向けながら大声で叫ぶ暁の聖女テファの言葉に従うかのように、今まで全く姿を見せなかったカラクス鳥のピコちゃんが上空から真っ直ぐに飛来したかと思うと、そのまま暁の聖女テファの左の肩に静かにそっと止まる。

「カアァァ、カアァァ、カアァァ!」

「ピコちゃん、来てくれたのね」

 カラクス鳥のピコちゃんに向けて優しく微笑む暁の聖女テファに、ミランシェは再度確認をする。

「古代の遺物・空蝉の盃に、テファのDNAの入っている聖女になれる新薬に、カラクス鳥のピコちゃんに、テファニア本人の血液が染み込んでいるハンカチか。それらを使ってあんたがこれからなそうとしている事は一つしかない。その計画の片棒を私にも担がせようというの。聖女になれる新薬を破壊する為にこの研究所にわざわざ乗り込んで来ていたこの私に」

「そうです、私達サンプル体の破壊と聖女になれる新薬を永遠に屠る為にこの研究所に乗り込んで来ていたあなたに私はその全てを敢えて託したいのです」

 思いを強めながら言う暁の聖女の言葉に、ミランシェは意地悪く苦笑する。

「フフフ、随分私を信用しているようだけど、あんたの死後に私が裏切って、聖女になれる新薬を破壊するとは思わないのか」

「私には人を見る目が、誇り高い者を見る目はあると信じています。ですので私は、私が信じたあなたを信じています」

 その暁の聖女の真っ直ぐな言葉に流石のミランシェも目を見開き、呆れた声をあげる。

「グググ、おのれぇぇ、私の性格と誇りと信念に訴えかけて来るか。本当に抜け目のない女だ。これで私があんたとの約束を破ったら、私の誇りに傷がつくと言う事か」

「私の最初で最後の望み……勿論受けてくれますよね」

「あくまでもオリジナルのテファニアの為にその命を捧げる覚悟か。まあいいだろう、あんたのその願いと望み、この黒神子・天足のアトリエが確かに承ったでチュ。お前のその欲深な尊い願いの果てにあのテファニアとかいう愚かな女は一体どんな反応をするのか、非常に興味が出て来たでチュ」

「素直に私の願いに応えてくれて、正直嬉しいです。ありがとう、最高の好敵手にして、わが親愛なる友、天足のアトリエさん。フフフ、初めて本当の名前を言ってしまいましたね。それではこれらの計画の概要と、このアイテム当でなすべき事を……これからお教えしますね。もう時間があまりありませんから、急ぎますよ」

「暁の聖女、お前とはまだちゃんとした決着がついてはいないのだがな、それなのに先に行くつもりか」

「ハア、ハア、ハア、ハア、ええ、あなたとの勝負をする元気も時間も無くて本当に大変申し訳なく思っています。できる事なら一対一で真剣勝負をして差し上げたいのですが、どうやらそれは叶わないようです。ほんと残念です。でももしかしたらいつか……近い将来……成長したテファニアさんが私の代わりにあなたと戦ってくれるかもしれませんよ」

「それは本気で言っているの、あのテファニアがお前のようになれる訳がないだろ。お前とあのオリジナルとでは天と地の差だ。あの小娘は本来聖女になれる器では無いのだからな。なのでとてもじゃないがお前の代わりにはなれんよ」

「ハア、ハア、ハア、ハア、そうですか……そんな結論に至りますか。でも、いつか彼女は私と並ぶ……いいえ、私を追い越せる聖女になれると思うのですが……」

「フフフフ、それこそ夢物語の話だ」

「ハア、ハア……それでも私はテファニアさんに、願いを託します」

 肩で息を切らしながらにこやかにそう言うと暁の聖女テファは、聖女になれる新薬の液体が入っている試験管の中に血のついたハンカチを丸めて浸すと、ミランシェと蛾の妖精のルナはその光景を食い入るように真剣な眼差しで静かに見つめるのだった。

                                 *

 一方その頃、ラエルロットとエマニュエ大神官は一体どうやって負傷したツインとテファを地上まで運んだらいいのかというその手段を互いに話していたが、そんな二人のこれからの妙案や行動を遮るかのように遠くの方から通路を物凄いスピードで走ってくる一台の大きな乗り物が迫る。

 薄暗い大きな通路を明るいライトを照らしながら走るその大きな乗り物はどこからどう見てもバスなのだが、当然この世界には無い、見たことも聞いた事もない乗り物なので、ラエルロットと白魔法使いのタタラは突然の大きな乗り物の出現に斬新な衝撃と度肝を抜かす。

「な、なんだ、あの大きな乗り物は一体?」

「この研究所の職員が使っている、からくりで動く科学魔道兵器の類の物かしら?」

 エンジン音とライトを光らせながら徐々に近づいて来る大きな乗り物にラエルロットとタタラは正直かなり驚いていたが、そんな二人とは対照的に地球育ちの異世界召喚者でもある池口里子は落ち着き払いながらも当然のように言ってのける。

「あ、バスが来たようね。誰が運転しているかは知らないけど、あれを奪って一刻も早くこのエリアから脱出しましょう。あなた達、私に手を貸しなさい」

 予備の短剣を腰の莢から引っこ抜いた池口里子はいつでも襲撃できる体勢を取るが、静かに止めに入ったエマニュエ大神官がその行為を止める。

「なによ、邪魔しないでよ!」

「全く、異世界から来た魔法剣士のお嬢さんは物騒でいけませんね。ここは私が何とか話し合いで物事を解決しますわ」

 余裕を見せながらも悠然と構えるエマニュエ大神官の底の知れない姿勢に池口里子とラエルロットが押し黙っていると、ついに通路を走る大きな乗り物がエマニュエ大神官の目の前でピタリと止まる。

 グッゴオオオオォォォォーーン、ギッギッキキキキィィィーーン!

 正面左横の扉が開きそこから現れたのは、渋いワイルド顔がよく似合う、元ノシロノ王国聖騎士団団長にして、今は第八級冒険者試験の試験官を務めるダグラス試験官、その人である。

 突如バスの中から現れたダグラス試験官は通路に広がる周りの状況を確認すると、何かを察したのか、目の前にいるエマニュエ大神官の方を見る。

「帰りが遅いと思い、わざわざここまで様子を見に来てみればこれは一体どういう状況だ。見た感じじゃ大きな戦いの一戦が今まさに終わったかのような激戦めいた雰囲気を漂わせている。それに怪我人も出ているようだし、意を決して迎えに来てよかったといった所か。それで、なんでこんな所に神聖教会のトップでもあるエマニュエ大神官がいるんですか。それによ~く見たら幾人か見知らぬ人達も増えているようだし、なぜこんな事になっているのかを教えて貰ってもよろしいでしょうか?」

 目上の者を気遣うように話すダグラス試験官に対しエマニュエ大神官は、バスの中で緊張しながらも静かに息を潜める謎の者たちの説明を求める。

「その前にそのからくりの乗り物に乗っている者達はサンプル体の少女達で間違いないですね」

「はい、このからくりの乗り物に乗っている人達は、皆サンプル体の少女達です。慎重に地下に降りたらこのからくりの乗り物を見つけたので、残りの全てのサンプル体の少女達を連れて、ラエルロット達がいるこの実験管理室のあるエリアに来ました。この子達を置いて一人で来てもよかったのですが、みんなでここに出向いた方が絶対に安全だという理由で皆で来た次第です。まあ彼女達の聖女としての権能を使えば大概の研究員たちは太刀打ちすらできませんし、たまたま彼女たちを隔離しているフロアの施設内に数名の研究員達が知らずに来てくれましたから、そいつらから隔離部屋から出るカードキーと認証コード入りの本人を確認できる名札を奪う事ができました。そんな経緯もあり、俺はどうにかこの大きなからくりの乗り物を運転しながらこのエリアに辿り着いた次第です。唯一の心配事はこんな大人数で移動なんかをしたらダクト所長に見つかって物凄く面倒臭い事になるかも知れないと本気で心配したのですが、移動の最中は特に何事も起こる事もなく、どうにかここまで無事に皆を連れて合流する事ができました。それで今度は俺の質問に答えてくれてもいいですか。この状況は一体どういう事ですか。ダクト所長との決着はついたのですか。この研究施設の地下から外に出られるカードキーは手に入ったのですか。まずは手っ取り早くそれらを教えてください!」

「ラエルロットさんのお話では、この研究所の主任でもあるダクト所長からは上手くカードキーを奪う事に成功したようです。後はこのままそのカードキーを使い地上に出るだけなのですが、戦闘時にこちら側にも怪我人が出ているそうなので、今はここで怪我人の応急処置をしてから外に向かう予定との事です」

