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花に刺さった棘(高嶺Side)

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昨日からずっと感情の乱高下が止まらない。
双極性障害の人間って、こんな感じか。

あー。
何で俺、仕事してるんだろう。

本当だったら今ごろ、静花の部屋でいちゃいちゃいちゃいちゃしながら幸せな時間を過ごしていたはずなのに。

クソみたいな国選で呼び出され、接見から戻れば来望が新規の予約入れてるし。
挙句の果てに顧問先の紹介(断れない)で期日直前まで放置された訴訟案件が飛び込んで来るとか。

それもこれも、下らない噂を信じて静花を傷つけた天罰か?

…でも、あの別れ際の静花「行ってらっしゃい♡」…
(※実際の静花のセリフには、♡はついていません)

…良かった。
最高だった。

うっかりプロポーズまがいのことを口にしてしまったときの反応といい、やっぱりあいつ、出会った瞬間から俺のもんだったわ。
久々に食べた弁当は最高に美味かったし。

極めつけは弁当箱が高校時代と同じだったこと。

長年引っかかっていた事を静花の口から聞いて、それを信じなかったわけではないけれど。
あれを見て、静花が本当に健気で一途な女だということが痛いほど分かった。

ついでにそんな静花を傷つけ続けていた自分のバカさ加減も─

…って、あれ?
あの弁当箱どこいった??

おかしい。

昨日中身は米粒一つ残さず平らげた後、俺にしては珍しく給湯室で自分で洗って、たしかにここデスクに置いたはずなのに。
掃除のときにでも動かしたかなと思い事務局に行くと、来望はいなくて、新人事務員に尋ねた。

「町田さん、俺の弁当箱知らない?机の上に置いておいたやつ」

「それならさっき、森永さんが持って行きましたけど」

「来望が…?」

外出先を示すホワイトボードには、来望はさっきまで来客対応でバタついていたせいか、いつもより遅目の昼休憩に出ていることが示されている。

なんとなく嫌な予感がする。
もしかして来望のやつ、静花の所に行ったのか?

急ぎ足で執務室に戻り、弁当箱を探しながら静花のスマホに電話を掛けるが繋がらない。
弁当箱も、どこにもない。

予感が徐々に確信に変わっていく。

居ても立っても居られなくなり、事務所を飛び出そうとしたとき─

「先生?昨日の国選の被害スーパーに行かれるんですよね?記録と示談書と印鑑持たれてますか?」

そうだった。
静花のことで頭がいっぱいで、100%忘れていた。

これで示談書と嘆願書が取り付けられれば、昨日の国選がかなりの確率で起訴されずに済む。
必死の説得の末に何とか時間を作ってもらっていて、これを蹴れば次はない。

「─ああ、そうだった。ありがとう」

「森永さんにお声掛けするよう指示されていたので。良かったです」

“国選なんかクソ食らえだ。
お前が忘れてくれてば、全部お前の責任にして静花のところへ行けたのに“

八つ当たりで、そんな本音を口走りそうになるのを必死に堪えながら記録を受け取った。
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