36 / 131
葵の決断 1
しおりを挟む
「か、かちょ…じゃなくて社長!?」
「…頑張れそう。葵が側に居てくれるなら」
抱き締められていなければ分からないくらい。
それくらい微かに震える声から、課長改め社長が背負う重圧を感じた気がして、その手を振りほどくことが出来ない。
どうしたら良いか分からず、そのまま腕の中に収まっていると、課長が小さくため息を吐いた。
「…やっぱ無理かもなぁ」
「だ、大丈夫ですよ。社長なら」
何の根拠もないけれど、そう言うしかない。
「…うん、そうなんだけど、そうじゃなくて」
私の頭上にあった頭がいつの間にか甘えるように肩に乗っている。
「葵といつも一緒って…仕事になるかなぁって」
私を包んでいた手がスススと背中から下に移動していく。
「っ!!」
サワッとお尻を撫でられたので手の甲を捻り上げてやった。
「セクハラっ!!」
「痛ったー。セクハラはないだろ。昨日誘ってきたのは葵だよね?」
「誘っ!!…そうですけど、アレは社長が社長と…」
「紛らわしいから唯人でいいよ?」
「…唯人が社長と不倫してると思ってたから」
「後腐れが無くて丁度いいって?」
そうなんだけど、そうと言えなくなってしまった。
だって唯人が社長と親子だって知ってしまったから。
そして、唯人の顔が心なしか悲しそうに見えてしまったから
「…ごめんなさい。利用して」
「謝る必要ないよ。全部分かってて抱いたんだから」
一度唯人の顔から逸らした視線を元に戻すと、唯人は優しく笑って見せた。
「…全部?」
「うん、全部」
「じゃあどうしてそんな悲しそうな顔するの?」
「昨日ちゃんと言ったよ?葵が好きだって」
「…行為を盛り上げる為のリップサービスか何かだと思ってました」
「酷いなぁ」
「だって出会ってたった二日ですよ?」
「あれ?信じない?一目惚れだよ。総務部で葵のこと見た瞬間、その場で唇にかぶりつきたくなった」
「…何っ!?」
そう言えば確かに唇についてだけ何も言ってくれなかった。
…ヒゲ生えてるんじゃないかと心配になったっけ。
「そんな子に『課長がいいんです』なんて言われたら…」
「ちょ、もうやめて下さい!」
「しかも初めてだったみたいだし?」
「やめてってばっ!!!」
今この男絶対、絶対最中のこと思い出してる!顔がやらしい!!
「いっそこのまま一緒に住む?」
「す、住みません!!今日のお昼休みは絶対不動産屋さんに行きますから!!」
「えー?残念」
これ以上ここに居たら唯人も私も仕事にならない。
「特に仕事の指示があるわけじゃないんですよね?もう失礼します」
そう言い捨てて、私は逃げるように社長室を出た。
「…頑張れそう。葵が側に居てくれるなら」
抱き締められていなければ分からないくらい。
それくらい微かに震える声から、課長改め社長が背負う重圧を感じた気がして、その手を振りほどくことが出来ない。
どうしたら良いか分からず、そのまま腕の中に収まっていると、課長が小さくため息を吐いた。
「…やっぱ無理かもなぁ」
「だ、大丈夫ですよ。社長なら」
何の根拠もないけれど、そう言うしかない。
「…うん、そうなんだけど、そうじゃなくて」
私の頭上にあった頭がいつの間にか甘えるように肩に乗っている。
「葵といつも一緒って…仕事になるかなぁって」
私を包んでいた手がスススと背中から下に移動していく。
「っ!!」
サワッとお尻を撫でられたので手の甲を捻り上げてやった。
「セクハラっ!!」
「痛ったー。セクハラはないだろ。昨日誘ってきたのは葵だよね?」
「誘っ!!…そうですけど、アレは社長が社長と…」
「紛らわしいから唯人でいいよ?」
「…唯人が社長と不倫してると思ってたから」
「後腐れが無くて丁度いいって?」
そうなんだけど、そうと言えなくなってしまった。
だって唯人が社長と親子だって知ってしまったから。
そして、唯人の顔が心なしか悲しそうに見えてしまったから
「…ごめんなさい。利用して」
「謝る必要ないよ。全部分かってて抱いたんだから」
一度唯人の顔から逸らした視線を元に戻すと、唯人は優しく笑って見せた。
「…全部?」
「うん、全部」
「じゃあどうしてそんな悲しそうな顔するの?」
「昨日ちゃんと言ったよ?葵が好きだって」
「…行為を盛り上げる為のリップサービスか何かだと思ってました」
「酷いなぁ」
「だって出会ってたった二日ですよ?」
「あれ?信じない?一目惚れだよ。総務部で葵のこと見た瞬間、その場で唇にかぶりつきたくなった」
「…何っ!?」
そう言えば確かに唇についてだけ何も言ってくれなかった。
…ヒゲ生えてるんじゃないかと心配になったっけ。
「そんな子に『課長がいいんです』なんて言われたら…」
「ちょ、もうやめて下さい!」
「しかも初めてだったみたいだし?」
「やめてってばっ!!!」
今この男絶対、絶対最中のこと思い出してる!顔がやらしい!!
「いっそこのまま一緒に住む?」
「す、住みません!!今日のお昼休みは絶対不動産屋さんに行きますから!!」
「えー?残念」
これ以上ここに居たら唯人も私も仕事にならない。
「特に仕事の指示があるわけじゃないんですよね?もう失礼します」
そう言い捨てて、私は逃げるように社長室を出た。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
年上幼馴染の一途な執着愛
青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。
一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる