白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第五章 『喰人魔獣』 東京内で襲う正体不明の魔獣が人々を恐怖のどん底に突き落とす。黒いライオンを操る狂人・暴食の獅子との推理対決です!

5-23.勘太郎、暴食の獅子と対決する(イメージラフイラストあり!)

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「どこだ! あの黒いライオンは一体どこに行ったんだ。出て来い、喰人魔獣うう!」


 回りを深い林に囲まれた今は使われてはいない廃墟と化した牧場に西園寺長友警部補佐は足を踏み入れる。

 まだ日が上がった午前中だというのに視界を覆う木々の枝で太陽の光が閉ざされた道をただひたすらに歩いた西園寺長友警部補佐は牛舎と一体になった古びた民家へとたどり着く。

 羊野瞑子の説明によれば……。

「あの容疑者の貝島浩一・犬飼剛・磯谷令一の三人を本庁から逃がしたのは一体誰なのかは分かりませんが、その責任はこの捜査の責任者でもある川口大介警部が取らなけねばいけません。ですがあの三人の取り調べの拘留を任されていたのは捜査一課・殺人班の数名の刑事達ですから……つまりはその上司でもある西園寺長友警部補佐の責任でもありますよね。つまりそのあなたの失態で川口大介警部は責任を取らされるかも知れないのですから、ここはまずはあなたが率先して囮になって暴食の獅子の目を引きつける作戦に出た方が効率がいいのではありませんか。ただの殺人班の刑事ではもしかしたらただの一般人だと思い犯人もただ隠れてやり過ごそうと思うかもしれませんが、恐らくは犯人側にもその顔や存在を知られている西園寺長友警部補佐の姿を見たら、あの暴食の獅子も何らかのアクションを起こすかも知れませんからここは西園寺長友警部補佐が自ら囮役になって一人で先に進む事をお勧めしますわ。おそらく西園寺長友警部補佐の接近に暴食の獅子が気付いたら流石に不審に思い最初は警戒をするとは思いますが、狂人ゲーム期間内と言う事を思い出して、数人の刑事達しか来ていないと言う事に必ず気付いて行動に移るはずです。刑事達数人なら喰人魔獣と自分の力だけでどうにか始末できると必ず考えるからです。あの自意識過剰で目立ちたがり屋の暴食の獅子なら必ず刑事達を全て噛み殺させた姿を写真に納めて、その証拠写真を警視庁のお偉方さんに送りつけてやると必ず考えるはずですから、西園寺長友警部補佐という超ビックな餌には必ず食いつくと思いますよ。大丈夫ですわ。あなたにはライフル銃を持たせますし、直ぐに駆け付けられるように殺人班と特殊班の刑事達を後ろに待機させていますからどうか安心して行ってきて下さい。あ、因みに私は林の中を通って別ルートであの民家の裏口に回りますから、後で民家の中で合流しましょう」

という言葉を信じてここまで来たが、民家の玄関前でドアに鍵が掛かっている事を確認した西園寺長友警部補佐は他に中に入れる所は無いかと回りを探すが、その時偶然にも民家の隣にある大きな牛舎の中に黒いライオンこと喰人魔獣が入って行く所を見てしまう。
 
 その圧倒的な身の危険と喰人魔獣の正体を探る最大のチャンスを同時に手に入れた西園寺長友警部補佐は、黒いライオンがこの建屋の回りにいた事で暴食の獅子がこの牛舎内の何処かに必ず潜んでいる事を知り、自ら単独で動き出す。
 熱血から来る任務への使命感も当然あったが、それとは別に自分の失態で川口大介警部に多大な迷惑をかけてしまった事への申し訳なさと焦りから、目の前に現れた喰人魔獣への追跡をたった一人で行うと決めたようだ。

 牛舎内の中は薄暗く、窓枠の全ての窓に厚いカーテンが掛かっている事を確認した西園寺長友警部補佐は、どこかに身を隠したと思われる喰人魔獣の行方を懸命に探すが中が入り組んでいて中々その姿を見つける事ができない。

 手に持つライフル銃を構えながら今はだれも使ってはいない古びた檻の中を一つ一つ慎重にそして丁寧に確認していくが、不安や焦りや恐怖だけではなく牛舎内から漂う糞尿の臭いや錆や埃に西園寺長友警部補佐は思わず生理的に顔をしかめてしまう。それだけ牛舎内の中は汚く、強烈な汚物の臭いが立ち込めていたからだ。
 そのせいで視覚と嗅覚を封じられた西園寺長友警部補佐は仕方なく自前の小さなペンライトで辺りを照らしながら喰人魔獣の姿を再び探し始めるが、あまりの静けさに西園寺長友警部補佐はついその歩みを躊躇してしまう。

「いない、一体あの黒いライオンはどこに消えたんだ。白い羊の話ではあの黒いライオンの正体はただの犬かも知れないと言う話だが、例えただの犬だったとしても危険な動物に変わりは無いからな。あんなに大きくそしていかにも獰猛そうな大型犬が危険じゃない訳がないからな。だ、大丈夫だ。俺にはライフル銃もあるし、仮に犬達が闇雲に襲いかかってきたとしても、狙いを定めてただ引き金を引くだけであの喰人魔獣は射殺できるはずだ。いくらこの五年間の間に人を幾人も食い殺している人食い魔獣でも相手はちゃんと血を流すただの大きな犬なんだから絶対に大丈夫なはずだ。ああ、俺ならやれる。きっと大丈夫さ。そして必ずあの暴食の獅子を追い詰めて捕まえてやるぜ!」

 まるで自分に言い聞かせるかのように独り言を言う西園寺長友警部補佐は緊張をしながら暗闇の室内でライフル銃を構えるが、そんな牛舎内の回りからまるで西園寺長友警部補佐の間合いを徐々に詰めるかのように何かが徐々に……確実に……物陰に隠れながら一斉に迫ってきているのを地面に伝わる動物の足音で嫌でも感じてしまう。そのくらいにこの牛舎の中は静かで不気味に静まり返っていた。

「この数、恐らくは3~4匹はいるな。この感じだと少しずつ俺を中心に範囲を徐々に狭めながらジワジワと確実に迫ってきていると言った所か。恐らくは一匹一匹が物陰に隠れて停止と移動を繰り返しながら俺を襲うタイミングを計っているのだろうが、そんな計画的な動きで犬達に接近を許した経験は未だに無いから、正直どうしていいのか全く分からないぜ。だとしたならばこの状況は本当に不味いと言う事になるぞ。いくら俺がライフル銃を持っていたとしても至近距離から皆一斉に犬達に飛びかかられたら流石にひとたまりもないからな。しかし喰人魔獣って一匹だけじゃなかったんだな。まさか複数匹存在するとは、流石に知らなかったぜ。そしてこの独特の喰人魔獣達の動きは恐らくは羊飼いの人達が命令を下して、犬達が羊を追い込み意のままに操る時に使う、そんな動きに似ているな。多分暴食の獅子はそんな訓練も幼い子犬の段階から徹底的に叩き込んでいるのだろう。そしてあの喰人魔獣達を陰ながらに操る道具として犬笛を使用しているはずだ。そうだ暴食の獅子は犬笛で命令を送りながらどこか遠くから安全な所で合図を送っているに違いないんだ。なにせあの白い羊の話では犬笛の音を低周波で響かせる事で人間には聞こえない音をだして犬達に命令を下す事ができるらしいからな。その答えに二日目の夜に光が丘公園で気付く事ができたとは、流石は狂人・白い腹黒羊と言った所か」

 そんな無駄口を叩きながらも西園寺長友警部補佐は物音のする方に向けてライフル銃を構える。
 建屋の中は以外に広く、牛を飼う牛舎だけではなく、今は物置小屋と化したのか古びた冷蔵庫や木製のタンスに何かの農作機械と言った機械類が無造作に幾つも置かれている。そんな大きな粗大ゴミと化した置物に隠れながら一匹ずつ静かに移動をする喰人魔獣に対し西園寺長友警部補佐はライフル銃を発砲しながら、まるで自分の不安や恐怖心を誤魔化すかのように大きな声で威嚇をする。

 パァーン! パァーン! パァーン!

「その柱の陰にいるな。出てこい喰人魔獣! 俺がこのライフル銃で皆一匹残らず撃ち殺してやる!」

 だが西園寺長友警部補佐の呼びかけにも正面の物陰に隠れたままの喰人魔獣は当然出ては来ず、その間にも西園寺長友警部補佐の後ろと左右の右側左側にいた三匹の喰人魔獣達は皆一斉に少しずつその距離を確実に詰める。

 スゥタタタタ! スゥタタタタ! スゥタタタタ!

「クソ、また距離を詰められた、このままでは不味い。この建屋の中は暗いし喰人魔獣達が隠れられる障害物が異常に多すぎる。しかも軍隊のように的確に指示されたかのような無駄のない動きで迫ってくる。恐らくは暴食の獅子に獲物を狩る為に特別に訓練を受けた猟犬としての動きをマスターしているのだろう。だとしたらこれはかなり不味い状況だぞ。早くこの牛舎の中から急いで脱出しないとこの狭い中では明らかにこちらの方が不利だ!」

 これ以上近づいて来ないように威嚇の射撃をしながらその場から離れようとしたその時、西園寺長友警部補佐が背にして立っていた古びた木製のクローゼットの扉が勢いよく開き、その中から素早く豪快に現れた暴食の獅子は手に持つ電気警棒を振り回しながらその一撃を西園寺長友警部補佐の首筋に勢いよく叩き付ける。

 バチバチ……ビリビリ……バチバチ……ビリビリ!

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 気絶こそはしなかったが西園寺長友警部補佐は大きな悲鳴を上げながら溜まらずその場へと倒れ込む。
 不意を突かれた一瞬の出来事に一体自分の体に何が起こったのかが分からず自由にならない体や手足をばたつかせながら無様にもがいていると、地面に落ちているライフル銃を牛舎の四隅に足で勢いよく蹴っ飛ばしながら暴食の獅子は倒れている西園寺長友警部補佐の背中を力強く踏みつける。

「ハハハハ、回りを囲む喰人魔獣にばかり気を取られてクローゼットに隠れている俺の存在には全く気付かなかったようだな。この喰人魔獣達の囲いはお前を確実に襲う囲いでは無く、この俺が隠れているクローゼットに誘い込む為の罠だったのだよ。西園寺長友警部補佐、お前は知らず知らずの内に喰人魔獣達の囲いに誘導されていたのだよ。お陰でなんの苦労も無くお前の背後を取ることができたわ!」

「そのライオンの……獅子のマスクは……そうか、お前が暴食の獅子か……」

「ああそうだ、お前達が長年にも渡り探し回っても中々見つける事ができなかった喰人魔獣を操る狂人・そうこの俺こそが、狂人・暴食の獅子だ。昨夜は耳沢仁刑事やハンターの石田淳二や林家三太が俺に通じている裏切り者だと言う事についに気付いたらしいが、一体誰がその事に気付いたのかは正直言うとかなり気になる所だ。でもまあいいか。俺は自分の正体も電話番号も連絡先も(いつでも関係を切れるようにと)奴らには何も情報は教えてはいなかったから、その点についてはとくに焦ってはいないぜ。俺は決して自分の正体を赤の他人に教えるという愚策は絶対に取らないからだ。それに外にいる刑事達の大半は狂人ゲームのルールのお陰で恐らく銃器は全く持ってはいないだろうし、三丁のライフル銃の内の一丁をお前から奪い。残りの二丁はおそらくは川口大介警部と赤城文子刑事の二人が持っていると思われるから、そこだけに注意を払えばこの刑事達の囲いからは簡単に逃げ切る事ができるぜ。とも思ったが狂人ゲーム終了までにまだ今日と明日の二日があるんだし、この場にいる全員を殺して証拠を隠滅してこの場を去ってからでも遅くはないかな。後はあの白い腹黒羊を出し抜く事が出来ればこの狂人ゲームは名実ともに俺の完全勝利で幕を閉じると言う事になる。ハハハハ、愉快、愉快、全くもって愉快な話だぜ。これだから肉食獣が人を襲う捕食シーンを見るのはやめられねえぜ! と言う訳でお前にはこのまま気絶をして貰って、そして次に目を覚ました時には他の刑事達と皆一緒に俺の飼っているライオンの餌になって貰うぞ。普段から正義と法律を振りかざしているお前達が一体どんな声で泣くのか、今から楽しみだぜ!」

