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第七章 『狂人・壊れた天秤からの挑戦状』 短い制限時間の中で繰り広げられるオルゴールが関わる奇っ怪な密室殺人に白い羊と黒鉄の探偵が挑む!
7-9.勘太郎、迫り来る制限時間に焦る
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「では黒鉄さん、もうそんなに時間も無いようですし、そろそろこの密室殺人トリックを暴く推理でもしますか。まずは容疑者と思われる人達のアリバイから話しますね」
玄関前での話を終えた勘太郎と羊野は、表札に305号室と書かれてある丸谷英字の部屋のリビングにいた。
勘太郎と羊野が戻ってきたことで直ぐさま洋間から出て来た赤城文子刑事は安堵の溜息をつきながら二人を出迎える。
今までたった一人で部屋の中を探していた赤城文子刑事は犯人に繋がる物を必死に探していたようだが、結局何も見つけられなかった責任からかその表情は何だか冴えない。
それもそのはず、犯人が丸谷英字を刺殺後に部屋を出て行く際に(この部屋の鍵を使って)ちゃんとドアを施錠してその場を逃げ去った事までは分かっているのだが、その鍵を一体どうやって丸谷英字の死体がある洋間の中に戻したのかがどうしても分からない。
そんな感情や疑問を押し殺しながらも密室殺人事件のトリックの謎を探していた赤城文子刑事は、羊野瞑子がそろそろ容疑者候補となる人達の話を順にしてくれると聞き、まずは黙って彼女の話を聞くことにしたようだ。
勘太郎はそんな赤城文子刑事の素直な姿勢を見ながら羊野に相づちをうつ。
「容疑者候補だと。それは音楽の事で丸谷英字とは非常に気が合い、しかも自作の詩から幾つもの曲を作り上げ、ソロで路上ミュージシャン活動をしているという工藤茂雄。骨董品を集めるのが趣味で、そのゴッホの絵が書かれてあるというシリンダー型のアンティークオルゴールを丸谷英字に盗まれだと言って騒いでいたという阿部美香子。金遣いが荒く度重なるギャンブルのせいで幾つもの金融会社に借金があり、しかも305号室から聞こえてくる度重なる騒音問題で丸谷英字とは非常に仲が悪かったという原本欽一。そして度重なるアパートの住人達からの苦情と、丸谷英字の迷惑この上ない反抗的な姿勢に嫌気がさし、ついには立ち退きをして貰う事を考えていたという大屋の戸田幸夫の四人の事だな。だがこのアパートには他にも住み着いている住人達はまだいたはずだ。なのになぜこの四人だけが丸谷英字を殺した犯人候補に登るんだ。他の住人達にはちゃんとしたアリバイがあると言う事なのか?」
「ええ、ありますよ。現在このアパートに住む他の住人達は皆二人で住んでいるからです。現在外に出ている川口大介警部の調べによれば、このアパートに住む住人達は母子家庭の訳ありの親子やシェアハウスをする大学生や、仕事のために日本に出稼ぎに来ているという外国人などが二人で暮らしています。1LDKでありながらも他のアパートに比べて家賃が格段に安い事もあり、二人で住む人にも人気のアパートだったみたいです」
「つまり、被害者の丸谷英字の他に一人暮らしで暮らす住人は、工藤茂雄・阿部美香子・原本欽一の四人だけで、後は皆二人以上で暮らしていたと言う事か。だから他の住人達には皆少なからずもアリバイがあると言う事か」
「はい、そう言う事ですわ。このアパートでは偶然にも一人暮らしの人はこの四名しかいないと言う事が分かりましたからね」
「工藤茂雄にアリバイを聞いた時に彼が、このアパートには一人暮らしの人が多いとか言っていたが、彼を含めてたったの四人しかこのアパートにはいなかったと言う事か」
「まあ、工藤茂雄さんもこのアパートに住む全ての住人達の顔を知っている訳では無いと思いますから、丸谷英字さんや阿部美香子さんの事を引き合いに出して、このアパートには一人暮らしの住人が多いと勝手に思っていたのではないでしょうか。自分が一人で1LDKに住んでいるんだから恐らくは他の住人達も皆一人暮らしなんだろうとそう勝手に思っていたのでしょうね」
「なるほど、つまりはその工藤茂雄と阿部美香子と原本欽一の三人だけが一人で暮らしている事から、彼らのアリバイを証明してくれる人が誰もいないという訳だな。そして外からの部外者による犯人説の方は、このアパート内に入るには玄関の入り口の自動ドアで暗証番号を打ち込まないと扉は開かない仕組みになっているので当然部外者は入れないし、それに他の住人達に紛れて一緒に中に入れたとしても上に設置してある監視カメラがその姿をバッチリと記録しているはずだから、もしも部外者による犯行ならその正体を割り出すことは容易にできる。だが表玄関と裏玄関に設置してある監視カメラには部外者らしき人の影は全く映ってはいなかったので部外者説は消えたと言う事になる。しかもこの犯人はただの物取りではなくダイレクトにゴッホの絵が描かれてあるというシリンダー型のアンティークオルゴールだけを狙って持ち去っている。なら丸谷英字を殺した犯人は自ずとそのアンティークオルゴールが丸谷英字の部屋にあるという事を事前に知っていた人物と言う事になる。その非常に価値のあるアンティークオルゴールが丸谷英字の部屋にある事を知っている人物はこのアパートに住む住人達と大屋の戸田幸夫だけだが、先ほども言っていたように他の住人達は皆二人以上が大半だから、残りのアリバイがない人達は工藤茂雄・阿部美香子原本欽一・そして彼にはアリバイはあるが……大屋の戸田幸夫の四人と言う事になる訳だ。そしてお前は彼らの中に必ず丸谷英字を殺した犯人がいるとそう考えている訳だな。そうだろう、羊野!」
「まあ、あくまでもまだ可能性の段階ですがね。その事を踏まえてその容疑者候補の四人のアリバイをもう一度おさらいしておきましょう。まずは工藤茂雄さんのアリバイからです」
「ああ、聞かせて貰おうか」
「丸谷英字さんの死亡推定時刻の一時から三時までの間、彼は306号室の自室で新たな曲を作る為に作詞作りに集中していたそうです。時々隣の部屋から聞こえて来る騒音対策のために耳にヘットフォンをしていた事もあり、隣の部屋から聞こえて来るはずの声や音は一つとして聞こえなかったそうです。ですが二時十分にトイレに行く時に耳からヘットフォンを外して行かれたそうなので、その時に丸谷英字さんのいる部屋の方角から白鳥の湖の音色が聞こえてきたとそう証言しています」
「ああ、そうだったな。でもいずれにせよ工藤茂雄にはこれと言ったアリバイがないから犯人候補に上がったんだが、だがだからと言ってあの丸谷英字を殺害する動機も特にはないんだよな。強いて言うなら、自分が作詞した曲の評価の為に見せた作詞を丸谷英字に酷評された事かな。確か曲名は、まだ見ぬ明日の軌跡だったかな。でもその事は互いに謝って事なきを得たと工藤茂雄がそう言っているから、互いを憎む動機としては余りに低いだろうしな。後考えられる可能性としては、工藤茂雄も実はあのアンティークオルゴールを密かに狙っていて、その奪い取るチャンスを虎視眈々と待っていたとも考えられるな。工藤茂雄もまた近くのコンビニでアルバイトをしながら苦しい生活をしていたらしいから、お金には相当困っていたはずだ。なら工藤茂雄としてはあの丸谷英字が阿部美香子から無理矢理に奪い取ったというアンティークオルゴールはかなり魅力的に映ったはずだ。丸谷英字を殺した空き巣犯の犯人が盗んだと見せかけて密かにそのアンティークオルゴールを奪い取る事が出来れば、紛失したアンティークオルゴールの罪を全てその架空の犯人に被せることが出来るからな。そう考えたとも考えられるな」
「そうでしょうか、ただ単に生活費が欲しいだけなら丸谷英字さんのお財布の方を直に狙った方が早いのではありませんか。なにせお金を直ぐに手に入れる事が出来るんですから。それにそのゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールは正規のオークションにでも出さない限りお金にはなりませんし、勿論そのオルゴールをどうやって手に入れたかという経緯も当然聞かれる訳ですから当然足もつきやすいと思いますよ。勿論裏ルートで売ると言う手もありますが、その手の絵に詳しいコレクターとなんの繋がりも無い工藤茂雄さんにはアンティークオルゴールを売ってお金に帰る知識や技量は無い物と考えますわ。まあ、とは言っても自分の描く夢の為に進んで冷や飯を食べている訳ですから、そんなにお金には関心が無い人だと思いますよ」
「つまり工藤茂雄は、阿部美香子から奪い取ったという丸谷英字が持っていたアンティークオルゴールにはなんの興味も示してはいないと言う事か」
「私はそう思いますよ。彼は自分が納得する音楽が作れて、そしてその曲が世間の人達に認められたら、それだけで幸せを感じるそんな極度のクリエーターのようですからね」
「だがこれと言ってアリバイのない工藤茂雄が今の所は一番怪しいと思うのだがな」
「そうですわね、彼にはアリバイがありませんわね。なにか犯人側から動きがあれば工藤茂雄さんのアリバイも真実の物となるのですが……」
「そうか、なら次は阿部美香子のアリバイだな」
「丸谷英字さんが殺された一時から三時までの間。304号室に住む阿部美香子さんは二時くらいに305号室に住む隣の丸谷英字さんの部屋から白鳥の湖のオルゴールの音色が聞こえて来た事で直ぐに丸谷英字さんの部屋を訪れたとそう証言しています。でもいくら呼び鈴を押しても部屋から丸谷英字さんは出て来ず、やっと出て来たと思ったら、ドアを開けて出て来たのは顔が分からないようにフェイスマスクを被った謎の男だったとそう証言しています。その両手にはB4サイズの封筒とゴッホの絵が描かれてある箱形のアンティークオルゴールを持っていたとの事です」
「ゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールの曲の音色が白鳥の湖だった事もあり、同じく白鳥の湖の音色が305号室から聞こえて来た事で丸谷英字の部屋を訪れた阿部美香子はそこでその犯人と遭遇し、その犯人が持っていたというアンティークオルゴールを取り戻そうと必死に抵抗をしたとの事だが、逆に首を絞められてそのまま気絶をさせられたんだったな。正直一歩間違っていたらあの世行きになっていたかも知れない。なのでここは運が良かったと素直に喜ぶべきかな」
「次に阿部美香子さんが意識を取り戻したのが十分後の二時十分との話でしたので、その間に犯人はアパート内の部屋の何処かに逃げ込んだという可能性が高いです」
「そうか、でも今フと思ったんだが、たとえこのアパートに住む住人にアリバイがあっても、話を聞く限りでは皆それなりに切羽詰まった事情があるみたいだからやはり彼らも丸谷英字を殺した容疑者になり得る可能性は充分にあるんじゃないのか。たとえ二人以上で暮らしている人でも、もしもそいつらが共犯だったとしたらオルゴールを狙う事は充分に可能なはずだ。母子家庭の親子に、シェアハウスをしている大学生の二人に、わざわざ外国から出稼ぎに来ている二人組の外国人とか、みんな喉から手が出るくらいにお金が欲しい人達のはずだ。苦しい境遇や条件が皆同じならこのアパートに住む他の住人達のアリバイも当てにはならないんじゃないかな」
「まあ、二人で住む他の住人達が共犯だったら勿論彼らも犯人候補に浮上はして来ますよね。でも彼らは犯人ではないと思うのですよ」
「なぜそう思うんだよ」
「話を聞く限りでは他の住人達は皆丸谷英字さんや阿部美香子さんにはそんなに接点がないからですわ」
「接点だと?」
「はい、つまり阿部美香子さんは直接ゴッホの絵の書かれてあるアンティークオルゴールの話は他の住人達には一切してはいなかったと言う事です。阿部美香子さんから聞いた話では、このアンティークオルゴールの話を直接したのは、丸谷英字さん・戸田幸夫さん・工藤茂雄さん・原本欽一さんの四人にだけだと言っていました。そしてその話が拡散して又聞きの更に又聞きの末にこのアパートの住人全てが知ることになったのだと推察されます。なので又聞き程度で聞いた他の住人達は阿部美香子さんという住人が持っていたというゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールの話を都市伝説程度の話だと思っていたと思いますよ。その証拠に丸谷英字さんの部屋から聞こえて来るオルゴールの音色の苦情の話はあっても、阿部美香子さんという女性が物凄く価値のあるアンティークオルゴールを持っているぞという話を聞いてはいるが、一体どれくらいの価値のある品物なのかと言う事は誰も知らないみたいですからね。情報が不確かで本当に価値がある物なのかどうかが分からない以上、丸谷英字さんの部屋に潜入し殺人をするリスクなんてわざわざ起こしませんからね。その犯行を躊躇無く出来るのは阿部美香子さんとそれなりに接点があり、その彼女からアンティークオルゴールの歴史的な価値を直に聞いていた、その四人の容疑者達だけですわ」
「なるほどな。でもその阿部美香子は丸谷英字に盗まれたオルゴールを取り戻す為にいろいろと騒ぎを起こしているんだよな。警察が駆けつける程の近隣トラブルをな。なら他の住人達もまたそのアンティークオルゴールの価値は本物だと知ることになるんじゃないのか」
「つい先ほど電話をして聞いた川口警部の話では他の住人達は皆、阿部美香子さんが丸谷英字さんと喧嘩をしていたのは騒音問題とオルゴールの貸した貸さないの趣味の話でただもめていただけだと思っていたとの事ですよ。何せお部屋もお隣にありますから、あの一階にいる原本欽一さんと同じように騒音問題の苦情でいつも喧嘩をしていたと他の住人達は皆思っていたとの事です。そしてアンティークオルゴールの件は、丸谷英字さんが回りに騒音トラブルを抱える程に丸谷英字さんがオルゴール好きなのは見なが知っている事ですから、ただの趣味程度の話だと他の住人達は皆が思っていたみたいです。つまり高値の価値のあるアンティークオルゴールの話の事でもめていると知っている人は、阿部美香子さんからその盗まれたと言う話を直接聞いていた、工藤茂雄さん・戸田幸夫さん・原本欽一さんの3人だけですわ。自分達がその事を知っていたから当然周りも知っていると思っていたのでしょうね。でも実際は違っていた」
「そうか、だからこその容疑者3人と一人と言う事か。ならアンティークオルゴールを取り戻す為に阿部美香子は丸谷英字を弾みで殺してしまったかも知れないな。その容疑者候補の一人でもある阿部美香子さんのアリバイについて語って貰おうか」
「阿部美香子さんは深夜の二時丁度に丸谷英字さんの部屋を訪れたそうですが、突然部屋の中から現れた犯人がそのゴッホの絵が書かれてある本物のアンティークオルゴールを手に持っていたとの事なので、その事を知った阿部美香子さんはその盗まれたアンティークオルゴールを取り戻す為に犯人に挑んだそうですが見事に返り討ちに遭い、首の皮膚がすり切れるくらいに首をきつく締められてついには気絶をしてしまったそうです。ですが実際にその犯人を見たのは阿部美香子さんだけですので、その証言が本当かどうかを知る手段も当然ありません。二時十分に意識を取り戻した阿部美香子さんは、その後は一階の205号室に住む原本欽一さんが同じく二時十分に自室に帰ってきたのを二階の廊下から確認しています。ですが何だか都合良く自分の視界に入ってきたと感じた阿部美香子さんは、もしかしたら原本欽一さんが自分を襲った犯人かも知れないと思い心の底から怯えたそうです。疑心暗鬼になりながらもその恐怖を誰にも告げる事も出来ずに阿部美香子さんはそそくさと304号室の自室へと逃げ帰ったそうです。そんな主張をする阿部美香子さんの話ですが……もしも犯人と遭遇したと言う話自体が実は真っ赤な嘘でたまたま見かけた原本欽一さんに丸谷英字さん殺しの罪を全てかぶせる為についた自作自演の嘘だったのだとしたら、阿部美香子さんも充分に犯人候補に浮上する事になります」
「自作自演か。確かに深夜に丸谷英字さんと口論の末につい弾みで丸谷英字を刺し殺してしまったのだとしたら、嘘の証言をしてでも自分のアンティークオルゴールは取り戻したいだろうからな。そしてその罪を深夜の二時十分に家路へと帰ってきた原本欽一に全てをかぶせようとした。でもお前のさっきの話ではこの殺しは突発的な物では無くかなり計画的に練られて行われている犯行だと言う話だから、阿部美香子がその謎の男と遭遇したと言う話も満更嘘ではないと言う話だったな」
「はい、少なくとも生きている丸谷英字さんが自室の鍵を開けない限り阿部美香子さんは丸谷英字さんの部屋には入れない訳ですし、原本欽一さんの話では一時五十分から二時までの間に丸谷英字さんの部屋の電気が消えたりついたりしていたと言っていましたから、その時間に丸谷英字さんはまだ生きていたか……或いは丸谷英字さんを殺した犯人がその場にいたかの二択になります。なら深夜の二時に丸谷英字さんの部屋を訪れた阿部美香子さんよりも早くに、丸谷英字さんの部屋の中にいた人物がいたと言う事になります」
「まあ、阿部美香子が言っているその証言が正しかったらの話だがな。その阿部美香子が二時では無く一時くらいにもう既に丸谷英字さんと部屋で接触していたとしたら彼女が犯人である可能性が最も高くなるんじゃないのか」
「いいえ彼女は犯人ではないと思いますよ。彼女の首元に残っている締め跡は明らかに人の手によりきつく絞められた手形の跡ですし、一人であの絞め跡は作れませんよ。そして激しく暴れた際にこすれて皮膚から少し血が滲んだそうですが、そんな絞め跡は自作自演では作れませんよ」
「そうだな、どうやら相手は軍手のような物をしていたらしいからな、その軍手から相手の指紋を読み取ることは流石にできないか。つまりはどう考えてももう一人協力者がいないと阿部美香子の自作自演は成立しないと言う事か。だからこそあの首に残された絞め跡は誰かに首を絞められた本当の手形の跡だと、お前はそう主張する訳だな」
「まあ、そう言うことですわ。あの殺しが阿部美香子さんの犯行だったのだとしたら、それが突発的な物であれ、計画的な物であれ、もう一人の共犯がいないと説明が付かないですからね。そしてあの犯人に絞められたという首に残された傷跡が皮肉にも彼女のアリバイを証明する結果になってしまいましたわ」
「なるほど、だが逆を言うのならもしも彼女に味方をする協力者がいたら彼女が犯人かも知れないわけだな」
「まあ、そんな協力者がもしいたらの話ですがね」
「なら次は原本欽一のアリバイだな」
「原本欽一さんの証言によれば深夜の一時に会社を出た原本欽一さんは一時四十五分にこのアパートから少し離れた場所にある駐車場に帰ってきたとそう証言しています。その駐車場から一階の205号室の部屋に帰ってくる道の途中で知り合いの友人から久しぶりに電話が掛かってきた事で原本欽一さんはその場で足を止めて約二十五分ほど路上で電話をしていたそうです」
「その時の原本欽一の証言によれば、路上から電話をしながら何気に遠くに見えるアパートの方を見ていたら二階にある305号室の部屋の電気が消えてその十分後に再び電気がついたとそう彼が証言しているんだったな。電気が消えていた時間は一時五十分から二時までで、電話を終えた原本欽一が部屋に戻ったのは二時十分くらいだとの話だったな」
「はい、それはあの阿部美香子さんも同じ事を証言していましたから、原本欽一さんの言っている事はまず間違いはないと思います」
「ならどう考えても原本欽一が阿部美香子を襲った犯人だと言う可能性はまず無いんじゃないのか。もしも彼が丸谷英字を殺し、しかも部屋から出るついでに阿部美香子さんの首を絞めた犯人だったのだとしたら、あの丸谷英字の部屋の電気の事を敢えて言う必要は無いんだからな」
「まあそれは原本欽一さんの証言をそのまま鵜呑みにしたら当然そうなるのですが、その疑いを払拭する為には、深夜の一時四十五分から~二時十分までの時間に原本欽一さんと電話で話をしていたという相手の素性を明らかにする事ですわ。それで彼のアリバイは証明されるのですから。そして今、川口大介警部にそのご友人の素性を調べて貰っている最中ですが、もしもその友人との電話が真っ赤な嘘だったのだとしたら原本欽一さんが犯人である可能性が出てきますわ」
「確かにな。仮に原本欽一が会社から一時四十五分に駐車場について真っ直ぐに丸谷英字の部屋に向かったのだとしたら、いくつか越えなければならないハードルがある。その一つが表玄関と裏玄関に仕掛けてある監視カメラの存在だ。この監視カメラがある入り口を通らなかったら一階にもましてや二階にも行く事は出来ないんだからな」
「あ、その解決方法は簡単ですよ。予め一階にある自分の部屋の205号室の窓の鍵を事前に開けておけば表玄関と裏玄関を通る事無く、自分の部屋の窓から中に入る事は可能ですよ。その一階にある自分の部屋の窓から侵入して、そのまま205号室の入り口から二階に行けば丸谷英字さんの部屋を訪れる事は可能ではないでしょうか」
