106 / 173
15-2
しおりを挟む
少し落ち着きを取り戻し始めた頃、静かな部屋にスマホのバイブ音が鳴り響いた。
ベッドから降り、ドレッサーの椅子に置かれていた鞄を探る。
ディスプレイに表示された相手を見て、一瞬出るのを躊躇ったけれど、通話ボタンをタップした。
「もしもし、千歳ちゃん?」
「…うん」
「…遼平のこと、辛かったね。大丈夫かい?」
「…っ」
父の労りと慰めに胸が締め付けられて、遼平くんとのことは上手く話せない。
「二人の関係を聞いた時、ある程度この結末は予想できていたのに…何の力にもなれないまま、千歳ちゃんを傷つけてしまったね。ごめん」
父の答えによっては、親子関係に決定的な亀裂が生じてしまう。
けれど、どうしても問わなければならない。
「そ…んなふうに謝るってことは、やっぱり私と晴臣の婚約は最初からお父さんの会社の為のものだったの?」
「それは、違う。晴臣と婚約させたのは父さんと晴臣の父の純然たるノリと勢いだ!!」
ノリと勢いを威張って言うのもどうかと思うけど。
「晴臣の母が光越の創業者一族なんて知りもしなかったしね。そんじょそこらの家柄じゃないから、どちらかと言うと周りに隠してたみたいだし。Lotusに力を貸してくれ始めたのは、お前たちが幼稚園の頃くらいだよ」
「…どうして急に?」
「そりゃあ、落ちちゃったからだよ」
「…落ちた?」
「晴臣が、千歳ちゃんに」
いつかeternoの一室で、晴臣に告白されたときのことを思い出す。
たった数ヶ月前の出来事なのに、今とは状況が違いすぎて遠い昔のことのよう。
細く長い記憶の糸をたどれば、確かに、その頃から私を好きだと言っていた。
「でも…今は違う!私達を別れさせるために光越の人間という立場を利用してeternoに無茶な条件付きつけて…『復讐』だって…!!」
受話器の向こうでは父が絶句している。
いくら晴臣を可愛がっていても、今回ばかりはさすがに目が覚めただろうと期待していたら。
今度は深いため息が聞こえて来た。
「何でそっちの方向に行っちゃうんだろうね…アイツは…」
「…そっちってどっち?」
「うーーん。こういうことは第三者が口を挟むと余計拗れるからなあ…晴臣にも怒られそうだし…ただ一つ言えるのは…千歳ちゃんの知っている晴臣は、本当にそんなことするような男なのかってこと」
確かに私の知っている晴臣は、目つきも口も態度も悪いけど、なんだかんだ言いつついつも私を助けてくれていた。
けど、もう変わった。
私が傷つけて変えてしまった。
出かけに見せた冷たい瞳を思い出して何も言えないでいると、父は、
「そろそろ晴臣と真正面から向き合ってやりなさい」
と、言い残して電話を切った。
ベッドから降り、ドレッサーの椅子に置かれていた鞄を探る。
ディスプレイに表示された相手を見て、一瞬出るのを躊躇ったけれど、通話ボタンをタップした。
「もしもし、千歳ちゃん?」
「…うん」
「…遼平のこと、辛かったね。大丈夫かい?」
「…っ」
父の労りと慰めに胸が締め付けられて、遼平くんとのことは上手く話せない。
「二人の関係を聞いた時、ある程度この結末は予想できていたのに…何の力にもなれないまま、千歳ちゃんを傷つけてしまったね。ごめん」
父の答えによっては、親子関係に決定的な亀裂が生じてしまう。
けれど、どうしても問わなければならない。
「そ…んなふうに謝るってことは、やっぱり私と晴臣の婚約は最初からお父さんの会社の為のものだったの?」
「それは、違う。晴臣と婚約させたのは父さんと晴臣の父の純然たるノリと勢いだ!!」
ノリと勢いを威張って言うのもどうかと思うけど。
「晴臣の母が光越の創業者一族なんて知りもしなかったしね。そんじょそこらの家柄じゃないから、どちらかと言うと周りに隠してたみたいだし。Lotusに力を貸してくれ始めたのは、お前たちが幼稚園の頃くらいだよ」
「…どうして急に?」
「そりゃあ、落ちちゃったからだよ」
「…落ちた?」