 うつ伏せに倒れている西園寺長友警部補佐の顔を覗き込みながら暴食の獅子がしゃがみ込んでいると、一人の男が「西園寺長友刑事!」と叫びながら牛舎の入り口から中へと入ってくる。そのダークスーツに身を固めた男は西園寺長友警部補佐が手から落としたペンライトの光に導かれながら傍まで来ると、地下室を出る時に民家の中から奪ってきた懐中電灯を照らしながらうつ伏せに倒れている西園寺長友警部補佐とその上で足蹴にしている不気味なライオンのマスクを被った暴食の獅子の姿を確認する。
 勘太郎は目の前で電気警棒を構える暴食の獅子の動きに注意をしながら相手を睨み付ける。

「く、黒鉄の探偵……逃げろ……逃げるんだ。ここはお前のような一般人が来ていい所じゃない。直ぐに戻って川口大介警部にこの事を知らせるんだ。頼むから逃げてくれ……」

「西園寺長友刑事……あなたは!」

 今まではプライドが高くて傲慢で底辺にいる人達を見下す鼻持ちならない奴かと思っていたが、彼が勘太郎に厳しく当たっていたのは一般市民でもある勘太郎を守る為の彼なりの配慮だったのだと勘太郎は今更ながらに気付く。
 確かに態度や言葉は厳しいが警察としての誇りをちゃんと持っている西園寺長友警部補佐に勘太郎は初めて敬意を表する。

「西園寺長友刑事はそう言っているが、もし俺がこの場から立ち去ったら暴食の獅子……お前は一体どうするんだ?」

「どうもこうもないさ。もしもお前がこの場から逃げ出したらその時は、喰人魔獣達や本物の黒いライオンをこの場に呼んで西園寺長友警部補佐の頸動脈を噛み切ってやるだけだ!」

「つまりお前は、俺をこの牛舎から絶対に逃がさないと言う事か」

「まあ、そう言うことだな。一体あの地下室の牢屋からどうやって出たのかは知らないが、なぜこの場にまたのこのこと現れたんだ。この機会に、このいけ好かない刑事をこのまま見殺しにして逃げればお前だけでも、もしかしたら俺様の魔の手から逃げ切れたかも知れないと言うのに何故逃げなかったんだ? 流石に理解に苦しむぜ!」

「ふ、逃げ切れるかもだって、また心にも無いことを。携帯電話は奪われ、この民家には固定電話が設置されてはいない以上、この場所が一体どこだか分からない土地勘の定まらない場所を走り回るのはあまりにも危険と言ってもいいだろう。外へ出てこの場所から一番近い他の民家を探しに行くか。或いはこの周辺で待機をしている他の刑事達に助けを求めるか。選択はこの二択しか無いが、だが仮に俺がこの場から背中を見せて逃げ出したとしても、嗅覚の鋭いあの喰人魔獣と呼ばれるよ~く訓練された犬達を使えば簡単に俺やどこかに隠れていると思われる他の刑事達をも簡単に臭いで探し出せるとそう考えているのだろう。あの犬達の力を使えばそれも可能だからな!」

「ふ、バレていたか。中々に勘のいい奴だぜ。俺達狂人と呼ばれている人種のことをちゃんとわかっているじゃないか。流石はあの白い腹黒羊を飼っている探偵だぜ。狂人達の大体の性格はみんなお見通しか」

「そんな事よりだ、そろそろ全てのトリックの答え合わせと行こうぜ。あの黒いライオンの姿を模した犬を目撃者の人達に見せつけて、宛も本物のライオンがいるように演出しだませたのは、無残にも何かの肉食獣に食われて死んだ人の死体から大きな歯形が見つかり、地面に残されていた足形や糞や体毛を科学的に調べた結果、全てが本物のライオンの物だと思わせる事ができたからだ。おそらくあの糞や体毛はあの地下にいる本物のライオンから採取をした物だろう。ライオンに食われた死体やそれらを予め公園に持って行って、死体を置き、そしてその傍に糞や体毛を置いて、足を違法な手術でライオンの足の裏そっくりに改造された喰人魔獣を歩かせればライオンの足跡の出来上がりだ。だからみんな本物のライオンの存在を信じたんだ。おそらくはその近くに犯人の足跡もくっきりと残されてはいたのだろうが、犯行現場に選んでいる各公園は皆人の出入りが激しい事からその人物の特定までは出来なかったと言った所かな。そしてあんたはその犬達を犬笛を使って遠くから見事に操っていた。その犬達を完璧に調教し操る技術があるからこそこの五年間の間、誰にも見つからずに自分の欲求と娯楽の為だけに殺人を実行して来たと言う訳だな。全く、恐ろしく狂った狂人だぜ!」

「フフフフ、なら不死身のライオンの謎とその後どうやって各公園を離脱したかは分かっているのかな」

「ああ、分かっているぜ。喰人魔獣にライフル銃が効かないのは、耳沢仁刑事やハンターの石田さんと林家さんの三名が、あんたに金で雇われた仲間だったからだ。だから警察側の情報も全てが筒抜けだったんだ。おそらくは予めその木に目がけてライフル銃の弾丸を撃って置いて、その次の日にそのライフル銃の弾丸が着弾している木の前に黒いライオンを立たせて、その昨夜と同じ場所から改めてライフル銃を撃ってワザと弾丸を黒いライオンやその樹木から外してしまえば宛も弾丸が黒いライオンの体を素通りしてその直線上の後ろにある木に着弾したかのように見せかける事の出来るトリック、そんな単純な仕掛けなんだよな。その仕掛けを聞いたら物凄く単純で簡単なトリックではあるのだが、このトリックのみそはその直線上の木に昨夜撃った弾丸が宛も今し方撃ったかのように錯覚をさせてその場で見た人を信じ込ませる事ができる点だ。だからこそその目撃者達はその今し方撃った狙撃手の弾丸には特に不信を抱かないんだ。なにせ着弾したと信じているその木に弾丸が埋まっているのを確認しているから、まさかその撃った人物がワザと外したとは夢にも思わないからだ。そんな弾丸をワザと外してくれる協力者達をお前は三人も集めて、自分が関わる事件へとその三人を送り込んでいたんだな。そして喰人魔獣を追うその因縁深き三人が宛も本当に喰人魔獣をライフル銃で撃ったかのように見せかけて黒いライオンの不死身の伝説を作り上げていたんだ。その後、葛西臨海公園で黒いライオンが逃げた際には姿無き黒いライオンが雄叫びを上げながら逃げた方角に警察官達は誘導されて行ったが、三匹の警察犬達はその音を使ったトリックにはだまされなかったようだな。おそらくは予め待機をして置いた他の喰人魔獣達を使ってゴロ助に追っ手が向かわないようにしていたのだろうが、警察犬達の鼻はごまかせなかったと言った所かな。どうだ、当たっているだろう!」