「そうですか。怪我人が出たのですか。それでエマニュエ大神官はなぜこんな所に?」

「フフフフ、多くは語れませんが私にも色々と事情があるのですよ。色々とね。ノシロノ王国側からのお仕事でこの研究施設に来たと言えば納得もいくでしょ」

「ああ、なるほど、そう言う事でしたか。ではもう何も聞きません。それで、この後エマニュエ大神官は一体どうするつもりですか」

「取りあえずはラエルロットさん達と共に一度地上に出て見ます。お二人ほど、気分の優れない怪我人もいますし、何よりそのからくり仕掛けの乗り物に乗っている少女達の事もなんだか心配ですからね。なにせ相手は偽物とはいえ聖女ですから、それは警戒もしますよ」

 何か意味ありげにエマニュエ大神官がそう言うと、心配そうにダグラス試験官はバスに乗る少女達の方を見る。

「俺も最初は私情を捨てて彼女たちを見捨てようとしましたが、素直で潔い彼女たちがなんだか不憫に思えてきてついここまで皆を連れて来てしまいました。それにあの勇者気取りのラエルロットと(彼女達の面倒を頼むという)約束をしてしまいましたからね」

「なるほど、そういう事でしたか。まあカードキーが手に入った今、この真上にも外に出られる入り口の扉があるみたいですから。全ての封鎖をしているゲートの扉のセキュリティーロックの解除ができたら、スムーズにその乗り物で上へと登る事が出来るはずです」

「そうですか、その話を聞いたらきっとサンプル体の少女達も喜びます。後はラエルロット達の無事を確認するだけなのですが……」

「フフフフ、鬼の試験官とも言われているあなたが随分と優しくなったじゃないですか。会って間もないラエルロット達の事を心配しているだけではなく、まさか人間ではないサンプル体の少女達の事まで気遣うだなんてね」

「それは心配もしますよ。まだ年端もゆかないあの少女達は家の娘と大して変わらない年ですからね。そんな彼女たちとここまで関わって置いて見殺しにするだなんて、同じ娘を持つ父親として……いいや人間として、私情を捨てて鬼になりきる事は流石にできませんでした。ラエルロットの奴に、上司の命令に背くお前には戦士としての資格はない……と激しく怒鳴りつけてやりましたが、どうやら俺にもそんな事を言える資格はなかったようです。彼女たちに関わる事によってつい情が移ってしまいましたからね。彼女達は何も悪くはないのに勝手に実験動物のように作られて、その後は俺達大人の勝手な事情と理屈で今度は死に追いやろうとするだなんて、俺にはとてもじゃないが出来なかった。俺は戦士として、国と仲間たちを守る為に非情な判断を下す局面があることも事実ですし否定もしませんが、彼女達を救うという選択肢もまだ残されているはずだ。その可能性も考えずに不安と恐怖のあまりに即座にサンプル体の少女達の排除を実行に移そうとするだなんて、あまりにも浅はかで、身勝手で、安易な考えだと思った次第です」

「でも、ノシロノ王国の王様の決断と命令は絶対です。あなたはノシロノ王国の戦士として、その決断と命令に背くつもりですか」

 表情は穏やかだが行き成り厳しい口調で言うエマニュエ大神官の姿勢にダグラス試験官はわざとらしく肩を竦めると大きく溜息をつく。

「そんなつもりはありませんよ。命令には従いますし、この国に剣を捧げた以上俺は戦士としての誇りに賭けて見事享受を果たしてみせます。ですが……もしもあの彼女が今も生きていてこの現状を見ていたら、きっと彼女は自分の立場も顧みずにこのサンプル体の少女達を守ろうと動いたはずです。そうそこにいるラエルロットと同じようにね」

 行き成り名前を口にしたダグラス試験官の言葉に近くにいたラエルロットは少々面食らった顔をしていたが、何やら慌てたエマニュエ大神官がラエルロットに向けて急ぎ頼みごとをする。

「こ、ここは私がダグラス試験官と話をしてサンプル体の少女達の今後の身の安全を考えますから、あなたはこの乗り物の中に乗っているサンプル体の少女達の様子を見てきてください。決して悪いようにはしませんから」

「わ、分かりました。ではバスの中をちょっと見てきます」

 エマニュエ大神官の言葉を信じたラエルロットは、疑問に思いながらもそのままバスの中の方へと足を向ける。

 そんなラエルロットの行動を見ていた白魔法使いのタタラだったが、エマニュエ大神官とダグラス試験官に無言で挨拶をすると、タタラはそのままほったらかしにしているテファニアの元へとまた戻っていく。

 少し離れた所でその様子を見ていたレスフィナはツインの面倒を見、ミランシェと暁の聖女テファと蛾の妖精のルナは三人で何やら話し合いをし、白魔法使いのタタラはまだ意識を失っているテファニアの看病へと向かうが、そんな中で一人だけ、異世界召喚者の池口里子だけは周りの状況を俯瞰しながらエマニュエ大神官とダグラス試験官を無言で凝視する。

「フフフ、敵陣の中にいると異世界召喚者の彼女の懸念もより一層、深く深刻になるようですね。いつこの状況から離脱をするのか、その機会を伺っているようです。そして何よりもこの私に警戒をしている。まったく逃げたいのなら今すぐに逃げればいいのに、ほんと難しいお年頃ですわね」

「いや、ただ単純にこの実験施設から出る事ができないからここにいるだけなんじゃないのか。このままここにいた方がスムーズに地上に出られる事を彼女は知っているのだ。しかしそれにしても、まさか敵でもある異世界召喚者とも共闘をしていただなんて、ラエルロットとは一体何者なのだ。サンプル体の少女達と仲良くなったり、蛾の妖精を連れ歩いていたり、更には最弱なレベル1にも関わらず、この研究所内の件から無事に死なずに生き延びて生還して見せたりと、もう意味不明だ」

 そのダグラス試験官の疑問めいた言葉にエマニュエ大神官は白い法衣を華麗に翻すと、その疑問に答える。

「先ほどあなたは、もしも今も生きていたら、彼女ならあのサンプル体の少女達を決して見捨てたりはしないと言っていましたが、その息子さんが彼なのです。その行動も思想もなんだか彼女に似ているでしょ」

 そのエマニュエ大神官の言葉を聞いたダグラス試験官は大きく目を見開くと、酷く驚いた顔をしながらバスの中にいるラエルロットの方を思わず見る。

「あのラエルロットが彼女の息子だとう……じゃ彼はあのハルさんのお孫さんか。道理でその行動が彼女と似てた訳だ。だが書類に書かれてあるラエルロットの家族構成の欄には、ハルおばあさんの事や彼女の事は何一つとして書かれてはいなかったと記憶しているが……」

「ええ、余計な情報は私が敢えて消していましたからね。あなたが知らなくて当然です」

「そうか彼が……、その事をエマニュエ大神官は昔から知っていたのですか?」

「ええ、昔から彼のことは遠くからいつも見守っていました。ラエルロットさんには大人になっても戦いの場に出ることなく、ささやかではあるが、ごく平凡で幸せな人生を歩んで欲しいと言う、彼女の大きな愛ある願いと強い思いがありましたからね。その願いを私が引き継いだだけの事です。そして十八年前、その言葉が死地へと出る前に私に言った彼女の最後の遺言だったのです。なので私はかつての友として、その約束を絶対にたがえる訳にはいかなかった」

「エマニュエ大神官……そうか、彼女が死んでもう十八年になるのか。この俺すらもビビッて手も足も出なかったあの凶悪最強の悪災とも言われた遥か闇なる世界の代行者にして十二人いる中でも最悪の元凶とも言われた黒神子、あの英雄殺しのレスフィナにたったの一人で挑み、そして散っていった……そんな悲しくも勇敢な彼女の事は今も決して忘れはしませんよ。そうか、だからエマニュエ大神官はこの話を俺にさせまいと、ラエルロットにわざとサンプル体の少女達の様子を見て来いと促したのですね。と言う事はラエルロットはその事にはまだ気づいてはいないのですね」

「ええ、全く気づいてはいないと思いますよ。ていうかまだ幼かった彼は母親の顔すらよくは知らないはずです。だからダグラス試験官も余計な事は言わないようにしてください。私は彼女の友として、ラエルロットさんをこのまま冒険者の道に進ませる事は絶対にできないのですから」

「そうか、だからラエルロットは……そういう事だったのか。おかしいと思っていたんだ。彼の実力からしてどう見ても第七級冒険者くらいの実力は軽くあると思っていたからだ。まさかその妨害にエマニュエ大神官自らが行っていたとは一体誰が予想できただろうか。だが彼があのハルさんのお孫さんだと言うのなら……話は別だ。かつての友の息子が冒険者の道に進まないようにあなたは常に遠くから監視をし、そして毎年第八級冒険者試験を受けに来ているラエルロットをわざと不合格にしていたのか」

