白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第七章 『狂人・壊れた天秤からの挑戦状』 短い制限時間の中で繰り広げられるオルゴールが関わる奇っ怪な密室殺人に白い羊と黒鉄の探偵が挑む!

7-4.音楽を志す、工藤茂雄のアリバイ

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「どうやら部屋の窓の鍵は内側からしっかりと掛かっているようだな。大屋の戸田幸夫の話によれば、玄関の入り口のドアの鍵もちゃんと閉まっていたらしいから、丸谷英字の持つ鍵と戸田幸夫の持つ合鍵以外にこの部屋の中に入る事は絶対にできないはずなんだが……これはどうした物かな?」

 腕組みをしながら考え深げに言うと勘太郎は、顔に白い布をかぶせてある丸谷英字の死体の傍で今も証拠を見つける為にしつこく観察をしている羊野瞑子に向けて話しかけるが、そんな声も今の彼女には一切聞こえてはいないようだ。
 羊野は、丸谷英字の死体と背もたれのある木製の椅子との間に落ちている305号室の鍵をマジマジと見つめながら何かを必死に考える。

「おい、聞いているのかよ羊野、一体何を考えているんだよ。その鍵は戸田幸夫さんの見立てではこの部屋の305号室の鍵らしいから、この部屋に住む丸谷英字さんが持っていた鍵でまず間違いはないだろう。ついさっき指紋がつかないように白手袋をはめて鍵を確かめたはずだよな」

「確かにそうなのですが、問題はそこではありません。この鍵の表面に付着している物が一体何なのか。それが気になるのですよ。白手袋で触ってみた感触だと、粘着性のある液体かなにかでしょうか。茶色い何かの液体にも見えますが?」

「まあ、本来なら鑑識にでも調べて貰えばなんの成分を含んだ液体かは直ぐに解るんだが、今回の密室殺人事件のルールで定められている狂人ゲーム中はそれすらも認められてはいないみたいだからな。だからこそ俺達は現場に残されている僅かな証拠やそれらに関わる数少ない人達の証言から話を聞き、その後は仮説を組み立てて考える以外に道は無いようだ。それで、お前の考えではその鍵についている液体は一体何だと思う」

「逆に質問しますが、黒鉄さんはどう思いますか」

「そうだな、その鍵は丸谷英字の死体の近くに落ちていたんだから、刺された丸谷英字の血が飛び散って、その一滴の血の下にでもたまたま鍵が落ちたんじゃないかな。血液は時間が経つと固まって粘着する性質があるし、色も劣化してドス黒くなっていくから、血が鍵にこびりついたのかもな」

「いいえ、これは血液ではありません。おそらくは醤油か・ソースか・食用油のような類いの物でしょうか。この鍵についている付着物からは焦げた油のような臭いがしますからね」

「焦げた油か……なら丸谷英字の昨日の夕食は油を使った何かだったんじゃないのか。たまたま床にその夕食で食べた何かの油が落ちて、その上にたまたま鍵が重なり落ちたんじゃないかな。きっとそうだよ」

「そうでしょうか?」

「そうだと思うぞ。それにその鍵が夕食後の油で少し汚れているからと言って、それが一体何だと言うんだ。この事件とはなんの関係もないだろう」

「関係が無いかどうかはまだ分からないじゃないですか」

「とにかくだ、もっと他のことに注意を向けようぜ。例えばだ、もしも合鍵を作らずに何らかの方法でこの部屋の鍵を閉めて逃走したのなら、犯人は一体どうやって丸谷英字を殺害後に部屋の鍵を閉めたのか。それが一番の謎だな。まあ、普通はこんな事は絶対にあり得ないんだが、相手はあのトリック犯罪好きの壊れた天秤だからな、絶対にこの密室殺人事件には何らかのトリックが隠されているはずだ!」

「そう考えるのなら、丸谷英字さんの死体の傍にあるこの鍵を使って必ず一度は外に出て部屋のドアの鍵を閉めているはずです。そして一体どうやってこの部屋の中の一番奥の洋間にいる丸谷英字さんの死体の傍に鍵を置く事が出来たのかが、この密室トリックの一番の謎であり、要ですわね」

「ならその謎が解けたらこの密室トリックはほぼ解決できると言う事か」

「まあ、そう言う事になりますわね。でも今回は制限時間が最短の約三時間である事といい、鑑識すらも現場に入れない事といい、もしかしたら今回、壊れた天秤が考えた密室トリックはそのネタが分かってしまったら案外単純で簡単に解けてしまうような代物なのかも知れませんね。それでも今日一日だけなら絶対にこのトリックを見破る事はできないという絶対的な自信があるからこそ、この仕掛けを今回の殺しの依頼人に託したのだと思いますよ」

