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晴臣が私の前から姿を消して、三年が経った。

あれから私は、学生時代に唯一取っていた簿記の資格を生かして、税理士事務所に転職した。
父のコネもしがらみも何もない会社そこでは、もちろん誰も私を特別扱いなどしてくれるわけもなく、初日から残業三昧の日々。

マンションに一人で住み続けているうえ、そんな暮らしをしている私を、両親(特に父)はひどく心配し、実家に戻るようにしつこく言ってきていた。

でも、私はそれを拒否し続けた。

朝から晩まで働いて、働いて、働いて。
夜はクタクタになって死んだように眠る。
実家に帰って、この生活を目の当たりにすれば、絶対に退職させられてしまう。
それだけは、避けたかった。

晴臣のいない寂しさを紛らわすには、最高の環境だったから。

流石に諦めたのか、最近は何も言わなくなった。
それと同じ頃には、すっかり晴臣がいない生活に慣れてしまったので、別に実家に帰っても良くなっていたのだけれど。

ただ、たまに。
ごく、稀に。
どうしようもなく晴臣に会いたくなってしまうときがある。

それは、私が入社したときから補助についている税理士の副島先生と、月に一度ミーティングと称した食事をした後必ず訪れる―

「蓮見さん。君がうちに来てくれてもう三年だよね?そろそろ僕との交際を真剣に考えてみてもらえないかな?」


「…申し訳ありません」

「まだ例の幼馴染の彼のことを待っているの?」

「…はい」

副島さんは、私より4つ年上で、仕事ではなかなか厳しいけれど、叱った後はきちんとフォオローを入れてくれる、優しくて尊敬できる上司だ。

最初に告白されたのは、入社して一年経った頃。

私だけに限らず、副島さんはクライアントについての情報共有を目的として、月に一回自分の補助者とミーティングをする。

だから、その日もただのミーティングだと信じて疑わなかった。
全くの丸腰状態。

食後のコーヒーが運ばれて来たタイミングで、副島さんが「蓮見さん」と私の名前を読んで背筋を伸ばし、「結婚を前提に、お付き合いをしてください」と言われた私は、驚きのあまりコーヒーカップをひっくり返しそうになった。

そして、あまりに真剣な眼差しに、誤魔化したり、適当にあしらったりすることができず、晴臣のことを話してしまったのだ。

「いなくなって三年でしょう? さすがにもう、戻って来ないんじゃないかな?全然居場所とか分からないの?」

「実は偶然ニュースで一度それらしき人を見かけたことはあるんですけど」

そう。
半年ほど前、光越の海外店舗オープンのニュースがテレビで流れたとき、豆粒みたいな大きさの晴臣を見かけた。

「どうして行かないの?」

「それは…」
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