白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第八章 『白面の鬼女』 大雪が降る北海道の山頂で繰り広げられる生き残りを賭けたシリアルキラーとの推理戦に白黒探偵が挑む!

8-22.山頂でのアリバイトリックの真相

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「それで、一体ここは誰の部屋なんだ。何処かで見覚えのある荷物は置かれているようだが、部屋の主はどうやらまだ外出中のようだな?」

「部屋の番号や荷物からして、どうやらここは如月栄子さんの部屋のようですね」

「如月栄子さんだって、そんな馬鹿な。なら白面の鬼女は如月栄子さんだとでも言うのか。確かに彼女の正体が本物の如月栄子さんかどうかは疑わしいが……まだそうと決まった訳ではないだろ!」

 その勘太郎の言葉に羊野は羊のマスクを脱ぐと、外が見える窓枠を確認しながら不思議そうな顔をする。

「如月栄子さんの正体が疑わしい……ですか。如月栄子さんの正体が白面の鬼女かどうかという話では無く……彼女自体が本当に如月栄子さんかどうかを疑っていると言う事でしょうか。ですがなぜそう思うのですか。その訳を教えて下さい」

「そ、それは……」

 羊野の問いに勘太郎は、数時間前に大学一年の佐面真子のスマホから見せて貰った、飼い犬と姉妹が仲良く映る一枚の写真画像の話をする。その話を聞いた羊野は大きく溜息をつきながら勘太郎に向けて何やらむっとした顔を向ける。

「そんな大事な事をなぜ今まで黙っていたんですか。物凄く重要な事じゃないですか。そう言う話は直ぐに教えてくれないと私としても困ります!」

「確信が持てなかったんだ。もしかしたら俺の勘違いかも知れないと思ったからな。俺が見せて貰ったスマホの写真は三~四年前の物らしいから、昔と今ではその見た目も大分変わってしまったから少しだけ別人のように見えているだけだと思ったんだよ。女性はその髪形や化粧や年月で状況も変わるらしいからな。それに……単純に依頼人の如月栄子さんが実は全くの別人だとは信じたくはなかったのかも知れない。ましてや彼女があの白面の鬼女だとはどうしても思えないんだ。だってそうだろう。彼女が白面の鬼女なら、これから人を数人殺す為にトリックを作り上げて入念な準備をしているそんな奴が、わざわざ俺達をこの雪山に連れてくるなんて馬鹿な事はしないはずだろ。ただ単に登山サークル部の人達を狙っているだけなら俺達はただ邪魔なだけだからな!」

「依頼人を信じたい気持ちは分かりますが余り親身になりすぎると見える物も見えなくなってしまいますよ。まあ、人がいいのも黒鉄さんの欠点でありいい所でもありますがね」

「いや、探偵としては失格なのかもな。あらゆる可能性を考えて動き、疑いのある者を真っ先に調べ上げ地道に追求するのが探偵の仕事だからな。それに如月栄子さんを信じたいというのはただの俺のエゴだからな」

「もしもその如月栄子さんが真っ赤な偽物だったとして、本物の如月栄子さんは一体どこにいるのでしょうか。闇の依頼人が殺しの依頼を狂人にしないと、そもそも狂人ゲーム事態が行われませんからね。円卓の星座での地位と権力と欲望を得る為に私達に直接挑戦状を叩き付けるような邪悪な野望を常に燃やす狂人ならともかく、少なくともこの白面の鬼女という狂人はターゲットでもある登山サークル部の部員達を一番に襲っている訳ですからちゃんとした目的があると言う事です。ただ闇雲に襲うだけなら大学一年の二井枝玄さん・佐面真子さん・田口友子さん・大学二年の一ノ瀬九郎さんの五人でもいい訳ですからね」

「た、確かにな。だがその肝心な如月栄子さんは今はここにはいない訳だからその真意を確かめる事はできないがな」

「まあ、それなら白面の鬼女の方を真っ先に捕まえて、その真相を聞き出すのが最も一番早い解決方法だと言う事でしょうか」

「そうだな。そう言うことになるな」

 如月栄子に関する疑問を引きずるかのように勘太郎が小さくそう呟くと、羊野は固定電話の受話器と人形の玩具のような機械をいじくりながら勘太郎の方を見る。

「それにここで如月栄子さんの正体について言い合っていても仕方がありませんので、そろそろ話題を変えますね。先ずこの部屋が誰の部屋か、それを確かめましょう。廊下に出て部屋番号を確認して下さい。それとこれからこの犯人が使っていたと思われるアリバイトリックの全貌をお見せしたいと思いますので少しだけ待っていて下さい」

「わかった、何だか知らないが、とにかく廊下に出て、しばらく待つよ」

 そう言うと勘太郎は羊野に言われるがままに部屋の外へとでる。その部屋を出て部屋の番号を見てみるとそこには部屋番号が書いてあり、その部屋が紛れもなく如月栄子の部屋である事に間違いはなかった。

(やはりこの部屋は如月栄子さんの部屋か。それに部屋のクローゼットの下には外へと通じている抜け穴もあるし、この地下の抜け穴からロープウェイ乗り場の機械を壊しに行ったり、崖の方ではその崖からまるで飛び降りたかのように一本通行の足跡を技と作り上げて見せたり、廃別荘からここまで移動をする事で誰にも見られる事無くその瞬間移動を現実の物にしている。だから全ての雪山での移動に雪道に足の跡が付かなかったんだ。だって実際に雪の上を歩いてはいなかったのだからな。だとするならばやはり白面の鬼女の正体は如月栄子さんでまず間違いはないと言う事なのかな……いや、如月栄子さんに化けている……別の誰かか。だとするならば、あの如月栄子さんを名乗る女性は一体どこの誰なんだ? くそ、分からない、分からない事ばかりだぜ!)

 額に手を当てながらそんな事を考えていると、一分ほどして羊野が部屋のドアを開けながら堂々と出て来る。羊野は怪訝な顔を向ける勘太郎に対し何やら意味ありげな視線を向けながら次なる行動を促す。

「お待たせしました。では黒鉄さん、部屋の呼び出しのプッシュホンを押して中の人を呼び出して見て下さいな」

「呼び出すって……お前がこの部屋から出てきたんだから、この部屋には誰もいないはずだろう。何を言っているんだお前は?」

「いいから呼び出して見て下さい」

「わ、分かったよ。お前がそこまで言うのならプッシュホンを押してみるよ。よ~し、押すぞ?」

 そう言いながら勘太郎は何やら緊張した面持ちでその呼び出しの機械に向けてプッシュホンのボタンを押す。

 ピンポーン、ピンポーン!

 だが当然のことながら部屋の中からは返事は返っては来ない。

「誰も呼び出しに出て来ないんだけど……」

「いいからあと一回だけプッシュホンを押して見て下さい。どうやら三回プッシュホンのブザーを押すと起動をする仕組みになっているみたいですからね」

「起動するって……一体なにが起動するんだよ?」

 まだ分からない疑問を投げつけながら勘太郎はまたプッシュホンのブザーを押す。

 ピンポーン!

