おひとよしシーフ(Lv99)による過去改変記

Imaha486

文字の大きさ
26 / 209
第四章 エルフの少年ユピテル

026-弱者

しおりを挟む
【聖王歴128年 青の月 38日 深夜】

『これより、ユピテルの処刑を執り行う』

 村の中央に柱が突き立てられ、その上には縛られたユピテルの姿があった。
 ずいぶんと粗末な作りではあるが、これがエルフ村における「処刑台」らしい。

『かの者は炎の精霊イフリートの封印を解き、さらに封印の指輪を村から持ち去った罪により、裁きを受けるものとする!』

『見つけた時点で封印は解かれてたんだ。村の皆だって、オイラみたいな落ちこぼれがそんな事できっこないって知ってるだろ!』

 長老の宣言に対し、ユピテルは抗議の声を上げるが、村のエルフ達は何も答えようとしない。

『弓、構え!!』

 エルフ弓手アーチャーが掛け声に合わせてショートボウを引き絞ると、他のエルフ達は顔を伏せて惨状から目を逸らした。
 まるで、この場において自分だけは無関係であると言うかのように……。

『ちくしょー! なんでだよーーっ!!』

『放て!!』


ビィンッ!!!


 極限まで強く張られた弦に射られ、矢は真っ直ぐに夜の闇を貫いてゆく!
 あまりの恐ろしさに村の皆が目を瞑り耳を塞ぎ、夜の村に静寂が訪れた。

『……』

 ……だが、あまりにも静かすぎる。
 ユピテルの悲鳴どころか、矢のあたる音すら聞こえないなんて。
 村の者達が疑問に思い、重いまぶたをゆっくり開くと……放ったはずの矢は、ユピテルの目の前で氷に包まれて静止していた。

『こ、これは一体……!?』


【鑑定結果】
名称:猛毒の矢
説明:主に暗殺者が用いる、ショートボウ用消耗アイテム。
効果:即死(確率大)


「やっと見つけたぜアーチャー野郎! てめえがガラスを割った犯人だな!!」

『なっ!?』

 突然現れた俺達の姿を見て、エルフ村の連中がざわめく。

『我が村に無断で立ち入るとは、おのれ人間め許さぬぞ!!』

「うるせえ! てめえに言いたい事は山ほどあるけど、まずは割ったガラス代を払いやがれ!!」

 怒りの形相で怒鳴る俺にエルフの長老はたじたじになりながらも、チラリとエルフ弓手へと視線を向けた。
 弓手はその意図を察してか、すぐに矢をつがえて弓を構える!
 ……が、首にロングソードが突きつけられると、震えながら地面に膝をついて両手を挙げた。

「正義を愛する僕としては、こういう悪役っぽい登場はあまり好まないんだけどね」

『勇者カネミツ! 貴様いったい、どうやってあの小屋から出たっ!?』

 予想通りの反応にやれやれと両手を広げて苦笑するカネミツだったが、処刑台に縛られたユピテルを見て、嫌悪感を露わに村長を睨みつけた。

「悪役っぽい登場は好きじゃないけど……こういう外道は大嫌いだ。反吐ヘドが出る」

『くっ! ……お前達、自分達が何をしているのか分かっているのか!!』

「寄ってたかって濡れ衣の子供を処刑しようとしてた連中に言われてもなぁ」

 俺のぼやきが聞こえたのか、エルフの長老は怒りながらユピテルを指差して叫んだ。

『今アレを殺らねば、炎の精霊イフリートが村を焼き尽くすのだぞ! 我々の計画を台無しにするつもりかっ!!』


『……なるほど、それが狙いですか』


 感情を一切感じさせない絶対零度の声が村に響き、エルフ達は小さな悲鳴を上げた。
 長老が恐る恐る目を向けた先には、白いローブに身を包んだエレナが居た。

『罪無き少年を捕らえ、村の災厄たる炎の精霊と共に始末する……。このような狂気が誰にも止められる事なく実行に移されてしまった事が大変残念です』

『おのれ、貴様は何者だっ!!』

 図星を突かれた村長は怒りの形相で怒鳴るものの、フードを外したエレナの姿に、村長だけでなくエルフの村民全員が絶句した。
 そこに居たのは薄水色の長い髪に蒼い目をもつ、人ならざるもの……精霊だったのだから。