「フフフフ、まあ、そういう事だな」

「そして、更にはその黒いライオンがその現場から逃走する時には必ず小さな水が流れる小川や水路をワザと歩かせて、警察犬が嗅ぎつける摩擦臭を消してから外で待機をしている冷凍車に乗り込んでいたんだな。あの舎人公園で濡れた細長い布の道を冷凍車まで伸ばしていたのも摩擦臭を出さない為の配慮だ」

「中々に分かっているではないか。少し驚いたぞ」

「暴食の獅子、お前があの冷凍車を黒いライオンこと喰人魔獣の主な移動の手段に選んだのは、まさかあの寒い冷凍車の中に肉食獣のライオンが大人しく隠れていられるはずがないと言う人の常識を見事に突いた思惑があったからだ。だからこそ白く冷凍され凍り付いた牛のブイの肉の塊を見た検問の警察官達は皆それ以上は冷凍庫の中には入らず探しもしなかったんだ。冷凍車の中を調べるには流石に中は寒すぎるし、こんな所に生きた動物が隠れているはずが無いという常識が働くからな。だがその冷凍車を使った移動手段のトリックの仕掛けは極めて簡単だ。あの冷凍車のコンテナの中の一番奥には黒いライオンが入れるくらいの箱が隠されていて、喰人魔獣達は皆その中に隠れて移動をしていたんだ。勿論その箱の中は暖房が完備されていて、中まで凍ることは決して無いという親切設計だ。その狭い箱の中に本物のライオンはまず絶対に入ることはできないと思われるが、よ~く訓練された大型犬の犬ならその箱の中に入れられても大人しくじっとしていることは可能かもしれない。そしてその冷凍車もあんたが違法な手段で手に入れた冷凍車で、喰人魔獣達を運ぶ際の移動の手段に使っていたと俺は推察するぜ!」

 舎人公園に来る前に赤城文子刑事と羊野にメールで大体の推理とその可能性を文章で知ることになった勘太郎は、宛も自分で推理したかのように自慢げに堂々と言ってのける。その堂々とした態度に話を聞いていた暴食の獅子は鼻息を立てながら感心をするような態度を見せる。

「クククク、流石だな。流石は黒鉄の探偵だな。俺の真の強敵はあの白い腹黒羊だけかと思っていたが、黒鉄の探偵……どうやらお前を少し侮りすぎていたようだ。お前の事はもしもの為の人質くらいにしか考えた事はなかったが、お前のその推理を聞いて直ぐに考えを変えたぜ。お前は今ここで確実に殺さなくてはならない男だったようだな。俺は今更ながらにそう理解をしたぜ! 何だか知らないがお前はかなり危険な人物のような気がするからだ。まあ、野生の直感みたいなような物だ!」

「俺が危険か……確かにな。俺はお前の真の正体を知っているからな」

「なに、俺の正体を知っているだと。ハッタリだ。お前はハッタリを言って俺の心の動揺からその心の中の隙を突こうとしているんだ。魔獣トリックの大半を見破る事ができたから今度はハッタリを言って、その言葉に動揺をした俺が自らボロを出すのをお前は待っているんだ。そうだろう黒鉄の探偵!」

 明らかな動揺を見せる暴食の獅子の態度を見ながら勘太郎は敢えて一呼吸を置くと、大きな声で暴食の獅子の正体を言ってのける。


「円卓の星座の狂人・暴食の獅子。お前の正体は『城島茂雄』だ。その根拠やアリバイを今から俺の説明で見事に崩してやるぜ!」


「ぬぬぬ……!」

 勘太郎は思わず後ずさる暴食の獅子の行動に警戒しながら、なぜ城島茂雄が犯人なのかを説明する。

「俺が地下室の牢屋の中でゴロ助に間近まで接近して口の中を見たと言った時に城島さん、あんたはその事をかなり驚いていたようだが、内心は今にもはらわたが煮えたぎるくらいに怒り狂っていたはずだ。なにせゴロ助の軽率な行動の為に喰人魔獣の正体がただの犬だとわかってしまったのだからな。だからあんたは個室のトイレの中の壁に設置してある隠し扉から通路へと出て、同じように他の貝島浩一さんと犬飼剛さんのいる個室トイレの中の隠し扉から二人を連れ出して宛も二人の内のどちらかが暴食の獅子であるかのように濡れ衣を着せるつもりでいたんだ。そしてその隠し通路から地上に出たあんたは、暴食の獅子にその姿を変えて何食わぬ顔で俺の前にその姿を現したんだ。本当は重要な失態を侵したゴロ助を呼び出して虐待をするつもりだったのだろうが何故かあんたの呼びかけにゴロ助はその姿を現さず、仕方なくあんたは再び地下一階のフロアーに降りて、個室のトイレに閉じこもっていると信じている俺に疑われないように、誰もいない個室のトイレの中で一人芝居を演じながら迫真に迫る演技で一人で騒いでいたんだ。その後はトイレの個室の中に予め隠して置いた城島茂雄そっくりの人形を布袋に詰めて、そして担いで牢屋から出たあんたは堂々とした足取りで俺の前まで来ると、そのまま何食わぬ顔をしながら本物そっくりの城島茂雄の人形を担いだまま地上へと続く階段を不適に登って行ったんだ。まるでその姿を俺にワザと見せつけるかのようにしてな。勿論城島茂雄と暴食の獅子は全く関係がない事を俺に認識をさせ、後にその事を俺に証言させるのが俺を最後まで生かしておいた本当の目的でありその理由だったのだろうが、そのアリバイ作りもどうやら徒労に終わってしまったようだな」

「そうか、気付いていたのか。だがどの段階から黒鉄の探偵……お前は気付いていたのだ。まさか始めっからではあるまい」

「舎人公園で倒れているあんたを見た時は、つい焦ってその背後にいる本当の暴食の獅子の存在には気が付かなかったからな」

「あの人形を城島茂雄、つまりはこの俺だと勘違いをして助けようとしていた時はまだ俺が暴食の獅子だとは気付いてはいまい。ならやはりあの地下室で俺が暴食の獅子かも知れないと気付く何かがあったと言う事だな」

「ああ、暴食の獅子、あんたの傍にゴロ助が合流した時にあんたはゴロ助と俺が接近した事をさも気付かなかったかのように敢えて冷静さを装っていたが、ただ傍に近づいただけのゴロ助に対する怒りは尋常じゃなかったからな。だから最初は少し疑問に思ったんだよ。この暴食の獅子はもしかしたら何か別のことでこんなにも怒っているんじゃないかとな。そしてゴロ助を蹴っ飛ばした直ぐ後に電流を浴びせたあんたは、俺がゴロ助の腹部に忍ばせて置いたスマートフォンを見つけるが否や更なる虐待をゴロ助に加えていたが、その怒りがその時に突発的に生まれた怒りでは無いと俺はそう感じてしまったからお前がなぜ最初から怒っていたのかを疑問に思ったのが始まりかな。おそらくはゴロ助の失態を暴食の獅子は最初から知っているからこそこんなにも怒り狂っているのだと、俺はそう思わずにはいられなかったんだ。そしてあのゴロ助が俺に間近まで接近した事を知っているのはあの地下フロアーにいた城島茂雄・貝島浩一・犬飼剛の三人だけだからな。そう考えるのなら自ずと暴食の獅子の正体は限定されると考えた次第だよ。そして疑惑の二つ目はあの地下一階のフロアーに溜まっていた食糧のゴミの袋だ。その紙くずの中には犯人が好んで食べていたと思われる栄養食品の紙くずが多く投げ捨てられていてそのこだわりと好みの味はあるメーカーの物を好んで買っていた物と推察できたからだ」

「ま、まさか」

「そうだ、そのフロアーの床に無造作に散らばっている紙くずのゴミの大半はカロリーバーの紙くずのパッケージだったから、城島茂雄さん……あんたの顔が直ぐに浮かんだんだよ。あんたから二回も貰った植物繊維を含んだ栄養食品があのカロリーバーだったからな」

「だがそれだけの理由では、俺が暴食の獅子だとは流石に確信は持てないはずだが?」

「三つ目は、城島茂雄さんがこの一連の犯人だとわかった最大の理由は、城島さんが暴食の獅子にあの地下室に連れて来られた経緯を話した時に感じた矛盾だよ」

「経緯と矛盾だと?」

「城島さん、あんたは舎人公園で暴食の獅子に気絶させられた時に、次に目覚めたのはあの牢屋の中で、時刻は深夜の2時くらいだったとあんたはそう証言をしていたよな」

「ああ、確かにそう証言していたな。だが、それが一体なんだと言うんだ?」

「だけどあなたはなぜか先に捕まっていたはずの貝島浩一さんと犬飼剛さん、二人の存在も半ば当然のように知っていたからこそ、俺はあんたが犯人だとわかったんだよ」

「ん? 二人の名前やその存在がわかっているだけでなぜそこから俺が犯人だと分かるんだ。理解に苦しむのだが?」

「まだわからないか。他の牢屋にいる貝島浩一さんと犬飼剛さんは二人とも猿ぐつわで言葉を封じられ、両手は後ろ手に縛られてゼスチャーで答えることもできない。つまりは二人とも俺達に言葉や意思を伝えるすべが無いんだよ」

「ああ、そうだな」

「俺の牢屋からは斜め左にいる貝島浩一さんの姿は見えるがあんたに教えて貰うまでは犬飼剛さんの事は分からなかったんだよ」

「はぁ!」

「そうだよ、ようやく自分の失態に気付いたようだな。じゃ逆を言うならばあんたの位置からは絶対に貝島浩一さんの姿は見えないはずだ。当然俺は貝島浩一さんとは初対面だったから名前は当然分からなかったし、あんたには彼の特徴を教えてもいない。逆にあんたの位置からは真っ正面にいる俺と斜め右側にいる犬飼剛さんの事は当然見えてはいるが、その右側の真隣の端の角の牢屋にいるはずの貝島浩一さんの存在には(誰かに教えて貰わない限りは)絶対に気付く事は無いはずなんだ。だけどあんたはさも当然のようにその名前を話していたから、俺はあんたが暴食の獅子だと気付く事ができたんだよ。つまりあんたが貝島浩一さんの事を知っていると言う事は明らかな矛盾が生じると言う事だ。これがあんたが暴食の獅子だとわかったその真相だ!」

 その勘太郎の話を聞いた暴食の獅子こと城島茂雄は徐に被ってあるライオンのマスクを脱ぎ捨てながら悪意に満ちた顔で目の前に立つ勘太郎をにらみつける。

「まさかその小さな嘘の話と気にも止めないような流れゆく矛盾から俺の正体に気付くとは、流石は黒鉄の探偵だな。正直言って驚いているよ。どうやら白い腹黒羊は、一人だけの力で数々の事件を解決に導いてきた訳では無い用だな」

「暴食の獅子、もう正体がばれたんだからどこにも逃げられやしないぞ。おとなしく観念するんだ!」

「ふ、だが俺の正体を知っているのは今この場にいる黒鉄の探偵、おまえ一人だけだよな。なら逆に今からお前をこの場でぶち殺せば、まだ俺にも逃げ延びるチャンスはあると言う訳だな」

「城島さん……あなたは……」

「そう言えば、どうやって三匹の警察犬達や下田七瀬刑事の首の気道や頸動脈を一気に食い破る事ができたのか……そのトリックの仕掛けをまだお前に明かしてはいなかったな。なら今からその訳を見せてやるよ。黒鉄の探偵、これが黒いライオンを操る暴食の獅子が作った魔獣トリックの真の正体だ!」

 大きな声でそう叫ぶと城島茂雄は、後ろのクローゼットの中からある物体を素早く取り出すと、その重そうな物体を直ぐに顔へと被り装着しながら、そのあり得ない奇っ怪な姿を勘太郎に晒す。

 まるで鉄で出来たその頑丈そうなその顔はメタリカルなライオンの顔を連想させ、そのマスクから見える口と大きな牙は未だかつてない未知のライオンを連想させた。
 そのライオンのマスクから見える大きな口は本物のライオンの歯が順序よく備え付けられているせいか綺麗に並び。そのライオンの牙や歯が並ぶ大きな口の中は透明な防弾ガラスで遮られていた。そうまるでフルヘルメットのようにライオンのマスクの口の中からその顔を覗かせるかのように。

 どうやらこのマスクの作りはまさに肉を食い破り骨を噛み砕く事に長けたそんな作りになっていて、操者がこのマスクを被る事でその捕食シーンを間近で見れる、そんな仕組みになっているようだ。

 勘太郎は勢いよく上下に口が動く城島茂雄が被るライオンのマスクに注意を払いながら咄嗟に間合いを取るが、そんな勘太郎に向けて城島茂雄はこれまでに無いような悪意を向けながらその自慢のマスクを堂々と見せ付ける。

「ハハハー、どうかな、この格好いい本来の姿は、これが本来の完璧なパーフェクトの暴食の獅子の真の姿だ。どうだ、凄いだろう。お前が疑問に思っていた、あの三匹の警察犬達や下田七瀬刑事が一体どうやって黒いライオンにその喉元を食い破られて死に至ったのか。その謎の答えがこの美しい芸術品とも言えるこの姿だ。黒鉄の探偵、お前はこの暴食の獅子自らがこの完全な姿であの世に送ってやるぜ!」

「これが……このいかれた姿が……狂人・暴食の獅子の真の本当の姿だと。その本物のライオンの歯を埋め込んだ顎の圧縮の機材で三匹の警察犬や下田七瀬刑事を噛み殺したのか。まさか自分自身が本物のライオンになりきって人を襲うだなんて考えもしなかったぜ。これがその場で人を直に噛み殺す事のできた魔獣トリックの正体か!」

 そう叫びながら勘太郎はその凶器と化したライオンのマスクを被る城島茂雄をマジマジと見る。

 ライオンの形を精巧に模したマスクの作りはとても頑丈に出来ていて、まるでライオンの頭の形を模した防具を被っているかの用なそんな感じだ。
 獅子の口の中から見える城島茂雄の顔の部分には防弾ガラスがはめ込まれていて、その回りには本物のライオンの牙が並んでいてセンサーに触れる事で口が上下に勢いよく動く仕組みになっているようだ。

 どうやら背中に背負ったランドセルの用な機械は小型バッテリー内蔵型の動力部になっていてそれと連動をするかの用に顔の前に備え付けられているライオンの骨格型の機械の牙と顎が動き、その圧縮の力で相手を噛み殺す事ができる仕組みになっている用だ。
 勘太郎は凶器と化したそんなライオンのマスクに注意を払いながら、今度は暴食の獅子が身につけている胴体の方に注目を向ける。

 その体には所々が人の返り血で染まった作業着のつなぎを羽織り、右手には今までいろんな人間達をその電流で沈めてきた電気警棒を持ち、左手には顔の部分の顎が開閉可能な手動のスイッチボタンが力強く握られていた。

「その獅子舞の用な被り物が、幾多の被害者達や警察犬達を死に至らしめて来たライオンの牙の正体だと言うのか」

「まあ、そういうことだな。これが全ての謎の答えだ。この姿を見た以上、もはや貴様を絶対に生かしては帰さないと言う事だ。これで魔獣トリックの秘密も、俺の正体もばれてしまったが、今ここで正体を知る者を全て殺してしまったら証拠は残らないだろう。そうなれば狂人ゲームの制限時間を待つ事無く、この俺の勝ちと言う事になるのだからな。だから黒鉄の探偵、お前には絶対に今この場で死んで貰わないとな。この後には下で伸びている西園寺長友警部補佐や外にいる他の刑事達……そしてあの白い腹黒羊も控えているんだから早く勝負を決めさせてもらうぞ!」

 そう言いながら暴食の獅子は左手のスイッチを入れると、ガシャガシャと城島茂雄の顔の前でライオンの歯が合わさる不気味な音が辺りに響く。

「いろんな失敗と試行錯誤の上に納得のいく牙を研究&追求をし、ついに完成したのがこのライオンのマスクだ。勿論このマスクの噛み心地を被害者には是非ともその体で味わって欲しい。そして出来ればその食べられ肉を食いちぎられる感想を聞かせて欲しい。黒鉄の探偵、お前のその絶望の悲鳴を是非とも俺に聞かせてくれ! ライオンに肉を食いちぎられて泣き叫ぶ姿がどうしても見たいんだ。頼むよ黒鉄の探偵。グッワハハハーハハハーッ! グッハハハハハハァ!」

 狂気とかし豪快に笑いだす暴食の獅子の悪意に一瞬後ずさる勘太郎だったが、気を引き締めながら恐怖に飲まれそうなその心をどうにか正気へと戻す。その今にもその場から逃げ出したい心境をなんとか隠しながら勘太郎は暴食の獅子を必死に睨み付け、豪快に啖呵を切る。

「自分のいかれた性癖と満たされない欲求を満たす為にこの五年間の間に犯行を繰り返し、今度はその犯行と正体がばれそうになったら迷わず証拠の隠滅を図るか。なるほど、いかにも自分勝手な卑怯な狂人が実行しそうなやり方だが、でも出来るのか。お前に、お前ごときに、この二代目・黒鉄の探偵、黒鉄勘太郎の命を奪うことが!」

 勘太郎は精一杯虚勢を張りながら城島茂雄を威嚇する。そんな勘太郎に城島茂雄は気味の悪い笑い声を上げながら高らかに自分の人生観を語り始める。

「なあ~黒鉄の探偵、お前に取って究極の幸せとは一体なんだ? 俺は子供の頃から欲望のままに自分の内なる(本来人間なら誰もが持つ)野生の暴力的な悪意を、強欲を、残虐性を、そんな満たされぬ思いを常に心のどこかに持っているそんな人物だったよ。警察官の資格を取り警察犬を育てる犬の訓練士になったのも犬が犯人に噛みつく姿を堂々と見たいが為だ。なにせ合法的に人に噛みつく姿を見ることが出来る職業だと当初は思っていたからな。まあ、現実はかなり違っていたがな」

「まあ、当然だろうな」

「俺は表では警察犬を育てながらも長い休日を貰った際には常に一眼レフのカメラやデジタルビデオを持って海外に飛んで肉食獣が生きた獲物を捕食するシーンにエクスタシーと感動を覚えていた物だが、いつの間にかその刺激だけでは満足出来なくなった俺はいつの頃からか本物の生きた人間を捕食する肉食獣の姿が見たくて見たくて溜まらないようになっていったんだよ。そしてついにはライオンを闇のルートから購入した俺はある神奈川県の自宅のある場所で人を誘拐して活き餌として与えて楽しんでいたんだが、ある日行き成り壊れた天秤と名乗る可笑しな中年の男が現れて、今ここにあるこの牛舎やライオンのマスクの装備を無償で提供してやるから君の欲望を満たす手伝いをさせてくれ。とか言ってくれてな。沢山の資金の援助をしてくれたんだよ。まあ、その代わりに俺は円卓の星座の組織に入り狂人としての活動を余儀なくされたけどな。とくに悔いは無かったよ。俺の求めている殺人の欲求と円卓の星座側のもくろみとは見事に一致をしていたからな。お互いに共存共栄ができていい隠れ蓑ができたと思っているよ。しかもそのバックにある犯罪組織はかなり大きいからな、お互いに利用をし、そして利用をされる事にしたんだよ」

「そんなくだらない理由でお前はあの円卓の星座の組織に入り、自ら進んで円卓の星座の狂人になったのか」

「く、くだらない理由だと。取り消せ、黒鉄の探偵。この趣向のどこがくだらないと言うんだ。俺の芸術的センスを……趣味趣向を理解が出来ないなんて、黒鉄の探偵、お前の方がどうかしているぞ。お前は生まれてこの方、狂わんばかりに本気で何かを渇望したことがあるのか? 俺にはあるぜ。俺に取ってのそれは、人間が猛獣に食い殺されるのを見て異常に興奮するという病的なフェチシズムの行為であり、そして俺の心が唯一安らぐ事ができる一時の瞬間だ。そんな俺が猛獣の捕食行動にエクスタシーを覚えるその猛獣の中でも百獣の王と呼ばれるライオンに食い殺される人間の絶望の悲鳴やその惨めな姿を見るのが何とも言えず、とても好きな光景だ。最初はライオンに喰われる人間をただ観察することだけが好きだったが、だがそれだけではもう更なる欲求を抑えられなくなっていた俺は、もっと間近まで近づいて……至近距離から見ないとその迫力あるスリルに興奮しなくなっていたんだよ。そこで思いついたのがこの俺が考えた捕食するシーンを最も間近で見るためだけに開発した究極の姿だ。つまりこの俺自らがライオンになれば、より間近で人が食われて絶望の悲鳴を上げて死んでいく様を見る事ができると言う訳だ。どうだ、これが俺が長年に渡り追求し、そしてその答えを探し求めた究極の幸せの形だ!」

 そう息巻きながら暴食の獅子は傍に落ちていた木の棒を拾い上げると、自らが被る獅子舞のようなマスクの顔の前までその木の棒を近づける。
 そして『お前は今からこうなるのだ!』と言わんばかりに木の棒をその機械の圧縮する顎の力でバリバリと簡単に噛み砕いてしまう。
 暴食の獅子は目の前でバラバラに噛み砕いた木の棒を見ながら余裕の表情を勘太郎に見せ付ける。
 そんな暴食の獅子の牽制とも言えるパフォーマンスに勘太郎は内心ではかなりビビっているようだったが、冷や汗を垂らしながらもどうにか冷静に振る舞う。

「な、なるほど、これが羊野が言っていた『常識には捕らわれるな』と言う言葉の真の意味か。さすがにわかり安過ぎて何だか笑ってしまうが、よ~く分かったぜ。こんな馬鹿げた設定や考えは現実ではまずお目にかかれない、まるでSFの世界のような話だからな。その想像しがたい発想を考えつくとはさすがは円卓の星座の狂人と言った所か。流石に考えが中二病臭くて一周して逆に笑えてしまうがな。だがなぁ……暴食の獅子よ、これだけは言っておくぜ!」

 暗闇の牛舎の中にすっかり目が慣れた勘太郎はその足を一歩前に突き出すと、真剣な眼差しを城島茂雄に向けながらハッキリとした言葉で言い放つ。

「そんなのは究極の幸せでも何でも無いぜ。自分の欲望を満たす為だけに他の生き物の命や人間の命を無駄に犠牲にしていい幸せなんて俺は絶対に認めない……絶対に認めないからな! この二代目・黒鉄の探偵・黒鉄勘太郎が絶対にそんな歪んだ幸せを完膚無きまでに打ち砕いて、そのすさんだ欲望を絶対に阻止してやるぜ! もうこれ以上お前には好き勝手は二度とさせないからなぁぁ、暴食の獅子!」

「ハハハーッまあ、お前の用なただの凡人に俺のこの究極の美学を知ることは出来ないだろうが、この究極の娯楽をお前ごときに邪魔はさせないぞ。黒鉄の探偵、まだまだ血が足りないんだ。おまえの香ばしい血の臭いや絶望に染まる悲鳴で俺の心を安らぎで満たしてくれ。アッハハハハハハハーッ、アッはははははハハハハハハ!」

 こ、こいつ……狂っている。完全に狂ってやがる。こんないかれた奴をまた野に放す訳にはいかない。黒鉄の探偵の名にかけて、この狂人は何としてでも俺がこの場で捕まえないとな。父さん……母さん……姉ちゃん……そして黒鉄探偵事務所のみんな、俺にこの邪悪な暴食の狂人に打ち勝つ勇気と力を貸してくれぇ!

