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同姓同名

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夏休みの課外授業帰り。

「ぁ…っ、待っ…高嶺たかみねく…」

「こんなときにそんな色気のない呼び方止めろよ…萎える」

言葉とは裏腹に、プリーツスカートをまさぐる手は、手慣れた様子で白いコットン素材のショーツを膝まで下ろした。

「えっ…?あっ!?ちょ…っ」

「ケイ」

「…ぇっ…?」

だけ特別。けいって呼ばせてやる…よ!」

「───っ!」

じっとりと湿った部屋で、エアコンが効き始めるのさえ待てなくて。
制服をかなぐり捨て、数え切れないほど肌を重ねた。

消したくても消えない、17の夏。



「三角さん、好きです!!」

突然ですが、私、三角みかど静花しずか、今まさに、お客様に襲われかけています。

仕事柄こういうことは今までにも何度かあったから、気をつけていたのに。

食事を終えた帰り道、いきなり人気のない路地に引きずり込まれ、羽交い締めの如く抱きすくめられてしまった。

「と、徳永さん!困ります!!お客様とのこういったことは禁止されていますから」

しくじった。
あと少しで任務完了ということもあり、気が緩んだ。

「いやだ!貴女にもう会えないなんて!!僕は貴女じゃないとダメなんです!!お願いですから結婚してください!!」

徳永さん、さすが長年柔道一筋で女性になんて見向きもせずに生きて来ただけのことはある。
これまでの相手とは違って、掴まれた腕を振りほどこうとしてもびくともしない。

それどころか、女性の扱いを知らない柔道家の屈強な腕には、私を離すまいとますます力がこもって─

く、苦しい…。
これ、本当に失神す落ちる…。

死にはしないだろうけれど、脳が誤作動を起こしたのか、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。

記憶の奥底に封じ込めたはずの、との出会いまで─

そうだ。
あの時も似たような状況だった。

高校に入学してしばらく経った頃。
恋愛体質の母親のせいで、いじめのターゲットにされていた私が、体育館裏でクラスの男の子に羽交い締めにされてたところを、が助けてくれたんだっけ。

「こんなところで、何やってんの?」

ほら、本当にちょうどこんな感じ─

…って、走馬灯って音声ありなんだっけ?
それとも、幻聴??

やけに鮮明に聞こえるだけじゃない。

声が、
口調が、

鳥肌が立つくらい似ている。

なんて朦朧とした頭で思っていたら、徳永さんの鋼みたいな体越しに伝わる、ドンッという衝撃。
同時に、私を拘束していた腕が解かれた。
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