白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第八章 『白面の鬼女』 大雪が降る北海道の山頂で繰り広げられる生き残りを賭けたシリアルキラーとの推理戦に白黒探偵が挑む!

8-21.ついに明かされる瞬間移動の謎

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 時刻は十三時二十分。勘太郎と羊野は静けさと寒さが辺りを包むロープウェイ乗り場にいた。
 その入り口辺りで勘太郎は先ほど山荘ホテルで話した事を考える。

 あの後一度山荘ホテルに戻った勘太郎と羊野は三階の食堂フロアで山荘ホテルの裏側方面にある崖で白面の鬼女と如月栄子が消えたと思われる見解と予測をその場にいた登山サークル部の部員達に伝える。

 斉藤健吾が無残にも鎌で首を切られ殺されただけではなく、山荘ホテルの裏側の奥にある崖の辺りで今度はその場にたまたま居合わせた如月栄子を巻き込んで白面の鬼女が崖から飛び降りたかも知れないという話を語る。その話を聞いた一ノ瀬九郎・二井枝玄・佐面真子・田口友子・田代まさやの五人は驚きと複雑な表情を覗かせていたが、それとは対照的に、大石学部長と飯島有の二人は誰はばかる事無く心の底から歓喜と安堵の表情を見せる。

 その証拠に飯島有が「白面の鬼女が如月栄子さんと共に崖から落ちて死んだ。あの白面の鬼女が……やった、やったわ。これであの殺人鬼の恐怖に怯えなくて済む。これで私達は助かったのね。そうよ助かった……助かったのよ。この土壇場であの如月栄子さんが白面の鬼女を追い払う為の尊い犠牲になってくれたんだから本当に良かったと言った所かしら。最後は私達の役に立てて死んだのだから、これで姉妹仲良くあの世に行けて良かったじゃない。妖子さん共々あの世で仲良くしてて頂戴ね……そしてもう二度と化けて来るんじゃないわよ。ハッキリ言って鬱陶しいから。なんてね。あはははははーっ、白面の鬼女め、ざまみろ、ざまみろ! ははははははーっ!」と笑いながら自分に言い聞かせるかのように何度も言葉を繰り返す。

 まるで狂い咲くかのように喜び勇む飯島有の姿を見ていた大石学部長が何やら意味ありげにニヤニヤと嫌な笑いをしながら汗ばむ手で小さくガッツポーズを決める。そんな二人のあからさまに喜ぶ姿を間近で見ていた勘太郎は溜息をつきながら内心思う。
 いくら極度の恐怖で生死を感じていたとはいえ、もう既に四人も人が死んでいるのだから不謹慎にも程があると。

 だからこそ仲間の死を前にしても自分のことしか考えない大石学部長と飯島有の二人にはいい印象は全く抱けなかったのだ。

 因みに斉藤健吾の死体は臨時の管理人でもある小林さんの遺体と共に山荘ホテルの地下室に運んだとの事だ。
 本当なら現場検証の為に死体はできるだけそのままにして置きたかったが、冬とはいえ正面玄関の外に斉藤健吾の死体を野ざらしにしていては皆が落ち着いて生活ができないとの訴えがあったので、田代まさやと大石学部長の二人が勝手に斉藤健吾の死体を山荘ホテルの地下室に運んだとの事だ。

 そんな安堵と不安が渦巻く山荘ホテル内の警備を登山サークル部の部員達に任せて外へと出た勘太郎と羊野は、羊野が言っていた白面の鬼女が使う瞬間移動トリックの謎を説明する為、ロープウェイ乗り場内のゴンドラの前へと立つ。

 日が出ているとはいえ外の異常な寒さに耐えながらゴンドラの中へと入った勘太郎は長椅子へと座り、ゴンドラの前に立つ羊野を見つめながら話を切り出す。

「では聞かせて貰おうか。白面の鬼女が俺達よりも早く麓に降りることができたその瞬間移動トリックの謎を?」

「極めて単純な話ですわ。白面の鬼女は何も黒鉄さん達を出し抜いて先回りをしていた訳ではありません。黒鉄さん達と同じようにこのゴンドラに一緒に乗っていたんですよ」

 淡々と答える羊野の思わぬ言葉を聞き、勘太郎は思わず大きな溜息をつく。

「このゴンドラに一緒に乗っていただとう。それは流石にあり得ないだろ。見て分かるとは思うがこのゴンドラの中に白面の鬼女が隠れられる所なんて何処にもありはしないよ。隠れられそうな障害物は何も無いし、唯一隠れられそうと思われていた床の真ん中にある小さなハッチには人が隠れられそうな奥行きは全くないし、この床下の厚みだってこの下が見える強化硝子を見たら奥行きが無い事くらいはもうわかるだろ。つまりこのゴンドラに白面の鬼女が隠れられるスペースはどこにもないと言う事だ」

「フフフフ、本当にそうでしょうか、そう思い込んでしまった時点でもう既に黒鉄さんは白面の鬼女が作り出した心理トリックの支柱に落ちているのですよ。その目による情報で得た常識こそがこのトリックの罠だとなぜ気付かないのですか」

「だけどよ、じゃ一体どこに隠れられそうなスペースがあるというんだよ。ゴンドラの中には隠れられそうな所は何もないし、この床下に設置してある強化ガラスから見ても分かるように、強化ガラスの下はそのまま外へとつながっているんだぞ。つまりは床下に隠れられそうな厚みもないと言う事だ。それともまさか、大石学部長・飯島有・田代まさやの三人の中に白面の鬼女がいるとか言わないだろうな」

「そんな訳ないじゃ無いですか。あの三人は直に白面の鬼女と出会って、そして襲われていますからね」

「なら一体どうやって白面の鬼女は俺達がいたあのゴンドラの中に潜伏することが出来たんだよ。まさか自分の姿を消せるとか、物に化けれるとか言わないだろうな」

「ほほほほ、幽霊や妖怪じゃあるまいし、そんなファンタジー漫画のような事は言いませんわよ。ただ黒鉄さんは視覚の効果に騙されているのですよ」

「視覚の効果だと?」

「はい、そうです。先ほど黒鉄さんはこの床下には人が隠れられそうな奥行きは無いとか
言っていましたが、果たしてそうでしょうか」

「果たしてそうでしょうかも何も、この床下の小さなハッチの中にある強化硝子を見たら直ぐにわかるだろ。この強化硝子の下には何もないんだぞ。あるのは下の景色が見える底だけだ。そうだろう!」

「はい、見たら分かります。ですからそれが視覚的トリックだと言っているのですよ。この強化硝子から見える下の景色は果たして本物なのかとね」

「それは一体どう言う意味だよ、羊野。俺が今見ているこの床下に広がる下の景色は偽物だとでも言うのか!」

「偽物とは言ってはいません。ただ黒鉄さんが見ている視点とこの強化硝子に映し出されている視点が少し違うと言う事です。つまり黒鉄さんが強化硝子から見ている下の景色の視点は強化硝子からでは無く、強化硝子とその下にある僅かな奥行きを通り越して挟んだその下の映像を見させられているという事です。だからこそ黒鉄さん達はこの強化硝子の下には何も無いと勝手に納得してしまっている。そうですよね」

「で、でもだ、外からゴンドラを見てみたんだが、ゴンドラの床下部分に人が隠れられるくらいのスペースがあるとはとても思えないんだが」

「黒鉄さん達は意識的にこのゴンドラの床下には小さなハッチがあることを既に確認済みですよね。そしてそのハッチの中には救急用の薬箱や毛布や非常食が収納されている。そのスペースが頭に入っているからこそ、人一人が横になって隠れられる厚みを見逃してしまうのですよ。この床下にあるハッチの奥行きの厚みも、そしてその下にある強化硝子から見える景色も、全て人一人が横になれるくらいの厚みの誤差を誤魔化す為の物ですわ」

「つまり、このトリックは、この強化硝子の下から見える景色は本物では無く……本当はこの強化硝子の下には真下を映し出している大きなモニターがあって、そのモニターの下に白面の鬼女が横になって隠れていた。そうだな」

 勘太郎は羊野の「そうです」という言葉を聞くと続けて続きを話し出す。

「そしてその白面の鬼女の更に下には二枚目の強化硝子が設置してあって、その強化硝子と直結した真下にはその下の景色を撮影している隠しカメラが内蔵されていて、俺達は寝そべる白面の鬼女を通り越したその下の景色をモニター越しに見させられていたに過ぎないと言う事だな」

「はい、そう言うことです。わかりやすく言うとその構造は、パン・チーズ・ハム・パンと言った感じです。パンは強化硝子。チーズは真下の映像を映し出しているモニター。ハムは白面の鬼女その人と言った所でしょうか。まさにサンドイッチ構造と言った感じですね」

「なるほど、確かにそんな視覚的なトリックを使っているのなら、白面の鬼女一人くらいなら横になれるスペースはどうにか確保できるのかもしれんな。だがだ、だとするのなら、また一つの疑問が残るぞ」

「また一つの疑問とは一体なんですか?」

「俺達は当然この床下にあるハッチの中も事細かく探したが、白面の鬼女がこのハッチから出入り出来る入り口の様な物は何処にもなかった。それに昨日、ロープウェイのゴンドラに出向いた時にはもう既に大石学部長・飯島有・斉藤健吾の三人は俺達よりも早くゴンドラに乗っていたから、このゴンドラの中にある床下のハッチから中には到底入れないはずだ。そうだろう。つまり白面の鬼女は大石学部長達よりも早くゴンドラに到着しなけねばならないということになる」

「まあ、普通に考えたらそうなりますよね。でもこのトリックの場合は先でも後でも別にいいのですよ」

 その羊野の言葉に勘太郎は首をかしげながら思わず頭を捻る。

「そ、それは一体どう言うことだよ。俺と田代まさやと陣内朋樹が山荘ホテルを出て行った時は確か残されていた登山サークル部の人達も、如月栄子さんも山荘ホテルの中にみんないたんだぞ。もしもその中に白面の鬼女がいたんだとしたらとてもじゃないが俺達が乗るゴンドラの中には到底入れないじゃないか」

「そうですわね、だから中からじゃなくて外から入ったのですよ。ゴンドラの外からね」

「そ、外からだって……お前は何を言っているんだ。ゴンドラの外から中に入れる訳がないじゃないか?」

 勘太郎は思わず羊野の発言に否定の言葉を発する。

「なぜですか?」

「なぜって、入れる箇所なんて何処にも無いだろ。そんなのは見たらわかるだろ!」

「ええ、見て分かったからこそ言っているのですよ。このゴンドラの下にはダミーの強化硝子があってその真ん中には隠しカメラが内蔵されているみたいです。しかもそのダミーの強化硝子は開閉式のハッチになっていて出入りが可能なようです」

 その話を聞いた勘太郎は直ぐさまゴンドラを降り、ゴンドラの真下の部分を見に行く。確かに羊野の言う用にゴンドラの下の中央には32型の大きさくらいの強化硝子がはめ込まれていた。

「なるほど、俺達はこのゴンドラの下にある強化硝子とこの中にあるハッチの下にある防弾ガラスとを誤認していたのか。だから床下の奥行きを見誤ったんだな。つまりは強化硝子の二重底と言うことか」

「恐らくは、白面の鬼女も何らかの移動方法を用いてこのゴンドラに近づき、人知れず静かに下からこのゴンドラに乗り込んだのではないでしょうか」

「もしもお前の言っている事が全て正しいとして、また一つ重大な疑問が残るぞ。あのゴンドラの下にある強化硝子が開閉できるとして、白面の鬼女はあのゴンドラの真下まで一体どうやって移動をしたんだ。その常識があるからこそ、このゴンドラの外側の真下に人が自由に出入りできる入り口があるとは誰も考えもしなかったんだぜ。だってそうだろう、このゴンドラの真下には当然足場なんかはないし、その下は標高1300メートルの谷底が見えているんだぞ。そんな足場のないゴンドラの真下に一体どうやって近づけると言うんだ?」

「ほほほほ、それこそが白面の鬼女だからこそできる、常人では到底考えもしないトリックの謎が隠されているのですよ。この行いが出来るからこそこの瞬間移動トリックが成立していると言っても過言ではありません」

「な、なんだよ、その瞬間移動トリックを成立させる行いって?」

「私達は下に落ちないようにゴンドラの下の斜め横の通路にいますが、もっとゴンドラの近くに近づいて見てください。何か見えませんか」

「何かって、ゴンドラを支えているフレームと鉄で出来た鉄板が見えるな。後かなり古いのか少しサビが目立つかな」

「見るのはそこじゃありません。もっと床下の回りを全体的に見て下さい。何か気付きませんか」

「一体なにが言いたいんだよ。後はそうだな。物が古いためかよ~く見たら指が入るくらいの穴が所々に空いているな。そう考えるならこのゴンドラはかなり危険かもな。ゴンドラの整備が充分に行き届いていない証拠だぜ」

「そこまで言って分かりませんか……白面の鬼女が一体どうやってこのゴンドラの中に入ったのかを……」

「は、まさか……いや、だがそんな事があり得るのか。だがあの白面の鬼女なら出来なくも無いか」

「そうです、白面の鬼女はこのゴンドラの床下に数個ほど空いてある小さな穴に両手の指を差し入れて、中央の床下に見える強化硝子があるハッチまで移動したのですよ。その常識を越えた強靱な握力と腕力を生かしてね。見た所ボウリングの玉の用に、親指・人差し指・中指の三つが入る穴もあるみたいですから、あの握力が自慢な白面の鬼女ならその移動は十分に可能だと思いますよ」

「そしてそんな事が出来る特質すべきスポーツを俺は一つしか知らない……」

「ええ、あの白面の鬼女と呼ばれている狂人は紛れもなくロッククライミング経験者ですわ。しかもかなり高度なプロ顔負けの技術を持つ経験者です」

「なるほど……相手はプロのロッククライマーか」

 その羊野の常識を越えた答えに流石の勘太郎も思わず息を呑む。

「白面の鬼女が人知れずゴンドラの床下へと近づき……物音一つ立てること無くゆっくりとその自慢の握力と腕力を使って、強化硝子のある入り口から中へと入り。ロープウェイで麓に到着してからは、俺達がゴンドラからいなくなるのを耳で確認後にゴンドラから降りて。その後は誰にも見つかること無く素早くロープウェイ乗り場から離れ。麓で爆発物を仕掛けて待っていた、狂人・闇喰い狐と合流をし。そのまま二人で俺達が狂人ゲームの境界線まで来るのをただひたすらに待ち伏せをしていたと言う事だな。つまりはそう言う事か。それが白面の鬼女が使う瞬間移動トリックの真実であり真相だな」

「はい、そう言う事です」

「しかし一歩間違えたら確実に1300メートルの谷底へと落下してしまうというのに、なんて肝の据わった狂人だ。こんな危険な事は例え思いついたって早々出来るような事じゃないぞ。普通の人間は緊張と恐怖で怖じ気づいてしまうからだ。全く、奇想天外で恐ろしい事を考える狂人だぜ!」

「でも、このトリックの真相を見破る事が出来たお陰で、このトリックを考えた犯人の目星も付きましたわ」

 意味ありげにそう言うと羊野は、行き成りロープウェイ乗り場の入り口の方へと向かう。

「犯人の目星だと。それは一体誰だよ。て、ちょっと待てよ、羊野!」と言いながら後を追いかける勘太郎だったが、先を歩いていた羊野はある自動販売機の前でその足を止める。

「私は白面の鬼女が一体どうやって雪道に足跡を付けずにロープウェイ乗り場や、森のある廃別荘や、山荘ホテルへと移動ができるのかを考えていましたが、昨日の黒鉄さんの行動や昨夜の内にロープウェイ乗り場の機械を破壊した白面の鬼女さんの行動によって確信が持てましたわ」

「なんだよ、その確信って?」

「白面の鬼女が雪道を歩いた形跡が全く見つかってはいないので、もしかしたらまだ私達の知らない秘密の通路がこのロープウェイ乗り場内にあるのではないかと考えたからです。だとしたならばそこから必ずボロが出るかと。そしてロープウェイを使った瞬間移動トリックの一つの謎が分かった今、そこからどうやって山荘ホテルや廃別荘へ行き来しているのかという疑問にぶち当たったのですよ。その答えは昨日この壊れた自動販売機の前で右往左往していた黒鉄さんの行動で明らかになりました」

「それで、なんでこんな所で止まるんだ。この壊れた自動販売機がどうかしたのかよ?」

「昨日、助けを呼ぶために黒鉄さん達がロープウェイのゴンドラに乗り込んだ後に白面の鬼女は埃漂う土臭い通路を歩きながら大慌てでこのロープウェイ乗り場内まで来たはずです。この自動販売機のジュースを補充するために開ける開かずの扉の下に靴跡のような汚れの跡が僅かに付いていましたわ。つまり白面の鬼女がこの自動販売機の扉から自由に出入りをしていたという事です。でもそれはここに地下通路があるかも知れないという発想を抱かないと思いもしなかった答えです。そんな訳で黒鉄さん、自慢の鍵開けのピッキング技術でこの自動販売機の扉を開けて中を確かめて見て下さい。もしかしたらこの中から地下に通ずる隠し通路が見つかるかも知れませんよ」