「なるほどな、それなら監視カメラに自分の姿は映らないし、確かに丸谷英字の部屋に行く事は可能だが、駐車場からこのアパートまで約5分から10分くらいで到着する事ができたとして、一時五十五分に丸谷英字の部屋を訪れた原本欽一の呼びかけに、あの丸谷英字が素直にドアを開けたとは思えないんだが。そう第二のハードルはどうやって丸谷英字の部屋の鍵を開けさせたかだ。原本欽一がもしも犯人だったらの推理だと、その時にはまだ丸谷英字は生きていたと言う事になるから、原本欽一は丸谷英字の部屋の前に着いたら直ぐさま丸谷英字の部屋に入れて貰わないと不味い事になるよな」
「そうですわね。少なくとも一時五十分には丸谷英字さんを殺害し、アンティークオルゴールを無事に回収した原本欽一さんは他の犯人説を臭わせる為に二時丁度に別に用意した白鳥の湖の音色を奏でるオルゴールを部屋の中でならして速やかに部屋を退場しないといけませんからね」
「だが、その原本欽一の計算に思わぬ狂いが生じた。まさかその白鳥の湖の音色を聞いた阿部美香子が直ぐさま305号室の部屋を訪れてしつこく丸谷英字を呼び出し始めたからだ。その行為に焦った原本欽一はこれ以上ここにとどまることは非常に不味いと判断し、一か八か阿部美香子を襲い、そしてそのまま逃げる事にしたと言う事か」
「はい、そうとも考えられますわね。もしも原本欽一さんが犯人なら、アンティークオルゴールを盗んだ原本欽一さんはその場から一早く立ち去りたいが為に咄嗟に阿部美香子さんの首を勢いよく絞めたと考えられます。でもその行為はあくまでも阿部美香子さんを沈黙させる為の行為だった為についつい加減をしてしまった原本欽一さんは、意識を失った阿部美香子さんの生死を確認する事無く直ぐに一階にある自室へと戻った物と考えます。そして直ぐに自分の部屋の窓から外へと出て、そのまま何食わぬ顔をしながら駐車場からアパートへと帰ってきた事を証明する為に監視カメラにワザと映る事で自分のアリバイを作ったとも考えられます」
「そしてそのアパートに帰る姿をたまたま意識を取り戻した阿部美香子に見られたと言う事だな。だがその話には少し無理があるんじゃないのか。確かに原本欽一はギャンブルの借金問題でかなり悩んでいるようだが、それならアンティークオルゴールもそうだが、まずは即金で身近にある丸谷英字の財布の中身を狙うんじゃないのか。アンティークオルゴールの価値は阿部美香子の自慢話を聞いて恐らくは知ってはいただろうが現金に換える手段は分からなかったはずだ。ならいくらお金が欲しいという動機はあっても原本欽一の犯人説にはかなりの無理があると俺は思うんだがな。それに犯行時間にも無理があり過ぎる。一時四十五分に駐車場に帰ってきて一時五十五分に丸谷英字の部屋を訪れたのだとしたら丸谷英字の部屋に入るなり直ぐさま刺殺をしないといけないと言う事になる。つまり明確な殺意を持っていないと直ぐには殺せない訳だが、その呼び掛けにあの丸谷英字が素直に応じたとは流石に考え辛い。それに原本欽一は丸谷英字とは騒音問題でかなり仲が悪かったみたいだから、そんな相手の訪問にあの丸谷英字がわざわざ応じて直ぐさまドアを開けたとは流石に考えづらいぜ?」
「事前に電話などをして原本欽一さんと会う約束をしていたのかも知れませんよ。それなら一発で丸谷英字さんの部屋にお邪魔をする事は可能ですからね。そして洋間に案内された原本欽一さんは事前に持っていた包丁で丸谷英字さんを滅多刺しにして殺し、その後は何処かに隠してあったはずのアンティークオルゴールを回収してから他の犯人の犯行に見せかける為に偽物の白鳥の湖の音色を奏でるオルゴールをならしながら部屋を出る算段だったのだと思います。ですが突然入り口のドアの前に立ちはだかった阿部美香子さんの訪問に焦った原本欽一さんは阿部美香子さんを気絶させてから、直ぐに自分のアリバイを作る為にワザと表玄関を通って監視カメラに映ったとも考えられます」
「う~ん、それにその短い時間では305号室の部屋を出た際にその部屋の外から鍵を再び丸谷英字の死体がある傍まで戻すことは流石にできないだろう。早くしないといつ阿部美香子が意識を取り戻すか分からないし気が気ではなかったはずだ。そんな短い間に果たして原本欽一はそんな大それたトリックをあの短い時間だけで仕掛ける事が果たして出来るのだろうか?」
「もしかしたら短時間でそれらを可能にする仕掛けがあの部屋にはあったのかも知れませんよ。なにせこの犯人に協力をしているのは、あの狂人・壊れた天秤ですからね」
「そのお前が無理矢理に想像した原本欽一の犯人説の仮説を覆すには原本欽一が電話をしていたという友人の証言が絶対的に必要だと言う事だな」
「はい、その友人の証言が原本欽一さんの今後の人生を決める絶対的な証拠になると思いますよ」
「なら最後は大屋の戸田幸夫のアリバイだな。だが彼は丸谷英字さんの部屋を訪れて死体を発見した第一発見者でもあるし、歴としたアリバイもあるはずだ。なのに何故お前は戸田幸夫が犯人である可能性を主張するんだ。まさか本当に戸田幸夫の奥さんもこの事件に関わる共犯だと言うつもりじゃないだろうな」
「そんなつもりはありませんわ。ただ赤城文子刑事がその奥さんに電話をして確認を取った所、戸田幸夫のアリバイが崩れる穴が見つかってしまったのですよ」
「何だよ、一体その穴とは?」
その勘太郎の質問に今度は話を黙って聞いていた赤城文子刑事が話し出す。
「私が戸田家に電話をして、その奥さんに聞いた話によれば、今日一日、家から一歩も出なかった戸田幸夫は、今日は何だか気分が悪いから一人で自室で寝るよと言って自室で横になっていたとの事よ。一人で部屋で寝ていた時刻は夜の二十四時で、そこから二時四十五分ごろにアパートの住人から電話を貰った戸田幸夫が就寝中の奥さんを起こしたとの話なので戸田幸夫のアリバイは成立するという事になるわ。ただその奥さんの話だと、二十四時三十分にそろそろ寝ようと奥さんも旦那の部屋とは違う自室に入って布団に入ろうとした時に、旦那さんが部屋から廊下に出て来る音を奥さんは耳で確認をしているわ。奥さんの話によればトイレにでも行ったのかと思い、旦那のことは特に気にも止めなかったらしいんだけど、トイレから帰ってきた音を聞いていなかった事から、もしかしたらそのまま外に出かけたのかも知れないと、奥さんはそう証言をしているわ。もしかしたらまた隠れて愛人の元にでも行っているのではないかと疑っているみたいなのよ」
「愛人ですか。あの戸田幸夫にですか」
「少なくとも戸田幸夫の奥さんはそう考えているみたいね。そして奥さんが深い眠りからたたき起こされた時にはもう既に戸田幸夫は奥さんの寝ているベットの傍にいて、アパートの方でまたいつもの騒音トラブルが発生したから、ちょっと行って見てくるといい残して自宅を出たそうよ。その時の時刻は二時四十五分ごろだったとそう話しているわ」
「つまり、奥さんの話では、夜の二十四時に気分が悪いと言って自室で寝てしまった戸田幸夫は二時四十五分ごろまでは一人だったと言う事ですね。しかも二十四時三十分に戸田幸夫はトイレに起きたとそう証言をしてはいるが、奥さんの話ではトイレから帰ってきた音を聞いてはいないとの話なので、もしかしたら愛人の元にこっそりと遊びに行ったかも知れないと疑っていると言う事か。ならその疑わしき疑惑をなぜ自分の目で確かめなかったんだ?」
「その奥さん曰く、旦那の戸田幸夫の浮気は前にも何度か合ってもう確認するのも面倒くさいから敢えて放っておいたと言っていたわ」
「なんだか物凄く冷め切った対応だが、まあいいか。なら戸田幸夫が愛人の元では無く丸谷英字のいるアパートに行った物と仮定して、二十四時三十分にこっそりと自宅を抜け出した戸田幸夫は一体どうやって丸谷英字のいる部屋を訪れる事ができたんだ。戸田幸夫が丸谷英字を殺害するつもりなら深夜の一時から二時三十分の間までには既に丸谷英字の部屋にたどり着いていないといけないからな。だがいくら大屋の権限で各アパートのスペアーキーを持っているとはいえ、アパートの表玄関と裏玄関に設置してある監視カメラはどう頑張っても避ける事はできないだろう。そこはどう考えているんだ!」
その勘太郎の素朴な質問に待ってましたとばかりに今度は羊野瞑子が答える。
「簡単な話ですわ。戸田幸夫さんはこのアパートの全てのスペアーキーの鍵を持っている訳ですから、予め一階にある誰も入居者がいない無人の部屋の中に入ってその洋間の窓枠の鍵を開けておけば、その後は深夜にその部屋の洋間の窓から密かに潜入する事が出来るのですから、簡単に丸谷英字さんの部屋にたどり着く事が出来ますわ。後はそのスペアーキーを使って305号室の部屋の中に潜入する事が出来れば、洋間にいる丸谷英字さんを刺殺をする事は可能ですわ」
「つまり、原本欽一さんがもしも犯人ならと言う仮設の時に使った方法で、丸谷英字の部屋に潜入する為に大屋の戸田幸夫もまた同じ事が出来ると言う事か」
「はい、その通りですわ。そして丸谷英字さんの刺殺後にアンティークオルゴールを盗み出す事に成功した戸田幸夫さんは部屋に何らかの仕掛けを施すために一時五十分に洋間の電気を消したり付けたりしていたみたいですが、その電気の動きを外にいた原本欽一に見られた事で犯人が305号室にいたことがバレてしまいます。しかも今度は午前二時に偽物の白鳥の湖のオルゴールを鳴らす事によって今度はその音を一早く聞きつけた304号室に住む阿部美香子さんが丸谷英字さんの部屋の扉の前で呼び鈴を押し続け、その結果その場から阿部美香子さんは動かなくなってしまった。功を焦った戸田幸夫さんは仕方なく阿部美香子さんの首を勢いよく締めてそのまま気絶させてから、行きと同じルートでまた自宅へと帰ってきたと思われます。家に帰ってきた時刻は、おそらくは深夜の二時二十分から三十分ごろだったと思われます。そして丸谷英字さんを殺した動機はやはり丸谷英字さんの持っていたゴッホの絵が書かれてあるシリンダー型のオルゴールを手に入れる為でしょうね。その価値は阿部美香子さんの自慢話で散々聞かされていたと思いますから、その大金があれば今の口うるさい奥さんとは別れて愛人を喜ばせる為にいろいろと貢ぐ事が出来ますからね」
「なるほどな、一度家へと帰ってきたのは、やがて白鳥の湖のオルゴールの音色で来るであろうアパートの住人達からの苦情の電話で無理矢理に起こされた自分のアリバイを作り上げる為とそのアリバイを共有することで奥さんを叩き起こした戸田幸夫は、奥さんを自分のアリバイの目撃者にするためにその証拠をでっち上げる為か。だが、その偽装工作も浮気を疑っている奥さんには見事に見抜かれてしまったとお前はそう仮定をする訳だな」
「まあ、大屋の戸田幸夫さんの犯行もあくまでも私の仮説の段階なのでなんと見えませんが、仮にもし奥さんの言っているように旦那の戸田幸夫さんが本当に愛人の元に行っていただけだったのだとしたら、戸田幸夫さんのアリバイは今度こそ本当に成立するのですが、その肝心の戸田幸夫さんとは何故か連絡が取れません。一体彼はどこに言ってしまったのでしょうか。その戸田幸夫さんの愛人とやらにコンタクトが取れれば戸田幸夫さんの無実が証明されるのですがね」
「まあ、その代わりにお前のその容赦の無い追求のせいで戸田夫婦の仲は完全に壊れて、熟年離婚をする羽目になるかも知れないがな!」
「ほほほほ、そうなったらそうなったで、戸田幸夫さんは奥さんの陰に怯えること無くその愛人と関係を保つことが出来ますし、奥さんの方は慰謝料をたっぷり貰ってウザい旦那と別れてまた新たな道を旅立つ事が出来るのですから、一石二鳥じゃないですか。私が真実を突き付ける事によってあの夫婦もようやくそれぞれの道を決める決断が出来るかも知れないのですから、ここは私に感謝をして貰いたいくらいですわ!」
「お前……これからこの捜査で人の家庭をぶち壊すかも知れないという時に、相変わらず屁理屈だけは上手いな。まあ血も涙も無い発言ではあるがな」
羊野瞑子の容疑者候補の可能性と仮説が終わった所で、勘太郎は今度は赤城文子刑事に向けてこの部屋に仕掛けられている……かも知れないトリックの仕掛けについて話し出す。
「それで、赤城先輩はこの部屋で密室殺人トリックの謎を調べていたんですよね。なにか分かったことはありましたか」
「いいえ、特に怪しい仕掛けの様な物は何一つ見つかってはいないし犯人に繋がる証拠も見つかってはいないわ。私なりにこの密室殺人トリックの謎をいろいろと考えてはみたんだけど、どうにも分からなくてね、途方に暮れていた所よ」
そんな赤城文子刑事の弱気な言葉に、自信ありげに一つ咳払いをした黒鉄勘太郎は臆すること無く自分の想像に基づいた推理を話し出す。
「フフフフ、オルゴールですよ」
「へぇ?」
「だから箱形のシリンダーオルゴールの箱の中に何らかの仕掛けが隠されているんですよ。例えば箱の蓋がしまったままでもオルゴールのドラムが回る仕組みになっていて、その音楽が奏でるドラムの回転に合わせて細い糸でつながっている鍵がゼンマイで巻かれたドラムの動力の力で部屋の鍵をまるで釣り糸のルアーのように洋間にあるシリンダー型のオルゴールの箱の中まで巻き取ったと俺は推察します。普通の箱形のオルゴールは蓋を閉めたらゼンマイが巻かれていようが中のドラムが回転を止めてしまう仕組みになっていると思いますが、その普通のオルゴールの常識と思い込みを突いたトリックなのではないでしょうか!」
「勘太郎、その鍵が付いた細い糸って勘太郎の考えでは、洋間にあるシリンダー型のオルゴールの中のドラムから伸びていて、洋間やリビングルームを飛び越えて、換気扇の隙間から鍵を出して、その糸付きの鍵で外から鍵を閉めたって事よね」
「はい、そう言う事です。外に備え付けられてある換気扇のフィルターは少し外れていたみたいだし。糸をシリンダー型のオルゴールから伸ばしてリビングルームのキッチンにある換気扇から鍵付きの糸を通して、外にある換気扇のフィルターカバーの中に上手く設置してから一度部屋の中に戻ります」
「鍵を外にある換気扇のフィルターにセットしてから再び部屋の中に戻るのね。それで、それからどうするの?」
「部屋の中に戻ったら洋間にあるシリンダー型のオルゴールのゼンマイをしっかりと巻いて、白鳥の湖の音色が鳴り出したら急いで玄関に向かい。鍵付きの糸がオルゴールのドラムで巻き取られる前にその鍵で部屋のドアの施錠を可能にしたのではないでしょうか」
「なるほどね。急いで鍵を閉めたらその糸付きの鍵はまた見えないように換気扇のフィルターカバーの中に入れてその場から立ち去れば、後はシリンダーオルゴールのゼンマイの力で音楽が鳴り続ける限りは自動でその鍵付きの糸を洋間の部屋の中まで巻き取ってくれるでしょうからね」
「そして白鳥の湖の音色に合わせて鍵付きの糸を巻き上げたシリンダー型のオルゴールはその四十五分というゼンマイの動力の長さを生かして外に備え付けられてある換気扇のフィルターカバーから換気扇のプロペラの下枠をゆっくりと通って、そのまま洋間の部屋と廊下を隔てた(隙間が約10ミリはあると思われる)扉の下を通って、約四十五分もの時間を掛けて箱形のオルゴールのドラムの中へと巻き取られた物と推察します。だけどこの想像には一つだけ疑問が残ります。その細い糸付きの鍵は一体どうやって、都合よく丸谷英字の死体がある近くで落とす事が出来たのでしょうか。それだけが未だに謎です」
そんな勘太郎の自身に満ちた発言に赤城文子刑事は大きく溜息をつきながらも申し訳なさそうに話だす。
「実は私もそう思ってこの洋間にある全てのオルゴールの中を探してみたんだけどドラムと付属をしているスペースに糸のような物は一切巻き取られてはいなかったわ」
「この部屋にある全てのオルゴールを探してもですか」
「ええ、どのオルゴールにもそんな仕掛けは無かったし、白鳥の湖の音色を奏でるオルゴールも見つからなかったわ」
「そんな馬鹿な……なら丸谷英字の部屋から出て来た犯人が持っていたというゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールとは別に、白鳥の湖の音色を奏でる偽物のオルゴールは一体何処にあると言うんだ。まさか他に見落としの所があるんじゃないだろうな。そうだ、オルゴールだけに着目するからいけないんだ。もしかしたら扇風機のプロペラの回転を利用したり、熱帯魚のいる水槽の中にでも入っているんじゃないのか。実はその糸は透明でナイロン製かフロロカーボン製の釣り糸を使っていて、光の屈折でその釣り糸を見えないように細工をしているのかも知れない。例えば水槽の中に水と油が屈折を起こす分量の割合で入っていて、その光の屈折でナイロン製の釣り糸が見えないようになっているのだとしたら人の目を誤魔化す事ももしかしたら可能なのかも知れない。そして水槽の中にある模型の石には実は小型のシリンダーオルゴールが内蔵されていて、その動力の力でそのナイロン製の釣り糸をその水槽の中へと巻き取ったんだ。そうだ。きっとそうだよ!」
その次なる勘太郎の発言に赤城文子刑事は首を静かに横に振るう。
「いいえ、私もそう思って一応は扇風機の機械も熱帯魚が入っている水槽の中も全て調べてみたんだけど、扇風機にはそんな細い糸は絡まってはいないし、水槽の中もちゃんとした水だったわ。て言うか熱帯魚が泳いでいる時点でこの水の中に油が混じってる事はまず考えられないでしょ」
「なら掃除機の中だ。掃除機のゴミを入れるタンクのスペースを取り除いて小型のシリンダー型のオルゴールを入れる事が出来たら、ゴミを吸う掃除機のホースの中から糸を伸ばしてそのまま巻き取れば糸は掃除機の中にあるシリンダー型のオルゴールに戻るから、掃除機を隠れ蓑に使っているんじゃないのか。きっとそうだぜ!」
「掃除機の中ね、それは盲点だったわ」
そう言いながら赤城文子刑事は近くの壁に立てかけられてある掃除機のゴミタンクの蓋を開けて中を調べてみたが、そこにシリンダー型のオルゴールの箱は無かった。
「ば、馬鹿な。ならシリンダー型のオルゴールは一体何処にあると言うんだ。それとも鍵に糸を括り付けてシリンダー型のオルゴールのドラムで巻き取るという発想事態が間違っていると言うのか。あの白鳥の湖の音色は関連付けてそう思わせる為のただの囮で、本当はもっと別の方法で密室内にいる丸谷英字の死体の傍に鍵を置く方法があるのかも知れない。それは一体どんな方法なんだ。くそ、もう時間が三十分しかないと言うのにそのトリックの仕掛けが全く分からないぜ。時間が……時間が圧倒的に足りなすぎる!」
「勘太郎、焦らないの。もう一度洋間の中を一から徹底的に調べ上げて、その隠されていると思われる仕掛けを探し出すのよ。もしかしたら何か重大な見落としがあるのかも知れないから!」
「くそ、ちくしょう、ちくしょう。時間が、狂人ゲームのタイムリミットが迫って来ているというのに。一体どうすればいいんだ!」
狂人ゲーム終了時間まで後三十分しかない事にかなりの焦りを見せる勘太郎と赤城文子刑事は数あるオルゴールの山を見ながら半ばヤケクソのような気持ちで部屋の中を探し出す。
するといつの間にかリビングルームの方に行っていた羊野が木製の扉を開けて戻ってくる。
「フフフフ、どうやら昨夜の丸谷英字さんの夕食はミートソースのパスタだったみたいですわね。なぜならゴミ箱の中にレトルトのミートソースのカラが捨ててありましたし、使い切りの七ミリパスタのカラの袋が捨ててありましたからね」
真剣に悩んでいる時にそんな突拍子の無い事を行き成り言われた勘太郎は、焦りのためかその余裕の無い表情を羊野に向ける。
「羊野、今は丸谷英字の昨夜の食事の情報は入らないから真面目に捜査に集中しろよ。後三十分しか時間がないんだぞ。俺達は後三十分でこの密室殺人トリックの謎を解かないといけないんだからな!」
その勘太郎の呼び掛けに羊野は何やらキョトンとした顔をしながら勘太郎の方を不思議そうに見る。
「ああ、その事ですか。まだそんな事で悩んでいたのですね。それならもうこの密室トリックの謎は解けましたから、この部屋に工藤茂雄さん・阿部美香子さん・原本欽一さん・戸田幸夫さんの四人を呼んで来て下さいな。犯人捜しの答え合わせを始めますわよ!」
「ま、マジか。羊野、お前まさかこの密室殺人事件のトリックの謎と丸谷英字を刺殺した犯人の正体が分かったのか!」
「はい、分かりました。このリビングルームにある台所に立って全てが分かりましたわ」
「本当なの羊野さん、その話は!」
「リビングルームの台所だって? そこに一体何があると言うんだよ。答えろよ、羊野!」
話をもったいぶる羊野から早く答えを聞き出そうとする勘太郎と赤城文子刑事だったが、そんな二人の焦りに合わせるかのように外の方でドアを激しく叩きながら呼び鈴のチャイムを鳴らす誰かが305号室を訪れる。
ピンポン……ピンポン……ピンポン……ピンポン……ピンポン!
ダン・バン・ダン・ダン・バン・ダン・ダン!
「探偵さん、黒鉄の探偵さんはいますか。至急お伝えしたい事があるのですが、よろしいでしょうか!」
工藤茂雄のこのハイテンション具合からも分かるようにただ事では無い事を察した勘太郎は、ドア越しに工藤茂雄の話を聞く。
「一体どうしたと言うんですか。今はこちらも大変忙しいのですが……」
「そんな事を言っている時ではありませんよ。見つかったんですよ。あのゴッホの絵が書かれてある箱形のアンティークオルゴールが!」
「な、なんだって。あのゴッホの絵が書かれてあるというアンティークオルゴールが見つかったのか。でも一体どこから?」
「それは本当なの、工藤茂雄さん!」
その予想だにもしなかった工藤茂雄の言葉に勘太郎と赤城文子刑事が驚愕の声を上げていると、工藤茂雄が次なる言葉を付け加える。
「ええ、見つかりましたよ。ただし阿部美香子さんの部屋の中からね!」
「な、なんだって。阿部美香子さんの部屋の中からだとう!」
更にびっくりしながら驚きの声お上げる勘太郎と赤城文子刑事だったが、少し後ろの方で話を聞いていた羊野は「ついに動き出しましたか……」と言いながら手に持つ白い羊のマスクを深々と被るのだった。
「では黒鉄さん、もうそんなに時間も無いようですし、そろそろこの密室殺人トリックを暴く推理でもしますか。まずは容疑者と思われる人達のアリバイから話しますね」
玄関前での話を終えた勘太郎と羊野は、表札に305号室と書かれてある丸谷英字の部屋のリビングにいた。
勘太郎と羊野が戻ってきたことで直ぐさま洋間から出て来た赤城文子刑事は安堵の溜息をつきながら二人を出迎える。
今までたった一人で部屋の中を探していた赤城文子刑事は犯人に繋がる物を必死に探していたようだが、結局何も見つけられなかった責任からかその表情は何だか冴えない。
それもそのはず、犯人が丸谷英字を刺殺後に部屋を出て行く際に(この部屋の鍵を使って)ちゃんとドアを施錠してその場を逃げ去った事までは分かっているのだが、その鍵を一体どうやって丸谷英字の死体がある洋間の中に戻したのかがどうしても分からない。
そんな感情や疑問を押し殺しながらも密室殺人事件のトリックの謎を探していた赤城文子刑事は、羊野瞑子がそろそろ容疑者候補となる人達の話を順にしてくれると聞き、まずは黙って彼女の話を聞くことにしたようだ。
勘太郎はそんな赤城文子刑事の素直な姿勢を見ながら羊野に相づちをうつ。
「容疑者候補だと。それは音楽の事で丸谷英字とは非常に気が合い、しかも自作の詩から幾つもの曲を作り上げ、ソロで路上ミュージシャン活動をしているという工藤茂雄。骨董品を集めるのが趣味で、そのゴッホの絵が書かれてあるというシリンダー型のアンティークオルゴールを丸谷英字に盗まれだと言って騒いでいたという阿部美香子。金遣いが荒く度重なるギャンブルのせいで幾つもの金融会社に借金があり、しかも305号室から聞こえてくる度重なる騒音問題で丸谷英字とは非常に仲が悪かったという原本欽一。そして度重なるアパートの住人達からの苦情と、丸谷英字の迷惑この上ない反抗的な姿勢に嫌気がさし、ついには立ち退きをして貰う事を考えていたという大屋の戸田幸夫の四人の事だな。だがこのアパートには他にも住み着いている住人達はまだいたはずだ。なのになぜこの四人だけが丸谷英字を殺した犯人候補に登るんだ。他の住人達にはちゃんとしたアリバイがあると言う事なのか?」
「ええ、ありますよ。現在このアパートに住む他の住人達は皆二人で住んでいるからです。現在外に出ている川口大介警部の調べによれば、このアパートに住む住人達は母子家庭の訳ありの親子やシェアハウスをする大学生や、仕事のために日本に出稼ぎに来ているという外国人などが二人で暮らしています。1LDKでありながらも他のアパートに比べて家賃が格段に安い事もあり、二人で住む人にも人気のアパートだったみたいです」
「つまり、被害者の丸谷英字の他に一人暮らしで暮らす住人は、工藤茂雄・阿部美香子・原本欽一の四人だけで、後は皆二人以上で暮らしていたと言う事か。だから他の住人達には皆少なからずもアリバイがあると言う事か」
「はい、そう言う事ですわ。このアパートでは偶然にも一人暮らしの人はこの四名しかいないと言う事が分かりましたからね」
「工藤茂雄にアリバイを聞いた時に彼が、このアパートには一人暮らしの人が多いとか言っていたが、彼を含めてたったの四人しかこのアパートにはいなかったと言う事か」
「まあ、工藤茂雄さんもこのアパートに住む全ての住人達の顔を知っている訳では無いと思いますから、丸谷英字さんや阿部美香子さんの事を引き合いに出して、このアパートには一人暮らしの住人が多いと勝手に思っていたのではないでしょうか。自分が一人で1LDKに住んでいるんだから恐らくは他の住人達も皆一人暮らしなんだろうとそう勝手に思っていたのでしょうね」
「なるほど、つまりはその工藤茂雄と阿部美香子と原本欽一の三人だけが一人で暮らしている事から、彼らのアリバイを証明してくれる人が誰もいないという訳だな。そして外からの部外者による犯人説の方は、このアパート内に入るには玄関の入り口の自動ドアで暗証番号を打ち込まないと扉は開かない仕組みになっているので当然部外者は入れないし、それに他の住人達に紛れて一緒に中に入れたとしても上に設置してある監視カメラがその姿をバッチリと記録しているはずだから、もしも部外者による犯行ならその正体を割り出すことは容易にできる。だが表玄関と裏玄関に設置してある監視カメラには部外者らしき人の影は全く映ってはいなかったので部外者説は消えたと言う事になる。しかもこの犯人はただの物取りではなくダイレクトにゴッホの絵が描かれてあるというシリンダー型のアンティークオルゴールだけを狙って持ち去っている。なら丸谷英字を殺した犯人は自ずとそのアンティークオルゴールが丸谷英字の部屋にあるという事を事前に知っていた人物と言う事になる。その非常に価値のあるアンティークオルゴールが丸谷英字の部屋にある事を知っている人物はこのアパートに住む住人達と大屋の戸田幸夫だけだが、先ほども言っていたように他の住人達は皆二人以上が大半だから、残りのアリバイがない人達は工藤茂雄・阿部美香子原本欽一・そして彼にはアリバイはあるが……大屋の戸田幸夫の四人と言う事になる訳だ。そしてお前は彼らの中に必ず丸谷英字を殺した犯人がいるとそう考えている訳だな。そうだろう、羊野!」
「まあ、あくまでもまだ可能性の段階ですがね。その事を踏まえてその容疑者候補の四人のアリバイをもう一度おさらいしておきましょう。まずは工藤茂雄さんのアリバイからです」
「ああ、聞かせて貰おうか」
「丸谷英字さんの死亡推定時刻の一時から三時までの間、彼は306号室の自室で新たな曲を作る為に作詞作りに集中していたそうです。時々隣の部屋から聞こえて来る騒音対策のために耳にヘットフォンをしていた事もあり、隣の部屋から聞こえて来るはずの声や音は一つとして聞こえなかったそうです。ですが二時十分にトイレに行く時に耳からヘットフォンを外して行かれたそうなので、その時に丸谷英字さんのいる部屋の方角から白鳥の湖の音色が聞こえてきたとそう証言しています」
「ああ、そうだったな。でもいずれにせよ工藤茂雄にはこれと言ったアリバイがないから犯人候補に上がったんだが、だがだからと言ってあの丸谷英字を殺害する動機も特にはないんだよな。強いて言うなら、自分が作詞した曲の評価の為に見せた作詞を丸谷英字に酷評された事かな。確か曲名は、まだ見ぬ明日の軌跡だったかな。でもその事は互いに謝って事なきを得たと工藤茂雄がそう言っているから、互いを憎む動機としては余りに低いだろうしな。後考えられる可能性としては、工藤茂雄も実はあのアンティークオルゴールを密かに狙っていて、その奪い取るチャンスを虎視眈々と待っていたとも考えられるな。工藤茂雄もまた近くのコンビニでアルバイトをしながら苦しい生活をしていたらしいから、お金には相当困っていたはずだ。なら工藤茂雄としてはあの丸谷英字が阿部美香子から無理矢理に奪い取ったというアンティークオルゴールはかなり魅力的に映ったはずだ。丸谷英字を殺した空き巣犯の犯人が盗んだと見せかけて密かにそのアンティークオルゴールを奪い取る事が出来れば、紛失したアンティークオルゴールの罪を全てその架空の犯人に被せることが出来るからな。そう考えたとも考えられるな」
「そうでしょうか、ただ単に生活費が欲しいだけなら丸谷英字さんのお財布の方を直に狙った方が早いのではありませんか。なにせお金を直ぐに手に入れる事が出来るんですから。それにそのゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールは正規のオークションにでも出さない限りお金にはなりませんし、勿論そのオルゴールをどうやって手に入れたかという経緯も当然聞かれる訳ですから当然足もつきやすいと思いますよ。勿論裏ルートで売ると言う手もありますが、その手の絵に詳しいコレクターとなんの繋がりも無い工藤茂雄さんにはアンティークオルゴールを売ってお金に帰る知識や技量は無い物と考えますわ。まあ、とは言っても自分の描く夢の為に進んで冷や飯を食べている訳ですから、そんなにお金には関心が無い人だと思いますよ」
「つまり工藤茂雄は、阿部美香子から奪い取ったという丸谷英字が持っていたアンティークオルゴールにはなんの興味も示してはいないと言う事か」
「私はそう思いますよ。彼は自分が納得する音楽が作れて、そしてその曲が世間の人達に認められたら、それだけで幸せを感じるそんな極度のクリエーターのようですからね」
「だがこれと言ってアリバイのない工藤茂雄が今の所は一番怪しいと思うのだがな」
「そうですわね、彼にはアリバイがありませんわね。なにか犯人側から動きがあれば工藤茂雄さんのアリバイも真実の物となるのですが……」
「そうか、なら次は阿部美香子のアリバイだな」
「丸谷英字さんが殺された一時から三時までの間。304号室に住む阿部美香子さんは二時くらいに305号室に住む隣の丸谷英字さんの部屋から白鳥の湖のオルゴールの音色が聞こえて来た事で直ぐに丸谷英字さんの部屋を訪れたとそう証言しています。でもいくら呼び鈴を押しても部屋から丸谷英字さんは出て来ず、やっと出て来たと思ったら、ドアを開けて出て来たのは顔が分からないようにフェイスマスクを被った謎の男だったとそう証言しています。その両手にはB4サイズの封筒とゴッホの絵が描かれてある箱形のアンティークオルゴールを持っていたとの事です」
「ゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールの曲の音色が白鳥の湖だった事もあり、同じく白鳥の湖の音色が305号室から聞こえて来た事で丸谷英字の部屋を訪れた阿部美香子はそこでその犯人と遭遇し、その犯人が持っていたというアンティークオルゴールを取り戻そうと必死に抵抗をしたとの事だが、逆に首を絞められてそのまま気絶をさせられたんだったな。正直一歩間違っていたらあの世行きになっていたかも知れない。なのでここは運が良かったと素直に喜ぶべきかな」
「次に阿部美香子さんが意識を取り戻したのが十分後の二時十分との話でしたので、その間に犯人はアパート内の部屋の何処かに逃げ込んだという可能性が高いです」
「そうか、でも今フと思ったんだが、たとえこのアパートに住む住人にアリバイがあっても、話を聞く限りでは皆それなりに切羽詰まった事情があるみたいだからやはり彼らも丸谷英字を殺した容疑者になり得る可能性は充分にあるんじゃないのか。たとえ二人以上で暮らしている人でも、もしもそいつらが共犯だったとしたらオルゴールを狙う事は充分に可能なはずだ。母子家庭の親子に、シェアハウスをしている大学生の二人に、わざわざ外国から出稼ぎに来ている二人組の外国人とか、みんな喉から手が出るくらいにお金が欲しい人達のはずだ。苦しい境遇や条件が皆同じならこのアパートに住む他の住人達のアリバイも当てにはならないんじゃないかな」
「まあ、二人で住む他の住人達が共犯だったら勿論彼らも犯人候補に浮上はして来ますよね。でも彼らは犯人ではないと思うのですよ」
「なぜそう思うんだよ」
「話を聞く限りでは他の住人達は皆丸谷英字さんや阿部美香子さんにはそんなに接点がないからですわ」
「接点だと?」
「はい、つまり阿部美香子さんは直接ゴッホの絵の書かれてあるアンティークオルゴールの話は他の住人達には一切してはいなかったと言う事です。阿部美香子さんから聞いた話では、このアンティークオルゴールの話を直接したのは、丸谷英字さん・戸田幸夫さん・工藤茂雄さん・原本欽一さんの四人にだけだと言っていました。そしてその話が拡散して又聞きの更に又聞きの末にこのアパートの住人全てが知ることになったのだと推察されます。なので又聞き程度で聞いた他の住人達は阿部美香子さんという住人が持っていたというゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールの話を都市伝説程度の話だと思っていたと思いますよ。その証拠に丸谷英字さんの部屋から聞こえて来るオルゴールの音色の苦情の話はあっても、阿部美香子さんという女性が物凄く価値のあるアンティークオルゴールを持っているぞという話を聞いてはいるが、一体どれくらいの価値のある品物なのかと言う事は誰も知らないみたいですからね。情報が不確かで本当に価値がある物なのかどうかが分からない以上、丸谷英字さんの部屋に潜入し殺人をするリスクなんてわざわざ起こしませんからね。その犯行を躊躇無く出来るのは阿部美香子さんとそれなりに接点があり、その彼女からアンティークオルゴールの歴史的な価値を直に聞いていた、その四人の容疑者達だけですわ」
「なるほどな。でもその阿部美香子は丸谷英字に盗まれたオルゴールを取り戻す為にいろいろと騒ぎを起こしているんだよな。警察が駆けつける程の近隣トラブルをな。なら他の住人達もまたそのアンティークオルゴールの価値は本物だと知ることになるんじゃないのか」
「つい先ほど電話をして聞いた川口警部の話では他の住人達は皆、阿部美香子さんが丸谷英字さんと喧嘩をしていたのは騒音問題とオルゴールの貸した貸さないの趣味の話でただもめていただけだと思っていたとの事ですよ。何せお部屋もお隣にありますから、あの一階にいる原本欽一さんと同じように騒音問題の苦情でいつも喧嘩をしていたと他の住人達は皆思っていたとの事です。そしてアンティークオルゴールの件は、丸谷英字さんが回りに騒音トラブルを抱える程に丸谷英字さんがオルゴール好きなのは見なが知っている事ですから、ただの趣味程度の話だと他の住人達は皆が思っていたみたいです。つまり高値の価値のあるアンティークオルゴールの話の事でもめていると知っている人は、阿部美香子さんからその盗まれたと言う話を直接聞いていた、工藤茂雄さん・戸田幸夫さん・原本欽一さんの3人だけですわ。自分達がその事を知っていたから当然周りも知っていると思っていたのでしょうね。でも実際は違っていた」
「そうか、だからこその容疑者3人と一人と言う事か。ならアンティークオルゴールを取り戻す為に阿部美香子は丸谷英字を弾みで殺してしまったかも知れないな。その容疑者候補の一人でもある阿部美香子さんのアリバイについて語って貰おうか」
「阿部美香子さんは深夜の二時丁度に丸谷英字さんの部屋を訪れたそうですが、突然部屋の中から現れた犯人がそのゴッホの絵が書かれてある本物のアンティークオルゴールを手に持っていたとの事なので、その事を知った阿部美香子さんはその盗まれたアンティークオルゴールを取り戻す為に犯人に挑んだそうですが見事に返り討ちに遭い、首の皮膚がすり切れるくらいに首をきつく締められてついには気絶をしてしまったそうです。ですが実際にその犯人を見たのは阿部美香子さんだけですので、その証言が本当かどうかを知る手段も当然ありません。二時十分に意識を取り戻した阿部美香子さんは、その後は一階の205号室に住む原本欽一さんが同じく二時十分に自室に帰ってきたのを二階の廊下から確認しています。ですが何だか都合良く自分の視界に入ってきたと感じた阿部美香子さんは、もしかしたら原本欽一さんが自分を襲った犯人かも知れないと思い心の底から怯えたそうです。疑心暗鬼になりながらもその恐怖を誰にも告げる事も出来ずに阿部美香子さんはそそくさと304号室の自室へと逃げ帰ったそうです。そんな主張をする阿部美香子さんの話ですが……もしも犯人と遭遇したと言う話自体が実は真っ赤な嘘でたまたま見かけた原本欽一さんに丸谷英字さん殺しの罪を全てかぶせる為についた自作自演の嘘だったのだとしたら、阿部美香子さんも充分に犯人候補に浮上する事になります」
「自作自演か。確かに深夜に丸谷英字さんと口論の末につい弾みで丸谷英字を刺し殺してしまったのだとしたら、嘘の証言をしてでも自分のアンティークオルゴールは取り戻したいだろうからな。そしてその罪を深夜の二時十分に家路へと帰ってきた原本欽一に全てをかぶせようとした。でもお前のさっきの話ではこの殺しは突発的な物では無くかなり計画的に練られて行われている犯行だと言う話だから、阿部美香子がその謎の男と遭遇したと言う話も満更嘘ではないと言う話だったな」
「はい、少なくとも生きている丸谷英字さんが自室の鍵を開けない限り阿部美香子さんは丸谷英字さんの部屋には入れない訳ですし、原本欽一さんの話では一時五十分から二時までの間に丸谷英字さんの部屋の電気が消えたりついたりしていたと言っていましたから、その時間に丸谷英字さんはまだ生きていたか……或いは丸谷英字さんを殺した犯人がその場にいたかの二択になります。なら深夜の二時に丸谷英字さんの部屋を訪れた阿部美香子さんよりも早くに、丸谷英字さんの部屋の中にいた人物がいたと言う事になります」
「まあ、阿部美香子が言っているその証言が正しかったらの話だがな。その阿部美香子が二時では無く一時くらいにもう既に丸谷英字さんと部屋で接触していたとしたら彼女が犯人である可能性が最も高くなるんじゃないのか」
「いいえ彼女は犯人ではないと思いますよ。彼女の首元に残っている締め跡は明らかに人の手によりきつく絞められた手形の跡ですし、一人であの絞め跡は作れませんよ。そして激しく暴れた際にこすれて皮膚から少し血が滲んだそうですが、そんな絞め跡は自作自演では作れませんよ」
「そうだな、どうやら相手は軍手のような物をしていたらしいからな、その軍手から相手の指紋を読み取ることは流石にできないか。つまりはどう考えてももう一人協力者がいないと阿部美香子の自作自演は成立しないと言う事か。だからこそあの首に残された絞め跡は誰かに首を絞められた本当の手形の跡だと、お前はそう主張する訳だな」
「まあ、そう言うことですわ。あの殺しが阿部美香子さんの犯行だったのだとしたら、それが突発的な物であれ、計画的な物であれ、もう一人の共犯がいないと説明が付かないですからね。そしてあの犯人に絞められたという首に残された傷跡が皮肉にも彼女のアリバイを証明する結果になってしまいましたわ」
「なるほど、だが逆を言うのならもしも彼女に味方をする協力者がいたら彼女が犯人かも知れないわけだな」
「まあ、そんな協力者がもしいたらの話ですがね」
「なら次は原本欽一のアリバイだな」
「原本欽一さんの証言によれば深夜の一時に会社を出た原本欽一さんは一時四十五分にこのアパートから少し離れた場所にある駐車場に帰ってきたとそう証言しています。その駐車場から一階の205号室の部屋に帰ってくる道の途中で知り合いの友人から久しぶりに電話が掛かってきた事で原本欽一さんはその場で足を止めて約二十五分ほど路上で電話をしていたそうです」
「その時の原本欽一の証言によれば、路上から電話をしながら何気に遠くに見えるアパートの方を見ていたら二階にある305号室の部屋の電気が消えてその十分後に再び電気がついたとそう彼が証言しているんだったな。電気が消えていた時間は一時五十分から二時までで、電話を終えた原本欽一が部屋に戻ったのは二時十分くらいだとの話だったな」
「はい、それはあの阿部美香子さんも同じ事を証言していましたから、原本欽一さんの言っている事はまず間違いはないと思います」
「ならどう考えても原本欽一が阿部美香子を襲った犯人だと言う可能性はまず無いんじゃないのか。もしも彼が丸谷英字を殺し、しかも部屋から出るついでに阿部美香子さんの首を絞めた犯人だったのだとしたら、あの丸谷英字の部屋の電気の事を敢えて言う必要は無いんだからな」
「まあそれは原本欽一さんの証言をそのまま鵜呑みにしたら当然そうなるのですが、その疑いを払拭する為には、深夜の一時四十五分から~二時十分までの時間に原本欽一さんと電話で話をしていたという相手の素性を明らかにする事ですわ。それで彼のアリバイは証明されるのですから。そして今、川口大介警部にそのご友人の素性を調べて貰っている最中ですが、もしもその友人との電話が真っ赤な嘘だったのだとしたら原本欽一さんが犯人である可能性が出てきますわ」
「確かにな。仮に原本欽一が会社から一時四十五分に駐車場について真っ直ぐに丸谷英字の部屋に向かったのだとしたら、いくつか越えなければならないハードルがある。その一つが表玄関と裏玄関に仕掛けてある監視カメラの存在だ。この監視カメラがある入り口を通らなかったら一階にもましてや二階にも行く事は出来ないんだからな」
「あ、その解決方法は簡単ですよ。予め一階にある自分の部屋の205号室の窓の鍵を事前に開けておけば表玄関と裏玄関を通る事無く、自分の部屋の窓から中に入る事は可能ですよ。その一階にある自分の部屋の窓から侵入して、そのまま205号室の入り口から二階に行けば丸谷英字さんの部屋を訪れる事は可能ではないでしょうか」
「なるほどな、それなら監視カメラに自分の姿は映らないし、確かに丸谷英字の部屋に行く事は可能だが、駐車場からこのアパートまで約5分から10分くらいで到着する事ができたとして、一時五十五分に丸谷英字の部屋を訪れた原本欽一の呼びかけに、あの丸谷英字が素直にドアを開けたとは思えないんだが。そう第二のハードルはどうやって丸谷英字の部屋の鍵を開けさせたかだ。原本欽一がもしも犯人だったらの推理だと、その時にはまだ丸谷英字は生きていたと言う事になるから、原本欽一は丸谷英字の部屋の前に着いたら直ぐさま丸谷英字の部屋に入れて貰わないと不味い事になるよな」
「そうですわね。少なくとも一時五十分には丸谷英字さんを殺害し、アンティークオルゴールを無事に回収した原本欽一さんは他の犯人説を臭わせる為に二時丁度に別に用意した白鳥の湖の音色を奏でるオルゴールを部屋の中でならして速やかに部屋を退場しないといけませんからね」
「だが、その原本欽一の計算に思わぬ狂いが生じた。まさかその白鳥の湖の音色を聞いた阿部美香子が直ぐさま305号室の部屋を訪れてしつこく丸谷英字を呼び出し始めたからだ。その行為に焦った原本欽一はこれ以上ここにとどまることは非常に不味いと判断し、一か八か阿部美香子を襲い、そしてそのまま逃げる事にしたと言う事か」
「はい、そうとも考えられますわね。もしも原本欽一さんが犯人なら、アンティークオルゴールを盗んだ原本欽一さんはその場から一早く立ち去りたいが為に咄嗟に阿部美香子さんの首を勢いよく絞めたと考えられます。でもその行為はあくまでも阿部美香子さんを沈黙させる為の行為だった為についつい加減をしてしまった原本欽一さんは、意識を失った阿部美香子さんの生死を確認する事無く直ぐに一階にある自室へと戻った物と考えます。そして直ぐに自分の部屋の窓から外へと出て、そのまま何食わぬ顔をしながら駐車場からアパートへと帰ってきた事を証明する為に監視カメラにワザと映る事で自分のアリバイを作ったとも考えられます」
「そしてそのアパートに帰る姿をたまたま意識を取り戻した阿部美香子に見られたと言う事だな。だがその話には少し無理があるんじゃないのか。確かに原本欽一はギャンブルの借金問題でかなり悩んでいるようだが、それならアンティークオルゴールもそうだが、まずは即金で身近にある丸谷英字の財布の中身を狙うんじゃないのか。アンティークオルゴールの価値は阿部美香子の自慢話を聞いて恐らくは知ってはいただろうが現金に換える手段は分からなかったはずだ。ならいくらお金が欲しいという動機はあっても原本欽一の犯人説にはかなりの無理があると俺は思うんだがな。それに犯行時間にも無理があり過ぎる。一時四十五分に駐車場に帰ってきて一時五十五分に丸谷英字の部屋を訪れたのだとしたら丸谷英字の部屋に入るなり直ぐさま刺殺をしないといけないと言う事になる。つまり明確な殺意を持っていないと直ぐには殺せない訳だが、その呼び掛けにあの丸谷英字が素直に応じたとは流石に考え辛い。それに原本欽一は丸谷英字とは騒音問題でかなり仲が悪かったみたいだから、そんな相手の訪問にあの丸谷英字がわざわざ応じて直ぐさまドアを開けたとは流石に考えづらいぜ?」
「事前に電話などをして原本欽一さんと会う約束をしていたのかも知れませんよ。それなら一発で丸谷英字さんの部屋にお邪魔をする事は可能ですからね。そして洋間に案内された原本欽一さんは事前に持っていた包丁で丸谷英字さんを滅多刺しにして殺し、その後は何処かに隠してあったはずのアンティークオルゴールを回収してから他の犯人の犯行に見せかける為に偽物の白鳥の湖の音色を奏でるオルゴールをならしながら部屋を出る算段だったのだと思います。ですが突然入り口のドアの前に立ちはだかった阿部美香子さんの訪問に焦った原本欽一さんは阿部美香子さんを気絶させてから、直ぐに自分のアリバイを作る為にワザと表玄関を通って監視カメラに映ったとも考えられます」
「う~ん、それにその短い時間では305号室の部屋を出た際にその部屋の外から鍵を再び丸谷英字の死体がある傍まで戻すことは流石にできないだろう。早くしないといつ阿部美香子が意識を取り戻すか分からないし気が気ではなかったはずだ。そんな短い間に果たして原本欽一はそんな大それたトリックをあの短い時間だけで仕掛ける事が果たして出来るのだろうか?」
「もしかしたら短時間でそれらを可能にする仕掛けがあの部屋にはあったのかも知れませんよ。なにせこの犯人に協力をしているのは、あの狂人・壊れた天秤ですからね」
「そのお前が無理矢理に想像した原本欽一の犯人説の仮説を覆すには原本欽一が電話をしていたという友人の証言が絶対的に必要だと言う事だな」
「はい、その友人の証言が原本欽一さんの今後の人生を決める絶対的な証拠になると思いますよ」
「なら最後は大屋の戸田幸夫のアリバイだな。だが彼は丸谷英字さんの部屋を訪れて死体を発見した第一発見者でもあるし、歴としたアリバイもあるはずだ。なのに何故お前は戸田幸夫が犯人である可能性を主張するんだ。まさか本当に戸田幸夫の奥さんもこの事件に関わる共犯だと言うつもりじゃないだろうな」
「そんなつもりはありませんわ。ただ赤城文子刑事がその奥さんに電話をして確認を取った所、戸田幸夫のアリバイが崩れる穴が見つかってしまったのですよ」
「何だよ、一体その穴とは?」
その勘太郎の質問に今度は話を黙って聞いていた赤城文子刑事が話し出す。
「私が戸田家に電話をして、その奥さんに聞いた話によれば、今日一日、家から一歩も出なかった戸田幸夫は、今日は何だか気分が悪いから一人で自室で寝るよと言って自室で横になっていたとの事よ。一人で部屋で寝ていた時刻は夜の二十四時で、そこから二時四十五分ごろにアパートの住人から電話を貰った戸田幸夫が就寝中の奥さんを起こしたとの話なので戸田幸夫のアリバイは成立するという事になるわ。ただその奥さんの話だと、二十四時三十分にそろそろ寝ようと奥さんも旦那の部屋とは違う自室に入って布団に入ろうとした時に、旦那さんが部屋から廊下に出て来る音を奥さんは耳で確認をしているわ。奥さんの話によればトイレにでも行ったのかと思い、旦那のことは特に気にも止めなかったらしいんだけど、トイレから帰ってきた音を聞いていなかった事から、もしかしたらそのまま外に出かけたのかも知れないと、奥さんはそう証言をしているわ。もしかしたらまた隠れて愛人の元にでも行っているのではないかと疑っているみたいなのよ」
「愛人ですか。あの戸田幸夫にですか」
「少なくとも戸田幸夫の奥さんはそう考えているみたいね。そして奥さんが深い眠りからたたき起こされた時にはもう既に戸田幸夫は奥さんの寝ているベットの傍にいて、アパートの方でまたいつもの騒音トラブルが発生したから、ちょっと行って見てくるといい残して自宅を出たそうよ。その時の時刻は二時四十五分ごろだったとそう話しているわ」
「つまり、奥さんの話では、夜の二十四時に気分が悪いと言って自室で寝てしまった戸田幸夫は二時四十五分ごろまでは一人だったと言う事ですね。しかも二十四時三十分に戸田幸夫はトイレに起きたとそう証言をしてはいるが、奥さんの話ではトイレから帰ってきた音を聞いてはいないとの話なので、もしかしたら愛人の元にこっそりと遊びに行ったかも知れないと疑っていると言う事か。ならその疑わしき疑惑をなぜ自分の目で確かめなかったんだ?」
「その奥さん曰く、旦那の戸田幸夫の浮気は前にも何度か合ってもう確認するのも面倒くさいから敢えて放っておいたと言っていたわ」
「なんだか物凄く冷め切った対応だが、まあいいか。なら戸田幸夫が愛人の元では無く丸谷英字のいるアパートに行った物と仮定して、二十四時三十分にこっそりと自宅を抜け出した戸田幸夫は一体どうやって丸谷英字のいる部屋を訪れる事ができたんだ。戸田幸夫が丸谷英字を殺害するつもりなら深夜の一時から二時三十分の間までには既に丸谷英字の部屋にたどり着いていないといけないからな。だがいくら大屋の権限で各アパートのスペアーキーを持っているとはいえ、アパートの表玄関と裏玄関に設置してある監視カメラはどう頑張っても避ける事はできないだろう。そこはどう考えているんだ!」
その勘太郎の素朴な質問に待ってましたとばかりに今度は羊野瞑子が答える。
「簡単な話ですわ。戸田幸夫さんはこのアパートの全てのスペアーキーの鍵を持っている訳ですから、予め一階にある誰も入居者がいない無人の部屋の中に入ってその洋間の窓枠の鍵を開けておけば、その後は深夜にその部屋の洋間の窓から密かに潜入する事が出来るのですから、簡単に丸谷英字さんの部屋にたどり着く事が出来ますわ。後はそのスペアーキーを使って305号室の部屋の中に潜入する事が出来れば、洋間にいる丸谷英字さんを刺殺をする事は可能ですわ」
「つまり、原本欽一さんがもしも犯人ならと言う仮設の時に使った方法で、丸谷英字の部屋に潜入する為に大屋の戸田幸夫もまた同じ事が出来ると言う事か」
「はい、その通りですわ。そして丸谷英字さんの刺殺後にアンティークオルゴールを盗み出す事に成功した戸田幸夫さんは部屋に何らかの仕掛けを施すために一時五十分に洋間の電気を消したり付けたりしていたみたいですが、その電気の動きを外にいた原本欽一に見られた事で犯人が305号室にいたことがバレてしまいます。しかも今度は午前二時に偽物の白鳥の湖のオルゴールを鳴らす事によって今度はその音を一早く聞きつけた304号室に住む阿部美香子さんが丸谷英字さんの部屋の扉の前で呼び鈴を押し続け、その結果その場から阿部美香子さんは動かなくなってしまった。功を焦った戸田幸夫さんは仕方なく阿部美香子さんの首を勢いよく締めてそのまま気絶させてから、行きと同じルートでまた自宅へと帰ってきたと思われます。家に帰ってきた時刻は、おそらくは深夜の二時二十分から三十分ごろだったと思われます。そして丸谷英字さんを殺した動機はやはり丸谷英字さんの持っていたゴッホの絵が書かれてあるシリンダー型のオルゴールを手に入れる為でしょうね。その価値は阿部美香子さんの自慢話で散々聞かされていたと思いますから、その大金があれば今の口うるさい奥さんとは別れて愛人を喜ばせる為にいろいろと貢ぐ事が出来ますからね」
「なるほどな、一度家へと帰ってきたのは、やがて白鳥の湖のオルゴールの音色で来るであろうアパートの住人達からの苦情の電話で無理矢理に起こされた自分のアリバイを作り上げる為とそのアリバイを共有することで奥さんを叩き起こした戸田幸夫は、奥さんを自分のアリバイの目撃者にするためにその証拠をでっち上げる為か。だが、その偽装工作も浮気を疑っている奥さんには見事に見抜かれてしまったとお前はそう仮定をする訳だな」
「まあ、大屋の戸田幸夫さんの犯行もあくまでも私の仮説の段階なのでなんと見えませんが、仮にもし奥さんの言っているように旦那の戸田幸夫さんが本当に愛人の元に行っていただけだったのだとしたら、戸田幸夫さんのアリバイは今度こそ本当に成立するのですが、その肝心の戸田幸夫さんとは何故か連絡が取れません。一体彼はどこに言ってしまったのでしょうか。その戸田幸夫さんの愛人とやらにコンタクトが取れれば戸田幸夫さんの無実が証明されるのですがね」
「まあ、その代わりにお前のその容赦の無い追求のせいで戸田夫婦の仲は完全に壊れて、熟年離婚をする羽目になるかも知れないがな!」
「ほほほほ、そうなったらそうなったで、戸田幸夫さんは奥さんの陰に怯えること無くその愛人と関係を保つことが出来ますし、奥さんの方は慰謝料をたっぷり貰ってウザい旦那と別れてまた新たな道を旅立つ事が出来るのですから、一石二鳥じゃないですか。私が真実を突き付ける事によってあの夫婦もようやくそれぞれの道を決める決断が出来るかも知れないのですから、ここは私に感謝をして貰いたいくらいですわ!」
「お前……これからこの捜査で人の家庭をぶち壊すかも知れないという時に、相変わらず屁理屈だけは上手いな。まあ血も涙も無い発言ではあるがな」
羊野瞑子の容疑者候補の可能性と仮説が終わった所で、勘太郎は今度は赤城文子刑事に向けてこの部屋に仕掛けられている……かも知れないトリックの仕掛けについて話し出す。
「それで、赤城先輩はこの部屋で密室殺人トリックの謎を調べていたんですよね。なにか分かったことはありましたか」
「いいえ、特に怪しい仕掛けの様な物は何一つ見つかってはいないし犯人に繋がる証拠も見つかってはいないわ。私なりにこの密室殺人トリックの謎をいろいろと考えてはみたんだけど、どうにも分からなくてね、途方に暮れていた所よ」
そんな赤城文子刑事の弱気な言葉に、自信ありげに一つ咳払いをした黒鉄勘太郎は臆すること無く自分の想像に基づいた推理を話し出す。
「フフフフ、オルゴールですよ」
「へぇ?」
「だから箱形のシリンダーオルゴールの箱の中に何らかの仕掛けが隠されているんですよ。例えば箱の蓋がしまったままでもオルゴールのドラムが回る仕組みになっていて、その音楽が奏でるドラムの回転に合わせて細い糸でつながっている鍵がゼンマイで巻かれたドラムの動力の力で部屋の鍵をまるで釣り糸のルアーのように洋間にあるシリンダー型のオルゴールの箱の中まで巻き取ったと俺は推察します。普通の箱形のオルゴールは蓋を閉めたらゼンマイが巻かれていようが中のドラムが回転を止めてしまう仕組みになっていると思いますが、その普通のオルゴールの常識と思い込みを突いたトリックなのではないでしょうか!」
「勘太郎、その鍵が付いた細い糸って勘太郎の考えでは、洋間にあるシリンダー型のオルゴールの中のドラムから伸びていて、洋間やリビングルームを飛び越えて、換気扇の隙間から鍵を出して、その糸付きの鍵で外から鍵を閉めたって事よね」
「はい、そう言う事です。外に備え付けられてある換気扇のフィルターは少し外れていたみたいだし。糸をシリンダー型のオルゴールから伸ばしてリビングルームのキッチンにある換気扇から鍵付きの糸を通して、外にある換気扇のフィルターカバーの中に上手く設置してから一度部屋の中に戻ります」
「鍵を外にある換気扇のフィルターにセットしてから再び部屋の中に戻るのね。それで、それからどうするの?」
「部屋の中に戻ったら洋間にあるシリンダー型のオルゴールのゼンマイをしっかりと巻いて、白鳥の湖の音色が鳴り出したら急いで玄関に向かい。鍵付きの糸がオルゴールのドラムで巻き取られる前にその鍵で部屋のドアの施錠を可能にしたのではないでしょうか」
「なるほどね。急いで鍵を閉めたらその糸付きの鍵はまた見えないように換気扇のフィルターカバーの中に入れてその場から立ち去れば、後はシリンダーオルゴールのゼンマイの力で音楽が鳴り続ける限りは自動でその鍵付きの糸を洋間の部屋の中まで巻き取ってくれるでしょうからね」
「そして白鳥の湖の音色に合わせて鍵付きの糸を巻き上げたシリンダー型のオルゴールはその四十五分というゼンマイの動力の長さを生かして外に備え付けられてある換気扇のフィルターカバーから換気扇のプロペラの下枠をゆっくりと通って、そのまま洋間の部屋と廊下を隔てた(隙間が約10ミリはあると思われる)扉の下を通って、約四十五分もの時間を掛けて箱形のオルゴールのドラムの中へと巻き取られた物と推察します。だけどこの想像には一つだけ疑問が残ります。その細い糸付きの鍵は一体どうやって、都合よく丸谷英字の死体がある近くで落とす事が出来たのでしょうか。それだけが未だに謎です」
そんな勘太郎の自身に満ちた発言に赤城文子刑事は大きく溜息をつきながらも申し訳なさそうに話だす。
「実は私もそう思ってこの洋間にある全てのオルゴールの中を探してみたんだけどドラムと付属をしているスペースに糸のような物は一切巻き取られてはいなかったわ」
「この部屋にある全てのオルゴールを探してもですか」
「ええ、どのオルゴールにもそんな仕掛けは無かったし、白鳥の湖の音色を奏でるオルゴールも見つからなかったわ」
「そんな馬鹿な……なら丸谷英字の部屋から出て来た犯人が持っていたというゴッホの絵が書かれてあるアンティークオルゴールとは別に、白鳥の湖の音色を奏でる偽物のオルゴールは一体何処にあると言うんだ。まさか他に見落としの所があるんじゃないだろうな。そうだ、オルゴールだけに着目するからいけないんだ。もしかしたら扇風機のプロペラの回転を利用したり、熱帯魚のいる水槽の中にでも入っているんじゃないのか。実はその糸は透明でナイロン製かフロロカーボン製の釣り糸を使っていて、光の屈折でその釣り糸を見えないように細工をしているのかも知れない。例えば水槽の中に水と油が屈折を起こす分量の割合で入っていて、その光の屈折でナイロン製の釣り糸が見えないようになっているのだとしたら人の目を誤魔化す事ももしかしたら可能なのかも知れない。そして水槽の中にある模型の石には実は小型のシリンダーオルゴールが内蔵されていて、その動力の力でそのナイロン製の釣り糸をその水槽の中へと巻き取ったんだ。そうだ。きっとそうだよ!」
その次なる勘太郎の発言に赤城文子刑事は首を静かに横に振るう。
「いいえ、私もそう思って一応は扇風機の機械も熱帯魚が入っている水槽の中も全て調べてみたんだけど、扇風機にはそんな細い糸は絡まってはいないし、水槽の中もちゃんとした水だったわ。て言うか熱帯魚が泳いでいる時点でこの水の中に油が混じってる事はまず考えられないでしょ」
「なら掃除機の中だ。掃除機のゴミを入れるタンクのスペースを取り除いて小型のシリンダー型のオルゴールを入れる事が出来たら、ゴミを吸う掃除機のホースの中から糸を伸ばしてそのまま巻き取れば糸は掃除機の中にあるシリンダー型のオルゴールに戻るから、掃除機を隠れ蓑に使っているんじゃないのか。きっとそうだぜ!」
「掃除機の中ね、それは盲点だったわ」
そう言いながら赤城文子刑事は近くの壁に立てかけられてある掃除機のゴミタンクの蓋を開けて中を調べてみたが、そこにシリンダー型のオルゴールの箱は無かった。
「ば、馬鹿な。ならシリンダー型のオルゴールは一体何処にあると言うんだ。それとも鍵に糸を括り付けてシリンダー型のオルゴールのドラムで巻き取るという発想事態が間違っていると言うのか。あの白鳥の湖の音色は関連付けてそう思わせる為のただの囮で、本当はもっと別の方法で密室内にいる丸谷英字の死体の傍に鍵を置く方法があるのかも知れない。それは一体どんな方法なんだ。くそ、もう時間が三十分しかないと言うのにそのトリックの仕掛けが全く分からないぜ。時間が……時間が圧倒的に足りなすぎる!」
「勘太郎、焦らないの。もう一度洋間の中を一から徹底的に調べ上げて、その隠されていると思われる仕掛けを探し出すのよ。もしかしたら何か重大な見落としがあるのかも知れないから!」
「くそ、ちくしょう、ちくしょう。時間が、狂人ゲームのタイムリミットが迫って来ているというのに。一体どうすればいいんだ!」
狂人ゲーム終了時間まで後三十分しかない事にかなりの焦りを見せる勘太郎と赤城文子刑事は数あるオルゴールの山を見ながら半ばヤケクソのような気持ちで部屋の中を探し出す。
するといつの間にかリビングルームの方に行っていた羊野が木製の扉を開けて戻ってくる。
「フフフフ、どうやら昨夜の丸谷英字さんの夕食はミートソースのパスタだったみたいですわね。なぜならゴミ箱の中にレトルトのミートソースのカラが捨ててありましたし、使い切りの七ミリパスタのカラの袋が捨ててありましたからね」
真剣に悩んでいる時にそんな突拍子の無い事を行き成り言われた勘太郎は、焦りのためかその余裕の無い表情を羊野に向ける。
「羊野、今は丸谷英字の昨夜の食事の情報は入らないから真面目に捜査に集中しろよ。後三十分しか時間がないんだぞ。俺達は後三十分でこの密室殺人トリックの謎を解かないといけないんだからな!」
その勘太郎の呼び掛けに羊野は何やらキョトンとした顔をしながら勘太郎の方を不思議そうに見る。
「ああ、その事ですか。まだそんな事で悩んでいたのですね。それならもうこの密室トリックの謎は解けましたから、この部屋に工藤茂雄さん・阿部美香子さん・原本欽一さん・戸田幸夫さんの四人を呼んで来て下さいな。犯人捜しの答え合わせを始めますわよ!」
「ま、マジか。羊野、お前まさかこの密室殺人事件のトリックの謎と丸谷英字を刺殺した犯人の正体が分かったのか!」
「はい、分かりました。このリビングルームにある台所に立って全てが分かりましたわ」
「本当なの羊野さん、その話は!」
「リビングルームの台所だって? そこに一体何があると言うんだよ。答えろよ、羊野!」
話をもったいぶる羊野から早く答えを聞き出そうとする勘太郎と赤城文子刑事だったが、そんな二人の焦りに合わせるかのように外の方でドアを激しく叩きながら呼び鈴のチャイムを鳴らす誰かが305号室を訪れる。
ピンポン……ピンポン……ピンポン……ピンポン……ピンポン!
ダン・バン・ダン・ダン・バン・ダン・ダン!
「探偵さん、黒鉄の探偵さんはいますか。至急お伝えしたい事があるのですが、よろしいでしょうか!」
工藤茂雄のこのハイテンション具合からも分かるようにただ事では無い事を察した勘太郎は、ドア越しに工藤茂雄の話を聞く。
「一体どうしたと言うんですか。今はこちらも大変忙しいのですが……」
「そんな事を言っている時ではありませんよ。見つかったんですよ。あのゴッホの絵が書かれてある箱形のアンティークオルゴールが!」
「な、なんだって。あのゴッホの絵が書かれてあるというアンティークオルゴールが見つかったのか。でも一体どこから?」
「それは本当なの、工藤茂雄さん!」
その予想だにもしなかった工藤茂雄の言葉に勘太郎と赤城文子刑事が驚愕の声を上げていると、工藤茂雄が次なる言葉を付け加える。
「ええ、見つかりましたよ。ただし阿部美香子さんの部屋の中からね!」
「な、なんだって。阿部美香子さんの部屋の中からだとう!」
更にびっくりしながら驚きの声お上げる勘太郎と赤城文子刑事だったが、少し後ろの方で話を聞いていた羊野は「ついに動き出しましたか……」と言いながら手に持つ白い羊のマスクを深々と被るのだった。
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