「狂人・壊れた天秤に丸谷英字の殺害方法のプランを依頼し、そのトリックを実行した殺人犯か」

「そして私達も、物事の発想を変えてこの密室トリックに挑まないとこの短い時間で密室殺人トリックの謎を解くことはできませんよ。それにまだこの密室殺人事件を解く上での情報が足りませんから、とりあえずは大屋の戸田幸夫さんが言っていた、隣の部屋の306号室に住むと言う工藤茂雄なる人物に会って話を聞いて見る事にしましょう。それで……黒鉄さんはなぜ、その工藤茂雄なる人物の部屋にまだ行かないのですか。タイムリミットでもある朝の八時までは後二時間三十分しかないのですから事を急いだ方がいいと思うのですが……?」

「確かにそうなんだが、今はあの二人の刑事達がその工藤茂雄の部屋でまだ聞き込みをしているみたいだからな。そこにお邪魔するのはなんだか不味いと思って……」

「なんですか……まさかあの人達にビビっているのですか」

 ジト目で見るその羊野の言葉に、勘太郎はまるで子供の言い訳のように反論する。

「べ、別にビビってなんかないわい。ただちょっと苦手なだけだもん!」

「そうですか。でもそんな二人の刑事達の元に、意気揚々と赤城文子刑事が私達が現場に到着した事を知らせに行きましたよ」

「な、なんだって、わざわざ俺達が来た事を知らせに行ったのかよ。赤城先輩の奴、また川口警部に余計な事を言ってなきゃいいんだけど」

「なんだ、俺達に聞かれて、何か不味い事でもあるのか。て言うか大屋の戸田幸夫からもう既に工藤茂雄の話は聞いているんだよな。なら何故直ぐに聞き込みに来ない。狂人ゲーム終了のタイムリミットまで後二時間と三十分しかないんだぞ。だったらこんな所でいつまでも油を売っている時間は無いはずだ。そうだろう、白い羊と黒鉄の探偵!」

「ま、まさか、この声は……」

 そんな事をぼやいていた勘太郎の耳に聞き慣れた声が飛ぶ。その声の主は勘太郎が最も恐れ苦手としている、警視庁捜査一課・特殊班のリーダーにして赤城文子刑事の直の上司でもある川口大介警部である。そしてその隣には、いつも川口警部と共に行動をしているもう一人の直の部下、山田鈴音刑事が傍にいた。

 そうこの二人の刑事に赤城文子刑事を加えた三人こそが、あの不可能犯罪を掲げる闇の秘密組織・円卓の星座の狂人達を追う、警視庁捜査一課・特殊班と呼ばれている特別チームである。

 だがそんな特殊な刑事達も警視庁にはたったの三人しかいない。

 そうつまり、壊れた天秤から狂人ゲームへの参加を認められている刑事は、警察側ではこの三人しかいないのだ。
 
 だがそんな特殊班の刑事達も本来は白い羊と黒鉄の探偵の補助役として動いているのだが、もう既に工藤茂雄への聞き込みを終えて戻って来ていた二人の刑事達はその鋭い眼光を勘太郎と羊野に向ける。

 勘太郎はそんな二人の刑事達の登場に冷や汗を掻きながらも、その顔や服装をマジマジと見る。

 川口大介警部は厳つい顔をした小太りの中年男性で、山田鈴音刑事の方は大柄な体をした冴えない好青年と言った感じだ。勿論この二人もまた狂人ゲームへの参加が認められている数少ない刑事達なので、円卓の星座の狂人達が起こす事件には率先して出向き、もうこれ以上被害者が増えないようにと影ながらに白い羊と黒鉄の探偵の捜査を助ける。

 そんな二人の刑事とついに鉢合わせをしてしまった勘太郎は、苦虫を噛み潰したような顔をしている川口大介警部の顔を見ると直ぐさま挨拶をする。

「川口大介警部に山田鈴音刑事、お仕事ご苦労様です。俺達よりも早く現場に来て聞き込みをしていたんですね。流石は警視庁捜査一課の現役の刑事さんです。それにしてもまた証拠にもなく狂人ゲームが始まってしまったようですが、工藤茂雄からは何か有力な情報を聞くことは出来ましたか」

「ああ、まだお前達が知らない情報をいくつか聞くことが出来たぞ。そしてそれを今から話すから、耳をかっぽじってよ~く聞くんだな」

「あれ、いつもは……警察がいつも無条件にお前らを助けてくれる訳じゃないぞ。人の力に頼らずに、少しは自分達の力だけで調べてみろ! とか言っているのに今日はどうしたんですか。素直に情報を教えてくれるだなんて、珍しいですね」

「ふん、今回は流石に時間が無いからな。聞いた情報は直ぐに教えてやるよ。ただし必ずこの密室殺人事件を解決するんだぞ。いつも口を酸っぱく言っている事だが、失敗は絶対に許されないからな。わかったな。白い羊と黒鉄の探偵!」

「で、出会うなり行き成りそんな事を言われて、もう既に過度なストレスのせいで胃がキリキリと痛いのですが」

「それがどうした。胃が痛いのなら胃薬でも飲め。これもいつも言っている事だが、お前のその肩には多くの人の命が掛かっているんだから、もっと自分を追い込んで命を賭けてこの密室殺人事件に挑むくらいの気迫と覚悟を見せろと言う事だ!」

「多くの人の命ですか……」

「そうだ、多くの人の命だ。お前達がこの密室トリックを解けずにこの狂人ゲームにもしも負けるような事があったら、その時はまた罪の無い一般市民が日本全国にいる狂人達の手によって無差別に死ぬことになるんだからな。その事を忘れるなよ!」

「そんな事を言われても、俺達も血の通ったただの人間なんですから、状況と場合によっては狂人ゲームに負ける時だってありますよ。今回だってこの難解な密室殺人トリックを解けるかどうか……」

「いや、絶対に解け。何としてでも解け。やるからには絶対にお前らは勝たねばならんのだ。それが白い羊と黒鉄の探偵の存在意義であり、お前達に要求されるたった一つの使命なのだ。だから絶対にこの事件を解決して見せろ。わかったな!」

「そんな、無茶苦茶な……」

 その血も涙も無い川口大介警部の言葉に勘太郎がいつものようにお腹を押さえていると、隣にいた羊野瞑子がニコニコしながら川口大介警部に挨拶をする。

「こんにちは、川口大介警部に山田鈴音刑事。そんなに心配しなくても全て黒鉄さんに任せてくれたら、こんな地味で特に派手さの無い密室殺人事件なんて直ぐに解決して見せますわ。幾人もの狂人達と戦い高度な推理戦を勝ち抜いて来た名探偵でもある二代目・黒鉄の探偵にしてみたら、この事件はなんとも単調で物足りない事件だと思っているはずですよ。それに如何にも自信なさげに振る舞うのはいつもの事じゃないですか。これが事件を解く上での黒鉄さんのいつものスタイルなのですわ。だから余計な心配なんかはせずに大船に乗ったつもりでいて下さいな!」

 まるで当たり前のように言う羊野の言葉に勘太郎の体は震え、その顔はみるみる青ざめる。

(な、なにとんでもない事を言っちゃってるの。無理、無理だから……川口大介警部が来た傍から行き成り俺のハードルを滅茶苦茶上げてんじゃねえよ。もしこの事件を解決出来なかったら、お前はどうするつもりなんだよ。た、頼むから、これ以上俺をなんの根拠もなく持ち上げないでくれ。余りのプレッシャーとストレスで心臓が飛び出てしまうわ!)

 そんな勘太郎のテンパり具合に流石の川口大介警部も言葉を詰まらせる。これ以上、勘太郎を精神的に追い込むのは逆効果だと思ったからだ。

 川口大介警部は大きく溜息を吐きながら徐に頭を掻く。

「ああ、わかった、わかった。なら黒鉄の探偵のお手並み拝見と行こうか。当然その傍らには、白い腹黒羊、お前がついているんだよな。なら黒鉄の探偵が安心して捜査ができるように、お前がいろいろと知恵や力を貸してやってくれ。わかったな」

「元よりそのつもりですわ。いやですわ、川口警部ったら。でもまあ、矮小な私の助けなど黒鉄さんには必要ないかも知れませんけどね!」

「矮小ね……お前がか……」

「はい、私がですわ。私、何か可笑しな事でも言いましたか」

「……。」

「ホホホホ、なんですか、この間は?」

「おい、黒鉄の探偵!」

 行き成り川口大介警部に大きな声で名前を呼ばれ、勘太郎は思わず返事をする。

「は、はい、なんでしょう、川口警部!」

「いつも言っている事だが、この狂人・白い腹黒羊には充分に気をつけるんだぞ。今は大人しくお前の言う事を聞いているようだが、いつこの女の言葉の誘導で死に追いやられるかは解らないのだからな」

「はい、肝に銘じて起きます」

「いやですわ、川口警部ったら、いくら私でもなんの意味も無くそんな大それた真似はしませんよ。黒鉄さんにもしもの事があったら、私は警察に問答無用で捕まりますからね。なのでそんな馬鹿な事はしませんよ。まあ、今の所はですけど……」

 そんな羊野の煮えきれないふざけた態度に川口大介警部は腑に落ちない感じでいたが、気を取り直したのか、先ほど聞き込みをしたアマチュアミュージシャンでもある工藤茂雄のアリバイについて、傍にいる山田鈴音刑事に語って貰うようだ。

「ではこの話は、俺の隣にいる山田鈴音刑事にでも説明して貰おうか。山田鈴音刑事、いいかな」

「はい、分かりました。では工藤茂雄の、深夜一時から~三時までの間のアリバイについて語らせて貰います。黒鉄の探偵、よ~く聞けよ」

 山田鈴音刑事が工藤茂雄のアリバイについて話し出す。

「先ほど聞き込みをした工藤茂雄の話によれば、深夜の一時から三時までの間は、自宅の部屋でサイレント楽器を使用したエレキギターで演奏の練習をしながら新たな曲を作っていたそうです。彼はアマチュアではありますが、自分で曲を作詞作曲して作ることが出来る才能を持っているそうです。今回も、とある音楽のオーディションにその新しく完成したオリジナルの曲を携えて出場する予定らしいですから、その曲作りに勤しんでいたそうです」

「そのサイレント楽器とは一体何なんですか?」

「音を限りなく押さえた消音楽器の事だそうです。そのサイレント楽器を使えば、このアパートの部屋の中でも周りに気にする事無く音楽の練習が出来るのだそうです」

「なるほど、今はそんな便利な物があるのか。それならこの部屋の中でも音を気にする事無く存分に曲作りができると言う訳か」

「ええ、朝方までサイレント楽器のエレキギターを弾きながら徹夜で曲を作っていたそうです。そして二時から~二時四十五分ごろまで、工藤茂雄も確かに丸谷英字の部屋から流れてくるオルゴールの音色を聞いたのだそうです」

「オルゴールの音色ですか。大屋の戸田幸夫が言っていた、オルゴールの音色の事ですね。まあ、回りの住人から苦情の電話が来るくらいだから、当然その隣の部屋に住む工藤茂雄にも毎日のようにそのオルゴールの音色が聞こえていたんだよな。なら苦情を言っていたのは工藤茂雄かも知れないな」

「勿論工藤茂雄にもそのオルゴールの音色は聞こえていたそうですが、みんなが言うほど苦ではなかったそうです。その工藤茂雄自身が音楽に携わっていますからその後ろめたさから強くは言えなかったのだそうです」

「そうですか。まあ、オルゴールの事は置いといてだ。つまり、その工藤茂雄さんのアリバイを証明してくれる人は誰もいないと言う事ですね」

「まあ、そう言う事になるのだが。でも彼の話では、丸谷英字さんに恨みがある人に心当たりがあるとか言っていたな」

「あの丸谷英字さんに恨みがある人ですか」

「ああ、そうだ。大屋の戸田幸夫の聞いた話によれば、丸谷英字と工藤茂雄が何かの事でもめていたとか言っていたが、なんでも工藤茂雄が丸谷英字と最近喧嘩をしていたのは、プロの作詞家の視点から自分の書いた作詞を評価して欲しいと丸谷英字に見せた所、いろいろと厳しい駄目だしを言われて、それが原因で喧嘩をしたと工藤茂雄はそう証言しているよ。だが時間が経つに連れ、頭を冷やした工藤茂雄がせっかくいろいろと問題点を指摘してくれたのにムキになって大人げなかったと誤りに言って事なきを終えたと本人はそう語っている。そして駄目だしをした丸谷英字の方も言葉も選ばずに少し厳しく言い過ぎたと言って逆に謝られたから少し拍子抜けしてしまったとの話だ」

「なるほど、自分が書いた曲の作詞を丸谷英字に見せた所、厳しい駄目だしをされたから工藤茂雄はキレて喧嘩をしたと言う訳ですね。まあ、自分が手塩にかけて作った作品を頭ごなしに否定なんかされたら、そりゃ怒りたい気持ちも分からなくもないですがね。何かを生み出しつ来る、同じ志を持つクリエーターなら工藤茂雄の気持ちは充分に分かるだろうからな。でもその後は互いに仲直りも出来たようだし、工藤茂雄と丸谷英字にはもうわだかまりは無いはずだよな。ならその工藤茂雄が、丸谷英字に恨みがある人に心当たりがあると言っている人物は一体どこの誰なんですか?」

「丸谷英字の向かいの部屋の304号室に住む、阿部美香子という女性との事だ。骨董品を集めるのが趣味の彼女は少し変わったシリンダー型の小箱タイプのオルゴールを持っていて、そのオルゴールを丸谷英字に取られたと言って、いつも丸谷英字の部屋のドアの前で大きな声で彼の名を呼んでいるのを目撃した事があると、工藤茂雄はそう証言しているよ」

「そうですか。それで、その阿部美香子という女性の所にはもう聞き込みには行ったのですか?」

 その勘太郎の問いに山田鈴音刑事はあからさまに嫌な顔をする。

「何を言っているんだ。お前らが現場に来てしまったからにはもう俺達はこの事件に首を突っ込む訳にはいかないだろ。俺達はあくまでもお前ら白黒探偵の補助役で先だってこの事件を捜査する事はできないルールだからな。悔しいが後の捜査はお前らに任せるよ。後二時間三十分でどうにかこの事件を解決に導いてくれ。頼むぞ!」

「そ、そんな、無茶苦茶な。無理……絶対に無理だよ。後二時間三十分で、俺と羊野だけでこの密室殺人事件を解くのは!」

「泣き言を言ってんじゃねえぞ。そんな暇があったら頭と体を動かせ。白い羊と黒鉄の探偵に解決できない事件なんかは無いんだろ。お前の相棒が自信満々にたった今そう言っていたじゃないか。今までだって『白い羊のお陰で』なんとかなったんだから、彼女と協力したら、またなんとかなるかも知れないぞ。まあ、出来なかったら物凄く大変な事になるけどな!」

 皮肉を込めて山田鈴音刑事が勘太郎に冷たくそう言うと、部屋の中にある幾つものオルゴールを調べていた羊野が山田鈴音刑事にすかさず声を掛ける。

「では、山田鈴音刑事。その工藤茂雄さんをこの部屋に呼んできて下さいな。私達は貴方が言うように今とても忙しいので、今現在お暇なあなたにお願いしますわ。ただ重要参考人をここに連れてくるだけなら、あの壊れた天秤も特にうるさくは言っては来ないでしょうから、恐らくは大丈夫ですわ。まあ、あなたの主張も解りますが、私達が来たから……もうこれ以上このアパートの住人への聞き込みは一切しないと言うのなら、人をここに連れて来る事くらいは出来ますわよね」

「う、そ、それは……」

 つい口ごもる山田鈴音刑事の背中を平手で一発叩きながら、川口大介警部の声が飛ぶ。

「こいつらの捜査を補助し助けるのが俺達の仕事なんだから、山田鈴音刑事、名指しで工藤茂雄を連れて来てくれと呼ばれたお前が連れてこい。時間が無いんだから、早くしろよ!」

「は、はい、解りました。川口警部!」

 そう言うと山田鈴音刑事は急いで隣の部屋にいる、路上ミュージシャンの工藤茂雄を呼びに行く。

「全くあいつは、いつも一言多いんだよ。いつも臆病風に吹かれて、やる気を見せない黒鉄の探偵の尻を叩くのは俺の役目だといつも言ってあるだろうに。だがな、白い羊、狂人ゲームが始まってしまった以上、山田鈴音刑事の言うように俺達はもう聞き込みすらもする事ができないのは事実だ。今回この部屋にあった手紙とは別に、警視庁に直に送られてきた狂人ゲームのルールには、黒鉄の探偵と合流後、特殊班の刑事は重要参考人と思わしき人への聞き込みは一切出来ないと言う怪文書が円卓の星座側から届いたのだよ。だからもう、うかつな事は一切できないと言う事だ。だから別にお前らの足を引っ張って嫌がらせをしている訳じゃないからな。そこの所はわかってくれよ!」

「ええ、解っていますよ。川口警部は捜査には公平ですし、その事件への熱血ぶりには私も一目置いていますからね。

 そう言うと羊野は長い白銀の髪を掻き上げながら、妖艶に笑うのだった。
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