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夏目さんのUnknown
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見知らぬ車。
この期に及んでナンパとかだったらどうしよう。
追い払う気力も体力も残っていないのに。
そんな心配をよそに、運転席の窓が下ると、顔を出したのは夏目さんだった。
「はっ?何でこんなところに!?」
「今はそんなことどうでもいいから早く乗れ!」
正直、天の助け。
でも、夏目さんの車には乗らないと思い切り拒否したのは、つい先週のことだ。
おまけにあのときは現場用の社用車だったけど、今日の車は車体もタイヤも一回り大きく、雨の中、車に疎い私でも高級車と分かるソレ。
ずぶ濡れの私が乗った確実に車内を濡らしてしまう。
なんてウダウダと考えていたら─
「さっさとしろ!!」
痺れを切らして車から降りて来た夏目さんに雷を落とされ、助手席に押し込まれてしまった。
夏目さんは即座に運転席に滑り込むと、後部座席からふわふわのタオルを取り出し、私の頭を拭き始めた。
「わ、ちょ、自分でできますから」
髪が短いお陰か、夏目さんのタオルの吸水性が良いのか、あっという間に拭き終わると、ポイッと膝上に何かが飛んできた。
続いて車内灯が点けられる。
「夏目仁希、2月18日生まれ、27歳、AB型。他に何か知りたいことは?」
膝の上の「何か」は免許証だった。
今より少しだけ若い夏目さんが写っている。
「…いえ、別に」
「じゃ、『よく知らない人』じゃなくなったな。車、出すぞ」
夏目さんはそう言ってハザードランプを消すと、ゆっくりと車を走らせ始めた。
「あの…夏目さんは何でこんな時間にこんな所に?ドライブですか?」
「そんなわけあるか!山下から、今日の工事は中止になったのに、凛と連絡が取れないって聞いて、すっ飛んできたんだよ!」
急いでカバンからスマホを引っ張り出す。
雨と雷の音で全然気づかなかった。
確かに山下さんからの不在着信が何度か残っている。
でも、それを埋もれさせる勢いで、夏目さんからの着歴も残っていた。
ここまで来てくれたところを見ると、純粋に心配してくれているらしい。
この人がこんなに責任感が強いなんて、意外だった。
もしそうなら、先週のことも、悪いことをしてしまったかもしれない。
「大体、何俺に黙って勝手に現場変えてるんだよ?」
「勝手にって…ちゃんと担当者通してますよ?」
さすがの私も、”あなたに会いたくなかったので”とは言えずにはぐらかす。
「そう、それも。俺の電話無視しといて、山下には連絡入れてるってどういうことだよ」
「あー、いや、あの。夜間の方が時給いいんで」
「…前から気になってたけど、凛は何でそんなに金が必要なんだ?」
心なしか、今日はいつもよりさらにグイグイくるような。
いつもだったら「ウザい」と一蹴するところだけれど、今そんなことをして置き去りにされたら洒落にならない。
「…年の離れた弟の学費のため、です」
誤魔化さずに、本当のことを打ち明けた。
この期に及んでナンパとかだったらどうしよう。
追い払う気力も体力も残っていないのに。
そんな心配をよそに、運転席の窓が下ると、顔を出したのは夏目さんだった。
「はっ?何でこんなところに!?」
「今はそんなことどうでもいいから早く乗れ!」
正直、天の助け。
でも、夏目さんの車には乗らないと思い切り拒否したのは、つい先週のことだ。
おまけにあのときは現場用の社用車だったけど、今日の車は車体もタイヤも一回り大きく、雨の中、車に疎い私でも高級車と分かるソレ。
ずぶ濡れの私が乗った確実に車内を濡らしてしまう。
なんてウダウダと考えていたら─
「さっさとしろ!!」
痺れを切らして車から降りて来た夏目さんに雷を落とされ、助手席に押し込まれてしまった。
夏目さんは即座に運転席に滑り込むと、後部座席からふわふわのタオルを取り出し、私の頭を拭き始めた。
「わ、ちょ、自分でできますから」
髪が短いお陰か、夏目さんのタオルの吸水性が良いのか、あっという間に拭き終わると、ポイッと膝上に何かが飛んできた。
続いて車内灯が点けられる。
「夏目仁希、2月18日生まれ、27歳、AB型。他に何か知りたいことは?」
膝の上の「何か」は免許証だった。
今より少しだけ若い夏目さんが写っている。
「…いえ、別に」
「じゃ、『よく知らない人』じゃなくなったな。車、出すぞ」
夏目さんはそう言ってハザードランプを消すと、ゆっくりと車を走らせ始めた。
「あの…夏目さんは何でこんな時間にこんな所に?ドライブですか?」
「そんなわけあるか!山下から、今日の工事は中止になったのに、凛と連絡が取れないって聞いて、すっ飛んできたんだよ!」
急いでカバンからスマホを引っ張り出す。
雨と雷の音で全然気づかなかった。
確かに山下さんからの不在着信が何度か残っている。
でも、それを埋もれさせる勢いで、夏目さんからの着歴も残っていた。
ここまで来てくれたところを見ると、純粋に心配してくれているらしい。
この人がこんなに責任感が強いなんて、意外だった。
もしそうなら、先週のことも、悪いことをしてしまったかもしれない。
「大体、何俺に黙って勝手に現場変えてるんだよ?」
「勝手にって…ちゃんと担当者通してますよ?」
さすがの私も、”あなたに会いたくなかったので”とは言えずにはぐらかす。
「そう、それも。俺の電話無視しといて、山下には連絡入れてるってどういうことだよ」
「あー、いや、あの。夜間の方が時給いいんで」
「…前から気になってたけど、凛は何でそんなに金が必要なんだ?」
心なしか、今日はいつもよりさらにグイグイくるような。
いつもだったら「ウザい」と一蹴するところだけれど、今そんなことをして置き去りにされたら洒落にならない。
「…年の離れた弟の学費のため、です」
誤魔化さずに、本当のことを打ち明けた。
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