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一緒に…暮らす?
私と遼平くんが!?
思ってもみない提案に、気持ちが天まで舞い上がる。
でも、それを引きずり下ろしたのは、他でもない我が儘で嫉妬深いもう一人の自分だった。
“暮らすって一体どこに?”
そんなこと、聞くまでもない。
永美ちゃんとの思い出が鏤められた、この家だ。
脳裏に、今朝の晴臣に言われた『絶対後悔する』という声まで蘇って、不安を煽られそうになり、必死で追い払う。
私のことを好きだと言ってくれた。
私のことが必要だと言ってくれた。
目の前でリングも捨ててくれた。
もう十分なはず。
遼平くんの気持ちも疑っていない。
これ以上、一体何を望むというの?
喉元まで出かかった言葉を、何事もなかったように飲みこむ。
「…だから、色々あって疲れてるところ申し訳ないけど、ちーちゃんを送ってそのまま、義兄さんに報告してもいいかな?」
大丈夫。
私たちは、まだ始まったばかり。
これから二人で過ごす時間が、この不安も消してくれる。
私は、そう信じる。
「…嬉しい」
微笑んだ私を、今度は遼平くんが抱きしめた。
結局、週末は両日とも父が出張で不在だったので、二人のことを報告するのは後日改めて、ということになった。
遼平くんを見送ってから部屋に戻り、ずっとオフにしていたスマホの電源を入れると、夥しい数の着信メッセージが届いた。
犯人が捕まる前のSNSの更新通知より遥かに見るのが怖い。
晴臣との婚約解消からまだ一日と経っていないなんて。
時間の流れが酷く遅く感じる。
ごめん、と心の中で謝ってから一括削除した。
*
そして、月曜日。
今日はいよいよ嫌がらせの犯人が分かってしまう。
いくらでもチャンスはあったのに、遼平くんに聞かなかったのは、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが同じくらい強かったから。
どうにも落ち着かなくて、いつもより早く出社した。
まだ誰もいない販売促進部のフロアは、いつもと何も変わりない。
もしかして、犯人はポスター撮りのメンバーじゃなかった…?
そんな都合の良い考えは、ドアの開く音が掻き消した。
出社してきたのは飛鳥先輩だ。
いつもよりラフな格好で、手には大き目の箱を抱えている。
「お、おはようございます」
緊張しながらもいつものように挨拶をしても、返事は返ってこなかった。
私と遼平くんが!?
思ってもみない提案に、気持ちが天まで舞い上がる。
でも、それを引きずり下ろしたのは、他でもない我が儘で嫉妬深いもう一人の自分だった。
“暮らすって一体どこに?”
そんなこと、聞くまでもない。
永美ちゃんとの思い出が鏤められた、この家だ。
脳裏に、今朝の晴臣に言われた『絶対後悔する』という声まで蘇って、不安を煽られそうになり、必死で追い払う。
私のことを好きだと言ってくれた。
私のことが必要だと言ってくれた。
目の前でリングも捨ててくれた。
もう十分なはず。
遼平くんの気持ちも疑っていない。
これ以上、一体何を望むというの?
喉元まで出かかった言葉を、何事もなかったように飲みこむ。
「…だから、色々あって疲れてるところ申し訳ないけど、ちーちゃんを送ってそのまま、義兄さんに報告してもいいかな?」
大丈夫。
私たちは、まだ始まったばかり。
これから二人で過ごす時間が、この不安も消してくれる。
私は、そう信じる。
「…嬉しい」
微笑んだ私を、今度は遼平くんが抱きしめた。
結局、週末は両日とも父が出張で不在だったので、二人のことを報告するのは後日改めて、ということになった。
遼平くんを見送ってから部屋に戻り、ずっとオフにしていたスマホの電源を入れると、夥しい数の着信メッセージが届いた。
犯人が捕まる前のSNSの更新通知より遥かに見るのが怖い。
晴臣との婚約解消からまだ一日と経っていないなんて。
時間の流れが酷く遅く感じる。
ごめん、と心の中で謝ってから一括削除した。
*
そして、月曜日。
今日はいよいよ嫌がらせの犯人が分かってしまう。
いくらでもチャンスはあったのに、遼平くんに聞かなかったのは、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが同じくらい強かったから。
どうにも落ち着かなくて、いつもより早く出社した。
まだ誰もいない販売促進部のフロアは、いつもと何も変わりない。
もしかして、犯人はポスター撮りのメンバーじゃなかった…?
そんな都合の良い考えは、ドアの開く音が掻き消した。
出社してきたのは飛鳥先輩だ。
いつもよりラフな格好で、手には大き目の箱を抱えている。
「お、おはようございます」
緊張しながらもいつものように挨拶をしても、返事は返ってこなかった。
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※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
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※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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