 そのプッシュホンの呼び鈴のブザーを鳴らしたその三秒後、ガチャリと誰かが部屋の中にある受話器に出る。

 まさかと思いながらも勘太郎が部屋の中にいる電話の相手に身構えていると、電話の相手は女性の声で勘太郎に向けて話し出す。

「はい、もしもし……如月ですけど……どなたですか……」

 如月……如月だって……と思いながらも勘太郎は、如月栄子そっくりな声で話す部屋の中にいるはずの相手に思わず聞き返す。

「ほ、本当にあなたは如月栄子さんですか?」

 その質問から三秒後。

「はい、そうです、私は如月栄子ですけど、一体どうしたんですか」

「どうしたって……これは一体どう言うことですか?」

「あなたの言っている意味が分かりませんが……」

「分からないって……?」

 驚きながらも勘太郎は隣にいる羊野の顔を驚愕した顔で見る。

「これは一体どう言うことだよ。この部屋の中には如月栄子さんはいないはずなのに、なんで如月栄子さんが普通にしゃべっているんだよ!」

「フフフフ、面白いですよね。もっと彼女に向けていろんな事を話してみてくださいな。日用会話くらいはできるみたいですよ」

「ですよって……この声の主が如月栄子さんではないと言うのなら、俺は一体誰と会話をしているんだよ?」

「いいですから、会話を続けて下さいな」

 そう羊野に促され、仕方なく勘太郎は部屋の中で受話器を取っていると思われるその女性に向けて簡単な話をする。

「もしもし、如月栄子さんですか」

「はい、私が如月栄子ですが……」

「本物ですか?」

「本物……一体なにが言いたいのか分からないのですが」

「う~ん」

 確信を聞くと意味が分からないと言われるので話が進まないでいると羊野が笑顔で助言をする。

「黒鉄さん、普通に挨拶をして、体調の事でも聞いてみて下さいな」

「ああ、わかったよ」

 勘太郎はその部屋の中にいる声の主に簡単な挨拶をする。

「こんにちは如月さん、体調は大丈夫ですか」

「こんにちは、昨夜無理をしたせいか体調が悪いのでそろそろ眠りたいのですがよろしいでしょうか」

「具合が悪いのですか」

「はい、具合が悪いです」

「そうですか」

「そうです。ではそろそろ失礼しますね」

「その言葉に何だか違和感を感じた勘太郎はこれは一体どう言う事だと羊野を再度見るが、その視線に対し羊野が明るい声で言う。

 ね、よ~く出来ているでしょ!」

「こいつは一体どう言う事だよ。そろそろ説明をしろよ、羊野!」

「そうですわね。ならその答えに行き着く為にも今度は自分の名前をもじって相手に聞いて見ましょうか。そうすれば相手が何者なのかが分かりますよ」

 そう羊野に促され、勘太郎は今度は自分の名前をその部屋の中にいると思われる相手の女性に向けて言う。

「如月栄子さん、俺が誰か分かりますか」

「いいえ……ちょっと分からないですけど」

「海賊王になる予定の……黒髭です……」

「ああ、黒髭さんですか。どうかしましたか」

(これってまさか!)

「富士山の高さはどのくらいですか」

「富士山の高さは……3776メートルです」

「なら如月栄子さんの身長はどのくらいですか」

「ちょっと何を言っているのか分からないんですけど」

「如月栄子さんの家で飼っている犬の犬種は」

「ちょっと何を言っているのか、分からないんですけど」

「如月栄子さんが今日の朝食べた朝食は一体なんですか」

「朝食は美味しいですよね」

「朝は何を食べたかと聞いているんですけど……」

「朝はしっかりご飯を食べたいですよね」

 部屋の中から受話器を通して話す如月栄子の言葉の矛盾と違和感についに勘太郎も気付く。

「あ、そうか、分かったぞ羊野。この如月栄子を名乗る受話器から話す相手の正体が。今までは先入観的に如月栄子さんだと思い込んでいたから気付かなかったが、この機械のようなしゃべり方はスマホなどに搭載されている会話機能を持つアシストナビ型のAIだな。しかもご丁寧に如月栄子さんの声質を真似てるし、一通りの俺達の名前や質問に対応できるようにと既にアプリがインプットされている機能付きだ。あのさっき見た人形のような玩具がそうなんだな。あれは一体なんなんだよ?」

「ある電話会社や家電やAIソフトを扱う合弁企業で売り出されている日常会話用AIロボットですよ。このロボットは企業用の会話機能のあるロボットみたいですね。話ではその小型のロボットの中にパソコン一台分の機能が丸々搭載されているとか。どうやら研究用や企業用や個人用にレンタルで貸し出されているみたいなので値段もかなり高い用ですが、最新のアップロードやダウンロードで常に進化しているみたいです。その証拠に特定の人物の声を数パターンそのAIロボットに覚えさせたらその人の声の真似が出来たり、AIロボットの名前を変更して別の名前で呼んだらちゃんと応えてくれるという機能もあるみたいですよ。まあ人によっては好きな彼女の声や名前をそのロボットに登録して、そのAIロボットに自分の名前を呼んで貰ったり、既に亡くなっている家族と会話をしているかのような疑似会話も(簡単な会話ならスマホのアシスト機能のAIのように)楽しめるみたいです」

「楽しめるって不謹慎だぞ。もっと言葉を選べよ!」

「す、すいません」

「しかしそうか、あのどこぞの会社が売り出していたAIロボットのPepperくんやsotaくんの様な奴か。確かにあれなら一通り簡単な会話ならできるが、でもあの機械のようなしゃべり方じゃ流石にバレるんじゃないのか」

「だからこその音声アプリ機能なのですよ。あの独特の機械のようなしゃべり方じゃ流石にバレますが。AIの声が人間に近い声なら、その人がそこにいるという無意識的な先入観を持っていたら、簡単な挨拶程度の短い会話くらいなら恐らくはバレないと思いますよ。こちら側が相手の名前を呼んだらその人の声で応えてくれて、自分の名前を示したら今度はその人の名前を呼んでちゃんと答えてくれるのですから、長時間長々と話さない限りは、まさかAIロボットだとは夢にも思わないでしょうね。その証拠に私は如月栄子さんがこの部屋にちゃんといるかどうかという確認にばかり気を取られてしまっていたので、その人が本物かどうかという事には注意を怠ってしまいました。それにこの山頂に張り巡らされている数々のトリックの謎の事で頭がいっぱいでしたからそこまで気が回らなかったのも事実です。私としたことが、こんな幼稚で簡単なアリバイトリックに引っかかるだなんて……ハッキリ言って無念です。屈辱です!」

「でもこの手のAIロボットって確か、Wi-Fiのインターネット回線が必要なんじゃなかったかな。でもここにはどの電話会社の回線も電波塔すらもないぞ。なら電気はおろか最新のダウンロードもできないじゃないか?」

「忘れてはいませんか、この山荘ホテルにはフロントに固定型電話が設置してあった事を。だからこそ私達は固定電話からならこの山荘ホテルに電話をする事が出来たんですよ。でもその固定電話も白面の鬼女に配線を切られてしまいましたから、麓の町に電話で助けを呼ぶこともままならなくなりましたがね」

「なら……わかるだろ。この山荘ホテルにはその固定電話の配線と各部屋に設置してある相手と通話ができるプッシュホン機能の呼び鈴以外に配線が通っている所は何も無いと言う事だ。コンセントの穴も全く見当たらないしな」

「確かに、この山荘ホテルの雰囲気を壊さないために電気は最小限に使い、灯りの主流はオイルランプかロウソクで。料理に使う燃料には薪か、炭か、固形燃料か、それともオイルバーナーを使っているみたいですから、あの固定電話とプッシュホン機能以外にコンセントもプラグ線も当然ありません」

「なら先ほど如月栄子さんの部屋の中で見たAIロボットはプッシュホン機能を持つ回線と繋げる事ができる用だが、回線はどうやって持って来ているんだよ」

「電話線は切られてはいますが、プッシュホン機能を持つ回線の方はどうやら電気が通っているみたいですから、後はこの部屋の何処かに隠してあると思われるインターネットが出来る回線の穴のコンセントに有線の線を繋げればこのAIロボットは起動をさせる事ができると言う事です。そしてWi-Fiの方ですが、衛星電話と同じように、このAIロボットには衛星の無線の電波をキャッチする機能が内蔵されているみたいですよ。この山荘ホテルの屋根の上には煙突があり、その中には不自然に隠されている謎のアンテナも見つけることが出来ましたからね」

「そうか、確かにこの山荘ホテルと麓の町までは地下を通じて配線が組まれているんだったな。しかも電波には衛星を返している。だからこそこの山に電波塔が無くとも、麓の電波塔から衛星の電波を返してこの部屋にいるAIロボットに電波が来ていたのか。だからこそAIロボットとの会話がスムーズに出来たと言う訳か。全く恐れ入ったぜ。そんな奇想天外なハイテクな手に引っかかてしまうとはな!」

 部屋のドアを開けながら勘太郎は、部屋の中にある固定電話に設置されているAIロボットをマジマジと見る。

 スマホのアシスト機能のように会話をしてくれるのか。まさかこの機能を使って殺人のアリバイ作りに利用するとはな。科学の進化とは……いいや、人間の悪意とは恐ろしい物だぜ!」

 AIロボットを手に取りながら勘太郎がそんな事を呟いていると、行き成りその背後から誰かに声を掛けられる。

 その声を掛けてきた方に静かに振り向くと、そこには青い顔をしながら立つ田代まさやと田口友子の二人の姿があった。

 大学三年の田代まさやは何を思ったのかまるで意を決したかのように勘太郎に向けて話し出す。

「探偵さん、実はこんな物を見つけたんだが、見てもらえないだろうか」

 そう言いながら震える手で田代まさやが差し出したのは一つの真っ赤な色をしたレッドカラーのスマートフォンだった。

「このスマートフォンが一体どうかしたんですか?」

 その勘太郎の問いに行き成り体をブルブルと震わせながら田代まさやが言う。

「俺は如月妖子を殺した犯人として……大石学部長や飯島有先輩に生け贄として白面の鬼女に差し出されるかも知れない。つまり如月妖子に関する全ての罪を俺にかぶせようとしているかも知れないと言う事だ。探偵さん、助けてくれ。俺はもしかしたらあの二人の先輩達の巧妙な罠にはまって間接的に殺されるかも知れない!」

 切羽詰まったかのように言う田代まさやの言葉に勘太郎は思わず首をかしげながら頭をひねる。

「ちょっと話が見えてこないのですが一体どうしたんですか。その話とこのスマートフォンが関係あるのですか。そしてなぜ大石学部長と飯島有さんがあなたを白面の鬼女に差し出すと思うのですか。その根拠を教えて下さい」

「そ、それは……」

 田代まさやが何やら言いにくそうにしていると、代わりに後ろにいた田口友子が勢いよく話し出す。

「まずこのスマートフォンが一体誰の物か……スマートフォンの中を開いて確かめて見て下さい」

 その田口友子の言葉に従って勘太郎はそのレッドカラーの赤いスマートフォンの電源を入れ、機械を起動させる。

 幸いなことに暗証番号のロックは掛かってはいない。

 その持ち主を調べた結果、そのスマートフォンの持ち主は、現在行方不明になっている如月妖子の物で間違いは無かった。

「電話番号も名前もメールアドレスも登録してある。これは間違いなく如月妖子さんのスマートフォンだ。一体このスマートフォンをどこで手に入れたんですか!」

 大きな声で叫ぶ勘太郎の言葉を遮りながら田代まさやと田口友子がかなり慌てた様子で「し、静かに……もっと声のトーンを小さくして下さい。大石学部長と飯島有先輩に気付かれてしまいますので!」と言いながら無性に回りを気にする。

「それで、この如月妖子さんのスマートフォンにあの大石学部長と飯島有さんがどんな形で関わってくるんですか」

「まず、結論から言います。このスマートフォンを田代まさや先輩のスキーウエアのポケットの中に入れたのは大石学部長と飯島有先輩の二人だと思われます」

「な、なんだって~ぇぇ! でもなんで大石学部長と飯島有さんがこのスマートフォンを田代まさやさんのスキーウエアのポケットの中に入れたと思うんだよ。それに一体なんの為に?」

「決まっていますよ。まだ誰か分からない正体不明の白面の鬼女に技と如月妖子さんを殺した犯人は田代まさや先輩だと教える為です。そうですあの二人は如月妖子さんを殺したかも知れない犯人をでっち上げて田代まさや先輩を白面の鬼女の生け贄にするつもりなんですよ。如月妖子さんを殺した犯人が見つかったら白面の鬼女は満足してこれを機にこの犯行をこのまま止めるかも知れませんからね。その小さな望みに賭けたのだと思います。自分の命が少しでも助かる為だったら如何なる手段を講じてもなんだってやるでしょうからね」

「大石学部長と飯島有さんが田代まさやさんのスキーウエアのポケットの中に人知れずこの赤いスマートフォンを入れたかも知れないと言っていましたが、そこの所をもっと詳しく教えてはくれないでしょうか」

「わかりました、私が三十分前に三階の食堂で見て感じた事を憶測も兼ねてお話しますね。後ろにいる羊の探偵助手さんも一緒に話を聞いて下さい」

「ええ、分かりましたわ。ではお話しして下さいな」

 そう羊野に話を催促された田口友子は三十分ほど前に見た出来事を話し出す。

            *

「斉藤先輩や如月栄子さんが亡くなった事を聞いて皆今も大人しく自室に閉じこもっていますが、暖かなコーヒーが飲みたくなった私は仕方なく三階に行くと大石学部長と飯島有先輩の二人が何やらそわそわした感じでテーブルにいたのを見ています。何だか不思議な感じを抱きながらも私は先輩達に軽く挨拶をしながら発電機で動いているドリンクバーの暖かいホットコーヒーをマグカップに淹れていると、大石学部長と飯島有先輩は私に挨拶もせずにそそくさと二階にある自分の部屋へと戻って行きました。その後に私が部屋に戻ろうとすると一階のトイレに行っていたという田代まさや先輩が現れて先輩達は何処だと言って来たので、大石学部長と飯島有先輩はたった今二階にある自分の部屋へと戻ったと言ったら「ちくしょう、俺を置いてもう下へと戻ったのかよ。まだ白面の鬼女がこの辺りをウロウロしているかも知れないというのに、俺を一人にしないでくれよ!」と言いながら田代まさや先輩も慌てて椅子に掛けていたスキーウエアを羽織ろうと持ち上げたのですが、そこで可笑しな事に気付いたようなんですよ」

「可笑しな事とは……まさか」

「数分前に自分が座っていた椅子に立て掛けていたスキーウエアの重みに妙な違和感を感じた田代まさや先輩はそのウエアのポケットの中から見覚えのない赤いスマートフォンを発見しています。そうです、その赤いスマートフォンこそが、今探偵さんの手にある如月妖子さんのスマートフォンなんですよ。あるはずのないスマートフォンがここにあるということは今まで誰かがそのスマートフォンを人知れず持っていたと言う事です。そのスマートフォンが田代まさや先輩のウエアのポケットから見つかった事で最初は田代まさや先輩をかなり疑りましたが、田代まさや先輩の慌て具合と、私が居る前でついうっかりそんな重要な物を出してしまうミスをわざわざするとは流石に考えづらいので、もしかしたらこの後の転回で白面の鬼女に如月妖子さんを殺したのは田代まさや先輩だと言う事を教えるために技と誰かが先輩のスキーウエアのポケットに入れた物だという答えに行き付きました。そしてそのスキーウエアに入れたと思われる怪しい人物こそが……大石学部長と飯島有先輩だと私は疑っていると言う訳です。田代まさや先輩の話では、一階にあるトイレに行く時はわざわざスキーウエアを脱いで下へと降りたらしいですから、スキーウエアを脱ぐ際にはポケットの中にそんな物は入ってはいなかったと言っています。となればやはりその後に田代まさや先輩を待たずに部屋へと立ち去った大石学部長と飯島有先輩が最も怪しいと言う事になります。それに勿論この私も当然そのスマホを田代まさや先輩のスキーウエアの中に入れるチャンスはありますが、そもそも大学一年生でもあるこの私がまだ一度も会った事の無い現在行方不明の如月妖子さんの事を知っているはずもないので、そのスマートフォンその物を手に入れるきっかけは当然ありません!」

「でも逆に言うと大石学部長と飯島有さんならもしかしたら、何かのきっかけで如月妖子さんのスマートフォンを手に入れて人知れず隠していたかも知れないと考えた訳ですね。その二人が如月妖子さんの失踪の謎に直接関わっていたのなら尚更です」

「そう言う事です。だから私は田代まさや先輩に全ての罪をかぶせるために、二人が敢えて偽造をしたのだと思うのですよ。つまり全ての罪を田代まさや先輩に被せて、そのまま白面の鬼女を使って口封じをさせるつもりなのです! と、私は考えているのですが……どうでしょうか」

            *

 その田口友子の確信めいた言葉に話を聞いていた勘太郎は思わず絶句し息を呑む。

(やはり大石学部長と飯島有は如月妖子が行方不明になった原因を知っているのか。その如月妖子本人と一緒にその無くなっていたと思われる彼女のスマートフォンをあの二人が持っていたと仮に想像をするならば、如月妖子さんの生死の行方もあの二人ならもしかしたら分かるのかも知れないな。これはもう一度あの二人からこのスマートフォンについて詳しく聞く必要があるな)

 勘太郎は落ち着き払った声で、これからどうした物かと体を震わせる田代まさやを見ながら静かに話しかける。

「それで、このスマートフォンについて、大石学部長と飯島有先輩には問いたださなかったのですか」

「聞こうとも思ったんだが、田口友子の奴に止められてな。まだ言わない方がいいと言う事になったんだよ。先ずは泳がせて二人の思惑と行動を探るとか言ってな。それにこのスマートフォンの事で大石学部長と飯島有先輩の二人に追求をする前に、やはりここは一番に探偵さん達に話すのが先だという話に落ち着いたんだよ」

