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「え…どうして?」

「聞いてどうする?千歳も知ってのとおり、光越宗一郎が出したeternoの存続条件は、光城と姻戚関係を結ぶことだ。そして、残念ながら少子化の影響で今現在光城には適齢期の女はいない。つまり、手塚が自ら光城と姻戚関係を作ることはできない。この状況で、蓮見家の娘としての責任感だけ無駄に強いお前が、俺と手塚の話の内容を聞いたからって、俺との結婚を受け入れないという選択ができるか?」

取り付く島もない、完全な拒絶。

無理だ。
晴臣の意思はウルツァイト窒化ホウ素よりも硬い。

「それは…そうだけど」

肝心なところが分からないまま結婚だなんて。

「…心配するな。昨日みたいなことは、もう絶対しない。約束する」

自分の言葉を頭の中に刷り込むように、両方のこめかみを揉みながら言うと、晴臣は立ち上がった。

「話がそれだけなら行くぞ。リビングでおじさん達が待ってる」

当たり前のように私の手を引こうとして伸びた晴臣の手が、寸前でピタリと止まり、引っ込められた。

「…手ぐらい、いいのに」

晴臣は何も言わないまま、階段を下りていった。

「まず最初に言っておく。今回のeternoと光越の契約の件は、遼平に一任してある。だから、家の為だとか、会社の為だとか、千歳ちゃんは何も背負うことはないんだよ」

晴臣と並んでダイニングテーブルの席に着くと、開口一番父は言った。

「それでも、光城社長の出した条件を飲むのかい?」

それでeternoが守れるのなら。
遼平くんに二度もeterno永美ちゃんを失わせるわけにはいかない。

私は黙って、静かに一度、頷いた。

「……そうか。晴臣は?こんな形で千歳ちゃんと結婚することになって、それでいいのか?」

「はい」

晴臣が、私よりも間を空けずに返事をすると、父が頭を抱えて身悶え出した。

「違う!思ってたのと違うぅっ!!」

あ。
まずい。

「千歳ちゃんがお嫁に行くときはさ、もっとこう、『お嬢さんを僕にください』『誰がお前みたいなどこの馬の骨とも分からん男に!!』的なやり取りをするはずだったのに!!」

父の独壇場が始まってしまった。
と、思ったら、母がいとも簡単にそれを止めた。

「何言ってるの。晴臣くんはあなたが手塩にかけて育てたこれ以上ない結婚相手でしょう?後から分かったこととはいえ、お家柄だって申し分ないし。何より、千歳ちゃんのことを、誰よりも大切にしてくれるわ。ね?」
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