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第五章 『喰人魔獣』 東京内で襲う正体不明の魔獣が人々を恐怖のどん底に突き落とす。黒いライオンを操る狂人・暴食の獅子との推理対決です!
5-22.勘太郎、羊野瞑子と合流する(イメージラフイラストあり!)
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「この鉄格子に掛かっている錠前の構造はそんなに複雑な物ではないような気がするから……この鍵穴に入る丁度いい針金があれば俺ならどうにかこじ開けて外す事が出来るはずだ。何処かにこの錠前に合うような針金は落ちていないかな?」
昔鍵屋で短期のアルバイトをした経験のある勘太郎はその時授かったスキルを生かしてこの錠前を取り外す事の出来る針金を必死に探すが、そんな都合良く針金が見つかるはずも無く。早くも脱出の望みを絶たれ途方に暮れてしまう。
だが昨日の夜に舎人公園で喰人魔獣56号と接触した際にその腹部をまさぐる事の出来た勘太郎は、煙幕で姿を眩ます時に使うと思われる腹部に装備された2本のスプレー缶の事を思い出す。
その希望とも言える熱い眼差しをゴロ助に向ける勘太郎は、鉄格子の外にいるゴロ助を一体どうやって自分の所まで呼び寄せるかを考える。
「そうだ、あの時……ゴロ助の腹部をまさぐっていた時、確かスプレー缶をくくりつけている部品の一つに針金もあったはずだ。手で触った感じでは丁度いい長さと太さだったからこの鉄格子に取り付けられている錠前の穴にもピッタリと合うはずだ。ここはどうにかしてゴロ助に俺の手の届く所まで来て貰わないとその針金を回収する事は出来ないぞ。でも一体どうやってゴロ助をここまで呼ぼうか。普通に呼んだら来てくれるかな?」
そう思いを口にした勘太郎は、試しにゴロ助の名前を呼んでみる事にする。
「お~いゴロ助、おいで。こっちだ、こっち。俺の所まで来てくれ!」
そんな勘太郎の必死な呼びかけにもゴロ助は動かず、ただ勘太郎の方を不思議そうに見ながらハア・ハア・ハアと荒い息を吐いているだけだ。
くそ、いくら呼んでもこっちに来ないか。やはり昨夜、俺が勝手に付けたゴロ助という呼び名じゃまだ分からないのかな。仕方が無い。
「喰人魔獣56号、こっちにおいで。おいしい餌をあげるから」
だがその呼びかけにもゴロ助は応えず、勘太郎は正直困り果ててしまう。
「やはりこっちには来ないか。飼い主の命令には忠実な犬だな。こんな時になにかの食べ物でもあれば少しはゴロ助の興味と注意を引く事が出来るのだろうが、あいにく今は何も無いからな。こんな事ならお菓子や非常食でも取っておくべきだったぜ」
そこまで言葉を口にした時、勘太郎はある事を思い出す。
「あ、そうだ。確か2~3日前に城島さんから貰ったカロリーバーが胸ポケットにあったはずだ。すっかり忘れてたぜ。今まで食べなくて本当に良かった」
このまたとない幸運とも言うべきチャンスを噛み締めながら勘太郎は、内ポケットに入っていたカロリーバーを直ぐさま取り出す。
「さあ~、美味しい美味しい、カロリーバーだよ。あげるからこっちにおいで!」
今度は美味しそうな臭いに釣られたのかゴロ助が尻尾を振りながらカロリーバーに興味を示す。
回りに警戒をしながら勘太郎のいる鉄格子の前まで来たゴロ助は勘太郎が手に持つカロリーバーの臭いを必死に嗅いでいたが、その後安全を確認したのか直ぐさまカロリーバーにかぶり付く。
「よし、捕まえたぞ。じゃゴロ助がカロリーバーに夢中になっている内に急いでゴロ助の腹部の辺りに取り付けられている煙幕剤の入ったスプレー缶と針金を外すか」
逃げないようにゴロ助の体を押さえながら器用にスプレー缶と針金を取り外すと、その取り外した針金を直ぐ様鉄格子の引き戸に取り付けられている錠前の穴に入れる。
「よし、錠前の穴に針金が入ったぞ。これでいけるはずだ」
しばらく格闘すること約五分。鉄格子の引き戸に取り付けられている錠前をどうにか解除する事が出来た勘太郎は、そのまま引き戸を開けると直ぐに回りを確認する。
ゴミが散らかったフロアーを見渡しながら他の牢屋に閉じ込められている貝島浩一と犬飼剛の無事を確認するため直ぐさま二人の様子を見に行こうとする勘太郎だったが、上から誰かが階段をゆっくりと降りて来る音に恐怖を感じ、直ぐさま自分がいた牢屋の中へと戻り様子を窺う。
だがそんな勘太郎の前に現れたのは暴食の獅子では無く、羊のマスクを被りながら現れた羊野瞑子だった。
白いロングスカートを揺らしながら軽い足取りで現れた羊野は檻の中にいる勘太郎を発見すると(羊のマスクを向けながら)その無事を確認する。だが同じフロアー内にいる黒いライオンの存在に気付くと物凄い殺気を向けながら直ぐさま戦闘態勢を取る。
羊野は両太ももに装備されている打ち刃物の大きな包丁を直ぐさまロングスカートの中から引っこ抜くと、両手に持つ包丁を構えながら喰人魔獣56号と呼ばれているゴロ助を睨み付ける。
その見えざる殺気を感じたのかゴロ助もまた「グルルルー」とかすれた声で唸り声を上げながら羊野と対峙をする。
羊野はそんな喰人魔獣56号に注意をしながら勘太郎に話しかける。
「あら黒鉄さん、やはり生きていましたか。こんな所で暴食の獅子に無様に捕まっていると言う事は、ちゃんと犯人のアジトを見つけられるように自ら進んで人質役になってくれたと言った所でしょうか。流石は黒鉄さんですわ。そんな訳で取りあえずはこの目の前にいるライオンもどきの犬っコロをぶち殺してから直ぐに助けてあげますからね」
両手に包丁を持ちながらゴロ助に近づく羊野は殺す気満々だったが、そんな羊野に向けて勘太郎は直ぐさま停止の言葉を発する。
「いいや、待て羊野、その喰人魔獣は……ゴロ助は人に危害を加えるような犬じゃないんだ。だから手を出さないでくれ!」
「確かにライオンではありませんが、喰人魔獣に違いはありませんよね。こんな大きな犬が牙をむいて襲ってきたら流石に危ないし危険ではないのですか。こんな獰猛そうな大型犬の犬に行き成り不意を突かれて襲われたら流石の私でも対処仕切れませんよ」
「大丈夫だ、ゴロ助は大丈夫なんだ。俺を信じろ。あの暴食の獅子の命令にすら従わずに人に危害を加える事を頑なに拒んでいるそんな心の優しい犬なんだ。だから見た目だけでこの犬を危険だと判断しないでくれ。頼む!」
「昨日今日であっただけの犬っコロになぜそこまで肩入れするのですか。流石に理解に苦しみますわ!」
「さあ、何故だろうな。恐らくはこんなにも主人の為に頑張っているのにその努力が全く報われないゴロ助と自分を重ね合わせているのかも知れないな。生まれた時から主人には恵まれず、体を勝手に改造され、人を殺める手伝いをさせられて、挙げ句の果てには人に忌み嫌われ恐れられる存在になった喰人魔獣と呼ばれている犬達に同情をしているのかも知れないな。人を襲うように訓練された犬達はこの事件が解決したら恐らくはみんな危険な犬と判断されて殺処分になるかも知れない。そんな犬達と自分はもしかしたら同じなのかも知れないなと思っただけの事だよ。だからこそ人を襲い噛みつく事を頑なに拒んでいるそんなゴロ助に共感をしたのかもな。俺は……俺は、人は決して襲わないそんな優しい心を持つゴロ助だけはなんとしても助けたいんだ!」
「はあ~、全く黒鉄さんは相変わらず、あまあまですわね」
その言葉を信じたのか羊野は注意を向けながらも持っていた包丁を下へと下げる。その瞬間を見逃さなかったゴロ助は行き成り走り出し、階段を駆け上り、いずこかへと逃げ去って行った。
ゴロ助の奴、暴食の獅子の元へと行ったのかな?
そんな事を考えながら勘太郎は、羊のマスクを脱ぎながらニコニコとしている羊野に感謝の言葉を述べる。
「見逃してくれてありがとうな。羊野」
「別に見逃した訳ではありませんよ。ただ逃げられただけですわ」
「しかし羊野、お前、俺を助けにわざわざここまで来てくれたのか。正直助かったぜ。余りの恐怖にオシッコをちびりそうだったからな」
「フフフフ、またまたそんな心にもない謙遜を。その迫り来る暴食の獅子の悪意や絶望に対し、足掻き・考え・そして諦めない・そんな生きようとするしぶとさは正に流石と言うほかはありませんわ。さすがは黒鉄さんです」
「茶化すなよ。それよりお前、緑川にあのリュックサックを持たせて俺に渡すように仕向けたのはお前だな。だったらもっとマシな物は入れられなかったのかよ。もっと小型の発信器とか猛獣にも有効な撃退出来る武器とかいろいろとあるだろうが!」
「ええ、確かにありましたが、何分それらを揃えるだけの資金や時間がありませんでしたからね。ですのであれだけしか揃える事が出来なかったのですよ」
「お前……絶対にあの意味の無い道具の類いを渡して、俺が一体それらを使ってどう乗り切るのかを楽しんでいただろう!」
「いいえ、そんな事はありませんわ。何分私もいろいろと忙しかったのであのくらいしか準備が出来なかったのですよ。でも確かに準備不足だったことは認めますわ」
「ふ、お前が準備不足……腹黒羊と呼ばれているお前がか。悪い冗談だぜ」
「そんな計画も黒鉄さんのように試練を見事に乗り切る事の出来る勇気と神に愛されている幸運がないと成立はしませんがね」
「幸運って……悪運の間違いじゃないのか?」
「悪運も幸運も同じ運ですし、同じような物ですよ」
「おまえな~っ」
張り詰めていた緊張が崩れ心の底から安堵の言葉を口にするそんな勘太郎に羊野は、勝手に何かを納得したかの用に一人ほくそ笑む。
「しかしこの分じゃ例え私が助けに来なかったとしても黒鉄さんなら何とかして生き延びていたのでしょうね」
周りを確認しながら話す羊野は、見事にこじ開けられた錠前を見ながらニヤニヤと笑う。
そんな勘太郎の何事にも諦めない心に改めて一目を追いた羊野はご褒美とばかりに、つい先ほど対峙をしたゴロ助の犬種についてボソリと呟く。
「暴食の獅子は……あの黒いライオンを作り上げる為にある大型犬の犬種同士を交配させて、人を喰らう為だけの忠実な犬に作り上げていたのかも知れませんね。恐らくあの犬種は、チベット高原原産のライオンに似ていると言われている大型犬。チベタン・マスティフと言う犬種だと思われます。普通のチベタン・マスティフは体高六十六センチ。体重六十五キロから~八十二キロの大きさだと言われています。一説には虎に勝つこともあると噂されている猛犬だとか。マスティフには様々な犬種があって、このチベタン・マスティフが源流で最も古い犬種の一つなのだそうです。因みにジンギスハーンが戦の遠征の時に共に連れて行ったのがこのチベタン・マスティフだと言われています。その犬種でもある犬達を小さい頃から育て上げ、人々に恐怖を与える黒いライオン・喰人魔獣にするべく、いろんな様々な違法な薬物を投与し、闇の獣医からの違法手術を施されて体の大きさや骨格、足の形に至るまで大改造をされてあの喰人魔獣は完成に至ったのだと推察します。そして黒いライオンに相応しくオーダーメイドされた本革のライオンの皮を身に纏い本物のライオンを演じていた。まあ、そんな所でしょうか」
「チベタン・マスティフ……名前だけは聞いた事はあるが、あの犬がそうか」
「まあ、生まれた時からライオンにその姿を似せる為にかなり体をいじくられているみたいなのでその原型がありませんが、恐らくはあのチベタン・マスティフでしょうね。でもあの感じだとかなりその体には無理をかけているでしょうから、恐らくは短命でしょう。掘って置いてもいずれは死にますが、あの暴食の獅子に幼い頃からよ~く訓練された犬の用ですからね、十分に注意した方がいいと思いますよ。本物のライオンではないとは言え、あのチベタン・マスティフは極めて獰猛な犬ですからね。その気性の激しさは有名ですよ」
「残忍で独善的で人としては最低だけど、どうやら犬の調教師としてはかなりの腕前の用だからな」
そう言いながら勘太郎は牢屋を出るとフロアーの真ん中に空いている円形型の大きな穴を覗き込みながら数メートル下にいる本物のライオンを目撃する。
そのライオン事態もあまり綺麗とは言えず、噎せ返るほどの汚物と腐った腐敗臭の臭いでその檻の空間は酷く悪臭を放ち。先程食べられたと思われる磯谷令一の骸で一面が血の海となっていた。
「う、これはかなり汚いな。今さっき調教師としては優れていると言ったが……これは全面撤回だな」
その下から上を見上げるライオンの目は明らかに狂気をはらみ、産まれた時から檻の中しか世の中を知らないそのライオンの心は明らかに病んでいる用に勘太郎には見えた。
そんな勘太郎の不安に答えるかのようにその汚らしいライオンは、血の臭いと狂わんばかりの狂気に酔い痴れながら大きな声で吠える。
「ガッオオオオォォォォーン、ガッオオオオォォォォーン、ガッオオオオォォォォーン!」
「おお、びっくりしたな。行き成り吠えるんじゃねえよ。しかしこれが本物のライオンの遠吠えか。やはり本物は迫力が違うぜ! しかしこの檻の汚さは……あまり掃除も満足にされてはいないようだな。こんなにも不衛生だと伝染病を発症するかもな」
」
そんな意見を述べながら勘太郎がライオンを眺めていると、羊野は腰に下げているポシェットからある黒い鉄の塊を取り出すとそっとその物体を勘太郎に差し出す。
「こ、これは、まさか!」
「ええ、黄木田店長からの預かり物ですわ。黒鉄さんには必ずこれが必要になるかも知れないと言って渡されましたからね」
その預かり物とは、闇の秘密組織・円卓の星座との狂人ゲームのルールにあたり、警察や狂人に至るまでその重火器の使用は大概は認められてはいないのだが、黒鉄の探偵だけは違う。
黒鉄の探偵を名乗る者だけが飛び道具の使用を唯一許された武器、それが『黒鉄の拳銃』なのである。
拳銃と言っても本物の拳銃では無い。初代・黒鉄の探偵・黒鉄志郎が愛用していたオートマチック式・デザートイーグルを模したレプリカ型改造電動銃。所謂改造モデルガン、それが黒鉄の拳銃と呼ばれる代物の正体だ。
(弾倉)マガジンには強化ゴム弾の弾が3発だけ装填が可能で、旗から見たらかなり大きく不格好な拳銃になっている。
そんな武器の使用を認めているのは他ならぬ円卓の星座の創設者でもある壊れた天秤その人なのだが、勘太郎は狂人達が関わる事件に巻き込まれた時だけこの黒鉄の拳銃の力を使用をし、そして所持し続けている。
そうまるでこの黒鉄の拳銃を持つ事で、黒鉄勘太郎が初めて狂人達と対等に戦えるとでも言わんばかりに……。
今回の狂人ゲームでは三人のハンター達が持つ3丁のライフル銃だけは人に関わらず使用していいと言う特別なルールになっているので、殺人班や特殊班の刑事達も黒いライオンから身を守る為にその3丁のライフル銃を使用しているはずである。
そんな数少ないライフル銃とは別に喰人魔獣に唯一対抗できる……かも知れない黒鉄の拳銃が細かな整備を終えて今、勘太郎の目の前に突き出される。
勘太郎は羊野が持っている黒鉄の拳銃をマジマジと見ると「すいません、黄木田店長。また黒鉄の拳銃の力、使わせて頂きます」と言いながら羊野から受け取り、後ろの腰のベルトの部分にその拳銃を忍ばせる。
「黒鉄さん知っているとは思いますが、その黒鉄の拳銃のマガジンに装填されている強化ゴム弾の弾は全部で三発までです。勿論予備の弾倉のマガジンもありません。ですのでここぞという時だけ使って下さい。その拳銃を使うタイミングを読み間違えない用に」
「ああ、分かっているよ。だがどうせならもう20発くらいは欲しかった所だな。たったの3発じゃ流石に心許ないぜ」
「ホホホホ、何を言っているのですか。3発もあれば十分ですよ。哀れな犬達を操って天狗になっているあの暴食の獅子に一泡吹かせてやりましょう!」
「お前……絶対にこの状況を楽しんでいるだろう」
「そ、そんな事はありませんわ。黄木田店長から黒鉄の拳銃を受け取って見てみたら呼びの弾倉が何処にもなかったのですよ。きっと黄木田店長も急ぎすぎて予備の弾倉を忘れていたのでしょうね」
「本当かその話は……まあ、いいか。この事件が終わったらその話はまた後でじっくりとしようぜ。いいな羊野!」
「ふ、仕方がありませんね。望むところですわ」
「なら左側の両端の牢屋に今も監禁されている貝島浩一さんと犬飼剛さんの二人もついでに助け出そうか。恐らくは奥の個室のトイレにでも隠れて震えているだろうからな」
「このフロアーにまだ人がいるのですか。その気配は全く感じられませんが?」
そう言いながら怪訝な目を向ける羊野を尻目に何とか二つの鉄格子の開閉を封じている錠前を開ける事の出来た勘太郎は牢屋の中に入って二つの檻の中を隅々まで調べてみたが、その二つの牢屋の中に獣医師の貝島浩一と犬のブリーダーの犬飼剛の姿は何処にもなかった。
「おかしいな、確かに俺のいた牢屋からは右側正面にいた(暴食の獅子に連れ出された)城島茂雄さんの姿とその左斜めにいた(獣医師の)貝島浩一さんの姿はどうにか見えていたんだが、その貝島浩一さんの姿が今は何処にも見えないとはな。この牢屋の中から一体どうやって、何処に消えたと言うんだ。そして俺の階段を挟んだ左側の真隣にいた(犬のブリーダーの)犬飼剛さんの姿は流石に俺の位置からじゃ確認する事は出来なかったが、その存在を物音から感じる事が出来たから必ずその牢屋の中にいるはずなんだが、その犬飼剛さんの姿もいつの間にか同時に消えている。これは一体どういう事なんだ。全く理解が出来ないぜ!」
そんな事を考えながら勘太郎が独り言を言っていると、羊野は各四方の牢屋の奥に備え付けられている個室のトイレの壁を慎重に一つずつ確認する。その壁の何処かに手が触れると羊野はその壁の突起の部分を押さえながら壁を思いっきり力強く押す。するとその個室のトイレ奥の壁はまるでドアのように外側に開閉し、その人一人が通れるような細長い空間は地上の上へと通ずる通路になっていた。
「どうやら黒鉄さんのいた牢屋以外は、みんなこの構造になっているみたいですよ」
「そうか、ならあの三人の誰もが、この地下のフロアーから簡単に地上へと出られた訳か」
「いいえ、恐らく犯人は一人ですわ。西園寺長友警部補佐を囮にして暴食の獅子をおびき出してから堂々と何の妨害も受けずにすんなりとこの地下室に入れましたから、暴食の獅子はたった一人だと推察されます。いくら防犯カメラで侵入者の存在を確認出来たとしても、人手が足りないと意味が無いですからね」
「なるほど、またいつものようにあること無いことを吹き込んで西園寺長友警部補佐を先に行かせたな。だからこそ監視カメラを見た暴食の獅子の目を向こうに向けさせる事が出来たんだな。そしてお前は誰の妨害も受けずにここまで来たと言う訳か。仮にあの三人がグルなら後の二人が必ず邪魔をしに来るはずだからな」
「まあ、そう言う考え方も出来ますわね」
「あの暴食の獅子が西園寺長友警部補佐の方に向かっていると言う事は……西園寺長友警部補佐の命が危ないじゃないか!」
「大丈夫ですわ。その為に西園寺長友警部補佐には3丁あるライフル銃の1丁を渡してありますし、その裏には殺人班の刑事達も控えていますから、運が良ければ大丈夫ですよ……多分ね」
「多分って……お前」
「とにかくです、あの三人の中の一人があの暴食の獅子だと思われますから、後の二人はきっとこの牧場の何処かに監禁されていると思いますよ。恐らくはその二人の内のいずれかを暴食の獅子に仕立て上げる為にね」
「犯人に仕立て上げて殺すつもりか、そうはさせないぞ」
怒りに震える勘太郎を見ながら羊野はホホホホと口元を押さえながら可愛らしく妖艶に笑う。
「ホホホホ、そんな事を言って、もう黒鉄さんには犯人が一体誰か分かっているのではありませんか」
「ああ、わかっているよ。おそらくはあの人しかいないだろうな」
「そうですか、分かっているのならもう私からは何も言うことはありませんわ。黒鉄さんは黒鉄さんの思うがままに行動をして下さい。私はそれについて行くだけですわ」
「そうか、なら行こうか。狂人・暴食の獅子がいる決戦の場へ!」
そう意気込む勘太郎に羊野は少し困った顔をしながら言う。
「申し訳ありませんが黒鉄さん。私はちょっとここでする事がありますので、暴食の獅子の追撃は黒鉄さん一人で行って下さい。用事が済んだら勿論私も直ぐに急いで対決の場へと駆けつけますから」
「ああ、わかった、その用とやらが済んだら直ぐに来てくれ。それまでは俺が暴食の獅子の方をどうにかして食い止めておくからよ。しかし、お前の言う用とは一体何なんだ?」
「別にどうと言う用事ではないのですが、実はこの地下一階フロアーの更に階段を下った地下にはライオンの檻だけでは無く……いつか喰人魔獣になると思われる数多くの調教並びに訓練中の犬達が各檻に飼われているという情報が人知れず闇のルートから入って来たので、それらを確認する為に行くのですよ。その的確な数と犬の様子を赤城文子刑事に知らせて置かないといけませんからね」
「そうか、このフロアー内にあるその更に階段を下った地下にはあの人食いライオンだけではなく、訓練中の獰猛な犬達も共に飼われているのか。犬の声が全くしなかったから分からなかったぜ」
「恐らくは声帯を切られているか、無駄に吠えないように調教されているのでしょうね」
「わかった。ならその用を済ませたら必ず来てくれ!」
「わかりました。出来るだけ早く駆けつけますね。それに実は私も数いる喰人魔獣達に対抗できるようにと新たな武器を通販で手に入れて来ましたから、期待していて下さい。どんな物かは……まあ、見てからのお楽しみですわ」
「よし、それじゃ喰人魔獣と呼ばれる哀れな犬達を操る暴食の獅子の元に行って来るか!」
そう力強く言うと勘太郎は、地上に通ずる階段を踏みしめながらゆっくりと一段一段上へとあがって行くのだった。
黒鉄の探偵が所有する武器、黒鉄の拳銃を構える黒鉄勘太郎の図です。
絵が下手なのでその日次第でキャラクターの顔がコロコロと変わりますが、そこはご了承ください。
「この鉄格子に掛かっている錠前の構造はそんなに複雑な物ではないような気がするから……この鍵穴に入る丁度いい針金があれば俺ならどうにかこじ開けて外す事が出来るはずだ。何処かにこの錠前に合うような針金は落ちていないかな?」
昔鍵屋で短期のアルバイトをした経験のある勘太郎はその時授かったスキルを生かしてこの錠前を取り外す事の出来る針金を必死に探すが、そんな都合良く針金が見つかるはずも無く。早くも脱出の望みを絶たれ途方に暮れてしまう。
だが昨日の夜に舎人公園で喰人魔獣56号と接触した際にその腹部をまさぐる事の出来た勘太郎は、煙幕で姿を眩ます時に使うと思われる腹部に装備された2本のスプレー缶の事を思い出す。
その希望とも言える熱い眼差しをゴロ助に向ける勘太郎は、鉄格子の外にいるゴロ助を一体どうやって自分の所まで呼び寄せるかを考える。
「そうだ、あの時……ゴロ助の腹部をまさぐっていた時、確かスプレー缶をくくりつけている部品の一つに針金もあったはずだ。手で触った感じでは丁度いい長さと太さだったからこの鉄格子に取り付けられている錠前の穴にもピッタリと合うはずだ。ここはどうにかしてゴロ助に俺の手の届く所まで来て貰わないとその針金を回収する事は出来ないぞ。でも一体どうやってゴロ助をここまで呼ぼうか。普通に呼んだら来てくれるかな?」
そう思いを口にした勘太郎は、試しにゴロ助の名前を呼んでみる事にする。
「お~いゴロ助、おいで。こっちだ、こっち。俺の所まで来てくれ!」
そんな勘太郎の必死な呼びかけにもゴロ助は動かず、ただ勘太郎の方を不思議そうに見ながらハア・ハア・ハアと荒い息を吐いているだけだ。
くそ、いくら呼んでもこっちに来ないか。やはり昨夜、俺が勝手に付けたゴロ助という呼び名じゃまだ分からないのかな。仕方が無い。
「喰人魔獣56号、こっちにおいで。おいしい餌をあげるから」
だがその呼びかけにもゴロ助は応えず、勘太郎は正直困り果ててしまう。
「やはりこっちには来ないか。飼い主の命令には忠実な犬だな。こんな時になにかの食べ物でもあれば少しはゴロ助の興味と注意を引く事が出来るのだろうが、あいにく今は何も無いからな。こんな事ならお菓子や非常食でも取っておくべきだったぜ」
そこまで言葉を口にした時、勘太郎はある事を思い出す。
「あ、そうだ。確か2~3日前に城島さんから貰ったカロリーバーが胸ポケットにあったはずだ。すっかり忘れてたぜ。今まで食べなくて本当に良かった」
このまたとない幸運とも言うべきチャンスを噛み締めながら勘太郎は、内ポケットに入っていたカロリーバーを直ぐさま取り出す。
「さあ~、美味しい美味しい、カロリーバーだよ。あげるからこっちにおいで!」
今度は美味しそうな臭いに釣られたのかゴロ助が尻尾を振りながらカロリーバーに興味を示す。
回りに警戒をしながら勘太郎のいる鉄格子の前まで来たゴロ助は勘太郎が手に持つカロリーバーの臭いを必死に嗅いでいたが、その後安全を確認したのか直ぐさまカロリーバーにかぶり付く。
「よし、捕まえたぞ。じゃゴロ助がカロリーバーに夢中になっている内に急いでゴロ助の腹部の辺りに取り付けられている煙幕剤の入ったスプレー缶と針金を外すか」
逃げないようにゴロ助の体を押さえながら器用にスプレー缶と針金を取り外すと、その取り外した針金を直ぐ様鉄格子の引き戸に取り付けられている錠前の穴に入れる。
「よし、錠前の穴に針金が入ったぞ。これでいけるはずだ」
しばらく格闘すること約五分。鉄格子の引き戸に取り付けられている錠前をどうにか解除する事が出来た勘太郎は、そのまま引き戸を開けると直ぐに回りを確認する。
ゴミが散らかったフロアーを見渡しながら他の牢屋に閉じ込められている貝島浩一と犬飼剛の無事を確認するため直ぐさま二人の様子を見に行こうとする勘太郎だったが、上から誰かが階段をゆっくりと降りて来る音に恐怖を感じ、直ぐさま自分がいた牢屋の中へと戻り様子を窺う。
だがそんな勘太郎の前に現れたのは暴食の獅子では無く、羊のマスクを被りながら現れた羊野瞑子だった。
白いロングスカートを揺らしながら軽い足取りで現れた羊野は檻の中にいる勘太郎を発見すると(羊のマスクを向けながら)その無事を確認する。だが同じフロアー内にいる黒いライオンの存在に気付くと物凄い殺気を向けながら直ぐさま戦闘態勢を取る。
羊野は両太ももに装備されている打ち刃物の大きな包丁を直ぐさまロングスカートの中から引っこ抜くと、両手に持つ包丁を構えながら喰人魔獣56号と呼ばれているゴロ助を睨み付ける。
その見えざる殺気を感じたのかゴロ助もまた「グルルルー」とかすれた声で唸り声を上げながら羊野と対峙をする。
羊野はそんな喰人魔獣56号に注意をしながら勘太郎に話しかける。
「あら黒鉄さん、やはり生きていましたか。こんな所で暴食の獅子に無様に捕まっていると言う事は、ちゃんと犯人のアジトを見つけられるように自ら進んで人質役になってくれたと言った所でしょうか。流石は黒鉄さんですわ。そんな訳で取りあえずはこの目の前にいるライオンもどきの犬っコロをぶち殺してから直ぐに助けてあげますからね」
両手に包丁を持ちながらゴロ助に近づく羊野は殺す気満々だったが、そんな羊野に向けて勘太郎は直ぐさま停止の言葉を発する。
「いいや、待て羊野、その喰人魔獣は……ゴロ助は人に危害を加えるような犬じゃないんだ。だから手を出さないでくれ!」
「確かにライオンではありませんが、喰人魔獣に違いはありませんよね。こんな大きな犬が牙をむいて襲ってきたら流石に危ないし危険ではないのですか。こんな獰猛そうな大型犬の犬に行き成り不意を突かれて襲われたら流石の私でも対処仕切れませんよ」
「大丈夫だ、ゴロ助は大丈夫なんだ。俺を信じろ。あの暴食の獅子の命令にすら従わずに人に危害を加える事を頑なに拒んでいるそんな心の優しい犬なんだ。だから見た目だけでこの犬を危険だと判断しないでくれ。頼む!」
「昨日今日であっただけの犬っコロになぜそこまで肩入れするのですか。流石に理解に苦しみますわ!」
「さあ、何故だろうな。恐らくはこんなにも主人の為に頑張っているのにその努力が全く報われないゴロ助と自分を重ね合わせているのかも知れないな。生まれた時から主人には恵まれず、体を勝手に改造され、人を殺める手伝いをさせられて、挙げ句の果てには人に忌み嫌われ恐れられる存在になった喰人魔獣と呼ばれている犬達に同情をしているのかも知れないな。人を襲うように訓練された犬達はこの事件が解決したら恐らくはみんな危険な犬と判断されて殺処分になるかも知れない。そんな犬達と自分はもしかしたら同じなのかも知れないなと思っただけの事だよ。だからこそ人を襲い噛みつく事を頑なに拒んでいるそんなゴロ助に共感をしたのかもな。俺は……俺は、人は決して襲わないそんな優しい心を持つゴロ助だけはなんとしても助けたいんだ!」
「はあ~、全く黒鉄さんは相変わらず、あまあまですわね」
その言葉を信じたのか羊野は注意を向けながらも持っていた包丁を下へと下げる。その瞬間を見逃さなかったゴロ助は行き成り走り出し、階段を駆け上り、いずこかへと逃げ去って行った。
ゴロ助の奴、暴食の獅子の元へと行ったのかな?
そんな事を考えながら勘太郎は、羊のマスクを脱ぎながらニコニコとしている羊野に感謝の言葉を述べる。
「見逃してくれてありがとうな。羊野」
「別に見逃した訳ではありませんよ。ただ逃げられただけですわ」
「しかし羊野、お前、俺を助けにわざわざここまで来てくれたのか。正直助かったぜ。余りの恐怖にオシッコをちびりそうだったからな」
「フフフフ、またまたそんな心にもない謙遜を。その迫り来る暴食の獅子の悪意や絶望に対し、足掻き・考え・そして諦めない・そんな生きようとするしぶとさは正に流石と言うほかはありませんわ。さすがは黒鉄さんです」
「茶化すなよ。それよりお前、緑川にあのリュックサックを持たせて俺に渡すように仕向けたのはお前だな。だったらもっとマシな物は入れられなかったのかよ。もっと小型の発信器とか猛獣にも有効な撃退出来る武器とかいろいろとあるだろうが!」
「ええ、確かにありましたが、何分それらを揃えるだけの資金や時間がありませんでしたからね。ですのであれだけしか揃える事が出来なかったのですよ」
「お前……絶対にあの意味の無い道具の類いを渡して、俺が一体それらを使ってどう乗り切るのかを楽しんでいただろう!」
「いいえ、そんな事はありませんわ。何分私もいろいろと忙しかったのであのくらいしか準備が出来なかったのですよ。でも確かに準備不足だったことは認めますわ」
「ふ、お前が準備不足……腹黒羊と呼ばれているお前がか。悪い冗談だぜ」
「そんな計画も黒鉄さんのように試練を見事に乗り切る事の出来る勇気と神に愛されている幸運がないと成立はしませんがね」
「幸運って……悪運の間違いじゃないのか?」
「悪運も幸運も同じ運ですし、同じような物ですよ」
「おまえな~っ」
張り詰めていた緊張が崩れ心の底から安堵の言葉を口にするそんな勘太郎に羊野は、勝手に何かを納得したかの用に一人ほくそ笑む。
「しかしこの分じゃ例え私が助けに来なかったとしても黒鉄さんなら何とかして生き延びていたのでしょうね」
周りを確認しながら話す羊野は、見事にこじ開けられた錠前を見ながらニヤニヤと笑う。
そんな勘太郎の何事にも諦めない心に改めて一目を追いた羊野はご褒美とばかりに、つい先ほど対峙をしたゴロ助の犬種についてボソリと呟く。
「暴食の獅子は……あの黒いライオンを作り上げる為にある大型犬の犬種同士を交配させて、人を喰らう為だけの忠実な犬に作り上げていたのかも知れませんね。恐らくあの犬種は、チベット高原原産のライオンに似ていると言われている大型犬。チベタン・マスティフと言う犬種だと思われます。普通のチベタン・マスティフは体高六十六センチ。体重六十五キロから~八十二キロの大きさだと言われています。一説には虎に勝つこともあると噂されている猛犬だとか。マスティフには様々な犬種があって、このチベタン・マスティフが源流で最も古い犬種の一つなのだそうです。因みにジンギスハーンが戦の遠征の時に共に連れて行ったのがこのチベタン・マスティフだと言われています。その犬種でもある犬達を小さい頃から育て上げ、人々に恐怖を与える黒いライオン・喰人魔獣にするべく、いろんな様々な違法な薬物を投与し、闇の獣医からの違法手術を施されて体の大きさや骨格、足の形に至るまで大改造をされてあの喰人魔獣は完成に至ったのだと推察します。そして黒いライオンに相応しくオーダーメイドされた本革のライオンの皮を身に纏い本物のライオンを演じていた。まあ、そんな所でしょうか」
「チベタン・マスティフ……名前だけは聞いた事はあるが、あの犬がそうか」
「まあ、生まれた時からライオンにその姿を似せる為にかなり体をいじくられているみたいなのでその原型がありませんが、恐らくはあのチベタン・マスティフでしょうね。でもあの感じだとかなりその体には無理をかけているでしょうから、恐らくは短命でしょう。掘って置いてもいずれは死にますが、あの暴食の獅子に幼い頃からよ~く訓練された犬の用ですからね、十分に注意した方がいいと思いますよ。本物のライオンではないとは言え、あのチベタン・マスティフは極めて獰猛な犬ですからね。その気性の激しさは有名ですよ」
「残忍で独善的で人としては最低だけど、どうやら犬の調教師としてはかなりの腕前の用だからな」
そう言いながら勘太郎は牢屋を出るとフロアーの真ん中に空いている円形型の大きな穴を覗き込みながら数メートル下にいる本物のライオンを目撃する。
そのライオン事態もあまり綺麗とは言えず、噎せ返るほどの汚物と腐った腐敗臭の臭いでその檻の空間は酷く悪臭を放ち。先程食べられたと思われる磯谷令一の骸で一面が血の海となっていた。
「う、これはかなり汚いな。今さっき調教師としては優れていると言ったが……これは全面撤回だな」
その下から上を見上げるライオンの目は明らかに狂気をはらみ、産まれた時から檻の中しか世の中を知らないそのライオンの心は明らかに病んでいる用に勘太郎には見えた。
そんな勘太郎の不安に答えるかのようにその汚らしいライオンは、血の臭いと狂わんばかりの狂気に酔い痴れながら大きな声で吠える。
「ガッオオオオォォォォーン、ガッオオオオォォォォーン、ガッオオオオォォォォーン!」
「おお、びっくりしたな。行き成り吠えるんじゃねえよ。しかしこれが本物のライオンの遠吠えか。やはり本物は迫力が違うぜ! しかしこの檻の汚さは……あまり掃除も満足にされてはいないようだな。こんなにも不衛生だと伝染病を発症するかもな」
」
そんな意見を述べながら勘太郎がライオンを眺めていると、羊野は腰に下げているポシェットからある黒い鉄の塊を取り出すとそっとその物体を勘太郎に差し出す。
「こ、これは、まさか!」
「ええ、黄木田店長からの預かり物ですわ。黒鉄さんには必ずこれが必要になるかも知れないと言って渡されましたからね」
その預かり物とは、闇の秘密組織・円卓の星座との狂人ゲームのルールにあたり、警察や狂人に至るまでその重火器の使用は大概は認められてはいないのだが、黒鉄の探偵だけは違う。
黒鉄の探偵を名乗る者だけが飛び道具の使用を唯一許された武器、それが『黒鉄の拳銃』なのである。
拳銃と言っても本物の拳銃では無い。初代・黒鉄の探偵・黒鉄志郎が愛用していたオートマチック式・デザートイーグルを模したレプリカ型改造電動銃。所謂改造モデルガン、それが黒鉄の拳銃と呼ばれる代物の正体だ。
(弾倉)マガジンには強化ゴム弾の弾が3発だけ装填が可能で、旗から見たらかなり大きく不格好な拳銃になっている。
そんな武器の使用を認めているのは他ならぬ円卓の星座の創設者でもある壊れた天秤その人なのだが、勘太郎は狂人達が関わる事件に巻き込まれた時だけこの黒鉄の拳銃の力を使用をし、そして所持し続けている。
そうまるでこの黒鉄の拳銃を持つ事で、黒鉄勘太郎が初めて狂人達と対等に戦えるとでも言わんばかりに……。
今回の狂人ゲームでは三人のハンター達が持つ3丁のライフル銃だけは人に関わらず使用していいと言う特別なルールになっているので、殺人班や特殊班の刑事達も黒いライオンから身を守る為にその3丁のライフル銃を使用しているはずである。
そんな数少ないライフル銃とは別に喰人魔獣に唯一対抗できる……かも知れない黒鉄の拳銃が細かな整備を終えて今、勘太郎の目の前に突き出される。
勘太郎は羊野が持っている黒鉄の拳銃をマジマジと見ると「すいません、黄木田店長。また黒鉄の拳銃の力、使わせて頂きます」と言いながら羊野から受け取り、後ろの腰のベルトの部分にその拳銃を忍ばせる。
「黒鉄さん知っているとは思いますが、その黒鉄の拳銃のマガジンに装填されている強化ゴム弾の弾は全部で三発までです。勿論予備の弾倉のマガジンもありません。ですのでここぞという時だけ使って下さい。その拳銃を使うタイミングを読み間違えない用に」
「ああ、分かっているよ。だがどうせならもう20発くらいは欲しかった所だな。たったの3発じゃ流石に心許ないぜ」
「ホホホホ、何を言っているのですか。3発もあれば十分ですよ。哀れな犬達を操って天狗になっているあの暴食の獅子に一泡吹かせてやりましょう!」
「お前……絶対にこの状況を楽しんでいるだろう」
「そ、そんな事はありませんわ。黄木田店長から黒鉄の拳銃を受け取って見てみたら呼びの弾倉が何処にもなかったのですよ。きっと黄木田店長も急ぎすぎて予備の弾倉を忘れていたのでしょうね」
「本当かその話は……まあ、いいか。この事件が終わったらその話はまた後でじっくりとしようぜ。いいな羊野!」
「ふ、仕方がありませんね。望むところですわ」
「なら左側の両端の牢屋に今も監禁されている貝島浩一さんと犬飼剛さんの二人もついでに助け出そうか。恐らくは奥の個室のトイレにでも隠れて震えているだろうからな」
「このフロアーにまだ人がいるのですか。その気配は全く感じられませんが?」
そう言いながら怪訝な目を向ける羊野を尻目に何とか二つの鉄格子の開閉を封じている錠前を開ける事の出来た勘太郎は牢屋の中に入って二つの檻の中を隅々まで調べてみたが、その二つの牢屋の中に獣医師の貝島浩一と犬のブリーダーの犬飼剛の姿は何処にもなかった。