 そんな勇気を求める言葉を心の中で叫びながら身構える勘太郎の姿に目つきを変えた城島茂雄は、右手に持つ電気警棒の電流をバリバリと鳴らしながら勘太郎に近づこうとする。

 そんな城島茂雄の足にしがみついた西園寺長友警部補佐は、勘太郎の方を見ながら懸命に叫ぶ。

「く、黒鉄の探偵……いいから逃げろ。俺に構わず逃げるんだ。俺には一般の市民を助ける義務があるんだ。俺達警察官の使命は伊達じゃないんだ。黒鉄の探偵……我々警察が規則やしがらみに雁字搦みにされて中々身動きが取れず不甲斐ないばかりに……君には今まで苦労を掛けさせてしまったな。我々警察がもっとしっかり対処をしてあの円卓の星座の組織の言いなりになっていなければ君の命がけの苦労を少しでも軽減する事が出来るのに……今まで君にばかり我々警察はその後始末を押しつけてしまった。本当に済まないと思っている。だから今は君だけでも逃げてくれ。頼む。俺をだれも救えなかった刑事にさせないでくれ!」

「西園寺長友警部補佐……俺の……黒鉄の探偵である使命と重みを気遣って俺をこの前線からはずそうとしてくれていたのか。そうとも知らずに俺は……」

 西園寺長友警部補佐の本心を聞いた勘太郎は目頭を熱くしていると、話を聞いていた城島茂雄が「チッ」と舌打ちをしながら西園寺長友警部補佐の首筋に電気警棒を当てる。

「お前、少しウザいしうるさいな。大体お前はそんなキャラじゃないだろう。プライドが高くて傲慢で鼻持ちならない嫌なタイプの男のはずだ。それなのに死の間際でなにいい奴になっているんだよ。これからこの黒鉄の探偵と差しで決着を付けるんだから余計なチャチャはいれるんじゃねえよ。このクソ上司が!」

「城島……もう逃げられないぞ。こ、こんな事はもうやめるんだ。まさか同僚の下田七瀬刑事をも殺すとはな。あの三匹の警察犬達や下田七瀬刑事はお前の知り合いじゃなかったのか!」

「下田七瀬刑事は途中から俺が本庁から貝島浩一・犬飼剛・磯谷令一の三人を人知れず連れ出す所を見ていたらしいからな。その事を昨夜に舎人公園で追求されたから、ついこのマスクで噛み殺してしまったんだよ。あの公園での暗闇の中で一撃の元にその喉の気道を塞いでやったから下田七瀬刑事は叫び声を上げることも出来ずに絶命してしまったがな。それに俺は犬っコロを殺すことなんてなんとも思わない男だぜ。その性格はここにいる喰人魔獣達の扱いを見たら嫌でもわかるんじゃないかな」

「城島、貴様という奴は、あんなに親しかった下田七瀬刑事やお前になついていたあの三匹の警察犬達をあやめても、なんの罪の意識も感じないと言うのか!」

「うるさいな、お前はもうしばらく寝ていろや。黒鉄の探偵との決着が片付いたらお前は真っ先にライオンの餌にしてやるからよ。楽しみに待っていろよ!」

 そう言うと城島茂雄は西園寺長友警部補佐の首筋に電気警棒を当てると躊躇なく電源のスイッチを入れる。

 バチバチバチバチ! 

「や、やめろ。ぎゃああああーぁぁぁーっ!」

 激しい電流が流れる音に合わせるかのように激しい悲鳴を上げてのたうつ西園寺長友警部補佐は意識を失い気絶をするが、そんな様子を見ながら城島茂雄は邪悪な微笑みを浮かべながら不気味に笑う。
 そんな非道な限りを尽くす城島茂雄こと暴食の獅子に、勘太郎は決着をつけようと決意を込めて口を開く。

「おい、そろそろ決着を付けようぜ。城島茂雄!」

「ああ、いいだろう。では最後に、改めてその二つ名を名乗らせて貰うよ。俺は円卓の星座・狂人が一人・狂気の黒いライオンを操る、暴食の獅子だ! 黒鉄の探偵、ここがお前の墓場になるのだ。お前の体をこの牙で噛み砕いた後は、その死体を一番目のつく公園にでも捨ててやるよ。そんな訳で俺の自慢の作品達を紹介するよ。喰人魔獣は何もあの失敗作の56号だけではないんだぜ。今その証拠を見せてやるよ。いでよ、喰人魔獣ぅぅ、57号・58号・59号・60号出て来て黒鉄の探偵を完膚無きまでに噛み殺すんだ!」

  そう城島茂雄が叫ぶと、後ろの方からゴロ助によく似た黒いライオンこと喰人魔獣が4匹ほど現れ、まるでその主人を守るかのように城島茂雄の前へと立つ。

「へぇ? 喰人魔獣、57号・58号・59号・60号だと。喰人魔獣が四匹もいるのかよ。そんなのありかよ!」

 流石に面食らったのか慌てふためいている勘太郎を見ながら城島茂雄は、もう既に勝ち誇ったかのように陽気な態度をみせる。

「フフフ、ここにいる四匹の喰人魔獣達はお前が勝手に名前をつけたあの56号の用な臆病者の魔獣では決して無いぞ。そうまさに平気で人間を噛み殺す事が出来る用に様々な厳しい訓練を施した、完全な殺人犬だ。正に喰人魔獣の名を継ぐに相応しい犬達と言った所だろうか。臆病で失敗作の56号とはできが違うのだよ、出来がな。ハハハハハハハーッ!」

 ゴロ助を馬鹿にしながら豪快に笑う城島茂雄に、勘太郎は思いの丈を言ってのける。

「違うな。ゴロ助は優しいんだよ。賢くて、本当に優しいただの犬なんだ。それを弱さと嘲り笑うお前の方が滑稽で愚かだぜ。暴食の獅子!」

「ハハハハーッなんとでもほざくがいいわ。だが、この四匹の喰人魔獣達の囲いと、その犬達を操る暴食の獅子を相手に、お前は一体どうやってこの状況を生き延びる気なんだ。流石にこの状況は絶体絶命のような気がするが、もしかして俺の勘違いかな。こうなったらもう楽には殺さないぞ。喰人魔獣達の牙でジワジワといたぶってから、トドメは俺が持つ電気警棒とこのライオンのマスクの牙から作り出す。咀嚼力300キロの噛みつき攻撃で一撃の元にその喉元を食い破ってやるぜ!」

 そう言いながら暴食の獅子は電気警棒を構え、緊張しまくる勘太郎の回りを四匹の喰人魔獣達がそれぞれに間合いを計りながら「ガッオオォォォォーン、ガッオオオオォォーン! ガッオオオオォォォォーン!」と交互に雄叫びを上げるのだった!

 狂人・暴食の獅子が考えに考えた、人が獣に貪り食われる所を間近で見るために考案した究極の形です。自分自らがライオンとなって肉に食い付けば人の絶叫や嘆き悲しみを聞く事ができるという結論にいたりました。
 人が猛獣に食われる姿に異常な程のエクスタシーを感じる性癖を持ついかれた狂人なので、狂人達の中でもその残虐性は目を見張る物があります。
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