「つまりこの自動販売機の扉の下から誰かの靴跡が見つかったからその可能性を疑りだしたと言うことだな。この自販機の中を開けてまで中を確認する人はそうはいないだろうからな。警察犬は行方不明者の遺留品の臭いを嗅ぎ分けて捜索をしてはいるが、白面の鬼女の行方を捜索している訳ではなかったからこの場所が見つからなかったと言う事か。それに自動販売機には基本的に鍵が掛かっているから中を調べようとする警察もいなかったのかもな。良し、なら開けてみるか。この自動販売機はかなり古いタイプの物の用だが、俺のピッキング技術でも何とかなるはずだ」

 そう言葉を口にした勘太郎は少しの苦戦後に難なく自動販売機のドアを開けるとその中を注意深く確認する。するとその自動販売機の下は深い空洞になっており、人一人がどうにか通れるくらいのマンホールの様な穴が下へと続く。そしてその暗闇が広がる穴はそのまま山荘ホテルのある方角へと伸びているようだった。

「羊野の読み道理に本当に自動販売機の下に秘密の通路があったな。ならこの穴がどこに通じているのかをこれから探るぞ。俺の後ろについてこい、羊野!」

 そう力強く言うと勘太郎はポケットから小型のペンライトを取り出すと、自動販売機の下に広がる穴の通路へと入って行く。

「深さは三メートルくらいで、横幅は人一人がどうにか通れるくらいか。普通に立って中を歩けるから急いで走る分には不都合はないと言うことか。恐らくは白面の鬼女の仮面のようなマスクも当然暗視装置内蔵型だろうからこの暗闇の中でも大丈夫だったと言うことか。はてさて、ではこのロープウェイ乗り場内から一体この地下通路はどこに通じているのか、その果ての先を覗きに行こうぜ!」

 そんな独り言を言いながら勘太郎はペンライトの明かりを頼りに奥へと続く地下通路の中をスタスタと突き進んで行く。その勘太郎の後に羊野瞑子が静かに続く。

 山荘ホテルのある進行方向に五十メートルほど進むと十字の分岐点があり、前、左、右、といった感じで三つの通路へと繋がっているようだ。その分岐点の中央でどの方角に進んだらいいかを考えていると、後ろにいる羊野が右へ行こうと提案する。

「このまま真っ直ぐに行ったら山荘ホテルの方に通じているみたいですし、左へ行ったら恐らくは森のある廃別荘に通じていると思われます」

「思われますって、山荘ホテルはともかく、森のある廃別荘には普通に歩いても約三十分は掛かるぞ。まあ、上の雪のある坂道を歩けば一時間くらいは軽く掛かるだろうが、それでもかなり長い距離だ!」

「ええ、私達はそんなに時間を掛けてこの穴蔵を探索する訳にはいきませんので取りあえずは右へ行きましょう。この右側には白面の鬼女と如月栄子さんが落ちた崖がある方角に続いているみたいですから、何か分かるかも知れませんよ」

「よし、なら右に進んで見るか」

 羊野の助言を素直に聞く事にした勘太郎は慰霊碑や林の奥にある崖を目指して突き進む。

          *

 息苦しさと土臭さを感じながら小走りに歩くこと十分、ついに通路の果てが見えた事で勘太郎はその冷たい風が流れる外を目指す。

 勘太郎がその通路の果てで見たのは、遙か下に広がる真っ暗闇な森とその先に見える明るい町の光だった。その活気のある光がまるで人がいる証とばかりに煌々と輝く。そんなネオン輝く光景を山の遙か上から見下ろす勘太郎と羊野は、洞穴の入り口で状況の確認をする。

 高所恐怖症気味と併称恐怖症気味なのか勘太郎は暗闇が広がる崖の真下を見ながらかなりビビりまくっているようだったが、その後ろにいる羊野は闇が広がる下では無く何故か崖の上へとその羊のマスクの視線を向ける。そうなぜなら羊野が被る羊のマスクもまた夜でも鮮明に見える暗視装置内蔵型のマスクなのだ。

 羊野はしばらく辺りを見て回りを探っていたが、その羊のマスクから見える赤い眼光を上の岩肌のある一点へと集中させる。どうやら何かを発見したようだ。

「フフフフ、なるほど……そう言う事ですか」

「なんだよ、なにが分かったんだよ、羊野?」

 何やら意味ありげに笑う羊野に釣られるような形で勘太郎も上を見ながらペンライトの光を当てると、その洞穴から見える一メートル先の上には雨よけのような形の岩がのけ反りながら出っ張ってあり。その岩肌の上から垂れ下がる天井には、まるで洞穴までの道を示すかのように白いロープが数本ほど適度な距離を保ちながら均等に並ぶ。

「そ、そうか、白面の鬼女は予め崖の上へと上げて置いたロープを自分の体にハーネスで固定をして、この上の崖からダイブをしたんだな。つまりこの崖は追撃者から行方をくらます為に作られた脱出経路の一つだったんだ。でもその脱出経路の一つに運悪く如月栄子さんがいて道を塞いでしまった。だからこの崖の上にいた如月栄子さんを突き落としてから白面の鬼女がロープを固定して崖から飛び降りたんだな。そしてこの垂れ下がっているロープにしがみつきながら一つづつ移り渡って、この洞穴の入り口まで来る事が出来たと言う事だな。しかも崖の上からは出っ張っているせいか構造上、下を覗き見る事はできないからこの洞穴の存在も当然バレる事はないと言うことか。だから崖の先で雪に残されていた足跡が途切れていたんだな。全く恐れ入ったぜ。と言う事はつまり白面の鬼女はまだ生きていると言う事だな。ロッククライミング経験者と言う事は当然ボルダリングもやっているだろうから、もう既にこの洞穴を通って山荘ホテルに戻っているのかも知れないな。全くもってやってくれるぜ。そして……白面の鬼女の正体は一体誰なんだ!」

「崖から消えたトリックの謎も分かった事ですし、そろそろ私達も山荘ホテルの方に戻りましょうか。その山荘ホテルに続く道が一体どこに通じているのかで、白面の鬼女の正体が自ずと分かると思いますよ」

 そう説明口調で言うと羊野は、もうここには用がないとばかりに直ぐさま元来た道を歩き出す。

「ち、ちょっと待てよ、羊野。俺をここに一人にしないでくれよ!」

 そんな勘太郎の不安とも言える情けない弱腰の声を聞きながら歩くこと約十分。

          *

 山荘ホテルの何処かに着いた勘太郎と羊野はハシゴを登り開閉式の床のハッチを開けると、正面にある両扉を開けて外へと出る。
 その目の前には八畳程ある洋風の古い部屋が広がり、山小屋のようなワイルドな景観がここを山荘ホテルにある部屋の一つだと認識させる。

 更に確認する為に後ろを振り向き、出て来た扉を見てみると、二人が出て来た所は木で出来た木目のクローゼットだった。そう勘太郎と羊野はクローゼットの中から出て来たのだ。

「ここに木目のクローゼットがあると言う事は……ここは山荘ホテルの一階にある何処かの部屋の中と言う事だな。ここは一体誰の部屋なんだ?」

 そう言いながら勘太郎は部屋の中にある荷物を見つけるとその荷物の中にある品々を調べる。

「なんだこの人形のような玩具は?」

 勘太郎はリュックサックの中から人形の玩具のような機械を徐に取り出しながら犯人に繋がる証拠を懸命に探すが、その人形の玩具のような機械を見た羊野はそれを手に取りながらマジマジと見る。

「なるほど、犯人が使っていたアリバイトリックの謎が何となく分かりましたわ。まさかこの私をこんな珍妙な方法で欺くだなんて、つい不覚を取ってしまいましたが、今のご時世ならこの方法も使えますわね」

「なんだよ、その方法とは、白面の鬼女は一体どんなアリバイトリックを使っていたと言うんだ?」

「アリバイトリックもそうですが、白面の鬼女が500メートルほど離れた廃別荘から有り得ない動きでこの山荘ホテルまで来たその移動方法の謎と、三階の食堂に行き成り現れた白面の鬼女が小林さんを殺害した後に厨房から行き成りいなくなったトリックの謎も次いでに教えて差し上げますわ」

「まだ分からない三つの謎か。なら早く教えてくれよ、羊野!」

「その謎も順を追ってお話ししますが、なぜ臨時の管理人の小林さんが白面の鬼女に殺されなけねばならなかったのか……その疑問についてもお話ししないといけませんわね!」

「そうだった。小林さんは恐らくこの事件には全く関係がないはずなのに……なぜ登山サークル部の人達よりも早くに殺されなけねばならなかったんだ。この謎を一早く聞いておかないと、殺された小林さんも流石に浮かばれないだろうからな?」

 そんな疑問の言葉を問いながら勘太郎は、不気味に佇む羊野瞑子をマジマジと見るのだった。
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