「まあそういう事です。でも今年はなんだか状況が違うようです。私の思いとは関係なく、あの忌まわしい彼女が来てしまいました。しかも十八年前とは明らかに違うあの見知った人の姿で。ハルおばあさんが異世界召喚者の勇者に殺され、ラエルロットさん自身もその命を落としそうになりましたが、幸か不幸か彼女との運命的な出会いがラエルロットさんを危険極まる戦いの世界へと導こうとしている。それに彼が彼女の眷属となってしまっては、もうラエルロットさんを救う手段がありません。あの気の優しいラエルロットさんの事です。このままでは絶望極まる第三の試練には絶対に耐えられなくなり、その残酷な結果に絶望し諦めた彼はそのまま死の世界へと引きずり込まれる事でしょう!」

「眷属だとう……一体何を言っているんだ。ま、まさかラエルロットは人の身でありながらも黒神子の眷属になったのか。一体どの黒神子の眷属になったんだ。天足のアトリエか?」

「いいえ、これも因縁でしょうか、あの英雄殺しのレスフィナの眷属にラエルロットさんはなりました」

 その話を聞いたダグラス試験官は思わず上ずった声を上げると大いに驚く。

「な、なんだとううぅぅ、よりにもよって自分の母親を殺した相手の眷属にラエルロットはなったというのか。あの最悪最強の英雄殺しのレスフィナの眷属に。その事をラエルロットは知っているのか!」

「当然なにも知らないでしょうね。でも今の黒神子レスフィナは十八年前の邪悪な存在だった頃のレスフィナとはなんだかかなり様子が違うようです。邪悪とは対極的な全く違う正しい信念と可愛らしい姿形をしています。そうまるで人が違うかのようにその様子は一変しました」

 落ち着き払いながら言うエマニュエ大神官の言葉にダグラス試験官は更に驚きの声をあげる。

「な、なんだとうぅぅ、それって……まさか……有り得ない、有り得ないだろ。彼女はまさか、まさか、本当に……あれを実行したのか。そしてその願いは叶ったとでもいうのか。信じられない、そんな事はとてもじゃないが、信じられないぜ。十八年前だけじゃない。千年前から続くあの黒神子達との戦いの歴史の中で、あの英雄殺しのレスフィナに一体何百人もの名をはせた有名な勇者達が挑み、そして無念にも敗れ去っていったと思っているんだ。その脅威と残忍性は計り知れない物があるだろ。そんな黒神子レスフィナに人の身でありながらも挑んだ彼女が勝てる訳がないんだ。そうだろう!」

「でも命を落した彼女との戦いを最後に、あの黒神子レスフィナはその後姿をくらまし、そしてあの戦いから十八年が過ぎた今になってまた彼女はこの地にその姿を現した。そう今度はラエルロットさんを巻き込みその運命を変える為に……彼女は無意識ではあるが困難しかない絶望的な戦場にラエルロットさんを巻き込むつもりのようです」

 雄弁に語るエマニュエ大神官のその言葉にダグラス試験官は体を震わせると、思わず青い顔をする。

「その話から察するに、まさかここにあの最悪最強の黒神子レスフィナが来ていると言う事か。それはかなりの一大事ではないか。こうしてはいられないぞ。エマニュエ大神官は何をそんなに落ち着いているんだ。天足のアトリエだけではなく、あの英雄殺しのレスフィナも来ているんだぞ。これは国家の存亡に関わる一大事ではないか。早くノシロノ王国側の貴族たちにもこの事を知らせないと、取り返しのつかない事になる。早くここにいるみんなをこのバスに乗せて出発するんだ。早くしろ。先ずは外に出てから今後の話をするぞ。レスフィナの件に比べたら、もうダクト所長の件などはどうだっていいわ!」

 慌てふためきながらもバスの運転席に戻ろうとするダグラス試験官だったが、そんなダグラス試験官に向けて静かに歩み寄る黒神子レスフィナがにこやかに話掛ける。

「あの……先ほどから私の名前を連呼していましたが、もしかしてあなたは過去の私のことを知っているのですか、もしも私の事を知っているのなら、できたら過去の私の事を教えては下さらないでしょうか」

 笑顔で近づくレスフィナの問いに行き成り後ろを取られたダグラス試験官はあまりの緊張と恐怖につい体が固まってしまうが、恐る恐るレスフィナの姿を見た瞬間、ダグラス試験官は信じられないとばかりに更なる驚きの声をあげる。

「馬鹿な……馬鹿な……お前があのレスフィナだとう。その姿はまるで、あの時の彼女その者ではないか。一体なぜお前はかつての彼女の姿を真似て、ここに立っているんだ。そして物心つく前に母親を失ったラエルロットはその姿に疑問すら感じてはいないと言う事か。悪質だ、残酷で悪質過ぎるぞ、黒神子レスフィナ!」

「はあ、一体なんの事でしょうか。あなたの言っている事がいまいちよく分かりません?」

 ダグラス試験官の言葉に本気で困惑する黒神子レスフィナだったが、そんな二人の間にエマニュエ大神官が続いて話に加わる。

「ごめんなさい、黒神子でもあるあなたがまさか人の為に動くだなんて、当時のあなたからはまさに想像だにしませんでしたから、つい名前がでてしまいました」

「昔の私は人の為には動かなかったのですか?」

「まあ、人の理の外にいる遥か闇なる世界の魔女ですから、それは至極当然の事かと」

「当然ですか。なぜ私は困っている人を助けなかったのでしょうか?」

 そのレスフィナの言葉に恐怖より苛立ちと悲しい思いが勝ったダグラス試験官はついに堰を切ったかのように長年に渡り溜まりに溜まっていた積年の恨み言をレスフィナに向けて言う。

「ふざけるな、これまでにお前が起こして来た数々の残虐な悪業をお前は全て忘れたと言うのか。お前の為に一体どれだけの命が失われたと思っているんだ。英雄殺しのレスフィナ、お前はなぜかラエルロットを眷属にし、その者と行動を共にしているようだが、その母親を殺した事も忘れたとは言わせないぞ!」

「ラエルロットさんの母親を……この私が殺したのですか……この私が……」

 ダグラス試験官のその言葉が心に刺さったのか、黒神子レスフィナは静かに押し黙ると、目を伏せながら何かを考える。

「その少女のような可憐な姿はラエルロットの母親の面影を強く印象付けているようだが一体どういうつもりだ。なぜその姿をしている。以前のお前はそんな姿はしてはいなかったはずだ。もっと誰もが恐れる邪悪な姿をしていただろ。なのに一体なぜだ、何が目的だ。なぜその息子であるラエルロットの元に現れた。答えろ、黒神子レスフィナ!」

 怒り任せに言うダグラス試験官の強い言葉に黒神子レスフィナは申し訳なさそうに言う。

「ラエルロットさんと出会ったのは本当にただの偶然です。私がたまたまヒノの村にあると言われている古代の遺物【想いを具現化する苗木】の回収をする為にフタッツイの町に立ち寄った時にラエルロットさんと出会ったのです。でももしかしたらハルおばあさんがヒノのご神木に向けて献身的に毎日お祈りをする強い思いが、私とラエルロットさんを運命的に引き合わせたのかも知れません。だから私は、祖母と共に死を待つだけだったラエルロットさんに生きるチャンスを与えて、その選択権を彼にゆだねたのです。私も一応は止めたのですが、私に恩を感じているらしく、私の旅の手伝いをしてくれると言ってきましたので断ることができませんでした。でもその話が本当ならラエルロットさんに心から謝罪をして、彼の元から離れた方がいいのかも知れませんね。本来なら彼に仇討の一つでもさせて上げたいのですが、何分私は何をされても殺されてあげる事はできませんから、彼の元から去るのが一番なのかも知れません」

 瞼を伏せ、胸を詰まらせながら静かに語るレスフィナの目からは一滴の涙が頬を伝いそのまま地面へと流れ落ちる。その姿は悲しげで華奢な少女の姿をしたレスフィナは更に小さく見える。だがそんな後ろ向きな発言をするレスフィナにどこからともなく否定の声が飛ぶ。