「晴臣が、千歳ちゃんに」
いつかeternoの一室で、晴臣に告白されたときのことを思い出す。
たった数ヶ月前の出来事なのに、今とは状況が違いすぎて遠い昔のことのよう。
細く長い記憶の糸をたどれば、確かに、その頃から私を好きだと言っていた。
「でも…今は違う!私達を別れさせるために光越の人間という立場を利用してeternoに無茶な条件付きつけて…『復讐』だって…!!」
受話器の向こうでは父が絶句している。
いくら晴臣を可愛がっていても、今回ばかりはさすがに目が覚めただろうと期待していたら。
今度は深いため息が聞こえて来た。
「何でそっちの方向に行っちゃうんだろうね…アイツは…」
「…そっちってどっち?」
「うーーん。こういうことは第三者が口を挟むと余計拗れるからなあ…晴臣にも怒られそうだし…ただ一つ言えるのは…千歳ちゃんの知っている晴臣は、本当にそんなことするような男なのかってこと」
確かに私の知っている晴臣は、目つきも口も態度も悪いけど、なんだかんだ言いつついつも私を助けてくれていた。
けど、もう変わった。
私が傷つけて変えてしまった。
出かけに見せた冷たい瞳を思い出して何も言えないでいると、父は、
「そろそろ晴臣と真正面から向き合ってやりなさい」
と、言い残して電話を切った。
1
あなたにおすすめの小説
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
溺愛モードな警察官彼氏はチョコレートより甘い!?
すずなり。
恋愛
一人でチョコレート専門店を切り盛りする主人公『凜華』。ある日、仕事場に向かう途中にある交番に電気がついていて。人が立っていた。
「あれ?いつも誰もいないのに・・・」
そんなことを思いながら交番の前を通過しようとしたとき、腕を掴まれてしまったのだ。
「未成年だろう?こんな朝早くにどこへ?」
「!?ちがっ・・・!成人してますっ・・・!」
幼い顔立ちから未成年だと間違われた凜華は証明書を提示し、難を逃れる。・・・が、今度は仕事でトラブルが発生!?その相談をする相手がおらず、交番に持ち込んでしまう。
そして徐々にプライベートで仲良くなっていくが・・・
「俺の家は家族が複雑だから・・・寄って来る女はみんな俺の家族目当てだったんだ。」
彼にも秘密が、彼女にもナイショにしたいことが・・・。
※お話は全て想像の世界です。
※メンタル薄氷の為、コメントは受け付けることができません。
※ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
記憶喪失のフリをしたら夫に溺愛されました
秋月朔夕
恋愛
フィオナは幼い頃から、自分に冷たく当たるエドモンドが苦手だった。
しかしある日、彼と結婚することになってしまう。それから一年。互いの仲は改善することなく、冷えた夫婦生活を送っていた。
そんなある日、フィオナはバルコニーから落ちた。彼女は眼を覚ました時に、「記憶がなくなった」と咄嗟にエドモンドに嘘をつく。そのことがキッカケとなり、彼は今までの態度は照れ隠しだったと白状するが、どんどん彼の不穏さが見えてくるようになり……。
純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する
早瀬佳奈26才。
友達に頼み込まれて行った飲み会で
腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。
あまりの不愉快さに
二度と会いたくないと思っていたにも関わらず
再び仕事で顔を合わせることになる。
上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中
ふと見せる彼の優しい一面に触れて
佳奈は次第に高原に心を傾け出す。
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる