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秘書達の内緒話
明くる月曜日。
出社した私を待ち受けていたのは見たことないくらい切迫感のある御三方だった。
「真田さん、ちょっといいかしら」
まさかこの穏やかな秘書課で呼び出しを喰らうことになるなんて、夢にも思ってなくて。
どんな大きなミスをやらかしたのかとびくびくしながら、給湯室に連行された。
ちなみに秘書課の給湯室はほぼ専用で、他の部署の誰も来ないし、唯人や他の役員たちも立場柄立ち寄ったりしない。
だから、ここで何かあったとしても秘書課のメンバー以外誰も気づかない場所なのだ。
突然川本さんがバッっと両手を上げた。
殴られる!!
そう思って身構えた私は、三人に抱きつかれていた。
何これ??
「昨日見たわよっ!唯人く…社長とハンズでデートしてたでしょ!?」
「ってことはアレよね?つまり二人は晴れて恋人同士になったってことよね?」
「ね?そうなんでしょ?そうって言って!!!」
三人が何をそんなに興奮しているのか分からないけど、見られてしまったものは仕方ない。
唯人が美和に口止めしてくれた意味がなくなったな、と思ったけれど、小さく頷いた。
頷いた後、恥ずかしくなって顔を上げられない私を囲んだまま、三人は踊り出しそうなくらいに喜びを爆発させている。
でもそれは長くは続かなかった。
嬉しさのせいか、倉本さんがうっかり口を滑らせたらしい。
「あー。本当に良かったわ!!やっぱりあの子との結婚は白紙になって正解だったのよ!!」
「…結婚?」
「あ!こら!!しぃっ!!!」
それまで舞い上がっていた三人が一気に黙りこんだ。
言ってはならないことだったらしい。
別に唯人もいい歳だし(って未だに何歳か聞いてないけど)、過去に恋人がいたって驚きはしないつもりだった。
だけど、「結婚が白紙に」という言葉を聞いた私の心はザワザワと嫌な音をたてて騒ぎ始める。
唯人に結婚まで考えていた相手が居たなんてー。
聞かない方がいいのかもしれない。
でも、唯人に直接聞くわけにもいかない。
このままじゃ気になって仕事にならない。
正体不明の胸のザワザワを少しでも消したい。
そう思ったら、口が勝手に動いていた。
「なんで…ダメになっちゃったんですか?」
御三方は顔を見合わせて黙っていたけど、長谷川さんが少し複雑そうな顔で切り出した。
「真田さんは…社長の出生の件何か聞いてる?」
「…はい。大体のことは。それが何か関係あるんですか?」
「そう。やっぱり真田さんは社長にとって本当に特別な存在なのね」
そう語る長谷川さんは、とても嬉しそうで柔らかい笑みを浮かべている。
橘社長と唯人の名前に傷がつくので、唯人の出自は出来るだけ伏せていたらしい。
「前の結婚話はね、どこで聞きつけたのか、社長の出生の秘密を知った相手の親御さんの猛反対でなくなったのよ」
「…っ!何ですか!?それ」
それじゃあ…唯人は好きだった相手と、そんな理由で別れさせられたってこと?
橘社長はともかく、唯人には全く非のないことで?
もしかして、まだ唯人はその女性の事を忘れられないのではないだろうか?
胸のザワザワが刺すような痛みに変わって私を貫く。
苦しさのあまり、スーツのスカートをぎゅっと握りしめていた。
「そんな顔しないで?前の女と居る時の社長と、真田さんと居る時の社長じゃ別人なんだから」
「…え?」
「初日に真田さんを紹介されたときびっくりしたわ。もう、目が線になるくらいデレデレしてたのよ。『あの』社長が。私には信じられないけど、一目惚れって本当にあるのねぇ。それにね、前の女は完全に押掛女房みたいだったのよ」
長谷川さんの言葉に、懲りない倉本さんが続いた。
「そうそう。あの頃は社長も女の子遊び激しくて。相手の子、なかなかの名家のお嬢様だったからか、とにかくワガママが酷くて。社長のこと縛り付けたくて無理矢理結婚迫ったみたいなものだったわよね」
『女の子遊び激しかった』
その言葉で唯人に抱かれた時のことを生々しく思い出してしまった。
…うん。初めての私が言うのも何だけど、アレは相当慣れてる感じだった。
また別のザワザワが胸の中で生まれ、騒ぎ始める。
「あ、ごめんなさい。また余計なこと言っちゃった」
赤面しながらも眉間に深いシワを寄せてしまった私の顔を見て、倉本さんが慌てて謝って来た。
「社長の秘書だから分かると思うけど、今は真田さん以外の女の子と遊んでる暇なんてないくらいがむしゃらに仕事してるから」
さすがに川本さんもフォローしてくる始末。
確かに。
唯人の配慮で私はちゃんと休みを貰っているが、唯人はこの間デートした日以外は休日も仕事をしている。
「それもこれも真田さんの…」
「そろそろ戻りましょ。始業時間になるわ」
倉本さんの言葉に被せるように長谷川さんが井戸端会議を打ち切った。
課に戻る途中、自分が唯人について何も知らないことを痛感しながらさっき胸を刺したものの正体を探る。
ずっと昔に感じたことのある懐かしい痛み。
いつ、どこで?何に対して??
思い出そうとしても、何かが邪魔をして上手くいかない。
「あ。さっきの社長の結婚の話、殆ど知ってる人いないから真田さんも口外しないでね」
長谷川さんに名前を呼ばれ、ハッとして頷いた。
「あと、絶対怒られちゃうから今日聞いたこと内緒に…できないわよね。真田さん何でも顔に出ちゃうものねぇ」
社長にも主人にも怒られちゃうじゃない、と長谷川さんと川本さんが、倉本さんに恨み言を言っている。
私自身、今聞いた話を唯人に直接確かめる勇気はない。
御三方の為にも、自分の為にも極力顔に出さないようにしようと心に誓った。
出社した私を待ち受けていたのは見たことないくらい切迫感のある御三方だった。
「真田さん、ちょっといいかしら」
まさかこの穏やかな秘書課で呼び出しを喰らうことになるなんて、夢にも思ってなくて。
どんな大きなミスをやらかしたのかとびくびくしながら、給湯室に連行された。
ちなみに秘書課の給湯室はほぼ専用で、他の部署の誰も来ないし、唯人や他の役員たちも立場柄立ち寄ったりしない。
だから、ここで何かあったとしても秘書課のメンバー以外誰も気づかない場所なのだ。
突然川本さんがバッっと両手を上げた。
殴られる!!
そう思って身構えた私は、三人に抱きつかれていた。
何これ??
「昨日見たわよっ!唯人く…社長とハンズでデートしてたでしょ!?」
「ってことはアレよね?つまり二人は晴れて恋人同士になったってことよね?」
「ね?そうなんでしょ?そうって言って!!!」
三人が何をそんなに興奮しているのか分からないけど、見られてしまったものは仕方ない。
唯人が美和に口止めしてくれた意味がなくなったな、と思ったけれど、小さく頷いた。
頷いた後、恥ずかしくなって顔を上げられない私を囲んだまま、三人は踊り出しそうなくらいに喜びを爆発させている。
でもそれは長くは続かなかった。
嬉しさのせいか、倉本さんがうっかり口を滑らせたらしい。
「あー。本当に良かったわ!!やっぱりあの子との結婚は白紙になって正解だったのよ!!」
「…結婚?」
「あ!こら!!しぃっ!!!」
それまで舞い上がっていた三人が一気に黙りこんだ。
言ってはならないことだったらしい。
別に唯人もいい歳だし(って未だに何歳か聞いてないけど)、過去に恋人がいたって驚きはしないつもりだった。
だけど、「結婚が白紙に」という言葉を聞いた私の心はザワザワと嫌な音をたてて騒ぎ始める。
唯人に結婚まで考えていた相手が居たなんてー。
聞かない方がいいのかもしれない。
でも、唯人に直接聞くわけにもいかない。
このままじゃ気になって仕事にならない。
正体不明の胸のザワザワを少しでも消したい。
そう思ったら、口が勝手に動いていた。
「なんで…ダメになっちゃったんですか?」
御三方は顔を見合わせて黙っていたけど、長谷川さんが少し複雑そうな顔で切り出した。
「真田さんは…社長の出生の件何か聞いてる?」
「…はい。大体のことは。それが何か関係あるんですか?」
「そう。やっぱり真田さんは社長にとって本当に特別な存在なのね」
そう語る長谷川さんは、とても嬉しそうで柔らかい笑みを浮かべている。
橘社長と唯人の名前に傷がつくので、唯人の出自は出来るだけ伏せていたらしい。
「前の結婚話はね、どこで聞きつけたのか、社長の出生の秘密を知った相手の親御さんの猛反対でなくなったのよ」
「…っ!何ですか!?それ」
それじゃあ…唯人は好きだった相手と、そんな理由で別れさせられたってこと?
橘社長はともかく、唯人には全く非のないことで?
もしかして、まだ唯人はその女性の事を忘れられないのではないだろうか?
胸のザワザワが刺すような痛みに変わって私を貫く。
苦しさのあまり、スーツのスカートをぎゅっと握りしめていた。
「そんな顔しないで?前の女と居る時の社長と、真田さんと居る時の社長じゃ別人なんだから」
「…え?」
「初日に真田さんを紹介されたときびっくりしたわ。もう、目が線になるくらいデレデレしてたのよ。『あの』社長が。私には信じられないけど、一目惚れって本当にあるのねぇ。それにね、前の女は完全に押掛女房みたいだったのよ」
長谷川さんの言葉に、懲りない倉本さんが続いた。
「そうそう。あの頃は社長も女の子遊び激しくて。相手の子、なかなかの名家のお嬢様だったからか、とにかくワガママが酷くて。社長のこと縛り付けたくて無理矢理結婚迫ったみたいなものだったわよね」
『女の子遊び激しかった』
その言葉で唯人に抱かれた時のことを生々しく思い出してしまった。
…うん。初めての私が言うのも何だけど、アレは相当慣れてる感じだった。
また別のザワザワが胸の中で生まれ、騒ぎ始める。
「あ、ごめんなさい。また余計なこと言っちゃった」
赤面しながらも眉間に深いシワを寄せてしまった私の顔を見て、倉本さんが慌てて謝って来た。
「社長の秘書だから分かると思うけど、今は真田さん以外の女の子と遊んでる暇なんてないくらいがむしゃらに仕事してるから」
さすがに川本さんもフォローしてくる始末。
確かに。
唯人の配慮で私はちゃんと休みを貰っているが、唯人はこの間デートした日以外は休日も仕事をしている。
「それもこれも真田さんの…」
「そろそろ戻りましょ。始業時間になるわ」
倉本さんの言葉に被せるように長谷川さんが井戸端会議を打ち切った。
課に戻る途中、自分が唯人について何も知らないことを痛感しながらさっき胸を刺したものの正体を探る。
ずっと昔に感じたことのある懐かしい痛み。
いつ、どこで?何に対して??
思い出そうとしても、何かが邪魔をして上手くいかない。
「あ。さっきの社長の結婚の話、殆ど知ってる人いないから真田さんも口外しないでね」
長谷川さんに名前を呼ばれ、ハッとして頷いた。
「あと、絶対怒られちゃうから今日聞いたこと内緒に…できないわよね。真田さん何でも顔に出ちゃうものねぇ」
社長にも主人にも怒られちゃうじゃない、と長谷川さんと川本さんが、倉本さんに恨み言を言っている。
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