「おかしいな、確かに俺のいた牢屋からは右側正面にいた(暴食の獅子に連れ出された)城島茂雄さんの姿とその左斜めにいた(獣医師の)貝島浩一さんの姿はどうにか見えていたんだが、その貝島浩一さんの姿が今は何処にも見えないとはな。この牢屋の中から一体どうやって、何処に消えたと言うんだ。そして俺の階段を挟んだ左側の真隣にいた(犬のブリーダーの)犬飼剛さんの姿は流石に俺の位置からじゃ確認する事は出来なかったが、その存在を物音から感じる事が出来たから必ずその牢屋の中にいるはずなんだが、その犬飼剛さんの姿もいつの間にか同時に消えている。これは一体どういう事なんだ。全く理解が出来ないぜ!」
そんな事を考えながら勘太郎が独り言を言っていると、羊野は各四方の牢屋の奥に備え付けられている個室のトイレの壁を慎重に一つずつ確認する。その壁の何処かに手が触れると羊野はその壁の突起の部分を押さえながら壁を思いっきり力強く押す。するとその個室のトイレ奥の壁はまるでドアのように外側に開閉し、その人一人が通れるような細長い空間は地上の上へと通ずる通路になっていた。
「どうやら黒鉄さんのいた牢屋以外は、みんなこの構造になっているみたいですよ」
「そうか、ならあの三人の誰もが、この地下のフロアーから簡単に地上へと出られた訳か」
「いいえ、恐らく犯人は一人ですわ。西園寺長友警部補佐を囮にして暴食の獅子をおびき出してから堂々と何の妨害も受けずにすんなりとこの地下室に入れましたから、暴食の獅子はたった一人だと推察されます。いくら防犯カメラで侵入者の存在を確認出来たとしても、人手が足りないと意味が無いですからね」
「なるほど、またいつものようにあること無いことを吹き込んで西園寺長友警部補佐を先に行かせたな。だからこそ監視カメラを見た暴食の獅子の目を向こうに向けさせる事が出来たんだな。そしてお前は誰の妨害も受けずにここまで来たと言う訳か。仮にあの三人がグルなら後の二人が必ず邪魔をしに来るはずだからな」
「まあ、そう言う考え方も出来ますわね」
「あの暴食の獅子が西園寺長友警部補佐の方に向かっていると言う事は……西園寺長友警部補佐の命が危ないじゃないか!」
「大丈夫ですわ。その為に西園寺長友警部補佐には3丁あるライフル銃の1丁を渡してありますし、その裏には殺人班の刑事達も控えていますから、運が良ければ大丈夫ですよ……多分ね」
「多分って……お前」
「とにかくです、あの三人の中の一人があの暴食の獅子だと思われますから、後の二人はきっとこの牧場の何処かに監禁されていると思いますよ。恐らくはその二人の内のいずれかを暴食の獅子に仕立て上げる為にね」
「犯人に仕立て上げて殺すつもりか、そうはさせないぞ」
怒りに震える勘太郎を見ながら羊野はホホホホと口元を押さえながら可愛らしく妖艶に笑う。
「ホホホホ、そんな事を言って、もう黒鉄さんには犯人が一体誰か分かっているのではありませんか」
「ああ、わかっているよ。おそらくはあの人しかいないだろうな」
「そうですか、分かっているのならもう私からは何も言うことはありませんわ。黒鉄さんは黒鉄さんの思うがままに行動をして下さい。私はそれについて行くだけですわ」
「そうか、なら行こうか。狂人・暴食の獅子がいる決戦の場へ!」
そう意気込む勘太郎に羊野は少し困った顔をしながら言う。
「申し訳ありませんが黒鉄さん。私はちょっとここでする事がありますので、暴食の獅子の追撃は黒鉄さん一人で行って下さい。用事が済んだら勿論私も直ぐに急いで対決の場へと駆けつけますから」
「ああ、わかった、その用とやらが済んだら直ぐに来てくれ。それまでは俺が暴食の獅子の方をどうにかして食い止めておくからよ。しかし、お前の言う用とは一体何なんだ?」
「別にどうと言う用事ではないのですが、実はこの地下一階フロアーの更に階段を下った地下にはライオンの檻だけでは無く……いつか喰人魔獣になると思われる数多くの調教並びに訓練中の犬達が各檻に飼われているという情報が人知れず闇のルートから入って来たので、それらを確認する為に行くのですよ。その的確な数と犬の様子を赤城文子刑事に知らせて置かないといけませんからね」
「そうか、このフロアー内にあるその更に階段を下った地下にはあの人食いライオンだけではなく、訓練中の獰猛な犬達も共に飼われているのか。犬の声が全くしなかったから分からなかったぜ」
「恐らくは声帯を切られているか、無駄に吠えないように調教されているのでしょうね」
「わかった。ならその用を済ませたら必ず来てくれ!」
「わかりました。出来るだけ早く駆けつけますね。それに実は私も数いる喰人魔獣達に対抗できるようにと新たな武器を通販で手に入れて来ましたから、期待していて下さい。どんな物かは……まあ、見てからのお楽しみですわ」
「よし、それじゃ喰人魔獣と呼ばれる哀れな犬達を操る暴食の獅子の元に行って来るか!」
そう力強く言うと勘太郎は、地上に通ずる階段を踏みしめながらゆっくりと一段一段上へとあがって行くのだった。
黒鉄の探偵が所有する武器、黒鉄の拳銃を構える黒鉄勘太郎の図です。
絵が下手なのでその日次第でキャラクターの顔がコロコロと変わりますが、そこはご了承ください。
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