『私は水の精霊エレナ。森と共に生き、自然と平和を愛するエルフの民ともあろう者達が、このていたらく……恥を知りなさい!』

『黙れ黙れ黙れッ!! かつてこの村は炎の精霊イフリートによって蹂躙じゅうりんされ、多くの犠牲者を出したのだぞ! それを小童こわっぱ一人の命で救えるのだ! 部外者からいくら罵られようとも、村を護る為に最善を尽くす我らを誰が非難など出来るものか!!』

 エルフの長の言葉に対し、カネミツが文句を言いたそうに奥歯をギリリと噛みしめる。
 そして、彼が苦言を口にしようとしたその時、頭上から声が響いた。

『だったら、どうしてオイラを騙すような真似をしたのさ!』

『っ!!』

『それなら、最初から正直に言っててくれれば良かったじゃないか!! オイラ、怖くて辛くて、それでも皆の事を思って、頑張って遠くに逃げたのに……うぅ……』

 頭上で嗚咽を漏らすユピテルの姿に、村人達は困惑している。
 未だに状況を理解していない鈍感な連中に対し、ついに堪忍袋の緒が切れたカネミツが近くの木桶を蹴飛ばして叫んだ。

「いつまでも黙ってないで何か言ったらどうなんだ! この子は最初から被害が自分だけで済むよう、全ての罪を背負い込んで頑張ってたんだぞ! それも、自分を見殺しにした村人全員を助けるためにっ!!!」

 村人達は、まるで時間が止まってしまったかのように、その場に立ち尽くす。
 カネミツに言われた事で、ついに自分達が何をしていたのかを自覚したのだろう。
 そして気づいたのだろう……ユピテルを生贄にして自分達だけが助かろうとした罪の重さに。

「なあ、村長さん。アンタらにとっては炎の精霊イフリートは決して抗えない災厄なのかもしれないけど、俺らの国の連中が集まればきっと倒せるからさ。もう一度イフリートを封印し直して、ユピテルの呪いを解いてやってくれないか?」

 俺が解決策を持ちかけると、村長は首を……横に振りやがった!!

「なんでだよっ! まだ分かんねーのかよ!!」

『違うっ! 貴様の言おうとしている事は理解している!』

「だったら、どうしてっ!!」

『……この村に、イフリートを封印できる術者が居らぬのだ』

「え……?」

 言葉の意味を一瞬理解出来なかった。
 それから、村長は事の真相を語り始めた。

『イフリートを召喚したのも、指輪に封印したのも、全て我が村の祖先であった。そしてかつての惨劇の後、我が村では高度な魔術を禁忌とした。再び悲劇が起こらぬよう、森で暮らし身を守るのに必要最低限の魔法以外の習得を禁じたのだ。争い事を再び起こさぬよう、身の丈に合わぬ力を持たぬよう……』

「じゃあイフリートの封印が解けたのは……まさかっ!」

『祖先のかけた封印が弱まったのが理由だ。ゆえに、イフリートが再び復活すれば……全てが終わる』

 村長が力なく呟いた直後、村の中を凄まじい熱風が吹き荒れた!
 その発生源に目を向けると、そこには処刑台に縛られたユピテルの姿だけ。
 だが、彼を縛っていた綱はすすとなり、やがて熱風が炎をまとい始めた。

『……終わりの、始まりだ』

 村長は絶望の表情で炎の中心を眺めている。
 そして、ユピテル……いや、炎の精霊イフリートは村を見渡すと、ニヤリと不敵にわらった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...