「それは違います、この無謀極まる前途多難な過酷な旅には……いいえ今のラエルロットさんには絶対にレスフィナさんは必要です。過去のあなたの事は私は全く知りませんが、今の心あるレスフィナさんは絶対にラエルロットさんには必要ですし、力を合わせて共に苦難に立ち向かわなくてはいけないような気がするのです。あなたが罪深き悪行を重ねた罪人だというのなら、この有り得ない運命は過去にあなたが行ったカルマたる罪滅ぼしなのかも知れません。この世界の滅亡を食い止めるが為に、優しい勇者を目指すラエルロットさんと共に行動する事が今のあなたに課せられた義務なのだと……決定づけられた運命なのだと、私にはそう思えてならないのです。そんな気がします」

 そこにいつの間にか現れたのはミランシェに左脇を抱えられながらどうにか歩く暁の聖女テファの姿である。
 今にも崩れ落ちそうな痛々しい体を引きずりながら歩く暁の聖女テファは、どこか落ち込みながら悩む黒神子レスフィナを見つめると、強い意思ある言葉でまるで諭すように言う。

「異世界召喚者の勇者に唯一の肉親でもある祖母を無惨にも殺され、天涯孤独の独り身となったラエルロットさんに生きる希望や勇者としての夢を与えているのは他ならぬレスフィナさんです。あなたとの出会いがなかったらおそらくラエルロットさんはあの日に異世界召喚者の勇者に殺されて、そこで彼の夢は潰えていたはず。そして仮に生き残っていたとしても祖母を失った失意の重さから彼は立ち直る事は出来なかったかも知れません。でも彼は奇しくもレスフィナさんに会うことができたからこそ、念願だった彼が望む勇者となり、その強大な力を示すチャンスときっかけを得たんじゃないですか。その戦う力ときっかけをくれた命の恩人だからこそラエルロットさんはあなたを慕い、この世界を救い人々を助けるという信念に協力する為に、あなたと共に旅を続ける事に決めたんじゃないですか。そのあなたがラエルロットさんを思う美しい慈愛溢れる想いは、私が見た限りでは絶対に本物のはずです。それに過去のあなたと今のあなたは全くの別人のはずですから、今のレスフィナさんが過去の事で悩む必要は全くありません。なぜなら今のレスフィナさんから流れる清らかな黒の力の気配からして、おそらくラエルロットさんのお母様はあなたとの戦いに勝っているはずですから」

 その暁の聖女の言葉に、エマニュエ大神官とダグラス試験官の二人は思わずぎょっとする。

「一体どのような形で不老不死であるあなたに勝ったのかは知りませんが、あなたが彼の母親に似ていると言うのなら、恐らくはそういう事なのでしょう。だからこそあなたは無意識的にラエルロットさんに会いに来たのではありませんか。だからもうラエルロットさんを一人にしないでください。ラエルロットさんが目指す果てしない困難と苦難の旅は、あなたが来た事で始まった物語じゃないですか。その大事な重要人物がこの物語から勝手に離脱をする事は絶対に許されません。その過去に行った罪の重さを感じていると言うのなら、最後までラエルロットさんが目指す冒険の旅についていてあげてください。そして私は信じています。あなたの導きでラエルロットさんは必ずこの世界を救う事のできる、誰もが渇望し認める優しい勇者になれる事を!」

 話の中で暁の聖女テファが何気に言った、ラエルロットの母親がレスフィナに勝ったという下りの話で、話を聞いていたエマニュエ大神官とダグラス試験官の二人は思わずハッとした顔をしながらお互いに目を大きく見開く。

「ラエルロットの母親があの黒神子レスフィナに戦いで勝っているだとう、そんな馬鹿な……じゃ今のレスフィナのこの姿は一体なんだ……まさか……」

「十八年前、あの邪悪なレスフィナと対峙をする事に決めた彼女は、その際にある古代の遺物の一つを携えて、レスフィナに挑んでいます。その戦いの中で禁忌とも言うべき呪いの力をレスフィナ自身が心臓にモロに受けているというのなら話の根底が違って来ます。まさか彼女にそんな事ができるとは全く思ってはいませんでしたから、あっけなく戦いに敗れて死亡した物とばかり思っていました。でも人知れず誰にも知られる事なく彼女は、あの凶悪極まりないレスフィナの心臓にあの古代の遺物を突き刺す事に成功したのかも知れません。その禁じられた禁忌ともいうべき超レアクラスの古代の遺物の名は……」

「超レアクラスの古代の遺物……罪深き聖者の心臓か」

 そう呟いたのは黙って静かに話を聞いていた小撃砲使いのミランシェである。ミランシェはただ黙って落ち込むレスフィナの方を見ていたが、肩を貸している暁の聖女テファをバスの中に乗せようと入口の方へと静かに歩き出す。

「話は後です。この実験施設から地上に出る方法が見つかったのなら、このからくり仕掛けの乗り物で一刻も早くこの場所から退散しましょう。早く他の人達もこの乗り物に乗ってください。レスフィナさんは言霊の聖女ツインの方を担いで連れて来てください。急いで!」

「分かりました、直ぐに連れてきます」

 返事をしたレスフィナは急ぎツインの元へと戻り、ミランシェとテファはバスの中へといそいそと入っていく。そんな皆がなすべき行動を共にする中、エマニュエ大神官とダグラス試験官の二人は驚きに身を震わせると落ち着いた声でしみじみと話し出す。

「自分の身も顧みずに震えながらも健気に笑って見せたあの小娘が……黒神子レスフィナに果敢にも挑み、その命を賭けて、からくも引き分けに持ち込んでいたのか。後日その彼女の死体は見つかっているから、簡単に返り討ちにあったとばかり思っていたのだが」

「いいえ、彼女は……我が友は間違いなくあの邪悪な黒神子レスフィナに勝ったのです、そうとしか考えられません。あの暁の聖女が言うように今のレスフィナのあの姿が何よりの証拠です。暁の聖女に言われるまでその事に……その可能性に気付かなかっただなんて、私も大神官失格ですね。過去のレスフィナの脅威と恐ろしい記憶が頭にこびりついていましたから先入観に囚われ過ぎて、つい今のレスフィナの可愛らしい姿や優しさ溢れる言動を見過ごしていました。そう今の彼女はまるで……」

「ああ、ラエルロットの母親に全てがそっくりだな。そんなレスフィナを家に招き入れた時のハルおばあさんの心境は一体どんな物だったか。その懐かしくも辛い心境は今の俺達には図りかねるが、きっと実の娘が成し遂げたその結果と今のレスフィナの姿を見て、内心では誇らしくて涙にくれた事だろう」

「超レアクラスの古代の遺物【罪深き聖者の心臓】か。ある文献では、あれは後に古代の遺物・思いを具現化する苗木を創り出す為の基礎となった超レアな古代の遺物だったわね。そしてその能力は確か、その遺物を使用した物との命の交換だったかしら。だから今のレスフィナの姿は彼女にとても似ていて、その心の思想や性格すらも全てが似通っているのか。だから例え全てを忘れてもラエルロットさんの元に会いに来たのね。皮肉よね。思いを具現化する苗木は、罪深き聖者の心臓から生まれた古代の遺物なのよね。つまりは二人が持っている古代の遺物も、その所有者たる親子関係も、全てが似通っていると言う事じゃない。だったらこの出会いにはなんだか運命的な物を感じるわ。まあ黒神子レスフィナが現れた時から、遥か闇なる世界の神様が絡んでいるのはわかってはいたけど、まさかあのラエルロットがレスフィナの眷属になって、第三の試練に挑んでいる真っ最中だったとは、流石に夢にも思わなかったわ。まああの甘ちゃんのラエルロットが第三の試練を無事にクリアできるとは思えないけど、出来る事なら無駄に苦しまないように楽に死なせてあげたい物ね。せめて報われない魂が地獄に落ちる前に、どうにか天国に行けるように導いて上げないと」

 遥か闇なる世界の神様が下す第三の試練をラエルロットは乗り越えられないと判断したエマニュエ大神官は、姿形が美しい少女に変わり果てたレスフィナを見ながら今は亡き友の姿とその思いを重ねる。

(親愛なるわが友よ、あなたは、ラエルロットさんが遥か闇なる世界の神様が下す第三の試練を無事にクリアできると本気で思っているのかしら。ねえどう思っているの、それとも、もうあなたの魂はあのレスフィナの中にはいないのかしら? 【ステーシア……】あなたはそれでもラエルロットさんの生きようとする力を……奇跡の……いいえ運命の力を信じるのかしら。フフフ、非常に興味深いわ)

 何やら懐かしそうに思いを馳せるエマニュエ大神官はレスフィナから視線を外すと、今度はバスの中でサンプル体の少女達の無事を確認しているラエルロットを遠巻きに見ながら、これから訪れるであろう最大かつ最悪の試練に人知れず同情するのだった。


 報われない絶望から立ち上がる、ラエルロットの勇気と覚悟が今試される。

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