「勿論、探偵さん達に話す方が先ですよ。もしもこの事で田代まさや先輩が逆上して感情の赴くがままに怒りを爆発させても、スマートフォンをスキーウエアに入れた証拠は何もないと……田口友子が嘘を言っているのだと言って平然とシラを切られる恐れがありますからね。それで警戒でもされたら後の祭りです。そして如月妖子さんのスマートフォンを直に持っていたという田代まさや先輩の真実と事実だけがみんなに広がり、当然事情を知らない白面の鬼女は如月妖子さんのスマートフォンを持っていた田代まさや先輩を疑う訳ですから、次のターゲットに真っ先に選ばれてしまうという最悪な筋書きが出来上がってしまいます。これがあの二人の筋書きです」

「もしもこのスマートフォンの話がみんなに拡散したら、いつも大石学部長や飯島有さんの近くにいる田代まさやさんを、もしかしたら主犯格かも知れないと疑る人も出て来るかも知れない。そうなれば当然あの白面の鬼女も動くと言う訳か。そして田代まさやさんが殺されるまでは二人の危険のリスクはかなり減るかも知れないと言うことか。その話が事実だとするならだけどな!」

 思わず深い溜息を吐きながら感想を口にした勘太郎だったが、その向かい合う正面では田口友子の話を聞いていた田代まさやが、内心思っていた感情が極限まで高まったのか泣きながら震えた声で静かに怒り出す。

「ううううう~、ちくしょう、ちくしょう。あの女の死は不可抗力だし、ただの思わぬアクシデントだと言って責任逃れをした挙げ句に……彼女の死体が見つかったらこの場にいたみんなも共犯になると言われて……脅されたから仕方なく手伝ったのに……まさかこんな事になってしまうだなんて。こんな事なら素直に全てを警察に言えばよかったぜ!」

「田代まさやさん、一体なんの話ですか。その感じだとやはり如月妖子さんの失踪について何かを知っているのですね。もうここまで話したのですから、もし知っている事があるなら全てを話してはくれないでしょうか」

「俺はただあの時、大石学部長と飯島有先輩に『もしもここで勝手に死亡した如月妖子の死体が誰かに見つかったら、その疑惑から俺達が真っ先に疑われて……後の就職にも絶対に悪影響が出ると』まるで懇願するかのように言って来たから、どうしようかと斉藤先輩や陣内達と話し合っていたんだが、それでも俺達はやはり警察には事の事情をちゃんと話した方がいいという結論を二人に話して聞かせる事にしたんだ。大石学部長・飯島有先輩・そして如月妖子とのいざこざの事で俺達が犯罪の片棒を担ぐ訳にはいかなかったからな。だけど今度は飯島有先輩に『自分のこれからの人生に永久的な汚点を残すかも知れないと、最悪逮捕もされるかも知れない』と言われて。その挙げ句にまるで自分達をこの犯罪に縛り付けるかのように『もしもこの事を警察に話したら私があなた達を如月妖子の殺しに加担をした仲間だと虚偽の証言をすると』真顔で脅迫までされて、仕方なく俺達は如月妖子の死体をある場所に埋める事にしたんだよ。あそこなら絶対にバレないとの理由でな。なのに大石学部長はなぜ今も如月妖子のスマートフォンを未だに持っているんだ。彼女のスマートフォンは大石学部長が責任をもってとっくの昔に処分をしている物と思っていたんだが、なのに……なのに……一体なぜだ? 気持ちが悪い……流石にこれは気持ちが悪いぜ。しかもその如月妖子のスマートフォンを使って白面の鬼女をおびき出し、今度はこの俺を人知れず罠に嵌めようと画策するとは、もういい加減にあの二人には愛想が尽きたぜ。俺はこれでも大石学部長や飯島有先輩の事を最後まで仲間だと信じていたのに。だからこそ犯罪の片棒を担ぐ事にも嫌々ながらも協力をしたんだ。なのにこんな形で最後の最後に裏切られるとは正直思いもしなかったぜ。ちくしょう、あいつら……あいつらもう許さねぇぇ。こうなったら俺が知っていることを今ここで洗いざらい全てを話してやるよ。あの日に起きた一部始終とその真相をな!」

 信じていた先輩達に裏切られた反動から大いに怒り出す田代まさやを見ていた田口友子は何やら複雑な表情をし、その表情に釣られたのか勘太郎もまた目を細めながら何とも言えない微妙な顔をする。だがその勘太郎の後ろにいた羊野瞑子だけは何やら妖艶且つ不気味な表情を浮かべながら静かに微笑むのだった。
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